劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

ヒトの危機①~絶食系新人類の登場~

2015年03月25日 | 随想
 「草食系男子」という流行り言葉がマスコミで面白おかしく取り上げられてからどれくらい経ったのだろうか。若い盛りなのに、女の子を口説こうとしない、思う相手に積極的にアタックしようとしない。そんな若い男に若い女は物足りなさを通り越してイライラしているそうだ。思春期から「思う女の子」が途切れたことがない私などには『分からない!』の一言である(ただしそのほとんどが片思いに終わったが)。
 いや、私だけが特別なのではなく、高校の同級生はみんな「彼女」に夢中で、集まればその話題だった。恋する気持ちとは勝手な思い込みで幻想に過ぎないから、たいていは失恋に終わったものだが、それにもめげず、みな新たな出会いに胸をときめかせ、ラブレターを書き、二人になれる機会を作ろうとしたものだ。
 男ばかりの一泊旅行を数十年続けているが、寝酒の肴に「半世紀以上前の彼女の話」が出ることがある。そこでは、71歳の現実は消えて、遠藤実が書き、舟木一夫が歌った『高校三年生』の世界が立ち現れる。白い木造校舎に緑の植え込み、体育館にバレーコート、駅までの帰り道。様々なシーンが浮かび上がる。制服姿の〇〇さん、〇〇さん、〇さん、そして、学生服に白シャツの自分たち…。
 なぜ今どきの若者は、異性に消極的なのだろうか。男女雇用機会均等法施行以降、女性の社会進出が進み、高学歴・高収入も珍しくなくなって、これまでの男性優位の立場が揺らぎだしたからなのだろうか?確かに酒場でも若い女たちが気勢を上げ、駅や車内で人目もはばからない男とのツーショットを見かけることがある。美しくはないが、確かに迫力はある。男は気おくれして声をかけることもできず、尻込みしてしまうのだろうか?

 「草食系男子」でさえ信じられないのに、最近、TV番組で「絶食系男子」が話題になっているのを知って、笑いごとでは済まなくなった。好きだけど勇気がなくて一歩前に出られないという気弱さではなく、二人の関係を作る煩わしさより「彼女」は不要という割り切りの気楽さに安住しているようだ。これは男ばかりではなく、若い女性の間にも広がっている気分らしい。「合コン」という飲み会の現場では、女子会メンバーたちが『仲間とだけつるんでいるのが楽しい。外れる行動(例えば、グループ内で特別な存在=異性を作ること)は気遣いをしなければならなくなるのでカッタルイ』と口々に言い、男女ともどもうなずき合っていた。
 こうした状況には、晩婚化や非婚化、そして少子化、という社会的問題にとどまらず、動物としてのヒトの危機、人間社会における相互信頼・精神文化の崩壊という根源的な問題が潜んでいるように思える。


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