劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

Art,Music,Drama~芸術の交差点

2014年10月26日 | 創作活動
 持たざる者、無産階級の一員として生きてきた私が唯一私有している不動産、それが東馬込にあるマンションの一室「さのオフィス&演劇ライブラリー&馬込サロン」である。文学・演劇の制作事務所、私設の図書室、人材交流の場として、ささやかながらその役割を果たしてくれている。私個人は、百メートルほど先のアパートを借りて生活の場としている。
 開設して4年、何人もの方々が来訪されたなかで、美術家・音楽家・演劇人の友人たちもここのソファに腰かけてくれた。日本では「演劇」が正規の教育から長く遠ざけられ、いまだに国立大学に「演劇学部」はない。外国では、高校の芸術教育に三つのコース=Art,Music,Dramaがあるようだ。演劇はいわば俳優の芸術だが、美術・音楽を重要な表現要素とする総合芸術でもある。演出家は必然的に俳優ばかりでなく、美術家や音楽家とも関わりながら仕事を進めることになる。
 版画家・桐村茜さんとは、35年ほど前に出会った。私が勤務していた横須賀市立ろう学校の美術教師をしていた時期があり、東京・鎌倉での個展を通じて親しくなった。以前から石版画や銅版画に惹かれるものがあり、近年のお仕事=詩人とのコラボレーション=詩画集は、文学と美術との重層性というコンセプトに刺激を与えられている。フランス在住で欧米の美術館に作品が所蔵されており、日本でも東京・京都で時折個展を開かれている。
 歌手・俳優の神谷真士さんとは、コロスドラマと全体演劇を構想した時に、歌える俳優たちが必要となり、その陣容を調えて戴いた。出会いは、慶應義塾大学「映画演劇論(担当:佐野)」の教室で、5年前になろうか。また、作曲家・ピアニストの水沼寿和さんとの出会いは、先月。オペラ喫茶presents(主宰・大西善治氏)「名曲コンサート」でピアノ演奏をされ、神谷さん(テノール)のオペラ歌唱の伴奏も務められていた。コンサート終了後、日本の創作オペラについて語り合ううち、水沼さんの芸術性や人間性に打たれて、神谷さんとともに「三人会」を結成することになった。そして、現在、本物のオリジナルオペラ作品創作へ向けて歩み出し始めている。
 俳優・洞英治さんとは、40年ほど前に、下北沢の地下小劇場(現在は無い)で上演した「動物園物語(E.オルビー作)」で出会い、劇団風留社(佐野主宰/発展的解散)の「街頭のリア王」「ドン・キホーテ、森にあらわる」の主演、そして2年前の演劇ユニット東京ドラマポケット最終公演「全体演劇 わがジャンヌ、わがお七」で、ジャンヌの父親役をお願いしたという長いお付き合いで、ともに一つの芝居を苦労して作り上げてきた仲間である。写真を見ると、30代での若々しかった二人の面影は変容し、時間の残酷さを改めて思い知らされる。
 美術・音楽・演劇―この芸術の三分野の交差点として、この一室がこれからも育っていけたら、塾講師として食いつないでいる状況にあっても、持たざる者としての誇りを失わずに生きていけるに違いない。

※写真左上、桐村氏と。左下、桐村作品(上1993年/下2004年)。写真右、神谷氏(手前)・水沼氏と。写真下、洞氏と。


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