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日記に…なるかしらん

あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『帝都物語異録』

2025年07月18日 23時28分08秒 | すきな小説
『帝都物語異聞 龍神村木偶茶屋』(2001年12月)
 『帝都物語異聞 龍神村木偶茶屋』(ていとものがたりいぶん りゅうじんむらでくぢゃや)は、荒俣宏の短編伝奇小説。『帝都物語』シリーズ開始15周年を記念して、「魔人・加藤保憲の野望の実現に向けて協力し、知恵を貸す」目的で出版された、荒俣の編著による『帝都物語』シリーズの解析書『帝都物語異聞』(原書房)に収録された書き下ろし作品である。91ページ。

 この『帝都物語異録』に寄せたエッセイで荒俣は、魔人・加藤保憲のキャラクター造形の原型となった人物として、以下の名前を挙げている。
・不老長寿の秘薬を求めて国境を越えた旅を続けた流浪の方士・徐福(紀元前3世紀)
・陰陽師、木地師、山の民、巫女といった日本国家の枠組みから外れた人々の祖となった行者・役小角(634~701年)
・8世紀前半に現在のモンゴル北部からベトナム北部まで大規模な子午線の測量を行った真言宗の高僧・一行(いちぎょう)禅師(683~727年)
・日本に陰陽道と牛頭天王信仰を輸入した遣唐使の吉備真備(695~775年)
・大和朝廷に排斥された蝦夷族の族長アテルイ(?~802年)
・日本の山の民や忍者衆の始祖である乱裁道宗(あやたち みちむね 乱破道宗とも 10世紀後半~11世紀前半?)
・四世鶴屋南北の歌舞伎『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』などの主人公である、日本の壊滅を目論む妖術師・天竺徳兵衛(江戸時代初期の実在の人物がモデル)
・都市に復興と破壊をもたらす謎の人物・ハーメルンの笛吹き男(1284年に実際に起きたとされる事件)

※『帝都物語異聞』の寄稿者 …… 斎藤英喜(古代宗教学者)、高橋富雄(東北古代史研究者)、佐治芳彦(歴史評論家)、伊藤悠可(古神道、禅宗研究者)、豊嶋泰国(古代宗教研究家)、志村有弘(古代文学研究者)、大宮司朗(古神道、霊学研究家)、黒塚信一郎(古代宗教研究者)


あらすじ
 明治十一(1878)年9月、太平洋の熊野灘にのぞむ七里御浜。水死体が光り輝いて見える異能を持つ少年・保(やす)は、海のはるか南から小舟を漕いでやって来た謎の男・加藤重兵衛と出逢う。重兵衛は脇腹に重傷を負いながらも、熊野古道をたどり奥地の龍神村を目指して進んでゆく。自分と同じ灰色の瞳を持つ重兵衛に言い知れぬ魅力を感じた保は、自分の異能を認めた重兵衛に従い、龍神村への旅に加わるのだった……


おもな登場人物
保(やす)
 三重県の七里御浜にある大馬に住む漁師の青年。元治元(1864)年生まれ。浅黒い肌で筋骨隆々の大柄な体格、長い顔にとがった顎、薄く長い眉に切れ長な目、灰色の瞳をしている。両親を亡くして天涯孤独の身となっている。大馬の獅子岩の上に立って一日中熊野灘を見つめており、まだ発見されていない遠くの水死体が光って見えるという特殊な能力を持っているために近所の村人から「てんぎゃん(天狗のように不思議な小僧という意味)」と呼ばれている。その透視能力は確かで、地元の警察官が捜索の助けを依頼するほどである。字は読めないが、言葉を聞いて相手の意図や感情を読み取る能力が非常に高い。

加藤 重兵衛(かとう じゅうべえ)
 七里御浜の大馬に一人乗りの小舟を漕いでやって来た男。黒い鎖帷子の胴着を身にまとい、痩せてクモのように手足が長いが胸板は厚い。保と同じように長い顔にとがった顎、灰色の瞳をしていて、薄い唇で冷たく笑う。大馬の遥か南東に位置する太平洋の無人諸島(ボニン諸島 現・小笠原諸島)で、古代熊野の龍神党陰陽師の末裔と闘って脇腹を斬られ、10日かけて逃れて来た。
 大馬に来たのは、熊野古道を通って和歌山県の龍神村へ行くためであり、日本に眠る数多くの怨霊たちを覚醒させて明治新政府を崩壊させることを目論む。安倍晴明と朝廷の陰陽寮の系譜に連なる土御門神道とは全く異なる、芦屋道満の流れをくむ裏の陰陽道「若一党(じゃくいちとう)」の棟梁であり、賛同する陰陽師や山伏たちを率いて、日本の怨霊たちを「反魂の術」で復活させる。紙から黒いカラスに変じる式神を打つことを得意とする。五芒星(セーマン)の墨書された布を使い死者の魂を召喚することができる。

村主 熊太郎(すぐり くまたろう)
 熊野の龍神村の名主で、明治新政府の神仏分離令を名目に10名程の武装集団「神威隊」を組織して、龍神村の龍神寺を襲撃した。日本が世界に通用する近代国家になるためには、国家神道以外には仏教も淫祠邪教も一切邪魔であるとして過激な破壊活動を扇動する。特に、熊野で強く信仰されている陰陽道(ドーマンセーマン)や牛頭天王信仰を外国から輸入されてきた邪教として強く敵視しており、龍神党の聖地である木偶茶屋を陸軍に依頼して砲撃させるほどに憎んでいる。肥満しているが刺叉による攻撃を得意とする。

庄司 新九郎(しょうじ しんくろう)
 龍神村の森「和田谷(わだのたに)」の奥にあるあばら家にいた老人。たっつけ袴に胴衣を着て茶筅髷を結っている。その正体は南朝の遺臣ですでに故人であるが、加藤重兵衛の反魂の術により現世に召喚される。

安倍 晴明(あべのせいめい 921~1005年)
 平安時代の大陰陽師、天文博士にして、日本最大の白魔術師。当時の呪術コンサルタントとして皇族や貴族・民衆の間で絶大な信望を集めた。
 本作では、龍神村を訪れた加藤重兵衛の怨念に呼応する形で笠塔山山頂の木偶茶屋に顕現し、重兵衛と対決する。重兵衛によく似た長い顔だが肥満して色は白く、瞳は黄色く輝いている。


おもな用語解説
王子(おうじ)
 仏教を守護する、密教でいう護法童子と同じ役割の、童形の神霊のこと。特に熊野古道の路傍に点在している小さな祠や石柱、碑などで祀られている王子たちは、まとめて「九十九王子(つくもおうじ)」と呼ばれる。古代から熊野の山岳地帯や沿岸地域で祀られ崇敬され、怒ると祟るともいわれる。多くの王子たちはそれぞれの土地や村のみで祀られている小さな神霊だが、強力な祟り神である牛頭天王の眷属は特に「八王子」と呼ばれている。

餅鉄(もちてつ / べいてつ)
 河川の水に流されているうちに磨耗し、丸い餅のような形になった磁鉄鉱のこと。川原や山中に転がっていて見た目は小石のようだが、色が黒く明らかに石より重い。また磁力も持っている。かつて、たたら製鉄などの古代製鉄において、砂鉄と並ぶ重要な原料として盛んに採集、利用され、日本刀の材料にもなっていた。成分は60 %以上が酸化鉄で、砂鉄よりも不純物が少なく鉄にしやすい。
 古代の煉丹術(れんたんじゅつ)を修める密教の行者たちが、五穀を断って即身仏になるまでの間に食べ続け、それによって肉体が金属に変質し不老不死になると信じられていた。

龍神村(りゅうじんむら)
 熊野古道の奥地にある、日本の陰陽道の聖地。現・和歌山県田辺市。古代に朝鮮半島から渡来した神仙たちが陰陽道の拠点とし、安倍晴明の師とされる伯道仙人もこの龍神の地で羽化登仙したといわれる。そのため晴明も龍神において、星の位置を測り天の命運を読み取る「宿曜術」の奥義を伯道仙人から学んだ。これによって日本の陰陽道は晴明と朝廷の陰陽寮に独占される形となったが、もともと龍神にいた陰陽師たちの中には、晴明に従わず民間の陰陽師として別個に存続していく流派「龍神党」もあった。

牛頭天王(ごずてんのう)
 日本における神仏習合の神で、釈迦(ブッダ)の生誕地である祇園精舎の守護神とされた。蘇民将来伝説の祟り神であると同時に薬師如来の垂迹であり、また古代日本神話のスサノオの本地ともされた。京都東山の祇園などに鎮座して祇園信仰の神ともされ、現在の八坂神社にあたる感神院祇園社から勧請されて全国の祇園社、天王社で祀られた。また陰陽道では天道神とも同一視される。
 本作では、古代中国大陸から渡来した際に、それ以前から熊野にいて大和王権の拡大を助けた古代神ハヤムシャとそれを信仰する龍神党陰陽師を排斥して熊野に鎮座したとされている。熊野の天狗たちを使役して、龍神村を目指す加藤重兵衛を妨害する。

廃仏毀釈
 明治新政府は、慶応四(1868)年3月に布告した「神仏分離令」や明治三(1870)年1月に発布した詔書「大教宣布」などにより、仏教に由来する国民負担の軽減政策を打ち出した。当初、この政策は神道と仏教の分離が目的の行政改革であり、仏教のみの排斥を意図したものではなかったが、江戸時代まで長年にわたり仏教に圧迫されてきたと感じていた水戸派・平田派国学を信奉する神職者たちによって廃仏運動が引き起こされ、民衆も巻き込んで仏像や仏具が破棄される廃仏毀釈運動が全国的に発生することとなった。
 廃仏毀釈運動の規模については全国一律ではなく地域により大きな差があったが、これは主に藩学の普及と、民衆の学力向上の度合いの差による。浄土真宗の信仰が強い愛知県や福井県では、廃仏の動きに反発する護法一揆が発生しているが、それを除けば全体として大きな反抗もなく、明治四(1871)年1月に「寺社領上知令」が布告され、寺社の領地が政府によって調査・確定されたこともあり、運動は終息した。

神威隊(しんいたい)
 明治新政府が布告した神仏分離令に起因する1870~71年に発生した全国的な廃仏毀釈運動の中で、武装した神職や民衆が結束して寺院を襲撃した過激派集団のこと。1870年4月に、40名ほどの武装した日吉大社(滋賀県大津市)の神官たちが「神威隊」を名乗って蜂起し、延暦七(788)年の伝教大師最澄による開山いらい千年以上にわたって日吉大社を勢力下に置いてきた比叡山延暦寺に対して反旗を翻した。
 神威隊を率いたのは、日吉大社社司で明治新政府の神祇事務局に所属していた樹下茂国(じゅげ しげくに 1822~84年 岩倉具視の腹心)と、同じく社司の生源寺希徳(しょうげんじ まれのり 1854~94年以降)で、神威隊は延暦寺に対して日吉大社の自治権を主張し神殿の鍵の引き渡しを要求した。しかし、その要求を頑として拒否する延暦寺側に業を煮やした神威隊は日吉大社の本殿になだれ込み、祀られていた本地仏などの仏像や『大般若経』などの経典、仏具など124点に火を放ち、鰐口や具足などの金属類48点を持ち去った。神威隊の暴徒の中には、社司たちから雇われた地元坂本の農民も含まれていたとされている。これは、当時坂本を延暦寺が支配しており、小作人たちが重い年貢を課されていたことも起因しており、江戸幕府の庇護のもと長年にわたって既得権益を得てきた延暦寺にたいする地元民の反感は、日吉大社の神官たちと同様に深く燻り続けていたと察することができる。この神威隊による日吉大社襲撃事件が、全国に波及していく廃仏毀釈運動の端緒となった。
 本作では、日吉大社の神威隊とは直接の関係は言及されていないが、同じ神威隊を名乗る、木槌や金剛杖で武装した10名程の暴徒が龍神村の龍神寺を襲撃した。ちなみに、本作の時代設定は全国的な廃仏毀釈運動が終息してかなり後の1878年である。

小笠原諸島
 東京湾の南南東約1,000km の太平洋上にある30余りの島々からなる諸島地域。江戸時代には無人(ボニン)諸島と呼ばれていた。
 本作では、牛頭天王の渡来によって古代熊野から排斥された龍神党陰陽師の末裔が原住民化して暮らしており、南朝天皇の子孫「熊野の天子」が逃れて潜伏し、日本の「偽りの天子」を倒すために再起する「影のみやこ」とされている。

笠塔山(かさとうやま)
 和歌山県田辺市にある標高1,049m の山で、平安時代中期の大陰陽師・安倍晴明が魔物を笠の下に封じ込めたという伝説が残り、登山口には晴明を祀る小さな祠がある。山頂からの展望は良く、太平洋と瀬戸内海が交わる紀伊水道の海が望める。

木偶茶屋(でくぢゃや)
 笠塔山の山頂にある、幅5尺(約1.5m)・長さ60間(約108m)ほどの土舞台のようになった馬場のことで、ここでかつて、安倍晴明に辱められた加藤重兵衛の母が自害した。古来から神霊の魂を鎮めるための「巫女舞」の神事が行われていた神聖な場所で、神霊の魂を呼び降ろすための「人形まわし」も行われていたために木偶茶屋と呼ばれるようになった。




≪いよいよ本格再始動か!? 本文マダヨ≫
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『陰陽師鬼談 安倍晴明物語』

2025年07月16日 22時27分58秒 | すきな小説
『陰陽師鬼談 安倍晴明物語』(2000年10月)
 『陰陽師奇談 安倍晴明物語』(おんみょうじきだん あべのせいめいものがたり)は、荒俣宏の時代伝奇小説。当初は『夢々 陰陽師鬼談』という題名で角川書店から単行本が出版されたが、2003年8月に角川文庫で文庫化された際に改題された。
 のちに出版された『帝都物語』シリーズの解析書『帝都物語異録』(2001年12月 原書房)での荒俣の解説によると、本作は荒俣が『帝都物語』の執筆を開始した1979年ごろに並行して執筆した伝奇ロマン連作小説『平安鬼道絵巻』がベースになっている。また荒俣は、本作で安倍晴明をヒーローとして描いたため、その反対に陰陽師を悪役にした小説を書こうと思い立ち『帝都物語』の魔人・加藤保憲が誕生したと語っている。


あらすじ
 そこに立った子どもは、不思議な面立ちをしていた。その顔は、最近都で流行り出した舞楽の面のようだった。風が吹くと、赤毛がふわりとふくらむ。異国の香りを漂わせるその風貌には、高貴なたたずまいと、恐ろしく異質なあやかしの気配とが同居していた。
 今をさかのぼる千年前、平安の世で活躍した陰陽師・安倍晴明の秘められた物語。


おもな登場人物
聖徳太子厩戸皇子(しょうとくたいしうまやどのみこ 574~622年)
 飛鳥時代の第三十一代用明天皇(?~587年)の第二皇子。叔母の第三十三代推古天皇(554~628年)の摂政として、大臣・蘇我馬子(551~626年)と共に政治を行い、遣隋使を派遣して中国大陸の隋帝国(581~618年)から進んだ文化や制度をとりいれて「冠位十二階」や「十七条憲法」を定めるなど、天皇を中心とした中央集権国家体制を確立した。また、中国伝来の仏教を厚く信仰して興隆に努め、没後には聖徳太子自身も日本の仏教で尊崇され、「太子信仰」となっていった。
 伝説によると、六歳の時(579年)に空を飛ぶ黒馬に乗って朝鮮半島に渡り陰陽学を学び、法華経を日本に持ち帰ったとされる。

橘大郎女(たちばなのおおいらつめ ?~?年)
 聖徳太子の妃。第三十代敏達天皇(538~85年)の皇子・尾張皇子(?~?年)の娘で推古天皇の孫にあたる。聖徳太子との間に1男1女をもうけた。聖徳太子の妃たちの中で最も気丈な性格で、大臣・蘇我馬子の権力増大を容認し、異国の仏教や陰陽学に過度に傾倒して夜叉を使役する夫の行動に疑念を抱く。

