大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・077『M資金・11 第七艦隊・3』

2019-09-24 14:41:23 | 小説

魔法少女マヂカ・077  

 
『M資金・11 第七艦隊・3』語り手:マヂカ 

 

 

 ウォルト・ディズニーのことはギャグだと思っていた。

 

 霊雁島の第七艦隊司令部の司令官は、レーガン大統領だと思っていた。じっさい、最初に司令官室で着任の挨拶を受けたのはレーガン大統領だった。ところが、話をしている間にコロコロと姿が変わる。ハルゼーだったりニミッツだったりパットンだったり、もうワンフレーズごとに姿が変わるので、アメリカアニメの総帥でありアミューズメントの神さまもいるだろうという、アメリカ人らしい皮肉的ギャグをブリンダがかましたんだろうと思っていた。

 あくる日、ブリンダと二人そろって呼び出された司令官室にいたのは、その総帥であり神さまであるウォルト・ディズニーその人であった。足も長いしハンサムだし、日本アニメの巨匠たちと比べると、にこやかで数段カッコいい。

「やあ、昨日は失礼した。いろいろ変わったけど、正体は、この通りウォルト・ディズニーなんだ」 「ウォルトディズ...」の画像検索結果

 

 デスクにお尻をよっかからせ、気さくに話をするのは、伝説通りのウォルト・ディズニーその人だ。でも、給湯室でお茶の用意をしているミニーとディジーが吹きだしたのを、わたしもブリンダも気づいている。ミニーとデイジーは、お茶を持ってくる前に、トレーに載せた三人分のボウルを運んできた。

「うちの司令官、朝ごはんがまだだから、付き合ってくださいね」「司令官は、こればっかりで」

 そう言って給仕してくれたのは、一見ハヤシライスのルーのよう。

 数秒かかって思い出した。これはチリコンカンというごった煮で、ウォルト・ディズニーの大好物だ。大戦中、マンハッタン計画の偵察にネバダに行った時、何度か職員食堂で見かけたことがある。

「こいつは、打合せとかやりながら食べるのにはもってこいなんだ」

 現代の感覚なら、カップラーメン食べながら打合せする感じだろう。

「実は、いまや亜世界は異世界に通じ始めていてね、敵は、世界中の財宝や秘密資金を、そういうところに集め始めてる。君たちが追っているM資金も、そこにある」

 どうも敵はバルチック魔法少女隊だけではないという口ぶりだ。

「特務師団は自衛隊だから、専守防衛の枠を超える作戦には参加できないが、うちなら出来る。ブリンダと二人で挑んでもらいたんだ」

「少女二人にですか?」「怖いですウ」

「ハハハ、『魔法』を省略しちゃいけない。それに、少女なのは見かけだけだ。君らの力は一人で一個師団に匹敵するよ。海軍なら一個打撃軍だね。これを見てくれたまえ」

 ウォルト・ディズニーが目配せすると、ミニーがスクリーンを下ろし、ディジーがモニターのスイッチを入れた。

 カラカラカラとクラシックな音がして、スクリーンに10が映し出され、9、8、7、6、5……と、フイルムカウントが続く。撮影済みのラッシュのように始まった映像は、一発で『不思議の国のアリス』であると知れた。

 青いワンピースに真っ白なピナフォー。「待ってえ、うさぎさーん」と追いかけるアリスは足首が細い割にはぶっといふくらはぎのディズニーアリスだ。

 やがて、お約束の巣穴にウサギを追いかけて、グルグルと落ちていく。

 ここから、アリスの不思議の国が始まるのだが、ちょっと展開がちがった。

 アニメのように、スカートがパラシュートのようになってフワフワ落ちるのではなかった。

 

 キャーーーーー!!

 

 悲鳴を残して、真っ逆さまに落ちて行ったアリスの姿は闇の底に消えていき、数秒後、嫌な音がした。

 グシャ!

