見破ってしまったんだ……
目が合ったそいつは、少し照れたように鼻の頭を掻いた。
ポリポリと擬音を入れたくなるような愛嬌がある、それでいて、すごい敏捷さを秘めたような油断のならない若者だった。
で、真っ黒な忍者衣装に身を固めている。
「さすけ村の観光課の人ね?」
「ええ、まあ……正確には総務課観光係です。観光だけで課を構成できるほどの村じゃないもんで」
そう言うと、懐からIDを出して首からぶら下げた。
「らしく見える」
「アハハ、これ掛けてないと、ただのコスプレだから(*ノωノ)」
IDには『さすけ村 総務課観光係 主査 猿飛佐助』とあった。
「へえ、猿飛佐助さんなんだ!」
恵美が単純に喜んだ。
「ハハ、本名じゃないわよ、でしょ?」
「かなわないなあ、 こうするとね……」
指でひと撫ですると西村慎吾という名前に変わった。
「そういうところで雰囲気を出しているのね」
「はい、名前を変えても費用は掛かりませんからね」
「でも、えらいわね。お若いのに主査なんだ。ふつう、その年なら主事くらいでしょ」
「え、どう違うの主査と主事?」
「係長と平社員くらい」
「いや、お恥ずかしい。観光係にまわされた時に主査になったんです」
「そうなんだ」
役職を一つ上げても大した出費にはならない。でも、本人のやる気とかモチベーションは上がるだろうから、うまいやり方だと思うマヤだ。
もう、こんなところに!
声がしたかと思うと、赤い忍者衣装の女の子が現れた。
「あ、すみれさん」
西村君が頭を掻く。
「どうも起こしなさいませ、わたし下忍の猿飛すみれと申します。だめじゃない、IDの肩書は忍者でなくちゃ」
ヒョイと西村君のIDを掴むと、ひと撫でする。肩書が中忍と変わった。
「SASUKEを突破した人がいると言うので駆けつけてきたんです。女子高生さんなのでビックリしました!」
「まぐれです、ね、恵美ちゃん」
「え、あ、ですよね」
「本格的なバーチャル体験型の忍者村を目指して整備中なんです。ほとんど出来あがってるんですけど総務省とか県の観光局とかの手続きがありましてね。でも、こうやって突破されたんですから特別に体験していただきます。佐助さん、それを……」
「はい、どうぞ、このゴーグルを掛けてください」
それはVRのヘッドマウントディスプレーのようなものだ。なるほど体験型というのはVRだったんだと納得する二人。
「セットアップされるまでは砂時計が表示されます、それが終わったらVR表示になりますので、お掛けになってお待ちください」
言われた通りゴーグルを着けると砂時計が現れる、十数秒たったであろうか、3DのVR映像が現れた。
「……なんだか駅のホームみたい。すごいね、めちゃくちゃリアル!」
「あ……しまった」
そう言うと、マヤはゴーグルを外した。恵美の肩を叩いて――外してみ――と促す。
「え、あ……どういうこと?」
ゴーグルを外しても、そこは駅だった。表示は『さすけ村』となっており、その横に時刻表。
「もうすぐ列車が来る!」
「ち、今日の最終列車ってか」
「乗る以外にないね……」
気が付くと、さすけ村に入って憶えているのは西村君の佐助と猿飛すみれだけだった。他の風景だとかは夢の中のそれのようにおぼろになって思い出せない。汽笛が鳴って列車が入ってきたときには、それさえ忘れてしまった二人だった。