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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

今さらですが、京極夏彦の妖怪まわりを整理してみよっか ~下~

2025年05月27日 23時38分47秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
≪前回の記事は、こちら!≫


京極夏彦の妖怪小説関連の時系列

1820年代初頭、『死神』の15年前
又市、上方を出る

文政七(1824)年 ……『死神』の14年前
九月
『寝肥』江戸・神田

文政八(1825)年 ……『死神』の13年前
正月
『周防大蟆』江戸・本所
二月
『二口女』江戸・根津
六月
『かみなり』江戸・下谷

文政九(1826)年 ……1820年代前半(文政年間)、『死神』の12年前
三月
『山地乳』江戸・道玄坂
十一月
『旧鼠』江戸・麹町

又市、御行振りを開始する   …… 『死神』の10~11年前

文政十一(1828)年 …… 御行の又市は20歳代

『嗤う伊右衛門』
 ※御燈の小右衛門失踪、又市、事触れの治平と出会う

文政十二(1829)年

『覘き小平次』

天保四(1833)年

『数えずの井戸』

天保七(1836)年 …… 又市と山岡百介が初めて出会う(御行の又市は30代前半)
初夏
『小豆洗い』越後国枝折峠
八月
『野鉄砲』武蔵国八王子

『白蔵主』甲斐国夢山
十一月
『狐者異』江戸小塚原

天保八(1837)年 …… 又市と百介が出会った翌年
五月
『飛縁魔』尾張国名古屋
初夏
『舞首』伊豆国巴ヶ淵

『芝右衛門狸あるいは隠神だぬき』淡路国洲本
 ※『芝右衛門狸』の中で、「徳川将軍家の大御所が存命している時期」と解釈できる台詞があることから、第11代将軍・徳川家斉が次男・家慶に将軍位を譲った天保八(1837)年四月から家斉が死去する天保十二(1841)年閏一月までの期間のどこかであると推定される。
十一月
『船幽霊』阿波国川久保の里

天保九(1838)年 …… 又市と百介が出会って2年後
五月
『塩の長司』加賀国小塩ヶ浦
六月
『死神あるいは七人みさき』若狭国北林藩

『柳女』武蔵国江戸・北品川宿
『桂男』摂津国大坂

『赤えいの魚あるいは赤面えびす』羽後国男鹿半島沖・戎島

天保十(1839)年 …… 又市と百介が出会って3年後
二月
『遺言幽霊・水乞幽霊』摂津国大坂

『鍛冶が嬶』土佐国佐喜浜
『夜楽屋』摂津国大坂

『帷子辻』山城国京・帷子辻
『溝出』和泉国美曽我郷

『天火』摂津国某村
『豆狸』摂津国大坂
『野狐』摂津国閑寂野
『山男』遠江国秋葉山

天保十一(1840)年 …… 又市と百介が出会って4年後
一月
『お菊虫』武蔵国江戸・本所今川町
五月
『手負蛇』武蔵国池袋村
『柳婆』武蔵国江戸・北品川宿
十一月
『累』武蔵国桜木村

天保十二(1841)年 …… 又市と百介が出会って5年後
『五位の光』信濃国大石峠
 ※この物語の展開が後年の『狂骨の夢』事件の遠因となり、『陰摩羅鬼の瑕』事件の登場人物・由良昴允伯爵の曽祖父(由良公房卿)が登場する

天保十三(1842)年 …… 又市と百介が出会って6年後
一月
『葛乃葉あるいは福神ながし』武蔵国中野村・安倍晴明社
『手洗鬼』         武蔵国江戸・寛永寺不忍池弁天島
六月
『野宿火』        武蔵国江戸・神楽坂

弘化元(1844)年 …… 又市と百介が出会って8年後
六月
『老人火』若狭国北林藩

弘化二(1845)年

『歯黒べったり』陸奥国盛岡藩遠野保
十月
『礒撫』陸奥国盛岡藩遠野保
十一月
『波山』陸奥国盛岡藩遠野保

弘化三(1846)年
正月
『鬼熊』陸奥国盛岡藩遠野保

『恙虫』陸奥国盛岡藩遠野保

『出世螺』陸奥国盛岡藩遠野保

嘉永元(1848)年

『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』武蔵国江戸

嘉永二(1849)年

『百物語』武蔵国江戸

明治十(1877)年夏、山岡百介死す
『風の神』東京市赤坂
 ※『鉄鼠の檻』の登場人物・和田滋行の曽祖父の弟(和田智弁禅師)、『陰摩羅鬼の瑕』事件の登場人物・由良昴允伯爵の祖父(由良公篤卿)、『書楼弔堂 破暁』の登場人物・山倉が登場する

明治二十五(1892)年5月~明治二十六(1893)年6月
『書楼弔堂 破暁』(中禅寺秋彦の祖父である武蔵晴明社第十七代宮司・中禅寺輔が登場)
 ※中禅寺輔の父で山岡百介と親交の深かった陰陽師・中禅寺洲斎(じゅうさい)は明治二十五年に死没している
 ※洲斎の活躍するドラマオリジナル作品『巷説百物語 福神ながし』の具体的な時代設定は示されていないが、山岡百介が初めて対面した時、洲斎は50代後半の初老だった

明治三十(1897)年8月~明治三十三(1900)年4月
『書楼弔堂 炎昼』
 ※大学生時代の柳田國男や福来友吉が登場する

大正十一(1922)年
11月 『襟立衣』(『鉄鼠の檻』の前章エピソード)

昭和十九(1944)年
10月 『青鷺火』(『狂骨の夢』の前章エピソード)

昭和二十一(1946)年
9月 『青女房』(『魍魎の匣』の前章エピソード)

昭和二十五(1950)年
6月 『岸崖小僧』事件(多々良先生シリーズ第1作)
10月 『目競』(榎木津礼二郎が探偵業を始めるきっかけとなったエピソード)
11月 『文車妖妃』(『姑獲鳥の夏』の前章エピソード)

昭和二十六(1951)年
2月 『泥田坊』事件
3月 『手の目』事件
10月 『古庫裏婆』事件

昭和二十七(1952)年
5月  『目目連』(『絡新婦の理』の前章エピソード)
7月  『姑獲鳥の夏』事件(中禅寺秋彦ら主要登場人物は30代中盤)
    『川赤子』(『姑獲鳥の夏』の前章エピソード)
8~10月 武蔵野連続バラバラ殺人事件(『魍魎の匣』)
8月  『小袖の手』(『魍魎の匣』と『絡新婦の理』をつなぐエピソード)
9月  『鬼一口』(『魍魎の匣』と『ルー=ガルー』をつなぐエピソード)
9~12月 『狂骨の夢』事件
12月  『倩兮女』(『絡新婦の理』の前章エピソード』)

昭和二十八(1953)年
2月  箱根山連続僧侶殺人事件(『鉄鼠の檻』)
3月  『煙々羅』(『鉄鼠の檻』の続編エピソード)
3~4月 千葉・勝浦連続目潰し魔ならびに連続絞殺魔事件(『絡新婦の理』)
    『屏風覗』(『絡新婦の理』の挿入エピソード)
    『鬼童』(『邪魅の雫』の前章エピソード)
1~6月 伊豆新興宗教騒動事件(『塗仏の宴』)
6月  『火間虫入道』(『塗仏の宴』の挿入エピソード)
7月  通産省官僚汚職脱税事件(『鳴釜』)
    長野・白樺湖畔連続新婦殺人事件(『陰摩羅鬼の瑕』)
    『大首』(『陰摩羅鬼の瑕』の続編エピソード)
8月  茶道具屋書画骨董贋作事件(『瓶長』)
    『毛倡妓』(『絡新婦の理』の続編エピソード)
8~9月 『邪魅の雫』事件
9月  『雨女』(『邪魅の雫』の挿入エピソード)
    美食倶楽部国際美術品窃盗売買事件(『山颪』)
    『墓の火』(『鵺の碑』の前章エピソード)
    渋谷・円山町歓楽街抗争殺人事件(『五徳猫』)
11月  『青行燈』(『陰摩羅鬼の瑕』の続編エピソード)
    『蛇帯』(『鵺の碑』の前章エピソード)
12月  神田小川町空きビル殺人事件(『雲外鏡』)
    怪盗猫招き連続窃盗事件(『面霊気』)

昭和二十九(1954)年
3月  駒沢七人連続通り魔殺傷事件(昭和の辻斬り事件 『鬼』)
6月  『河童』事件
9月  『天狗』事件

昭和三十六(1961)年
12月  『ぬらりひょんの褌』事件

平成十八(2006)年
12月  『ぬらりひょんの褌』事件解決、中禅寺秋彦存命?(80代後半)


京極作品に登場した妖怪たちを強引に解釈してみると……

寝肥り    …… 『寝肥』事件の被害者
周防の大蝦蟇 …… 『周防大蟆』事件に現れた妖怪、虚空太鼓、寝肥り
二口女    …… 『二口女』事件の依頼者
雷獣     …… 『神鳴り』事件に現れた妖怪
山地乳    …… 渋谷道玄坂縁切り堂黒絵馬事件に現れた妖怪、山精、山爺、野衾、さとり、狐者異
旧鼠     …… 『旧鼠』事件の登場人物

小豆あらい …… 『小豆洗い』事件の被害者
白蔵主   …… 『白蔵主』事件の被害者
舞首    …… 『舞首』事件の被害者たち
芝右衛門狸 …… 『芝右衛門狸』事件の登場人物、隠神だぬき
塩の長司  …… 『塩の長司』事件の登場人物
柳女    …… 『柳女』事件に現れた妖怪
帷子辻   …… 『帷子辻』事件の被害者

野鉄砲 …… 『野鉄砲』事件に現れた妖怪
狐者異 …… 『狐者異』事件の犯人
飛縁魔 …… 『飛縁魔』事件の犯人、縊れ鬼
船幽霊 …… 『船幽霊』事件の被害者、平家の怨霊、古杣、野鉄砲
死神  …… 『死神』事件を引き起こした元凶(ラスボス)、七人みさき、縊れ鬼、飛縁魔、平家の怨霊
老人火 …… 『老人火』事件の犯人、天狗

