大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

音に聞く高師浜のあだ波は・25『あたしらは目を背けた』

2019-10-16 06:39:21 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・25
『あたしらは目を背けた』         高師浜駅


 
 
 ワンルームアパートがお屋敷になったみたいだ。

 お祖母ちゃんの新しい車は、そんな感じ。

 今までの軽自動車は四人乗りで、事実上は二人乗りやった。
 ま、うちがお祖母ちゃんとの二人暮らしやということもあるんやけど、四人乗るとすっごく窮屈。
 
 今度のワンボックスは、三列シートで、なんと九人まで乗れてしまう。
 もちろん、ゆったり乗るには六人くらいなんやけど、前の車の三倍の感じ。
 後ろの二列は対面式に出来て、感覚的には南海の特急電車。
 南海の特急は高石市にも羽衣にも停車せえへん。いっつも、ホームで電車待ちしてるあたしらを暴力的な速さでいたぶっていきよる。
 一瞬見える特急の乗客が「下がりおれ、下郎どもめ!」といういような目をしてるように思えてしまう。
 その特急感覚やから、もう、ザーマス言葉でオホホホてな感じで笑い出しそう。

「でも、毎日迎えに来ていただいて、なんだか申し訳ないです~」

 姫乃がヘタレ眉になって恐縮する。

 五日前、不慮の事故で三人揃ってジャージで帰らなくてはならなくなり、寒さに震えていると、ちょうど後ろにお祖母ちゃんがいて、乗っけてもらった。
 それからお祖母ちゃんは、下校時間になると、学校の角を一つ曲がった道路で待ってくれるようになった。
 この車のことは、何度も聞いたけど、ニコニコするばかりで、お祖母ちゃんは答えてはくれない。
 
「今日は、ちょっと高速にのるけど、ええかな」
 三人が頷くと、お祖母ちゃんは泉北高速への道へとハンドルをきった、
 お祖母ちゃんのお迎えは、寄り道をする。
 ほんのニ十分ほどやねんけど、高石の街中をゆったり走ってから、すみれと姫乃を送っていく。
 あたしらも乗り心地が特急電車なんで、放課後ひとときのドライブを楽しむってか、お喋りに興じる。
 もう少しで高速に乗ろうかという時に、シャコタンの白いボックスカーが並んできた。
 
「感じわる~」
 すみれが眉を顰める。
「スモークガラスで、中見えないね……」
 姫乃が気弱そうにつぶやく。
 お祖母ちゃんは、やり過ごそうと速度を落とした。
 すると、白は、スーッと前に出たかと思うと、あたしらの前に出て停めよった。
「年寄りと女子高生だけや思て舐めとるなあ、あんたら出たらあかんで……」
 そういうと、お祖母ちゃんはシートベルトを外してドアを開けた。
「お、お祖母ちゃん!」
 お祖母ちゃんは、ゆっくりと白に近寄って行く。白のドアが開いて人相の悪いニイチャンが二人出てきた。
 お祖母ちゃんは腕を組んで二人を睨みつけてる。二人組がカサにかかって喚いてるけど、車の遮音が効いてるので言葉の内容までは分からへん。しかし、かなりヤバイというのは見てるだけで分かる。
「こ、これヤバいよ……」
「つ、通報しようか……」

 すると、あたしらの車の後方からダークスーツの男の人が現れて、あっという間に二人組をノシテしまった!

 白の車は、二人を残したまま急発進、二つ向こうの交差点を曲がり損ねた。

 ドッカーン!

 信号機のポールにぶつかってひっくり返った。
「「「うわーーー!」」」
 あたしらは目を背けた。
 目を開けると、お祖母ちゃんが戻ってくるとこで、ダークスーツも二人組の姿も無かった。
「ほんなら、いこか」
 そう言いながら、いつのまに買ったのか温かい缶コーヒーを配ってくれて、今までで一番長いドライブに発進した……。
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