大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 004・ブーツに保革油を塗る

2024-08-03 15:20:51 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

004:ブーツに保革油を塗る 




 ザクッ ザクッ ザザ ザ ザクッ ザザ ザクッ ザクッ

「これは荒れ野というよりは……荒れ地だなあ……」

「気を付けていないと……足を挫いてしまうかもしれないわ……」

 荒れ野の道は大小の石が混じっていて、学校の通路や中庭を歩くようなわけにはいかない。

「今のうちにブーツに油を塗った方がいいぞ」

「そうね、始まりの町に着くまでにブーツが破れちゃかなわないわね……保革油はあったかしら」

「……五回ほどスクロールすると出てくる、82番だ」

「あ、うん。あったわ」

 ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ

 油を刷り込みながら振り向くと、荒れ野の灌木林の向こうに学校の屋根が見えている。

「まだ、いくらも来てないわね」

「早く気づいてよかった」

「アイテムは一杯あるけど、アドバイスやヒントとかはいっさい無いみたいねぇ」

「肉の保管袋がある……よし、油を塗ったらウサギでも狩っておこう」

「ウサギいるかしら、もう異世界でしょ?」

「学校の屋根が見えてるんだ、なにか居るだろ。いざとなったらスライムでも」

「スライムって、食べられるの?」

「干せばスルメみたいになる。醤油とワサビもあるみたいだし、刺身でもいけるかも」

「刺身にするなら、よっぽど洗わなくちゃいけないわ……水は、そんなには無いわよ」

「ああ……初心者用の50リットルだ。飲料と煮炊きに使って四日分ほどだな」

「……あ、一番下に予備の水袋があるわ。そっちは?」

「……こっちにもある。学校で入れてくるんだったなあ」

「戻って汲んでくる?」

「それはカッコ悪い」

「フフ、アルテミスらしい。わたしなら平気よ」

「ケジメだ、ケジメ」

「フフ、そうね。マップは無いのかしらぁ……」

「行ったところだけ解除されるシステムだな……この周辺のことしか分からないぞ」

「でも、地面に傾斜があって、これだけの木や草が茂ってるんだから、こっちの方に川か池が……」

 地面が傾斜している右側に注意を向ける。アルテミスは狩りの女神だけあってこういう時の感覚は鋭い。

 ザク ザク ザク ザク……

「誰か歩いてるの?」

「いいや、歩く音じゃない……土を掘っている音だ。見てくる」

「わたしも!」

「ベロナはそこに居ろ、二人で行ったら、元の場所が分からなくなる」

「あ、うん、分かったわ」

 念のため弓に矢をつがえ、身を低くして木の間を拾うアルテミス。

 え?

 直線で20メートル、高低差で4メートルほど行ったところでアルテミスは意外なものを見て、思わず声を上げてしまうところだった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・116『妖退治・2 晴天のネックファン』

2024-08-03 09:33:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
116『妖退治・1 晴天のネックファン』   




 逃げ水ってあるでしょ。

 夏の盛りに道を歩いていると、道の向こうにユラユラと水たまりがあるように見えて、近づくと、近づいた分だけ逃げてしまう。

 あの逃げ水みたいなのが、大屋根の上にいくつも現れる。

 逃げ水と違って、近づいても逃げないで、大屋根の上をチョロチョロ動いている。中には、向こうから近づいてくるものもあるんだけど、だいたい10メートルぐらい近づくと消えてしまう。

 消えてしまうのは、わたしの魔力が退治している証拠だと安倍晴天は言う。

 晴天が妖気の膜を補強してくれているので暑くはないし、一周2.2キロの大屋根の上で見晴らしもいい。少しづつ仕上がっていくパビリオンや会場の施設を眺めているのも楽しい。

 三日ほどたって気が付いた。

 逃げ水の一つが消える寸前に人の形になったんだ。

 注意して見ていると、別の逃げ水は、はっきりと小さな男の子の姿になった後に消えていった。

 え、あれって、人なの?

 動けなくなった。

 わたしが動けば、逃げ水が消えるわけで、それは大阪に巣くう妖を退治していることだったはず?

「さすが応(こたえ)さんの孫だ、見えてしまうんだね」

 晴天が麦わら帽にグラサンのナリで横に立った。

「あれって、人じゃないの?」

「人ではない、人が残した負の感情が地中のメタンガスなんかに反応して形になったものだ」

「え、えと……」

「足下にグッチの影があるだろう」

「あ、うん」

 午前九時の影は黒々と足もとに伸び、当然だけどわたしの形をしている。

「生きてるみたいだけど、その影を生き物だと思う?」

「ううん、ただの影だよ」

「恐怖とか怒りとかの負の感情も同じ、一種の影なんだ。だから気にすることは無い」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 ブ~~~~~~ン

 少しだけ安心すると小さなモーターが回っているような音が耳につく。

「あ、分かってしまったか(¬_¬) ?」

 晴天がジト目でこっちを見ると、首筋に輪っかみたいなのが現れた。

「ネックファン?」

「AMATONで買ったんだ」

「へえ、安倍晴明の子孫でもAMAZONで買うんだ」

 ちょっと親近感。

「似たようなもんだけどね、吹きだす風が並みじゃないんだぞ」

「どれどれ……ヒエエエエエ!」

 指先がドライアイスに触ったみたいになって、慌てて引っ込める。

「黄泉の国の冷気だからね、波の冷風じゃないさ」

「でも、汗かいてないみたいだけど」

「ああ、舞妓さんと同じでね、目につくところは汗をかかないようにしてるんだ。妖どもに弱みは見せられないからね」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「よし、グッチと喋って元気が出て来た、もうひと頑張りしてくるぞ!」

 ジュ!

 勢いをつけて行ったせいか、寸前まで晴天が居たところの水分が瞬間に蒸発した。

 まだまだ妖退治は続きそうだ。

  

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)109・衣装合わせ不幸せ

2024-08-03 06:53:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
109・衣装合わせ不幸せ 





 うかつにも自分がアメリカ人であることを忘れてしもてた( ゚Д゚)!


 それほど日本に馴染んでしもてた! 女子高生の制服というのは、いかに女子のリアル体形を隠してることか!

 ホストファミリーの渡辺家のお婆ちゃんが、栗東の従兄弟さんとこから取り寄せてくれた純白の単衣。

 これは年代物のシルクの寝間着やそうで、上品な艶があって肌触りが良くて、身にまとうと女の値打ちが2ランクは上がりそうや。

「まぁ、それでも単衣(裏地の付いていない着物)やから、下に、これ着てね」

 お婆ちゃんは長じゅばんを出してくれる。

「着付けは……そうそう、幸子さんに、幸子さ~ん」

 町会の寄合から帰って来た千代子のお母さん、お婆ちゃんからしたら嫁さんに声をかける。

 これは、お婆ちゃんの心配り。

 千代子やお婆ちゃんに比べると接触の少ないお母さんに声をかける。着付けというのは、自然なスキンシップになるので、なるべく家族みんなと関われるようにしようという自然な気遣いなんや。

「はいはい、あたしに出来るかなあ~」

「これで練習して正月の晴れ着の着付けもできるように、勉強勉強(^▽^)/」

 お父さんと健太と千代子はリビングに控えて見物に回る。

 お婆ちゃんは、衣装合わせを渡辺家のイベントにしてしもた(^_^;)。


「よし、これでええやろ!」


 お母さんの着付けにOKを出すと、お婆ちゃんは、わたしをリビングに急き立てる。

「「「おーーーーーー( ゚Д゚)!」」」

 お父さん、千代子、健太が同時に歓声を上げる。

「お人形さんみたい!」

 そーでしょ!

「惚れ直したで!」

 健太に惚れられてもね。

「マダムバタフライみたいや!」

 え?