吉備 真備(きびのまきび 695~775年)
 奈良時代の学者・公卿。養老元(717)年に遣唐使留学生として阿倍仲麻呂らと共に唐帝国に入り、陰陽学・天文学・兵法・陣法・暦数などを学びながら皇帝皇子の家庭教師を務めた。天平七(735)年に数多くの漢籍を携えて帰国し朝廷で重用され大納言まで昇進し、天平勝宝四(752)年に藤原清河の率いる第12次遣唐使に参加して再び唐に渡り、かつての盟友・阿倍仲麻呂と共に帰国しようと図る。唐にて「奇門遁甲の術」や「夢買いの術」を習得する。

阿倍 仲麻呂(あべのなかまろ 698~770年)
 奈良時代の学者・貴族。養老元(717)年に遣唐使留学生として阿倍仲麻呂らと共に唐帝国に入り、陰陽学・宿曜経などを学びながら皇帝皇子の家庭教師を務め、そのまま帝国の首都・長安で高官として勤め上げた。天平勝宝四(752)年に藤原清河の率いる第12次遣唐使が来唐した際に、唐皇帝玄宗に日本への帰国を申し出るが許可されず、清河やかつての盟友・吉備真備と共謀して翌年に無断帰国を図る。陰陽学の師である唐の伯道仙人の愛弟子だった、龍宮の龍王の娘・龍女との間に嫡男・満月丸をもうけている。

鑑真(がんじん 688~763年)
 唐帝国の高僧。日本に僧侶の授戒制度を伝えるべく渡海を目指すが5回失敗して失明してしまう。藤原清河や吉備真備らの遣唐使の帰国船に内密に乗船し、天平勝宝六(754)年についに悲願の来日を果たした。日本の南都六宗のひとつ「律宗」の開祖となった。

藤原 秀郷(ふじわらのひでさと 885?~991?年)
 平安時代中期の豪族、武将。下野国大掾・藤原村雄の子。承平年間(931~38年)に近江国の瀬田大橋で、全長20丈(60m)の白い大蛇と琵琶湖の龍神に遭遇する。

平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
 平安時代中期の関東地方の豪族。第五十代桓武天皇の皇胤。下総・常陸国で発生した平氏一族の抗争を関東地方全体を巻き込む戦乱へと拡大させ、京の朱雀天皇に対抗して「新皇」を自称し、東国の独立を宣言したが、朝廷の派兵した武将・藤原秀郷らによって討伐された。その死後に日本を代表する大怨霊のひとりとなったが、同時に守護神・鎮守神としても民衆から大事に尊崇・信仰された。
 秀郷に討ち取られた将門の首は京へ運ばれたが、首の無くなった身体は自分の首と秀郷を追って下総国から武蔵国までやって来た。秀郷は将門の身体を埋めて封印し、そこを「骸(からだ)明神」として祀った。これが現在の「神田明神」の始まりであるとされる。

安倍 晴明(あべのせいめい 921~1005年)
 平安時代の大陰陽師、天文博士にして、日本最大の白魔術師。当時の呪術コンサルタントとして皇族や貴族・民衆の間で絶大な信望を集めた。
 本作の設定では、遣唐使として唐帝国に渡り陰陽学を修めた貴族・阿倍仲麻呂と龍宮の龍王の娘・龍女との間に生まれた子・満月丸の曽孫にあたり、幼少期は童子丸と名付けられ摂津国阿倍野で「狐の子」と呼ばれ貧しい生活を送っていた。しかし10歳の時(930年)に仲麻呂と龍女の陰陽学の師である伯道仙人や龍女の父・龍王と出逢い、龍王の末娘の息長姫(おきながひめ)と婚姻する。その後、龍王から授かった秘宝を駆使して応和元(961)年に内裏の怪事件を解決し、朝廷に仕えるようになる。のっぺりとした狐のような顔をして、明るい赤毛の男。
※本作では晴明は阿倍仲麻呂の直系の子孫とされているが、阿倍家は飛鳥時代の7世紀初期に「布勢系」と「引田系」に分かれており、晴明は布勢系で仲麻呂は引田系であるため、これは架空の設定である。また、晴明が「阿倍」姓を「安倍」姓に改めたというのも架空の設定で、実際に安倍姓になったのは平安時代初期の8世紀末~9世紀前半のこと(晴明誕生の約100年前)とされている。

息長姫(おきながひめ)
 龍宮の龍王の末娘で、安倍晴明の6歳年上の正妻。亀に化けて摂津国住吉の浦に現れた時に子どもに捕まり、いじめられていたところを童子丸(のちの晴明)に助けられ、一目惚れして婚姻した。晴明に嫁ぐ際に「鯛ノ女(たいのめ)」と「海松ノ巫女(みるのみこ)」という侍女を龍宮から連れてきている。

賀茂 保憲(かものやすのり 917~77年)
 平安時代中期の貴族・陰陽師。同じく陰陽師の丹波権介・賀茂忠行の嫡男。安倍晴明の陰陽道の兄弟子にあたる。父・忠行と同じく『白衣観音経』を修めた陰陽道の達人で、当時の陰陽道の模範とされるほどの評価を得ており、また暦道も究め、日本の暦法の発展は彼がいなければあり得なかったといえる。
 天慶四(941)年に造暦の宣旨を受けて以降、暦博士・天文博士・陰陽博士・陰陽頭・穀倉院別当・主計頭を歴任し、天延二(974)年には造暦の功により従四位上に叙せられる。これは当時の陰陽師の中では異例に昇進が早く、従五位下だった父・忠行よりも位階が上になっていた。
 陰陽道のうち、暦道を子・光栄に、天文道を安倍晴明に継がせて、陰陽道宗家を二分した。
※本作では忠行・保憲父子の出た賀茂家は吉備真備の子孫とされているが、これは後世の創作である。

芦屋 道満(あしや どうまん 958?~1009年以降)
 平安時代中期の法師陰陽師(民間の陰陽師)。播磨国岸村(現・兵庫県加古川市)の出身とも伝えられているが、実像については不明な点が多い。
 本作では、朝鮮半島からの渡来人の血を引き、播磨国天下原(あまがはら)の古墳で先祖の霊や怨霊を鎮めていたが、応和元(961)年に内裏の怪事件を解決するために、新内裏造営の責任者である右大弁・橘元方に招聘されて京に上り、安倍晴明・賀茂保憲と対決する。3体の式神を使役していたが、意図して封印し京には連れて来なかった。乱れた長髪で手作りの紙製の冠をかぶり、くっきりした二重まぶたで唇の厚い青年。法師陰陽師ではあるが、朝廷にとり立てられて陰陽寮の博士になることを密かに望んでいる。星の仏である虚空蔵菩薩の法力を借りる「求聞持法(ぐもんじほう)」を得意とする。

源 高明(みなもとのたかあきら 914~83年)
 平安時代中期の公卿。第六十代醍醐天皇の第十皇子。左大臣。皇族出身という高貴な身分に加えて学問に優れ朝儀にも通じており、また当時の政界実力者だった右大臣・藤原師輔やその娘の中宮・安子の後援も得て朝廷で重んじられた。しかし師輔・安子父娘の死後には藤原家に忌まれ、安和二(969)年の政変「安和の変」で失脚し、政界から退いた。京の内裏の北東に位置する右京四条に壮麗な豪邸を構えていた。

渡辺 源次 綱(わたなべのげんじ つな 953~1025年)
 平安時代中期の武将。第五十二代嵯峨天皇を祖に持つ嵯峨源氏の子孫で、渡辺家の始祖。武将・源頼光の4人の重臣「頼光四天王」の筆頭として知られる。京の一条堀川戻橋で美女に化けた大鬼・茨木童子と対決する。左源太と右源太という郎党がいる。主君の頼光から、源氏重代の名刀「髭切(ひげきり)」を拝借している。

源 頼光(みなもとのよりみつ 948~1021年)
 平安時代中期の武将で渡辺綱の主君。鎮守府将軍・源満仲の嫡男で清和源氏第三代。名前はしばしば「らいこう」とも読まれる。父・満仲が史上初めて武士団を形成した摂津国多田(現・兵庫県川西市)を相続し、その子孫は「摂津源氏」と呼ばれる。
 のちに実の兄弟である丑御前の抹殺を父・満仲に命じられる。
※本作における丑御前の反乱は天暦十(956)年に起きた事件に設定されているため、頼光の年齢と合っていない。

源 丑御前(みなもとのうしごぜん 941年~)
 源満仲の息子で、頼光の弟。身長8丈(約2.4m)で2本の長い牙と四方に伸びた黒髪の間に2本の角を持つ異形の姿で、瞳は炎のように赤く輝いている。大きな杉の木を引き抜く怪力と韋駄天のように素早く走る脚力を持ち、その恐ろしい声には大和国の山中の熊もおびえる。
 清和源氏の家に生まれながらも、自分を強引に日本に連れてきた吉備真備の末裔である陰陽師を深く恨む牛頭天王の神意を胎内に宿したという母親の夢告と、3年3ヶ月にわたる異常に長い妊娠を大いに畏れた父・満仲が生まれた丑御前を殺すように命じ、それを不憫に感じた母が、乳母の須崎の方に密かに丑御前を連れて大和国の山中に逃れるようにはかった。天慶四年辛丑の年の三月二十五日丑の日の丑の刻に生まれたため「丑御前」という幼名を名付けられた。
 乳母・須崎の方とその夫・勝馬、2人の息子のひのくま宗虎の3人を家臣に従え、自分を殺そうとした父・満仲への復讐心に燃えて関東地方にくだり、かつて平将門が拠点とした下総国の相馬御所で将門の霊意を得て挙兵する。
※本作では丑御前は源頼光の弟と設定されているが、天慶四年生まれの丑御前は、天慶の次の年号の天暦年間生まれの頼光よりも明らかに年上である。

源 満仲(みなもとのみつなか 912~97年)
 平安時代中期の武将。武蔵権守。六孫王経基の嫡男で清和源氏第二代。多田源氏の始祖。
 牛頭天王の祟りを受け3年3ヶ月の異常な妊娠期間を経て生まれた異形の息子・丑御前を恐れて殺そうとするが失敗し、大和国の山中に逃れて16歳となった丑御前の抹殺を、同じ息子の頼光に命じる。

芦屋 宗源(あしや そうげん)
 安倍晴明の若い弟子の陰陽師。晴明に従いながらも、源満仲・頼光父子の策謀に加わり宇治の橋姫と契ろうとする晴明の企てを、晴明の正妻の息長姫に密告する。黒いひげをたくわえ眼光の鋭い行者風の青年。式神を駆使することができる。芦屋道満との関係は不明。

坂田 金時(さかたのきんとき 956~1011年)
 平安時代中期の武将。武将・源頼光の4人の重臣「頼光四天王」の一人。幼名・金太郎。駿河国の足柄山(現・静岡県小山町)で育ち、天延四(976)年に足柄峠を訪れた源頼光にその力量を認められて家来となった。武者としての誠を重んじる実直な性格で、実の息子または兄弟である丑御前を策謀に陥れて殺そうとする満仲・頼光父子に真っ向から異を唱える。
※本作における丑御前の反乱は天暦十(956)年に起きた事件に設定されているため、金時の年齢と合っていない。


おもな専門用語
亀卜(きぼく / かめうら)
 古代中国大陸の殷王国の時代(紀元前16世紀~紀元前1046年)から広く行われていた、亀の甲羅に火を当てて生じる亀裂の形や方向を見て神意を読み取る占術。中国大陸に伝わる、洛水の神亀の甲羅に大地を治める秘法が記してあったという古代神話に由来する。のちに新しい占術「易」が開発されてからも亀卜の権威は保たれ、易で意見がまとまらない場合や国家の一大事の最終決断には亀卜が用いられた。
 古代日本でも亀卜は占術の最高権威とされ対馬国の卜部家が伝承していたが、手順が難解煩雑であるために滅多に行われなくなり、次第に衰退した。

易(えき)
 古代中国大陸の周王国の時代(紀元前1046~紀元前256年)に開発された占術で、50本の細い棒「筮竹(ぜいちく)」を無作為に分けて神意を読み取る。殷王朝の亀卜よりも簡単・確実に占うことができる。

陰陽(いんよう / おんみょう)
 中国大陸で古代から伝えられてきた思想で、世界を動かしている昼の天に輝く太陽の力「陽」と、夜の暗い空に浮かぶ太陰(月)の力「陰」のこと。この世にあるすべての事物、森羅万象の成り立ちは、この陰と陽の力のバランスの変化によって生まれる。

五行(ごぎょう)
 天に輝く5つの惑星「青の木星」、「赤の火星」、「黄の土星」、「白の金星」、「黒の水星」のこと。この世界のすべての事物はこの5種類に分類できるとされ、方角に関しては中国大陸から見て青い海のある東が「木」、暑く赤い大地のある南が「火」、白い雪の降り積もる崑崙山脈や天山山脈のある西が「金」、暗い夜空のある北が「水」、黄砂の大地の広がる中央が「土」となる。また、季節については春が「木」、夏が「火」、秋が「金」、冬が「水」、それらの4季節の変わり目となる終わりの2週間が「土」となる(土用の丑の日の語源)。

相性(あいしょう)
 五行同士にある力関係のことで、相性が良いもの同士は力を出し合い、相性が悪いもの同士は力をそぎ合う。「木と火」、「火と土」、「土と金」、「金と水」は相性が良く、「木と土」、「火と金」、「土と水」、「金と木」、「水と火」は相性が悪い。

陰陽学(いんようがく)
 古代中国大陸に伝わる「陰陽」と「五行」の思想に基づき、亀卜や易の吉凶の判定を体系化したり、実際の天文の運行に合うように研究・改良を進めてきたりした学門のこと。漢帝国の時代(紀元前206~紀元後220年)までは陰陽の関係が重視されてきたが、唐帝国の時代(618~907年)になると五行の分類が注目されるようになり、この時の五行研究が遣唐使を通じて日本に伝来することとなった。同時に、西洋占星術と起源を同じくするインド発祥の占術「宿曜経(すくようぎょう)」を広めていた仏教の僧侶たちも陰陽学を吸収し修めるようになった。日本に陰陽学を伝えたのは朝鮮半島の僧侶たちだったとされている。
 日本では天武天皇(?~686年)が在位五(676)年に、陰陽学を学び実践する役所「陰陽寮」を開設し、そこから日本独自に陰陽学を修める宮廷官僚を「陰陽師(おんみょうじ)」、陰陽師たちの学問と技術を「陰陽道(おんみょうどう)」と呼ぶようになった。

民間陰陽師(法師陰陽師)
 古代朝廷は日本の陰陽道を独占するために陰陽寮の官人のみに陰陽師を限定し、もともと日本に陰陽学を伝えていた僧侶が陰陽師になることを禁止したが、それ以前に中国大陸から渡来していた仏教系の陰陽学はすでに民間に広く伝わっており、朝廷の傘下に入ることを嫌った呪術師たちが法師陰陽師となり、陰陽寮の陰陽師と対立する存在となっていった。

夜叉(やしゃ)
 もとは人を喰う邪悪な存在であったが、仏法を守護する四天王のひとり毘沙門天に敗れ配下にくだり、仏法を学んで悟りを開き仏法の守護者となった鬼神や精霊たちのこと。陰陽学を修めた僧侶「方士(ほうし)」に奉仕し、方士に使役されて四方位から襲ってくる外敵や悪霊を撃退したり、墓に眠る先祖の霊を守護したりする役目を担った。人々に不老長寿をもたらし、金銭を儲けさせる神通力を持っている。人間の大人と同じくらいの背丈で身体は青黒く、腕が4本あり、頭髪は炎のように燃え上がっている。非常に気前の良い性格。