赤えいの魚 …… 『赤えいの魚』事件の舞台、元凶、赤面えびす
天火    …… 『天火』事件に現れた妖怪、舞首
手負蛇   …… 『手負蛇』事件に現れた妖怪
山男    …… 『山男』事件に現れた妖怪
五位の光  …… 『五位の光』事件に現れた妖怪、姑獲鳥
風の神   …… 『風の神』事件に現れた妖怪、青行燈

桂男        …… 『桂男』事件に登場する妖怪
遺言幽霊・水乞幽霊 …… 『遺言幽霊・水乞幽霊』事件に登場する死霊
鍛冶が嬶      …… 『鍛冶が嬶』事件を引き起こした元凶
夜の楽屋      …… 『夜の楽屋』事件を引き起こした元凶
溝出        …… 『溝出』事件の被害者
豆狸        …… 『豆狸』事件の犯人
野狐        …… 『野狐』事件の主人公

歯黒べったり …… 『歯黒べったり』事件に登場する妖怪
座敷わらし  …… 『遠巷説百物語』6作に登場する人物
迷い家    …… 座敷わらしの棲む家
土淵村の乙蔵 …… 『遠巷説百物語』6作に登場する、柳田国男の『遠野物語』(1910年発表)で語られる人物。『遠巷説百物語』の時期は22~3歳
磯撫     …… 『礒撫』事件に登場する妖怪
波山     …… 『波山』事件に登場する妖怪
鬼熊     …… 『鬼熊』事件に登場する妖怪
雪女     …… 『鬼熊』事件で目撃された妖怪
恙虫     …… 『恙虫』事件の元凶とされる毒虫
出世螺    …… 『出世螺』事件で発生した怪現象

お菊虫     …… 登場人物の幻術
柳婆      …… 登場人物のひとり
累       …… 登場人物たちの幻術
葛の葉     …… 登場人物の母
手洗い鬼    …… 『福神ながし』事件の実行犯のひとり
七福連     …… 『福神ながし』事件の実行犯、死神
だいだらぼっち …… 『福神ながし』事件の黒幕
野宿火     …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
玉藻の前    …… 『了巷説百物語』全体の黒幕

狐火 …… 『狐花』事件の登場人物たちの見せた幻影

姑獲鳥  …… 『姑獲鳥の夏』事件を引き起こした元凶

魍魎   …… 『魍魎の匣』事件を引き起こした元凶
火車   …… 魍魎のもうひとつの姿
方相氏  …… 魍魎を落とした中禅寺秋彦のこと?

狂骨   …… 『狂骨の夢』事件を引き起こした元凶
骸骨   …… 狂骨を生んださらなる元凶
返魂香  …… 骸骨のもうひとつの姿

鉄鼠   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
野寺坊  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
木魚達磨 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
払子守  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
青坊主  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
大禿   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
隠里   …… 他の妖怪たちを生み、『鉄鼠の檻』事件を引き起こした元凶(ラスボス)

蓑火   …… 登場する一族に取り憑いた妖怪
否哉   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
百々目鬼 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
絡新婦  …… 『絡新婦の理』事件を引き起こした元凶(ラスボス)
丑時参  …… 絡新婦のもうひとつの姿
木魅   …… 絡新婦の正体、しかし?

瀬戸大将 …… 『言霊使いの罠!』で陰陽師が使役した妖怪

ぬっぺふほふ …… 『塗仏の宴』事件の中核に存在する妖怪(ラスボス)
うわん    …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
ひょうすべ  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
わいら    …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
しょうけら  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
おとろし   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪、しかし?
塗仏     …… 『塗仏の宴』事件を引き起こした元凶(中ボス)
燭陰     …… 塗仏のもうひとつの姿
白澤     …… 全ての妖怪たちを落とした中禅寺秋彦のこと?

鳴釜 …… 中禅寺秋彦の使役する妖怪
瓶長 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
山颪 …… 被害者たちの恨みの具現化した妖怪

陰摩羅鬼 …… 『陰摩羅鬼の瑕』事件を引き起こした元凶

邪魅  …… 『邪魅の雫』事件を引き起こした元凶
蜃気楼 …… 邪魅のもうひとつの姿

五徳猫 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
雲外鏡 …… 登場人物のひとりの持っていた道具
面霊気 …… 事件の中で登場する道具

鬼  …… 『鬼』事件の凶器に憑りつく元凶
河童 …… 『河童』事件の状況から連想させる妖怪
天狗 …… 『河童』事件の状況から連想させる妖怪

ぬうりひょん ……『ぬらりひょんの褌』事件を引き起こした元凶


映像作で京極作品の登場キャラクターを演じた主な俳優(アニメ・ラジオドラマ作品を除く)
※俳優の年齢は演じた当時のもの

中禅寺 秋彦  …… 堤 真一(41歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
榎木津 礼二郎 …… 阿部 寛(41歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
関口 巽    …… 永瀬 正敏(39歳 映画『姑獲鳥の夏』)、椎名 桔平(43歳 映画『魍魎の匣』)
木場 修太郎  …… 宮迫 博之(35歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
青木 文蔵   …… 堀部 圭亮(39歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
鳥口 守彦   …… マギー(33歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
中禅寺 敦子  …… 田中 麗奈(25歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
安和 寅吉   …… 荒川 良々(31歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
里村 紘市   …… 阿部 能丸(45歳 映画『姑獲鳥の夏』)
竹宮 潤子   …… 鈴木 砂羽(32歳 映画『姑獲鳥の夏』)
増岡 則之   …… 大沢 樹生(38歳 映画『魍魎の匣)
久遠寺 嘉親  …… すま けい(69歳 映画『姑獲鳥の夏』 2013年没)
降旗 弘    …… 下條 アトム(51歳 ドラマ『目目連』)
中禅寺 千鶴子 …… 清水 美砂(34歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
関口 雪絵   …… 篠原 涼子(31歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
山嵜 孝鷹   …… 小松 和重(39歳 映画『魍魎の匣』)
妹尾 友典   …… 田村 泰二郎(56歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
菅野 博行   …… 堀内 正美(55歳 映画『姑獲鳥の夏』)
久保 竣公   …… 宮藤 官九郎(37歳 映画『魍魎の匣』)
平野 祐吉   …… 白井 晃(40歳 ドラマ『目目連』)
呉 美由紀   …… 今田 美桜(22歳 文庫版『今昔百鬼拾遺』3部作のカバー写真モデル)

御行の又市    …… 田辺 誠一(30歳 ドラマ『怪』)、香川 照之(38歳 映画『嗤う伊右衛門』)、渡部 篤郎(36歳 ドラマ『W』)、中尾 隆聖(52歳 アニメ)
山猫廻しのおぎん …… 遠山 景織子(24歳 ドラマ『怪』)、小池 栄子(24歳 ドラマ『W』)、小林 沙苗(23歳 アニメ)
山岡 百介    …… 佐野 史郎(44歳 ドラマ『怪』)、吹越 満(40歳 ドラマ『W』)、関 俊彦(41歳 アニメ)
事触れの治平   …… 谷 啓(67歳 ドラマ『怪』 2010年没)、大杉 漣(53歳 ドラマ『W』)
算盤の徳次郎   …… 火野 正平(51歳 ドラマ『怪』)
中禅寺 洲斎   …… 近藤 正臣(58歳 ドラマ『怪』)、十世 松本 幸四郎(51歳 歌舞伎『狐花』)


≪更新しました。まだまだ途中です!≫
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今さらですが、京極夏彦の妖怪まわりを整理してみよっか ~上~

2025年05月26日 22時19分39秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
『画図百鬼夜行』(がずひゃっきやこう)とは……
 安永五(1776)年に刊行された浮世絵師・鳥山石燕(1712~88年)の妖怪画集。
 『今昔画図続百鬼』(1779年)、『今昔百鬼拾遺』(1780年)、『百器徒然袋』(1784年)とある石燕の妖怪画集の中でも最初に刊行されたものであり、現代ではこの4作を総称して「画図百鬼夜行シリーズ」などとも呼ばれる。
 「前篇・陰」「前篇・陽」「前篇・風」の3部構成となっている。各部を「前篇」と題しているものの後篇は存在せず、この後に刊行された『今昔画図続百鬼』が後篇に相当する。
 本書は妖怪画1点ごとに名称を添えて紹介しており、妖怪図鑑のようなスタイルとなっている。後の石燕の画集と比較すると天狗や河童といった、日本の妖怪の中でも比較的有名なものが多い。
 石燕自身が巻末で「詩(うた)は人心の物に感じて声を発するところ、画(え)はまた無声の詩とかや」と述べている通り、画賛を廃しており、『今昔画図続百鬼』以降に見られるような解説文はないものが多く、あっても文章はかなり短い。

前篇・陰
木魅(こだま)  ……『絡新婦の理』(1996年)第五長編
天狗(てんぐ)  ……『今昔百鬼拾遺 天狗』(2018年)第三中編
幽谷響(やまびこ)
山姥(やまうば)
山童(やまわろ)
犬神(いぬがみ)
白児(しらちご)
猫また(ねこまた)
河童(かっぱ)  ……『今昔百鬼拾遺 河童』(2018年)第二中編
獺(かわうそ)
垢嘗(あかなめ)

窮奇(かまいたち)
網剪(あみきり)
狐火(きつねび) ……『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』(2024年)「江戸怪談」シリーズ第4作

前篇・陽
絡新婦(じょろうぐも)……『絡新婦の理』第五長編
鼬(てん)
叢原火(そうげんび)
釣瓶火(つるべび)
ふらり火(ふらりび)
姥が火(うばがび)
火車(かしゃ)    ……『魍魎の匣』(1995年)第二長編
鳴屋(やなり)
姑獲鳥(うぶめ)   ……『姑獲鳥の夏』(1994年)第一長編
海座頭(うみざとう)
野寺坊(のでらぼう) ……『鉄鼠の檻』(1996年)第四長編
高女(たかおんな)
手の目(てのめ)   ……『今昔続百鬼 雲』(2001年 第二中編集)第三話
鉄鼠(てっそ)    ……『鉄鼠の檻』第四長編
黒塚(くろづか)
飛頭蛮(ろくろくび)
逆柱(さかばしら)
反枕(まくらがえし)
雪女
生霊(いきりょう)
死霊(しりょう)
幽霊         ……『書楼弔堂・破暁 方便』(2012年)

