ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

コルボ/フォーレ:宗教曲集 『熱狂の日2007(その8)』

2007-05-10 | コンサートの感想
コルボのフォーレの宗教音楽集。
しかし、計5回も演奏されたレクイエムに対して、たった1回しか演奏されなかったこのプログラム。
今回14回ものコンサートを聴き、生の音楽の素晴らしさを満喫させてもらった私ですが、その中でも決して忘れることができない「特別のコンサート」がこのコルボのフォーレでした。

「ラシーヌ賛歌」はともかく、このプログラミングをご覧になったら、きっと地味にみえますよね。
でも、この作品たちは、たしかに地味かもしれないけど、一度聴いたら絶対忘れられない魅力を持っているのです。
「純真無垢な少女に、真正面から大きな瞳で優しく見つめられている・・・」
そんな曲ばかり。

たまたま見つけたフォーレの廉価盤ボックスで、これらの作品を初めて聴いたときの感動は、今でもよく覚えています。
そんな宝石のような曲が生で聴けたのです。
しかも神様コルボたちによる、とびきりの名演奏で・・・。

     


<日時>2007年5月4日(金)
<会場>ホールC
<曲目>
フォーレ作曲
■恵み深き御母、マリア 作品47-2
■アヴェ・ヴェルム・コルプス 作品65-1
■タントゥム・エルゴ ホ長調 作品65-2
■アヴェ・マリア 作品67-2
■小ミサ曲
■ラシーヌの賛歌 作品11
■タントゥム・エルゴ ヘ長調 作品55
フォーレ&メサジェ作曲
■ヴィレルヴィルの漁師たちのためのミサ曲
<演奏>
■アナ・キンタンシュ(S)
■ローザンヌ声楽アンサンブル
■シンフォニア・ヴァルソヴィア
■ミシェル・コルボ(指揮)

この日、当初プロからかなり大胆に曲順が入れ替わっていたのですが、事前に聴衆に対して徹底されていなかったので、かなりの人が混乱したのではないかしら。
演奏があれだけ素晴らしかったので余計に強く感じるのですが、曲順変更や曲目変更については、外の掲示板にさらりと張り紙をするだけじゃなくて、館内放送をするとか周知方法を是非改善してほしいところです。

さて、最初の小曲の中では、「アヴェ・マリア」が美しかった。
オルガンに導かれる祈りの歌。いっとき不安定な調性に転じた後、再び訪れる優しい旋律に心洗われる思いがしました。

メサジェとの合作であったミサ曲をベースにしながらも、一層純度を高めた「小ミサ曲」のあとは、有名な「ラシーヌ賛歌」。
弦の柔らかく豊かな音につつまれて、ハープが天国的なアルペッジョを奏でます。
そして合唱が・・・。
後半、フルート、クラリネット、ヴァイオリンが綾なす哀しくなるくらいの美しさ。
もう、これ以上何を望むんだろう。
私がいままで聴いてきた「ラシーヌ賛歌」の中でも、飛び抜けた名演でした。

「ラシーヌ賛歌」の後は、アナ・キンタンシュの天使のような声が聴けた「タントゥム・エルゴ」。
アナの声は、ピュアだけど決して冷たくない。しかも声はまっすぐに伸びます。
私はすっかり彼女の虜になってしまいました。

そしてコンサートの最後は、「ヴィレルヴィルの漁師たちのためのミサ曲」。
この奇妙な名前の曲は、1881年に訪れたノルマンディ地方の漁村で、地元漁師協会の資金集めのために弟子のメサジェとの共作という形で書かれ、ヴィレルヴィルの教会で初演されたそうです。
曲は5曲で構成されていますが、メサジェが「キリエ」「オ・サルタリス」を、フォーレが「グロリア」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」を担当しています。
私がとくに感銘を受けたのは、メサジェ作とされる2曲。

まず、冒頭のキリエ。
合唱に絶妙に絡む優しいヴァイオリン。
そして、柔らかいシンコペーションのリズムに乗って、ヴァイオリン⇒オーボエ⇒チェロ⇒クラリネットと受け継がれていく旋律の何と美しいこと。
最後の上昇音階の優しさ、温かさも忘れられません。

日本の童謡のような素朴さを持つ「グロリア」、神秘的な「サンクトゥス」を経て歌われるのは「オ・サルタリス」(救い主なる)。
この抱きしめたくなるような美しさは、とうてい言葉では言い表せません。
ヴァイオリンのオブリガードも最高。
私は、聴きながら涙を抑えることができませんでした。
チャイコフスキーのアンダンテカンタービレによく似た雰囲気の「アニュス・デイ」を聴き終わった後も、ステージは涙で霞んでよく見えなかったです。
また、このめったに味わえないくらいの感動を与えてくれたコルボ組に対して、お礼の気持ちで拍手をしたかったのですが、それもできませんでした。
なぜなら、ずっと膝の上で組み合わせていた両手の指が、くっついたままどういうわけか離れようとしなかったから・・・。
きっと、身体全体で感動していたんでしょうね。

昨年のペーター・ノイマン組のモーツァルトは、とにかく透明感が高くピュアな美しさに満ちていました。
今年のコルボ組は、より柔らかく豊か。
オーケストラと合唱の音が、完全な同質性をもっていたことにも驚かされました。
ところで、今年のラ・フォル・ジュルネは、当初2日、3日、5日と決めていたので、このコンサートは行かない予定だったのです。
しかしこのコンサートを聴かなかったら、きっと向こう100年間後悔したでしょう。
本当に聴けて良かった。








コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする