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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

円熟か、磨滅か? 佐吉ワールドまろやか味になる ~『悪魔の降誕祭』2025エディション~

2025年04月25日 23時46分04秒 | ミステリーまわり
 ハイどうもみなさま、こんばんは! いつものそうだいでございます~。
 みなさま、どうですか新年度は? いいすべり出しになりましたでしょうかね。
 私のほうはといいますと、おかげさまでいい感じに忙しく始めることができました。今年の春はこれまで通りのお仕事と並行して、いよいよ新しい方の道への挑戦も……「できる権利」を手に入れることができました! ひぃ~、まだお仕事いただけてるわけじゃないのが、情けないやらもどかしいやら。
 そんな感じなので私の場合、ホントに忙しくて大変だよ!という方々に比べたら随分と余裕のある状況がしぶとく続いたまま4月が終わろうとしております。さぁ、本格的に「火がつく」のは、一体いつのことになるのやら。ま、焦ってもしょうがないので、とりあえずエンジンだけは温めながら当面のお仕事を誠実にこなしていこうかと思うとります。お仕事、超絶募集中! 目の前に大海原は広がっとりますが、持ってるのはイルカの浮きビニール人形1コだけという無課金状態でございます……スライムベス1匹倒すのもひと苦労ヨ!!

 まま、世間話はここまでにしておきまして、今回は3年間も待ち焦がれていた、我が『長岡京エイリアン』でもいっつもお世話になっております、あのシリーズの最新シーズンについてでございます! 続いてくれて、まことにありがとうございます!!


ドラマ『悪魔の降誕祭』(2025年4月24日放送 NHK BS『シリーズ・横溝正史短編集Ⅳ 金田一耕助悔やむ』 30分)
 33代目・金田一耕助    …… 池松 壮亮(34歳)
 21代目・等々力 大志警部 …… ヤン イクチュン(49歳)

 『悪魔の降誕祭(あくまのこうたんさい)』は、横溝正史の中編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一作。月刊『オール讀物』1958年1月号に短編小説の形で発表後、同年7月に約3倍の文量に改稿された。現在は角川文庫『悪魔の降誕祭』に収録されている。
 雑誌掲載時の原型短編と完成版の中編との主な相違点としては、短編では徹也殺害に関する聴取で犯人が自殺を図り金田一の謎解きへ進んでいるが、中編では自殺未遂は発生せず、たまきが自分の犯行だと主張する以降の流れが追加されている。
 本作の設定と真相には、後年に発表された別長編作品の原形となっているとみられる部分が含まれる。
 本作は1988年12月に角川カセットブックからオーディオドラマ版(金田一耕助役・神谷明、等々力警部役・八奈見乗児)が発売されたが、実写作品化は今回が初となる。
 本作のドラマ版は、NHK BS での放送に先がけて2025年3月28日にNHK BS8K、同年4月19日にNHK BS4K にて先行放送された。

あらすじ
 昭和三十二(1957)年12月20日。金田一耕助にコヤマジュンコと名のる女性から依頼の電話が入った。等々力警部と外出する予定のあった耕助は、彼女に夜9時までに緑ヶ丘荘の自分のフラットに来るように伝えるが、フラットへ帰ってきた耕助を待っていたのは、地味な鳶色のスーツをきた女性の遺体であった。
 等々力警部と嶋田警部補による捜査の結果、コヤマジュンコは偽名で遺体の主はジャズ・シンガーの関口たまきのマネージャーである志賀葉子であったことや、死因が青酸カリによる毒殺であることなどが判明する。彼女のバッグには新聞記事の切り抜きの写真が残されており、その写真には関口たまきとピアニストの道明寺修二、上半身が切られた柚木繁子の姿が写されていた。さらに、金田一の部屋の壁にある日めくりカレンダーは5日分が剥ぎ取られて「12月25日」を示していた。また、たまきの夫である服部徹也の前妻の加奈子もまた、過去に青酸カリを飲んで死亡していたことが判明する。
 そして25日当日、西荻窪にあるたまき・徹也夫妻の新居で開かれたクリスマスパーティの最中に、徹也がたまきの部屋で刺殺体となって発見される。発見したのはたまきと道明寺修二だったが、2人はお互いを名乗る書き手不明のメモでたまきの部屋におびき寄せられたと証言する。徹也は、たまきの部屋と浴室の脱衣場に通ずる小廊下で刺されて、たまきの部屋のドアが開いた拍子に倒れ込んできたことが判明した。当初は第一発見者のたまきと道明寺が疑われたが、脱衣場で殺害直前の徹也と話をしたという徹也の娘・由紀子(たまきの継子にあたる)と、それを目撃した女中の浜田とよ子、たまきと道明寺の仲を疑い2人を監視していた柚木繁子の証言などから、2人に犯行のチャンスがないことがわかり、捜査は行き詰まる。

