みなさま、どうもこんばんは! そうだいでございます。今日も一日たいへんお疲れ様でございました!
いや~、世間はもう、明日から公開の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の話題でもちきりですねぇ! たのしみだなぁオイ!!
……え? あんまりもちきりってほどでもない? うん、実は私の周辺でも、驚くほど静かです……
『ゴジラ -1.0』とか『オトナプリキュア』は引き続き人気ですし、再来週から公開の北野映画最新作の『首』への、不安もだいぶ入り混じったワクワク感も徐々に高まりつつあるのですが、この『ゲゲゲの謎』だけは、ねぇ……まぁ必ず映画館に観に行くにはしても、なーんか今ひとつ、ピンとこないんですよねぇ。「水木しげる生誕100年記念作品」なのに。あのさまざまな実験精神に満ち溢れていたアニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』(2018~20年放送)の、満を持しての劇場オリジナル作品だというのに!
まぁ世間的には、どうしても第6期が終わってから時間がたちすぎてるのが大きいですかね。PG12指定というのも、どの客層を狙っているのかで多少のとっつきにくさが生じているような。
そして、なにはなくとも私にとってデカいのは、キャスティング表を見るだに「おぬら様」が出なさそうなこと! これはいけません!! え? 鬼舞辻さんは出るらしいって? それじゃあ埋まんねぇよ!!
いや、なんだかんだ言っても楽しみにしてますけどね……本格的にコワい鬼太郎譚、見せてもらおうじゃありませんか!
なにげに、音楽が TV版第6期の高梨康治さんじゃなくて、あの川井憲次さんになってるのも気になりますね。個人的には、『墓場鬼太郎』味が強そうなんだから是非とも和田薫先生に復活してほしかったけど。『攻殻機動隊』っぽい鬼太郎かぁ。やっぱ楽しみ!
余談ですが、私は TV版第6期から『ゲゲゲの謎』までの3年という短くない間隙を埋めんとするせめてものレジスタンス活動として、今年になって彗星の如く登場した「レノア クエン酸 in 超消臭」CM での、第6期バージョンの猫娘を見事に実写映像化した飯尾夢奏(ゆめな 13歳)さんの功績を、この場を借りて大絶賛させていただきたいと思います。『ゲゲゲの謎』が大ヒットしたら、次は実写映像作品を飯尾さん続投でお願い致します! 他のキャスティングは誰でもいい!!
でも、あながち冗談ばかりでもなく、こういうちょっとした草の根活動で『ゲゲゲの鬼太郎』を思い出してもらうのは、大事よね。タイトルの知名度にあぐらをかいちゃあ、おしめぇよ。
すみません、またお話がいつまでも本題に入らず失礼をばいたしました。
今回は、あの現在絶賛大ヒット公開中の映画『ゴジラ -1.0』の山崎貴監督……の奥様の、佐藤嗣麻子監督の伝説の一作についてであります!
さぁさ、ちゃっちゃと情報、情報っと!!
映画『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』(1995年4月 81分 ギャガ・コミュニケーションズ)
人気ホラーマンガ『エコエコアザラク』シリーズの初映像化作品。ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭「ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門南俊子賞(批評家賞)」受賞。
ラブストーリーの監督を希望していた佐藤により、ほのかな恋愛要素が重視された。
本作において、ミサが持ち物のロケットペンダントに入れた何者かの遺髪に語りかけるシーンがあるが、次回作『エコエコアザラク2 BIRTH OF THE WIZARD』(1996年)で誰の物であるのかが判明する。このミサのロケットの描写は、『エコエコアザラク3 MISA THE DARK ANGEL』(1998年)にも登場する。
あらすじ
東京都心にある聖華学園高等学校。2年7組の教室では、最近都内で頻繁に起きている不審死事故が話題となっていた。生徒で魔術オタクの水野は、点在する発生現場の中心に聖華学園が位置することから、一連の死が魔王ルシファを召喚するための儀式によるものであると推理する。
そんなとき、クラスに一人の少女が転校して来た。彼女の名は、黒井ミサ。その真の姿は、絶大な黒魔術の力を秘めた魔女であった。ミサの影をたたえた雰囲気はクラスメイトの新藤を魅了し、またある者には敵意を抱かせた。
いっぽう、7組の担任教師・白井響子は教え子の田中和美と同性愛の関係にあった。そのうわさをミサに話そうとした7組の学級委員長のみずきが急に苦しみだす。黒魔術の呪いであると看破したミサは学園内の用具置き場にたどり着き、そこでみずきの髪の毛が巻きつけられた呪いの人形を発見する。
ミサは確信するのだった。「この学園の中に、黒魔術を使う魔術師がいる……」
おもなキャスティング(年齢は劇場公開当時のもの)
黒井 ミサ …… 吉野 公佳(19歳)
倉橋 みずき …… 菅野 美穂(17歳)
新藤 剣一 …… 周摩(現・大沢一起 22歳)
水野 隆行 …… 高橋 直純(23歳)
白井 響子 …… 高樹 澪(35歳)
田中 和美 …… 角松 かのり(20歳)
渡辺 千絵 …… 柴田 実希(17歳)
高田 圭 …… 南 周平(17歳)
木村 謙吾 …… 須藤 丈士(16歳)
沼田 秀樹 …… 岡村 洋一(38歳)
おもなスタッフ(年齢は劇場公開当時のもの)
監督・ストーリー原案 …… 佐藤 嗣麻子(31歳)
脚本 …… 武上 純希(40歳)
音楽 …… 片倉 三起也( ALI PROJECT)
デジタルビジュアルエフェクト …… 山崎 貴(30歳)
スペシャルエフェクト …… 白組
アクション監督 …… 大滝 明利(31歳)
音響効果 …… 柴崎 憲治(39歳)
製作 …… ギャガ・コミュニケーションズ、円谷映像
おさらい! 『エコエコアザラク』シリーズとは……
『エコエコアザラク』 は、古賀新一(1936~2018年)による日本のホラーマンガ。これを原作とした映画作品や TVドラマも繰り返し製作されている。
『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて1975年9月~79年4月まで連載するロングヒット作となった。単行本は全19巻(角川書店マンガ文庫版は全10巻)。『ブラック・ジャック』(手塚治虫)、『ドカベン』(水島新司)、『750ライダー』(石井いさみ)、『がきデカ』(山上たつひこ)、『マカロニほうれん荘』(鴨川つばめ)などと並んで、同誌の黄金期を支えた作品の一つである。
1980年代には『月刊少年チャンピオン』にて『魔女黒井ミサ』、『魔女黒井ミサ2』として「高校生編」を連載。さらに1993年からは同じく秋田書店のホラーマンガ雑誌『サスペリア』に居を移し、『エコエコアザラク2』を連載した。
1998年10月~99年2月に同じく『サスペリア』にて新シリーズ『真・黒魔術エコエコアザラク』を連載した。
2009年5月28日発売の『週刊少年チャンピオン』第26号にて、同誌の「創刊40周年記念企画」として、30年ぶりの同誌登場となる読切新作が掲載された。その後、古賀の没後も他作家によるリメイク連載が行われるなど、シリーズの人気は衰えていない。
黒魔術を駆使する若い魔女・黒井ミサ(くろいミサ)を主人公とし、ミサに関わる奇怪な事件や人々の心の闇を描く。原作マンガの黒井ミサは、善人であれ悪人であれ場合によっては人を平気で惨殺する非情な魔女として登場し、特に自分に対する性犯罪者に対しては容赦なく報復する場面がたびたび描かれた。
作者の古賀新一へのインタビューによれば、ミサのキャラクターは親近感のある、どこにでもいそうな女の子であることに重点をおいたとしている。
ミサは、魔女としての残忍さと普通の中学生(シリーズ続編では高校生)としての可愛らしさを併せ持つ得体の知れないキャラクターであるが、回が進むにつれて明るい性格の少女へと変化していった。当初は怪異を起こす加害者としての立場が多かったが、連載後半では怪事件に巻き込まれる被害者になることも多くなった。また、別の悪と対決するスーパーヒロイン的要素も加味されるが、基本的には邪悪さを隠し持つダークヒロインであった。
黒井ミサの基本情報(原作マンガに準拠)
年齢 …… 15歳(中学生だが、続編シリーズおよび映像作品では高校生)
出身地 …… 東京都
家族 …… 父・臣夫、母・奈々子、亡妹・恵理(映像作品ではアンリ)、叔父・サトル、祖母(名前不明)
特技 …… 黒魔術、タロットカード占い、剣道、護身術
アルバイト歴 …… 辻占い師、看護助手、家政婦、古本屋、喫茶店など
ミサの呪文「エコエコアザラク」について
「 Eko, eko, azarak. Eko, eko, zomelak.」という文言は、イギリスのオカルト作家ジェラルド=ガードナー(1886~1964年)が1949年に著した小説『 High Magic’s Aid』第17章に登場する歌である。発表以後、この歌詞はガードナーの影響を受けた魔女教の典礼書で頻繁に使用されるようになった。 ガードナーと共に典礼書を著した作家のドリーン=ヴァリアンテ(1922~99年)によると、古い歌でありその意味は伝承されていない。古賀新一の『エコエコアザラク』シリーズでは黒魔術の呪文のように扱われているが、ガードナーの流れをくむ魔女教では単なる歌の歌詞である。
いや~、ついにこの作品にふれる時が来ましたヨ! 自分の中での「満を持して」感がハンパありません!!