蘇民将来(そみんしょうらい)
 8世紀中期に中国大陸から日本に伝来した、祇園社の牛頭天王に祈願する際に護符と八角形の柱に記す名前で、牛頭天王は疫病や天変地異をもたらし人々を呪う強力な祟り神であるが、この護符を持つ民に対しては災厄や疫病を祓い福を招く神になるとして信仰されている。陰陽道では「天徳神」と同一視され、民衆は蘇民将来の子孫であることを示すために茅の輪を身に着けていたという。

簠簋内伝金烏玉兎集(ほきないでんきんうぎょくとしゅう)
 龍宮の龍王が所有していた、陰陽学と天文知識を伝える秘伝書。星の動きを知り、未来を予知し、大地の祟りを鎮めることができる禁断の秘術が記されている。

摩睺羅伽(まごらが)
 仏教を守護する護法善神「天龍八部衆」の一尊。サンスクリット語で「偉大なる蛇」を意味するマホーラガが名前の語源。もとは古代インドの音楽の神で、ニシキヘビのような大蛇を神格化したものである。本作では、日本に持ち出された『簠簋内伝金烏玉兎集』を取り返そうとする龍王の命により、百本の脚を持つ巨大なムカデの姿となり近江国の三上山に出現した。

宿曜経(すくようぎょう)
 陰陽学とは全く異なる、西洋占星術と起源を同じくする古代インド発祥の星の知識を駆使する占術の経典で、仏教の秘儀と共に高僧・三蔵法師玄奘(602~64年)が中国大陸に伝えた。大乗仏教の一尊である、叡智の仏・文殊菩薩の教えとされる。中東アジアの古代メソポタミア文明を発祥とする、天を12に区分してそれぞれに聖獣を配置した「黄道十二宮」などの天文学も導入されており、陰陽学と共に日本の陰陽道の重要知識のひとつとなった。

緊那羅(きんなら)
 もとは古代インド神話に登場する、夜叉と共に創造神ブラフマー(梵天)のつま先から生まれた音楽の神だったが、護法善神「天龍八部衆」の一尊となった。歌と踊りに秀でて特に歌が美しいといわれる。男性のキンナラは半人半馬だが、女性のキンナリーは美しい天女で、ときおり地上に舞い降り水浴びなどして遊ぶという。
 日本では、神でも人間でも動物でも鳥でもない半身半獣の生物とされるため「人非人」とも呼ばれ、半人半鳥の音楽神・乾闥婆(ガンダルヴァ)と同様に帝釈天(インド神話のインドラ)の眷属となっている。
 本作では、京の内裏の北東にある左大臣・源高明の邸宅に巣食う、仏教の力で人間になることを夢みる零落した小鬼として登場する。

乾闥婆(けんだつば)
 もとは古代インド神話に登場する、英雄神インドラ(帝釈天)に仕える半人半鳥の音楽の神ガンダルヴァで、女好きで性欲が強いが処女の守護神でもあるとされる。女性のガンダルヴァも存在する。酒や肉を喰らわず香りを栄養とし、自身の身体からも冷たく濃厚な香気を発する。サンスクリット語でガンダルヴァとは「変化が目まぐるしい」という意味であり、蜃気楼のことをガンダルヴァの居城にたとえて「乾闥婆城( gandharva-nagara)」とも呼ぶ。古代ギリシア神話の牧神パンと同源であると推定されている。仏教では護法善神「天龍八部衆」の一尊となっている。
 本作では、他の娘の家に泊まり込むようになった夫を強く恨んだ妻が化身した、白髪で全身が青い鬼女として登場する。

三十番神(さんじゅうばんじん)
 日本の仏教と陰陽道の中でできた守護神の概念。天台宗の宗祖である伝教大師最澄(762~822年)が、日本の国土と法華経の布教を守るために、月に1日の持ち回りで守護する30の仏神を定めたもの(例:毎月の一日は熱田大明神、二日は諏訪大明神、三日は広田大明神など)。特にその中でも、日本の王都である平安京を守護する役割が分担されており、将軍塚に鎮座して朱雀以東を守る青龍八神、石清水八幡宮に鎮座して九条以南を守る朱雀八神、鳴滝川に鎮座して西洞院以西を守る白虎八神、一条以北を守る玄武八神がいる。

式神(しきがみ)
 単に「式」ともいう。吉凶を占い、魔を祓う陰陽師に使役される目に見えぬ鬼といわれ、陰陽師が創った人造人間ともいわれる。人を呪う時に式神が放たれ、式神は呪う相手にとり憑き、生命をおびやかす。呪われた人は一瞬でも早く、より強力な陰陽師に頼んで相手に式神を打ち返さない限り、助からない。

十二神将(じゅうにしんしょう)
 式神の中でも、特に安倍晴明が使役していた式神たちのこと。もともと晴明の邸宅の南門の梁に棲みついていたが、晴明の正妻・息長姫が彼らを忌み嫌ったため、晴明が自身の邸宅に近い京・一条堀川戻橋の下に置いて必要時に召喚していた。

茨木童子(いばらきどうじ)
 平安時代中期に、大江山(丹波国にあったとされるが、現在の京都市と亀岡市の境にある大枝山という説もある)を本拠に、貴族の子女を誘拐するなど乱暴狼藉をはたらき京の都を荒らし回ったとされる鬼のひとりで、鬼の棟梁・酒呑童子(しゅてんどうじ)の最も重要な家来。舞の上手な美女に化けて、武将・源頼光の4人の重臣「頼光四天王」の一人である渡辺綱と一条堀川戻橋で闘った故事が、後世の説話集や能、謡曲、歌舞伎などで語り継がれている。
 本作では、もと晴明の式神十二神将のひとりだったという設定で、宇治の橋姫と同一人物となっている。

橋姫(はしひめ)
 日本各地に古くからある大きな橋にまつわる多くの伝承に現れる鬼女・女神。外敵の侵入を防ぐ橋の守護神として祀られていることもあり、古代の水神信仰が起源といわれている。橋姫は嫉妬深い神ともいわれ、橋姫の祀られた橋の上で他の橋を褒めたり、または女の嫉妬を語ると必ず恐ろしい目に遭うという。これは「愛らしい」を意味する古語の「愛(は)し」が「橋」に通じ、愛人のことを「愛し姫(はしひめ)」といったことに由来するなどの説がある。橋姫伝説の中でも、京都府宇治川の宇治橋、大阪市淀川の長柄橋、滋賀県瀬田川の瀬田大橋などが特に有名である。
 本作では、渡辺綱の実母という設定で登場し、綱を生んだ後に他の女性を愛した夫が橋姫を捨てたために深く恨み、貴船明神に丑の刻参りを行って鬼女に化身した。そののちに宇治橋に移ったとされているが、もと晴明の十二神将のひとりだったという設定も加わり、茨木童子と同一人物となっている。

牛嶋神社(うしじまじんじゃ)
 現在の東京都墨田区向島の隅田公園内にある、東京本所総鎮守の神社。社格は武蔵国郷社。
 平安時代中期の貞観年間(859~79年)に慈覚大師円仁(794~864年)が当地を訪れた際に、須佐之男命(スサノオ / 牛頭天王)の化身の老翁から託宣を受けて創建したとされる。明治時代以前は「牛御前社」と呼ばれていた。例祭は毎年9月15日。
 この神社には弘化二(1845)年に奉納された絵師・葛飾北斎の大絵馬『須佐之男命厄神退治之図』があったが、大正十二(1923)年の関東大震災で現物は焼失し、現在は原寸大の白黒写真が本殿内に掲げられている。なお、同作は2016年に色彩の推定復元が行われ、すみだ北斎美術館にて展示されている。
 境内には「撫牛(なでうし)」と呼ばれる牛の石像があり、自分の身体の悪い所と同じ部分を撫でると病気が治ると言い伝えられている。また本殿前の鳥居は「三ツ鳥居」と呼ばれる珍しい形態の鳥居である。
 アクセスは、都営地下鉄浅草線の本所吾妻橋駅から徒歩で約10分。
 本作では浅草川(現・隅田川)で討たれた丑御前を祀るためにこの「丑御前神社」が創建されたという設定になっているが、本作における丑御前の反乱は天暦十(956)年に起きた事件に設定されているため、社伝とは合っていない。


≪な、なんじゃ、この基本情報の膨大さは!? 本文マダヨ≫
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』

2025年07月03日 20時54分37秒 | すきな小説
 あぢぢぢぢ~。みなさまどうもこんばんは、そうだいでございます。
 いよいよ始まっちゃいましたね、7月が! 東北はまだ梅雨明けしてないんですが、日本の半分くらいはもう明けて夏に入ってるということで、猛暑日のニュースが毎日続いてますねぇ。こっから10月くらいまでが長いんだよなぁ!
 つい昨日のことなんですが、私の住む山形市の周辺でもものすんごいゲリラ豪雨が発生したそうで。私の自宅ではなんにも影響がなかったのですが、つい隣の市では道が冠水とか停電とか、ものすごかったそうです。でもいかんせん予測しづらいんでね……臨機応変に対処するしかありませんか。

 ちょうど、全国ニュースにもなったそのゲリラ豪雨が起きていた頃、私は映画館にいて、遅ればせながらデミ=ムーア主演の話題の映画『サブスタンス』を観ていました。
 いや~、なかなかエッジのきいた映画ですばらしかったです! 途中から、「これ漫☆画太郎先生の『ババアゾーン』の映画化だっけ?」と錯覚してしまうような凄惨な地獄絵図が繰り広げられていたのですが、もういくとこまでいって笑うしかないことになっちゃってましたね。デミ=ムーアさんの女優根性は5大陸に鳴り響くでぇ!
 内容はほんとに、『笑ゥせぇるすまん』とか『アウターゾーン』の一話でもおかしくないような因果応報の幻想譚なのですが、主人公の破滅の仕方のしつっこさがさすがハリウッドというか、徹底的な感じだったので、その突き抜け感があっぱれでしたね。いろいろツッコミたいところもあるのですが、メインの女優さん2人の全力演技とスピード感で押し切った感じ。
 よくよく見るとキューブリック監督の『シャイニング』(1980年)オマージュも露骨だし、画面が真っ赤に染まるクライマックスもピーター=ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992年)で観たことのある風景だし、比較するのはかわいそうですがデイヴィッド=リンチほどの映像美学も感じはしなかったものの、途中から迷走しまくりだったアリ=アスター監督の『ボーはおそれている』よりもずっとわかりやすくて好感の持てる一本槍スタイルだったので、スッキリ爽快な後味でした。でも、私が観た回は「終映時刻18:30」だったんですよね……夕飯の食欲わかねぇ~!!
 そういえば、最近は私、観る映画観る映画、客層が同世代かそれ以上の方々ばっかりで「わしも歳をとったのう……」とか慨嘆していたのですが、この『サブスタンス』を私が観た時の客層はみごとに私以外全員10~20代のわこうどばっかりで(そして8割女子)、しかも「わたし芸術系の大学生ですが、なにか……?」みたいなとんがった1人客が多かったので、日本の未来も明るいなと思いました。みんな、ルサンチマンもってこぉぜぇ!!

 さて、そんな前置きはさておきまして、今回はいよいよ、えっちらおっちら問はず語りで続けてきた「荒俣宏の『帝都物語』関連小説を読む」企画の中の風水ホラー小説「シム・フースイ」シリーズを読んでいく記事の最終回となります! いや~ついにここまできちゃいましたか!
 そういえば、このシリーズのレギュラーヒロインの有吉ミヅチさんも、ほんとにいたら絶対に『サブスタンス』観てるような気がする……ミヅチさんは1971年生まれだそうですから、もし実際に生きていたら54歳ですか。どこで何してるんだろうねぇ。


シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』(1999年10月)
 『絶の島事件』(たえのしまじけん)は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第5作。1999年に『鳥羽ミステリー紀行 どおまん・せいまん奇談』という題名で出版社ゼスト(ゲーム会社アートディンクの子会社)から単行本が出版され、2001年9月に角川書店角川ホラー文庫で文庫化された。
 本作は、2025年5月時点では「シム・フースイ」シリーズの最終作となっている。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しないが、主人公・黒田龍人の祖父・黒田茂丸が、幼少期の龍人に「気をつけろ。ドーマンセーマンに。この印をもつ者に、気をつけろ。」と語ったエピソードや、魔人・加藤保憲が使っていたと思われる五芒星の縫い取られたハンカチを黒田家が所有しているという言及がある。

あらすじ
 絶の島(たえのしま)。400年前に地震のため鳥羽の海に消えた、幻の島。
 1999年6月。この島を探し出してほしいとの依頼を受けた風水師・黒田龍人は、現地で九鬼水軍が残したといわれる秘宝の謎に巻き込まれる。果たして龍人と助手ミヅチは「どおまん・せいまん」の謎を解き、秘宝を見つけ出すことができるのか。


おもな登場人物
中村 元
 三重県鳥羽市の鳥羽水族館企画室長で、鳥羽水族館創設者の中村幸昭(はるあき)の娘婿。古代からの風水伝承をテーマにした鳥羽市の町おこしキャンペーンの監修を黒田龍人に依頼する。真夏日にもスーツとネクタイを欠かさない、よく日焼けした角ばった顔の小柄な紳士(ミヅチよりも背が低い)。個人的に5千万円の借金に苦しんでおり、そのために鳥羽湾内にある小島「ミキモト真珠島(旧名・相島)」にある「真珠博物館」で発生した宝石盗難事件の被疑者の一人として鳥羽署にマークされている。もとは鳥羽水族館でアシカやイルカ、スナメリのトレーナーをしていた。

志多 勝彦(しだ かつひこ)
 鳥羽駅前のショッピングビル「鳥羽一番街」社長。丸顔で嫌味の無い若手経営者。警察沙汰を起こしながらも強引に町おこしキャンペーンを進める中村を不安視している。

松月 清郎
 真珠博物館の学芸員。銀縁のメガネをかけている温厚そうな顔だちの男。江戸川乱歩の研究も行っており、乱歩が1936年に鳥羽の海女を撮影したフィルム映像に映り込んだ「2人の少女」の謎を解明しようとする。

野町 貴子
 真珠博物館の学芸員。中村と交際しているという噂が立っており、そのために中村の宝石盗難の共犯ではないかと鳥羽署に疑われている。

岩田 貞雄
 伊勢神宮の図書館「神宮文庫」に勤務する神道研究家で、鳥羽市の歴史に詳しい生き字引。江戸川乱歩と親交のあった画家で民俗学研究家の岩田準一(1900~45年)の次男。準一は竹久夢二(1884~1934年)の弟子であり、鳥羽の真珠島をモデルとした乱歩の中編探偵小説『パノラマ島奇談』(1926~27年連載)の挿絵を担当しており、乱歩がプライベートで鳥羽の海女を撮影したフィルム映像にも一緒に映っている。

黒田 龍人(くろだ たつと)
 本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
 夏場は常にエアコンで室温を20℃に設定して仕事をする。1995年頃から、地上げや土地競売にまつわるトラブル、大手ゼネコン株で失敗しサラ金破産で危機に陥った人々を救う仕事も行っている。スクーバダイビングを40、50回行った経験がある。

有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
 黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
 現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。
 江戸川乱歩が好き。エアコンの冷気が嫌い。右手首に、龍人から受けたストレスのために自傷したリストカット跡が2本ある。

橋本 ミチ
 鳥羽湾最大の島・答志島の和具港に住む海女。夫の太一とアワビ採り漁をしていた際に妖怪ともかづきに出遭う。

目崎博士
 毎年夏に伊勢湾の神島に滞在して、伊勢湾の海底地形や絶の島の推定地を調査している M大学の地形学教授。スクーバダイビングの経験が豊富で、鳥羽の地理と歴史に詳しい。大柄でたくましい体格で、手入れをしていない白髪まじりの頭髪の中年男。青みがかった目をしていて、笑うとえくぼができる。探検帽に探検靴、ちゃんちゃんこのような青のベストにカーキ色の半ズボンを着て、常に虹色に輝く偏光サングラスをかけている。心理療法の一種である「変性意識療法」への造詣が深い。最新のコンピュータ技術の教育にも熱心で、神島の神島小学校(全校生徒24名)に通信回線をつなぎ、テレコングレス(テレビ電話を使ったヴァーチャル会議)も可能なコンピュータ端末と大型液晶スクリーンを導入して生徒への指導にあたっており、NHK のTV番組にも出演した経験がある。