主なキャスティング
関口 たまき …… 月城 かなと(34歳)
服部 徹也  …… 六世 竹本 織太夫(50歳)
道明寺 修二 …… 上川 周作(32歳)
柚木 繁子  …… 板谷 由夏(49歳)
関口 梅子  …… YOU(60歳)
服部 由紀子 …… 蒼戸 虹子(あおと にこ 16歳)
浜田 とよ子 …… 伊勢 志摩(55歳)
志賀 葉子  …… 土本 燈子(25歳)
服部 可奈子 …… 佐藤 有里子(40歳)
島田警部補  …… みのすけ(59歳)
朗読     …… 北 大輔(?歳)

主なスタッフ
演出 …… 佐藤 佐吉(60歳)
振付 …… 皆川 まゆむ(?歳)

主な使用楽曲
プロローグ     『木立の部屋で』(2019年 YAS-KAZ )
オープニング    『Deep Inside 』(2024年 fox capture plan )
関口たまきのテーマ 『Before Long 1996再録バージョン』(1996年 坂本龍一)
金田一耕助の捜査  『Tokyo 』(2024年 fox capture plan )
たまきの異常な言動 『Storm 』(2002年 吉田兄弟)
柚木繁子の証言   『The curtain of night 』(2024年 fox capture plan )
犯人の変貌その一  『ライディーン』(1993年 ボアダムス)
犯人の変貌その二  『好き好き大好き New Mix 』(2016年 非常階段×戸川純)
エンドロール    『諸人こぞりて』(2017年 讃美歌第112番)


 うわお~う、きたきた、今や日本を代表する俳優のおひとりとなられた池松壮亮さんが名探偵・金田一耕助を演じる NHK BSの『シリーズ・横溝正史短編集』、超待望の第4シーズンのお出ましときたもんだコリャ!

 池松金田一による30分作品が3本で1シーズンという、フットワークも軽やかなこのシリーズは、2016年に「Ⅰ」、20年に「Ⅱ」、22年に「Ⅲ」が放送されておりましたが、シリーズが始まってから今回「Ⅳ」が放送されるまでの9年間のあいだに、主演の池松さんも大きな成長を遂げたような気がします。いや、成長したと見るのは失礼な話で、私たちがやっと池松さんの真価に気づいたという感じでしょうか。
 池松さんが初めて金田一耕助を演じたのは26歳のときだったのですが、その頃から池松さんは34歳となった今日まで20本以上の映画に出演して主演も多数、TVドラマも当然ながら出ずっぱりです。最近はドキュメンタリー番組のナレーションで、その特徴的な語りを聴く機会も多くなりましたよね。
 我が『長岡京エイリアン』で取り扱ったところでは、やはりおととしの超話題作『シン・仮面ライダー』(2023年3月公開)において新たなる「令和の本郷猛」を堂々と演じきったことが印象的ですが、来年2026年の NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では主人公である豊臣秀長の兄・秀吉を演じることが決定しているとか! これも楽しみですね~。大河ドラマでの豊臣兄弟といえば、どうしても『秀吉』(1996年放送)の竹中直人&高嶋政伸による兄弟のイメージがいまだに強く残っているわけなのですが(あと玉置浩二さんの足利義昭公も!!)、あれからちょうど30年という節目の年にあえてぶつけてきた『豊臣兄弟!』の若々しい挑戦に期待したいです。でも、兄が池松さんで弟が映画『十一人の賊軍』での熱演も印象的だった仲野太賀さんとなると、「冷静な兄と情熱的な弟」といったイメージで、どちらかというと『太平記』(1991年)での真田広之&高嶋政伸の兄弟を連想してしまうところが実に面白いですね。史実だと秀吉&秀長兄弟も足利尊氏&直義兄弟も性格に関しては「アツい兄&冷静な弟」の構図が定説だと思うのですが、そこを『太平記』のように『豊臣兄弟!』が打破する新解釈を展開するのか、はたまた池松さんがふんどし一丁で女のコを追いかけ回す痴態を見せるのか!? いずれにせよ、面白い作品になりそうで実に楽しみです。うん、それでそれで、霊陽院サマは!? 霊陽院サマは誰が演じるの~!?