前篇・風
見越(みこし)
しょうけら         ……『塗仏の宴』第六長編
ひょうすべ         ……『塗仏の宴』第六長編
わいら           ……『塗仏の宴』第六長編
おとろし          ……『塗仏の宴』第六長編
塗仏(ぬりぼとけ)     ……『塗仏の宴』第六長編
濡女(ぬれおんな)
ぬうりひょん(ぬらりひょん)……『ぬらりひょんの褌』(2006年)マンガ『こち亀』トリビュート短編
元興寺(がごぜ)
苧うに(おうに)
青坊主(あおぼうず)    ……『鉄鼠の檻』第四長編
赤舌(あかした)
ぬっぺふほふ        ……『塗仏の宴』第六長編
牛鬼(うしおに)
うわん           ……『塗仏の宴』第六長編


『今昔画図続百鬼』(こんじゃくがずぞくひゃっき)とは……
 安永八(1779)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。『画図百鬼夜行』の続編。
 「雨」「晦(かい or つごもり 暗い天候のこと)」「明」の三部構成となっている。『画図百鬼夜行』はほぼ絵画のみであったが、本作は解説文が添えられている。


逢魔時(おうまがとき)
鬼            ……『今昔百鬼拾遺 鬼』第一中編
山精(さんせい)
魃(ひでりがみ)
水虎(すいこ)
覚(さとり)
酒顛童子(しゅてんどうじ)
橋姫(はしひめ)
般若(はんにゃ)
寺つつき(てらつつき)
入内雀(にゅうないすずめ)
玉藻前(たまものまえ)   ……『了巷説百物語』(2024年 シリーズ最終第七作)
長壁(おさかべ)
丑時参(うしのときまいり)……『絡新婦の理』第五長編


不知火(しらぬい)
古戦場火(こせんじょうひ)
青鷺火(あおさぎび)  ……『百鬼夜行 陽』(2012年 第二短編集)第五話
提灯火(ちょうちんのひ)
墓の火(はかのひ)   ……『百鬼夜行 陽』第六話
火消婆(ひけしばば)
油赤子(あぶらあかご)
片輪車(かたわぐるま)
輪入道(わにゅうどう)
陰摩羅鬼(おんもらき) ……『陰摩羅鬼の瑕』(2003年)第七長編
皿かぞえ(さらかぞえ)
人魂(ひとだま)
船幽霊(ふなゆうれい)
川赤子(かわあかご)  ……『百鬼夜行 陰』(1999年 第一短編集)第十話
古山茶の霊(ふるつばきのれい)
加牟波理入道(がんばりにゅうどう)
雨降小僧(あめふりこぞう)
日和坊(ひよりぼう)
青女房(あおにょうぼう)……『百鬼夜行 陽』第七話
毛倡妓(けじょうろう) ……『百鬼夜行 陰』第九話
骨女(ほねおんな)


鵼(ぬえ)     ……『鵼の碑』(2023年)第九長編
以津真天(いつまで)
邪魅(じゃみ)   ……『邪魅の雫』(2006年)第八長編
魍魎(もうりょう) ……『魍魎の匣』第二長編
狢(むじな)
野衾(のぶすま)
野槌(のづち)
土蜘蛛(つちぐも)
比々(ひひ)
百々目鬼(どどめき)……『絡新婦の理』第五長編
震々(ぶるぶる)
骸骨        ……『狂骨の夢』(1995年)第三長編
天井下(てんじょうくだり)
大禿(おおかぶろ) ……『鉄鼠の檻』第四長編
大首(おおくび)  ……『百鬼夜行 陽』第二話
百々爺(ももんじい)
金霊(かねだま)
天逆毎(あまのざこ)
日の出(ひので)


『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)とは……
 安永十(1780)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。
 「雲」「霧」「雨」の三部構成となっている。本作で描かれている妖怪には、実際の伝承にあるものではなく、石燕が創作したものも多く含まれている。また石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」の中で唯一、本作は彩色版があったとの説もある。


蜃気楼(しんきろう)  ……『邪魅の雫』第八長編
燭陰(しょくいん)   ……『塗仏の宴』第六長編
人面樹(にんめんじゅ)
人魚
返魂香(はんごんこう) ……『狂骨の夢』第三長編
彭侯(ほうこう)
天狗礫(てんぐつぶて)
道成寺鐘(どうじょうじのかね)
燈台鬼(とうだいき)
泥田坊(どろたぼう)  ……『今昔続百鬼 雲』第二話
古庫裏婆(こくりばば) ……『今昔続百鬼 雲』第四話
白粉婆(おしろいばば)
蛇骨婆(じゃこつばば)
影女(かげおんな)
倩兮女(けらけらおんな)……『百鬼夜行 陰』第六話
煙々羅(えんえんら)  ……『百鬼夜行 陰』第五話


紅葉狩(もみじがり)
朧車(おぼろぐるま)
火前坊(かぜんぼう)
蓑火(みのび)         ……『絡新婦の理』第五長編
青行燈(あおあんどん)     ……『百鬼夜行 陽』第一話
雨女(あめおんな)       ……『百鬼夜行 陽』第八話
小雨坊(こさめぼう)
岸涯小僧(がんぎこぞう)    ……『今昔続百鬼 雲』第一話
あやかし
鬼童(きどう)         ……『百鬼夜行 陽』第四話
鬼一口(おにひとくち)     ……『百鬼夜行 陰』第四話
蛇帯(じゃたい)        ……『百鬼夜行 陽』第九話
小袖の手(こそでのて)     ……『百鬼夜行 陰』第一話
機尋(はたひろ)
大座頭(おおざとう)
火間蟲入道(ひまむしにゅうどう)……『百鬼夜行 陰』第七話
殺生石(せっしょうせき)
風狸(ふうり)
茂林寺釜(もりんじのかま)


羅城門鬼(らじょうもんおに)
夜啼石(よなきのいし)
芭蕉精(ばしょうのせい)
硯の魂(すずりのたましい)
屏風覗(びょうぶのぞき)……『百鬼夜行 陽』第三話
毛羽毛現(けうけげん)
目目蓮(もくもくれん) ……『百鬼夜行 陰』第三話
狂骨(きょうこつ)   ……『狂骨の夢』第三長編
目競(めくらべ)    ……『百鬼夜行 陽』第十話
後神(うしろがみ)
否哉(いやや)     ……『絡新婦の理』第五長編
方相氏(ほうそうし)  ……『魍魎の匣』第二長編
滝霊王(たきれいおう)
白澤(はくたく)    ……『塗仏の宴』第六長編
隠里(かくれざと)   ……『鉄鼠の檻』第四長編


『百器徒然袋』(ひゃっきつれづれぶくろ)とは……
 天明四(1784)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」の中でも最後に刊行されたもの。
 「上」「中」「下」の三部構成となっており、器物が変化して生まれたとされる妖怪・付喪神が多く描かれている。画像は過去の百鬼夜行絵巻に登場する妖怪に類似するものが多く、それらに『徒然草』や多くの漢籍からヒントを得て石燕が創作したものである。


宝船(たからぶね)
塵塚怪王(ちりづかかいおう)
文車妖妃(ふぐるまようひ)……『百鬼夜行 陰』第二話
長冠(おさこうぶり)
沓頬(くつつら)
ばけの皮衣(ばけのかわごろも)
絹狸(きぬたぬき)
古籠火(ころうか)
天井嘗(てんじょうなめ)
白容裔(しろうねり)
骨傘(ほねからかさ)
鉦五郎(しょうごろう)
払子守(ほっすもり)   ……『鉄鼠の檻』第四長編
栄螺鬼(さざえおに)


槍毛長(やりけちょう)
虎隱良(こいんりょう)
禅釜尚(ぜんふしょう)
鞍野郎(くらやろう)
鐙口(あぶみくち)
松明丸(たいまつまる)
不々落々(ぶらぶら)
貝児(かいちご)
髪鬼(かみおに)
角盥漱(つのはんぞう)
袋狢(ふくろむじな)
琴古主(ことふるぬし)
琵琶牧々(びわぼくぼく)
三味長老(しゃみちょうろう)
襟立衣(えりたてごろも) ……『百鬼夜行 陰』第八話
経凛々(きょうりんりん)
乳鉢坊(にゅうばちぼう)
瓢箪小僧(ひょうたんこぞう)
木魚達磨(もくぎょだるま)……『鉄鼠の檻』第四長編
如意自在(にょいじざい)
暮露々々団(ぼろぼろとん)
箒神(ほうきがみ)
蓑草鞋(みのわらじ)


面霊気(めんれいき)   ……『百器徒然袋 風』(2004年 第三中編集)第三話
幣六(へいろく)
雲外鏡(うんがいきょう) ……『百器徒然袋 風』第二話
鈴彦姫(すずひこひめ)
古空穂(ふるうつぼ)
無垢行騰(むくむかばき)
猪口暮露(ちょくぼろん)
瀬戸大将(せとだいしょう)……アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』第4シリーズ第101話『言霊使いの罠!』(1997年)脚本
五徳猫(ごとくねこ)   ……『百器徒然袋 風』第一話
鳴釜(なりがま)     ……『百器徒然袋 雨』(1999年 第一中編集)第一話
山颪(やまおろし)    ……『百器徒然袋 雨』第三話
瓶長(かめおさ)     ……『百器徒然袋 雨』第二話
宝船


