劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

「馬込サロン」のリニューアル&リボーン

2014年04月14日 | 随想
 五年前の年の瀬、都営地下鉄「馬込駅」徒歩1分の物件を入手した。仲間が多く居住する神奈川県に隣接し、JR五反田駅まで6分、勤務していた日本橋女学館高等学校の最寄り駅浅草橋まで直通で27分という地の利が決め手だった。また、演劇ユニット東京ドラマポケット公演制作の拠点としての事務所が必要となり、念願だった私設演劇ライブラリーも設置したかった。
 4階建ての中古マンションの1階の角部屋。人が集まるにはお誂え向き。ただ一般の住居仕様なので、事務所兼演劇ライブラリー兼サロンとして使用するには大幅に改装しなければならない。そこで、舞台美術家の青木拓也氏がリノベーションのデザインを起こし、仲間たちの手によって人海戦術さながらに作業が進められた。可動性の書架が設置され、私が学生時代から収集してきた書籍や映像資料も収められた。
 そして、今回、一部改装が再び仲間の手で施された。東京ドラマポケットの公演活動が終了したことで、事務所機能より仲間が集まるサロンとしての環境を整えることにしたのだ。今後は佐野の書斎(仕事場)として使用するとともに、時には演劇ライブラリーとして、また、サロンとして利用されることになる。
 平成に入ってから特に学術書・芸術書の出版は厳しくなっているようだ。かつては古書店に演劇書がぎっしり詰まっていた。時代や文化の変容に太刀打ちできず、売れない本は置かれなくなった。そうした状況の中で、わが演劇ライブラリーは存在価値があるのではなかろうか。幸い、集まってくる若い仲間はその価値を理解し、戯曲や理論書の閲覧を希望してくれている。古典から近代、現代への知の脈絡を身近な若者たちが受け継ぎ広めていくとしたら、それはどんなに素晴らしいことか。
 「馬込サロン」のほうはどうだろう。未来のある若い世代が集い、親しく交流し何かに気づき自らの展望を見出したり、共感し意気投合できた相手と企画を立ち上げたり事業を興したり…そんな場になってくれたらと、これまた夢が膨らむ。ふだん友人とおしゃべりや飲み会をするにはカフェや居酒屋が向いているだろうが、時間や周囲の客の目を気にせず持ち寄りの飲食を楽しみながら新たな交流や発見もある、という場は数少ない。
 4月6日(日)の午後から夜にかけて、「第一回・馬込サロンの会」が開かれた。かつての教え子たちはすっかり大人になっていて、教育界・実業界・芸術界で活躍している。教え子の教え子は大学4年生。「馬込サロンの会」は同世代ばかりでなく、先輩から後輩へ広がっており、今後の運営は、彼らの手に委ねられることになった。
 古稀(70歳)を迎えた私には、「東京都シルバーパス」が交付された。都内のバスと都営地下鉄はフリーである。会社勤めからドロップアウトしたため、年金は雀の涙。塾講師で糊口をしのぎながら暮らしている身にとっては有り難い。しかし、≪再生しそして生まれ変わった≫「馬込サロン」が、我亡き後も継続する可能性が出てきたことが100倍嬉しいし言葉に尽くせないほど有り難い。


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