 すみません、池松さんに関する脱線が過ぎてしまいました……まぁともかく、そこまで世間をにぎわす大俳優になられた池松さんが、3年ぶりにこのシリーズに戻ってきてくれたことは、非常にありがたいってことなんですよ!
 振り返ってみれば、2010年代の後半にこの池松金田一シリーズとほぼ同時期に始まった、同じく NHK BSの「スーパープレミアム金田一耕助シリーズ」(金田一役は長谷川博己→吉岡秀隆)は2023年の『犬神家の一族』を最後に沈黙しておりますし、民放放送局にいたっては5年以上前の『悪魔の手毬唄』(2019年 金田一役は加藤シゲアキ)以来ウンともスンとも知らせがありません。映画なんか、口に出すのもおぞましい2006年公開の超改悪版『犬神家の一族』が最後だってんですから、父ちゃん情けなくって涙がでてくらぁ!!
 まぁこういったていたらくですので、その中での池松金田一の帰還は、まさに「干天の慈雨」としか言いようのないご褒美なのでございます! まことにありがとうございます!!

 それで、ここからやっとのやっとで最新第4シーズンに関する話になるのですが(やだ、ここまでで4000字つかってる……)、今回も過去シリーズの形式を踏襲して、宇野丈良・佐藤佐吉・渋江修平という3名の演出家がそれぞれ、横溝正史の推理小説「金田一耕助シリーズ」の中から1話ずつを映像化するという内容になっております。30分枠のドラマだからといって、必ずしも短編小説ばかりをチョイスしているとも限りません……
 そいでもって、今回の「Ⅳ」はすでに先月からNHK BS8K とNHK BS4K で3話一挙放送されておりますので、おそらくもうレビュー記事やブログはバンバン出たあとかと思うのですが、私が視聴できるのが NHK BSからなので、我が『長岡京エイリアン』では今さらながら、しかも1週に1話ずつというスローペースで、3話分を芋虫のごとくムチムチと食むように(©江戸川乱歩)味わっていきたいと思います。ゴールデンウィークの愉しみは、これできまり☆ ひと晩で3話ぜんぶだなんて、贅沢すぎてバチがあたらぁ!

 さぁ、それで今回「Ⅳ」の一番手は、佐藤佐吉さんの構成・演出による『悪魔の降誕祭』となります。佐吉さんがシーズンの一番手になるのって、今回が初めてなんですね。確かに佐吉演出は、どっちかというとお3方の中では「変化球」というか「飛び道具」なイメージがあるので、トップバッターにはなっていなかったかも。
 ちょっと気になったのが冒頭のところで、今までのシリーズ作品ではたしか、どの作品でも「原作小説の文章を抽出してほぼ忠実に映像化」というただし書き字幕が出ていたはずなのですが、今回はそれがありませんでした。とは言っても、実際に観てみると今回も大幅に原作小説と違った内容がドラマに組み込まれているということは無かったので、ぱっと見は大きな路線変更はないかのように見えていました。ま、ぱっと見はね……

 上の基本情報にもあります通り、今シーズンの一番手となった『悪魔の降誕祭』は、もともと短編小説だったものを文量およそ3倍の中編小説にボリュームアップした作品となっております。
 参考までに、現在私の手元にある角川文庫から出た作品集『悪魔の降誕祭』(初版は1974年)を見てみますと、完成版の中編『悪魔の降誕祭』は約160ページで、同じ本に収録されていて、前シーズンで佐吉さんが映像化した『女怪』は約40ページの短編小説となっています。いま角川文庫から出ている最新の版は文字のフォントが大きくなっているはずなので、ページ数は全体的にもうちょっと増えてるかも知んないけど。
 ちなみに、これは文庫本でなく文章二段組み単行本なので全く比較対象にならないのですが、私が持っている1996年に出版芸術社から出た金田一耕助ものの「原型」短編集『金田一耕助の新冒険』に収録されている短編版『悪魔の降誕祭』は50ページ弱というお手軽なボリュームになっています。この『新冒険』って文庫化もされているんですけど(光文社文庫)、私は単行本版の今井真理(いまい鞠)さんの切り絵によるカヴァーがとっても気品高くエロくて大好きので、手元に置いてるのは単行本のほうなんだよなぁ。いまい先生、今なにしてらっしゃるんだろ。