「ほんまや、バービー人形が着物着たらこんなんやろなあ!」

 ちょっとそれは……

「ボンッキュッボンは、なに着てもええな~」

「ちょ、ちょっと鏡ぃ!」

「はい、どうぞ」

 お母さんが転がしてきてた姿見を見てビックリ!

 着物というのは、ウエストのところで締め上げるさかいに、制服とは真逆、意外に体の線が出てしまう。

 それも、バストとヒップ!

 バスト〇〇ウエスト〇✕ヒップ✕✕という、しばらく忘れてた3サイズ……しばらく計ってへんから、もうちょっとあるかもしれん……が頭の中で点滅した。

 アメリカ女性としては、ごく平均的な体形……やと思うねんけど、この衣装では、それがハッキリと出てしまう。

 これでは『夕鶴』の肝である、あのセリフが言われへん!


――ああ、こんなに痩せてしまって――


 ぜったいギャグになってしまうやないの(>Д<)!!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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馬鹿に付ける薬 003・旅の始まり

2024-08-02 13:45:07 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

003:旅の始まり 




「では、正門まで見送ろう」

 ベロナの兄であるマルスは、武人らしく妹に告げた。

「ありがとうございます、お兄さま」

 ベロナも良家の子女らしく、きちんと頭を下げる。

「留年の使命が冒険の旅だとは聞いたことも無い。だが、逆に言えば、それだけ期待されてのことであるだろうし、それに耐える力が二人にあると理事長も校長も判断されてのことなんだろう。厳しい旅になるだろうが、我々も陰ながら応援しているぞ」

「はい、お兄さま」

「ありきたりだが、頑張れベロナ」

 マルスは妹の細い肩に手を置き、愛おしそうに揺すった。

「そんなに揺すられては、旅に出る前に壊れてしまいます(^_^;)」

「せめて太陽系を出るところまではガードとして付いて行ってやりやいところだが、公転軌道の警備も揺るがせにはできん。アルテミス、どちらがどうと言うほどに力には差のない二人だろうが、どうかベロナをよろしく頼む」

「お、おう」

「ベロナも、なにごともアルテミスと相談し、力を合わせて進んでいきなさい。そして、この試練を乗り越えれば二人は、惑星と衛星という枠を超え、この太陽系に二つとない親友の星になれるだろう」

「はい、お兄さま」

「ありがとうマルス……ねえちゃんも、なんかねえの?」

「え、わたし?」

「姉妹なんだからさ、こういう時はなんかあるっしょ」

「あ……馬鹿に付ける薬って……なんだろうね」

「古来『馬鹿に付ける薬は無い』と言われてきたが、アマテラス殿が言われるんだ、必ずあるさ」

「そうだよ、まあ、がんばりなさい」

「おう……じゃ行くか」


 そっちじゃありませーん!


 四人が正門に進もうとすると、式の終わった講堂から飛び出してくる者がいる。

「あ、教頭先生」

 気づいたベロナがきちんと振り返って頭を下げる。一応の礼服に身を包み髪も黒々としたジョバンニ教頭、どこか少年の匂いを残しているが、近づいてくると目元や口元に隠せない年齢を感じさせる。

「北門から出てもらいます」

「北門?」

 マルスが眉を顰める。

「あ、不浄門とは言われていますが、始まりの町にはいちばん近いんです」

「「「「始まりの町?」」」」

 四人の声が揃う。

 始まりの町というのは異世界冒険もののゲームやラノベに出てくるお決まりの設定。ここで装備を整えギルドに登録し、チュートリアルを兼ねた初期ダンジョンの攻略があったりする。

「ということは、二人の旅は銀河宇宙を飛び回るスペースファンタジーではなく、異世界冒険RPGだと?」

「まあ、そういうことですね。初期装備と七日分の水と食料は二人の道具袋に入っているから後で確認しておきなさい」

「はい」

「おう」

「……えと、質問とか疑問とかは無いのかなぁ?」

「はい」

「質問して普通の留年になるんならするけど」

「あ、それは絶対無いから……」

 保護者二人をチラ見する教頭だが、保護者も生徒もここに至っては言葉も無い様子で目を合わそうとはしない。

「ええと……始まりの町で、学校の方から依頼したガードが待っているからね。予定では五日目には町につくから、ギルドに行って登録のついでに確認しなさい。名前や特徴は道具袋のメモ帳にあるから、間違わないで声をかけるように」

「それならば、登録番号で確認した方がいいだろう、ギルドに来るガードなんて似たり寄ったりだろうからな」

「あ、それもそうですね、将軍。なにぶん学校の仕事ばかりで冒険などしたことが無いもんですから(^_^;)」

 北門に着いて門扉が開かれると、それに連動していたんだろう、二人の制服は瞬間でアーチャーと魔法使いのものに切り替わった。

「アーチャーなのは、いいけど、ちょっとダサくない?」

「わたくしのも、ちょっと胸がきついような」

「初期装備だからね、まあ、二三個クエストやって気に入ったのを買えばいいよ」

 北門から出してしまえば任務終了なのだろう、教頭の言葉には熱が無い。

「初期装備には裁縫セットが入っているはずだ。あとで直すといい……ほら、ここだ」

 マルスは妹のインタフェイスを開いて示してやる。

「まあ、なんとかなるわよ、わたしの時もそうだったから」

――あんたは何もしないで月に帰ってきただけだけどね――

 辛辣な言葉が出そうになるが、さすがにアルテミスは飲み込んだ。

 門を数歩出ると、ロケーションは『始まりの荒れ野』の風情で、一陣の風が吹いて来て見送っていた教頭の髪の毛を吹き飛ばした。

 あ、ウイッグ!?

 教頭を慌てさせ、少しだけ笑ってアルテミスとベロナの冒険の旅が始まった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)108・純白の単衣

2024-08-02 07:29:23 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
108・純白の単衣 






 ガラスのサイコロを斜めにして滑り台を付けたような駅。 

 滑り台の部分は、たった今降りて来た階段で、ガラスのとこは改札を出たホール。ホールは陸橋を兼ねてて、改札を出た時にどっちに下りようかと、ちょっとだけ迷った。    

 その駅前のロータリーで途方に暮れてる。

 なぜって、駅は確認してたけど、行き先であるお婆ちゃんの実家は聞かずじまいやったから。ひょっとして駅の向こう側にもロータリーがあるんちゃうやろか……せやけど、向こう見に行ったあいだに迎えが来たら困るしぃ。

 ロータリーに佇んで、わたしはとっても寒い。歯がカチカチ鳴って、その振動が体中に伝わってガタガタ震えてる。

 まるで真冬のミシガン湖のほとりに立ってるみたい。

 シカゴと大阪は姉妹都市で、いろいろ共通点はあるけど、人口の多さと真冬の寒さはシカゴの勝ちに間違いない。

 って、立ってるのは栗東駅のロータリーなんやけど……栗東……で、今日は11月7日の立冬。リットウ語呂合わせの祟り!?

 自慢やないけど日本語慣れしてるから立冬をリットウと読むのは知ってたけど、栗の東と書いてリットウとは読まれへんかった。

「へー、そうなんや!」

 お婆ちゃんに言われて感心したから、こんなダジャレみたいな運命に翻弄されてる。

 で、なぜか千代子とお揃いのスェットパジャマ。

 パジャマなんやけど、セーラー服。

 本来ツーピースのセーラーがスェット地のワンピになっててクルブシまでのロング、映画で見たスケバンのセーラーみたいで「「おもしろーい!」」と意見が一致して通販で買った。

「これやったら、普通に外歩いてても分からへんで!」

 と、夕べは盛り上がった。

「ミリーが言うてた純白の単衣なぁ、田舎の栗東にあるわ」

 お婆ちゃんが、あちこちに手配して、お婆ちゃんの実家である栗東の家から写真付きでメールが送られてきたんや。

 その純白の単衣を文化祭で着るんや。

 夕鶴のヒロインつうの役やから純白の小袖!

