永遠女子高生・25
《渡良瀬野乃・16・特盛のたこ焼き》
学園都市線のホームは環状線のホームの下にある。
環状線だけで通っている生徒は、一階下の学園都市線のホームに降りることなく卒業していく。
野乃もそういう生徒の一人であった。
――もう、この階段を下りることもあれへんなあ……――
環状線への階段を上り終えて、野乃はため息をついた。
半月かかった『少女像』が完成したのだ。もう一之宮先輩の家に行くこともない。
ボンヤリしていたら、外回り電車の発車のアナウンス。いつもなら走っている――駆け込み乗車は大変危険です――そんなアナウンスなどものともせずに、ギューギュー詰めの車両に突進する。
それが、今日はできない。
「それじゃ失礼します」と明るく出てくるのが精いっぱいだった。駅まで送るというのを断ったところで笑顔は引きつりかけていた。もう発車直前の電車に駆け込む元気はない。
乗車位置に着いた時には、USJのデコレーション一杯の電車はホームを離れかけていた。
間の悪いことに、次の電車は京橋止めだ。
電車案内の表示が、次の電車が桜ノ宮を出たことを示したときに肩を叩かれた。
「あ、あやめさん!?」
あやめと連れ立って、商店街のたこ焼き屋に向かった。
「いらっしゃい」「おばちゃん、いつもの」を交わして奥の席に。おばちゃんは、二人の空気を察して、それ以上の言葉をかけてこようとはしない。
「ごめんね、野乃ちゃんが帰ったあと、どうしても話しておかなきゃって……ヘヘ、エプロン外しただけで飛び出してきちゃった」
エプロンを外しただけの普段着でも、あやめはとても魅力的だ。話をする前に、野乃は凹んでしまう。
「わたしから言うのも情けないんだけど、一度秀と話してくれないかしら」
「……もう作品はできたんですよね」
このうえ作品の手直しを言われても、もう秀一の前に平常心で立つことはできない。好きだと言う気持ちが涙と一緒に溢れてくるのを止めることができないから。まして、その横にあやめがいては立っていることさえできそうにない。
「あのね、秀一はね……」
「ちょっと待って!」
なんと、その時、たこ焼き屋に秀一が現れた。
「あ、あ、あたし……」
「気づいたらあやめがいないんで、原チャで追いかけてきた」
「よく分かったわね?」
「あやめがやることは見当が付く」
やっぱり二人はツ-カーの仲なんだと、野乃は一層委縮した。
「あやめはやりすぎるんだ」
「なによ」
秀一は、それに答えず、野乃の横の椅子に掛けた。
「あの……もう、これ以上のモデルは勘弁してください」
「そんなことじゃない……野乃ちゃん、ボクは野乃ちゃんが好きだ。付き合って欲しい」
「え……え……え……?」
「モデルになってもらう前に言わなきゃいけないんだけど、今日までズルズルになってしまった」
「そんな……からかわんといてください」
「からかってなんかいない。ボクの本心。今の今まで勇気が無くて言えなかったんだ」
「先輩にはあやめさんがいてはるやないですか。ツーカーの、阿吽の呼吸の、生まれながらの恋人みたいなあやめさんが」
「「あ……」」
秀一とあやめが同時に息をのんだ。まことに呼吸の合った二人である。
「違うわよ、わたしたちいとこ同士だもん」
「い、いとこは結婚だってできるんです!」
「そうだよね。でも、ボクたちは元々姉弟なんだ」
「え……?」
「双子の姉弟。二卵性のね。あやめが、子どものいない伯父さんのところに引き取られたんで、戸籍上はいとこなんだ」
「阿吽の呼吸なのは……そういうこと。だから、お願いするわ、出来の悪い弟のこと」
「あ、えと……えと……」
「はい、おまっとうさん。いつものん特盛!」
おばちゃんが、たこ焼を山盛りで持ってきた。
「おばちゃん、多いけど」
「おばちゃんのおごり。たこ焼き食べながらゆっくり話したら、気持ちもやわらこうなって、丸う収まるよってに。野乃ちゃんには、たこ焼大会がんばってもらわなあかんしな。アハハハ」
そうして、京橋商店街のアーケードは、夕陽を受けて幸せ色に滲んでいった……。