おもな用語解説
ともかづき
 三重県鳥羽市や志摩市で伝承される海の妖怪。名前は同地方の古い方言で「一緒に潜水する者」の意味。
 ともかづきは、海女などの海に潜る者そっくりに化けて一緒について来るという。ともかづきに遭遇するのは曇天の日といわれる。ともかづきは海女を暗い場所へ誘ったりアワビを差し出したりする。この誘いに乗ると命が奪われると恐れられている。また、ともかづきは蚊帳のような被膜をかぶせて海女を苦しめるともいい、ある海女は持っていたノミで無我夢中にこの膜を破って助かったという伝承もある。ともかづきが出たという話を聞くと、近隣一帯の村の海女たちは2,3日海に潜らなくなるほど、ともかづきは大変に恐れられていたという。
 海女たちはこの怪異から逃れるために、五芒星と格子の模様を描いた「ドーマンセーマン」と呼ばれる魔除けを描いた衣服や手ぬぐいを身につける。ドーマンセーマンは、陰陽道で知られる安倍晴明や蘆屋道満に由来するともいわれるが、トモカヅキとの関連性はよくわかっていない。
 ともかづきは溺れ死んだ海女の亡霊とされているが、科学的には過酷な長時間の海中作業によって陥る譫妄症状ではないかと言われ、イルカの一種で体色の白いスナメリの見間違いではないかという説もある。ともかづきと同様の怪異は静岡県南伊豆町や福井県坂井市の海女のあいだでも伝承されているが、共通して海女が大勢で作業を行なっている際には一切出現せず、単独作業を行なっている時にのみ現れるという。
 本作では頭から足先まで真っ白な姿で常に笑い顔を浮かべながら出現する。

しろんご祭り
 三重県鳥羽市の伊勢湾にある菅島で受け継がれている、海女の伝統行事。毎年7月11日に開催され、海女らが雌雄つがいのアワビ「まねきあわび」を誰が一番早く獲れるかを競い、勝者は1年間菅島の海女頭になれる。獲ったアワビは、神域として一年を通じて禁漁区に指定されている白浜(通称しろんご浜)の丘の上に鎮座する白髭神社(しらひげじんじゃ 通称しろんごさん 菅島神社の境外社)に奉納され、海上の無事安全と豊漁が祈願される。ちなみに、まねきあわびは生物学的な雌雄つがいではなく、メガイアワビを雌貝、クロアワビを雄貝とする。メガイアワビの数は他のアワビに比べて極端に少ないため採取が難しい。
 白髭神社の祭神・白髭明神は日本神話の神・猿田彦であるとされ、猿田彦には伊勢国阿邪訶(あざか 現・三重県松阪市)の海で漁をしていた時に比良夫貝(ひらふがい)に手を挟まれ溺れたという伝承があることから、海女を守護する神とされている。本作では、白髭神社の「白(しら)」が古代朝鮮半島の新羅王国(現地語でシラ)と通じることから、猿田彦も中国大陸南部から渡来して海女文化を伊勢国に広めた先住民「安曇族」が信仰していた外来神だった可能性を示唆している。

日和見師(ひよりみし)
 江戸時代に伊勢湾に面する鳥羽の日和山に立ち、海の状態を観察して、そこを航行する帆船「千石船」に明日の天候と海況を予報していた専門職集団。日和見師のルーツは江戸時代以前に天候を予測していた古代の陰陽師や聖(日知り)にさかのぼり、航海術や地相占術を受け継ぐ風水師の役割も果たしていた。

九鬼 嘉隆(くき よしたか 1542~1600年)
 戦国時代に九鬼水軍の棟梁となり、豊臣政権の有力大名として朝鮮半島にまで遠征した武将。関ヶ原合戦で西軍についた責めを負って自害した際に、九鬼家の居城・鳥羽城のあった鳥羽湾の中でも最大の島である答志島の山上に首が埋められたとされ、嘉隆は現在も鳥羽の守護神として崇敬されている。答志島には嘉隆の首塚の他にも「胴塚」や「血洗い池」の史跡が残っている。

九鬼家
 南北朝時代の貞治年間(1362~66年)に、紀伊国熊野から鳥羽に北上してきたといわれる海賊党。紀伊国にいた頃は熊野神宮や修験道に関わりがあり、捕鯨技術を持った海の民であった可能性が高い。九鬼家第十一代当主・嘉隆の時に伊勢国司・北畠具教の攻撃を受けて鳥羽から三河国に亡命したが、織田家の水軍棟梁として躍進し、志摩一国の大名として返り咲いた。嘉隆は関ヶ原合戦で西軍についたために戦後に答志島で自害したが、嘉隆の次男・守隆が徳川家に従ったことで九鬼家は志摩鳥羽藩の藩主として存続した。九鬼家が海賊だった時代に集めた財宝が鳥羽の島々のどこかに隠されているという伝説が残っている。

絶の島(たえのしま)
 別名「鯛ノ島」。戦国時代の天文六(1537)年の三河大地震と翌年の熊野大地震によって水深10~15m の海底に沈んだという言い伝えが残る、直径2km ほどの島。伊勢湾の島々の中でも最も本土から遠い神島(かみしま 三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台として有名)の、南の沖10km の地点にあったといわれ、かつては神島と砂州でつながり、鳥羽湾から見て神島の玄関口のような役割を果たしていたとみられる。絶の島の伝承は神島に多く残っており、神島は鳥羽湾や伊勢神宮から見て鬼門にあたる北東に位置するため、絶の島にも伊勢・志摩国全体の鬼門封じの役割があったと思われる。

あわ(輪)
 伊勢湾の神島にある八代神社で、毎年元旦の未明に行われる伝統行事「げーたー祭り」で使用される、浜グミを丸めて白布で巻いた直径2m ほどの輪のことで、東から昇る太陽を象徴しているとされる。神島は、古代日本の神聖な場所である伊勢の旧斎宮、三井寺、大和の三輪山、仁徳天皇陵、天武・持統両天皇陵、淡路島をつなぐ龍脈「太陽の道」の東端にあたり、地形学でいう「中央構造線」と重なっている。

蘇民将来(そみんしょうらい)
 8世紀初期に編纂された『備後国風土記』に登場する人物であり、日本各地にその説話と民間信仰が広まっている。主にスサノオ(牛頭天王)を祀る神社で「蘇民将来」の名の記された護符と八角形の柱が伝わっており、災厄や疫病を祓い福を招く神として信仰されている。陰陽道では「天徳神」と同一視されている。蘇民将来と牛頭天王の信仰は、陰陽師の賀茂家によって播磨国から大和国、山城国に伝播し、紀伊国から熊野街道を通って伊勢国に伝わったといわれ、民衆は蘇民将来の子孫であることを示すために茅の輪を身に着けていたという。この信仰は現在も、鳥羽の海女が魔除けに使う九字切りやドーマンセーマン、神島のげーたー祭りのあわなどに残っているとされている。

亀卜(きぼく / かめうら)
 古代中国大陸の陰陽学と道教を起源とする占術。天武天皇(?~686年)が在位五(676)年に陰陽寮を開設して日本独自の陰陽道を創始した以前に、卑弥呼(170?~248年)の時代から日本に渡来して、古代天皇家を支える「亀卜師(きぼくし)」として存在していた。かつて亀卜に使われるウミガメの甲羅は対馬国沖の神聖な海域で獲られていたが、垂仁天皇の時代(3世紀後半~4世紀前半)に伊勢神宮が創建されてからは、伊勢国の鳥羽沖で獲られたウミガメを使用するようになっていた。その歴史の古さから、古代朝廷では陰陽寮の占術よりも亀卜による神託を重んじていたという。

九字切り(くじぎり)
 修験道に伝わる、遠くにいる敵を呪力で倒すための秘法。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」の九字を四縦、五横に切る。

法師陰陽師(ほうしおんみょうじ)
 播磨国の六甲山を発祥とする、僧形の修験者集団。古代朝廷は日本の陰陽道を独占するために陰陽寮の官人のみに陰陽師を限定し、もともと中国大陸で陰陽学を伝えていた僧侶が陰陽師になることを禁止したが、朝廷の傘下に入ることを嫌った呪術師たちが法師陰陽師となり、民間に陰陽道を伝えていくようになった。陰陽寮の陰陽師である安倍晴明(921~1005年)のライバルであったという芦屋道満(958?~1009年以降)は、この法師陰陽師の頭目であったという。

法道仙人
 6~7世紀ごろにインドから中国大陸、朝鮮半島を経由して日本に渡来したという伝説の仙人。鉄の宝鉢を持ち、鉢を飛ばしてお布施を集める「飛鉢の法」を会得していたことから「空鉢(くはつ)」もしくは「空鉢仙人(からはちせんにん)」とも呼ばれる。播磨国の六甲山を中心に、六甲比命大善神社や吉祥院多聞寺など数多くの寺社の開山・開基として名を遺し、関東地方でも鉢山町や神泉町などの地名が法道に由来するといわれる。日本に渡る際に牛頭天王と共に渡ったとされる。芦屋道満はこの法道仙人の弟子であるという伝承が残っている。

土圭(とけい)
 古代中国大陸の風水師が宮殿を建てる位置を決定するために発明した、太陽の方位を測る器材。L字型の指金のような形をしており、8尺(約24cm)の長い目盛付きの尺を垂直に立てて1尺5寸(約4.5cm)の短い尺を大地に寝かせ、夏至の日に南中する太陽がつくる長い尺の影が短い尺と重なる地点を、世界を支配できる王宮の建つべき「地中」としていた。地中に選ばれる位置は必ず「北緯34度32分」になるといわれ、実際に、中国大陸の歴代古代王朝の首都となった西安、洛陽、北京はことごとくこの緯度の付近にあるという。また、この緯度は古代日本の龍脈「太陽の道」とも一致する。

ドーマンセーマン
 五芒星の形をした魔除けの印。ほぼ世界共通に存在し、もともとは人をとり殺す魔力を持つ「邪眼」に睨みつけられた時、その視線をそらすために使われた。日本では、史上最大の陰陽師で土御門家の開祖である安倍晴明にちなみ「晴明判」と呼ばれる。ドーマンセーマンとは紀伊国とその周辺地域で使われる言葉で、「ドーマン」は、これも有名な法師陰陽師である芦屋道満、「セーマン」は晴明のことといわれる。六芒星や籠目もドーマンセーマンの類のものである。

六芒星(ペンタグラマ)
 同じ籠目型の呪符であっても、ドーマンセーマンのような五芒星とは別種のものである。2つの三角形を上向きと下向きとで組み合わせた六芒星は、日本では籠目の他に古代ユダヤ教の「ダビデの星」の意味も含む。強力な魔除けとなる呪符で、数秘学的に見ると6は完全数すなわち万能の霊力を持っている。

ミルトン・ハイランド=エリクソン(1901~80年)
 アメリカの精神科医、心理学者で、催眠療法家として知られる。アメリカ臨床催眠学会の創始者で初代会長を務めた。催眠の臨床性・実践性向上のため精力的にワークショップを開き世界各国を行脚した。精神療法に斬新な手法を用いたことで知られ、「ユーティライゼーション(利用できる物はなんでも利用する)」をモットーとした臨機応変・変化自在な技法を用いて、その名人芸は「魔術師」とも呼ばれた。被験者ごとに異なるアプローチを行うべきだという信念から、振り子やコインといった特別な道具は一切使わず、技法の体系化は好まなかった。魅惑(不思議な体験)、嚇し(物理的なショック)、繰り返しによる疲労といった手法により、被験者の意識と身体を麻痺させて無意識の扉を開くカタレプシー(硬直)を利用した催眠療法を創始した。


 ……相変わらず基本情報がめっちゃくちゃ膨大になってしまって申し訳ないのですが、最終作なんだもの、このくらいまでふくらみもしますよ!

 ということでありまして、2025年6月現在、荒俣先生の「シム・フースイ」シリーズは続刊が途絶えておりますので、この第5作が実質最終作ということになっております。
 そして、当然ながら荒俣先生の『帝都物語』関連の小説はこれ以降も陸続と執筆されてはいくのですが、どうやら「作中の時間軸」という見方でいきますと、本作の「1999年」よりも後の時代設定になっている作品は無いようなんですね。ぜんぶが『帝都物語』以前の前日譚になっているようなんです。そして『帝都物語』の『未来宮篇』以降も『帝都物語外伝 機関童子』も、時間軸は「1998年」でしたから。
 あっ、でも、平成版と令和版の『妖怪大戦争』2作と京極夏彦先生のやつが、いちおう魔人・加藤が出てくるから続編になんのかな。でも、あのへんは荒俣先生の小説ありきの話じゃないからな(ノベライズはあるけど)……果たして、あの令和版『妖怪大戦争』の続きはあるんだろうか? う~ん。

 え~、じゃあこの『絶の島事件』が、あの長大なる『帝都物語』サーガの「実質最終章」になるってわけ!? いいんですか、そんな超重要な立ち位置で……

 そうなんです、この作品、「シム・フースイ」シリーズ&『帝都物語』サーガの最終作というにはあまりにもあっけらかんとした、「黒田龍人、鳥羽にてちょっとした小事件に巻き込まれてタイヘンの巻」みたいなスケールのお話になっているんですよ! え? ミヅチさんはどこだって? 最後にちょろっと鳥羽にやって来るだけで、出番ほとんどない。

 な、なんちゅうこっちゃ……これ、まさに「番外編」といった感じの、のほほんミステリ紀行じゃないか! タイトルに「殺人」がついてない時点でヤな予感がしてたんだよ……たいしたことない事件だなって。

 ただ、こんな私の物言いから勘違いしないでいただきたいのは、この『絶の島事件』、決して面白くないわけじゃないんです。少なくとも、前作『闇吹く夏』よりは内容にけれん味もあるしオカルト要素もふんだんに配置されているので楽しい小説なんですよ。事件のスケールはシリーズ最小ですけど……

 本作のキーワードは、ざっと挙げるだけでも「九鬼水軍の秘法」と「古代風水都市・鳥羽」、「海中に沈んだ幻の島」と「江戸川乱歩の秘蔵フィルムの謎」ということで、時代を超えて鳥羽にまつわる非常にうまみのあるミステリアスな食材がそろっている感じなのですが、正直、それらの伏線が想像しうる限り最も「しょぼしょぼっ……」とした感じで回収されて事件が解決しちゃった、という印象はいなめません。
 いなめはしないのですが、まぁ伏線をほっぽり投げたまんまよりはマシですよね! ともかく、これだけのおもしろ要素が集まってるってだけで、なんか楽しくなっちゃうんですよね。心なしか、荒俣先生の筆のノリも軽やかで愉快です。

 そして、なんかほんとに『なあばす・ぶれいくだうん』の気の利いた1話完結エピソードみたいな感じなんですが、鳥羽に来て事件を捜査している内にどんどん龍人がこんがらがってきて、佳境にふらっとやって来て話を聞いたミヅチがスパスパ~ッと解決しちゃうという流れが実に痛快なんですよね! 龍人が汗まみれで溜息をついてる姿を見て、ミヅチが「いい気味……フフ」と笑ってるカップリングが、2人の最終形として実にしっくりくるんです。

 う~ん、そう考えると、「シム・フースイ」シリーズのこの2人は、『帝都物語』本編みたいな仰々しいクライマックスじゃなくて、こんな感じでつかず離れずの『トムとジェリー』みたいな関係のまま未完にするのが最善手なのかも。これでおしまいのほうが、シリーズを通してさんっざんひどい目に遭わされ続けてきたミヅチにとっては幸せなのか……ほんと、本作のミヅチは何の苦労もせずに「高みの見物」な天才探偵ポジションだもんな。龍人は最終作でみごとワトスン役に降格! インガオホー!!