 そやけど令和の現代、いまどき小袖っぽい着物て浴衣ぐらいしかあれへん。

 夕鶴のつうが、金魚とか朝顔の柄の浴衣で出るわけにもいかへん。それで浴衣案は早々に却下されて、栗東の親類に手配してもろたわけ。

「下に一枚着たら、絹ものの単衣でもいけるなあ」

 お婆ちゃんのアイデア。

 でもって、早手回しにセーラーのパジャマ着て、栗東駅のロータリー。


 ヘクチ!


 かわいくクシャミして目が覚めた。

 あたしは、夕べから使い始めた冬布団を蹴飛ばしてパジャマは胸の下まで捲れ上がってた。
  
 いろいろあって、変な夢みたんや……。

 いくらなんでも、パジャマで栗東に行くわけないないもんね。

「栗東の従兄弟が届けてくれるて」

 朝ごはん食べてると、お婆ちゃんが伝えてくれる。

「ほんまぁ? めっちゃ嬉しいです(*^-^*)」

 卵をかき混ぜる手に力が入る。わたしは玉子ご飯好きの変なアメリカ人でもある。

「おはよ……」

 悲惨な小声で千代子、珍しく起き抜けの爆発頭。

「あかんわ、風邪ひいてしもたー(-_-;)」

「あ、お腹出して布団蹴飛ばしてたやろ?」

「……なんで分かるのん?」

「アハハ、ミリーはなんでもお見通し!」

 けっきょく、千代子は学校を休んだ。

 同じ目に遭ってるのに、わたしは大丈夫。

 おそらくは、来週に迫った文化祭の事が楽しみやからやと思う。


 衣装の心配が無くなったことで、授業も稽古もルンルンでできた。


 家に帰ると、栗東の従兄弟さんからブツは届いてた! セーラーのパジャマが届いた時よりも興奮する!

「さ、さっそく試着してみい」

 お婆ちゃんの勧めで、チャッチャとリビングで着替える。

 で、姿見を見て、めちゃショック……(;'∀')。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



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やくもあやかし物語2・063『荒ぶる間人皇女』

2024-08-01 14:36:53 | カントリーロード
くもやかし物語 2
063『荒ぶる間人皇女』 




「わたしのことは詮索しないで欲しいんだけど……」

 間人皇女(はしひとのひめみこ)が薄く口を開けて言ったよ。

 ズチャ

 アニメで戦士が身構えるようなエフェクトをさせてネルが前に出る。

「こいつ、なにか詠唱している!」

「あ、べつにゾルトラークって言ってるわけじゃないから」

「そうなのか(;'∀')?」

 わたしの言うことだから疑っているわけじゃないんだろうけど、間人さんから放射される気は禍々しくて、ネルは警戒の姿勢を一ミリも緩めないよ。

「ぞ、ぞるとらーくって何よ!?」

 間人さんもネルの威圧に圧されて、言葉が尖がっている。

「あ、最近流行の一般攻撃魔法。だいじょうぶ、なんにもしないから」

「でも、あなたたちは、わたしのことを間人皇女と分かって警戒してるんでしょ!」

「あ、ちょっと怖いけど、戦おうとかは思ってないし」

「でも、そちらの耳長は敵意剥き出しだしぃ」

「もう、ネル!」

「あ、ああ、すまん」

「わ、わたしはね、孝徳天皇の皇后なのよ。中大兄は実のお兄ちゃんだし、あなたたちが考えているようなことは、いっさい無いんだからね!」

「え、あ、そうだよね(^_^;)」

「そりやぁ、お兄ちゃんはずいぶん心配してくれたし面倒も見てくれたわよ。叔父さんと結婚する時も……」

「叔父と結婚したのか( ゚Д゚)!?」

「そんなの普通ヨ!」

「あ、ネルは黙ってて、話は最後まで聞こうよ」

「すまん」

「叔父さんはね、わたしを皇后に迎えるにあたって都を難波の宮に移してくれて、分かる難波の宮? 近鉄もJRも無い時代に生駒山の向こう側に都を移したのよ。大兄のお兄さんも察してくれたし、分かってくれたし!」

「そ、そうなんだ」

「すまん、そうなんだな。いや、わたしの両親も周囲に喜んでもらえない結婚をしたんでな、つい自分と重ねてしまって」

「ちょ、なにを聞いてるの、わたしはね、そんなんじゃないんだから! お兄ちゃんはあくまでもお兄ちゃんで! 叔父さんはわたしの夫で! だから皇后で、ぜんぜん、全くノープロブレムでぇ(゙◇゙) 」

 間人皇女は顔を真っ赤にし、唇を震わせ、手をブンブン振って抗議する。

 しかし、言えば言うほど彼女の体から黒い煤のようなのが噴き出て、煤はあちこちで渦を巻いて、やがてつり上がった目と口の煤お化けになった!

「間人さん、しゃべっちゃダメよ!」

「え……えええ( ゚Д゚)!?」

「こいつは退治しなきゃ!」

 言うが早いか、ネルは杖を構えて煤に討ちかかっていった。わたしも敵わぬながらもミチビキ鉛筆を構えたよ!

「こ、これはわたしじゃない! わたしじゃないから! 知らないから!」

 グルンと回ったかと思うと、間人さんは竜巻のようになって草原の向こうに行ってしまった。

「やくも、こっちのは来るぞ!」

 煤お化けが一斉にかかって来て、ネルとわたしも負けじとお化けどもに討ちかかっていった!

 セイ! セイ! トリャー! ビシ! バシ! ズコ! 

 オリャー! トォ! キエーー!

 ドゲシ! ズコン! バキ! グチャ!

 ズガガガ! ピュイーーン! ズキューーン!

 ボキャ貧で、掛け声と擬音でしか表現できないけど、ネルと二人で煤お化けたちをブチノメシていく!

 入学以来あちこちで戦ってきたので、わりとカッコよく片づけられているような気がするよ。

 ネルは杖で打撃を加えるだけじゃなくて、「嵐の一撃!」とか「稲妻の閃光!」とか短い詠唱も加えて魔法でも煤お化けどもを退治していく!

 ズビッシュ!

 二人で左右同時に突きかかって最後の一匹を成敗!

 ハーハー ゼーゼー

 野原の真ん中で盛大に息をつく。

 こないだ退治した食わせものや、義手義足のお化けよりも厳しかったかもしれないよ。

 二三分ネルといしょにゼーゼー言って気が付いた……御息所が額田王からもらった花ごとポケットから消えている。

「あれ、どこに行っちゃたんだろ? 落したのかなあ!?」

「あ、頭の上!」

「ええ?」

 ゴチン

 見上げたとたんに御息所が落ちてきてオデコに当ってから膝の上に乗った。

「ごめん、こっちもちょっと大変だった」

「もう、どこに行ってたのよ!」

「間人も我を忘れてトチ狂ってたから、ちょっと意見してきた」

「意見だけぇ? ちょっと手を見せて」

「な、なにをする!」

 御息所の目は、ちょっと血走ってるし、開かせた手は真っ赤だし。

「ちょっと、乱暴にしたんじゃないのぉ?」

「少しはね……なによ、ブチギレた女を諌めるのよ、多少のことはあるわよ(-_-;)」

 御息所は正しくは六条の御息所だ。源氏物語じゃ生霊になっていっぱい人を殺して茨木童子の腕に封印された鬼だよ。

「気が付いたら、あいつの首を絞めてたんだけどね……」

「やっぱり」

「でもね、額田王がくれた花がパッと散ると、わらわも間人も冷静になって、少し話ができたのよ」

 膝の上でそっくり返っていたのが、しおらしく立膝に座って話を続ける。

「孝徳天皇は間人皇女を皇后にしたけど、指一本触れなかったらしい……」

「え、それって……」

「真人を皇后にしてしまえば、さすがの中大兄も手が出せない。天皇の皇子の有間皇子は小足姫(おたらしひめ)の子だしね。叔父さんが不肖の甥と姪の尻ぬぐいをしたというところじゃないかしら……もうくたびれた、すこし眠るぞよ……」