 穴の底のズームになり、無残にも血みどろになったアリスの死体が転がっているのが映し出された……。

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真夏ダイアリー・19『ラピスラズリのPSYCHOLO』

2019-09-24 07:28:25 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・19
『ラピスラズリのPSYCHOLO』     
 
――25日、テレビに出てもらえないかなあ……。
 
 とても申し訳なさそうだった。
 
 潤は腹違いの姉妹。で、潤が知らないうち……ってか、潤の存在そのものをこないだ潤に間違われて大騒ぎになるまで気づかなかったんだけど。 潤は売り出し中のアイドルグル-プのAKR47のホープ。行きつけの美容院の大谷チーフが、気づいていて、髪をカットしにいったときに、潤そっくりなヘアースタイルにされ、しばらくは間違われっぱなしだった。 
 潤本人や事務所の会長さんの約束で、もう、わたしは潤とのゴタゴタには巻き込まれないことになっている。  
 ところが、潤の電話の声には、そのゴタゴタに巻き込まれそうな(つまり、「申し訳ない!」って気持ちが滲み出ている)気配。わたしは半ば覚悟を決めて聞いた。
 「どういうことか、まず説明してくれる?」
 ――ダブルブッキングになっちゃって。タムリの『つないでイイトモ』と『AKRING』の収録が重なって……。
 「まさか、そのどっちかに出ろっての……!?」 
――申し訳ない。『イイトモ』の方に……。 
「わたしと潤は似てるってだけで、中味はぜんぜんちがうんだよ。潤てことで出たらサギになっちゃうよ」 
――あ、真夏は、真夏でいいの。特別ゲストってことで、真夏に出てもらって、後半わたしが入るから。ね、お願い、一回ポッキリだから。ね、一生のお願い!
 
 わたしは人生初めてのテレビ出演をすることになってしまった。
 
 迷子になっちゃいけないというので、スタッフの吉岡さんが迎えにきてくれることになった……てか、わたしの気が変わって逃げ出さないための見張りだと思う。 交換条件にクリスマスプレゼントを頼もうかと思ったけど、なんか人の弱みにつけ込んでいるようで、やめた。
 
 お昼ご飯食べてから、気分転換を兼ねて、渋谷に出てみた。
 
 300均の店を一軒検索しておいたのだ。定期プラスちょっとで行ける。 
 渋谷の駅に着いてみると、ちょっと変な気がした。駅の東側に行くつもりが、西側のハチ公前にでてしまった。なんだか、とってもハチ公に会ってみたい気になった。 
 ハチ公は、待ち合わせの人たちや観光客の人たちになで回されてツルツル。特に前足はピカピカ。
 
 わたしもナニゲにハチ公の足に触ってみた。
 
 すると、銅像のハチ公にはっきり犬の気配がして、思わずその顔を見てしまった。
 
 ハチ公の目に瞳はないが、そのとき、しっかりハチ公の視線を感じた。その視線をたどって振り返ると、ベンチの横に、路上販売のオジサンが、畳半分ぐらいの黒い敷物の上にいろいろと品物を並べている。 
 昔は、こういうヒッピーってのか、路上販売の人ってけっこういたみたいだけど、わたしとしては昔話の世界。
「ヘー……」って、近づいていった。今時珍しいのに、道行く人たちは関心がないようで通り過ぎていく。アクセサリーやアンティークな小物が多くあった。手作りのイミテーションなんだろうけど良くできている。
 
「三百円のクリスマスプレゼントだね」
 
 オジサンは、わたしの顔も見ないで、言い当てた。これが、人通りが少ない所だったら逃げ出していたかもしれない。しかし、そこは渋谷。それも東京でも指折りの名所のハチ公前。わたしは、あっさり返事した。 
「はい」
「じゃ、これがいいよ……」 
 オジサンは、足もとのトランクから、三センチほどの青いさいころを出した。
「珍しいさいころ」 
「ニュアンスが違う。PSYCHOLOと呼んで欲しい」  
 なんだか怪しげな発音でオジサンが言った。 
「きれいな青ですね」 
「そりゃ、ラピスラズリのPSYCHOLOだからね」 
「ほう……」
「心で、数字を念じて振ってごらん。運が良ければ、念じた通りの数字が出るから」  
 わたしは5を念じて振ってみた……5が出た。
「ほらね」 
 わたしは、さらに三回、違う数字を念じて振ってみた。三回とも念じた目が出た。
「ホホホ……今日は、PSYCHOLOの機嫌ががいいようだ」
「三百円でいいんですか?」 
「いいよ。ただし、キミの財布の中の五百円玉で、お釣りにさせてくれないか」
「え……あ、あった」 
 わたしは、古びた五百円玉を出した。
「これこれ。この五百円玉を探していたんだよ。昭和56年。どうもありがとう」 
「いいえ、古いので申し訳ないですね」 
「いや、お釣りも古いから」  
 もらったお釣りは昭和41年。たしかに古い……。
「ほんのたまにだけど、願い事を聞いてくれることがあるよ」 
「ほんと?」
 「ああ、試してみたら?」 
 
