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今年、著書『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』(幻冬舎刊)が“40万部を超えるベストセラーとなった”そうだ。また、TVのドキュメンタリー番組でも取材対象になっている。長寿であること、独自の作品世界を生み出し世界的な評価を受けていること、そして、その毅然としたたたずまいと生き方が人びとを惹きつけるのだろう。私は、去る6月6日NHK―ETV特集「墨に導かれ、墨に惑わされ~美術家・篠田桃紅102歳~」(再放送)を観ていて、改めてその存在の大きさを知った。
初めて「篠田桃紅」の名を知ったのは、実は大学卒業の年に遡る。
学生運動が渦巻く1969年、日本ばかりでなくフランスで起きた五月革命(学生および民衆の反体制運動)の影響も受け、演劇・映画もこれまでの表現の打破に向かっていた。日本のヌーベルバーグを代表する映画監督・勅使河原宏や大島渚らの中に篠田正浩の名もあった。演劇科の学生だった私も、前衛的な映画を取り上げたアート・シアター作品はよく観ていたし、特に篠田が制作した「心中天網島」は、近松門左衛門の人形浄瑠璃が原作であったため、新宿文化での上映に駆けつけたのは自然の成り行きだった。
映画館の暗闇に映し出された世界は、モノクロームの映像。大坂天満の紙屋治兵衛と曾根崎新地の遊女小春を中村吉右衛門と岩下志麻が演じる心中物である。スタッフには、音楽:武満徹・美術:粟津潔…当時を代表するアーティストが結集しているが、美術の屏風パネルに激しく叩き付けられた文字たちの墨痕が印象に残った。黒子の登場など文楽・歌舞伎の現代的表現として評判を取った映画だったが、私にはその前衛的な書の表出に最も心を動かされた。それは監督の従姉である篠田桃紅によるものだったのである。低予算で制作しなければならなかった独立プロの作品だけに、『正浩さん』と親しみをこめて呼ぶ従弟のために一肌脱いだのであろうと思う。
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さて、46年前に脳裏に刻まれたその書家の存在が、今、芸術家としての生き方のモデルとして私の前に再登場している。
※写真左は、展覧会カタログより
写真右は、ホテル内展示作品(佐野撮影)