大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・3『あの日の秘密』

2018-09-21 06:57:02 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・3
 『あの日の秘密』  
     


 あらかわ遊園から帰った夜、一郎は夢を見た。

 三十年前の、あの日の夢だった……。


 首都高某所で、事故が起こった。夜の九時頃だった。
「家で待ってなさい!」
 そう言われたが、迎えに来たパトカーに、無理を言って乗り込んだ。代々木に出たところまでは覚えていたが、そのあと意識がもどったのは、病院の待ち合わせのようなところだった。
「もう目が覚めたのか」
 通りかかった白衣のお医者さんのような人が言った。子供心にも「まずかったかな」という気持ちになった。
「この子は、あの子の弟だ、多少、同じ素因をもっているんだろう」
「かもな、我々を見てしまったのなら、見せておくべきかも知れない」
 その時代には存在しない携帯のようなもので、そのお医者さんのような人は連絡をとった。
「分かりました。連れていきます。あれ飲ませといて」
 もう一人の、見れば若そうなお医者さんみたいな人に指示して行ってしまった。

 さっき飲まされたジュースのようなもののせいかもしれないが、一郎は、すごく落ち着いた気持ちでエレベーターにのせられ、地下何階かで降りて、長い廊下を歩いた。
 扉が二重になった部屋は機材の少ない実験室のようだった。

 そして正面のガラスの向こうに、姉が裸で横たわっていた。

「おねえちゃん……」
 その姉の姿には命を感じなかった。姉の手術台が百八十度回った。見えた姉の左半身は、焼けただれていた。
「おねえちゃん、死んじゃったの?」
「それを今から説明するの」
 いつのまにか、白衣の女の人が立っていた。とてもきれいな人だったけど、地球の人ではないような気もした。
「お姉さんは、首都高を車に乗せられてすごいスピードで走っていたの」
「……誘拐されたの?」
「その逆。誘拐されかけたのを仲間が助けたの。でも間に合わなくて、車ごと吹き飛ばされた」

 女の人が、リモコンみたいなのを押すと、逃げ回る車を追いかけている、ローターの無いヘリコプターみたいなのが三つ見えた。それがSF映画のように逃げる車を追いかけ回し、目に見えない弾のような物を撃っていた。弾と、その周辺の空間が歪むので弾なんだと分かった。路面に落ちたそれは、微かに光って消えてしまうが、巻き添えを食った他の車に当たると、ハンドルを切り損ねたようにスピンしたり、前転したりして、車や側壁に当たって、事故のようになる。
 やがて、トンネルに入る寸前で、その車に命中し、車は三回スピンし、トンネルの入り口に激突。ボンネットから火が噴き出し、またたくうちに、車は火に包まれた。なんだか外国語で命ずるような声がして、カメラは路面に降り立ち、他のヘリからもまわりの空間が歪むことで、それと知れる人間達が降りてきた。

 やがて、車から、煙をまといながら男がおねえちゃんをだっこして出てきた。一瞬身構える男。見えない弾丸が空間を歪ませながら飛んでいく。身軽に男は、それをかわすが、おねえちゃんを庇って背中に二発命中した。男は再び燃え上がり、おねえちゃんは路面に投げ出された。
 その直後、敵の男達が、どこからか飛んでくる弾に当たって、次々と倒れ、画面も横倒しになって消えてしまった。

「これ、オバサンたちが助けたんだね……」
「理解が早いわね。このあとお姉さんだけを救助して、ここに運んだ」
「……男の人は、おねえちゃんを庇って死んだんだね」
「そう、そしてお姉さんも、さっき息を引き取ったの」
「じゃ……」

 映画の出来事のように冷静に喋れるのは、さっき飲んだ薬のせいだろう。

「でもね、こっちを見て……」
 ガラスの向こうでカーテンが開き、金属で出来た骸骨の標本みたいなものが現れた。よく見ると、そいつの骨の間には、部品のようなものが入っていて、見ようによっては作りかけのサイボーグのようにも見えた。
「作りかけのロボット。お姉さんの記憶は、脳が死ぬ前に、こっちのロボットのここに入力した」
 女の人は、自分の頭の当たりを指差した。
「じゃ、おねえちゃんは!?」
 初めて感情のこもった声が出た。
「そう、死んじゃいないわ。体が替わっただけ」
「おねーちゃん!」
 一郎は、ガラスを叩いた。
「ぼく、ガラスを叩いちゃ……」
「いいわよ。感情を抑制しすぎると精神に影響するわ」
「おねえちゃん……生き返るの……?」

 一郎は、聞いてはいけないクイズの、最後の答を催促するようにオズオズと聞いた。

「動力炉、それと生体組織がなんとかなればね」
「なに、それ……?」
「エンジンと、ボディー。エンジン無しじゃ車は走れないでしょ。ロボットもね。それにスケルトンのままじゃ外に出せないでしょう。わたしは、これの専門家じゃないから、そこまでは手が回らないの。都合をつけてもどってくるわ。それが、明日になるか、十年後になるかは、分からないけどね。時間軸の座標を合わせるのは、少し難しいの。それに、これは違法なことだしね」

 親たちには、娘は事故死したと伝えられ、焼けただれた右半身を隠した遺体をみせられ。両親は娘は死んだことで納得した。
 晩婚だった両親の悲しみは深く、葬儀のあと、急に老け込んだ。それでも幼い一郎のためにがんばり、父は去年亡くなり、認知症の母は介護付き老人ホームに入っている。

 事故そのものは、首都高の連続事故として処理され、そして、三十年の歳月が流れた。

『明日、十時、代々木の○○交差点でお待ちしています』
 そのメールがやって来たのが一カ月前だった。

 そして、三十年ぶりに会った姉は、当時の十五歳の姿のまま、羊水の中でまどろんでいた。

「ここまで、歳が離れちゃお姉ちゃんというわけにはいかないなあ」
 当時若かった、初老の医者が、そう言った。
「大伯父の孫娘、親が亡くなって見寄なし……という線でいきましょう。書類やアリバイ工作に時間がかかるから、一カ月後ということにしましょう」
 女の人は、ひとりだけ、三十年前の若さで、そう言った。

 そこで目が覚めた。血圧の低い春奈は、まだ眠っている。

「おーい、友子、もう起きろよ……」
 すると、後ろで声がした。
「どう、さっき来たの。乃木坂学院の制服。似合うでしょ!」

 制服を着て、スピンした女子高生の姿は、とても姉とは思えない可憐さであった。

「二十八年下の姉ちゃんか」

 振り返った友子が、スリッパを投げてきた。見事に命中し、いかにも軽い音がした……。


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