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事件の真相なんか、思いっきりぶん投げて鳥に食わせちまえ  ~映画『ピクニック at ハンギングロック』資料編~

2015年07月24日 21時55分34秒 | ふつうじゃない映画
映画『ピクニック at ハンギングロック』(1975年8月公開 116分 オーストラリア)

 『ピクニック at ハンギングロック』(原題 Picnic at Hanging Rock)は、1900年にオーストラリアで実際に起こった事件を基にしたとされるジョアン=リンゼイの同名小説(1967年11月発表)の映画化作品。ピーター=ウィアー監督。ただし、この事件に該当する当時の新聞記事、警察の記録、女学校などは現実には一切存在せず、完全なフィクションであることが確定している。
 ちなみに、映画の冒頭で事件は1900年2月14日の土曜日に起きたと説明されるが、実際の1900年2月14日は水曜日である。

オーストラリア出身のウィアー監督が、その名を世界に知らしめた出世作。規律を重んじる名門女子学園で、生徒たちがピクニックに出かける。しかし、行き先の岩山で3人の生徒と引率した教師が姿を消してしまう。当日の出来事と、彼女たちの日常が交錯する、ファンタジーとリアルが同居した不思議な味わいのサスペンス作品。
原作小説と同様に、映画も真相を突き止めないまま完結する。しかし、女子生徒同士の恋愛ともとれる友情関係や、彼女たちの死に対する甘美な憧れ、レイチェル=ロバーツが好演した校長の厳格さと危うさなど、日本の少女マンガのような空気が横溢しており、失踪の原因に対して、観る者の想像力をかき立てることに成功している。フリルの付いた制服や、風になびく金髪をとらえた映像は、徹底的に繊細かつ詩的で、現実から一歩浮き上がった世界観を描いている。


あらすじ
 1900年の2月14日、聖バレンタインデー。翌年の憲法制定にともなう独立直前のイギリス帝国領オーストラリア。国土の南東に位置するヴィクトリア州ウッドエンドにある名門の寄宿制女子学校アップルヤード女学校(カレッジ)の生徒たち18名が、女性教師2名に引率されて、郊外のマセドン山近くの標高約150メートルの岩山ハンギングロックへとピクニックに出かけた。その昼下がり、4名の生徒が火山の隆起でできあがった山頂の探検に登るが、3名の生徒と女性教師1名が忽然と姿を消してしまうのだった。
 およそ一週間後、その中の一人だけが傷だらけの状態で発見されたが、彼女は、他の生徒たちや教師の行方については何ひとつ覚えていなかった……


主なスタッフ
監督 …… ピーター=ウィアー(31歳)
脚本 …… クリフ=グリーン
原作 …… ジョアン=リンゼイ
音楽 …… ブルース=スミートン
撮影 …… ラッセル=ボイド(31歳)

主なキャスティング
生徒ミランダ(美人)   …… アンルイーズ=ランバート(20歳)オーストラリア出身
アップルヤード校長    …… レイチェル=ロバーツ(47歳 1980年没)イギリス出身
大佐の甥マイクル     …… ドミニク=ガード(19歳)イギリス出身
大佐の御者アルバート   …… ジョン=ジャレット(24歳)オーストラリア出身
ポワティエ先生(ほっそり)…… ヘレン=モース(28歳)イギリス出身
生徒サラ(居残り)    …… マーガレット=ネルソン
生徒アルマ(黒髪)    …… カレン=ロブソン(18歳)マレーシア出身
生徒イディス(ふとめ)  …… クリスティーン=シュラー
生徒マリオン(メガネ小) …… ジェーン=ヴァリス
マクロウ先生(数学)   …… ヴィヴィアン=グレイ(51歳)イギリス出身
ベン=ハッシー(御者)  …… マーティン=ヴォーン(44歳)オーストラリア出身
ラムレイ先生(メガネ大) …… カースティ=チャイルド
メイドのミニー      …… ジャッキー=ウィーヴァー(28歳)オーストラリア出身
ミニーの夫トム(用務員) …… トニー=リュウェリンジョーンズ
庭師のホワイトヘッド   …… フランク=ガンネル
バンファー巡査部長    …… ウィン=ロバーツ
バンファーの妻      …… ケイ=テイラー
ジョーンズ巡査      …… ゲイリー=マクドナルド
マッケンジー医師     …… ジャック=フィーガン
フィッツヒューバート大佐 …… ピーター=コリンウッド