 一瞬頭に、なにかがよぎった……すると道玄坂のほうから、ガラガラとお腹に響く音がしてきた。
 
 四号戦車D型……それもハッチのあちこちが開いて、セーラー服の女子高生の姿が見えた……これは『ガールズ&パンツァー』の世界だ……!
 周りの人たちも、白昼現れた戦車に呆然。あちこちでスマホを構えている。わたしも急いでスマホを出して画面を覗くが、戦車は写っていない。アングルを間違えたのかと、目の前の戦車と画面を見比べる。でも写らない。スマホを構えた他の人たちも同じ様子。
 「ええ……?」 
 思っているうちに、戦車は走り去ってしまった。 
「ねえ、オジサン……」 
 オジサンの姿は、広げた店ごと無くなっていた……。
 家に帰って、さらに驚いた。百円玉は昭和42年からで、41年のデザインのものは存在しない。  
 五百円玉も、昭和57年からで、56年のそれは存在しない。 
「え……思い違いかなあ?」 
 で、もう一度百円玉を見ようとしたが、帰りの切符を買うのに使ったんだろうか、財布の中にはなかった……。
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宇宙戦艦三笠・10[テキサスジェーン・1]

2019-09-24 07:15:46 | 小説6
宇宙戦艦三笠・10
[テキサスジェーン・1] 


 
 三笠は、修一、樟葉、美奈穂、トシ四人の思い出をエネルギーに最初のワープを行った。

『最初のワープだから、1パーセク(3・26光年)にしておくわね。樟葉さん舵輪へ。トシ君はエンジンテレグラフの前へ』
 三笠と同体化したみかさんが促す。樟葉とトシが配置につき、修一と樟葉はシートについた。
「じゃ、修一君。あとはよろしく……」
 修一は一瞬たじろいだが、マニュアルが頭に入っているようで、直ぐに指示が口をついて出てきた。
「面舵3度……切れたところで、前進強速、ワープレベルへ」
「面舵3度、ヨーソロ……」
「前進強速……ワープ!」

 ブリッジから見える星々は、シャワーのように後方へ流れて行った。
 
「ワープ完了。冥王星から1パーセク」
「対空警戒。レベル10」
「レベル10……左舷12度、20万キロ方向にグリンヘルドの編隊多数……23万キロで戦闘中の艦あり!」
「どこの船だ!?」
「アメリカのテキサス。苦戦中の模様。モニターに出すわ」
 砲術長の美奈穂が、落ち着いて言った。

 テキサスは、ちょうど100年前に竣工したアメリカの現存戦艦の中では最古参だ。第一次大戦と第二次大戦の両方を現役として戦い、今はヒューストン・シップ・チャネルに合衆国特定歴史建造物に指定保存されている。三笠程ではないが、クラシックな艦体を旋回させながら、全砲門を開いて寄せくるグリンヘルドの編隊と獅子奮迅の激闘中である。
 
「何発か食らってる。あの大編隊の2次攻撃に晒されたら持たないかもしれない。グリンヘルド二次攻撃隊に三式光子弾攻撃。取り舵20。右舷で攻撃する!」

 三笠は20度左に旋回、右舷の全砲門をグリンヘルドの編隊に向けた。

「照準完了!」
「テーッ!」
 
 主砲と右舷の砲門が一斉に火を噴き、光速を超える光子弾が連続射撃された。30秒余りでグリンヘルドの編隊を壊滅させると、三笠はテキサスの救援に向かった。
「テキサスがいるから、光子弾は使えない。フェザーで対応、あたし一人じゃ手におえないから、みんなも意識を集中して!」
 美奈穂が叫んだ。実際グリンヘルドの編隊の一部は三笠にも攻撃を仕掛けようと首をもたげた。
 三笠の機能は、普段は、それぞれ持ち場が決まっていたが、危機的な局面では全員が、その部署に意識を集中させ効率を上げる仕組みになっている。光子弾は長距離攻撃には絶大な威力を発揮するが、その威力の大きさから、味方が傍にいる場合は使えない。三笠は30分余りをかけて、グリンヘルドの編隊を撃破した。
「各部被害報告!」
 修一の呼びかけに「被害なし」の声が返ってきた。
「テキサスは!?」
「中破。オートでダメージコントロールに入った模様」
「テキサスから、だれか来るわ……艦長よ。乗艦許可を求めてる」
「乗艦を許可する。みんな、迎えに行こう」

