劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

東京ドラマポケットの公演製作過程④

2012年07月30日 | 演劇
 オリジナル脚本の場合、書き上がった場面から稽古に入ることになる。大まかな劇構成は伝えられているが、俳優は、人物の意識の流れや感情の変化など手探りで当たらなければならない。作者が演出者を兼ねる場合、その‘手探り’に対して一定の方向を示せるという利点がある一方、産みの苦しみを経て搾り出したセリフやト書きに変更を加えることはためらうという難点もある。私はもともと現場の人間で演出家であり、自分が描き出したい世界のために脚本を書くのだから、稽古を進める中で俳優の意見や演出スタッフのアイディアを取り入れることに対してはむしろ積極的だ。創造現場に関る者たちが、自分たちの呼吸・ことば・からだを交差させ融合させて劇世界を紡ぎだしていくことが最も大切であって、脚本は、そのための土台になればよい。
 さて、「読み合わせ」から「半立ち稽古」に進む頃になると、徐々にセリフが人物の言葉となって立ち上がってくる。それに伴い、<役>の所作や動きにとって<衣装>は重要だ。今回はコロスドラマの面では抽象性が、劇中劇においては写実性が求められる。演劇における美術性は、舞台装置・照明・衣装によって成り立っている。コロスたちの衣装は、デザイン・縫製とも参加スタッフが担っている。コロスたちは、合唱隊であり語り手であり劇中人物まで演じるため、衣装を身につけての稽古は必要不可欠である。そのため、衣装合わせは早めに行われる。
 つい数日前、上演台本が印刷所から届けられた。93ページの中身は、3ヶ月余りの稽古過程の集積である。俳優たちはそれまでの「プリント台本」の方に演出者のダメ出しをびっしり書き込んでいるため、手にした真新しい印刷台本は真っ白である。この日を迎えるたびに、遅筆を自認する作者は身の置き所がない気持ちにとらわれるのだが、稽古は協働作業であり、オリジナル脚本はその過程で変化するのだからこの事態は許容されるべきだ、と独白している。


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