『絵本百物語』(えほんひゃくものがたり)とは……

 天保十二(1841)年に刊行された日本の奇談画集。
 近年では『桃山人夜話』(とうさんじんやわ)の副題で知られているが、実際には副題は存在しない。
 著者は桃山人(詳細不詳)、挿絵の画師は浮世絵師の竹原春泉(生没年不詳)。
 題名に「百物語」と銘打ってあるように、江戸時代に流行した百物語怪談本の一種といえるが、話ごとに物語の名称ではなく妖怪の名称を掲げた上に妖怪の挿絵をつけており、怪談集と画集とを融合させた作品ともいえる。本書と同じく江戸時代の妖怪画集として知られる鳥山石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」と並び賞されることが多いが、どちらかといえば記号的といえる石燕の画に対し、春泉による妖怪画は躍動感や臨場感があるのが特徴と評価されている。石燕の画と違って本書は多色刷りであることも大きな特徴である。
 なお、近年は『絵本百物語』の初版刊行が天保十二年よりも前である可能性も示唆されている。

第一巻
百物語            ……『了巷説百物語』(2024年 シリーズ最終第七作)最終第七話
白蔵主(はくぞうす)      ……『巷説百物語』(1999年 シリーズ第一作)第二話(マンガ化2回、アニメ化1回)
飛縁魔(ひのえんま)      ……『続巷説百物語』(2001年 シリーズ第二作)第三話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
狐者異(こわい)        ……『続巷説百物語』第二話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
塩の長司(しおのちょうじ)   ……『巷説百物語』第五話(マンガ化1回、アニメ化1回)
磯撫(いそなで)        ……『遠巷説百物語』(2021年 シリーズ第六作)第二話
死神              ……『続巷説百物語』第五話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
野宿火(のじゅくび)      ……『了巷説百物語』第六話
寝肥(ねぶとり)        ……『前巷説百物語』(2007年 シリーズ第四作)第一話(マンガ化1回)
周防の大蝦蟇(すおうのおおがま)……『前巷説百物語』第二話(マンガ化1回)

第二巻
豆狸(まめだぬき)   ……『西巷説百物語』(2010年 シリーズ第五作)第六話
山地乳(やまちち)   ……『前巷説百物語』第五話
柳女(やなぎおんな)  ……『巷説百物語』第六話(マンガ化1回、アニメ化1回)
老人火(ろうじんび)  ……『続巷説百物語』第六話(マンガ化1回、アニメ化1回)
手洗鬼(てあらいおに) ……『了巷説百物語』第五話
出世螺(しゅっせぼら) ……『遠巷説百物語』第六話
旧鼠(きゅうそ)    ……『前巷説百物語』第六話
二口女(ふたくちおんな)……『前巷説百物語』第三話
溝出(みぞいだし)   ……『西巷説百物語』第五話

第三巻
葛の葉(くずのは)      ……『了巷説百物語』第四話
芝右衛門狸(しばえもんだぬき)……『巷説百物語』第四話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
波山(ばさん)        ……『遠巷説百物語』第三話
帷子辻(かたびらがつじ)   ……『巷説百物語』第七話(マンガ化1回、アニメ化1回)
歯黒べったり(はぐろべったり)……『遠巷説百物語』第一話
赤えいの魚(あかえいのうお) ……『後巷説百物語』(2003年 シリーズ第三作)第一話(マンガ化1回、ドラマ化1回)
船幽霊(ふなゆうれい)    ……『続巷説百物語』第四話(マンガ化1回、アニメ化1回)
遺言幽霊(ゆいごんゆうれい) ……『西巷説百物語』第二話
水乞幽霊(みずこいゆうれい) ……『西巷説百物語』第二話

第四巻
手負蛇(ておいへび)  ……『後巷説百物語』第三話(マンガ化1回)
五位の光(ごいのひかり)……『後巷説百物語』第五話
累(かさね)      ……『了巷説百物語』第三話
於菊虫(おきくむし)  ……『了巷説百物語』第一話
野鉄砲(のでっぽう)  ……『続巷説百物語』第一話(マンガ化1回、アニメ化1回)
天火(てんか)     ……『後巷説百物語』第二話(マンガ化1回)
野狐(のぎつね、やこ) ……『西巷説百物語』第七話
鬼熊(おにぐま)    ……『遠巷説百物語』第四話
かみなり        ……『前巷説百物語』第四話

第五巻
小豆あらい(あずきあらい)……『巷説百物語』第一話(マンガ化2回、アニメ化1回)
山男           ……『後巷説百物語』第四話
恙虫(つつがむし)    ……『遠巷説百物語』第五話
風の神          ……『後巷説百物語』第六話
鍛冶が嬶(かじがかか)  ……『西巷説百物語』第三話
柳婆(やなぎばば)    ……『了巷説百物語』第二話
桂男(かつらおとこ)   ……『西巷説百物語』第一話
夜の楽屋(よるのがくや) ……『西巷説百物語』第四話
舞首(まいくび)     ……『巷説百物語』第三話(マンガ化1回、アニメ化1回)


京極夏彦の主要著作の執筆順一覧
1994年9月
長編小説『姑獲鳥の夏』(「百鬼夜行」シリーズ第1作)
1995年1月
長編小説『魍魎の匣』(「百鬼夜行」シリーズ第2作、第49回日本推理作家協会賞長編部門受賞)
1995年5月
長編小説『狂骨の夢』(「百鬼夜行」シリーズ第3作)
1995年8月~97年7月
短編小説集『百鬼夜行 陰』
1996年1月
長編小説『鉄鼠の檻』(「百鬼夜行」シリーズ第4作)
1996年11月
長編小説『絡新婦の理』(「百鬼夜行」シリーズ第5作)
1997年6月
長編怪談小説『嗤う伊右衛門』(「江戸怪談」シリーズ第1作、第25回泉鏡花文学賞受賞)
1997年8月~98年3月
長編小説『塗仏の宴 宴の支度』(「百鬼夜行」シリーズ第6作の前編)
1997年10月~99年8月
連作小説集『巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第1作)
1997年12月
アニメ『ゲゲゲの鬼太郎(第4期)』第101話『言霊使いの罠!』
1998年9月
長編小説『塗仏の宴 宴の始末』(「百鬼夜行」シリーズ第6作の後編)
1998年11月~99年8月
中編小説集『百器徒然袋 雨』
1999年1月~2009年5月
連作小説集『厭な小説』
1999年12月~2000年11月
中編小説集『今昔続百鬼 雲』
2000年1~9月
連続 TVドラマ
『巷説百物語 七人みさき』(1月放送)……『続巷説百物語 死神』の原作
『巷説百物語 隠神だぬき』(3月放送)……『巷説百物語 芝右衛門狸』のドラマ化
『巷説百物語 赤面ゑびす』(7月放送)……『後巷説百物語 赤えいの魚』の原作
『巷説百物語 福神ながし』(9月放送)……『了巷説百物語 葛乃葉』の原作
2000~11年
パロディ連作小説集『南極夏彦』シリーズ
2001年4月~2004年4月
中編小説集『百鬼徒然袋 風』
2001年5月
連作小説集『続巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第2作)
2001~11年
SF 小説『ルー=ガルー』シリーズ
2002年9月
長編怪談小説『覘き小平次』(「江戸怪談」シリーズ第2作、第16回山本周五郎賞受賞)
2003年4月~12年3月
短編小説集『百鬼夜行 陽』
2003年8月
長編小説『陰摩羅鬼の瑕』(「百鬼夜行」シリーズ第7作)
2003年11月
連作小説集『後巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第3作、第130回直木三十五賞受賞)
2003~11年
妖怪小説『豆腐小僧』シリーズ
2003年4月~12年3月
短編小説集『百鬼夜行 陽』
2006年9月
長編小説『邪魅の雫』(「百鬼夜行」シリーズ第8作)
2006年12月
トリビュート短編小説『ぬらりひょんの褌』
2007年4月
連作小説集『前巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第4作)
2008年
短編小説集『幽談』
2010年
長編怪談小説『数えずの井戸』(「江戸怪談」シリーズ第3作)
連作小説集 『西巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第5作、第24回柴田錬三郎賞受賞)
連作小説  『死ねばいいのに』
短編小説集 『冥談』
2012年4月~13年7月
連作小説『書楼弔堂 破暁』
2012年
短編小説集『眩談』
2014年8月~16年5月
連作小説『書楼弔堂 炎昼』
2015年4月
短編小説集『鬼談』
2017年1月~22年5月
連作小説『書楼弔堂 待宵』
2018年2~11月
中編小説『今昔百鬼拾遺 鬼』
短編小説集『虚談』
2018年5~11月
中編小説『今昔百鬼拾遺 河童』
2018年9月~19年2月
中編小説『今昔百鬼拾遺 天狗』
2019年4月~2020年12月
連作小説集 『遠巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第6作、第56回吉川英治文学賞受賞)
2021年4月~2024年6月
連作小説集 『了巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ最終第7作)
2023年9月
長編小説『鵼の碑』(「百鬼夜行」シリーズ第9作)
2024年7月
長編小説『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』(「江戸怪談」シリーズ第4作)


≪更新しました。後半へつづく!≫
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完全なる門外漢からみた大奥妖怪奇譚 ~映画『モノノ怪 火鼠』 啓後の段~

2025年04月10日 23時07分28秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
≪前回の記事は、こちら!≫

 ハハハイみなさまどうもこんばんは! そうだいでございます~。
 新年度が始まって1週間が経ちましたが、みなさまどんな感じでしょうか? 楽しくやっていけそうですか?
 私はもう、若くはないというところを小ズルく前面に押し出しまして、適度に汗をかく程度に頑張らせていただいております。中年層の特権だ~!!
 でも、私の経験則で行きますと、そんなにいい感じで一年間やっていけるわけがないんですよね……必ずどこかのタイミングで仕事の数が増えることになっちゃうんだよなぁ! ゴールデンウィーク明けか、お盆休み明けか……それとも、もっと早い桜舞い散るころ~!? いつ肩を叩かれるかと、戦々恐々としながらノンビリしております。今を楽しまねば!!

