劇作家・文筆家│佐野語郎(さのごろう)

演劇・オペラ・文学活動に取り組む佐野語郎(さのごろう)の活動紹介

東京ミニオペラカンパニーと創作ミニオペラ公演②

2016年08月20日 | オペラ
 本番まで残り二週間となった。これまでは順調に来ている。
 代表をお願いした宮部小牧さん(ソプラノ)がソリストの皆さんの中心となってカンパニーにおける意思疎通を図りつつ、制作責任者の私と作曲・ピアノの水沼寿和さんとの連携にも心配りをされているからだ。出演者それぞれにプロ意識があり誠実に課題に向き合ってくれるので、上演準備が滞りなく進行するのは当然かもしれないが、有り難いことである。
 練習スタジオでは、楽譜に対してピアノと歌唱の合わせが進み、細部の修正・確認がほぼ終わり、いよいよ立ち稽古の段階に入った。これまでは制作担当者としての仕事が主でソリストたちと練習上関わることはなかったが、これからは演出家として直接やり取りをすることになる。
 台本に書かれているキッカケの確認や立ち位置や登退場のタイミングなど、舞台演出責任者としての出番になった。演劇公演の場合と音楽劇とは稽古の進め方が異なる。今回のミニオペラでは、作曲家兼ピアニストが歌手たちと音楽を作り上げていき、それが進められた後に、演出家にバトンタッチされる。舞台面での表現を具体化する段階に入るからだ。私はソリストたちに事前に「演出台本」なるものを渡しておいた。演出意図や各人物の解釈などをまとめたいわゆる演出メモである。
 限られた回数の稽古であるため、立ち稽古に入る前にその人物を理解し表現する準備をしておいてほしかったからだ。例えばホレーシオの場合、ハムレットの学友であり悲劇の結末に立ち会う人物だが、その基本的な人物像やこの創作ミニオペラにおける場面ごとの状況、台詞の裏の心理まで記述した。登場人物全員の内容を合わせると、かなりの長さになった。音楽劇とは文字通り音楽と演劇の合体であるから、音楽表現の魅力にとどまらず、演劇としての深い味わいを表したい思いがあったからである。
 さて、私が長らく舞台公演活動に携わってきた理由の一つに、観客(聴衆)との人間的交流がある。人々が集う場として、興行主やプロダクションが主催する商業的な劇場やホールではない非商業的で自前の場が大切ではないだろうか。「冠婚葬祭」や同窓会とは別の機会、日常から少し離れた場で芸術を通して美や人間の本質に触れる時間を共有すること、そこには人生を豊かにする作用があると信じている。
 友人・知己に180通ほどDMを送付した。その返信がちらほら届いている。『今回は夫婦で』が三組ほど、また、京都や信州上田から上京される方もいる。『残念ながら、その日はイタリアに帰っていて』『パリにてご成功を…』という葉書もあった。
 公演は経済的には相も変わらず「持ち出し」になるだろう。しかし、芸術の時空を自前で提供し続けること、そこにはお金には代えられない人間としての喜びがある。


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