 ミヅチが探偵役と書きましたが、本作はほんとうに「シム・フースイ」シリーズの中でも特に異色な作品で、海の中の幻の島や九鬼の秘宝、フィルムに映った謎の少女たちや妖怪ともかづきと、相変わらず怪しげなアイテムはわんさと出てくるのですが、主軸となるお話は完全なるミステリなのです。ホラー小説では断じてないんですね。
 これはおそらく、作中にも鳥羽に縁のある偉人として登場してくる江戸川乱歩への、荒俣先生なりの敬意のあらわれかと思えるのですが、繰り広げられる一連の謎は、いちおう論理的に成立可能なトリックを悪用した純然たる計画犯罪に起因することが立証されるのです。ドーマンセーマンとかペンタグラマとか言ってますが、式神や魔法なんか一切使われないのです。

 ただ、かといってミステリとしてこの作品を楽しめるかと言われると……ま、寛大な心でお読みくださいって感じでしょうか。いや、たぶんこれは実際にできるトリックなんじゃないかと思うんですが……ほら、ポオの昔からトリックに動物はつきものですから……
 ひとつ苦言を呈させていただけるのならば、登場人物の一人が「昔、水族館で海獣ショーのトレーナーをやってた」という重要な情報が物語のクライマックスになってやっと提示されるのでそこはアンフェアかなという感じはしましたが、私は本作のオチに納得はできました。

 あと、メイントリックをサポートする第2のトリックとして、上の情報にもあるような催眠療法が重要な意味を持ってくるわけなのですが、ここは明らかに乱歩作品の中でも幻想系の傑作としてつとに有名な「ある短編小説」を明確に意識した内容になっているのが面白かったです。そうか、あれは科学的に説明がつかないこともない話だったのか……ヒントは、登場人物のひとりの名前!

 まぁこんな感じで、本作は「ホラーの皮をかぶったミステリ」であり、「怪奇現象の皮をかぶった犯罪」ということになるので、ここまでシリーズの中でさんざん魔術的なことをしておきながら、最後の最後で『怪奇大作戦』みたいな別ジャンルをぶち込んでくるという、異例すぎる内容となっていたのでした。そもそも原題からして『鳥羽ミステリー紀行』だったんですから、案外、荒俣先生もほんとに肩の力をぬいた番外編のつもりで書いてたのかも。まさかそれが最終作になろうとは……なんか、『ウルトラマン80』とか『魁!!男塾』の最終回みたいな脱力感なんですよね。逆にそこがいいと言えばいいのですが。

 最後にもう一つ、これはどうしても、本作を語る以上は言っておかねばならないことかと思うのですが、本作では、現在明らかにその史実性に疑問符のつく偽書として有名になっている、ある文書の内容が前提となって論が進んでいる部分があります。「九鬼」といったら、やっぱこれが出てくるでしょうねぇ。
 当然ながら、荒俣先生も文章の中で「偽書の可能性が高い」とただし書きをつけてはいるのですが、「内容すべてを否定することもできない」として、その文書の中でまことしやかに語られている事項を、あたかも九鬼家の歴史的事実のように受け入れ、実質全肯定で取り入れているように見えるのです。

 いや、ここは例えフィクションの中の話なのだとしても、やってはいけないことなのでは。私はここだけは容認してはいけないと思うんだよなぁ。「面白いから」「ロマンがあるから」という理由でオカルティックなウソを面白がった結果、1995年の日本で何が起きたのかを考えれば、そこは慎重になるべきなのではないかと思うんですよね。
 ここはね……誰かが明確な目的をもってついた嘘と、幽霊やネッシーを信じることを一緒くたにしては絶対にいけないと思うんです。その線引きは、難しいかもしれないけど忘れないでいかないと大変なことになるぞと。

 そういう思いもありましたので、私はこの『絶の島事件』を非常に興味深く読ませていただきました。ともかく、一筋縄ではいかない怪作なんです。
 まぁ、もろもろ固いことを抜きにしましても、何度も言うように本作はミヅチの快刀乱麻を断つ探偵っぷりも爽快ですし、なんといっても第1作ぶりに情けない龍人の「早く助けろ!!」ネタが炸裂するので、やっぱりこの2人はそうとうな名コンビなんだなと実感させてくれる愉快痛快な小説となっております。こいつ、いっつも溺れてんな。スクーバの経験が30~40回あるとかなんとかほざいといてこのざまなんですから、黒田龍人のスネ夫っぷり、ここに極まれりという感じですね。

 これ以降、四半世紀もこの2人の新たな冒険が読めていないのは非常に残念なのですが、まぁ、今はますますコンプライアンスうんぬん厳格な時代になっておりますので、龍人とミヅチのような愛憎なかばする関係は、主人公カップルとしては成立しづらくなってるのかも知れないし、やむをえないことなのでしょうかね。ストレスでミヅチに自傷行為をさせるわ、しじゅうセクハラ発言を浴びせかけるわ……こんなやつが主人公でいていいはずがないですよね。

 1990年代の日本だからこそ続いたのかも知れない、時代のあだ花「シム・フースイ」シリーズ。今はただ、龍人とミヅチが程よい距離感で元気に生き続けていることを切に願いましょう。ま、続刊がないということはヒマしてるってことなんでしょ! 無事これ名馬!!

 2025年だと設定上、ミヅチさんは54歳で龍人は67歳かぁ。荒俣先生、なんか書いてくれませんかね!? まだギリいけるっしょ!!
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説シム・フースイ Version 4.0『闇吹く夏』

2025年06月29日 19時11分21秒 | すきな小説
 え~、みなさまどうもこんばんは! そうだいです。
 なんだかんだ言ってるうちに6月も終わっちゃいますね~。今年も半分すぎちゃいましたよ! 早いねぇ。
 私の住む山形はまだ梅雨明けしてないんですが、なんかすでに猛暑日が続いております……今月すでに暑さでダウンしちゃってるんで、本格的な夏に入ってまた同じ目に遭うのはヤダな~! とにもかくにも水分補給を欠かさずに備えていきましょ。

 そんなこんなで、私たちの生きている2025年はどうやら無事に夏を迎えることができそうなのでありますが、今回取り上げますのは、誰が望むでもなく勝手気ままに続けている「荒俣宏の『帝都物語』関連作品を読みつくす」企画の更新でございます。こっちはちゃんと夏、来たかな!?
 現在は『帝都物語』本編シリーズを通りすぎまして、そこにセミレギュラーで登場していた風水師・黒田茂丸、その孫が主人公となっている「シム・フースイ」シリーズの諸作を読み進めているのですが、それも今回で4作目ということで、いよいよ佳境に入ってまいりました!


シム・フースイ Version 4.0『闇吹く夏』(1997年6月)
 『闇吹く夏』は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第4作として角川書店から単行本の形で出版され、99年4月に角川ホラー文庫で文庫化された。文庫版の表紙絵には、ドラマ『東京龍』(1997年8月放送)にて使用された CG画が流用されている。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しない。

あらすじ
 異常気象……1997年6月。黒く怪しい闇が、夏の到来を阻んでいた。
 雨が降り続け、人々は不安をかきたてられ、東京はカビに覆われようとしていた。
 時を同じくして、遥か南太平洋ではエルニーニョ現象が起こっていた。南米大陸ナスカ高原の呪術師は、渇ききった砂漠で雨乞いの儀式を開始した。その裏で密かに進行する首都移転計画の影には、暗黒の帝都建設の陰謀があった。異常気象の謎を解くため、風水師・黒田龍人は東北地方へと飛んだ。
 もう、夏はこないかもしれない……


おもな登場人物
太田黒 喜作
 岩手県花巻市で「羅須地人農業青年団」(会員56名)の中心人物となり、冷害対策の研究を行っている80歳代の小柄な禿頭の老人。1931年から3年間、花巻市在住の童話作家で農業指導者の宮沢賢治(1896~1933年)に師事し、農業科学を学んでいた。

太田黒 真魚(まお)
 喜作の孫で、切れ長な目の美女。男勝りなきっぷの良い性格。

荻野 良雄
 「羅須地人農業青年団」の団長。29歳。五分刈りで長い顔にあばたの残る、たくましい体格の青年。他の団員たちと共に太田黒喜作の弟子となり、宮沢賢治の農業理論を継承・実践している。慇懃で控えめな話し方が特徴。前歯が2本欠けているためか老けて見える。配布部数200部の機関紙『羅須地人』を編集・発行している。

イチロー
 「羅須地人農業青年団」の団員。寡黙で小柄な丸顔の青年。

庄野 夕子(しょうの ゆうこ)
 黒い長髪に透き通るような白い肌の美女。背が高く、ハイヒールを履くと黒田龍人と同じくらいの背丈になる。国立東京外国語大学言語文化学部中国語科に在籍中だった1982年もしくは83年に、中国返還前の香港で、かつて清帝国宮廷に仕えていた風水師・劉の運営する「香港風水研究所」に入所し、龍人や李東角と共に活動していた。現在は李と共に劉の研究所を引き継き筆頭格となっている。龍人が独自に完成させた「シム・フースイ」の原型は、もともと夕子たちと共同開発したものだった。劉が理想としていた、世を正し国を富ませる「国家風水」を標榜し、都市や国家を創造するための風水術を活動原理とする。国土庁(現・国土交通省)の依頼を受け、極秘計画に参画する田網奇鑛の地相鑑定事務所に協力する。

黒田 龍人(くろだ たつと)
 本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
 本作からジャケットのポケットに細長い革製の鞭を携行するようになり、数人の男たちを圧倒するほどの格闘能力を持つようになった。また、格闘術も1~2人の大男を倒せる程度には上達している。正座が苦手。
 かつて10代を沖縄県石垣島で過ごしていたが、21歳の頃(1979もしくは80年)に、龍人の祖父・黒田茂丸と親交のあった風水師・劉の運営する香港風水研究所に入所した。しかし1985年頃にシム・フースイの原型を持って離脱・帰国していた。当時、龍人と交際していた夕子によると、愛する女性に加虐的な態度をとる性癖があり、ミヅチに対しても身体的暴行を加えるだけでなく(だが性的交渉はことごとくミヅチに拒絶される)、聞くに堪えない猥談を語り続けるセクハラも繰り返し行う。ただし、これはミヅチの心身を常に不安定な状態に置くことによって強力な霊能力を維持させ続けるためにあえて行っている処置であると本人は考えている。

有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
 黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
 現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。その他に、龍人から護身用に与えられた革製の鞭も携行し、龍人と同じように数人の男たちを圧倒するほどの格闘能力を持っている。

田網 奇鑛(たあみ きこう)
 白髪まじりの中年男。メディアでも多く取り上げられる有名な建築家だったが、5年前に起きた『ワタシ no イエ』事件(「シム・フースイ」シリーズ第1作)で自身の事業を黒田龍人につぶされて以来、龍人を強く恨み復讐の機会をうかがっていた。
 本作では「地相鑑定士」の「毛綱阿弥之助(けづな あみのすけ)」と名乗り、岩手県花巻市の中心街にオフィスを構えて国土庁の極秘計画に参画し、紫色のスタンドカラースーツを着て暗躍する。敵を罠に誘い込む「八門遁甲術」を使うことができる。
 モデルは、ドラマ『東京龍』を放送した NHKハイビジョンのエンターテイメント番組『荒俣宏の風水で眠れない』(1997年放送)にもゲスト出演していた建築家の毛綱毅曠(もづな きこう 1941~2001年)。

久保田 晃
 田網の地相鑑定事務所の幹部。40歳ほどの大柄な男。

八大将軍
 田網に従う8人の屈強な大男たち。全員が「八門遁甲術」を駆使することができ、常に黒革でできた菱形の防塵マスクを着けている。


おもな用語解説
地鎮(じちん)
 日本で古代から陰陽師が執り行っていた、結界を張って地中に潜む鬼を封じ、人間が安全に住める場所を造成する地相術。新しい田畑や村、都などの都市を作る際に行われていた。

やませ(山背)
 主に東北地方や北海道、関東地方の太平洋側で5~9月頃に吹く、冷たく湿った東もしくは北東の風(偏東風)のこと。寒流の親潮の上を吹き渡ってくるために低温であるため、やませが続くと太平洋側沿岸地域では最高気温が20℃を越えない日が多くなり、日照不足と低温による水稲を中心とする農産物の作柄不良(冷害)を招き、地域の経済活動に大きな悪影響を与える。下層雲や霧、小雨や霧雨を伴うことが多い。
 本作では「闇風」という字があてられ、風水で繁栄や豊作、幸福をもたらすとされる龍脈をはね返す、分厚い壁のような邪気の大気「シャ」の一種と解釈されている。黒田龍人によれば、宮沢賢治の短編小説『風の又三郎』(没後発表)に登場する風の又三郎は「シャ」のことであるという。

風(ふう)
 風水でいう世界の各方位とそれぞれの土地の特色のことで、大風や台風の際に吹く強風のことではない。古代の中国大陸では各方位に神がおり、それぞれの神の意志を四方に伝達する使者が「風」であるとされていた。それぞれの方位の特色をそこに住む人々に伝える存在であることから、「風土」、「風俗」、「風習」、「風味」、「風景」、「風格」などの語源となっている。生命エネルギーを運んでくる陽の力を持つ。

水(すい)
 風水でいう陰の力の象徴。生命エネルギーを留め蓄える役割がある。物事の標準や雛型、基本であり、水の力によって土地は理想の形「局」を形成することができる。「水準」の語源となっている。風水では、尾根が充分に張り深い山ひだと谷があり龍の胴体のように起伏の多い山と、ヘビのように曲がりくねった川のある、中国の山水画に描かれるような土地が最強の局であるとされている。

地下大将軍
 金星を神格化した存在で、風水用語で「太白(たいはく)」ともいう。大将軍星は、天をめぐる8柱の軍星(いくさぼし)の中でも最強とされ、陰陽道では「金神(こんじん)」と呼ばれ畏れられている。大将軍星が地上に降りると各方位を巡る遊行神となり、大将軍のいる方位を侵犯すると祟られると信じられている。地下大将軍の名の刻まれた赤い釘を「風水釘」といい(韓国では「チャンスン」と呼ばれる)、これを大地に刺すと邪気を払う能力があるが、悪用するとその土地の龍脈を断ち切り災いをもたらしてしまう。

香港風水研究所
 1977年に劉が設立した、史上最古の風水師の近代的研究養成機関。18世紀の清朝から存在していた風水術の一派の教えを引き継ぐ形で創設された。原則として女性や外国人も受け入れる。

祖山(そざん)
 陽の気を生み出し、土地に龍脈を送り込む聖山のこと。花巻市にとっては約40km 北北西にある岩手山(薬師岳)がそれにあたる。

朔の鬼門(さくのきもん)
 宇宙の四方軸に対して地球の軸(地軸)が23.5°ずれていることから、月の始まりである「朔」の数日前(27日ごろ)の約15分間に、地球とそれを取り巻くエーテル体の宇宙空間との間に生じるわずかな隙間「空芒(くうぼう)」のこと。これこそが真の鬼門であり、風水ではここから魔物が出没して地上に現れるとされているが、逆にこの隙間に地上の災厄の原因を駆逐・封印する秘術も存在する。

テレコネクション理論
 ノルウェーの気象学者ヤコブ=ビヤークネス(1897~1975年)が1961年に提唱した、地球の各地域でばらばらに発生する気象現象が、遠く離れた別の地域の気象現象と連動していると考える理論。連動の媒体となるのは、大気圧の差によって生じる気の流れ(偏西風、貿易風、ジェット気流など)と、海流の温度差から生じるエネルギーであり、南米のエルニーニョ現象が日本も含む環太平洋全体の気象に大きな影響を与えるのも、この理論で説明できる。