 最上甲板の舷側に、カウボーイ姿の少女が現れた。ブルネットのポニーテールをぶん回すと、ブリッジのみんなと目が合った。

「助けてくれて、ありがとう。あたしがテキサス・ジェーン。よろしく」

 生き生きとした、ジェーンの姿に、修一たちは好感を持った。

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音に聞く高師浜のあだ波は・3『ブルータスおまえもか!?』

2019-09-24 07:05:45 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・3
『ブルータスおまえもか!?』        


 あれってイジメじゃないの?

 西日に目を細めながら姫乃が呟くように言う。
 
 学校に居てる間は差し障りがあると思てたようで、校門を出てランニングに出てきた野球部の一団が追い越していくのを待って切り出してきた。ちなみに、すみれは弓道部の部活に行ったんで、あたしと姫乃の二人連れ。
「あれって……ああ、マッタイラ?」
 思いついてから迷った、あほぼんのマッタイラのことか、マッタイラがあたしに言うたことか、どっちか分からへんから。
「えと、両方」
 姫乃は感度がええようで、あたしの間ぁの空き方で察してくれたみたい。
「男は、ああやって遊んどおるねん。ジャンケンして恥ずかしいことを聞く役を決めて、あたしのリアクションを楽しもういう腹や、しょーもない奴らでしょ。ま、いきなりあんなん見たら、なんかイジメっぽいと思うかもしれへんけど、子どものころから続いてきたオチョケの一種やね」
「そうなんだ……転校してきてから何日もたってないけど、わたしには、みんな優しくしてくれるから、ちょっとビックリした」
 わけを聞いて安心したというよりは、そんなあたしらの日常を聞かされてビビッてしもたかな?

 あたしらの高師浜高校は創立百年に近い府立高校。

 周りが大正時代から開発された住宅街いうこともあって、学校も生徒も見かけのお行儀はええ。偏差値は六十ちょっと、学力ではAランクに入るけど、偏差値区分ではSの下やから、まあ……まあまあいうとこ。
 どこかに泉州気質いうのんがあって、日ごろのあたしらは姫乃がイジメと勘違いするくらいには賑やかや。
 
「うちの近所にも東京から引っ越してきたオバチャンが居てんねんけどね。仲ようなってから話してたらね『東京から落ちてきましたけど、がんばるわ!』て言うてはった。悪気はないんやろけど、大阪は落ちてきてがんばるとこやねん」
「ああーーーー」と引っ張って、姫乃は口をつぐんだ。
「アハハ、言うてええねんよ『それ分かる!』って」
「え、いや、そんなことは」
「まあ、ちょっとバランス崩したらイジメに変わってしまいそうなとこはあるけどね、オチョケのTPOが分からんようになったら危ないやろね」
「TPO?]
「マッタイラが言うてきて、あたしが何にも言えんで俯いてしもたらイジメの始まりになるやろね。マッタイラの言い方がジメジメしてたらマッタイラがイジメられたっぽくなるし、ま、そのへんがTPO言うとこやね」
「そうなんだ……」
「姫乃の第一印象は『一歩前へ』いう感じやから」
「一歩前?」
「朝礼で初めて会うたとき。あれだけしっかり言えるやもん、洗礼受けるかもしれへんよ~」
「わ~~おっかない!」
「せやから、あたしらと付き合うて慣れとかなあかんよ」
 すると、姫乃の目ぇが急にイタズラっぽく回り始めた。この子のこういう表情はメッチャ可愛いのを発見!
「だったらさ~」
 目ぇをカマボコ形にしてすり寄ってきよった。
「オぺの時って……剃っちゃうの?」
 ブルータスおまえもか!? やったけど、答えてやった。
「剃ります、ナースが来て剃刀でソリソリと。なんともけったいな感じです~」
「ウウ、そーなんだぁ~!」
 嬉しそうな顔をしよる。
「専門用語で剃毛(ていもう)て言います」
「あ、それだと抵抗少ないかも。『剃るぞ!』て迫られたらこの世の終わりだよね」
「それだけとちゃうねんよ……あ、ちゃう!」
 アホな話をしてたら目的地の羽衣公園への道を過ぎて、高師浜駅に向かう道に入ってきてしもた。