 いや~、いよいよ始まりましたね、『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』!
 ま、要するに単なるよりぬき再放送ではあるわけなのですが、1968年から6期にわたって続く悠久のアニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』の全536エピソードの中からの傑作セレクトということで、ヘタしたらふつうの本放送よりも見ごたえのある至福の番組になることは確実のようであります。すっげ~!! これ、いつまで放送してくれるんですかね。
 毎週のエピソードのセレクターも面白いですよね。第1回は、今回のオープニング主題歌を担当する Adoさんセレクトのアニメ版第5期第4話『男!一反もめん』ということで、トップバッターが高山みなみ鬼太郎の第5期なのかい!と意外に思った向きもあるのかも知れませんが、内容は非常にスタンダードな「純真無垢な子どもが異界に出遭う」パターンの傑作で、ほんとに Adoさんが選んだのか疑いたくなってしまうくらいに「わかってる」選出だったと感じ入りました。これ、第2回以降もハードル高くなるぞ~!
 しかも、この『男!一反もめん』って、ご本人自体はシルエットでしか出てこないけど、我らが自称妖怪総大将ぬらりひょんサマ(演ずるは言わずもがなの青野武老師!!)ご登板の壮大なるプロローグ的エピソードなんですよね! つくづくわかってんなぁ~ Adoさん!! 若いのにやりおるわい。
 ファンとしましては、やっぱり「自分がセレクトするならどのエピソードか?」を妄想するのも楽しいですよね。不遜ながら私も考えてみますと、まず我が『長岡京エイリアン』で企画にするほど大好きなおぬら様と猫娘のメインエピソードを永久欠番として除外した上で考えますと(青野ぬらりひょんの出演してるエピソードは第3期・5期関係なく全話セレクトです)、う~ん、やっぱり第4期第84話『怪奇!人食い肖像画』(1997年8月放送)になりますかね。でも、あれも猫娘がけっこう重要な役割を担ってたか。あと、青野老師がぬらりひょんじゃないんだけどニセ鬼太郎を嬉々として演じておられた第4期第95話『妖力泥棒!釜なり』も楽しかったなぁ。総じて私は第4期が多くなりますかね。


 ままま、こんな調子で鬼太郎関連の話ばっかりしてると、あっという間に字数が埋まってしまいますので、ちゃっちゃと今回の本題に入っていきたいと思います。妖怪は妖怪でも、今回はこっちのほうなの!

 というわけで、現在絶賛公開中の最新アニメ映画『モノノ怪 火鼠』を観た感想でございます。

 前回にもさんざんくっちゃべりましたが、ここからはほんとに、純粋に『火鼠』だけを観た人間の感想になりますので、他の TVシリーズ版『モノノ怪』や映画版の前作『唐傘』にからんだ前情報や伏線はまるで感知していない駄文になることを承知の上でお読みくださいますよう。熱烈なファンの方は、わたくしめの勉強不足を怒らずにおおらか~な御心で、ひとつ!

 まず、映画の内容にいく前に、今回の映画のメインゲスト妖怪となった「火鼠」についての基本情報を確かめてみましょう。


妖怪「火鼠」とは……
 火鼠(ひねずみ、ひのねずみ、かそ)は、中国大陸で伝承される怪物。「火光獣(かこうじゅう)」とも呼ばれる。
 中国大陸の南の山の、「不尽木(ふじんぼく 不灰木とも)」という燃え尽きない木の火の中に棲んでいるとされる。火鼠の毛を織物にすると、焼けば美しさを永久に保つことのできる布「火浣布(かかんふ)」になるといわれるが、これは鉱物性繊維の石綿(アスベスト)のことを指していると思われる。

 晋代以後(3世紀後半以降)の地理書『神異経』によれば、南方の火山(4世紀の怪奇小説集『捜神記』にみえる崑崙の「炎火之山」のこと)は長さ四十里あり、不尽木を生やしている。不尽木は一日中燃えており、雨で消えることもなく、その火の中に火鼠が住んでいる。火鼠の重さは百斤(約250kg )、毛の長さは二尺余り(約50cm弱)で絹糸のように細い白い毛であるといい、トラやホッキョクグマなどの大型哺乳類ほどの大きさがあることになる。火鼠に水を注げば死ぬので、その毛を織って布にすると、汚れても火で洗えば(焼けば)雪のように白い色に戻る火浣布になるという。
 また、火鼠は現在でいう南シナ海北部の海南島からトンキン湾、北ベトナムにかけての地域にいたとも言われる。その他に、火鼠の生息地を「西域の火州」とする説もあり、これは現在でいう新疆ウイグル自治区のウイグルのトルファン市周辺を指し、これはヴェネツィアの冒険家マルコ=ポーロ(1254?~1324年)がアスベストの採掘を見聞したという地域と一致する。

 このように火鼠の伝承が語られる一方で、『本草綱目』の著者である明帝国の本草学者・李時珍は不尽木を木類でなく石類と認識しており、、マルコ=ポーロも火浣布が採掘鉱物のアスベストであることを実見しており、火鼠の毛織物説を否定していた。

 火鼠は日本においては、10世紀中期に編纂された辞書『和名類聚抄』で和名を「ひねずみ」と音写して伝えられ、江戸時代の1712年に成立した百科事典『和漢三才図会』では、中国の本草書『本草綱目』(1596年刊)の説明記事が日本語訳されていた。

 また、日本で10世紀中期までに成立したという物語小説『竹取物語』の中では、主人公のかぐや姫が求婚してきた右大臣・阿倍御主人(3番目の求婚者 635?~703年に同名同職の人物が実在している)に出す難題として「火鼠の皮衣(かわごろも、かわぎぬ)」を所望している。これが、中国に伝わる火浣布と同じものと推定されていることが多い。
 ただし、『竹取物語』で求められたのは皮衣すなわち毛皮であり、火鼠の毛を織った布である火浣布とは厳密には異なる。また、阿倍御主人が中国・唐帝国の商人から購入した毛皮は紺青色の偽物であったが、先述したように中国伝承の火鼠の体毛は白いとされる。


 ……とまぁ、こんな感じの妖怪なんですって、火鼠って。
 つまり、中国伝承の中の火鼠は、日本の妖怪のようにわりと全国各地に出没の言い伝えが残っている存在ではなくて、東アジアのある特殊な地域に棲んでいる伝説の動物という存在なのですね。なので、本来は今回の『モノノ怪』のように人間の怨念に反応してポッと生まれるようなものではないということなんですな。つまり、本作に登場する妖怪はあくまで「中国にいるらしい火鼠に似たなにか」というモノなのでしょう。
 実際、ホッキョクグマくらいの大きさという点は似通っているかも知れませんが、中国の火鼠は身体が白いんですもんねぇ。なんか、『ガンバの大冒険』のノロイみたいなイメージですね。こえぇ!!

 そうそう、火鼠って、妖怪としては日本ではあんまり話題に上ってこない存在だし、確か水木しげる先生も描いたことはなかったんじゃないかなと思うのですが、昔話が好きな人だったら、けっこう『かぐや姫』で聞きおぼえのある名前ではあるんですよね。
 そうか~、「火鼠のかわごろも」って、要するにアスベストのことだったのか。日の本からはるかに遠く離れた中央アジア産のそうとうに稀少な鉱物なわけなので、もしかしてかぐや姫、それを知ったうえで阿倍右大臣にオーダーしてた……? なかなかの性格ですね。


 それはそれとしまして、とりあえず映画『モノノ怪 火鼠』を観たわたくしの感想を述べさせていただきますと、


『モノノ怪』シリーズの魅力も限界もよくわかる、非常にわかりやすいチュートリアルみたいな作品。


 という感じでございました。難解っていうことは全然なく、一見さんにもとっても優しい内容だったのですが、それだけに、なんかお年寄り向けの定番時代劇を観てるような予定調和感もあったような……これは、「三部作の真ん中なので、このくらいでひとつ。」という、人気シリーズの余裕のあらわれなのか?

 そんな言い方をしちゃうと批判的な印象が強くなってしまうのですが、いやいや、面白かったんですよ。特に今回は映画館の大スクリーンで観ましたからね、見ごたえのある『モノノ怪』シリーズ独特の映像美と世界観が楽しめる70分間ちょいでした。
 思えば、私がかつて千葉のアパートで観た TVシリーズ版は、古いテレビのちっちゃな画面で、しかも30分枠の CMぶつ切り、さらには視聴してる私も夜中で眠いし、ながら観してたしで、世界観をだいぶ理解しにくくしてしまう悪条件が重なりまくっていました。そもそも TVシリーズ版だって、エピソードは30分枠を2~3話で完結という体裁だったのですから、物語のボリュームとしては今回の映画版三部作のスケールとさほど変わってないんですよね。
 やっぱり、かなり濃厚な世界観の中でテンポよく物語が進んでいく『モノノ怪』シリーズは、結末まで休憩なしで突っ走っていく短距離型の映画スタイルが最適なのではないでしょうか。今回の『火鼠』を観て、私はしみじみそう感じました。

 本編の内容に入りますと、ヒロインというか、女性キャラクターの造形が活き活きとしていたのが良かったと思いました。特にメインのふきの方とぼたんの方あたりの人物像が、ちゃんと呼吸して怒りもすれば泣きもする生身の人間としての「厚み」を持っていたのが素晴らしかったです。キャラクターデザインも、アニメらしくなく肉々しいというか、しっかり脂肪も体重もあるリアリティがあったのが良かったですね。そこがかえって、時代劇らしくない現代っぽさのある『モノノ怪』オリジナルのファンタジー世界を強調している要素にもなっていました。あんなナイスバディな江戸人、いなかったでしょうし。

 ただ、物語の本筋はといいますと、そういった最先端のビジュアルとは正反対に、非常に古典的な「情念のお話」になっていたことがミソなんですよね。ここを良いととるのか、物足りないととるのか。それが問題なのよ!