精霊迎え(しょうりょうむかえ)
 あの世へ祖先の霊を送る送り火として行われる、宗教的な聖山で松明の炎による文字や図形を描く行事。風水思想では、聖山の中のマグマに代わるエネルギーを龍脈に注入する効果がある。京都の大文字焼きが有名。

パラカ(パリアカカ)
 インカ神話において、ペルー中部高地のワロチリ地方で伝承される、創造神4柱の中の1柱。水の神で、火の創造神ワリャリョ・カルウィンチョを倒した。半人半蛇で双頭の神。天を支配し、気象を司り、風を止めて砂漠に雨を降らせると伝えられる。


 ……はいっ、というわけでありまして「シム・フースイ」シリーズ第4作『闇吹く夏』の登場なのでありますが、どうやらこのシリーズ全5作の中でも、知名度においてピークとなるのがこの作品のようなんですね。
 と言いますのも、この『闇吹く夏』は、それまでのシリーズ作が3作すべて角川ホラー文庫の書き下ろしだったのと違って、1997年にいったん単行本として刊行されてから99年に角川ホラー文庫で文庫化されたという経緯がありまして、それに歩調を合わせて、97年に TVドラマ化、99年にゲームソフト化という、これまたシリーズ初のメディアミックスが試みられたタイトルとなったのです。そして、この『闇吹く夏』が文庫化された99年に出た次の第5作をもってシリーズも刊行が途絶えているので、結果的に言えば今回の第4作が、いろいろとメディア露出度が最も恵まれた作品、ということになるのでした。
 振り返れば、荒俣先生の『帝都物語』シリーズに関しては映画化、マンガ化、OVAアニメ化とそうとうに華々しいメディアミックスがあったわけなのですが、この「シム・フースイ」シリーズは今回の TVドラマ化とゲーム化のみということで、比較すれば若干さみしい気もするのですが、まぁ、上の情報をご覧いただいてもおわかりのように、シリーズの主人公である黒田龍人も助手のミヅチちゃんも、かなり人間性にクセのあるキャラクターなんでね……むしろ、よく NHKでドラマ化してくれたなって感じです。

 さて、そういった展開がなされた『闇吹く夏』なのでありますが、単行本化と文庫化とで2年の時間差がありながらも、この「原作小説」「TVドラマ版」「ゲーム版」の3つは、全て「東京を中心に常識外の長雨が続く」という基本設定が共通しています。つまり、3つとも『闇吹く夏』というお話のバージョン違いという捉え方をして良いようなのです。そして、この3つは全てきれいに別の物語になっているのです。なんじゃこら!?

 ただ、『帝都物語』シリーズという、メディアミックスとは名ばかりで実質的にメディアが違うどころか内容からしてほぼ別作品と言って良い映画作品が当たり前に横行していた惨状をすでに体験している私や賢明な読者の皆様ならば、もはやこの程度のことで動揺するようなこともないでしょう。角川書店がからむメディア化作品なら日常茶飯事ですよね!
 察しますに、単行本とほぼ一緒に放送された TVドラマ版は「東京に長雨」という基本設定だけを共有した状況で小説とドラマ脚本が並行して執筆され、2年後のゲーム版もまた、サブタイトルが『帝都物語ふたたび』となっているように、小説の内容とは全く関連しない「そのころ東京では……」的な外伝として自由に制作されていたのではないでしょうか。まぁ、2年前の小説をわざわざゲーム化したってねぇ……しかも舞台、東京じゃなくて岩手県だし。

 という経緯がありますので、今回はやや変則的に、「小説版」と「TVドラマ版」と「ゲーム版」とで、別々に内容に関するつれづれをつぶやいていきたいと思います。なので少々長くな……いや、長いのは通常営業か。

≪小説版に関して≫
 まず荒俣先生が執筆した小説の『闇吹く夏』についてなのですが、本作はほんとに TVドラマ版ともゲーム版とも内容が全然違っているので、何かの他作品の「原作小説」にはなりえていません。ですので、そういう意味で「小説版」という表記にさせていただきます。

 内容についてなのですが、実はこの小説版は3バージョンの中でも最も「東京が関係ない」お話となっており、作品の舞台はほぼ100% 岩手県花巻市となっております。
 ふつう、岩手県がフィクション作品の舞台となると、かなりの高確率で「遠野」が選ばれそうなものなのですが、本作は実に堅実に「冷害にあえぐ花巻市」という、ビックリするほど地味なセレクトになっており、メガロポリス東京はもちろんのこと、シリーズ第2作『二色人の夜』の舞台となった沖縄県石垣島と比較しても、だいぶ異色なチョイスとなっております。

 なので、まぁ……岩手県と同じ東北の民である私が言うのも心苦しいのですが、かなり印象の薄い作品なんですよね、この小説版って。
 やませっていう自然現象が、東北地方にとってそうとうに恐ろしい災厄だということは当然知ってはいるのですが、私は日本海側の山形県の人間なので、やっぱり実際に体験する機会は無かったので実感がわかない部分は否めませんし、今までの「シム・フースイ」シリーズ諸作にあった「異常発生するカビ」とか「動き回るサンゴ岩」とか「東京都庁に埋められたチャンスンの呪い」とかいうけれん味たっぷりのオカルト要素に比べると、やけにリアルで現実的なんですよね。やませとかエルニーニョとか……

 当然、本作を執筆する荒俣先生も、そこらへんのインパクトの弱さは重々承知していたのか、「黒田龍人の過去を知る元恋人・庄野夕子の登場」とか「第1作の敵キャラ田網奇鑛の復活」とか「はるか遠く南米ペルーの守護神の助っ人出演」とかいうテコ入れもどしどし取り入れてはいるのですが、やはり物語の本筋は「不作にあえぐ農家を助けんべや」という土くさいものなので……いや、それは非常に大事な内容なんですけれどもね。
 ただ、古代アジアの広い地域で、国境を越えて研究・伝承されてきた風水を作品の共通テーマにしている以上、いつかこのシリーズの中で「民衆の生活を助ける風水」の理論を真正面から描く必要はあったわけなので、一見非常に地味な内容の本作を世に出すことも、荒俣先生にとっては避けるわけにはいかない必然だったのではないでしょうか。一国の帝都をマジカルに守護し、悪疫悪霊をズビズバ退治させるだけが風水じゃないってことなのよね。そういう意味で、本作をちゃんと書き切った荒俣先生は本当に誠実な方です。

 そして奇しくも、私がこの記事を書いている2025年は何を隠そう、この農業の問題に関してかなり切実に差し迫った危機に瀕している年でもあるのです。1997年に本作が世に出た頃からすでに言及されていた、農家さんに降りかかる理不尽な社会の圧力をほったらかしにしておいた結果が、このざまなのです。いや~、今年この小説を読めて本当によかった。

 もう一つ、この作品の中では「首都機能移転計画」という裏テーマも語られるのですが、結局は頓挫するものの、東京に代わる新首都の候補地として、この花巻市も検討されていたという驚愕の事実が後半で判明します。
 でもこれについては、2011年3月の惨禍を経た現代から見ると、小説の世界ならではの夢物語、という思いがよぎりますね。事実は小説よりも奇なり……

 いろいろ申しましたが、結論としては、この小説版はシリーズの中でも一番目立たない、と言わざるをえない作品になっております。いや、風水の「風」と「水」の意味とか、龍人 VS 夕子の構造に象徴される「民衆の風水」と「国家の風水」の対立とか、非常に重要なテーマも見え隠れしているのですが、いかんせん派手な見せ場がクライマックスの北上川の水龍とペルーのパラカ神とのコラボくらいしかないんですよね……渋滞の車列のテールライトを利用する作戦とか展開のアイデアは素晴らしいんですけど、オカルティックな飛躍が少ないというか。

 庄野夕子の登場も面白くはなりそうだったのですが、結局ミヅチ以上のヤバい魅力を持っているわけでもない常識的な大人の女性でしたし、まさかの復活を遂げた田網先生も、なんの反省もなく相変わらずヘンなカビのまざった仏舎利を持ち込んでくるしで、せっかく前半でいろいろと提示されたおもしろ要素が、ちゃんと昇華されないままシュンとしぼんで終わっちゃった、みたいなうらみが残りました。
 強いてあげれば、いつのまにかミヅチのひそみにならったかのようにムチを使って1人2人の相手はやっつけられるくらいは戦闘力が上がった龍人の成長だとか、シリーズ4作目にしてやっと主人公とヒロインの関係らしくなったラストでの2人の抱擁とかが本作の見どころではあったのですが、正直いいまして、今回取り上げる3バージョンの中で最も荒俣ワールドらしくないおとなしさがあるのも、先生ご自身が執筆したはずのこの小説版だったのでありました。
 う~ん……キビシ~っ!


≪TVドラマ版に関して≫
TV ドラマシリーズ『東京龍 TOKYO DRAGON』(1997年8月放送 全4話)
 NHK のハイビジョン試験放送にて1997年8月25日から4夜連続で放映されたエンターテイメント番組『荒俣宏の風水で眠れない』内で放送された、「シム・フースイ」シリーズ作品を原作とした1話約30分のミニドラマシリーズ。
 『荒俣宏の風水で眠れない』は2部構成となっており、第1部がドラマ、第2部が風水を易しく解説したミニ講座『東京小龍』(出演・田口トモロヲ、荒俣宏、建築家の毛綱毅曠)となっていた。
 本作は再編集され、1997年11月に映画『風水ニッポン 出現!東京龍 TOKYO DRAGON』(配給エースピクチャーズ)として劇場公開された。
 なお、本作は映画編集版がビデオリリースされたが DVDソフト化はされていない。

おもなキャスティング(年齢はドラマ初放映当時のもの)
黒田 龍人   …… 椎名 桔平(33歳)
有吉 ミズチ  …… 中山 エミリ(18歳)
庄野 夕子   …… 清水 美砂(26歳)
矢崎 昭二   …… 中尾 彬(55歳)
佐久間     …… 清水 綋治(53歳)
新井 美樹   …… さとう 珠緒(24歳)
鈴木 英夫   …… 三代目 江戸家 猫八(75歳)
サキコ     …… 若松 恵(17歳)
ゼネコン役員  …… 寺田 農(54歳)
留守電の依頼客 …… 青野 武(61歳)
黒田 茂丸   …… ミッキー・カーチス(59歳)

おもなスタッフ(年齢はドラマ初放映当時のもの)
監督 …… 片岡 敬司(38歳)
脚本 …… 信本 敬子(33歳)、山永 明子(40歳)
音楽 …… 本多 俊之(40歳)
CGI スーパーバイザー …… 古賀 信明(38歳)


 というわけで、お次は単行本と同時期に放送され、のちに劇場公開もされたこの TVドラマ『東京龍』についてでございます。
 上にもある通り、この作品は現在は鑑賞が非常に限定された作品となっておりまして、私も有志が動画投稿サイトにあげられていた、劇場公開用に編集された VHS版を鑑賞して内容を確認いたしました。なんでビデオリリースで止まってるんだろ……別に何かしらのオトナの事情が察せられるような内容のドラマではなかったのですが。出ている俳優さんの権利関係なのかな。

 お察しの通り、このドラマに登場する黒田龍人と茂丸、庄野夕子、そして有吉「ミズチ」は、原作小説に出ている同名のキャラクターとはまるで別人のような設定になっています。そりゃそうよね、原作通りの龍人とミヅチなんか1990年代でも、アダルト業界以外では映像化は困難だったでしょ……まだ当時お元気だった実相寺昭雄監督だったら、平気で映像化してたかもしんないけど。

 このドラマ版における黒田龍人は、特に人間的にクセの強いこともない好青年で、「シム・フースイ」システムを使って市井の人々の生活上の悩みに応える私立探偵のような仕事をしており、庄野夕子は龍人と半同棲の関係にある有名キー局の人気お天気キャスター(風水の知識ゼロ)、有吉ミズチは沖縄の与那国島で海底ツアーのインストラクターのバイトをしている高校生となっています。ミズチはもともと東京の龍人とは縁もゆかりもなかったのですが、二色人のような強力な神の導きで東京の龍人のもとを訪ね、半分助手のような居候を決め込むこととなります。その他、龍人の祖父である黒田茂丸もドラマ版の重要なキーマンとして龍人の回想シーンの中でのみ登場するのですが、日々、どっかの山の中の滝壺近くで太極拳の鍛錬にはげむカンフーの達人みたいな人物として描かれています。そんな描写、『帝都物語』にも「シム・フースイ」シリーズにも全然なかったのに……
 当然、そんな祖父の背中を見て育った龍人も、ドラマ中で激しいアクションこそないものの、考えが煮詰まった時は事務所の屋上で太極拳を行い集中力を高める習慣があるし、演じているのも脂の乗り切った椎名桔平さんなので、原作小説のイメージとはまるで違う胸板の厚い人物となっています。黒い服が好きなとこくらいしか成分が残ってない!

 ただし、よくよく観てみますと、さすが荒俣宏先生が完全監修した TV番組内で放送されていたこともあってか、だいぶ省略されてはいるものの作中で風水の基本ルールはしっかりと龍人の口から説明されておるし、東京一円が異常な長雨の被害によってインフラを中心に深刻な機能不全に陥っている惨状も地味ながらちゃんと描写されています。また、本作に小説版やゲーム版のような明確な敵キャラは設定されていないのですが、かつて黒田茂丸が東京に施した風水の封印が土地開発によって破壊されて龍脈が暴走したことが長雨の原因だったことを解明した龍人が、茂丸と縁の深い与那国島の神の導きによって上京してきた霊感の強い少女ミズチと協力して龍脈を救う一大作戦を仕掛ける、という内容になっておりまして、非常に理路整然としたわかりやすい風水ファンタジードラマとなっております。ホラーではないですね、NHK 制作のドラマらしくぜんっぜん怖くなかったです。
 上のように、ドラマに登場する有吉ミズチは、ミヅチというよりはシリーズ第2作『二色人の夜』のゲストヒロインだった少女サヨのキャラ設定を色濃く踏襲しており、ドラマの夕子も同作の東京から来た OLくみ子のように明るい性格のポジティブな女性となっています。ミズチの故郷が『二色人の夜』の石垣島でなく与那国島に変わっているのは、与那国島沖にある海底遺跡と噂される地形のミステリーをドラマに取り入れたためですね。遺跡じゃないらしいけど。
 ただし、もちろんミズチを演じる中山エミリさんが『二色人の夜』のサヨのように悲惨きわまりない霊感体験をするところなんか映像化できるわけがないので、荒ぶる神に襲われる描写もビックリするほどマイルドなものになっています。ミズチが与那国島の実家で「タマ」という名前の猫を飼っているのは、原作小説へのオマージュでしょうか……さすがに「お通」という名前にするのは今どきの女の子っぽくなかったか。

 こういう内容なので、小説版にあったような龍人とミヅチ、夕子の複雑な人格設定や愛憎関係などはあるべくもないのですが、地味な作りながらも中尾彬さんや清水綋治、猫八師匠にさとう珠緒さんといった通ごのみで適材適所なキャスティングが非常に手堅く、クライマックスでの CG作画で描写された雨龍の姿も1990年代後半の TVドラマとしてはかなり健闘している方で、制作年代が近い映画『帝都物語外伝』のように観て損をするたぐいの作品でないことは間違いありません。いや、あの映画にも負けちゃう作品なんて、そうそうないけどね。

 本当に、いま鑑賞が簡単なソフト商品になっていないのが不思議でしょうがないくらいにウェルメイドな作品ではあるのですが、確かにあえてリリースし直すほど派手な出来のドラマでもないので、事実上の封印状態にあるのもやむをえないことかと思えてしまいます。
 あ~、こういう目立たない作品も掘り起こされるくらいに、日本の景気も良くなんねぇかなぁ~!


