劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

雑誌『文学』に論文が掲載される

2014年09月29日 | 随想
 岩波書店発行の雑誌『文学9,10月号』が発行された。「特集 文学を教えるということ」には10本の論考が掲載されているが、その中に「中学受験における文学の位置づけ」(佐野語郎)という小論(40枚)も入っている。巻末の執筆者略記を見ると、私以外は、○○大学名誉教授・教授・准教授というそうそうたる専門家ばかりで、一介の塾講師は場違いであるかの印象を受ける。
 執筆依頼の経緯を想像するに、担当編集者とは旧知の間柄で、以前から塾教育について話し合っていたことや佐野主宰の演劇公演にも足を運んでくれていたこと、そして、塾講師の中では古株で経験が豊富だろうと判断されたことが人材選択の決め手になったのかもしれない。8年間勤めた日本橋女学館高等学校・演劇研究クラス立ち上げの際も、極めて似た経緯があった。慶應義塾大学名誉教授K先生から『大学のことは分かるけど、高校のことは佐野さんの方が詳しいだろうから…』との依頼電話があったのだ。
 担当編集者M氏からの依頼状には《本特集では、現在の文学教育が抱えている可能性と問題点を取り上げたいと考えております。/実際に教育現場に立たれてきたご経験から、「文学を教えるということ」について、率直にご論考を展開していただければ幸いです。/佐野語郎先生には、(中学)受験教育における文学の位置づけをテーマに、先生のご関心が重なるところについておまとめいただけないでしょうか。》とあり、その編集部の意図を十分くみ取った上で、論文の構想を練ることになった。
 M氏との打合せは、神保町・岩波書店本社ビル内の応接室で2回にわたり行われた。まずは日本の現状認識や塾教育の意義を語り合うことから始められ、論考の主題となった「中学受験における文学の位置づけ」についても意見交換がなされた。2回目には、論文の具体的内容について話し合われた。授業に取り上げた物語素材の選択、論文全体の基本的な構成は、筆者案が受け入れられた。と同時に、『現場の様子を具体的に』という注文も投げかけられた。
 こうして執筆された論文の骨子は、「Ⅰ はじめに―私立中学受験と塾の役割」「Ⅱ 入試問題の素材および設問の意図と生徒たちの理解度」「Ⅲ 文学の読解能力―複眼的思考と他者への共感」「Ⅳ 読解能力の土台―体験と生活環境」となった。
 春から夏にかけて数カ月、資料調べや作品の読み直し・執筆と推敲・編集部の赤入れと著者校正など忙しい時間を過ごしたが、M氏の雑誌「世界」編集部への移動に伴い、担当を引き継がれたN女史の適切かつ鋭い編集と思いやりのある温かい対応によって、ゴールテープを切れたことを有り難く思っている。


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