まず、我が『長岡京エイリアン』と『エコエコアザラク』シリーズとの関わり合いを、「そんなんどうでもいいから早く感想言え」という声をガン無視して話させていただきますと、まずやっぱり、この「黒井ミサ」というキャラクターに青春時代からメロメロになっていた私は、同じく現代日本ホラー文化史において「ホラークイーン」の座を争っていた『リング』シリーズの山村貞子さん、『呪怨』シリーズの佐伯伽椰子さん、『富江』シリーズの川上富江さんに、このミサさんをアシスタントに交えましたエセ鼎談企画を、当ブログのかなり初期につづりました。なつかし~! ここで記した情報も、だいぶ古くなり申した……
そしてこれに飽き足らず、数ある『エコエコアザラク』シリーズの中でも、特に思春期の私を魅了した映画版『エコエコアザラク』3部作のレビューをせんとくわだてた時もあったのですが、今回扱う『1』の後続作となる『2』(ただし内容は前日譚)と『3』(ただし監督も主演も交代)の記事こそおっ立てたものの、Wikipedia の情報をのっけただけで当ブログ定番の「塩漬け」となっていたのでありました……うわ~ん、仕事で超忙しかったんだよう! 許してミサ様。
私に限らず、当時のホラー映画ファンに相当な衝撃を与えたこの『エコエコアザラク』3部作だったのですが、私にとって最も思い入れが深いというか、いちばんガツンときたのは、今回の第1作でした。やっぱりすごいです、この作品。
オイオイ、じゃあなんで一番好きな第1作をいの一番にブログで扱わなかったんだよ? といぶかる向きもあるかと思われますが、この理由は単純なことで、内容をちゃんと確認するために買おうとした DVDソフトが、この第1作だけ当時めちゃくちゃ高かったからなのでした。びんぼくさ!!
とまぁ、そんな経緯にもなっていない経緯をへて、この2023年に『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』をレビューさせていただきたいと思います。DVDをふんぱつして購入したのは2018年のことだったのですが、買っといてよかったよ! 今もっと高くなってんだもん。
それはともかく、公開2週目にして興行収入20億円を突破している『ゴジラ -1.0』の感想を先日つづっておいて、その次に記事にしたのがなんでまた四半世紀以上前の美少女ホラー映画なのかといいますと、それは言うまでもなく、このメッセージを満天下に訴えたいからなのであります。
山崎貴監督よりも、奥さんのほうがスゲーんだぞ!!
ほんと、これだけ。そして、佐藤嗣麻子監督の堅実な映画技術と、その美学を突き通す意志の強さに、なんと「1995年の菅野美穂さん」というニトログリセリン級の起爆剤が投下されたことによって、とんでもない奇跡の超傑作となってしまったのが、この第1作なのであります。
いやいや、別に私は、当時の菅野美穂さんのアイドル的人気を懐古的にほめたたえたいのではありません!
映画『富江』と『催眠』(ともに1999年)、そしてこの『エコエコアザラク』の菅野さんは……こわすぎ!!
いや、今作の菅野さんを怖いというのは完全なるネタバレになってしまうのですが、もうそんなんどうでもいいですよ! とにかく私は、一人でも多くの人に、「1990年代後期の菅野美穂」という、この人ほんとにやばいんじゃないかという顔を時々見せていた天才の狂気を、この『エコエコアザラク』を通して知っていただきたい、そして畏怖していただきたいのです。たんに鼻声で爬虫類っぽい顔立ちで、豪放磊落にガハハと笑う女優さんじゃないってことなのよォ。
いまや、いいポジションの大物女優さんですけどね……もう、ああいう役はおやりにならないんだろうなぁ。その後も、フジテレビの時代劇『怪奇百物語』中の『四谷怪談』(2002年)とか、TBS の大型時代劇『里見八犬伝』(2006年)とかでたま~に怖い役もやってましたが、すでに何かが「憑いてる」感じは薄れていたような気はします。
なんか、「悪役の演技がうまい」とかいう範疇じゃないんですよね。「神がかってる」とはよく言いますが、神だかなんだかよくわからない何かと歯車がかみ合っちゃって、得体の知れない存在が写り込んだ鏡のような「媒体」になっちゃってる恐ろしさというか。完全に開けてはいけない扉が開いているというか。
こういう、本人の計算と実力以上の「なにか」をまとっている女優さんって、まぁ今パッと思い出せる限りだと、『ピクニック at ハンギングロック』(1975年)のアンルイーズ=ランバートさんとか、『ポゼッション』(1980年)のイザベル=アジャーニさんとか、日本でいうと『ツナグ』(2012年)の橋本愛さんがそうだったような気がします。男性俳優さんで言うのならば、『シャイニング』(1980年)のジャック=ニコルソンと『帝都大戦』(1989年〉の嶋田久作さん、『ダークナイト』(2008年)のヒース=レジャーははずせませんよね!
美貌、迫力、危険性……そういう「域」に入り込んだ人の魅力は作品によってさまざまだと思うのですが、菅野さんについて言うと、その魅力は「無垢な残酷性」! これに尽きると思います。
あの目! 自分でその命をどうとでもできると踏んだ相手を見る時の、嬉々としてキラキラ光る、あの目!! もう楽しくて楽しくてしょうがないという表情で、「どう苦しませてから殺しちゃおうかな~♡」とつぶやきながら、トンボやカエルを引きちぎったり踏みつぶしたりする子どもの無垢な笑顔……
まさに、人間の道徳、倫理というせせっこましい重力から「ふわわ~っ♪」と飛び立ってしまっている恐怖の天使こそが、1990年代の菅野さんの正体だったのです。あの目もすごいんだけど、笑った時にズラリと並ぶ白い歯も怖いんだよな……ほんと、文楽人形でいたいけな美少女の顔が一瞬で鬼の形相に変身する「ガブ」っていう頭(かしら)がありますよね? あれ、そのもの! くる、くるとわかっていても見るたびに衝撃を受けちゃう。
だもんで、はっきり言っちゃうと、この記事で何万字を費やして本作の良さを語りつくしても、「いいから一回観てみて。」に勝る言葉は無いのであります。菅野さん、菅野さん! かの魔王ルシファもビビる菅野さんの狂演を見よ!! いや、ストーリー上はああいう力関係になっちゃってますが、悪魔よりも怖いのは、悪魔を必要とする人間の欲望ですよね。そ~れを17歳の女の子がやっちゃうんだもんなぁ! まいっちゃいますよ。
いちおう今回の記事は、後半にいつも通りの「映画本編視聴メモ」を羅列しておしまいとしたいと思います。その中で佐藤嗣麻子監督の才能の素晴らしさと、大魔王カンノの恐怖はかいつまんで申していきたいと思うのですが、ここでちょっと、主人公なのに菅野さんのためにそうとうかわいそうな追いやられ方を喫してしまっている映像版初代ミサこと、吉野公佳さんについて。ほんと、『バットマン』(1989年)のマイケル=キートンもかくやというスルーっぷり! でも、ちゃんといい雰囲気は出しているんですよ。陽はまた昇る!!
私もそうだったのですが、まず映画の良さをうんぬんする前に本作を観始めたお客さんの多くが感じたのは、原作マンガのファンであればある程「これ、黒井ミサかぁ?」と疑問を抱いてしまう違和感だったかと思います。まるで別人!
まず中学生でなく高校生という時点でだいぶ違いますし、時代設定も原作通りややバイオレンスながらも牧歌的な1970年代ではなくリアルタイムばりばりの1990年代中盤であるというアレンジがあるわけなのですが、とにもかくにもミサがほとんど笑わない鉄面皮のクールビューティになっているのが、かなり面食らう改変になっていたのではないでしょうか。原作マンガの黒井ミサは、確かに魅力的ではあっても、顔だけを見れば特に「美」がつくほどのこともない普通の少女ですし、冗談をとばせばギャグシーンも難なくこなす陽気さも見せることがあったのです。それがどうしてあんな、常に肩を怒らせた寡黙で不機嫌そうなおなごに……現代だったら絶対にビリー=アイリッシュ好きそう。当時はビョークかしら。
これはやっぱり、原作マンガの設定にそれほど依存せずに、自由に描きたい世界を創造した佐藤嗣麻子監督の意向によるものが大きいのではないでしょうか。『攻殻機動隊』の主人公・草薙素子とか『ゲゲゲの鬼太郎』サーガにおける猫娘とか、原作と派生作品とでキャラクター造形がじぇんじぇん違うというキャラクターは他にもいますが、それに匹敵するレベルで本作での黒井ミサをまったくの「別人」にしてしまったのは、ひとえに「いいから私に任せて!」という確固たる信念を持って挑戦した佐藤嗣麻子監督の勇気の勝利だと思います。いいのいいの、ちゃんと面白いんですから!