 そんでもってかんでもって、むちゃくちゃ引っぱってきてしまいましたがいい加減に、今回記念すべき初ドラマ化となった佐吉版『悪魔の降誕祭』を観た感想を申したいと思います。ほんと、話が流くてすんません……


確かに原作に忠実とは言いがたい「不可解なマイルド化」が目立つ平均点的小品


 こんな感じになりますでしょうか。いい意味でも悪い意味でも、丸くなっちゃったかしら!?

 今回の記事のタイトルでも言っているのですが、今回の佐吉さん担当回は、なんだか佐吉さんらしからぬ無難化といいますか、スタンダードなミステリードラマとしての完成度を目指したかのような「まろやか化」が前面に押し出されていたような気がしたのです、あたしゃ。

 こう言いきってしまうと、ドラマを視聴した方の中には、「おいおい、お前ちゃんと観たのか!? あの衝撃的なラストのどこがマイルドなんだ!? クライマックスの犯人の豹変っぷりだって十二分に佐吉テイストたっぷりだったじゃないか!」と反論したくなる向きも多いかと思います。
 いや、それはわかる! そういった作品としてのエグ味というか個性がちゃんとあったのはよく承知しているのですが、私が言いたい「不可解なマイルド化」というのは、

横溝正史の原作小説にあった「毒味」を意図的にカットして、佐吉さんオリジナルの味つけを加えている。

 という意味でのマイルド化なんですよね。要するに、ドラマとしての面白さは保障されているのかも知れませんが、その面白さが今回は横溝正史由来ではないのです。これは、今までとはだいぶ意味合いの異なるアレンジのような気がしました。ちょっと~、これを見ないフリはできない。

 まず、原作小説と今回のドラマ版とで、事件の犯人の設定は変わっておりません。ですので、金田一が犯人を告発した時の「あの変貌」はほぼ同じ感じではあるのですが、原作小説で語られてドラマ版ではとんと触れられなかったのは、犯人をあのように変貌させてしまった「真の悪魔」が他にいてのうのうと生き延びている、という点なのです。

 すなはち、ドラマ版では第2の殺人(服部徹也刺殺事件)が発生したクリスマスパーティの夜が明けるまでに事件が解決したかのように描写されているのですが、原作小説の「短編版」はその通りではあるものの、完成した「中編版」はそうではなく、ドラマにあるように関口たまきの「私が殺しました」発言が嘘であると等々力警部が指摘したくだりでその夜の捜査は行き詰まり、それから日が経って、たまきが道明寺修二との再婚を発表、徹夜の死から約1ヶ月後の翌年1月下旬に、同じたまきの新居で行われた婚約披露パーティの終わった後に親しい者だけ残ったお茶の席で、例の金田一による犯人あぶり出しのひと芝居が打たれたという流れになっているのです。

 これってつまり、原作小説では犯人が第3の殺人をこころみるまでに、無理のない時間的余裕と「動機の発生」が用意されているんですよね。そしてその動機が、たまき……というよりも、徹也も含めた多くの人々の心を奪い、エネルギーを吸い取りながらも、旦那が死んだ1ヶ月後には再婚を公表する「したたかさ」を持った大人の存在を許せなかったからだった、という真実を何よりも雄弁に物語ってくれているのです。原作小説の方が断然、犯人が蛇蝎のごとく嫌悪していたものを明確に浮き彫りにしているんですよね。それをドラマ版は、意図的にカットしてしまっているのです。ドラマの流れだと、第3の殺人にいくまでの時間が短すぎて犯人にそれ程の心理の揺れが無かったように見えるし、第2の殺人と第3の殺人の「意味の違い」が全く見えなくなってしまうのです。そもそも再婚の話自体が出てこないんだから。
 これじゃ、行き当たりばったりでみんな殺してやろうと思った、くらいの浅い動機になっちゃいますよね。ま、それはそれで「現代的」な動機ではあるのですが……

 なぜ!? なぜなんだろう!? このドラマ版のカットは、単に場所がどっちもたまきの家の中だったから尺の都合でバイパス手術しちゃった、みたいな言い訳は通らない大幅なカットだと思いますし、当然、「原作に忠実」などとは口が裂けても言えない大きな改変だと思います。

 これ、別に私が横溝正史ファンだから言ってるんじゃなくて、原作小説にちゃんとあった「面白さ」を、そこだけ丁寧にスプーンでえぐり取って捨ててるから言っているのです。なんでそんなことすんの!?と。メロンは、そのタネのぐっちゃぐちゃなとこがおいしんでしょうがぁあ!!