 他のエピソードをほとんどまともに観たことのない私が言うのもおこがましいのですが、今回のお話や『モノノ怪』シリーズの概要情報を見る限り、どうやらこのシリーズで語られている「モノノ怪」という存在は、現実世界の日本でよく使われている「もののけ」とは、意味が微妙に重なっていない部分があるような気がします。おおかたは同じ意味のようなのですが、指す範囲がより狭くなっていますよね、モノノ怪のほうは。

 すなはちモノノ怪とは、人間の怨念が自然界にいにしえから存在している怪異「あやかし」の力を得て、元となった人間でさえ制御不可能な暴走状態となった災害現象と解釈できるようです。これって、私たちの世界でいう妖怪よりも、むしろ「怨霊」に近い人為的存在なのではないでしょうか。
 だからこそ、薬売りの持つ文字通りの伝家の宝刀「退魔の剣」がモノノ怪を断つためには、モノノ怪の形(事件の状況)と真(事件発生の経緯)と理(事件の原因)を把握して、モノノ怪を生んだ人間の心情を理解して鎮める必要があるのでしょう。そして、薬売りは人間発祥のモノノ怪を鎮めることはできても、人間以前から地球に存在しているあやかし自体を討伐することはできないのです。
 要するに、薬売りは事件を解決する探偵であり、人間の無念を供養する宗教者であり、火事を消す消防士でもあるのですが、刃物や銃や暴力の危険性とか、火が燃えたりする現象そのものをこの世から抹消することはできないというスタンスなのではないでしょうか。あくまでも、起きてしまった事件に対処するだけで、起きるかも知れない悲劇を未然に防ぐことはできないという無力感もあるんですね。薬売りさんも大変なのねぇ。

 ま、こういうことを考えてみますと、この『モノノ怪』シリーズの限界のようなものもうっすら見えてきてしまうわけで、本作で起きる事件は、薬売りが解決できるかぎりは全て「人間に原因がある」ということになり、しかもそれはほぼ100%「過去に起きたトラブルの被害者」の恨みの怨念が起こしているという、けっこうガッチリ固まったフォーマットがあるということになるのではないでしょうか。

 これはけっこ~……フィクション作品のシリーズとしては不便じゃない? 『金田一少年の事件簿』ではないですが、たいていの事件の犯人が、過去にかなりひどい目に遭っているという犯行動機があって、事件解決の終盤になると絶対に犯人のつらい身の上話を吐露する回想パートがあるという流れがパターン化しているのって、それが好きな人だったら『水戸黄門』みたいに「これこれ!」みたいな感じで楽しめるのでしょうが、少なくとも私は今回の『火鼠』1コ観ただけでおなかいっぱいかな、という気がしました。特に今回は「忖度」とか「中絶の強要」とかいう、非常に腹立たしいトピックがはびこる事件でしたので、なおさら不快度数が増したのもあると思います。

 不快というのならば、今回の事件で、本人の意思ではないながらも結果的に火鼠を生む環境を作っていた、ふきの方の父(権力者に忖度して中絶を勧めた)や兄(一族の繁栄を望み妹に大奥にい続けるよう懇願した)が一切おとがめなしになっていたのも、鑑賞後に「あれ? あいつらは笑顔でエンディングでいいのかな……」という感じで気になりました。
 いや、これに関してはおそらく、「薬売りが火鼠を退治していなかったら次の被害者になっていた」という解釈もできるので、決して父と兄が火鼠に許されていたというわけでないことはよくわかるのですが、結果として2人は無傷で助かっているので、印象としては「権力を持っていない人はオール免罪」みたいな理屈になっているような気がして、それは火鼠の気持ちにかなってはいないのでは?という気になってしまうんですよね。
 ここらへんの「弱々しく見える人は善人」というわけのわかんない思考停止な記号って、よくある古臭~い時代劇の、借金の取り立てに遭う長屋のおとっつぁんと娘の危機を黄門さまチームは救うけど、そもそも父娘がそんなにひどい目に遭うことになった社会構造はスルーして次の宿場町へGO♪ みたいなご都合主義を連想させるような気がして、なんかイヤなんですよね。

 でも、だからといってふきの方の父や兄も平等にぶっ殺されちゃったら、薬売りの立つ瀬もないビターな惨劇になっちゃいますから……ただ男である以上、今後も2人がふきの方の心情を理解できないままな可能性もあるような気はするので、チョーさんの哀感あふれる名演に惑わされずに、あの父の「そもそもの原因はお前!」な始末の悪さは忘れないでいたほうがいいかと思います。なんつうか、クリスティの『カーテン』のあの人みたいな含みのある人物造形なんですよね。そういう人が、いちばんこわい。

 あと、全く別の点で違和感を覚えたこととしては、薬売りがスーパーマンすぎて、大奥警護広敷番・坂下が許可しようがしまいが簡っ単に大奥に入り込める存在になってしまっていることがありました。別に赤外線センサーが張ってあるとか、どの廊下にも警固番がいるとかいうわけでもないだだっ広いお屋敷なんだから、大奥御年寄ぼたんの方の発行した手形がどうとか全然関係ないじゃん、あんなの! そんな感じだったので、クライマックスにいく手前で坂下が「いっけぇえ~!! 薬売り!!」とか大上段に叫んでも、そんなもん坂下の気分の問題でしかないので、まるで盛り上がらないのです。あそこでダメって言っても、薬売りは行ってたでしょ。

 坂下と言えば、野原ひろしと銭形幸一警部(もちろんファッションセンスは『 PartⅢ』版!)と『一休さん』の蜷川しんえもんさんを足して3で割ったような彼の憎めないキャラクターも、後半にいくにつれて、「そんなに過去の『すずの方』事件を知ってたんだったら、なんでそんなに純真無垢な傍観者ヅラしてられんの……?」という違和感が増してきて、そのキャラの明るさがむしろその心理状態をわかりにくくしている気がしました。どうしてそんな職場でのうのうと働き続けてられるんだろう……彼もまた、火鼠が生き延びていたら犠牲者になっていたか。

 あと、もうひとつ! これはほんとに気になった。
 私が本作を観ていちばん違和感を覚えてしまったのが、この『火鼠』の中ではろくなセリフの一つもない等身大パネル同然の存在感だった、この世界の大奥の主についてのことでして、作中では彼の呼び方が「天子さま」となっていたのです。ててて、天子とな!!

 こいつぁまた、大きくでたな!! 現実世界の日本史における大奥と言えば、やはりなんと言ってもその主は徳川江戸幕府の征夷大将軍こと「将軍さま」であるわけなのですが、この『モノノ怪』の世界における大奥の主は「天子さま」、つまり一国の王、日本史でいえば「みかど(天皇)」に直結した称号を持つ人物になっているのです。やんごとなさすぎだろ……
 これは相当に意図的な改変ですね……将軍じゃなくて天子さまということは、この『モノノ怪』の世界が、単に美術イメージを拡大解釈した時代劇というわけではなく、明らかに現実の日本と違う歴史的経緯をへて出来上がったパラレルワールドであると宣言しているも同然の呼称であるわけなのです。

 なにゆえ、江戸の将軍さまではいけなかったのか。これはおそらく、「武力で日本を平定する権力者」というだけでなく、作中でも大奥の一角にアマテラスやスサノオっぽい神々を描いた柱を持つ宗教施設があったり、なんか半裸でうろうろしてるシャーマンっぽい男女がいることからも、現実の日本史で京の天皇が堅持してきた「日本の宗教的・精神的絶対権威」というパワーさえも、『モノノ怪』世界の大奥の主が所有しているということを暗示しているのではないでしょうか。
 余談ですが、現実の徳川将軍家も、別に実利的な支配権力だけをもらえたらそれでいいですという武士らしい謙虚さを持っていたわけでは毛頭なく、日本史でも勉強したことのある「禁中ならびに公家諸法度」(1615年公布)や「諸宗寺院法度」(1665年制定)にあるように、権威の上でも天皇を超えるパワーを手に入れようとやっきになっていたことは明らかです。ただ、それが完全でなかったために1868年に王政が復古してしまったことは言うまでもありません。さすがは天皇家、250年も耐え忍んだ上で大復活とは、生命力がハンパない!!

 それはともかく、『モノノ怪』における天子さまが、何らかの形で江戸の徳川将軍よりも多角的な力を持った存在であるらしいことがほの見えてくることはいいのですが、それでも私が文句を申したいのは、そんなものすごそうな天子さまなのに、老中筆頭の大友らの発言から察するに、どうやら天下を手中に収める立場となってから、劇場版三部作の時点でたかだか「150年」しか経っていないという設定らしいということなんです。

 え! 150年!? たったの150年しか天下治めてないのに「天子さま」だなんて名乗ってんの!?

 それはいくらなんでもないでしょ……せめて1000年くらいは王さまやってくれないと。1.5世紀続いたくらいで「天子さまでござい」など、名前負けもはなはだしい。250年天下人を続けたのに「大君」どまりだった徳川将軍家の切なさを見習ってほしいですね。

 ままま、そこらへんのビッグマウスの源泉も、おそらく次作の『蛇神』で語られるかとは思うのでこれ以上はくどくど申しませんが、こうなっちゃうとだいぶファンタジックな歴史的背景が必要になるような気もしてしまうので、かろうじて日本の江戸時代とも解釈可能だった TVシリーズ版からかけ離れてしまうのはちと残念な気もしてしまうのですが、来年の最終作で、本作のエンディングどころではない「大花火」が打ちあがるのを、期待させていただきたいと思います。

 ちなみに蛇足となるのですが、具体的な歴史が意図的に語られない本作の中でもミョ~に具体的に「150年」という数字だけ明言されるのでいちおう比較してみますと、日本の江戸時代の開府150年すなはち西暦1750年(年号は寛延三年)の時点で大奥の主こと将軍だった人物は、第九代征夷大将軍・徳川家重(1712~61年 将軍在職1745~60年)でした。中村梅雀!! ついでに申しますと、1750年の時点では家重の父君である大御所・暴れん坊将軍こと徳川吉宗も存命しています。
 まぁ、徳川家とフィクション作品である『モノノ怪』の天子さまを比較してもせんかたない話ではあるのですが、一点だけ気になることとして、『火鼠』にもチラッとだけ登場した、天子さまの第一子を産んだ正室(演・種﨑キュアフレンディ敦美)の名前と、徳川家重の正室(のちの第十代将軍徳川家治の生母)の名前が同じ「幸子」であることは覚えておきたいと思います。徳川家正室の方は「こうこ」と呼んだらしいですが。

 だいたいにおいて、本作は権力者の「裏」の世界である大奥を舞台にしているのに、その裏を際立たせるために不可欠な存在である「表」の世界こと、大友たちの立ちまわる幕府の政治世界があまりにも語られなさすぎだと思うんです。クライマックスで大友は、「天子さまの天下を揺るがせないために自分は正しい判断をしたのだ!」と断言し、「諸大名の増長を抑えるためには天子さまのお家の血統も高貴であらねば」と豪語するのですが、具体的に大友が想定している敵対勢力であるはずの「諸大名」が1秒も画面に出てこないので、大友の発言にまるで説得力が生まれないのです。
 ああは言ってるけど、大友は江戸幕府の老中くらいの苦労をしているのか、室町幕府の管領くらいの立場なのか、はたまた鎌倉幕府の執権くらいのキツさなのか……そこらへんの難緯度設定がわからないと、大友の犯行(?)動機もいまいち伝わってきませんよね。ここらへんのさじ加減次第では、大友もまた時代の哀しい犠牲者だったという味わいが出てきそうなのですが、そこが不明なのは実に惜しいような気がします。『鎌倉殿の13人』の北条義時くらいの同情は買える可能性のあるキャラだと思うんだけどなぁ。でも、江戸の老中レベルだったらイージーモードだぞ! ぜいたく言うな!!