≪ゲーム版に関して≫
プレイステーション用ゲームソフト『闇吹く夏 帝都物語ふたたび』(1999年4月リリース ビー・ファクトリー)
 「シム・フースイ」シリーズ第4作『闇吹く夏』(1997年6月刊)を原作としたホラーアクションアドベンチャーゲーム。
 黒田龍人のほか、『帝都物語』の重要人物・キャラクターも登場する。現在使用されていない地下鉄駅(千代田区の東京地下鉄道・万世橋駅跡がモデル)や無人の地下街など、知られざる東京の風景を再現したステージも設定されている。

あらすじ
 世界的異常気象が東京にも押し寄せる1999年、7月。
 大学生の木村ヒロシは、偶然に拾ったコンピュータプログラムを起動させたことから、恐ろしい事件に巻き込まれる。
 狂い始めた東京の風水の謎とは? 「表」と「裏」の2つのステージを行き来しながら謎を解き明かし、風水を正すべく木村は立ち上がった……

登場する怪異
・首無し武者 ・付喪神「鉄入道」 ・魍魎「骸火」 ・妖怪「火車」 ・妖怪「びしゃがつく」 ・寺本洋子の霊 ・神内の式神 ・魍魎「濡蟲」 ・妖怪「わいら」 ・妖怪「木霊」 ・木霊学天則 ・妖怪「がしゃどくろ」

アニメパートのキャスティング(年齢はゲームソフトリリース当時のもの)
木村 ヒロシ …… うえだ ゆうじ(31歳)
首守 美和  …… 川崎 恵理子(26歳)
陰陽師・神内 …… 岡野 浩介(29歳)
黒田 龍人  …… 古沢 融(36歳)
寺本 秀造 / 龍岡 皇紀 …… 茶風林(37歳)

おもなスタッフ(年齢はゲームソフトリリース当時のもの)
監督・脚本 …… やすみ 哲夫(45歳)
キャラクターデザイン …… 末吉 裕一郎(37歳)
音楽    …… 野沢 秀行(サザンオールスターズ 44歳)、TAKA( TAM TAM ?歳)


 最後に、99年にリリースされたゲーム版についてなのですが、これは『闇吹く夏』というタイトルを持ちつつも、小説版とはまるで違った内容となっております。
 小説版での黒田龍人は、基本的に岩手の花巻市に出張しているので東京にはいなかったのですが、このゲーム版はその穴を埋めるかのように、主人公(ゲームのプレイヤー)が、東京圏の長雨の原因を探るために遠方に出かけた龍人と「シム・フースイ」システムのオンライン機能を通して連絡を取りながら、東京の東西南北の聖地をめぐって「帝都東京の大怨霊」の謎に迫るという内容になっております。ただし、龍人が出張しているのは海を渡った韓国なので、小説版とゲーム版とが完全にリンクしているわけでは決してありません。

 おぉ~、久しぶりのお出ましですね、帝都東京の大怨霊サマ!!
 そうなんです、このゲーム版はサブタイトル『帝都物語ふたたび』の看板にたがわず、小説の「シム・フースイ」シリーズのどれよりも濃厚に『帝都物語』の内容を継承した物語になっており、さすがに魔人・加藤保憲こそ出てはこないものの、マサカド公はもちろんのこと、『帝都物語』本編での地下鉄開発作戦に殉じて爆破・廃棄された、あの人造ロボット「学天則」が、妖怪・木霊に侵食された形で復活して強豪敵キャラになるという、ファン狂喜のゲスト出演もあるのです。マニアック~!!
 それにしても、『ウルトラセブン』の改造パンドンとか『ゴジラ VS キングギドラ』のメカキングギドラみたいに、いったん敗退した生身の怪獣が一部をメカ化して復活するという流れは昔からよく聞くのですが、その逆でもともとメカだったものが半分くらい植物化して復活するという展開にはたまげましたね。みごとな発想の転換!

 内容はアドベンチャーゲームらしく、東京に東西南北4ヶ所ある霊的スポットを主人公がめぐり、龍人の助言を得たり謎の陰陽師・神内の妨害やサポート(こいつがベジータみたいに複雑な立ち位置なんだ!)を受けながら将門の霊を鎮めるというわかりやすい流れになっております。ここでの東京圏の長雨の原因は、魔人・加藤の帝都壊滅計画のひそみにならって将門の怨霊を暴走させようとする、韓国を拠点とする風水秘密結社のもたらした災厄のひとつとなっており、ドラマ版ほど深刻に描写されてはいません。
 まぁ、単純明快なゲームらしく、作中に登場するオカルト要素は風水というよりも若者に大人気な「陰陽師」や「妖怪」をモチーフとした呪術結界や敵キャラが多い、典型的なホラーものとなっているのですが、魔人・加藤とは直接の関係はないものの、登場する妖怪たちのデザインがことごとくパイプがついたり車輪がついたりと、半分以上メカメカしいものになっているので、このゲームの6年後に公開された映画『妖怪大戦争』(監督・三池崇史)で復活した加藤が錬成・使役していた付喪神「機怪」(こちらのデザインはあの韮沢靖サマ!!)に先行したものになっているのが興味深いです。びしゃがつくとかわいらとか、妖怪のチョイスも実にシブくていいですね!


≪まとめ≫
 いや~今回も長くなってしまいすみません!!

 以上、『闇吹く夏』にまつわる3バージョンをざっとおさらいしてみたわけなのですが、お話として一番わかりやすくまとまっているのは TVドラマ版、『帝都物語』ファンに嬉しいのはゲーム版ということでありまして、最も地味で目立たない出来なのは荒俣先生おんみずからが執筆した小説版……という結果とあいなりました。なんじゃぁ、こりゃあ!!

 いや、内容的にいちばん風水をまじめに扱ってるのは小説版なんですけど、ね。

 荒俣先生、せっかくの TVドラマ化とゲーム化がついてくるタイミングだったのに、よりによってど~してシリーズ中随一に地味な内容にしちゃったんだろうか……ミヅチもゲストヒロインも大してひどい目に遭わないし、かなり「らしくない」内容なんですよね。先生、さすがに丸くなっちゃったのか? これも時代の流れなんでしょうか。

 でも、今回の小説版のラストで、しじゅうツンケンしていた龍人とミヅチの関係も大きな転換を迎えたのかもしんないし、ついにこのシリーズも、事実上の最終作である次作に向けて大きく動いたのかも知れませんね!

 さぁ、泣いても笑っても、次回の第5作で「シム・フースイ」シリーズはおしまいです!
 ここまでやっちゃったんですから、固唾をのんでその終幕を見届けることにいたしましょう!!

 ……おもしろいといいな……
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説シム・フースイ Version 3.0『新宿チャンスン』

2025年06月01日 23時39分22秒 | すきな小説
 はいどうもこんばんは! そうだいでございます~。
 風邪、長引いてます……私は風邪ひくと必ず鼻水がひどい副鼻腔炎になっちゃうので、今かなり顔が痛い! いちおう経験則でいきますと、この段階になると治るのももうすぐのはずなのですが、早くティッシュをバカ使いしない生活に戻りたいです~!! ほんともったいない。

 こんな感じで非常に体調の悪い状況が続いているのですが、そんな時によりにもよって映画『帝都物語外伝』なんていう、体調がすこぶる良いタイミングでもできれば観るのは遠慮したい大問題作を視聴しちゃったもんだから、なおさらひどくなっちゃったような気が……カンベンしてくださいよ~! まぁ自分で勝手に観てるだけなんですけどね。

 そんでま今回も今回とて、毎度おなじみ荒俣宏先生の『帝都物語』関連作品を読む企画なのでございますが、前回ちょっと中断してしまいましたが、風水師・黒田龍人と助手であることを全否定し続ける助手ミヅチが仲良く大活躍する「シム・フースイ」シリーズの第3作でございます。
 いや~今回も特濃な内容だったな!


シム・フースイ Version 3.0『新宿チャンスン』(1995年8月)
 『新宿チャンスン』は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第3作として、角川書店角川ホラー文庫から書き下ろし刊行された。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しないが、東京都での大規模建築時に発生した怪事件の事例として、大手町の大蔵省や地下鉄銀座線の工事に関する言及がある。

あらすじ
 1990年11月。現代建築技術の粋を結集して建築、完成しつつある双頭の摩天楼・東京都新都庁舎。凍てついた夜、この工事現場で魔除けの柱「チャンスン」が掘り返された。その瞬間に、封印されていた怨念が息を吹き返す……工事中に続発する事故、地下水の噴流、怪火。そしてついには作業員までもが消息不明に。
 都庁職員の小沢の要請により、風水師・黒田龍人と有吉ミヅチは庁舎に巣食う魔の正体を暴こうとするが……


おもな登場人物
崔 桃花(さい とうか)
 1975年生まれの高校2年生。新宿の裏町で雑貨店を営む祖母の舒水(じょすい)と2人暮らしをしている。祖母も交通事故で死亡したとされる父も韓国人だが、母親は陽子という名前の日本人女子大生だったらしい。祖母の影響で、朝鮮半島の古い風習である薬草と信仰による民間療法に興味がある。

崔 舒水(さい じょすい)
 桃花の祖母。84歳。朝鮮半島の全羅道の出身で、釜山で出逢った夫と共に強制連行で1942年に日本に移住してきた。朝鮮の古い風習である薬草と信仰による民間療法に詳しい。朝鮮半島の巫女「ムーダン」の家系の女性だったが、ムーダンを継ぐことを拒否して家出した。1年ほど前から体調を崩して臥せりがちになっている。

崔 道伝
 舒水の長男で桃花の父。1947年の東京生まれ。5歳の時に「ムーダン病」と呼ばれる原因不明の高熱を患い、治癒後に3年間ムーダンになる修行を受けた。人間の姿が半分、その人間の本性をあらわす動物に見える霊視能力を持っていた。大学生時代に知り合った陽子という女性と1975年に結婚し、桃花の父となる。交通事故で死亡したとされている。

亀沢 浩二
 K大学文学部に在籍しているが四年生で留年し続けているフリーター。新宿西口での高層ビル工事のアルバイトを行う。中国や朝鮮半島の文学に興味があり、韓国の詩人・金芝河(キム・ジハ 1941~2022年)に心酔している。黒縁の丸メガネをかけて痩せた長身の青年。

大山 俊夫
 40歳がらみの髭面の男。亀沢と同じ工事現場で働き、高層ビルの整地工事には10年ほど従事している。

小沢 久
 東京都財務局庁舎管理部の公務員。年齢の割に老成した印象で、耳が大きく締まりのない表情の男性。新宿の新都庁舎の工事現場で続発する怪事件の解決を黒田龍人に依頼する。

垂水 雄三
 東京都財務局庁舎管理部の課長で小沢の上司。風水に興味を持っており、新都庁舎の工事現場で続発する怪事件について、黒田へ相談することを小沢に命じる。大阪生まれの赤ら顔で太った男。

坂 美知男
 新宿の新都庁舎の建築に従事していた作業員。10月末に新都庁舎の24階から足跡だけを残して謎の失踪を遂げる。

黒田 龍人(くろだ たつと)
 本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
 仕事が無くなると神経がいら立ち、秘書のミヅチにサディスティックな暴行を加えることがある。

有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
 黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
 現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。

「全羅道」のおかみ
 新宿区大久保にある、桃花や亀沢、大山がよく行く焼き肉店「全羅道」の女店主。舒水とも旧知の仲で、陽子とも現在も連絡を取り合っている。

辻村 陽子
 崔道伝の元妻で、桃花の母。現在は桃花や舒水とは連絡を完全に断っており、「全羅道」のおかみとのみ連絡を取っている。


おもな用語解説
土師(はじ)
 土木工事を専門とした古代の職人集団で、皇族の墓所であるみささぎや塚を建造し、土器を作っていた。

チャンスン
 朝鮮半島で李氏朝鮮王国時代(14~19世紀)から存在している、村を疫病などをもたらす鬼神から守り豊作をみちびくために出入り口に立てた、木でできた呪術的な標柱のこと。恐ろしげな人面を彫って赤く塗り、「天下大将軍」や「地下女将軍」といった字をいれる。しかし村人はこのチャンスンを日常的に拝んだり供物をささげたり祭礼を行うわけではなく、古くなれば新しいチャンスンに取り換えて使用する。

赤土
 朝鮮半島では魔除けの効果があると信じられており、これを家や店の前に撒くと鬼神が入ってこられなくなるという。人間の身体を守る血の色と同じことから呪力を持っているとされる。

符札(ふさつ)
 朝鮮半島に伝わる、病気をもたらす鬼神を入れないために家の戸口に貼りつける病魔除けの札のこと。朱色の紙の札に、鬼神を退散させるほどに強かったり恐ろしかったりする神の名や人名を書きつける。

ムーダン
 高麗王国の勇敢な名将・崔瑩(チェ・ヨン 1316~88年)を神として信仰する巫女のこと。崔瑩の祠堂に願をかけ、鬼神を追い払い病気を治癒し、死霊を鎮める霊能力を持っている。多くは女性であるが、まれに男性がムーダンになることもある。


 東アジアで古来から鬼神を打ち払う力があると信じられていた植物。桃は春の早い時期に花を咲かせることから、生気を象徴する「春陽の木」とされ、死をもたらす鬼神を祓うと信じられていた。中国大陸では長命をさずける霊樹とされ、朝鮮半島や日本では『桃太郎』のような鬼神を退治する伝承が伝わっている。朝鮮半島では、桃の木の下にいる「茶」と「鬱」という2人の神が鬼神を監視していて、鬼神が暴れると桃の枝で打ち据えるといわれており、そのことから、病気にかかったり凶事があったりした時には、桃の木の東に伸びている枝を折って身体を叩くと憑りついている鬼神が体内から逃げ出すと信じられていた。

月虹(げっこう)
 月の出ている夜の午前2時(丑の刻)の夜空に現れる、弱々しい光の虹。風水の思想では、丑の刻に地球の南から北に流れる気が流路を修正する際に、地軸の傾きにより北から東に向けて23.5°の気の行き渡らないすき間が生じる。この際に、地中の亡霊や鬼神が地上に開放されてしまうとされている。

青い灯り
 古来、鬼神が敏感に反応して吸い寄せられるという灯りの色。

鬼火
 鬼神の邪気が生じさせるという陰の気の火。これを見た人間は魂を吸い取られるという。

鬼(き)、鬼神
 日本や朝鮮半島で信じられている、陰の気の凝り固まった死霊のこと。しかし日本では風水思想が一般に普及しなかったため別の存在となっている。風水思想による鬼とは、空気中や地下に巣食っている目に見えない存在で、地中や水中、破損した器物、谷間、坂、橋の下、廃墟、墓地、病気にかかった人間の体内などを好んで棲みつく。また東アジアの思想に結びつき、不孝、悪意、嫉妬、羨望、怨恨などの負の感情を抱いた人間にも憑りつく。風水の鬼の発生には2通りの原因があり、ひとつは陰の気がこもることによる自然発生、もうひとつは恨みや未練を残して死亡した人間の負の部分「魄(はく)」である。自然発生した鬼には悪い存在もあれば善い存在もあるが(妖怪や妖精)、魄から生まれた鬼は悪い存在が多くなる(これが日本の意味での鬼神)。

陰の気
 風水思想で、森羅万象の自然や人間生活の状態を表わす気の概念「陰陽」のうち、静寂、消極的、下降、閉鎖的なエネルギーのこと。陰の気は、財運や出世運といった地上的、物質的、現世利益的な幸運をもたらす良い面もある一方で、災い、病気、死をもたらす鬼を近づける問題もある。風水によると、人間は死亡すると体が陽と陰の2つの成分に分かれ、陽の部分「魂(こん)」は死体から離れて天界に昇り、陰の部分「魄」は死体すなわち骨に残る。風水ではこの思想に基づき、人間の死体は最初に一時的な墓「埋め墓」に埋めて骨に陰の気を集積させ、数年後に掘り起こして子孫が先祖を礼拝する墓所「参り墓」に改葬する。これによって、参り墓の風水が良いと良い状態の陰の気が子孫の家に流れて繁栄をもたらすと信じられている。そのため、風水では陽宅(住居)よりも隠宅(墓)の立地条件を良くすることのほうが重要視されていた。特に墓選びでは、魔除けと祝福の色と信じられていた赤土の土地が喜んで選ばれていたという。