これを「原作テイストの無視」と感じてしまう方もいるかと思いますが、ラストシーンでのミサの哀しみを見るだに、映画をきれいに締めるのは「生き方の不器用なミサ」ですし、無数の表情を見せる原作ミサのある一面だけを抽出したという解釈をすれば、決して無視ではないでしょう。より原作に準拠した映像版ミサは、後年に別作品で出てきますし。
とかく佐藤嗣麻子監督の作風とアトミック大魔王カンノの存在感にかすんでしまいがちな吉野ミサなのですが、本作の陰性の魅力と哀しみを生み出す上で決して欠かすことのできない最重要パーツであることは間違いないと思います。
あの狂騒の1990年代の中にあって、ひとり愁いを満々とたたえる、深く刻まれた涙袋よ……だれだ「くま」って言った奴は!? 呪ってやる!!
≪まいどおなじみの~、視聴メモでございやす≫
・冒頭の OL逃走シーンからスピーディなカメラワークでいい感じなのだが、最初の鳥瞰ショットで OLが突き飛ばした2~3人のあんちゃんグループが、次の OLを正面に捉えたショットに切り替わっても後ろの方で怪訝そうに振り返っているのが、地味ながらも誠実な撮り方をしていてすばらしい。ふつうこういう群衆シーンって、時間が経過していくからカットが切り替わると歩いてる人が全然違う顔ぶれになっちゃうじゃない。2台カメラを使っているのか、もしくはちゃんとエキストラを止めて撮り直してるんだろうなぁ。えらい!
・声優を加えたりして、ローブのフードをかぶった「真犯人」の正体はぼかしているが……儀式の現場が比較的明るいので、顔の下半分だけでも誰だかわかるよー! いや、のっけからバレてるとしても、クライマックスの真犯人の演技はすごいんですよ。
・フィルム撮影による曇天のようなもやっとした色調と、アリプロジェクトの片倉さんの陰鬱な中にも気品のある音楽が非常にマッチしていて、オープニングからいやがおうにも期待感が増す。片倉さんこそ、もっといろんな映像作品で音楽を手がけていただきたい! でもあれですね、佐藤嗣麻子監督作品って、4K デジタルリマスターとかしないほうがいい作風なんだろうなぁ。
・風紀指導と称して女子高生をべたべた触る教師の沼田を演じる岡村さんの手つきが笑っちゃうほどいやらしい! 一瞬、実相寺昭雄監督の作品かとみまごうばかりの手指のねちっこさ。いや、こんなの90年代だったとしても「イヤな先生」どまりじゃなくて犯罪者でしょ……
・冒頭で敵役が「とんでもない魔力を持った奴が来る」とふって、歩いてくる主人公の足や後ろ姿でひっぱっていき、満を持して振り向きざまにミサが名乗るところでタイトルがやっと出るという、この一連の流れの美しさ! 決して新味があるわけでもない実にオーソドックスな導入なのだが、これをてらわずにちゃんと正面きってやれるっていうことが、佐藤嗣麻子監督の確かな実力を物語ってるんですよ。漢らしい!
・朝のホームルーム前に教室で2~3人のクラスメイトを集め、東京都の地図を広げてオカルト話を熱心にする生徒・水野。かなりかんばしいオタク臭をはなつ場面のはずなのだが、演じているのが声も良くてちょっと不良の雰囲気もあるイケメン高橋直純さんなので、スクールカースト底辺感が微塵も感じられない! ダウト!! それを証拠に、話聞いてんの全員女子だし……ヘアスタイルも、それ寝ぐせでもくせっ毛でもなく、完全にトッポいスプレーセットじゃんか~! さりげにイヤーカフもしてるし! この偽物め!! たぶん、当時の大槻ケンヂさん的なモテるオタクを意識したキャラクター造形だったのではないかと。大槻さんとは全く方向性が違うけど。
・水野が説明に使用していた地図をよく見ると、本作の舞台となる聖華学園の所在地が、東京都港区の国道246号線(青山通り)の南、都道418号線(明治神宮外苑西通り)と都道413号線(赤坂通りとみゆき通りの中間地点)の交差する付近、すなはち、東京都心最大の心霊スポットと言っても過言でない、あの「青山霊園」に非常に近い土地にあることがわかる。こういう一瞬しか見えないような設定にも、これ以上ないくらいおあつらえ向きな場所を選んでくる制作陣のプロフェッショナルな力の入れ方に脱帽せざるを得ない。宗教がまるで違うけど、そんなとこで黒魔術やっちゃダメー!! 天海大僧正もビックリよ。
・オタク水野の一般高校生らしからぬテクニシャンな語り口に、クラスのリア充代表の新藤たちも思わず聞き入ってしまう。いやいや、そこは「何言ってんだオメー!」とかせせら笑って本を奪い取るところでしょ!? なんだこの映画、オタクに異常にやさしいぞ……この後、全部水野の夢でした~みたいなバッドエンドオチが待ってるのか? 逆にこの生ぬるさが、観る者(オタク)の不安を掻き立てる。しかし、ほんとに水野を演じる高橋直純さんは上手ですね……そりゃ声優さんでもやってけるわ。
・2年7組担任の白井先生のふわっと立った前髪も、令和から見ると非常になつかしいのだが、教室の照明がやや黄色っぽい蛍光灯なのも、思わず目頭が熱くなるものがある。朝っぱらなのに、なんか定時制みたいな感じ……
・今どきの女子高生で、制服姿にカチューシャのヘアバンドつけてる人って、まだいるんですかね。まず校則でダメか。ともあれ、このちょっと冒険しているワンポイントで、みずきが学級委員長と言っても決してお堅いばかりの人間ではないというキャラクターがほの見える。考えてるな~、すみずみまで!
・基本的に無表情でズンズン歩く長身のミサと、その一歩前をちょこちょこすまして歩く小柄なみずきの身長差がすばらしい。この映画、セリフ以外の「雰囲気」で語る情報量が潤沢で油断ならないぞ! さすがは佐藤嗣麻子監督。
・ミサが劇中で最初に魔術を使うところで、ポーズを決めた時に「ピキュン!」という非常にアニメチックな効果音が鳴り響くのが、特撮ヒーロー番組か1980年代に大流行したキョンシー映画を彷彿とさせてかなりなつかしい。基本的に低温な印象の画作りが目立つ本作なのだが、要所要所の大事なところでこういうミーハーな演出が入るのも、バランスが良くてポイントが高い。そして、その直後のミサのパン……なんと巧妙な映像設計か!! これに魂を奪われない男がいるだろうか、いやいない!!
・キャラクター設計上の都合とはいえ、ぎこちない硬質な演技の続く本作のミサなのだが、だからこそ、時々ちょっと口元が緩んだところを見ただけでものすごく得をした気分になる。う~ん、すべては佐藤嗣麻子監督のたなごころの上か! 演技がうまい以外の俳優の魅力の引き出し方を本当によくわかってらっしゃる。
・とかく目力で言うと2代目ミサこと佐伯日菜子さんが話題になりがちなのだが、初代の吉野さんも十分すぎる程に目力がハンパない。人の心をえぐるような強烈な眼光……なんか、NHKの『人形劇 三国志』の川本喜八郎作の人形みたいな人間離れした目よ! たとえが昭和!!
・屋上に続く階段の最上階踊り場という、「密談と言えば、ここ!」な場所で沼田先生を呪う儀式を行おうとする水野グループ。儀式に使われる(原宿で買った)わら人形を見てミサがにやっと笑うところが、「よかった、みずきを呪詛した物じゃない。」という安堵でなく、どう見ても「これだから素人は……」みたいなプロ目線からのあざけりにしか見えないのがたまらない。所詮は原宿……
・水野グループの誰かが隠し撮りしたらしい、沼田先生の顔写真が非常にいい表情をしている。こういう絵に描いたようなゲスい悪役って、現実世界には掃いて捨てたいくらいにいるのに、フィクション作品の中ではとんと見なくなりましたよね……どんな悪役も、実は同情の余地があるみたいな背景を語られて中途半端になっちゃう。ドラマ『人間・失格』の斎藤洋介さんくらいにすがすがしいまでのワルはいないのかと! 江口のりこさんの今後のご活躍に期待したい!!
