劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

語られる歌と歌われる音楽(終)

2017年10月09日 | オペラ
 演劇ユニット 東京ドラマポケットvol.3『全体演劇 わがジャンヌ、わがお七』(2012年/東京・両国シアターχカイ提携公演)を最後に演劇上演活動の幕を下ろした私は、『悲戀~ハムレットとオフィーリア』(2016年/東京・虎ノ門JTアートホールアフィニス)によって「東京ミニオペラカンパニー」を立ち上げることになった。その経緯については、ブログ記事「音楽演劇からミニオペラへ」(2016年5月・6月)に詳しい。
 さて、言わずもがなのことではあるが、演劇の中心は「言葉」であり、音楽は声楽であろうと器楽であろうと「音」によって成り立っている。言葉には意味があり母国語といわれるようにその民族に属するものだが、音楽はその出自が民族にあろうとも、言語的意味のツールではないため、ユニバーサルなものとしてどの国民にも享受できるものになる。
 言葉は意味を伝え、音楽は感情に直接訴えることができる。私がオペラ(歌劇)に関心を抱いたのは、俳優によって語られるセリフよりもソリストによって歌われる音楽としての言葉のほうに惹かれたからである。
『ハムレット』第四幕第五場「オフィーリア狂乱の場」。相思相愛だった王子ハムレットの変貌と突然の別れ、王子による父(内大臣)ポローニアスの殺害、オフィーリアの精神は衝撃のあまり現実の軛(くびき)から解き放たれ、穏やかな狂気の世界に彷徨う。
思い出の花ローズマリーはどこ? 
貞淑で忠実なスミレはどこ?
ローズマリー 花言葉は 変わらぬ愛
  恋人の まことの心 まことの愛の 見極めを
あの人は あの世に去りぬ
あの人は はかなく去りぬ
どこなの どこなの デンマークの美しいお妃様は?
…あなたには悲しみ悔いるヘンルーダ 安息日には恵みの花
忠実なスミレもあげたいんだけど
お父様が亡くなったとき、みんな萎(しお)れてしまったの
幸せなご最期だったんですって
思い出の花ローズマリーはどこ? 
貞淑で忠実なスミレはどこ?
 以上は、オペラ『悲戀~ハムレットとオフィーリア』の最後に歌われるアリアの詞(小田島雄志訳による)だが、女優が口ずさむより歌手が情感豊かに歌う方が聴衆の胸に響くに違いないと思えたのだ。もちろん、優れた俳優による台詞のリアリティは演劇でしか味わえない魅力だ。一方、実力派ソリストの歌唱がもたらす感動にも強く深いものがある。
 現在、新作オペラに取り組んでいる。「東京ミニオペラカンパニー」に参加されたソリストの皆さんの魅力を最大限に生かすために書いた『雪女の恋~二幕~』だ。二年かけて執筆し今夏脱稿した台本は作曲家のもとに渡りオペラ作品に生まれ変わろうとしている。来年夏には総譜完成、秋から稽古に入る予定である。

※写真右は、東京ミニオペラカンパニーvol.1『悲戀~ハムレットとオフィーリア』より。写真左は、上演台本・創作オペラ『雪女の恋~二幕~』(脚本・詞/佐野語郎)。


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