劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

魔力―劇空間を生み出す

2010年01月22日 | 創作活動
  1968年だったと記憶している。安堂信也ゼミで『不条理演劇』(M.エスリン著)の原書を取り上げたことがあった。私は、芝居の忙しさもあってサボってばかりいたが、その際だったと思う、研究室で先生から『何もない空間』(P.ブルック著)も紹介していただいた。精力的に活動を開始していた英国を代表する演出家の著作なので、内容にも関心を持ったが、何よりもそのタイトル‘The Empty Space’に強く惹かれた。「魔力」を帯びた響きとイメージを深いところで喚起する力がその言葉にはあった。無から有を生み出す演劇創造の仕事に生涯携わりたいと考えていた若い時期だっただけによけいだったにちがいない。
 あれから42年経った現在でも、「何もない空間」「無から有を生み出す」…その魅力は衰えるどころかますます強く私を捉えて放さない。戯曲(劇文学)の舞台化に興味を失ってからは、演出家としてフツウの劇場=額縁舞台(プロセニアム・アーチ)から気持ちが離れていった。もちろん、そこにも、公演が終了し役者やスタッフが舞台から立ち去れば「何もない空間」が生まれるし、また、新たな芝居作りを一から始める時には「無から有を生み出す」ことになる。しかし、私の場合は、劇空間そのものを新たに生み出したい、という欲求を抑えることができない。
 演劇ユニット 東京ドラマポケット(TDP)での初仕事は、旧関東財務局の建物を横浜市が文化施設に転用した「創造界隈ZAIM」での公演『オフィーリアのかけら~予告篇~』であった。別館2Fの会議用ホールを公演期間だけ「劇場」に改装した。スタッフはこの試みに熱心に取り組み面白い空間に変貌させ、役者たちは目の前で見つめる観客たちの前で躍動感ある演技を繰り広げた。二番目の仕事は、新宿の小劇場「シアター・サンモール」での本公演『音楽演劇 オフィーリアのかけら』。こちらは既成の劇場だが、可動式で舞台空間がある程度自由に設定できる。舞台奥に、橋掛や屋台を組み、舞台前は、客席を一部取り外し傾斜舞台を張り出した。
 TDPでは、現在第二期の活動に入っており、三番目となる公演も、「劇の場」にこだわることになる。構想している舞台作品に合致する「空間探し」がすでに始められているが、一般的な劇場ではないだけに、求めている「劇空間」に出会えるのは、た易いことではない。けれどもそれだけに決まった時の喜びは計り知れないものがあり、そこまで私たちを動かす「魔力」が舞台芸術にはあると言える。


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TDPの活動拠点①~只今工事中~

2010年01月07日 | 創作活動
 「演劇ユニット 東京ドラマポケット」は、第二期の本格的活動開始に備えて、自前の事務所を構えることになった。所在地は、都営浅草線「馬込」駅から徒歩1分のところにあり、交通至便である。佐野を含めてTDPのスタッフが「演劇教育」に携わっている日本橋女学館高校(浅草橋)からは、直通電車で26分、JR五反田駅から乗り換えで3駅、京浜急行泉岳寺から乗り換えて5駅、他に東急大井町線や池上線からもアクセスできる。
 代表・佐野の仕事場兼書斎の構想が「オフィス・ライブラリー・サロン」に発展した形だが、そのリノベーションプランを発案してくれたのは、仲間の青木拓也氏(舞台美術家)だった。限られたスペースを有効に生かし目的に適う機能的な設計は、大幅なリフォームを必要とした。設計者自らが先頭に立ち、演出部・制作部のスタッフが協働しながら、只今工事の真っ最中である。
 昨年、年の瀬も迫ったある日、横浜の佐野宅からダンボール40箱の書籍が搬入された。いずれ内装が完了すれば、「演劇ライブラリー」がお目見えすることになる。また、電話・FAX、パソコン、大型コピー機など、制作活動に欠かせない事務機器をはじめ、スタッフミーティング用の什器類も備えられる。
 私には、半世紀付き合い続けている高校の友人たちがいる。「語朗会(かたろうかい)」のメンバーだ。なぜこの「親友」が育まれたか、それは、集まる拠点があったからだ。9人の若者たちが、学校からの帰り、卒業してからは、週末ごとに泊りがけで押しかけた六畳間(親友河崎君の家)があったからである(ブログメニュー「随想」/2007.10.10.『語朗会』と『ファミリー』)。
 今回誕生する「オフィス・ライブラリー・サロン」が、‘50年後’の若者たちの創造活動の拠点になってくれることを願っている。書籍搬入の同じ日、<只今工事中>のオフィスの近くにある「喫茶店」にて、制作会議が開かれた。制作統括・広報・営業・デザイン・ウェブ・文芸事務・稽古場管理のスタッフが数時間にわたる討議を重ねていた。私の「願い」は、すでに実現しているのかもしれない。


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