 そんなこんなの印象がありまして、私は今回の『火鼠』自体は非常に面白い作品だと感じたのですが、「このシリーズ、この展開以外にふり幅あるのかな?」という余計な心配も働いてしまったという次第なのです。まぁ、その真偽を確かめるためにも、来年の三部作最終作『蛇神』は絶対に観ますよ。それにしたって、なんで巳年の今年にやらないで来年なんだよう!! これには栄えある劇場版ラスボス格となった蛇神さまも肩をガックリ落としてしまいますね、肩ないけど。

 あ、最後にひとつだけ、本作を観てほんとに良かった点を。

 堀川りょうさんの中間管理職な老中・藤巻がすばらしかった! あの早口で小物感満載の高い声……おぉ、あの人間性の豊かさは、まさに生前の青野武老師の得意としたキャラクターではねぇか!!
 最高です……青野老師の後継者といえば『ちびまる子ちゃん』を例に挙げるまでもなく島田敏さんの一人天下かと思っていたのですが、まさかの堀川さんもこういう人物造形がお上手だったとは。伊達に35年も宇宙戦闘民族の王子(恐妻家ぎみの愛妻家)やってないなぁ!!

 そうそう、今回『火鼠』を観る前に、YouTube で流れていた出演者の堀内賢雄さんと堀川さんとチョーさんの宣伝用鼎談を観たのですが、堀川さん、時代劇が大好きなんですってね。さすがです、「好き」が演技にみなぎってます!

 それにしても、あのお3方、全員同じ「67歳」であられるのか……まだまだ私もオッサンだなんて言ってられねぇなぁ! がんばろ。


≪ちょっと気になっただけの蛇足≫
 私、この記事の中でさんざん「天子は天皇! 将軍じゃない!」と言っているのですが、実は、自分でそう言いながら、「あれ? そうじゃないかも……」と勝手に不安になってしまうような記憶がございまして。

 あの、私、確か中学生だった頃に学校の演劇鑑賞で、どこかの劇団の山形公演を観た記憶がありまして、それは「江戸時代のキリシタン弾圧に抵抗する人々」を描くお芝居だったのですが、その中で敵方となる幕府の侍たちが、しきりに「これは天子さまのご意向なのだ!」と主張していたんですよね……

 まぁ、九州かどこかの地方くんだりに来てダーティな仕事をする末端の人達なので、将軍と天皇を混同しているのかも知れませんし、あるいは命令の威光を高めるためにわざといっしょくたにしたのかも知れませんが、いずれにせよ、少なくともあのお芝居では、確かに江戸幕府と「天子さま」とを同義にしていたのです。記憶違いじゃないと思う……

 もしかしたら、その混同は劇団としての政治的意図があったのかも知れないし、そうだとしたらデリケートな問題なのですが、まぁ、そんな例外もあったと思い出しましたので、備忘のためにここに記しておきました。
 あのお芝居のあのセリフ、どういうことだったんだろ……?
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完全なる門外漢からみた大奥妖怪奇譚 ~映画『モノノ怪 火鼠』 承前の段~

2025年04月05日 22時37分34秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
 ハイど~もみなさまこんばんは! そうだいでございまする。

 いや~、気がついたらもう年度が改まっちゃいましたよ。つい昨日正月が終わったかと思ってたら、あっという間に4月になってしまいました!
 ほんと、山形の春というものはカレンダー通りには来てくれないものでして、先週までずっと朝夜寒いまんまだったし、雪すら降ってましたしね。桜なんかまだまだ花が咲く気配すらない状態なのですが、花粉と黄砂はズビズバ飛びまくってるんですよ。そんな感じなので体感ではやっとそろそろ3月かな~みたいな印象だったのですが、もう1ヶ月くらい感覚がズレちゃってたんですねぇ。

 そんなもんで、ここ最近は年度末の忙しさやらなんやらで例年通りにバタバタしておりまして、このブログの更新も映画鑑賞とかもそっちのけで、汗まみれで走り回ったり働くまくったりこもりまくったりしておりました。あと、雪かき道具の片付けとかもやってた。

 それで4月に入ってやっと一息つくことができたので、久しぶりに映画を観ようと思ったんですよ。でも、なかなか食指の動くものが見当たらなくって。
 ……と思ってましたら、あ待てよ、そういえば先月に職場の同僚から、「大好きな映画の最新作が公開されるから絶対に観てください!」とか熱烈に薦められてたタイトルがあったんでしたっけ。
 でも、あれから半月くらい経ってるしなぁ、まだやってるかなぁと思いながら地元の映画館を調べてみましたら、まだちゃんと上映していましたので、そうとうに遅ればせながら観に行くこととあいなりました。ギリギリセーフ!
 観に行ったら、入口のとこで「上映4週目限定来場者特典」というふれこみでフィルム風しおりをいただきました。ありがとうございまーす……でも、本のしおりって滅多に傷まないから、もらっても増える一方なんですよね。ま、『機動戦士ガンダム ジークアクス』でもらったよくわかんないカードよりはましですが。あのカードも今、本のしおりに使ってるし!


映画『モノノ怪 火鼠』(2025年3月14日公開 74分 ツインエンジン)
 劇場版『モノノ怪』3部作の第2作にあたる。
 劇場版は3作とも江戸城大奥を物語の舞台とし、薬売りが「モノノ怪」を斬るという形になっているが、それぞれが独立した作品として制作される。監督の中村健治は、TVアニメシリーズ版を見ていない人でも楽しめるようにしたほか、全3作のうちどれから見てもいいようにしたという。また中村は、「3部作全体で大きなひとつの『情念』を薬売りが斬る物語にもなっています。」としている。

あらすじ
 前作の『唐傘』事件の約一ヶ月後。
 大奥の新しい御年寄役に指名された御中臈ぼたんの方と、御上の寵愛を一身に受ける御中臈ふきの方との対立構造が浮き彫りとなり、大奥はにわかにざわめきだす。幕府の老中筆頭でぼたんの方の父でもある大友は余計な火種が生まれることを嫌い、御台所の後見役に部下の老中・勝沼の娘である御中臈まつの方を推挙し、第三勢力を立てることによる事態の収拾を図る。しかし、ぼたんの方は御年寄に就任するやいなや大奥の夜伽に関する規律の見直しを断行し、それによって不利益をこうむるふきの方は猛反発、両者の溝はさらに深刻化することとなる。
 そんな折、ふきの方の懐妊が突如として発覚し、生まれる御子が男子の場合は御世継ぎの有力候補となり、女児しか生まれていない御台所との跡目争いは必至になるのではないかという憶測が水面下で広がっていく。この事態の下で様々な裏工作が飛び交い、陰謀が加速してゆく大奥。
 時を同じくして、大奥では恐るべき連続人体発火怪死事件が発生する。怨嗟の炎でその身を焦がすモノノ怪の名は、「火鼠」。
 異変を察知して大奥に再び駆けつけた薬売りだったが、無数の群体で、かつ高速で動き回る神出鬼没の火鼠に手を焼くこととなる。
 火鼠が生まれた理由、大奥に巣食う負の歴史……果たして薬売りは、それらを斬り鎮めることができるのであろうか。

おもなキャスティング
薬売り         …… 神谷 浩史(50歳)
御中臈ふきの方     …… 日笠 陽子(39歳)
大奥御年寄ぼたんの方  …… 戸松 遥(35歳)
大奥警護広敷番・坂下  …… 細見 大輔(51歳)
大奥御中臈まつの方   …… 青木 瑠璃子(35歳)
大奥部屋付女中おつゆ  …… 松井 恵理子(36歳)
幕府老中筆頭・大友   …… 堀内 賢雄(67歳)
幕府老中・藤巻     …… 堀川 りょう(67歳)
時田 良路       …… チョー(67歳)
時田 三郎丸      …… 梶 裕貴(39歳)
幕府老中・勝沼     …… 楠見 尚己(70歳)
大奥奥女中おくめ    …… 花井 美春(27歳)
大奥奥女中おとめ    …… 相良 茉優(29歳)
大奥警護広敷番・浅沼  …… 宮崎 雅也(26歳)
大奥奥医師・野間 玄琢 …… 佐藤 せつじ(50歳)
大奥御伽坊主・長寿   …… 斉藤 貴美子(48歳)
大奥奥女中おさよ    …… ゆかな(50歳)
水光院         …… 榊原 良子(68歳)

おもなスタッフ
総監督   …… 中村 健治(54歳)
監督    …… 鈴木 清崇(45歳)
脚本    …… 新 八角(31歳)
時代考証  …… 吉成 香澄(50歳)
総作画監督 …… 高橋 裕一(?歳)
3D監督   …… 白井 賢一(?歳)
音響監督  …… 長崎 行男(70歳)
音楽    …… 岩崎 琢(57歳)
制作・配給 …… ツインエンジン
主題歌『花無双』(歌 アイナ・ジ・エンド)


 というわけでありまして、観てきましたよ~。独自の世界観と映像美で熱烈なファン層を獲得している、うわさの『モノノ怪』シリーズ、劇場版最新作!

