大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト140『ルーズソックスとブルマ』

2018-03-23 06:09:36 | ライトノベルベスト

ライトノベルセレクト140
『ルーズソックスとブルマ』
        


「コラ、ダメだったら、ダメだっだって!」

 五歳の芽以を追いかけ回すには、三十六歳の瑠璃は体が重かった。
 芽以は、こともあろうに、お向かいの隼人クンに見せびらかしている。
「うわー、メイ、いいな」
「いいでしょ。サンタさんのプレゼントいっぱい入るよ!」
 子ども同士の他愛ない会話と言ってしまえば、それまでなのだが、高校時代のルーズソックスを道の真ん中で振り回されるのはかなわない。
「まあ、芽以ちゃん、いいもの持ってるじゃないの」
 隼人クンのママが出てきたので、瑠璃は咎めるのをちゅうちょした。
「これ、クリスマスプレゼント入れの靴下だよね、ハヤトママ?」
「アハハ、そうかもね」
「ママがね、そんなに欲張っちゃダメだからって。でも、これくらい、いいとメイは思うの」
「ママ、ウチにはないの?」
 隼人クンが羨ましそうにママを見る。

「あるわよ」

 あっさり言う、ハヤトママに驚いた。清楚を絵に描いたような主婦で、瑠璃はハヤトママが、そんなのを、女子高生時代に履いていたとは想像もできなかった。

 で、瑠璃も気楽になって、隼人クンの家の前まで出ることができた。

「留美子さんが、ルーズなんて信じらんないわね……」
「ハハ、これでも高校生のときはヤンキーだったのよ」
「うそ、信じらんない!」
「ちょっと、待っててね」
 留美子が家に戻っている間に、瑠璃はガキンチョ二人の質問攻めに遭った。
「ねえ、ヤンキーってなに、オバチャン?」
「クリスマス用なんだよね!?」
「ヤンキースと関係あんのかな?」
「イチローがはやらせたの?」
「イチロー、家族思いそうだから、なの?」
「お父さんもイチローだけど、なんで、あんなに違うわけ?」

「え、あ、う……」
 返事に窮しているうちに、留美子がルーズソックスと、写真を持って現れた。
「スッゲー、ボクの体がまるまる入りそう!」
「家の中でやるのよ。汚くしたら、サンタさん、プレゼント入れてくれないぞ」
 子ども二人は、それぞれのルーズソックスの比べっこに夢中だ。その間に主婦同士の昔話。留美子は子どものあしらいが上手い。
「え、これ、留美子さん!?」
「うん、完ぺきでしょ」

 それは、ガングロ茶パツで、ウンコ座りしている姿。今の留美子からは、想像もつかないシロモノであった。
「あたし、伯父さんのコネでデパガになっちゃって、あっさり宗旨替え。まあ、こんな時期もあったんだって記念ね」
「あたし、高校時代の写真って、一年の集合写真以外処分しちゃった」
「あら、もったいない」
「ルーズソックスは、新品の買い置き忘れてて、芽以に見つかったってわけ」
「いいじゃない。あれって長いものは入るけど、そんな大きなモノ入らないから、ちょうどいい」
「留美子さん、考えてるのね!?」
「まあ、バラシのプラレールぐらいで、ごまかせそう」

「あーら、二人揃って井戸端会議?」

 虹色ニット帽にルーズカーディガンというラフなイデタチで留美子のお母さんがやってきた。
「ちょうどいいわ。瑠璃さんにも見てもらおう!」
 で、留美子のリビングに三世代が揃うことになった。

「えー、これオバアチャン!?」
「きれいな脚だ……」
 ガキンチョ二人は口を開けたままアングリ驚いている。
 瑠璃と、留美子は圧倒されていた。
「あたしの、モデル写真第一号。広告代理店に残ってた等身大のパネルもらってきたの」

 それは、ブルマ姿の後ろ向きで、振り返った笑顔の白い歯が、形の良いヒップラインと共に美しかった……シャクだけど。

「でも、このブルマって、ショ-ツの形でハズイでしょ?」
「違うわよ。人間て、見られることでキレイになったり、自信を持ったりするのよ。それをジェンダーとかなんとかで、隠しちゃって、今の子はカワイソウ」
「でも、冬なんか寒いでしょ?」
「そんなときは、ジャージよ。TPOを考えればいいだけの話。留美子はほっといたけどね。自分がいいと思わなきゃ、身にそぐわないからね……それにしても、あたしも、よく辛抱したものだわ」
「このブルマですか?」
「違うわよ、留美子のヤンキー。あなたたち、自分のスガタカタチに自信持って生きたことないでしょ?」
 留美子も瑠璃も、とてもパネルのような姿には自信が無かった。

 その夜、帰宅した留美子の旦那は、玄関ホールの等身大のパネルにたまげた。

「お母さん、これは、いくらなんでも……」
「なによ、健一さん」
「これは、アメリカ文化の悪しきコピーですよ」
「そのトンカチ頭なんとかなさい。これ、最初にやったの、健一さんが好きな共産主義の親玉の国よ」
「え、ほんとですか!?」
「ほんとよ。ネットで検索なさったら」
「しかし、ソ連は共産主義とは……」
 健一は、A新聞の記者で、義母とは折り合いが悪い。この時も、つい鼻で笑ったような顔になった。
「モデルを馬鹿にしちゃいけません。じゃ、資本論の剰余価値について分かり易く説明して」
「いや、それと、あのパネルは……」

 オバアチャン……失礼、現役モデルの絹子さんのパネルは近所でも評判になり、朝のワイドショーでも紹介された。きっかけは無垢な芽以と隼人の幼稚園でのお喋りからだった。

 そして、絹子さんのモデルの仕事は増え、ギャラも上がった……とさ。


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