・呪いでみごと沼田先生の腸を冥土送りにしたミサに2年7組の女子たちは拍手喝采。メンツ丸つぶれになった水野は、揶揄する新藤に「うるせぇ!」と叫び、入口の壁をバン!と叩いて教室から出ていくが、それに女子たちがいっさい反応していないのが、水野の存在感と声量の小ささを象徴している。くじけるな、少年。
・カーテンを閉め切った美術室の中で、「ほんとにこれ一般映画なんですか」と思わず目を疑うような痴態をけっこう長め(約2分10秒)に繰り広げる、白井先生と田中さん(たぶんここらへんが劇場公開版ではカットされた部分かと推察されます)! 特に『ウルトラマンティガ』を見て育った人が見たらショックは甚大なのではないだろうか。イルマ隊長~! 前からあやしいあやしいとは思ってたけど、やっぱり!!
・復讐の炎に燃える水野の策か、たちまち学園中に広まってしまったミサの過去に関する黒いうわさ。ミサはひとり屋上で、胸に隠し持っていたロケットペンダントの中の髪の毛に哀しく戸惑う思いを打ち明ける。この時点でミサが本音を語ることのできる人間は学園内に誰もいないので、物を相手にしてという奇策を使ってでも、10代の少女らしい弱さを正直に吐露するシーンを入れるのは、ミサを感情移入しやすい物語の主人公にするために絶対不可欠な演出である。そうしないと寡黙でとっつきにくい異能者になりすぎちゃうから。ここもすばらしいバランス感覚!
・さすがは黒井ミサ、スポーツ万能のイケメンに「俺と付き合わない?」と告白されても、こともなげに「私のまわりにいる人はよく死ぬから、かまわないで。」と断れる女子はそうそういないだろう。ケンシロウみたいな、自らの宿命への諦念を感じる。これをちゃんと演じきれる吉野さん、やっぱただもんじゃない!
・白井先生が放課後の追試の告知をするシーンで絶対に見逃してはならないのは、それを聞いている時のみずきの表情である。一見、心ここにあらずというか、カメラが回っているのに気づいていないかのような「無」の状態で虚空を見つめているのだが、のちのちの展開から振り返ると、かなり恐ろしい感情が心中に渦巻いていることがよくわかる。モブのような位置にいても、ちゃ~んと菅野さんは演技してるわけよ! ほんとすごい、この17歳。
・田中さんを操り人形のように支配する手練といい、一人になった時にこれ以上ないくらいにワルい笑みを浮かべる様子といい、本作の白井先生はかなり教科書的に優秀な「限りなく疑わしいデコイ」ポジションをまっとうしているキャラクターである。まるで2時間サスペンスの中尾彬か萩原流行のような美しき伝統を堂々と取り入れるのも、佐藤嗣麻子監督の「直球ストレート勝負」な漢前っぷりの証左ではないだろうか。惚れる!!
・陽が落ちた学校校舎に鳴り響く重々しい13点鐘、そしていつの間にか教室の黒板に記されていた「13」の文字! ここ、この日常から非日常へ転換を、セリフも BGMも使わずに映像のカット割りだけではっきり観る者に知らしめるテクニックが素晴らしい。う~ん、ワクワクする! 佐藤嗣麻子監督には、今からでも全然遅くないから辻村深月先生のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を映像化していただきたい!! でも、本作の時点でもう半分くらい映像化してるか。
・後半を展開を見ていてしみじみ思うのだが、なんで1990年代の中盤に、1970年代にはやった『エコエコアザラク』が映像化されたのかって、そりゃもう当時大流行していた「学校の怪談」ブームに乗っかるのに最適だったからですよね。でもこれ、シリーズ化された東宝の映画『学校の怪談』よりも早く作られてるから(『エコエコ』が1995年4月公開で『学校の怪談』は同年7月公開)、こっちのほうがブームの起爆剤となったのか? でも、なにかとアダルトだからブームの本流とは言い難いか。
・1学年で7組もある規模の高校のわりに、美術室や職員室がのきなみふつうの教室と同サイズのせまっ苦しさなのはなぜ……と気にするのはなしだ! いろいろスタジオのやりくりが大変なのでしょうね……それにしても職員室のブラウン管テレビと灰皿がなつかしくてしょうがない。
・一気に5人もの登場人物たちが惨殺される職員室のシーンも、よくよく見ると「音楽」、「減っていく黒板の数字」、「ドアを内側から叩く生徒」、「照明」、「血のり」だけでちゃんと盛り上げて描いているのが、怖くなるよりも感心してしまう。やっぱ、必要なのは金より知恵よね! 佐藤嗣麻子監督の旦那さま、そうですよね!!
・水野の「守る? なんにもできなかったくせに。」という非難に、思わず胸のロケットを握りしめるミサの描写がものすんごくいい。確実にミサの過去に、大切な誰かを守れなかった哀しい経験があったんだなと思わせる演出! 気になりますよね~、ロケットの毛髪の主。
・本作において、ミサが一貫して自分の使う黒魔術に対して「負い目」を持っているのが非常に興味深い。とはいえ、転校して早々に沼田先生に呪いをかけているので新藤たちはミサがちょっと違う人種であることは充分認識しているのだが、それでも周りに聞こえないように小声で呪文を詠むという抵抗が、魔女に徹しきれないミサの未熟さを象徴しているようでかわいらしい。あと、屋上に続く扉を開けたような手ごたえを感じて「やった!」みたいなとびっきりの笑顔を見せるところも、いいね! 開けられなかったけど。
・もうとにかく、本編時間残り13分からの菅野さんのブーストのかけ方がものすごすぎる! こりゃもう実際に観ていただくより他ないのだが、魔王ルシファの召喚が目的と言うが、あんたもう召喚してるんじゃありませんかってくらいの大迫力でミサにせまる! アイドルじゃあないよね~、その笑い方!!
・ミサの質問に対しての「はい」という意味の菅野さんの「フハハ!」という笑いが大魔王の風格に満ちている。こわ~! けどお茶目。
・本作は、いまや『シン・ゴジラ』や『ゴジラ -1.0』で世界的に知られる、山崎貴ひきいる VFXプロダクション「白組」が特撮に参加している作品なのだが、実際に CGを使用しているカットは本当に数えるほどしかないのが、映画特殊技術の歴史を見るようで印象的である。スピルバーグの『ジュラシック・パーク』第1作(1993年)だって、よくよく見ると CG恐竜の出演カットは意外と少ないもんね。ほとんどのアクションが血のり、ダミー人形、送風機などの伝統的な手作りスプラッタ映画方式で作られているだが、肉体が粉になって飛ばされるミサのあたりから、急に作品が変わったかのように惜しげもなく投入されていく CG作画の力の入れようは、まさに現在の白組を予感させるものがある。ま、召喚された魔王ルシファのお姿はご愛敬ですが……『孔雀王』(1988年)を観たときも、ラスボスがあんな感じだったからガッカリしたっけなぁ~!
・最期数秒の断末魔というのをいいことに、菅野さんがアイドルとしても女優さんとしても17歳のうら若き女の子としてもいかがなものかという顔を見せてくれるのが、サービスといってよいのかどうか……それを見せられて喜ぶ人は少ないですよね、いや、私は喜ぶけど。
・本作のラスボスの末路が、『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のラスボスの敗因とおんなじくらいに「ごくごく自然な道理」な感じがして、ミサと同様に観る者にやるせない無力感をもたらす。大将、そりゃ無理ってもんですわ……相手わるすぎ。
・恐怖の夜が明け、朝焼けの屋上にひとり立つミサ。そして、朝もやの中、歩いてゆくミサの後ろ姿にしっとりとかかるエンディングテーマ。最高ですね! やっぱり、ダークヒーロー、ダークヒロインはひとりで地平線の彼方へ去ってゆくもんなのだなぁ。佐藤嗣麻子監督、最後の最後までわかってらっしゃる。
……長々と失礼いたしました。
ともかく、この『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』は、81分という小兵でありながら、いや、その短さであるからこそ、佐藤嗣麻子監督の「ここは絶対におさえる」という映像美学が頭からしっぽの先までぎっちり詰まった至高の傑作となっております。
そりゃまぁ予算の少なさは推し測れるわけなのですが、アイデアとセンスでどうとでもしてやるという気合を感じることができます。漢!!
そして、監督の才覚もさることながら、「大事なところに1990年代の菅野美穂さんを召喚した」という奇跡の一手が、この作品をもう1フェイズ上の伝説に昇華させたことも忘れてはなりません。
これ以降も『エコエコアザラク』シリーズは連綿と続いていくわけなのですが、まさに魔女の物語らしく、第1作たる本作がこれ以降に与えた「呪縛」は、そ~と~に高いハードルとしてのしかかってくるのでありました……
そのうち、続編の第2・3作に関する我が『長岡京エイリアン』の記事も、ちゃんと完成させてまいりたいと思います。もうちょっとお待ちになっておくんなせぇ! 菅野美穂さんのさらに超気持ち悪い大怪作『富江』も、忘れてはおりません!
