🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!
18『最新の鞄やろー!・2』
旧演劇部の部室にはロッカーがある。
単なる隠れ家に使っていたので、ロッカーには興味は無かった。
でも、『山のようなインナー(取り扱い注意)』という妙な芝居で、県大会で一位になっていたこと、小道具に山のような女物の下着を使っていたこと、そして「最新の鞄やろー!」という暗号に俄然興味がわいた。
ロッカーの中には、まだ演劇部が存在していたころの台本や日誌が入っていた。
その中から『山のようなインナー(取り扱い注意)』という台本と、県大会で一位になった年の日誌を取り出して部室を出た。
「ちょっと、息が詰まりそうだったわね!」
部室を出ると、桜子は盛大に息を吐いて、制服の胸をパカパカやった。桜子ほどではないけど、オレも八瀬もうっすらと汗をかいていた。なんせ、軽のワンボックスカーほどしかない部室に三十分以上三人でいたのだ、軽い酸欠にもなる。
「四人分よ! 桃斗一人で二人分はあるでしょ!」
「百戸一人に、ほとんどの酸素吸いつくされたぜ」
桜子も八瀬も容赦がない。
桜子は台本を、八瀬は撮りまくった部室の写メを、オレはクラブ日誌を持って帰った。
久々に三人揃って帰ろうということになった……とたんにメールが入ってきた。
「残念……二人で帰ってくれ」
「なんだ、彼女からか?」
「んなワケねーだろ! 親父だよ親父!」
夜、三時間ほど空いたので、三人で食事をしようというメールだった。
駅のホームは桜子と八瀬の向かい側になった。何とも寂しい。
部室の中では、あれこれ探すのに夢中だったけど、ごく近くで桜子を感じていたことを思い出す。
――そういや、瞬間だけど桜子に触ったなあ――
ロッカーを開ける時に、左の肘が、桜子の柔らかい胸に触れた。今になってドギマギする。
気づくと、向かいの桜子と八瀬の姿が無い。電車の尻が遠ざかっていく。
隣の駅の改札で、親父とお袋と待ち合わせ。
「新しい店を見つけたんだ、さ、行こう」
親父は、そういうとスマホのナビを開いた。
ナビに変わる寸前、一瞬マチウケ画面が見えた。
桃の入学式、入学式の看板の前で撮った桃のアップ。葬式の日、桃の遺影に使ったやつだ。
入学式では、いっぱい写真を撮った。一枚だけ、ちょっと実年齢より上に見えるのがあって、桃のお気に入りだった。
「高校生に見えるね!」
桃は、その画像を細工して高校の制服にしてしまった。
「三年たったら、この制服だね!」
喜んでいたけど、桃は、この制服を着ることなく、一か月後には帰らぬ人になってしまった。
「ちょっと、この子だれよ!?」
一度マチウケを見られて、桜子に詰め寄られたことがる。
「スタイルもルックスも、良すぎ! ん? 組章……うちのクラス!? ちょっと桃斗!」
「それ、桃だよ」
答えを言うと、桜子はビックリした。
「桃ちゃんて、美人になるよ! スタイルもイケて……あ、これはハメこみか!」
そのあと桃に聞くと、桃は、こう言った。
「首から下は、桜子さんだよ」
オレは、桜子と桃の両方を見直した。
そんなことをポワポワ思っているうちに親父とのディナーが終わった。
「なかなか美味いフランス料理だった!」
「ハハ、桃斗は味オンチだなあ、今のはイタリア料理だぞ」
「ホホ、ほんと、この子ったら」
「アハハ」
笑っておいたが、何を食べたか覚えていなかった……。