《渡良瀬野乃・16・特盛のたこ焼き》
学園都市線のホームは環状線のホームの下にある。
環状線だけで通っている生徒は、一階下の学園都市線のホームに降りることなく卒業していく。
野乃もそういう生徒の一人であった。
――もう、この階段を下りることもあれへんなあ……――
環状線への階段を上り終えて、野乃はため息をついた。
半月かかった『少女像』が完成したのだ。もう一之宮先輩の家に行くこともない。
ボンヤリしていたら、外回り電車の発車のアナウンス。いつもなら走っている――駆け込み乗車は大変危険です――そんなアナウンスなどものともせずに、ギューギュー詰めの車両に突進する。
それが、今日はできない。
「それじゃ失礼します」と明るく出てくるのが精いっぱいだった。駅まで送るというのを断ったところで笑顔は引きつりかけていた。もう発車直前の電車に駆け込む元気はない。
乗車位置に着いた時には、USJのデコレーション一杯の電車はホームを離れかけていた。
間の悪いことに、次の電車は京橋止めだ。
電車案内の表示が、次の電車が桜ノ宮を出たことを示したときに肩を叩かれた。
「あ、あやめさん!?」
あやめと連れ立って、商店街のたこ焼き屋に向かった。
「いらっしゃい」「おばちゃん、いつもの」を交わして奥の席に。おばちゃんは、二人の空気を察して、それ以上の言葉をかけてこようとはしない。
「ごめんね、野乃ちゃんが帰ったあと、どうしても話しておかなきゃって……ヘヘ、エプロン外しただけで飛び出してきちゃった」
エプロンを外しただけの普段着でも、あやめはとても魅力的だ。話をする前に、野乃は凹んでしまう。
「わたしから言うのも情けないんだけど、一度秀と話してくれないかしら」
「……もう作品はできたんですよね」
このうえ作品の手直しを言われても、もう秀一の前に平常心で立つことはできない。好きだと言う気持ちが涙と一緒に溢れてくるのを止めることができないから。まして、その横にあやめがいては立っていることさえできそうにない。
「あのね、秀一はね……」
「ちょっと待って!」
なんと、その時、たこ焼き屋に秀一が現れた。
「あ、あ、あたし……」
「気づいたらあやめがいないんで、原チャで追いかけてきた」
「よく分かったわね?」
「あやめがやることは見当が付く」
やっぱり二人はツ-カーの仲なんだと、野乃は一層委縮した。
「あやめはやりすぎるんだ」
「なによ」
秀一は、それに答えず、野乃の横の椅子に掛けた。
「あの……もう、これ以上のモデルは勘弁してください」
「そんなことじゃない……野乃ちゃん、ボクは野乃ちゃんが好きだ。付き合って欲しい」
「え……え……え……?」
「モデルになってもらう前に言わなきゃいけないんだけど、今日までズルズルになってしまった」
「そんな……からかわんといてください」
「からかってなんかいない。ボクの本心。今の今まで勇気が無くて言えなかったんだ」
「先輩にはあやめさんがいてはるやないですか。ツーカーの、阿吽の呼吸の、生まれながらの恋人みたいなあやめさんが」
「「あ……」」
秀一とあやめが同時に息をのんだ。まことに呼吸の合った二人である。
「違うわよ、わたしたちいとこ同士だもん」
「い、いとこは結婚だってできるんです!」
「そうだよね。でも、ボクたちは元々姉弟なんだ」
「え……?」
「双子の姉弟。二卵性のね。あやめが、子どものいない伯父さんのところに引き取られたんで、戸籍上はいとこなんだ」
「阿吽の呼吸なのは……そういうこと。だから、お願いするわ、出来の悪い弟のこと」
「あ、えと……えと……」
「はい、おまっとうさん。いつものん特盛!」
おばちゃんが、たこ焼を山盛りで持ってきた。
「おばちゃん、多いけど」
「おばちゃんのおごり。たこ焼き食べながらゆっくり話したら、気持ちもやわらこうなって、丸う収まるよってに。野乃ちゃんには、たこ焼大会がんばってもらわなあかんしな。アハハハ」
そうして、京橋商店街のアーケードは、夕陽を受けて幸せ色に滲んでいった……。