Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

俊鶻丸のシンチレーション・カウンターが登場します 『わが友、第五福竜丸』

2023-11-22 | Weblog

写真は左より、円城寺あや、武山尚史。撮影・姫田蘭。

この機械は、水産庁の調査船・俊鶻丸に搭載された、シンチレーション・カウンター。

第五福竜丸展示館に常設展示されている。「俊鶻丸調査」の重要性が理解されているからだろう。

他の船の備品が保管されてることに違和感を憶えられるかもしれないが、シンチレーション・カウンターは、放射線が衝突すると蛍光を発する物質を使った測定器。ビキニ事件のとき、日本にただ一台しかなかった。こんなに大きくても当時としては最先端。その頃は真空管一つも高価で手に入りにくかったため、当時は二十代、若き日の岡野真治博士が秋葉原のジャンク屋でアメリカの放出品を集めて組み立てた。ご自分の研究室に備え付けていたものを外して持ち込んだ。こんな大きな機械が船のデッキにあったら邪魔だったらはずであるが、必需品だったのだ。ビキニに近づいて、汚染が強くなると、俊鶻丸の乗員はシンチレーション・カウンターの数値に一喜一憂した。岡野博士は仮眠を取っていても、故障するたび起こされた。

ビキニ事件の海洋への放射能汚染を計測する「俊鶻丸調査」。日本独自に海の放射能汚染の実態を解明する一大プロジェクトの船が、ビキニ事件発覚二ヶ月後の五月十五日には、出発できていた。気象研究所の三宅研究室が主導していた。海水の放射能をはかる測定方法がなかった時代、ビキニの灰を使って実験を繰り返し、海水から核分裂生成物を分ける方法を編み出した。

当時大平洋のマグロから強い放射能が出て大量に破棄され、安全が確認されても価格は半値以下、社会問題になってた。水産庁が呼びかけたということになってるけど、国会で調査の用意があるか問い詰められた長官が苦し紛れに「現在計画を進めています」と答えてしまった。ちょうど水産講習所の練習船があいていた。水産業への損失補償をアメリカに請求するならうごかぬ証拠が必要だ。実地調査に反対する理由がない。科学の発展はラッキーな偶然に背中を押されたのである。

※※※※※※※※※※

安倍首相は五輪招致の演説で「状況はコントロールされている」、「汚染水は原発の港湾内で完全にブロックされている」と言ったが、それが嘘だとわかっていながら世間は追随した。

二〇一一年、事件当時の福島原発港湾外の海水調査でも、明らかに放射能漏れがあった。トリチウム、セシウム137、134を検出。コントロールもブロックもない。政府は基準値内と言ったけど、大量の海水で薄まったところの数値。薄められたのに検出されるレベルの放射性物質があることじたいが驚愕すべきことである。

四月に入り近海のコウナゴから暫定基準値を超える検出があり汚染問題は表面化。なのに水産物への影響を総合的に調査する体制はとられなかった。そしてビキニ事件の一九五四年以来、半世紀以上にわたって放射能観測を続けてきた気象研究所に年度末、次年度から観測予算は使えなくなると連絡が届いた。自粛を余儀なくされた漁師たちが「調べてくれ」と言い、放射能が観測史上最高の値を示しているときなぜやめるのか、理解できない。

五月一六日、「大学や調査機関が所有する調査船などを協調的に投入し効率的な観測体制を構築する必要がある」と、日本海洋学会が国に提言。しかし指揮体制はいっさい作られず。海水や海底土は文部科学省、魚は水産庁、原発近くは東電、川の河口は環境省、バラバラに調べてた。サンプルを取る場所を整理しないと全体像がわからない。組織も顧問団もない。俊鶻丸の経験が生かされていなかったのだ。

それでも岡野真治博士はシンチレーション・カウンターを小型化し、車に付けて被災地を走り、まずは陸の汚染マップをつくった。最新の岡野式測定器はトランクに収まるサイズになっていた。船にも計測器を付けて、三次元の汚染マップを作ろうとしていた。表面放射線値はもちろん、潜水挺に計測器を載せて海中放射線値を計りたいと考えていたという。「測ってみなければわからない」が口癖だったという。

ビキニ事件の放射能検査をした同じ人が、六十年後に福島原発の放射能検査をしたのである。

 

※※※※※※※※※※

 

そうした私なりの理解が、『わが友、第五福竜丸』には、取り入れられている。

「俊鶻丸」の史実を現在に届けたNHKディレクター・奥秋聡さん登壇のアフタートークは、本日開催です! 

 

※※※※※※※※※※

 

燐光群『わが友、第五福竜丸』座高円寺公演、

11月22日(水)14時の回のアフタートーク・ゲストは、

NHKディレクターの、奥秋聡さん。

2013年ETV特集「海の放射能に立ち向かった日本人~ビキニ事件と俊鶻丸~」には、たいへんな刺激を受けました。

「俊鶻丸」の存在に出会えたのは、奥秋さんの御陰です。

そして、今回の創作にあたっては、刺激的なお話を、たくさん聴かせていただきました。

アフタートークでお話しできることが、たいへん楽しみです。

 

 

奥秋 聡(おくあき さとる):プロフィール

NHKディレクター。

1974年神奈川県生まれ。1999年NHK入局。

静岡放送局在籍時にビキニ事件を取材。
2013年ETV特集「海の放射能に立ち向かった日本人~ビキニ事件と俊鶻丸~」を
制作、その内容を書籍にもまとめた。
これまでに制作した番組
ETV特集
「あとにつづくものを信じて走れ~井上ひさしさんが残したメッセージ~」
「関東大震災と朝鮮人 悲劇はなぜ起きたのか」
「久米島の戦争 なぜ住民は殺されたのか」
こころの時代
「死者は沈黙の彼方に 作家・目取真俊」など

 

燐光群『わが友、第五福竜丸』上演情報です。

https://rinkogun.com/portfolio/20231117_wagatomo_dai5fukuryumaru/

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本日開催! 「俊鶻丸」の史... | トップ | 俊鶻丸の活躍を描く『わが友... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事