セーラー服と黒魔術、バンザイ!! 結局はそこよね。
いや~、世間はもう、明日から公開の映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の話題でもちきりですねぇ! たのしみだなぁオイ!!
……え? あんまりもちきりってほどでもない? うん、実は私の周辺でも、驚くほど静かです……
『ゴジラ -1.0』とか『オトナプリキュア』は引き続き人気ですし、再来週から公開の北野映画最新作の『首』への、不安もだいぶ入り混じったワクワク感も徐々に高まりつつあるのですが、この『ゲゲゲの謎』だけは、ねぇ……まぁ必ず映画館に観に行くにはしても、なーんか今ひとつ、ピンとこないんですよねぇ。「水木しげる生誕100年記念作品」なのに。あのさまざまな実験精神に満ち溢れていたアニメ第6期『ゲゲゲの鬼太郎』(2018~20年放送)の、満を持しての劇場オリジナル作品だというのに!
まぁ世間的には、どうしても第6期が終わってから時間がたちすぎてるのが大きいですかね。PG12指定というのも、どの客層を狙っているのかで多少のとっつきにくさが生じているような。
そして、なにはなくとも私にとってデカいのは、キャスティング表を見るだに「おぬら様」が出なさそうなこと! これはいけません!! え? 鬼舞辻さんは出るらしいって? それじゃあ埋まんねぇよ!!
いや、なんだかんだ言っても楽しみにしてますけどね……本格的にコワい鬼太郎譚、見せてもらおうじゃありませんか!
なにげに、音楽が TV版第6期の高梨康治さんじゃなくて、あの川井憲次さんになってるのも気になりますね。個人的には、『墓場鬼太郎』味が強そうなんだから是非とも和田薫先生に復活してほしかったけど。『攻殻機動隊』っぽい鬼太郎かぁ。やっぱ楽しみ!
余談ですが、私は TV版第6期から『ゲゲゲの謎』までの3年という短くない間隙を埋めんとするせめてものレジスタンス活動として、今年になって彗星の如く登場した「レノア クエン酸 in 超消臭」CM での、第6期バージョンの猫娘を見事に実写映像化した飯尾夢奏(ゆめな 13歳)さんの功績を、この場を借りて大絶賛させていただきたいと思います。『ゲゲゲの謎』が大ヒットしたら、次は実写映像作品を飯尾さん続投でお願い致します! 他のキャスティングは誰でもいい!!
でも、あながち冗談ばかりでもなく、こういうちょっとした草の根活動で『ゲゲゲの鬼太郎』を思い出してもらうのは、大事よね。タイトルの知名度にあぐらをかいちゃあ、おしめぇよ。
すみません、またお話がいつまでも本題に入らず失礼をばいたしました。
今回は、あの現在絶賛大ヒット公開中の映画『ゴジラ -1.0』の山崎貴監督……の奥様の、佐藤嗣麻子監督の伝説の一作についてであります!
さぁさ、ちゃっちゃと情報、情報っと!!
映画『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』(1995年4月 81分 ギャガ・コミュニケーションズ)
人気ホラーマンガ『エコエコアザラク』シリーズの初映像化作品。ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭「ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門南俊子賞(批評家賞)」受賞。
ラブストーリーの監督を希望していた佐藤により、ほのかな恋愛要素が重視された。
本作において、ミサが持ち物のロケットペンダントに入れた何者かの遺髪に語りかけるシーンがあるが、次回作『エコエコアザラク2 BIRTH OF THE WIZARD』(1996年)で誰の物であるのかが判明する。このミサのロケットの描写は、『エコエコアザラク3 MISA THE DARK ANGEL』(1998年)にも登場する。
あらすじ
東京都心にある聖華学園高等学校。2年7組の教室では、最近都内で頻繁に起きている不審死事故が話題となっていた。生徒で魔術オタクの水野は、点在する発生現場の中心に聖華学園が位置することから、一連の死が魔王ルシファを召喚するための儀式によるものであると推理する。
そんなとき、クラスに一人の少女が転校して来た。彼女の名は、黒井ミサ。その真の姿は、絶大な黒魔術の力を秘めた魔女であった。ミサの影をたたえた雰囲気はクラスメイトの新藤を魅了し、またある者には敵意を抱かせた。
いっぽう、7組の担任教師・白井響子は教え子の田中和美と同性愛の関係にあった。そのうわさをミサに話そうとした7組の学級委員長のみずきが急に苦しみだす。黒魔術の呪いであると看破したミサは学園内の用具置き場にたどり着き、そこでみずきの髪の毛が巻きつけられた呪いの人形を発見する。
ミサは確信するのだった。「この学園の中に、黒魔術を使う魔術師がいる……」
おもなキャスティング(年齢は劇場公開当時のもの)
黒井 ミサ …… 吉野 公佳(19歳)
倉橋 みずき …… 菅野 美穂(17歳)
新藤 剣一 …… 周摩(現・大沢一起 22歳)
水野 隆行 …… 高橋 直純(23歳)
白井 響子 …… 高樹 澪(35歳)
田中 和美 …… 角松 かのり(20歳)
渡辺 千絵 …… 柴田 実希(17歳)
高田 圭 …… 南 周平(17歳)
木村 謙吾 …… 須藤 丈士(16歳)
沼田 秀樹 …… 岡村 洋一(38歳)
おもなスタッフ(年齢は劇場公開当時のもの)
監督・ストーリー原案 …… 佐藤 嗣麻子(31歳)
脚本 …… 武上 純希(40歳)
音楽 …… 片倉 三起也( ALI PROJECT)
デジタルビジュアルエフェクト …… 山崎 貴(30歳)
スペシャルエフェクト …… 白組
アクション監督 …… 大滝 明利(31歳)
音響効果 …… 柴崎 憲治(39歳)
製作 …… ギャガ・コミュニケーションズ、円谷映像
おさらい! 『エコエコアザラク』シリーズとは……
『エコエコアザラク』 は、古賀新一(1936~2018年)による日本のホラーマンガ。これを原作とした映画作品や TVドラマも繰り返し製作されている。
『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて1975年9月~79年4月まで連載するロングヒット作となった。単行本は全19巻(角川書店マンガ文庫版は全10巻)。『ブラック・ジャック』(手塚治虫)、『ドカベン』(水島新司)、『750ライダー』(石井いさみ)、『がきデカ』(山上たつひこ)、『マカロニほうれん荘』(鴨川つばめ)などと並んで、同誌の黄金期を支えた作品の一つである。
1980年代には『月刊少年チャンピオン』にて『魔女黒井ミサ』、『魔女黒井ミサ2』として「高校生編」を連載。さらに1993年からは同じく秋田書店のホラーマンガ雑誌『サスペリア』に居を移し、『エコエコアザラク2』を連載した。
1998年10月~99年2月に同じく『サスペリア』にて新シリーズ『真・黒魔術エコエコアザラク』を連載した。
2009年5月28日発売の『週刊少年チャンピオン』第26号にて、同誌の「創刊40周年記念企画」として、30年ぶりの同誌登場となる読切新作が掲載された。その後、古賀の没後も他作家によるリメイク連載が行われるなど、シリーズの人気は衰えていない。
黒魔術を駆使する若い魔女・黒井ミサ(くろいミサ)を主人公とし、ミサに関わる奇怪な事件や人々の心の闇を描く。原作マンガの黒井ミサは、善人であれ悪人であれ場合によっては人を平気で惨殺する非情な魔女として登場し、特に自分に対する性犯罪者に対しては容赦なく報復する場面がたびたび描かれた。
作者の古賀新一へのインタビューによれば、ミサのキャラクターは親近感のある、どこにでもいそうな女の子であることに重点をおいたとしている。
ミサは、魔女としての残忍さと普通の中学生(シリーズ続編では高校生)としての可愛らしさを併せ持つ得体の知れないキャラクターであるが、回が進むにつれて明るい性格の少女へと変化していった。当初は怪異を起こす加害者としての立場が多かったが、連載後半では怪事件に巻き込まれる被害者になることも多くなった。また、別の悪と対決するスーパーヒロイン的要素も加味されるが、基本的には邪悪さを隠し持つダークヒロインであった。
黒井ミサの基本情報(原作マンガに準拠)
年齢 …… 15歳(中学生だが、続編シリーズおよび映像作品では高校生)
出身地 …… 東京都
家族 …… 父・臣夫、母・奈々子、亡妹・恵理(映像作品ではアンリ)、叔父・サトル、祖母(名前不明)
特技 …… 黒魔術、タロットカード占い、剣道、護身術
アルバイト歴 …… 辻占い師、看護助手、家政婦、古本屋、喫茶店など
ミサの呪文「エコエコアザラク」について
「 Eko, eko, azarak. Eko, eko, zomelak.」という文言は、イギリスのオカルト作家ジェラルド=ガードナー(1886~1964年)が1949年に著した小説『 High Magic’s Aid』第17章に登場する歌である。発表以後、この歌詞はガードナーの影響を受けた魔女教の典礼書で頻繁に使用されるようになった。 ガードナーと共に典礼書を著した作家のドリーン=ヴァリアンテ(1922~99年)によると、古い歌でありその意味は伝承されていない。古賀新一の『エコエコアザラク』シリーズでは黒魔術の呪文のように扱われているが、ガードナーの流れをくむ魔女教では単なる歌の歌詞である。
いや~、ついにこの作品にふれる時が来ましたヨ! 自分の中での「満を持して」感がハンパありません!!
