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やぁ、みんな。サカタだよ。

いつもとおなじ

2023年08月01日 | サカタだよ

いつもとおなじ朝がきた。執事のアルフレッドが留守なものだから顔も自分で洗わなければならない。面倒なことにタオルも自分で探してきて自分で顔を拭かねば……しかし一体どこにタオルがあるのだろうか? 屋敷の中を探し歩いているうちに、すっかり乾いてしまった! これはこれでいい。

 


まだ6時22分か、23分にすぎない。古時計なので何分か遅れているかもしれないし、進んでいるかもしれない。いずれにせよ屋敷から出たって街で身を寄せるカフェも開いてないに違いない。唯一の使用人である執事のアルフレッドが留守だから朝食はもうしばらく後、出かけてからにしよう。
 
 


なんとも不便なことにスケジュールさえ自分で確認せねばならない。聞くところによればアレクサとかいう執事はそばにいなくても呼びかけると機器の中から返事をしてくれて、スケジュール確認ぐらいしてくれるそうだけど、うちのアルフレッドは端末に呼び掛けても反応がない。旧式の執事なので仕方ない。
 
 
 
朝飯前にプライベートジムで軽くトレーニングこなす。いつもとおなじダンベル、いつもとおなじバーベル、いつもとおなじマシンでいつもとおなじメニューをこなす。いつもとおなじシャワールームで汗を流し、いつもとおなじバスタオル……さてバスタオルはどこにあるのか。いつもは執事のアルフレッドがそこに置いてくれるから、さっぱりわからない。
 
 
 
やむをえず自然乾燥させてから、いつもとおなじ黒のスーツに身を包み、屋敷の地下のガレージでいつもとおなじ漆黒のクルマに乗り込んで、何か軽いものとコーヒーで朝食をとるために全速力で出発する。月夜に悪魔と踊ったことはあるか? といって銃口を向けてきた通り魔に両親が殺害されてから屋敷の一部を見物客に解放しているので、鉢合わせないように地下の秘密ルートで出入りするのも、いつもとおなじ。
 
 
 
いつもとおなじタイムズ駐車場に漆黒のクルマを停めて、黒いマントをひるがえし、セルフサービスのベーカリーカフェに寄る。目についた調理パンをトレーに取ったらコーヒーを注文してイートインコーナーの座席へ運んで食べる。執事のアルフレッドといえども屋敷で焼きそばパンまではおいそれと用意してくれないので、彼のいぬ間に命の洗濯というわけだ。
 
 


典雅なブレックファストを済ませたところで腹ごなしに高いビルの上へ登って、いつもとおなじ街を見下ろす。平和なように見えても、多くの欺瞞と合法の悪徳に満ち、人が人を食い物にするこの都会……まともに働いても身入りの半分を徴税されるほかに公共料金や社会保障の負担金をごっそり取り上げられる。それらが公共の福祉に再分配されることは稀で、ごく一部の特権階級が甘い汁を吸うだけなので、不満を持つ人々による犯罪が止まらない。
 
 


坊ちゃんひとりでどうなることでもないから厄介事に首を突っ込むのはおよしになったほうがと執事のアルフレッドはいつもおなじ小言ばかり繰り返す。だいたい聞き流すのだが大人げなく反発することも時々あって、もう面倒見切れませんとアルフレッドが暇をとったことは過去にも幾度かある。いつもとおなじ。
 
 


しばらくシティをながめてタイムズ駐車場に停めたマイカーを回収し、屋敷に戻る道すがら地下の秘密ルートに至る1本道に何やらチョークで落書きしてある。こんな子供っぽいことをするのは敷地内に入り込んだ子供じゃなくて執事のアルフレッドだろう。「がんばって」とはなんのつもりか? 意味がわからない。
 
 


なんとなく顔を合わせるのが気まずいので、地面にひとこと返事を書いてクルマで1本道を引き返し、せめて日が暮れるまで醜く歪んだ社会の営みを高い場所から見下ろす。蝙蝠のように逆さまにぶら下がって頭を冷やす。いつもとおなじ。
 
 


 
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