劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

パラレルワーカーと二足のワラジ

2017年05月23日 | 随想
 テレビの情報番組で「パラレルワーカー」が取り上げられていた。
 「平行的・並行的/労働者」の語の意味するところは、「一人の人間が勤務日時をずらして、A社/B社/C社で仕事をする勤労者」のようだ。会社サイドとしては必要な時に必要な人材を、被雇用者としては「会社社会」に縛られずに自分のスキルを活かして生活するメリットがある。これまでも、週末や勤務時間外に他の仕事をすることはあったが、それはあくまでも「内職」であって、正社員として会社に籍を置きながらのことであった。
 『ああ、時代が大きく変わったな』との思いを深くした。終身雇用・年功序列社会では、「転職」が悪だったし「中途採用」もほとんどなかった。高校卒業後、3年間社会人を経験した私の場合、大学卒業時にNHKを受験しようとしたら門前払いを食らった。新卒が前提なので、25歳は対象外だとされた。『3カ月後に生まれていたら、ぎりぎり受験資格があったのですが』と極めて官僚的な姿勢で、社会の壁を感じざるを得なかった。
 それから半世紀近く経って「社会の壁」は溶解した。護送船団方式のシステムは崩れ、少子化が進行し年金制度も持たなくなり老後の保障はあてにならなくなった。雇用者側は能力のない者を一生面倒見る余力がなくなり肩たたきが日常となった。大学進学率の急上昇は大学・大学生のインフレ状態を招き、「大学卒」の肩書きは輝きを失った。時代も世界情勢も大きく変化したのに、権力者(政治・行政・実業)には先見の明はなく、今何をすべきかという本質的な思考もせず、ただ場当たり的に対応するのみで、国民や社員のことなど眼中になかった。ただ己の欲望や保身にのみ忠実なため今日の危険な事態を招くに至っている。
 与党はあの思想弾圧の恐ろしい結果を招いた「治安維持法」に道を開く法案成立に狂奔しているし、憲法に保障されている「生存権」を奪うような事態を招いた政府・東京電力も口を拭い、過労死自殺を引き起こした電通をはじめとする大企業も根本的な改革から目を背け、東芝(私の叔父は63年前に自殺に追い込まれた)も今存亡の危機にある。
 所属する機構による保障が期待できないこんな時代なので、会社におんぶにだっこの道を捨て、自ら培った技能・技術によって社会とつながり生計を立てる生き方を選ぶ若者が出てきても不思議ではない。テレビを見ていて、自分の半生とつながることに気づいた。「会社におんぶにだっこの道を捨て」たのは、同じだ。ただ私の場合は、プログラミングなどの技能を持って会社を掛け持ちするのではなく、収入の道は一つ。かつては正規の学校事務職員、今は塾の臨時講師で生計を立て、勤務時間外にライフワークの演劇活動・創作活動に身を投じる―いわゆる<二足のワラジ>を履いてきた。会社人生からドロップアウトしたのは、20歳だった。自分にできることは何か、自分のしたいことは何か、それを考えるために銀座の貿易会社を辞めた。大学の4年間、仲間と演劇活動に没頭した結果、これをやり続ける人生を選ぶことになった。
 「パラレルワーカー」のTV番組は、「個人の自立」と「社会の成育」を考えるキッカケを与えてくれた。

※写真上は、会社の慰安旅行(20歳)。写真中は、現在の新橋駅地下横須賀線プラットフォーム。かつては東海道線と共に地上にあった。写真下は、現在の新橋から銀座の風景。


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