まず、我が『長岡京エイリアン』と『エコエコアザラク』シリーズとの関わり合いを、「そんなんどうでもいいから早く感想言え」という声をガン無視して話させていただきますと、まずやっぱり、この「黒井ミサ」というキャラクターに青春時代からメロメロになっていた私は、同じく現代日本ホラー文化史において「ホラークイーン」の座を争っていた『リング』シリーズの山村貞子さん、『呪怨』シリーズの佐伯伽椰子さん、『富江』シリーズの川上富江さんに、このミサさんをアシスタントに交えましたエセ鼎談企画を、当ブログのかなり初期につづりました。なつかし~! ここで記した情報も、だいぶ古くなり申した……
そしてこれに飽き足らず、数ある『エコエコアザラク』シリーズの中でも、特に思春期の私を魅了した映画版『エコエコアザラク』3部作のレビューをせんとくわだてた時もあったのですが、今回扱う『1』の後続作となる『2』(ただし内容は前日譚)と『3』(ただし監督も主演も交代)の記事こそおっ立てたものの、Wikipedia の情報をのっけただけで当ブログ定番の「塩漬け」となっていたのでありました……うわ~ん、仕事で超忙しかったんだよう! 許してミサ様。
私に限らず、当時のホラー映画ファンに相当な衝撃を与えたこの『エコエコアザラク』3部作だったのですが、私にとって最も思い入れが深いというか、いちばんガツンときたのは、今回の第1作でした。やっぱりすごいです、この作品。
オイオイ、じゃあなんで一番好きな第1作をいの一番にブログで扱わなかったんだよ? といぶかる向きもあるかと思われますが、この理由は単純なことで、内容をちゃんと確認するために買おうとした DVDソフトが、この第1作だけ当時めちゃくちゃ高かったからなのでした。びんぼくさ!!
とまぁ、そんな経緯にもなっていない経緯をへて、この2023年に『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』をレビューさせていただきたいと思います。DVDをふんぱつして購入したのは2018年のことだったのですが、買っといてよかったよ! 今もっと高くなってんだもん。
それはともかく、公開2週目にして興行収入20億円を突破している『ゴジラ -1.0』の感想を先日つづっておいて、その次に記事にしたのがなんでまた四半世紀以上前の美少女ホラー映画なのかといいますと、それは言うまでもなく、このメッセージを満天下に訴えたいからなのであります。
山崎貴監督よりも、奥さんのほうがスゲーんだぞ!!
ほんと、これだけ。そして、佐藤嗣麻子監督の堅実な映画技術と、その美学を突き通す意志の強さに、なんと「1995年の菅野美穂さん」というニトログリセリン級の起爆剤が投下されたことによって、とんでもない奇跡の超傑作となってしまったのが、この第1作なのであります。
いやいや、別に私は、当時の菅野美穂さんのアイドル的人気を懐古的にほめたたえたいのではありません!
映画『富江』と『催眠』(ともに1999年)、そしてこの『エコエコアザラク』の菅野さんは……こわすぎ!!
いや、今作の菅野さんを怖いというのは完全なるネタバレになってしまうのですが、もうそんなんどうでもいいですよ! とにかく私は、一人でも多くの人に、「1990年代後期の菅野美穂」という、この人ほんとにやばいんじゃないかという顔を時々見せていた天才の狂気を、この『エコエコアザラク』を通して知っていただきたい、そして畏怖していただきたいのです。たんに鼻声で爬虫類っぽい顔立ちで、豪放磊落にガハハと笑う女優さんじゃないってことなのよォ。
いまや、いいポジションの大物女優さんですけどね……もう、ああいう役はおやりにならないんだろうなぁ。その後も、フジテレビの時代劇『怪奇百物語』中の『四谷怪談』(2002年)とか、TBS の大型時代劇『里見八犬伝』(2006年)とかでたま~に怖い役もやってましたが、すでに何かが「憑いてる」感じは薄れていたような気はします。
なんか、「悪役の演技がうまい」とかいう範疇じゃないんですよね。「神がかってる」とはよく言いますが、神だかなんだかよくわからない何かと歯車がかみ合っちゃって、得体の知れない存在が写り込んだ鏡のような「媒体」になっちゃってる恐ろしさというか。完全に開けてはいけない扉が開いているというか。
こういう、本人の計算と実力以上の「なにか」をまとっている女優さんって、まぁ今パッと思い出せる限りだと、『ピクニック at ハンギングロック』(1975年)のアンルイーズ=ランバートさんとか、『ポゼッション』(1980年)のイザベル=アジャーニさんとか、日本でいうと『ツナグ』(2012年)の橋本愛さんがそうだったような気がします。男性俳優さんで言うのならば、『シャイニング』(1980年)のジャック=ニコルソンと『帝都大戦』(1989年〉の嶋田久作さん、『ダークナイト』(2008年)のヒース=レジャーははずせませんよね!
美貌、迫力、危険性……そういう「域」に入り込んだ人の魅力は作品によってさまざまだと思うのですが、菅野さんについて言うと、その魅力は「無垢な残酷性」! これに尽きると思います。
あの目! 自分でその命をどうとでもできると踏んだ相手を見る時の、嬉々としてキラキラ光る、あの目!! もう楽しくて楽しくてしょうがないという表情で、「どう苦しませてから殺しちゃおうかな~♡」とつぶやきながら、トンボやカエルを引きちぎったり踏みつぶしたりする子どもの無垢な笑顔……
まさに、人間の道徳、倫理というせせっこましい重力から「ふわわ~っ♪」と飛び立ってしまっている恐怖の天使こそが、1990年代の菅野さんの正体だったのです。あの目もすごいんだけど、笑った時にズラリと並ぶ白い歯も怖いんだよな……ほんと、文楽人形でいたいけな美少女の顔が一瞬で鬼の形相に変身する「ガブ」っていう頭(かしら)がありますよね? あれ、そのもの! くる、くるとわかっていても見るたびに衝撃を受けちゃう。
だもんで、はっきり言っちゃうと、この記事で何万字を費やして本作の良さを語りつくしても、「いいから一回観てみて。」に勝る言葉は無いのであります。菅野さん、菅野さん! かの魔王ルシファもビビる菅野さんの狂演を見よ!! いや、ストーリー上はああいう力関係になっちゃってますが、悪魔よりも怖いのは、悪魔を必要とする人間の欲望ですよね。そ~れを17歳の女の子がやっちゃうんだもんなぁ! まいっちゃいますよ。
いちおう今回の記事は、後半にいつも通りの「映画本編視聴メモ」を羅列しておしまいとしたいと思います。その中で佐藤嗣麻子監督の才能の素晴らしさと、大魔王カンノの恐怖はかいつまんで申していきたいと思うのですが、ここでちょっと、主人公なのに菅野さんのためにそうとうかわいそうな追いやられ方を喫してしまっている映像版初代ミサこと、吉野公佳さんについて。ほんと、『バットマン』(1989年)のマイケル=キートンもかくやというスルーっぷり! でも、ちゃんといい雰囲気は出しているんですよ。陽はまた昇る!!
私もそうだったのですが、まず映画の良さをうんぬんする前に本作を観始めたお客さんの多くが感じたのは、原作マンガのファンであればある程「これ、黒井ミサかぁ?」と疑問を抱いてしまう違和感だったかと思います。まるで別人!
まず中学生でなく高校生という時点でだいぶ違いますし、時代設定も原作通りややバイオレンスながらも牧歌的な1970年代ではなくリアルタイムばりばりの1990年代中盤であるというアレンジがあるわけなのですが、とにもかくにもミサがほとんど笑わない鉄面皮のクールビューティになっているのが、かなり面食らう改変になっていたのではないでしょうか。原作マンガの黒井ミサは、確かに魅力的ではあっても、顔だけを見れば特に「美」がつくほどのこともない普通の少女ですし、冗談をとばせばギャグシーンも難なくこなす陽気さも見せることがあったのです。それがどうしてあんな、常に肩を怒らせた寡黙で不機嫌そうなおなごに……現代だったら絶対にビリー=アイリッシュ好きそう。当時はビョークかしら。
これはやっぱり、原作マンガの設定にそれほど依存せずに、自由に描きたい世界を創造した佐藤嗣麻子監督の意向によるものが大きいのではないでしょうか。『攻殻機動隊』の主人公・草薙素子とか『ゲゲゲの鬼太郎』サーガにおける猫娘とか、原作と派生作品とでキャラクター造形がじぇんじぇん違うというキャラクターは他にもいますが、それに匹敵するレベルで本作での黒井ミサをまったくの「別人」にしてしまったのは、ひとえに「いいから私に任せて!」という確固たる信念を持って挑戦した佐藤嗣麻子監督の勇気の勝利だと思います。いいのいいの、ちゃんと面白いんですから!