「わー、可愛い駅!」

 うちの学校より、ちょびっと古い駅は小さいけども雰囲気が良く、たった今までアホな話をしてた二人を、一瞬で正統派の女子高生に変えてしまったのだ。
 
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高安女子高生物語・97〔人生出来たとこ勝負!〕

2019-09-24 06:56:28 | ノベル2
高安女子高生物語・97
〔人生出来たとこ勝負!〕         


 
「人生は、出来たとこ勝負やと思うんです!」

 そう大見栄を切ったのは、夕べ。MNBのレッスンが終わって、なんと夜中の10時に美枝の家のリビングで中尾一家を前に大演説。
 
「出たとこ勝負じゃないの?」
 元凶の美枝の兄貴が鼻先で言いよった。
「いいえ、出来たもんです。美枝のお腹の中の赤ちゃんが、まさにそうです!」
「そうか、言葉のあやで、来ようってか」
「美枝に赤ちゃんが出来て、二人で夫婦になる。この大前提は了解してもらえますね?」
「ああ、だから、こんな夜中にみんなに集まってもらってる」
 お父さんが鷹揚なんか嫌味なんか分からん言い方をする。

「それを了解してもらえたら、結論は一つです。美枝を大阪に置いといて、全うさせるんが正しいんです」
「だけど、美枝は、こう見えてプレッシャーには弱い子なんだ。学校や世間で噂になったら、美枝は耐えられないよ」
 
 うちはムカついた。
 
 耐えられんような現状にしたんはあんたやろ! 
 それに、いかにも秘密がバレるんはうちらからやろという上から目線!
「うちらがバラさんでも、体育の見学、体つきの変化なんかで、必ず分かってしまいます。確かに、アメリカに行ったら一時秘密は隠せます。そやけど、お兄さん……ダンナには分からへんでしょうけど、それは逃げたことと同じです」
「逃げて悪いのかい? 母親の心理はお腹の中の子供にも影響するんだ。プレッシャーの少ない環境で、出産させてやりたいと思うのが配偶者のつとめだろう?」
 どの口が言うとんねん。アメリカ行きの費用持つのはあんたの親やろが!
「逃げたという負い目は一生残ります。それこそ、赤ちゃんに悪い影響……場合によっては、流産、切迫早産の危険もあります」
「そんなことは……」
「あります。これ、厚労省の資料です。『高校生などの若年出産のリスク』という統計資料です。社会的な体面などを考えて妊婦の環境を変えた場合の問題点に、逃避的対応をとった場合の影響に出てます」
 お母さんが、興味を示してプリントを手に取った。美枝自身は俯いたまま。美枝はもともとは内弁慶な子や。親しい仲間や地域のなかでこそ大きな顔して『進んだ女子高生』ぶっとるけど、アメリカみたいに、まるで違う環境に行ってしもたら青菜に塩や。
「無事に出産できたとしても、美枝には逃げ癖がつくと思うんです。なにか困ったことがあったら、親が助けてくれる。逃がしてくれる。その方が本人のためにも生まれてくる子ぉにも悪い影響が出ます」

 それから、一時間近くも議論した。

「もう時間も遅い。日を改めて話そうじゃないか」
「無理言いますけど、結論出しましょ。延ばしたら美枝が苦しむだけです」
「もともとね、こんな平日の夜中に話そうってのが無茶なんだよ。土曜でも日曜日でも……」
「土曜は都合がつかへん。そうおっしゃったのはお父さんです。日曜はお兄……ダンナさんが都合が悪いって、伺いました」
「じゃあ、一週間延ばせばよかったじゃん」
「その一週間、美枝は苦しいままなんですよ!」
「でも、こう言うたらなんやけど、今日は私らは昼からスケジュールが空いていた。こんな時間に設定したんは、佐藤さん、あんたの都合やで……責めるような言い方で申し訳ないけど。あんたが、そこまで言うんやったら……なあ」
「すみません、それはうちの都合で……」