 ポケットに潜り込み、今度はミチビキ鉛筆を支えにして寝てしまった。

「やっぱり、望まれぬ結婚というのは、いろいろ禍根を残すんだなぁ……」

「そうだね、でも、事情はいろいろだし、悪いことだらけというわけでもないと思うわよ」

「そうか、あたしのルームメイトは優しいなあ(^・^)」

「あれ、ネル、ちょっと影が薄くなってきてない?」

「あ……どうやら交代の時間みたいだな」

「うん、ありがとう、キーストーンは必ず取り返してくるからね」

「ごめん、最後まで付き合えなくて、また順番が回ってきたらがんば……」

 最後までは言えずにネルは消えてしまって、野原を名残りの風が吹いていったよ……。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)107・リスペクトの気持ち

2024-08-01 07:14:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
107・リスペクトの気持ち  




 リスペクトの気持ちはあるんや。


 なんちゅうても惣堀高校演劇部は看板だけで、放課後の居場所が欲しいという動機だけでつるんでる。

 もともとは俺一人だけで普通教室の半分もある部室を占拠してて、それが生徒会に睨まれて――生徒会規約どおりの部員数がなければ存続を認めない――と言われて、必死こいて集めた。

 実態は、放課後のスクールライフを優雅に過ごすためのサロン。

 せやけど、看板に演劇部を名乗って連盟に加盟している限り、コンクールの受付ぐらいはやらんとあかん。よその演劇部はちゃんとやってんねんやろからな。

 演劇部としての実態が無いことが、逆に高校演劇へのリスペクトの気持ちになってる。


「あ、全員で来られたんですか(^_^;)」


 一時間前に着いた俺らは、どこに行っていいか分からへんかったんで、そろいのジャージで走り回ってる真田山の生徒を掴まえて聞いた「どないしたらええんでしょ?」

「あ、あわわわわ、椅子の数増やしますね(;'∀')」

 ジャージはすっ飛んで行って、お仲間とパイプ椅子を両手に抱えて戻って来た。

「えと、これで人数分はあると思います」

 受付には七脚のパイプ椅子が並んだ。

「あ、わたし車いすだから要りません」

 千歳が生真面目に返答。

「あ、え、でも出してしもたから」

「そ、そですか」


 ゼミテーブル一個だけの受付に六人(引率の朝倉先生込み)は多い。


 どうやら受付というのは二人も居たら間に合うようで、開始直前になっても手持無沙汰この上ない。

「まだ二十人だよ」

「パンフは三冊売れただけだ」

 千歳と須磨先輩が何べんも来客数をカウントする。この二人が本来生真面目なのがよく分かる、観客が少ないのを自分たちのせいみたいに感じている風情がある。

「ハー、なんかギャップだわね」

「ギャップて?」

「だって、ホールも学校もすごくいい設備じゃない、打ち合わせの時も人数多かったし。その雰囲気と、受付通った人の数がね……」

 なるほど同感。

 ミッキーが耳打ちしてミリーがスマホをいじりだした。

「なにしてんねん?」

「連盟のサイトをね……えと……難波高等学校演劇連盟でよかったわよね?」

「え、あ、たぶん」

「おかしいわね……」

「なにがですか?」

 千歳が車いすを寄せ、それが合図だったようにみんなの首がミリーのスマホに集まった。

「コンクールの予告とかプログラムとか地図案内とか……なんにもないのよ」

「えー、うそ?」

 朝倉先生まで乗り出した。先生は引率責任者としての義務感で来てる。

 その義務感からすると、コンクールは貴重な休日を潰されることに相応しいイベントでなければ「ぶっ殺すぞ!」と言いだしそうな気迫がある。

「なんにも出てませんね」

「ちょ、貸して! あ、自分の使えば……」

 先生は自分のスマホで検索し始めた。

「東京なんかは詳しく出てるよ~」

 悔しさがにじみ出ているけど、この人は休日を潰された事のショックや。ま、分かりやすいけど(^_^;)。

「打ち合わせの最後にさ、役員の先生が言ってたじゃん『開会式には必ず全校出てください』って」

 そう言えば言ってた。

「あれって、コンクールの大切さってか、参加する心構え的に言ってるんだと思ったけどさ……」

「参加校だけでも揃わなきゃ観客席が寂しすぎるってことじゃね?」

「あ、まあ……」

 それ以上は本番前の受付で喋るのははばかられ口をつぐんだ。

 ブ~~~~~

 そして開会のブザー、ホールのドアを閉めようとすると、開会の挨拶を始めた役員の先生の声がした。

 その挨拶も終わったのか、ドアが静かに開くと七人が出て行った。プログラム一番の北浜高校や。

「……てことは」

「観客席は……」

 十三人という言葉を呑み込んだ。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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銀河太平記・237『テムジン・1』

2024-07-31 11:25:30 | 小説4
・237

『テムジン・1』孫大人 




 北京秋天を思うと、それよりも壮絶な、いわば北京蒼天とでも言うべき壮絶な青空が見えてきたアル。

 北京の半分、奉天の四半分ほどしか水蒸気を感じさせない空は、まるで仰ぎ見る者を染めてしまいそうなほどに蒼いアル。

 緩い坂道を上っているので、このまま筋斗雲を進めていくと、そのまま空に上ってしまいそうな気持するアル。

「いっそ、空を飛ぶ? 短時間ならステルスレベルマックスにできるけど」

 気持ちを察した春鈴が気を効かすアル。

「このままがいいアル、飛んだら空に呑み込まれそうアル」

「惜しいわねぇ、小さな雲が一つだけ残ってる」

「惜しいか……かえって空の蒼さを荘厳(しょうごん)してる思うアルよ」

「荘厳ねえ……なんだか、そのまま解脱とかして新興宗教でも開きそうね」

 宗教開いて世界が救われるなら、それもアリ思うアルよ。

 しかし、この蒼天の下では間もなく満州戦争並みの戦闘が行われるアル。

 ここいらは昔からの変わらぬ遊牧やってるアル。今ごろは羊たちも避難させ、人間もゲルを畳んで避難準備の真っ最中思たアル。

 
 峠を越えると、蒼天のぼっち雲を映したように白いゲルが残ってるアル。ゲルの傍らにはポールが立っていてデザインされた狼の旗。

 
 テムジン!?


 児玉元帥以上に古い友人の名前思い出したアル!

「ちょ、なにすんのよ!」

 手を伸ばして筋斗雲の緊急停止を押したアル。

「テムジンは、こういうの嫌うアル。ここからは歩くアル」

「テムジン……知り合いなの? まだ一キロはありそうだけど?」

「ああ、老婆婆(ラオパアパア)の髪がまだ真っ黒だったころからの付き合いアル」

「あたしは?」

「ああ……ついて来てくれ。どのみち紹介しなくちゃならない、いっぺんに済ますいいアル」

「テムジンて本名? 古い鍛冶屋でなければモンゴルの古い英雄の名前だと思うんだけど」

「世襲名アル、父親死ぬとテムジンの名を受け継ぐアル」

「ちょっとぉ……すごい殺気なんだけどぉ」

「だいじょうぶ、ほんとうに殺そう思う、殺気ないアル」

「そう……言われてなきゃ、ソッコー首の骨へし折りに行ってるところよ」

「春鈴、物騒アル」

「え……向こうの方から近づいてきた」

「どうやら敵ではないと認識したアル」

 ゴヘーーイ!