これを「原作テイストの無視」と感じてしまう方もいるかと思いますが、ラストシーンでのミサの哀しみを見るだに、映画をきれいに締めるのは「生き方の不器用なミサ」ですし、無数の表情を見せる原作ミサのある一面だけを抽出したという解釈をすれば、決して無視ではないでしょう。より原作に準拠した映像版ミサは、後年に別作品で出てきますし。
とかく佐藤嗣麻子監督の作風とアトミック大魔王カンノの存在感にかすんでしまいがちな吉野ミサなのですが、本作の陰性の魅力と哀しみを生み出す上で決して欠かすことのできない最重要パーツであることは間違いないと思います。
あの狂騒の1990年代の中にあって、ひとり愁いを満々とたたえる、深く刻まれた涙袋よ……だれだ「くま」って言った奴は!? 呪ってやる!!
≪まいどおなじみの~、視聴メモでございやす≫
・冒頭の OL逃走シーンからスピーディなカメラワークでいい感じなのだが、最初の鳥瞰ショットで OLが突き飛ばした2~3人のあんちゃんグループが、次の OLを正面に捉えたショットに切り替わっても後ろの方で怪訝そうに振り返っているのが、地味ながらも誠実な撮り方をしていてすばらしい。ふつうこういう群衆シーンって、時間が経過していくからカットが切り替わると歩いてる人が全然違う顔ぶれになっちゃうじゃない。2台カメラを使っているのか、もしくはちゃんとエキストラを止めて撮り直してるんだろうなぁ。えらい!
・声優を加えたりして、ローブのフードをかぶった「真犯人」の正体はぼかしているが……儀式の現場が比較的明るいので、顔の下半分だけでも誰だかわかるよー! いや、のっけからバレてるとしても、クライマックスの真犯人の演技はすごいんですよ。
・フィルム撮影による曇天のようなもやっとした色調と、アリプロジェクトの片倉さんの陰鬱な中にも気品のある音楽が非常にマッチしていて、オープニングからいやがおうにも期待感が増す。片倉さんこそ、もっといろんな映像作品で音楽を手がけていただきたい! でもあれですね、佐藤嗣麻子監督作品って、4K デジタルリマスターとかしないほうがいい作風なんだろうなぁ。
・風紀指導と称して女子高生をべたべた触る教師の沼田を演じる岡村さんの手つきが笑っちゃうほどいやらしい! 一瞬、実相寺昭雄監督の作品かとみまごうばかりの手指のねちっこさ。いや、こんなの90年代だったとしても「イヤな先生」どまりじゃなくて犯罪者でしょ……
・冒頭で敵役が「とんでもない魔力を持った奴が来る」とふって、歩いてくる主人公の足や後ろ姿でひっぱっていき、満を持して振り向きざまにミサが名乗るところでタイトルがやっと出るという、この一連の流れの美しさ! 決して新味があるわけでもない実にオーソドックスな導入なのだが、これをてらわずにちゃんと正面きってやれるっていうことが、佐藤嗣麻子監督の確かな実力を物語ってるんですよ。漢らしい!
・朝のホームルーム前に教室で2~3人のクラスメイトを集め、東京都の地図を広げてオカルト話を熱心にする生徒・水野。かなりかんばしいオタク臭をはなつ場面のはずなのだが、演じているのが声も良くてちょっと不良の雰囲気もあるイケメン高橋直純さんなので、スクールカースト底辺感が微塵も感じられない! ダウト!! それを証拠に、話聞いてんの全員女子だし……ヘアスタイルも、それ寝ぐせでもくせっ毛でもなく、完全にトッポいスプレーセットじゃんか~! さりげにイヤーカフもしてるし! この偽物め!! たぶん、当時の大槻ケンヂさん的なモテるオタクを意識したキャラクター造形だったのではないかと。大槻さんとは全く方向性が違うけど。
・水野が説明に使用していた地図をよく見ると、本作の舞台となる聖華学園の所在地が、東京都港区の国道246号線(青山通り)の南、都道418号線(明治神宮外苑西通り)と都道413号線(赤坂通りとみゆき通りの中間地点)の交差する付近、すなはち、東京都心最大の心霊スポットと言っても過言でない、あの「青山霊園」に非常に近い土地にあることがわかる。こういう一瞬しか見えないような設定にも、これ以上ないくらいおあつらえ向きな場所を選んでくる制作陣のプロフェッショナルな力の入れ方に脱帽せざるを得ない。宗教がまるで違うけど、そんなとこで黒魔術やっちゃダメー!! 天海大僧正もビックリよ。
・オタク水野の一般高校生らしからぬテクニシャンな語り口に、クラスのリア充代表の新藤たちも思わず聞き入ってしまう。いやいや、そこは「何言ってんだオメー!」とかせせら笑って本を奪い取るところでしょ!? なんだこの映画、オタクに異常にやさしいぞ……この後、全部水野の夢でした~みたいなバッドエンドオチが待ってるのか? 逆にこの生ぬるさが、観る者(オタク)の不安を掻き立てる。しかし、ほんとに水野を演じる高橋直純さんは上手ですね……そりゃ声優さんでもやってけるわ。
・2年7組担任の白井先生のふわっと立った前髪も、令和から見ると非常になつかしいのだが、教室の照明がやや黄色っぽい蛍光灯なのも、思わず目頭が熱くなるものがある。朝っぱらなのに、なんか定時制みたいな感じ……
・今どきの女子高生で、制服姿にカチューシャのヘアバンドつけてる人って、まだいるんですかね。まず校則でダメか。ともあれ、このちょっと冒険しているワンポイントで、みずきが学級委員長と言っても決してお堅いばかりの人間ではないというキャラクターがほの見える。考えてるな~、すみずみまで!
・基本的に無表情でズンズン歩く長身のミサと、その一歩前をちょこちょこすまして歩く小柄なみずきの身長差がすばらしい。この映画、セリフ以外の「雰囲気」で語る情報量が潤沢で油断ならないぞ! さすがは佐藤嗣麻子監督。
・ミサが劇中で最初に魔術を使うところで、ポーズを決めた時に「ピキュン!」という非常にアニメチックな効果音が鳴り響くのが、特撮ヒーロー番組か1980年代に大流行したキョンシー映画を彷彿とさせてかなりなつかしい。基本的に低温な印象の画作りが目立つ本作なのだが、要所要所の大事なところでこういうミーハーな演出が入るのも、バランスが良くてポイントが高い。そして、その直後のミサのパン……なんと巧妙な映像設計か!! これに魂を奪われない男がいるだろうか、いやいない!!
・キャラクター設計上の都合とはいえ、ぎこちない硬質な演技の続く本作のミサなのだが、だからこそ、時々ちょっと口元が緩んだところを見ただけでものすごく得をした気分になる。う~ん、すべては佐藤嗣麻子監督のたなごころの上か! 演技がうまい以外の俳優の魅力の引き出し方を本当によくわかってらっしゃる。
・とかく目力で言うと2代目ミサこと佐伯日菜子さんが話題になりがちなのだが、初代の吉野さんも十分すぎる程に目力がハンパない。人の心をえぐるような強烈な眼光……なんか、NHKの『人形劇 三国志』の川本喜八郎作の人形みたいな人間離れした目よ! たとえが昭和!!
・屋上に続く階段の最上階踊り場という、「密談と言えば、ここ!」な場所で沼田先生を呪う儀式を行おうとする水野グループ。儀式に使われる(原宿で買った)わら人形を見てミサがにやっと笑うところが、「よかった、みずきを呪詛した物じゃない。」という安堵でなく、どう見ても「これだから素人は……」みたいなプロ目線からのあざけりにしか見えないのがたまらない。所詮は原宿……
・水野グループの誰かが隠し撮りしたらしい、沼田先生の顔写真が非常にいい表情をしている。こういう絵に描いたようなゲスい悪役って、現実世界には掃いて捨てたいくらいにいるのに、フィクション作品の中ではとんと見なくなりましたよね……どんな悪役も、実は同情の余地があるみたいな背景を語られて中途半端になっちゃう。ドラマ『人間・失格』の斎藤洋介さんくらいにすがすがしいまでのワルはいないのかと! 江口のりこさんの今後のご活躍に期待したい!!