 雪隠づめの沈黙になってしもた。ヤバイ……。

「明日香は、MNBのレッスンがあるんや……」
 美枝が呟くように言うた。
「MNBって、あのMNB47のことか?」
「は、はい。なりたての研究生ですけど……」
「すごいよ、あれ2800人受けて20人ほどしか受からなかったんだろ!?」
 意外なとこで、美枝の家族が感動した。
「さぞかし、レッスンやらボイトレとか、普段から習っていたんだろう!?」
「いいえ、進路選択の一つで体験入学みたいなつもりで受けたら通ったんです。で……出来たとこ勝負でやってます」

 うちが、初めて出した弱み……せやけど、これが功を奏した。

「MNBに合格するような子なら、こちらも真剣に耳を傾けなきゃ!」

 で、美枝のアメリカ行きは沙汰やみになった。MNBの力はスゴイ……!
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小悪魔マユの魔法日記・43『フェアリーテール・17』

2019-09-24 06:41:11 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・43
『フェアリーテール・17』  


 サンチャゴじいちゃんの小屋は、近くで見ると意外に大きかった。
 岬の一軒家であるので、比較になる建物がないことや、作りがザックリしているので小さく見えてしまうのだ。ドアの前に立つと、自分が小さくなったのかと錯覚するほどに大きかった。

「お早う、じいちゃん」

 ミファのあいさつに応えははなかった。そんなことにかまわずに、ミファは中に進んでいく。
 教室ぐらいの部屋に、寝室や台所がついているだけのようなシンプルさ。漁具や海で拾ってきたガラクタがあちこちに散らばっていたが、足の踏み場もない……というわけではなかった。
「来るたびに片づけてるから、まあまあだけどね……ベッドにはいない……ということは」

 サンチャゴじいちゃんは、教室ぐらいの部屋の海側に面した大きな窓辺、そこのロッキングチェアで眠っていた。
 色あせた横しまのシャツにオーバーオール。骨太ではあるけど、しぼんだ風船のように体は萎えていた。漁師特有の赤茶けた顔には深いしわが刻まれ、頬から下は、ほとんど白髪の無精ひげ。
 戦い疲れて、行き場を失い、しばし休息している老兵のように感じられた。

「サンチャゴじいちゃんは、海の上が一番似合うんだ。さあ、潮風を入れようね。ちょっと手伝ってくれる」
 大人が二人両手を広げたぐらいの窓は、ごっつい樫の木でできていて、三十センチほどの格子にはめられたガラスは、厚さが一センチほどもあり、横引きのシャッターを開けるくらいの力がいる。一人で開けられないこともないけど、ちょうど良い間隔で窓を開けるのには女の子二人分の力が必要だ。

「うん、これくらいでいいよ」

 ミファがOKを出すと、潮風が海鳥の声や、波音といっしょに入ってきていることに気づいた。
「さあ、タバコに火をつけるよ」
 ミファが、タバコの用意をしている間、マユは、サンチャゴじいちゃんの薄く開いた目を見ていた。白目は黄ばんで歳相応に濁っていたけど、瞳は、海の色をそのまま写したように青かった。瞳は動くことはなかったけど、瞳孔は、なにかを見つめているように絞り込まれている。
 
 戦う男の瞳だと思った。

 黒歴史の授業で習った、プルターク英雄伝のサラミスの海戦、その中のデメトリオス一世の瞳と同じだと思った。
――退屈な授業を聞かせるより、こういう実物を見せた方がよっぽど分かりやすいのに。
 マユは、自分の不勉強を棚に上げて感心した。

 と……その青い瞳が死人のように力を失い、鋭く絞り込まれた瞳孔は、だらしなく緩んでしまった。

「ミファ、タバコを消して!」
「え……?」
「いいから早く!」

 マユは、ミファにタバコを消させ、魔法で窓を全開にした……!

「こんなことをしたら、じいちゃんの体に悪いよ」
「悪くなんかないよ。じいちゃんの瞳を見てごらん」
「……あ!」
「分かった……?」
「……うん」
「サンチャゴじいちゃんの瞳は、戦う男の瞳なんだよ。でもサンチャゴじいちゃんは起きることは無い……でしょ。瞳は絞り込まれているけど、体は緩んだまま」
「これって……」
「たぶん……オンディーヌの呪い」

 そのとき、二人は背後に人の気配を感じた……。


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