 私が言っている「そこだけ捨てられた面白さ」というのは、言うまでもなく関口たまきという人物の生き方の怪物的な魅力、二面性です。こっちのほうが「女怪」じゃねぇかと言いたくなるような、醜悪なまでの生命力の強さ、悪運! クライマックスであそこまで衝撃的な悪魔の姿を見せた犯人も、しょせんは彼女の被害者でしかなかったという、実に横溝先生らしい二重底の面白さが、ドラマではいかにも今風に「犯人がそういう悪の種子を心に宿していた」という一色の単純なオチになってしまっているのです。
 それに関連づければ、ドラマ版の意味深なラストカットも、「犯人は死んでも、その悪意は継承される」というオリジナルな解釈ができるわけなのですが、私に言わせていただけるのならば、ドラマ版と同じ「告発」を大の盟友の等々力警部から受けても、

金田一耕助はそれにたいして答えなかった。(原作小説より)

 という、文字通りの「黙殺」でこたえた小説の金田一のほうがよっぽど怖いような気がします。なんか、今回のドラマ版の金田一は、演じている池松さんが得意としていると見られることの多い「ガラスのハート」な面に引きずられてああなっちゃったような気がしますね。
 まぁ、そういうサイコな展開が今はウケるのかも知れませんけどねぇ……なんで今回の佐吉構成は、横溝先生が打ち出していた「人間の生のエグ味・おそろしさ」みたいなものを「ホラー映画的なショッキング演出」にまで単純化してしまったのでしょうか。わかんない!

 演じる役者さんの実力を信用すれば、絶対に原作小説に忠実にやっても問題なかったと思うんですけどね……特にたまきなんか、ドラマ版だと「なんで私のまわりでこんなに人が死ぬのかしら?」みたいなオール他人事な悲劇のヒロインでしかないじゃないですか! その裏に「真の顔」があるのがこのキャラクターのミソなんだし、別に演じた月城さんだってそれができない役者さんではないと思うんですが、なんか佐吉さんが気を遣って「いや、いいです! たまきはそんな汚い面は見せないでください!」みたいに、頼んでもないのに役を小さくしちゃったようにしか見えないんですよね。

 いっぽう、原作小説の「たまきと道明寺の再婚発表」のくだりが生み出す効果としては、たまきのバイタリティの他にも、「他人のためを思って犯人を隠蔽しようとした服部徹也の無駄死に感」があったかと思うのですが、これもまたドラマ版でのカットで、単純に犯人と徹也との関係だけにおさまってしまったのがもったいないにも程がありましたね。たまき、そこまでの思いを持って徹也が死んだのに1ヶ月後に道明寺とくっついちゃってんだぜ!? 浮かばれなさすぎ……
 ここらへんの「被害者(徹也)の予想外の行動が事件の謎をよけいに深める」という展開は、一見すると「んなアホな!」と笑ってしまいたくなるような真相なのですが、これはミステリー小説の歴史でいうとそうとうに古典的な作品から点々とつながっている伝統的なトリックなんですよね。私もいくつか脳裏に思い浮かべる作品があるのですが……これって、「人間、死ぬかもしれない超非常事態におちいると、そういう行動とっちゃうのかもな。」と読者に強引に納得させる作家の腕前がないと、いわゆる「バカミス」になっちゃうんですよね。ま、ミステリー小説はその発祥といわれる世界的有名作からして、そういう要素ありますから……おサルさんとかヘビとかクラゲとか……

 余談ですが、「旦那が殺された1ヶ月後に再婚を発表するたまき」というあたりもけっこう非常識な話ではあるのですが、それと同じくらいに、「マネージャーが殺された5日後に予定通りに新居祝いのクリスマスパーティを開くたまき一家」という設定もかなり常識を疑いたくなる話ではあります。中止にせい!!
 ただ、このように「中止になる可能性もある」パーティの日を見据えて犯行予告をしているということは、これって裏返せば「中止でも犯行可能」という公算が犯人にあったということなので、ここを突き詰めちゃうと、その夜にたまきの家にいない可能性もあった道明寺と柚木は「犯人」にも「被害者」にもなりえないという消去法が成り立つと思います。つまり、この「殺人の5日後のクリスマスパーティ」という強引な設定は、横溝先生から読者に暗に提示された「犯人も被害者もたまき一家の身内」という大ヒントになっているのではないでしょうか。う~ん、ドメスティ~ック!!