 テムジーン!

 儂もテムジンも同時に駆けだして草原の真ん中で、ガシっとぶつかるようにしてハグし合った。

 同時に、どこでどう隠れていたのか、50騎余りの騎兵が湧いて出て、儂とテムジンを取り巻いたアル。

 春鈴も10騎ほどに取り巻かれている。そいつらはみんな弓に矢をつがえて春鈴に狙いを定めていたアルよ(^_^;)。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)106・再びの真田山高校

2024-07-31 07:29:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
106・再びの真田山高校  






 今日は『夕鶴』の稽古が無い。


 明後日から始まる第六地区のコンクール予選、その打ち合わせがあるので、部員全員で会場の真田山高校に向かう。

 地区総会に来たのは暑い盛りの七月だった。

 車いすというのは姿勢が低い。

 座っているんだから当たり前なんだけど、頭の位置は地上から一メートルも無くて、幼稚園児が歩いている頭の高さぐらいしかない。

 わずか四五十センチの違いなんだけど、アスファルトの照り返しが尋常じゃなく、健常者よりもうんと暑い。

 背もたれやシートが邪魔で、すっごい熱がこもるんだよ。背中もお尻も汗びちゃになった。


 それが懐かしく思えるくらいに、今日は寒い!


 健常者は歩いているから、ホコホコと温かい。

 でも、わたしって座りっぱなしだから歩行によって温まるということが無いので本当に寒い!

 寒いとトイレが近くなるので、昼ご飯のあと水分を摂っていない。

 内緒だけど五分丈のスパッツを穿いている。うっかりすると見えてしまうので、今日のわたしは大変お行儀がいい。

「ホットのお茶あるけど、少しだけ飲む?」

 介助をしてくれているミリー先輩が保温水筒を差し出してくれる。

「あ、かわいい」

 水筒はトトロの形をしていて、首を外すとコップになる。

「はい、どうぞ」

 トトロの形をしていなかったら、しなくていい遠慮をしてしまっただろう。

「かわいい」と反応することで先輩は「でしょ」とお茶を注いでくれる。普通の水筒だったら「あ、いいです」と返してしまう。

 元々の性格なのか、小六で車いすになってからかは分からないけど、人が勧めてくれたことには一歩引いてしまう臆病なところがある。

 むろん、こんな体なので、いざという時には見ず知らずの人にもお願いしたり頼りにしたりしなくちゃならないので、差し迫った時でなければ、つい遠慮してしまうのだ。

 ミリー先輩は、ついこないだまでは車いすだった。

 捻挫をこじらせての短期間だったけど、いっしょにゴロゴロと車いすを転がして、ずいぶん距離が縮まった。

 七月は、須磨先輩が解除してくれていたけど、今日の須磨先輩は自然な流れで付き添いの朝倉先生と喋りながら、わたしたちの最後尾を歩いている。その声が聞こえてくるんだけど、なんだか友だち同士みたいなノリだ。噂では、二人は同級生同士だったらしいんだけど、どうなんだろ?


 真田山の会議室。


 みんな「こんにちわ!」と明るく挨拶してくれる。こちらも「こんにちわ!」と返すんだけど、七月の時のようにキャーキャー言われることは無い。

 七月は部室棟のことで演劇部は有名になった。SNSだけじゃなくテレビのニュースなんかにも出たので、なんだかアイドルの握手会みたくなってしまった。

 まあ、一種のノリだったんだろうなと納得。

 でも、ミッキーは新顔のアメリカ人、でもって、演劇部というのはどこの学校も女ばっかなので、チラチラとチラ見されている。

「『日本の学校って、みんなきれいだね……校舎も生徒も』って言ってる」

 ミッキーの独り言をミリー先輩が同時通訳。

「how about SOUHORI?」

 惣堀高校はどうよ? とミリー先輩が聞き返す。この程度の英語は分かる。

「オフコース!」

 分かりやすいカタカナ英語で答えるミッキー。日本語はまだまだだけど、分かりやすい言葉で意思を伝えようとするのはグッドだと思う。

 こないだA新聞の取材で、舞台で稽古の一部を披露するのに舞台に上がるのに間近にいたミッキーがピクリと動いた。
 瞬間で分かったよ、わたしを介助してくれようとしたんだけど――これは啓介先輩の役目――だと思ったんだ。

 啓介先輩だって、成り行きで一回やってくれただけだから、特別な気持ちとかがあってのことじゃないんだよ。あんまり気を回されるのは好きじゃないけど、こういう思いやりは悪くないと思う(^_^;)。


 会議の終わりに受付業務の説明を受ける。


 惣堀は出場はしないけど、受付の仕事をすることになっている。

「これをPRして売って欲しいねん」

 役員校の先生が、ドサリと紙包みを置いた。

 中身は週刊誌大の立派なパンフレットだった。ざっと百部ほど、これを五百円で売る。売り上げはコンクールの運営費用の一部にあてられるそうだ。

 バカにできない売り上げになるそうで、頑張らなくっちゃと思った。

「で、空堀高校の部員は何人?」

「五人です」

「じゃ五冊、どうぞ。代金は今日でなくてもいいけど2500円ね」

 え、わたしたちからも取るの?

「連盟も金ないさかいなあ」

 啓介先輩が忖度すると朝倉先生が茶封筒からお金を出して払う。パンフのことは分かってたんだね。あらかじめ用意していたんだ。

「どうもすみません(^_^;)」

 お礼を言いながら領収書をくれる役員校。

 あとでググってみると、大阪の倍以上の加盟校のある東京以外は苦しいみたい。
 
 会議というか打合せの内容は一年のわたしには難しいのでニコニコ座っているだけ。まあ、空気に馴染んでおくのも大事だからね。

 て……あれ、演劇部は学校辞めるための方便だたんだけどね。

 演劇部に潰れる気配はない。

 え、あ、いやいや、いいんだけどね(#^_^#)。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)105・ただちに体育館集合 敷島

2024-07-30 07:10:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
105・ただちに体育館集合 敷島 





 ――ただちに体育館集合 敷島――


 敷島?…………あ、ああ。

 一瞬誰だか分からなかったけど、敷島というのは八重桜のリアルネームだと思い至る。

 そうか、四時間目が終了した時――機器点検のため一時まで校内放送はできません――と放送があった。

 ようは放課後の部活も待ちきれずに八重桜がメールで演劇部全員を体育館に集めたということだ。いったいなんだ?

 ちょっと物憂い。

 教師の突然の思い付きというのはろくなことが無いことは八年の高校生活で身に染みているからね。

 体育館に行ってみると、演劇部の他に生徒会執行部と、文化祭で『夕鶴』のアシスタントをしてくれるボランティアの面々が集まっていた。

「何事(;¬¬)?」

 うっかり素の自分で聞いてしまった。

 演劇部と執行部の瀬戸内を除いて目線を避けられる。

 登下校は素の自分を出さないように心掛けているけど、校内では気を付けていないとこうなる。

 なんたって二十四歳の三年生。あたりまえの三年生よりも六歳も年上。自分では意識してないけど面構えも目つきも尋常ではない……らしい。

「どうもマスコミの取材があるらしいわよ」

 美晴が自然体で答えてくれる。

 演劇部に答えさせたら、なんだか演劇部自身がわたし色に見えてしまうし、生徒会の会長なんかにオズオズ答えられたら、わたしはもう惣堀高校に巣くう化け物のように思われてしまう。

 そのへんの機微を心得ているのか、美晴の自然な言い方は垣根を低くしてくれた。


 先生来ましたよーー!