・呪いでみごと沼田先生の腸を冥土送りにしたミサに2年7組の女子たちは拍手喝采。メンツ丸つぶれになった水野は、揶揄する新藤に「うるせぇ!」と叫び、入口の壁をバン!と叩いて教室から出ていくが、それに女子たちがいっさい反応していないのが、水野の存在感と声量の小ささを象徴している。くじけるな、少年。
・カーテンを閉め切った美術室の中で、「ほんとにこれ一般映画なんですか」と思わず目を疑うような痴態をけっこう長め(約2分10秒)に繰り広げる、白井先生と田中さん(たぶんここらへんが劇場公開版ではカットされた部分かと推察されます)! 特に『ウルトラマンティガ』を見て育った人が見たらショックは甚大なのではないだろうか。イルマ隊長~! 前からあやしいあやしいとは思ってたけど、やっぱり!!
・復讐の炎に燃える水野の策か、たちまち学園中に広まってしまったミサの過去に関する黒いうわさ。ミサはひとり屋上で、胸に隠し持っていたロケットペンダントの中の髪の毛に哀しく戸惑う思いを打ち明ける。この時点でミサが本音を語ることのできる人間は学園内に誰もいないので、物を相手にしてという奇策を使ってでも、10代の少女らしい弱さを正直に吐露するシーンを入れるのは、ミサを感情移入しやすい物語の主人公にするために絶対不可欠な演出である。そうしないと寡黙でとっつきにくい異能者になりすぎちゃうから。ここもすばらしいバランス感覚!
・さすがは黒井ミサ、スポーツ万能のイケメンに「俺と付き合わない?」と告白されても、こともなげに「私のまわりにいる人はよく死ぬから、かまわないで。」と断れる女子はそうそういないだろう。ケンシロウみたいな、自らの宿命への諦念を感じる。これをちゃんと演じきれる吉野さん、やっぱただもんじゃない!
・白井先生が放課後の追試の告知をするシーンで絶対に見逃してはならないのは、それを聞いている時のみずきの表情である。一見、心ここにあらずというか、カメラが回っているのに気づいていないかのような「無」の状態で虚空を見つめているのだが、のちのちの展開から振り返ると、かなり恐ろしい感情が心中に渦巻いていることがよくわかる。モブのような位置にいても、ちゃ~んと菅野さんは演技してるわけよ! ほんとすごい、この17歳。
・田中さんを操り人形のように支配する手練といい、一人になった時にこれ以上ないくらいにワルい笑みを浮かべる様子といい、本作の白井先生はかなり教科書的に優秀な「限りなく疑わしいデコイ」ポジションをまっとうしているキャラクターである。まるで2時間サスペンスの中尾彬か萩原流行のような美しき伝統を堂々と取り入れるのも、佐藤嗣麻子監督の「直球ストレート勝負」な漢前っぷりの証左ではないだろうか。惚れる!!
・陽が落ちた学校校舎に鳴り響く重々しい13点鐘、そしていつの間にか教室の黒板に記されていた「13」の文字! ここ、この日常から非日常へ転換を、セリフも BGMも使わずに映像のカット割りだけではっきり観る者に知らしめるテクニックが素晴らしい。う~ん、ワクワクする! 佐藤嗣麻子監督には、今からでも全然遅くないから辻村深月先生のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を映像化していただきたい!! でも、本作の時点でもう半分くらい映像化してるか。
・後半を展開を見ていてしみじみ思うのだが、なんで1990年代の中盤に、1970年代にはやった『エコエコアザラク』が映像化されたのかって、そりゃもう当時大流行していた「学校の怪談」ブームに乗っかるのに最適だったからですよね。でもこれ、シリーズ化された東宝の映画『学校の怪談』よりも早く作られてるから(『エコエコ』が1995年4月公開で『学校の怪談』は同年7月公開)、こっちのほうがブームの起爆剤となったのか? でも、なにかとアダルトだからブームの本流とは言い難いか。
・1学年で7組もある規模の高校のわりに、美術室や職員室がのきなみふつうの教室と同サイズのせまっ苦しさなのはなぜ……と気にするのはなしだ! いろいろスタジオのやりくりが大変なのでしょうね……それにしても職員室のブラウン管テレビと灰皿がなつかしくてしょうがない。
・一気に5人もの登場人物たちが惨殺される職員室のシーンも、よくよく見ると「音楽」、「減っていく黒板の数字」、「ドアを内側から叩く生徒」、「照明」、「血のり」だけでちゃんと盛り上げて描いているのが、怖くなるよりも感心してしまう。やっぱ、必要なのは金より知恵よね! 佐藤嗣麻子監督の旦那さま、そうですよね!!
・水野の「守る? なんにもできなかったくせに。」という非難に、思わず胸のロケットを握りしめるミサの描写がものすんごくいい。確実にミサの過去に、大切な誰かを守れなかった哀しい経験があったんだなと思わせる演出! 気になりますよね~、ロケットの毛髪の主。
・本作において、ミサが一貫して自分の使う黒魔術に対して「負い目」を持っているのが非常に興味深い。とはいえ、転校して早々に沼田先生に呪いをかけているので新藤たちはミサがちょっと違う人種であることは充分認識しているのだが、それでも周りに聞こえないように小声で呪文を詠むという抵抗が、魔女に徹しきれないミサの未熟さを象徴しているようでかわいらしい。あと、屋上に続く扉を開けたような手ごたえを感じて「やった!」みたいなとびっきりの笑顔を見せるところも、いいね! 開けられなかったけど。
・もうとにかく、本編時間残り13分からの菅野さんのブーストのかけ方がものすごすぎる! こりゃもう実際に観ていただくより他ないのだが、魔王ルシファの召喚が目的と言うが、あんたもう召喚してるんじゃありませんかってくらいの大迫力でミサにせまる! アイドルじゃあないよね~、その笑い方!!
・ミサの質問に対しての「はい」という意味の菅野さんの「フハハ!」という笑いが大魔王の風格に満ちている。こわ~! けどお茶目。
・本作は、いまや『シン・ゴジラ』や『ゴジラ -1.0』で世界的に知られる、山崎貴ひきいる VFXプロダクション「白組」が特撮に参加している作品なのだが、実際に CGを使用しているカットは本当に数えるほどしかないのが、映画特殊技術の歴史を見るようで印象的である。スピルバーグの『ジュラシック・パーク』第1作(1993年)だって、よくよく見ると CG恐竜の出演カットは意外と少ないもんね。ほとんどのアクションが血のり、ダミー人形、送風機などの伝統的な手作りスプラッタ映画方式で作られているだが、肉体が粉になって飛ばされるミサのあたりから、急に作品が変わったかのように惜しげもなく投入されていく CG作画の力の入れようは、まさに現在の白組を予感させるものがある。ま、召喚された魔王ルシファのお姿はご愛敬ですが……『孔雀王』(1988年)を観たときも、ラスボスがあんな感じだったからガッカリしたっけなぁ~!
・最期数秒の断末魔というのをいいことに、菅野さんがアイドルとしても女優さんとしても17歳のうら若き女の子としてもいかがなものかという顔を見せてくれるのが、サービスといってよいのかどうか……それを見せられて喜ぶ人は少ないですよね、いや、私は喜ぶけど。
・本作のラスボスの末路が、『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のラスボスの敗因とおんなじくらいに「ごくごく自然な道理」な感じがして、ミサと同様に観る者にやるせない無力感をもたらす。大将、そりゃ無理ってもんですわ……相手わるすぎ。
・恐怖の夜が明け、朝焼けの屋上にひとり立つミサ。そして、朝もやの中、歩いてゆくミサの後ろ姿にしっとりとかかるエンディングテーマ。最高ですね! やっぱり、ダークヒーロー、ダークヒロインはひとりで地平線の彼方へ去ってゆくもんなのだなぁ。佐藤嗣麻子監督、最後の最後までわかってらっしゃる。
……長々と失礼いたしました。
ともかく、この『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS』は、81分という小兵でありながら、いや、その短さであるからこそ、佐藤嗣麻子監督の「ここは絶対におさえる」という映像美学が頭からしっぽの先までぎっちり詰まった至高の傑作となっております。
そりゃまぁ予算の少なさは推し測れるわけなのですが、アイデアとセンスでどうとでもしてやるという気合を感じることができます。漢!!
そして、監督の才覚もさることながら、「大事なところに1990年代の菅野美穂さんを召喚した」という奇跡の一手が、この作品をもう1フェイズ上の伝説に昇華させたことも忘れてはなりません。
これ以降も『エコエコアザラク』シリーズは連綿と続いていくわけなのですが、まさに魔女の物語らしく、第1作たる本作がこれ以降に与えた「呪縛」は、そ~と~に高いハードルとしてのしかかってくるのでありました……
そのうち、続編の第2・3作に関する我が『長岡京エイリアン』の記事も、ちゃんと完成させてまいりたいと思います。もうちょっとお待ちになっておくんなせぇ! 菅野美穂さんのさらに超気持ち悪い大怪作『富江』も、忘れてはおりません!
セーラー服と黒魔術、バンザイ!! 結局はそこよね。
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