 こんな感じで、今回初の映像化となった『悪魔の降誕祭』は、原作の「衝撃的な犯人」という展開はちゃんと押さえておきながらも、なぜかそれ以外の登場人物たちの個性の強さからくる面白さはのきなみカットしてしまうという、謎な簡略化が目立つ作品になってしまっていたかと思います。別に長編の『犬神家の一族』を30分に収めろとかいう話でもないので、そんなにカットしなくても良かったと思うんですが……

 ただやっぱり、池松さんをはじめとしたキャスティングの良さは今回も冴えわたっていて、宇野丈良演出チームから移籍しながらも役柄は続投しているヤンさんの等々力警部&みのすけさんの島田警部補のコンビ(ただし初共演)も相変わらずいい味を出していたし、同じく宇野チームから出向してきた、「なんか人の家で殺人があるとよくいますよね」な YOU&板谷由夏さんというおなじみの面々もデジャヴュな感じで良かったと思います。
 でもやっぱり、今回の MVPはなんと言っても、由紀子役の虹子さんですよね! 原作の由紀子と同じ16歳! 今回ドラマ初出演! 素晴らしい才能ですね~。なんか、繊細なだけじゃない芯の強さがあるのが最高ですよ。今後のご活躍に大いに期待したいです。

 あと、佐吉さん演出回といえば、作中で使用される楽曲のチョイスにも注目したいのですが、今回はまぁ……それほど印象的な選曲はなかったかと思います。いい意味でも悪い意味でも、BGM がちゃんと BGMに徹していましたよね。目立たなかった。
 しいて言えば「犯人の変貌」シーンで使われた『好き好き大好き New Mix 』がいかにも佐吉さんらしかったし、曲の内容もまさに犯人の心の歪みをどストレートに体現していて良かったと思ったのですが、大サビの「♪あいしてるぅって いわなきゃコロスぅう!!」まで流れなかったところに、NHK放送の限界というか、TVマンとしての良識を見たような気がいたしました。まぁ……そりゃそうよね、戸川さんだもの。

 いろいろくだくだと申しましたが、それでも私としましては、前回に佐吉さんが構成・演出した『女怪』よりは、今回の『悪魔の降誕祭』のほうに好印象を持っておりまして、なんだか金田一耕助のハートブレイクに必要以上に同情的になってしまい、原作小説では『ちびまる子ちゃん』のナレーションのように金田一の狂態を冷笑ぎみに客観視する語り手(横溝先生本人)という面白さをいっさい放棄してしまっていた前回よりは、非常に見やすい作品に落ち着いていたのではないかと思いました。実に、シーズンの一番手としてそつのない仕上がりなんですよね。ああいうバッドエンドみたいな締めくくりではあるのですが。

 いやぁ、こういう『悪魔の降誕祭』を観ちゃうと、この作品に大いに関連が深いといわれる「あの長編」も、できますれば2時間サイズの長尺ドラマで観たい気がしますね~! でも、物語のシチュエーションでいえば両者はまるで似ても似つかない作品ではあるのですが、「異形の犯人像」と、その裏に犯人をそうしてしまった「真の元凶あり」という骨組みが、確かにかなり似通ってるんだよなぁ。やっぱり横溝先生の小説世界は、「生きている人間のしたたかさ」をあまさず描ききるところに真骨頂があるんですね。

 2時間ドラマ担当の吉岡金田一シリーズさんも池松金田一シリーズに負けずに、脚光が当てられていない長編群の映像化をよろしくお願い致します! ど~かひとつ!!
 フェイドアウトだけはカンベンしてつかぁーさいぃ!!