 体育館のギャラリーから声がする。

 どうやらギャラリーの窓から本館を見張る斥候を出していたようだ。

 パタパタパタと斥候が下りてきて、男子の何人かが外出しのシャツをズボンの中にしまい込む。ふだんだらしのない子たちなんで、かえって取って付けたみたいだ。

「ほら、シャツがよれてる。あーー分かんないかなあ、こうだよ!」

 一瞬でベルトを外してズボンをくつろげ、きちんとシャツを収めてやる。

「え、あ、先輩(#´ω`#)」

「ナヨってすんじゃないわよ」

「そ、そやかて(#´0`#)」

「あーーーそういうのヤメ! それから、わたしのこと先輩なんて呼んじゃダメ!」

 ダメ押しして、登下校モードに切り替える。


 なんとかカッコが付いたところでA新聞と思しきクルーを従えて八重桜がやってきた。


「やあみんな、A新聞の人たちが、今度の『夕鶴』の取り組みの取材に見えたわよ。硬くならずに自然にね」

 演劇部はほどよいよそ行きの、ほかは、ま、それなりの表情。

「A新聞文化部の望月です、すてきな取り組みだそうで、お話を伺いにきました」

 そのまんまリベラル政党のマスコットになれそうな女性記者が選挙ポスターのような笑みを振りまく。

「あ、そちらのお二人が交換留学生でキャストをやられる……」

 ビジュアル的に目立つミッキーとミリーのインタビューから始める。

 こういうときのアメリカ人というのはプレゼンテーション能力が高い。

 二人とも日本人の倍ほど表情筋を動かして、すばらしい機会に恵まれたことを英語と日本語で喋りまくった。

「お芝居も楽しみですけど、楽しそうにプレゼンするのは見ていても気持ちいいですね」

「ハハ、アメリカは多民の国ですから、しっかり表現しないと伝わらないからです。気持ちはほかのメンバーもいっしょですよ」

 さすがミリーはソツがない。

「ヤー、イッツ、アメイジング!」

 ミッキーは厚切りジェイソンを彷彿とさせる圧のある笑顔。

 それから、話題は千歳に及んだ。やっぱ、脚の不自由な千歳は広告塔になるようだ。ほんとうは、そういう注目のされ方は嫌なんだろうけど、もともと性格のいい千歳は少し恥じらいながら、でもニコニコと応える。

「ほー、じゃ、このステージだといろいろ大変なんですね」

「ええ、そうなんです」


 八重桜の指示で、一昨日のステージを再現する。


 千歳は啓介のお姫様ダッコで舞台に上がり、鬼ごっこでは新しく調達した木製の車いす。

「ほかにもあるんですよ」

 八重桜は舞台の照明と音響についてもひとくさり。

「前からの灯りが乏しいので表情が出ません、音響は(パンと手を打った)こういう具合に音が吸い込まれたり拡散してしまう構造なので、ピンマイクが無いと後ろ三分の二は届きません」

「なるほど……」

「かくも、教育の現場では視聴覚教育の、それこそメインステージの整備は遅れているんです」

 なるほど、わたしらの『夕鶴』のPRよりも、ハコものである施設の不備を訴えたかったのかと、ちょっと感心した。

 千歳の車いすといい、新聞社の取材といい、着実に準備が整っていく。

 フフフ……

 ちょっと癪だけども、この松井須磨、高校八年目にして少し時めいているのかもしれない。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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せやさかい 番外・002『相野先輩と海老のシッポ』

2024-07-29 10:54:41 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
002『相野先輩と海老のシッポ』さくら 




 秋アニメのアフレコの後、ラジオの生放送まで時間があったんで放送局の社食で早めの晩ご飯(遅めの昼ご飯とも言える(^_^;))をいただく。

 ちかごろは、テレビもラジオも斜陽産業やけども、放送局の食堂はけっこう繁盛してる。ぜんぶで100人は入れるというフロアーは八分の入り。
 教室が八分の入りやったら「今日は欠席が多いなあ」やけども、食堂は四人掛けに二人とか三人とかで座って、入り口には順番待ちの人らも並んでて、満席の印象。

「やっぱ……不景気なんだねえ」

 ご一緒してくれてはる相野千春さんが声を潜めて言う。相野さんは去年の春アニメ『やくも あやかし物語』でブレイクしたベテラン声優さん。なんでか気が合って、仕事の合間なんかにご飯とかごいっしょしてくれはる。

「そうですかぁ、けっこう入ってるように思いますけど」

「景気がよかったら外に食べに行ってるわよ……って、わたしたちも社食だけどね」

「う~ん、東京の人てぇ……雰囲気大事にしはりますよね」

「うん、見栄っ張り。ここの社食だってけっこう美味しいのにねえ」

 そう言いながらエビフライのシッポを口に放り込む相野さん。口の中でポリポリっと小気味のええ音がする。ウチも海老のシッポをポリポリ。

 相野さんと仲良くなったのは、声優仲間でご飯食べに行って、二人とも海老のシッポを食べるのが分かった時やしねえ。

「やっぱり、開会式の噂してる人が多いねえ……」

「あ、ああ……」

 ちょっと恥ずかしい……開会式をライブで観てて、ウチは感心ばっかりしてた。オリンピック旗が逆さに掲揚されたのはさすがに笑ったけど、ウチ的には「ポカやりよった!」と笑っておしまい。

 合間のパフォーマンスもお祖父ちゃんが言うてたアバンギャルドとかいう前衛芸術やと思て感心してた。

 真ん中にデブのネエチャンが居って、その両側に変なコスとメイクの人らが並んでフニャフニャしてるのは、わけも分からんとアバンギャルドォ!と感心してた。
 せやけど、あれはキリスト教の『最後の晩餐』をパロったものやと聞いてびっくりした。

 うちの家業的に言うと『阿弥陀来迎図』を茶化すようなもんで「そらアカンやろ!」という性格のもんや。

「国の名前を間違ってアナウンスしちゃうし、ほら、あのセーヌ川を馬に乗ってぇ……」

「ああ、ジャンヌダルクかFateのセイバーかっちゅう」

「あれは、オリンピックの旗を持ってなきゃ黒死病を運んでくる悪魔の姿」

「え、そうなんですか!?」

「うん、モノクロ的な演出だったし、フードで頭を隠してたでしょ。あれで大きな鎌とか持ってたら、そのものなんじゃないかなあ、ゴヤの黒い絵とか思い出す」

「は、はあ(^_^;)」

「トドメはマリーアントワネットの生首ね」

「え?」

「え、観てたんでしょ? 」

「アハハハハ(^_^;)」

「あそこさコンシエルジュリー って云って、リアルにマリー・アントワネットが幽閉されてた館だしね、ちょっとシャレにならないよ」

 ああ、たしかに見たけど、あそこは留美ちゃんといっしょにおばちゃんのパンの仕込手伝いながらやったから、なんやヘビメタがすごいなあて思ってた。坊主三人は喜んでたしぃ……。

「こんどのハローウィンじゃ真似するのが出てくるだろうねえ」

 あの晩、夢にマリーアントワネットが現われてダミアを連れて行った。

 そもそも、五年前子猫のダミアを拾った時にパリオリンピックの年に迎えに来ると夢の中で言うてたし……マリーアントワネットには分かってたんかも。

「せやけど、相野さん、よう知ってはりますねえ」

「アハハ、さくらがオムツしてたころから声優やってるからね」

 やっぱりこの業界を生き抜いてる人はちゃうと感心した。


 仕事を終えて家に帰ると、阿弥陀さんの前に新しい小さな骨壺。

 ウチのすぐ後に帰ってきた留美ちゃんといっしょに静かに手を合わせた。

 
 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)104・八重桜の教育的手腕・2

2024-07-29 06:52:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
104・八重桜の教育的手腕・2 




 アイデアはよかった。

 ミリー先輩とミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。ちょっと工夫して三輪車のハンドルの前に子どもの上半身のイラストを付けてある。それを大の高校生がチマチマチョコチョコと漕ぐものだから、ちょっと可愛い(^_^;)

 うん、ちゃんと子どもに見えてる!