 現在リリースされている本作のディレクターズカット版は、最初に公開されたオリジナル版(116分)から多くのシーンを削除し、短くなっている(107分)。
 監督のピーター=ウィアー自身は、本作の最初のオリジナル版に満足しておらず、再編集を望んでいたのだが、まだ駆け出しの若手監督だったウィアーは意見を通すことができず、プロデューサーが再編集を承諾しなかったため、ウィアーが望まない形で公開されることになった。その後、ハリウッドに招かれ世界に認められる監督の一人となったウィアーが、20年以上の年月を経て、改めて彼の望んだ形に編集し直したのが、1998年にリリースされたディレクターズカット版で、これが現在の公式版となっている。
 ところがこのバージョンは、かつてのオリジナル版にあった多くのシーンを削除した編集となっており、熱狂的なファンからは「改悪版」とまで呼ばれるようになる。本作で生徒ミランダを演じたアン=ルイーズランバートもその一人で、「映画は監督一人のものではない。ファンにとって思い入れのあるシーンを、監督の独断でカットすることが正しいとは思わない。」と、かなりきつい口調でこのディレクターズカット版に異を唱えている。

ディレクターズカット版の制作にあたり、ピーター=ウィアー監督がオリジナル版から削除した主な内容
1、バレンタインデーの朝に、ポワティエ先生が自分に届いた手紙を読んでいるところにミランダたち女生徒が現れ、ミランダが深紅の薔薇をポワティエ先生にプレゼントするシーンと、その流れでポワティエ先生と女生徒たちが階段を下りてくるシーン(06分22秒~07分00秒)
3、救助後に快復したアルマが、ポワティエ先生を伴って自分を救助したマイクルとアルバートにお礼を言いに行き、マイクルと親しげに散策するシーン(87分38秒~91分10秒)
4、アルバートの部屋で、マイクルとアルバートがビールを飲みながらアルマについて会話するシーン(91分10秒~92分15秒)
5、アルマとマイクルがボートに乗って会話するシーン(92分15秒~93分48秒)
6、発見されないままの行方不明者3名の追悼式典で、アップルヤード女学校の女生徒たちとウッドエンドの住民が讃美歌を歌うシーン(93分58秒~94分58秒)
7、誰もいない深夜のサラの部屋にアップルヤード校長が忍び入り物色するシーン(103分40秒~104分40秒)

 以上のように、ディレクターズカット版の最大の特徴は、マイクルとアルマの交流がほとんど無かったことにされている点である。

 この他に本作には、オリジナル版の段階でカットされていたアウトテイク集(オリジナル版とディレクターズカット版の両方を収録した3枚組ディスクの特典映像より)も存在している。
1、マイクルが、ボッティチェリのヴィーナスの姿をしたミランダを見るシーン
2、事件後、アップルヤード校長がハンギングロックに登ろうとすると、岩山の上からサラの亡霊が彼女を見下ろしているシーン
3、アップルヤード校長の遺体をマセドン山から男たちが運び出すシーン


原作小説について
 映画の原作は、オーストラリアの女流作家ジョアン=リンゼイが1967年11月に発表した同名の小説である。事実を淡々と述べるドキュメントのような工夫が凝らされているが、本作はあくまで迫真性を狙ったフィクション作品である。
 この小説には、当初執筆されていながらも、出版社側の判断で削られた最終章が存在し、その内容は後の1987年に発表された『ハンギングロックの秘密』という著作の中で初めて明かされている。