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4 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobili)
2025-04-29 22:00:54
悪魔の降誕祭、楽しめましたね~‼️
第一の殺人は「悪魔の手鞠歌」における丑松の毒殺を思わせる筋立てでした。イキナリ殺人から始まる展開はいかにも横溝正史でした。そして肝心のトリックは・・・ああ❗これは古典中の古典‼️ガストン・ルルー「黄色い部屋の秘密」を発展させたのですね❗さすが横溝正史、偉いっ❗偉いっ❗
しかし最後のシーンだけは・・・池松さんがコスプレしたかったンですかね~❓
色々楽しめました。
あ、4K3話連続版では登場人物勢揃いの「悪魔ダンス」が付いてて笑えました。
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理想的一番バッター!? (そうだい)
2025-04-30 01:55:18
 mobilis-in-mobiliさま、いつも元気をいただけるコメントを本当にありがとうございます! ブログ閉鎖ほんとに困りましたねぇ。あなたさまはアメブロさんへ引っ越されますか。私はどうしよっかなぁ。

 『悪魔の降誕祭』、いちおう連続殺人だし、開幕から金田一に挑戦状を叩きつけるような探偵事務所で殺人!?の展開だし、ご指摘の通りに非常に王道な謎解きものだしで、こりゃ間違いのない原作をチョイスしてきたなという納得の出来でしたね。まだまだこういう隠れた名品がいっぱいありますから、池松金田一シリーズも池松さんが40歳になろうが50歳になろうが続けていっていただきたいです!
 最後のシーンは、「犯罪者の闇に心をむしばまれる名探偵」という、シャーロック・ホームズの昔から語られている定番の構図の比喩だと思うのですが、そこでダークサイドに堕ちずに飄々と「あぁ、毒飲んじゃったか。」みたいな感じで受け流して次の事件に目を移していくという、原作金田一の関口たまきにも通じる大人のしたたかさとは違う解釈になっているので、そこもドラマ版のほうが甘っちょろいと思っちゃうんですよね。絶対、横溝先生のドライな筆致のほうが面白いのに!

 そういう意味では、この『悪魔の降誕祭』の犯人像って、生き続けるために鈍感になり、残酷になっていく大人たちの社会を徹底的に嫌悪するという、「エヴァンゲリオン」シリーズのシンジくんのご先祖様みたいなキャラクターなのかも知れませんね。
 この、中二病への解像度の高さよ……横溝先生、そりゃ2025年でもティーンに大人気ですわ!!

 え~、BS4Kでは、そんなボーナス映像があったんですかぁ!? ちっきしょ~……
 あの悪魔ダンスの振付って、昔私が大好きだった深夜番組『松本人志の新一人ごっつ』の中であった「この際だから鬼ババになろう」コーナーに通じる蠱惑性があるんですよね……謎のリラクゼーション効果!?
返信する
Unknown (mobilis-in-mobili)
2025-05-02 21:48:27
コメントに誤りがありましたので訂正させて戴きます。丑松が急死するのは「悪魔の手鞠歌」ではなく、もちろん「八ッ墓村」ですね。初歩的な間違いでした⤵️💦

私もGooブログ終了に伴いお引っ越しします。
手順に従いやってみたら割に簡単にお引っ越しできました。当面 robur la Conquerant's blog という名前でバックアップを取りながらGooブログを続けて、ゆるやかに移行するつもりです。

そうだいさんもとりあえず移行処理はやってみて損はありません。資料的価値のある情報がギッシリ詰まってますので、このまま消えてしまうのは誠に惜しいです。人類にとって大きな損失です(大袈裟かしら💦)。
新天地でも頑張ってください。
返信する
身に余るお言葉…… (そうだい)
2025-05-03 23:02:38
 mobilis-in-mobili さま、ふたたびのコメントまことに恐縮でございます!
 ほんとですね、『悪魔の手毬唄』は井川丑松じゃなくて多々羅放庵でした。見逃してしまい申し訳ございません! おんなじお爺ちゃんなので気が付きませなんだ……

 えぇっ、資料的価値だなんて、そんなもんあろうはずもありませんよ! おっしゃる通りにかなり大げさなお褒めの言葉をいただき光栄でございます。

 自分なりに愛着のある記事もありますので、やっぱり引っ越して、どなたでも興味のある奇特なお方がいらっしゃったら読める状態にはしておきましょうかね。

 新天地で、まずは生きていけるように頑張りたいです~! 人生は一度きり。当たって砕けろでチャレンジしていきますよ!!
返信する

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