「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」

 八重桜先生の指示でミリー先輩を真ん中にカゴメカゴメを始める。

 かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^


 あ、いい、これいい!


 みんな、そんな感じ。

 面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。

 最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。

 でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。

「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、動きもチマチマしてて、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ(^▽^)/」

 先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。

「じゃ、沢村さん入ってみようか」

「え、わたしですか!?」

「あれなら、混ざれるでしょ」

「あ、え……」

「千歳、やってみようや!」

「キャ!」

 啓介先輩がいきなりお姫様ダッコで舞台に上げてくれる。

「ディズニーアニメ、コンナシーンアッタネ!」

 車いすを舞台に上げながらミッキーが片言の日本語で、そんなつもりはないんだろうけど冷やかして、みんなが笑う(#^_^#)。

 でも、それからは簡単じゃなかった。

 さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。

 それでカゴメカゴメをやってみる……ちょっと怖い。

 車いすでミリーの周りをまわって、舞台の前に出るともうギリギリ。介添え無しでホームドアの付いていない駅のホームに居るみたい。

 府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。

 それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。

 中ほどにミリー先輩が居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。

 舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。

 でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。

「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」

 先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。

 わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。

「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」

 さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。

「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」

 先生は演説を始めた。

「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらい。体育館に講堂の機能を併せ持たせたつもりが、文化施設としての舞台機構の無理解、意識の低さが舞台を高く狭くして、ひどく使いづらいものにしてしまったのよ。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」

 パチパチパチパチパチパチ

 思わず拍手してしまった(^_^;)。

 最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。

 でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。

 わたしは八重桜先生をちょっとだけ見直した。


 迎えに来てくれたお姉ちゃんに話すと喜んでくれた。

「そっか、舞台はどうにもならないだろうけど、車いすを小型のに……」

 呟きながら松屋町(まっちゃまち)のおもちゃ屋さんの店先を偵察。

「おもちゃ屋さんに車いすは無いと思うよ、それに、運転中……キャ!」

 急停車したお店には木製の三輪車。

「あれだ!」

「三輪車は乗れないよ」

「コンセプトよコンセプト、この線でググったら…………あった!」

 それはタイヤ以外は全部木製という車いすで、タイヤも二回りも小さい室内用で、これなら狭い舞台でもいけるかもしれない!

 行動派のお姉ちゃんは、五分ほどでレンタルを決めてしまった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・115『妖退治・1 まずは説明』

2024-07-28 09:50:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
115『妖退治・1 まずは説明』   




 会社でいうと社長と課長ぐらいの差と一級呪物『言いくるめ絣』の着物のために、安倍晴天に言われるまま、建設途上の大阪万国博の会場に来ている。

 冷静になったら――無理に決まってる!――という気持ちしかないよ。

 わたしの魔法って、雨の日に薄い妖気の幕を張って濡れなくするとか、せいぜい壁一つ向こうの様子が探れる程度。バイトの結婚式場でやったら、とたんに巫女に化けていたスセリヒメにバレてしまったしね。

 もし、新幹線とか飛行機で大阪に行くんだったら、どこかで魔法が解けて隙を見て逃げ出したと思う。

 だけど、安倍晴天は名前の通り明るい性格で落ち込む隙を与えないし、うちの家から万博の建設現場まで一瞬で飛んでしまったしね。


「で、なにをすればいいんですか?」


 建設中の大屋根の上でボヤく。ちなみに、わたしの姿は晴天さんの魔法で人には見えないようになってるらしい。

「ここに居るだけでいいよ(^_^;)」

「え……」

 言葉にならなかったのは――このクソ暑い大屋根の上に居続けたら絶対熱中症で死んでしまう!――という絶望と――そんなことでいいのか!?――という呆れるほどの簡単さ。

「グッチは耐水魔法が使えるでしょ」

「雨に濡れない程度には」

「それを少しグレードアップ。ちちんぷ~いぷい(^▽^)」

「え、これって……あ、涼しくなってきた!」

「お昼ご飯とかは式神に持って来させるから、なにか足りないものや要望があったら言ってくれるといいよ」

「あの」

「うん?」

「どうして、ここに居るだけでいいんですか?」

「グッチ自身が結界になるからさ」

「わたしが結界!?」

「うん、時間がないから詳しい説明は後にする。とにかく夕方までは、この大屋根の上に居て。退屈したら大屋根の上を散歩するといい。一周2.2キロもあるからね、ゆっくり歩けば一時間は楽しめる。じゃあね」

 そう言うと晴天は大きくジャンプした。

 姿は地上に着くまでに消えてしまったけど、着地したあたりの空間が歪んだ。

 たぶん、待ち受けていた妖をやっつけたんだ。

 歪は建設現場のあちこちに移って、歪んでは消え、消えては、また別のところに歪みが現れる。

 いくつかの歪みは大屋根の際まで逃げてくるんだけど、結界に阻まれて弾かれていく。弾かれる瞬間に「チェ!」とか「クソ!」とかの声が聞こえる。ちょっとうるさいなあと思ったら聞こえなくなる。どうやらボリューム調整もできるみたいだ。

 まあ、これなら、なんとかやれるか。

 去年は昭和の万博、今年は令和の万博。

 令和は建設途中の妖退治だけど、これで間に合うなら、まあいいかと思う。

「でも、これってバイト料とか出るのかなあ……」

 呑気なことを思いながら、とりあえず大屋根を一周してみようかと歩き出す。

 もう少し涼しくしたいなあと思ったら目の前に26度と出て、すぐに24度に変わった。

 この魔法、この仕事が終わっても使えるといいのにと思った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)103・八重桜の教育的手腕・1

2024-07-28 07:03:52 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
103・八重桜の教育的手腕・1 





 無い知恵を絞った。


『夕鶴』の登場人物は以下の通りや。


 与ひょう(傷ついた鶴を助けてやるお百姓) 
 つう(与ひょうに助けられた鶴の化身)
 そうど(与ひょうをそそのかし、つうに千羽織を織らせる) 
 うんず(そうどの仲間の小悪党)
 こどもたち


 字面で見ると、こどもたちというのはモブキャラで、ほんの添え物。


 せやから、どうとでもなると軽く考える。


 軽く考えて、そこいらの知り合いに声をかけて本番だけ舞台に立ってもらおうと思った。

 ところが八重桜に言われて1/20の舞台図を書いて1/20の役者を配置してみると……暑苦しい。

 与ひょうやつうと変わらん体格の子どもたちが四人も五人も舞台に出ると、もう、なんちゅうか言葉が無い。

 俺のソウルフードである冷やし中華に例えると、主役である中華麺よりもゆで卵とかキュウリとかが幅を利かせてる感じ。

 冷やし中華の上に、まるまる一個のゆで卵とキュウリ、トマトも焼き豚もマルッポ入ってたら……これは完全にアウト。


 う~ん(-_-;)


 演劇部に入って、こんなに芝居の事を考えたことは無い。

 う~~ん(-_-;)
 
 長年歩いた通学路、目をつぶってても歩ける道やのに、事故に遭いかけた。

 わっ( ゚Д゚)!!

 目の前に三輪車に乗ったガキが横の道から飛び出してきよった。

「ビックリするやろがー!」

 怒ると、三人のガキはケタケタ笑いながら行ってしまいよった。

 三輪車やと背丈が半分になってしもて、とっさには視野に入れへんのや。

 まあ、近所のガキなんで怒っても効き目は薄い。追いかけてカマシたろとも思たけど、その時思いついた。


 せや、三輪車や!