龍脈
 風水を最高の状態に向上させる4つの要件のひとつ。龍の背のようにでこぼこした山の連なりのことで、龍脈が届いている土地には生産力にあふれた陰陽の気が送られるとされている。東京では、上野台(台東区)、豊島台(豊島区)、淀橋台(新宿区)、江原台(大田区)の4つの龍脈が東京を風水の聖地にしている。

穴(けつ)
 風水を最高の状態に向上させる4つの要件のひとつ。周囲を山で囲まれた広い平地のこと。龍脈からくる陰陽の気をためる理想的な宅地になるといわれる。東京でいうと渋谷や新宿がこれにあたる。

砂(さ)
 風水を最高の状態に向上させる4つの要件のひとつ。穴を囲むように伸びている龍脈の先端部のこと。穴にたまった陽の気を外へ逃さず、同時に外から陰の気が流入することを防ぐ障壁の役割を果たす。山による砂が無い場合は、植林して森をつくると砂になるといわれている。東京でいうと渋谷に対する淀橋台の突端、新宿に対する西の十二社熊野神社の鎮守の森と東の新宿御苑、北の成子天神社がこれにあたる。

水(すい)
 風水を最高の状態に向上させる4つの要件のひとつ。財をためるとされる池や川のこと。現代の都会部では上下水道もこの役割を果たす。東京でいうと新宿に対する新宿御苑の上の池、睡蓮の池、下の池などの池がこれにあたる。

トッカピ
 朝鮮半島で古来から信じられている鬼神。殺された人間や事故で怪我をした人間の血、もしくは経血が古い器物や骨に付くと、そこに地中の魄が集まって生まれるとされている。トッカピは周囲の人々の生気を吸い取り、田畑を荒らし、病気を蔓延させて共同体を破滅に追い込むという。特にホウキなどの器物が変化した独脚(一本足)のトッカピは女性を犯し、応じた女性は一時的には裕福になるがやがて衰弱死し、応じなかった女性は貧乏になるとされる。草木が生い茂る家には独脚のトッカピが好んで侵入し、飛び跳ねた丸い足跡が付いた田畑は作物が実らなくなると信じられている。そのため、朝鮮半島では田畑のかかしに絶対に血をつけず大切にし、田畑の周囲にチャンスンを立ててトッカピが侵入できないようにするという。トッカピを避けるためには、赤い色の衣服や強烈な悪臭(コショウを燃やした匂いやニンニクなど)が効果的であるとされる。

案山子(かかし)
 作物を荒らすカラスなどの害獣を追い払うために田畑の中に立てる、竹やわらなどで作った人形のこと。日本におけるかかしの起源は『古事記』に登場する、山の中の田に立ってぼろぼろの衣服を着た神「崩彦(クエビコ)」であるとされ、オオクニヌシにスクナビコナの名前を教えたことから、クエビコは天下のことを何でも知っている物識りの神であると尊ばれた。また、かかしや唐傘、ホウキのような竿のある器物は、神が降臨する依り代になると信じられていた。

借力(しゃくりき)
 朝鮮半島で信じられている、鬼神による災いを祓う方法のこと。借力には四つの方法があり、第一は行や祈祷を通じて別の鬼神を召喚して力を借りる「神借(しんしゃく)」、第二は様々な薬の力を借りる「薬借(やくしゃく)」、第三は強い権威を持つ人物の力を借りる「人借(じんしゃく)」、第四は鬼神が嫌う物の力を借りる「物借(ぶっしゃく)」であるとされている。


 ……相変わらず、情報が多いよ! ほんとこのシリーズは、風水を中心とする世界の民俗風習に関する異様に偏った知識が身につくなぁ! これから生きていく上で、役に立つ局面がありそうなビジョンがまったく浮かばない!! でも、沖縄をはじめ国内外を問わない世界各地の地方の片隅にある、なんの意味もなさそうな古いほこらや石碑、木の棒などにも昔の人がなにかの想いを込めているのじゃなかろうかと、はたと足を止めて勘ぐってしまうヘンなアンテナが私にも確実に根付いたような気はします。う~ん恐るべし、荒俣先生の筆霊!!

 それで今回も、ページ数の2~3倍は内容情報がありそうな激重「シム・フースイ」シリーズなのでありますが、今作『新宿チャンスン』は1995年という、『帝都物語』誕生10周年にあわせたシリーズ合本新装版&シリーズ最新作『帝都物語外伝 機関童子』の出版そして映画『帝都物語外伝』公開のラッシュが続いたアニバーサリーイヤーに世に出た作品です。タイミングでいうと『帝都物語』関連があらかた出尽くした最後に角川ホラー文庫から書き下ろしで出ました。
 タイトルからわかるように、本作はいよいよ満を持して「新宿」つまり帝都・東京をど真ん中の舞台にした作品ということで、なにかと『帝都物語』シリーズとの距離をとり続けていた「シム・フースイ」シリーズもついに覚悟を決めたかという期待度が高まります。おぉ、龍人の祖父である黒田茂丸とか魔人・加藤保憲のゲスト出演くるか~!?

 さっそく内容について入りこんでいきたいのですが、まず何はなくとも最初に引っかかってしまうのが、上の基本情報でもしれっと触れられている「時代設定の微妙なゆがみ」です。

 そうなんです、この『新宿チャンスン』は1995年に出版された作品ではあるのですが、「1990年」に発生した事件として語られているのです。

 これ、一読すればすぐわかるのですが、内容として最重要ポイントである「新宿新都庁の建設現場で発生するたたり」が成立するためには新都庁が完成する前というタイミングであることが大前提となるので、都庁舎が完成した1991年以降ではあってならないわけなのです。ミヅチなんか、完成前の都庁舎に夜中平気で何度か忍び込んでますからね。

 ですので、本作はリアルタイムより5年も前の物語になってしまうのですが、ここで生まれてしまうのが「シム・フースイ」シリーズの過去2作品との時間軸的な整合性の問題なのです。
 つまり、シリーズ第1作『ワタシ no イエ』第2作『二色人の夜』は、出版された時期に時間設定が合わせられた「1992~93年」の事件となっているので、当時の最新作であるはずの本作は「それ以前の事件」となってしまうのです。

 いちおう念を押して前2作における時間設定を確認してみますと、『ワタシ no イエ』では作中でごく最近にネパールの首都カトマンズで発生したらしい飛行機事故についての会話があり、これは1992年9月に発生した「パキスタン国際空港268便墜落事故」のことであると推測されます。また、作中で32歳と言及されている登場人物が1959年8月生まれだったり、翌月のことを「1993年1月」とはっきり明言している発言もあるので、『ワタシ no イエ』の事件は1992年12月に発生したとみて間違いありません。
 第2作『二色人の夜』については、『ワタシ no イエ』ほどはっきり時間設定を語るシーンはないのですが、放送している TV番組として『進め!電波少年』(日本テレビ系列 1992~98年放送)と『セイシュンの食卓』(テレビ朝日系列 1992~94年放送)の名前が出ていたり、登場人物の発言に「ちょうど二年前、NHK が宮古島のユタの神がかり状態を科学的に測定し、番組にするという試みに挑戦した。」というものがあり、これがおそらくは1991年3月に NHK教育(現 Eテレ)で放送された『 NHKセミナー現代ジャーナル 臨死体験を探る』(全3回)のことを指していたりするので、1993年4月に発生した事件とみてよろしいでしょう。ちなみに、宮古島のユタを扱った「脳の神秘をさぐる」NHK のスペシャル番組と聞いて多くの方がまっさきに想起されるのは NHK総合で大々的に放送されていた『 NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体2 脳と心』シリーズ(全6回)かと思われるのですが、これは『二色人の夜』の出版とほぼ同時期の1993年10月~94年3月に放送されていたので、『二色人の夜』で扱われるにはちと無理があります。
 まぁこういったわけなので、まともに読めば今回の第3作が第1・2作以前の事件を扱った作品であることに、まず間違いはないのです。でも、だからといって別にこの第3作が「黒田龍人とミヅチのエピソード0」的な事件っていうわけでもないというところが、とってもファジー(化石語)。

 ところが、それだったら別にそうでもいいはずなのに、本作に登場するミヅチの飼い猫「お通」は2代目であると言及されていて、その理由もご丁寧に「最初に飼っていた猫は、思いだすのもおぞましいカビ事件(第1作のこと)で殺された」と説明されているのです。いや、「殺された」って被害者みたいな言い方してますけど、あなた……

 この時間的矛盾は、一体どう解釈すればいいのやら。まぁ、お通が復活したのはいいことなのですが、なんだかすわりが良くありませんよね。ふつうに「初代お通が元気だった時の事件」で良かったんじゃないの? でも初代のままだったら1992年に殉職する未来は確定になってしまうので、2代目にしといて次回作以降もお通レギュラー復活は確定ということで、よしとしましょうか。
 いずれにせよ、ここでもやはり、「こまけぁこたぁ気にしないアラマタ節」の一端が垣間見えるような気がしますね。とにかく、そういった少々の時間的矛盾なんかどうでもいいから、とにかく新宿新都庁の完成前を舞台にした小説を書きたかったと! その意気込みだけはよくわかりますね。

 あと、本作の中に実はもうひとつ、事件の発生年の問題とは別に「決定的な矛盾の生じている描写」が発生しているのですが、そっちはちょっと荒俣先生の筆の滑りか誤植としか解釈しようのないことですので、詳しくは扱わずにスルーしたいと思います。それを言った人が嘘をついたとは思えないんですけどね、嘘つくメリットないし……その矛盾は上の基本情報の中にもしれっと紹介されているので、かなりヒマな人はどこに隠れているのか、さがしてみよう! 気づいたところでなんの賞品もございません。


 前置きがずいぶんと長くなってしまいましたが、今回のテーマは「朝鮮半島の風水思想とチャンスン信仰」ということで、またしても日本人読者の多くにとっては非常に新鮮で興味深い、まさにこの「シム・フースイ」でないとお目にかかれないようなチョイスとなっております。
 第1作が「チベット密教と東アジアの仏舎利信仰」で、第2作が「沖縄の風水思想とびっじゅる信仰」ときているので、今回もなかなかに個性的な事件が発生するわけなのですが、とにかく印象深いのは、朝鮮半島で700年ほど育まれてきた風水思想が、なぜか1990年代の幕開けを飾る最新鋭の新宿新都庁の工事現場で大暴れしてしまうという異色の取り合わせです。

 その因果関係に関しては実際に本を読んでいただくか、上の情報記事を読んで推測していただくとして、私が読んだ感想を言っていきますと、ちょっと今回は「たまたま」というキーワードが強い作品になってしまったかな、という印象が残りました。
 あの~、要するに都庁の工事現場で朝鮮半島の呪いが生んだ怪物トッカピが復活するという経緯が、たまたますぎるような気がするんですよね。工事現場となる土地で、かつて呪われた埋葬のされ方をした人がいて、その魄を封印する役目を担っていたチャンスンが都庁建設工事のために取り除かれたことがきっかけになって魄がトッカピ化するという流れが、なんか……めっちゃ既視感があるというか、そこらへんのホラー映画や特撮映画でさんっざんコスられてパターン化してしまっている超定番な流れなのが、なんとも陳腐に見えてしまうのです。また、その事件に埋葬された人の遺族が積極的に関わってくるというのも、たまたますぎというかご都合主義というか。そこは父娘の絆が呼び寄せた因果だと言えるのかもしれませんが、なんかねぇ。

 あと、やはり荒俣作品といえばこのブログでもさんざん言っているように「ヒロインがとことんヒドい目に遭う」流れが定番となっているわけなのですが、さすがに今作ではゲストヒロインである桃花ちゃんがトッカピ(の素体となった人)の実の娘ということもあってか、だいぶ手心が加えられているといいますか、もちろん身の毛もよだつような怪異に襲われはするのですがかなりマイルドでソフトタッチな被害で済んでいるのが……正直、手ぬるい! その分、レギュラーヒロインのミヅチが身体を張って、「いつもの」単独潜入からの拉致監禁というニワトリかお前は的な展開に身をささげてはくれるのですが、これも既視感がぬぐえず。ミヅチは「1971年2月9日生まれ」の女性なので(第1作より)、『新宿チャンスン』の時期には桃花ちゃんとそんなに歳の差もない未成年であるはずなのですが、どうしてこんなに「あんたはそのくらい平気でしょ」なベテラン臭がただよってしまうのでしょうか……哀し!!

 ちょっとね……シリーズ3作目にしてこんなことを言いたくはないのですが、パターン化された部分の割合が高くなってきちゃって、今回は朝鮮半島の民俗風習を知ることができたという点以外でオオッと見るべきポイントは無かったかな、という残念な感想となってしまいました。
 う~ん、1995年は荒俣先生もいろいろと忙しかったろうしね。後半でだいぶ力尽きてきちゃったのかも知れません。

 そういえば、1995年に荒俣先生は『帝都物語』に連なる新作小説として『機関童子』とこの『新宿チャンスン』の2作を立て続けに出版していたわけなのですが、そのどちらも1995年を舞台にした作品じゃないということになるんですよね。『機関童子』は1998年で『新宿チャンスン』は1990年のお話になるのか。そのどっちにも黒田龍人が登場はするのですが、『機関童子』にミヅチが出ていないのがミョ~に気になります……まさか龍人、愛想つかされちゃったのかしら!? 2人の行方を知るためにも、「シム・フースイ」シリーズのこれからの展開が気になるぜい!


 こんな感じで、今回は少々きびしい評価になってしまいましたが、これも期待値がついつい上がってしまう荒俣ワールドだからこその話なのでありまして、ホラー小説、伝奇小説としては充分に面白い作品であることに間違いはありません。おヒマならば、ぜひご一読を!
 特に今作は、風水思想を語る上で最重要な4条件(龍脈、穴、砂、水)についての非常にわかりやすい解説もありますし、どうして東京という一都市が荒俣ワールドの中でここまでフィーチャーされているのか、つまりはどれだけ風水的に祝福された奇跡的土地なのかを説明してくれる龍人の独擅場的シーンもありますので、そういう意味でもシリーズの真骨頂が堪能できる重要な作品だと思います。ただ単に黒ずくめで気味が悪いオカルト探偵なだけじゃない黒田龍人の面目躍如たる活躍が楽しめますよ! 相変わらずミヅチには蛇蝎のごとく嫌われてますが。

 やはり今回も、龍人の祖父・黒田茂丸は登場せず、ましてや魔人・加藤なんか出てくる気配すらないという、『帝都物語』ファンにとっては塩対応きわまりない「シム・フースイ」シリーズではあるのですが、もうここまできちゃうと逆にこの冷た~いサービス感ゼロな態度が「そうこなくっちゃ♡」な快感にすらなってきちゃったよ! もういいっす、このシリーズはこれで突っ走って行ってください! そうか、荒俣ワールドはツンデレ喫茶か。

 いよいよ次回は、テレビドラマ化にプレステゲーム化と、シリーズ中でも特別なメディアミックス待遇を受けた第4作の登場とあいなります。舞台も引き続いて東京みたいだし、どんな物語が展開されるのか、とっても楽しみですね!

 龍人とミヅチの相性最悪コンビも、これからどうなってゆくのやら。ますます目が離せませんね~。
 でも、ミヅチがひとりでふらふらしてとっ捕まる展開は、もういいです! カンベンしてください!!

 ……ところが、この「もうやめてね」っていう言い方が、どうしてもダチョウ倶楽部の「押すなよ! 押すなよ!」的なニュアンスも含んでしまうのが、我ながらどうしようもない!!

♪大嫌い 大嫌い 大嫌い……大好き!! ああぁ~んん♡
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