日本演劇学会の研究集会では、演劇教育者としての実践報告、また、演出家としての創造過程等を何度か発表してきたが、分科会の「西洋比較演劇研究会」では、長らく会員でありながら発表の機会はなかった。演劇研究者である諸賢の学術的な発表を聴講するのが楽しみで‘高出席率者’になっているのだが、学者でもない身としてはそれで十分、満足だったのである。
しかし、舞台制作の現場に携わりながら、大学で学生に「映画演劇論」を講じている者として、どうしても問いかけたいテーマがあったので、今回のシンポジウムを企画し、実現の運びとなった。企画の趣旨は、大学教員と劇団制作者との交流であり、その場が実現できたのは、私と文学座・燐光群の制作スタッフとの数年にわたる交流があったからである。
「会」は前半、制作担当者の参加の珍しさもあって、活発な質疑応答が交わされ、参会者にとって様々な発見があったようだ。後半は、もう一つのテーマ、会員たちも観劇した「文学座9月アトリエの会公演」についてだったが、演出家および制作者の話と質疑応答・意見交換となり、盛会のうちに終了した。その後は、恒例の立食形式ワインパーティーが開かれ、あちこちで歓談の輪が広がった。
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西洋比較演劇研究会 10月例会 2008年10月4日(成城大学)
【小シンポジウムA】
「大学と劇団との共同作業による<創客>の可能性について」
~慶應義塾大学「映画演劇論」(佐野)と文学座・燐光群との実践報告を中心に~
司会・報告者 佐野語郎(慶應義塾大学文学部非常勤講師)
報告者 最首志麻子(文学座企画事業部)、古元道広(燐光群制作)
【企画要旨】
近年、演劇が多様化し、大都市での公演回数は大小合わせると爆発的に増加したが、一方、ストレートプレイ、特に新劇系劇団の観客層は高齢化が進み、若者たちの芝居離れが進行している。また、小劇場系の翻訳劇上演やアクチュアルな問題をテーマにした公演においても、青年層の関心が高いとは言えない。これまで各大学では文学部・芸術学部を中心に公演案内や優待チケットの取り扱いなど、学生たちに演劇情報の提供や観劇機会の促進を図ってきたが、慶應義塾大学「映画演劇論Ⅲ・Ⅳ」では、受講学生に課題を与え、観劇とレポート提出を授業内容に組み込んできた。その際、劇団制作担当者を招いて、資料の提供およびその上演意図を語ってもらい、観劇後に提出されたレポート内容をフィードバックすることで、若い観客層の反応を届けてきた。言うまでもなく、観客の存在が無ければその演劇は消滅する。創造サイドの劇団が若い観客層に対する<創客>の問題をどう捉えているのか。鑑賞サイドの若者たちに接している大学教師は、冒頭で触れた演劇文化の危機に対してどのように考えているのか。学生たちを劇場へ導くための大学と劇団との共同作業の可能性について探ってみたい。
【小シンポジウムB】
「翻訳戯曲の上演と文学座アトリエの会~『ミセス・サヴェッジ』を中心に~」
発表者 上村聡史(文学座演出部)
報告者 伊藤正道(文学座企画事業部)
文学座9月アトリエの会公演『ミセス・サヴェッジ』を中心に、『焼けた花園』『文学座AWAKE AND SING!』などの翻訳戯曲をなぜ選び、どう演出したか。演出家と制作担当者の報告をもとに行うシンポジウム。(企画要旨は省略)