 子ども役を三輪車で登場させたら背丈は半分、ペダル漕いで動くから、小回りきくしチマチマとした動きは子どもらしいやんけ!

 それに千歳も出せるんちゃうやろか?

 車いすの方が三輪車よりもかさ高いけど、ちょっと大きめのオネエチャンいう感じでええことないやろか!?


「先生、アイデアです!」


 あくる日、さっそく八重桜に提案した。

 ちなみに、八重桜の事を――先生――と呼ぶのは、めっちゃ久しぶり。いつもは――あのう――で済ましてる。

「うん、それはいいアイデアね」

 まず誉めてくれた。八重桜でも褒められると嬉しいもんや。でも、これは教師としての教育的配慮やった。

「ダンス部が小道具の三輪車持ってるから、ちょっと借りてためしてみよう」

 演劇部一同で三輪車三台を持って体育館の舞台を目指した……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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せやさかい 番外・001 『パリオリンピックの朝』

2024-07-27 12:34:10 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
001『パリオリンピックの朝』さくら   





「船乗り込みとは粋やなあ(^▢^)」


 おとつい入れたばっかりの入れ歯を宣伝するみたいに大口開けて感激するお祖父ちゃん。

 おっちゃんも急な仮通夜から戻って来て衣のまんま、ビール飲みながら中継を観てる。

 テイ兄ちゃんは、半パンにTシャツで『副住職』いう名札でも掛けてんと僧侶には見えへんナリとアホ面で、とうに空になったグラス持って画面にくぎ付け。

 おばちゃんはヒラリに納めるパンの仕込のために、キッチンから時おり顔を出してはリビングのテレビを観てる。

 留美ちゃんはウチと並んで床に座って画面に食いつき、うちらがさっきまで座ってたソファーではブタネコのダミアが大あくびしとおる。油断してると、ウチの膝の上に載りたがるねんけど、重たいし暑いし『メ!』を十回ぐらいカマしてどかすことに成功。

おっちゃん:「加藤さんもオリンピック楽しみにしてはったなあ……」

 加藤さんは、おっちゃんが仮通夜務めてきた檀家さん。夕べ亡くならはって、急きょおっちゃんが仮通夜から骨上げまでお世話することになった。

テイ兄ちゃん:「船乗り込みてなにぃ?」

留美ちゃん:「プフ(* ´艸`)」

 周回遅れの質問に留美ちゃんが笑いをこらえる。

お祖父ちゃん:「子どもの頃に連れてってやったやろが、松竹座とかで歌舞伎興行の前に、役者さんやらが船で道頓堀を上って来る景気づけのイベントや」

テイ兄ちゃん:「ああ、帰りに食い倒れでお子様ランチ食べた、あれ?」

おっちゃん:「しかし、オリンピックの規模でやるとメチャクチャドラマチックやなあ……」

 たしかに、船乗り込みの後、陽が沈みかけると、一騎の騎士がオリンピックの旗をマントみたいにしてセーヌ川を駆けてきて、CGかと思たら、ロボットみたいで、それがそのままエッフェル塔のてっぺんに掲げられる!

留美ちゃん:「え、あの騎士、人だよ女の人!」

テイ兄ちゃん:「え!?」

 女の人いうだけで目の色変える生臭坊主。

 確かに陸に上がるとほんまの馬に乗り換えて(設定は、馬のまま陸に上がったことになってるみたい)各国の旗を従えて橋を渡ってエッフェル塔へ向かう姿はオルレアンのジャンヌダルクか!? Fateのセイバーか!?


 今日は久々に如来寺の全員が集まって(詩ちゃんはヤマセンブルグやけど)パリオリンピックの開会式を観てるんや。


 ウチも留美ちゃんも学校よりは声優と俳優の仕事がメインの生活になってる。

 学校に行けるのは週に三日ほど。それでも現住所は堺の如来寺。ちょっときついけど、新幹線やら飛行機を使って大阪と東京を行き来する毎日。

 こないだは、新幹線が一日止まってしもて、これだけで特別版の一本ぐらいの内容があるくらい。とにかく忙しい。

 ウチは、もう決めてるし、留美ちゃんも密かに決心してる。

 卒業したら、まだしばらくは声優、俳優の仕事を続けようと。

 来年の春アニメ『鳴かぬなら 信長転生記』の話が決まった。ウチが信長、留美ちゃんがお市。
 留美ちゃんは本業は俳優やけど、声優の仕事もやってる。貪欲というよりは謙虚な子ぉなんで、基本的に仕事のえり好みはせえへん。

 それに、ウチと留美ちゃんは姉妹みたいなもんやし、学校も住まいもいっしょやし、これは充実した稽古環境やと大人たちが考えたんやと思うけどね。

 あ、そうそう、先輩の百武真鈴さんが武田信玄の役で支えてくれはります。

 高校卒業と同時に始まる放送。ウチらも人生の区切やと思ってがんばります。


 明け方近くまで開会式を観て、床についたら夢を見た。


 夢の中にマリーアントワネットが現われて、ウチに、こんなことう言う。

マリー・アントワネット:「どうも5年間ありがとう」

さくら:「え、なんですかぁ?」

マリー・アントワネット:「わたしの猫に素敵な名前を付けてくださって、5年も世話をしてくださって」

さくら;「え、えと……ダミアのことですか?」

マリー・アントワネット:「はい、パリオリンピックでは迎えに行くと、あの子にも約束しましたからね。ほんとうにありがとう」

 思い出した……子猫のダミアを拾った時、マリー・アントワネットの夢を見たんや(084『前の廊下で話声がする』)!

さくら:「ええ、ちょっと待ってください、マリー・アントワネットぉ! ダミアぁ!」


 朝起きてみると、ダミアはベッドの下の定位置で冷たくなってた……。


 ゆうべ、ウチの膝の上に来たがったのを邪険に拒んだことが悔やまれる。

 
 おっちゃんもテイ兄ちゃんも檀家周り。お祖父ちゃんがお葬式をやってくれることになる。

 ウチも留美ちゃんも東京で仕事、帰りは週明けの火曜日。

 この暑い季節、いつまでも置いとかれへん。

 せやさかい、お祖父ちゃんが全てを引き受けてくれる。ダミアは二代目で、先代のダミアもお祖父ちゃんが見送ったらしい。

「そんなに泣きな、ダミアはお浄土に帰ったんや」

「う、うん……」

「それにな、ダミアは仏さんがさくらのこと心配して送ってきはったお使いやねんで」

「え?」

「ダミア……逆さに読んだらアミダやろが」

「あ…………」

 テイ兄ちゃんが言うたらシバイてたと思う。せやけど、お祖父ちゃんが言うと、なんや説得力がある。名付け親はお祖父ちゃんやし。

「さくらも留美ちゃんも、もう心配ない。そう思て阿弥陀さんはダミアをお迎えに来はった」

「けど、夢に出て来たんはマリー・アントワネットやねんけど」

「そらぁ、パリオリンピックやし」

「…………」

「うん、せやさかい、なんにも心配せんと仕事しに行き」

「う、うん」

「ほんなら、手ぇ合わせとこか」

「う、うん」

 ナマンダブナマンダブ ナマンダブ……

 留美ちゃんと二人、本堂に安置されたダミアに手を合わせて仕事に行く。

 迎えのタクシーに乗ろうと思たら、通りの向こうに世界遺産のごりょうさん(仁徳天皇陵)の緑が目に眩しい。

 
 せやさかい、時どきはウチと留美ちゃんと如来寺のお便りをしようかと思います。


 ほんなら、とりあえず蝉しぐれの堺から、酒井さくらでした。
 

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  




 

 

 
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