出版されなかった最終章の概略(神隠し事件の真相)
・山頂の草原を歩く3人の生徒の前に、遠くで太鼓が鳴るような振動と共に、巨大な卵型の石柱のような物体が出現する。
・生徒マリオンが「あの物体に引き込まれるような気がする。」と語り、それに生徒ミランダも同調するが、生徒アルマは何も感じられなかった。
・やがて石柱は消失するが、その途端に3人は強い眠気に襲われ、その場で眠り込んでしまう。
・何時間後かに3人が目覚めると、空は夕焼けのように赤く染まっていた。そのとき突然草原の地面が割れ、その中から、痩せた赤ら顔で、フリルのついたパンタロンに黒いブーツを履いた道化師のような姿をした女が跳び出してくる。
・道化師のような女は「そこを通して!」と叫ぶが、アルマが「可哀想に、病気みたい、どこからきたのかしら?」と語りかけ、女の衣装を脱がせる。すると、今度は女がその場に眠り込んでしまう。
・マリオンが「なぜ私たちは、みんなこんなばかげた衣装をきているのかしら? 結局、私たちは自分たちをまっすぐに保たされるために、このような物をつけさせられているのだわ。」と語りだし、3人全員が制服を脱いで、コルセットを崖から放り投げる。
・崖から放り投げたはずのコルセットが下に落ちていないことに気づき3人は不思議に思うが、その時、いつの間にか目覚めていた女が「お前たちは落ちたのを見ていないのよ、なぜならそれは本当は落ちなかったんだから。」と、トランペットのようなかん高い声で告げる。
・さらに女は「少女たちよ、後ろを振りかえってご覧。」と言い、3人が崖と反対の方向を見てみると、そこにはコルセットが空中に浮かんで静止していた。
・ミランダが小枝を持ってコルセットをつつきながら「まるで何かから突き出されているみたい。」と語ると、女はさらに「それは『時』から突き出されているのだよ。」と答え、「何事も、それが不可能だと証明されない限り可能だし、たとえ不可能だと証明されたとしても……」と、威厳に満ちた金切り声で叫ぶ。
・マリオンは女に「私たちは、日が暮れないうちにどこに行けばいいのでしょう?」と尋ね、女は「お前はとても賢いよ、でもすぐれた観察者とはいえないね。ほら、ここには影がないだろう。そして光はずっと変わっていないじゃないか。」と答える。
・アルマは不安そうに「私には全く理解できないわ。」と言うが、ミランダは輝きに満ちた表情で「アルマ、わからないの? 私たちは光明の中に着いたのよ。」と語る。しかし、アルマはさらに「着いた? どこに? ミランダ。」と聞く。
・女は立ち上がりながら「ミランダは正しいよ。私にはこの娘の心が見えるんだよ。その心は理解にあふれているよ。全ての創造物は定められたところに行くのだよ。」と告げる。その姿は、3人にはとても美しく見えた。
・女が「まさに、いま私たちは到着するところなのだよ。」と語ると、3人は突然めまいに襲われ、気がつくと彼女たちの目の前には、岩山も地面も消え、何もない空間の中に穴だけが存在していた。その穴は、満月のような大きさで、確かにそこに実在しており、地球のようにしっかりしていながらもシャボン玉のように透明なものだった。そして簡単に入って行けそうで、まったく窪みも無かった。その穴を見つめるだけで、3人は今までの人生の中で抱えてきた疑問が、全て氷解するような気がした。
・女は3人に「私が最初に入っていいかい?」と聞いた。マリオンが「入るんですか?」と尋ねると、女は「簡単なことだよ。マリオン、私が岩を叩いて合図をするから、続いて入るんだよ。 ミランダはその後。わかったね。」と答える。
・3人が返事をしないうちに、女はゆっくりと頭から穴の中に入っていき、女の姿は完全に消えてしまう。
・その後すぐに岩を叩く音が聞こえ、マリオンは「もう待てない。」と言いながら、後ろを振りかえりもせずにすばやく入っていく。
・続いてミランダが、穏やかで美しく、何の恐れもいだいていない表情で「さあ、次は私の番だわ。」と穴のそばにひざまづきながら言うが、アルマは「ミランダ! ミランダ! 行かないで! 怖いわ、家に帰りましょうよ!」と叫ぶ。
・しかしミランダは、星のように輝く目で「家? なんのこと? アルマ、どうして泣いているの?」と答え、もう一度合図があると、「ほら、マリオンが合図したわ。行かなきゃ!」と言い、穴の中に姿を消す。
・いつの間にか、アルマは女が出現する前の、岩山の山頂の乾いた荒野に座っていた。「彼らはどこからきたの? どこにゆくの? みんなどこにゆくの? なぜ? なぜミランダは消えてしまったの?」
 アルマは空を見上げながら、声をあげて泣き続けるのだった。

 この最終章を挿入した途端に、『ピクニック at ハンギングロック』は単なるファンタジー映画と化す。だが本作の成功の要因の一つは、読んだ人に実話だと思わせる迫真性にある。削除を提案した編集者は慧眼であった。


 ……いや~、これはまごうことなき大傑作ですよ。カルトムービーになってるなんて、もったいなさすぎる! まぁ、意図的にオチを無くしてるんだから、ふつうじゃない映画なのは間違いないんですけどね。
 これが DVDで手軽に手に入るなんて、いい時代になったもんだよぉ。あっ、でもこれ、短いディレクターズカット版だよ! どうしよっかなぁ。

 いつになるかはわかりませんが、いつか必ずじっくり語ってみますわよ! お待ちになってね~!!

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