 ……とは言いますものの、先ほども申しました通り、私は今回、知り合いの方に薦められたのでやっと観に来たという次第でして、したがって昨年に公開された劇場版第1作の『唐傘』も、当然ながら観ておりません。

 そう聞きますと、「オイオイお前、そんな『ぬらりひょんサーガ』だの『ニャニャニャの猫娘ヒストリー』だのという妖怪企画をやっときながら、妖怪をど真ん中で扱ってるこのシリーズを全然チェックしてないにわかなのか!? だっせーな!!」と憤慨される向きも出てこられるかもしれません。
 そうなんです、わたくし、確かに妖怪だのオカルトだのというあやしげな話題には滅法目がない人間ではあるつもりなのですが、ことこの『モノノ怪』シリーズに関しましては及び腰になっていたといいますか、むしろ良い印象を持っていない方と申して良いスタンスで門外漢を気取ってしまっていたのです。

 おっと、お待ちくだせェ! これには、深そうでそんなに深くもない経緯というものがあるんでさぁ!!

 そもそものきっかけは、あっしが紅顔の劇団員フリーター20代として、江戸にほど近ェ千葉で一人暮らしを決め込んでいた平成の御世、2006年にさかのぼるんでやんす……


『モノノ怪』シリーズのルーツ 『怪』の「化猫」編とは
 『怪 ayakashi』「化猫」編とは、フジテレビの深夜アニメ番組枠「ノイタミナ」(当時は毎週木曜深夜0:35~1:05放送)内で2006年1~3月に放送された TVホラーアニメシリーズ『怪 ayakashi』内のエピソード。
 『怪』は、3つのエピソードから構成される全11話のオムニバス形式作品であったが、各エピソードは四世鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』(1825年初演)を原作とする「四谷怪談」編、泉鏡花の戯曲『天守物語』(1917年発表)を原作とする「天守物語」編、そして日本の化け猫伝承を元にしたオリジナルストーリー「化猫」編と、エピソード間のつながりの全く無いもので、制作スタッフも別々だった。

「四谷怪談」編 …… 2006年1~2月放送、全4話
 シリーズディレクター・今沢哲男、脚本・小中千昭、総作画監督・伊藤秀樹、キャラクター原案・天野喜孝
「天守物語」編 …… 2月放送、全4話
 シリーズディレクター・永山耕三、脚本・坂元裕二、総作画監督・名倉靖博
「化猫」編 …… 3月放送、全3話
 シリーズディレクター・中村健治、脚本・横手美智子、総作画監督・橋本敬史
※全話の音楽担当は高梨康治、オープニングテーマ『 HEAT ISLAND』(歌・RHYMESTER)、エンディングテーマ『春のかたみ』(歌・元ちとせ)。

 そもそも『怪』は、それまで『ハチミツとクローバー』(2005~06年放送 2シーズン)や『 Paradise Kiss』(2005年10~12月放送)など少女マンガ原作のアニメ作品を放送していた「ノイタミナ」枠の路線とは打って変わり、日本の著名な怪談を元に、俊英のクリエイター達が独自に解釈あるいは新規にストーリーを書き起こして現代的な視点・様式を加味し、原作既読者も新鮮な感覚で視聴できる前衛風味の強い異色作となった。特に「化猫」編に関しては演出手法も大きく異なっており、3DCGの多用、浮世絵風色彩、和紙風のテクスチャが多用されていた。
 放送当初、「四谷怪談」編と「天守物語」編では視聴率が2% 台であったのに対し、「化猫」編は初回となる第9話から4.5% にまで上昇し、最高5.0% を記録した。これは当時の「ノイタミナ」枠における最高視聴率記録であり、過去3年間内の全放送局の深夜アニメ作品中でも最も高い数字となった。

『怪』版「化猫」編のあらすじ
 名門の武家だが借金で没落寸前の坂井家では、当主の娘・真央が他家へ嫁ぐ日を迎えていた。その慌ただしい日に薬売りを名乗る謎の若い男が現れる。間もなくして駕籠に乗ろうとした真央が怪死する事件が起き、家中は半狂乱となる。邸内にいた部外者である薬売りが疑われるものの、薬売りは「モノノ怪」の仕業であるという。薬売りと坂井家の主要人物らが大部屋に集まる中、屋敷を出て医者を呼びに行ったはずの中間の惨殺死体が発見され、さらには大部屋にいる者を除いた邸内の家人全員が、猫らしき謎の怪異に殺されてしまう。ここに至って半信半疑ながらも薬売りを信じるようになった坂井家の者たちは彼の話を聞き始めるが、彼曰く、モノノ怪を倒すにはその「形(かたち)」と「真(まこと)」と「理(ことわり)」を明らかにする必要があるとし、原因の心当たりについて尋ね始める。


TVアニメシリーズ『モノノ怪』とは
 『モノノ怪(もののけ)』は、フジテレビの深夜アニメ番組枠「ノイタミナ」(当時は毎週木曜深夜0:45~1:15放送)内で2007年7~9月に放送された TVホラーアニメシリーズ。5つのエピソードからなる連作オムニバス形式となっている。全12話。
 本作は、同じく「ノイタミナ」枠で前年2006年に放送された『怪』のエピソード「化猫」編の続編にあたり、制作スタッフ陣もほぼ同じである。シリーズディレクター・中村健治(初単独監督作品)、総作画監督・橋本敬史、音響監督・長崎行男、音楽・高梨康治、アニメーション制作・東映アニメーション。オープニングテーマは『下弦の月』(歌・小松亮太×チャーリー・コーセイ)、エンディングテーマは『ナツノハナ』(歌・JUJU)。

 『モノノ怪』は、前作にあたる『怪』の「化猫」編に続いて謎の薬売り(声・桜井孝宏)を主人公とし、江戸時代の日本(ただし「化猫」編のみ近代)を舞台に、「座敷童子」、「海坊主」、「のっぺらぼう」、「鵺(ぬえ)」、「化猫」という5つの怪異エピソードがオムニバス形式で描かれる。
 本作は、和紙の質感を CGテクスチャとして取り入れているほか、和風をベースにした独特な世界観を支える美術やデザインにおいても評価が高い。「座敷童子」編では浮世絵や目黒雅叙園、「海坊主」編ではグスタフ=クリムトの絵画的世界、「のっぺらぼう」編では能や屏風絵や表現主義をイメージしたタッチ、「鵺」編ではモノクロ風に抑えた水墨画的色彩、「化猫」編では時代に合わせた小林かいちや竹久夢二の大正モダンやパブロ=ピカソの『ゲルニカ』的絵画世界などを使用しているほか、様々な解釈が可能な暗喩や隠喩を含ませたアイコンを散りばめている。

 のちに、舞台演劇版の『モノノ怪 化猫』(2023年2月4~15日・東京・飛行船シアター 主演・新木宏典、脚本・月森葵、演出・ヨリコジュン)と、『モノノ怪 座敷童子』(2024年3月21~24日、4月4~7日・東京・IMMシアター、同年3月29~31日・クールジャパンパーク大阪 WWホール 主演・新木宏典、脚本・高橋郁子、演出・ヨリコジュン)が上演された。

主要登場人物、用語
薬売りの男 ……  桜井孝宏(2024年以降の映画版は神谷浩史)
 『モノノ怪』シリーズの主人公。本名不明。
 透けるような白肌に淡い金色の長髪と青い眼、長く尖った耳を持ち、歌舞伎の隈取のような化粧をした、整った顔立ちの青年。蛾をモチーフにした柄の着物を着ている。モノノ怪を倒すために諸国を巡っているが、表向きは薬の行商を行っている。モノノ怪の発見と退治のために様々な術を扱い、時代が変わってもほぼ同じ外見のままであり、その素性や正体、モノノ怪を倒す目的など作中では語られない謎が多いが、本人はあくまで自分は人間であると語る。
 あやかしやモノノ怪に関する知識が豊富で、モノノ怪を倒すことができる唯一の武器「退魔の剣」を携えている。しかし、退魔の剣を鞘から抜くためには、モノノ怪の「形(かたち)」と「真(まこと)」と「理(ことわり)」を明らかにする必要がある。これ以外にも結界の要や障壁になる御札や、モノノ怪との霊的な距離を測る天秤(投扇興の的の蝶のような形をしている)等、不可思議な道具を持ち歩いている。
 形と真と理が判明して退魔の剣が抜けるようになると、褐色の肌に灰白色の長髪(映画版では赤い髪)、白目の部分が黒色で紅の瞳、全身に金の紋様(映画版では赤)を持つ姿に変わる。

モノノ怪とアヤカシ
 アヤカシとは、この世の道理とは別の世界に存在するモノの総称で、その行動原理などを人が理解することは困難だとされる。また、その成り立ちは千差万別であり、人の霊から成るモノや付喪神のように器物が古くなって魂が宿ったモノなどがある。その一方で、モノノ怪については「モノ」は荒ぶる神のこと、「怪(ケ)」は病のことを指すと説明される。すなはち人を病のように祟るものをモノノ怪と呼び、恨みや憎しみなどの人の激しい情念がアヤカシと結びつくことによってモノノ怪は発生する。そのため、モノノ怪には真(事の有様)と理(心の有様)が存在する。薬売りはアヤカシを「八百万の神と似た存在」と語る一方で、モノノ怪を「人に近過ぎる」と語っている。
 アヤカシであれば、古来の伝承にのっとった封印の呪符などが効力を発揮するが、モノノ怪を退治できるのは退魔の剣のみとなる。逆に、退魔の剣ではアヤカシを倒すことはできない。

「座敷童子」編 …… 2007年7月放送、全2話 脚本・高橋郁子
 雨の降る夜。由緒正しい豪奢な旅籠「万屋」に、身重の若い娘・志乃が一晩泊めて欲しいとやってくる。客室は満室であったが、老女将の久代は訳あって使っていない最上階の部屋に彼女を通す。件の広い部屋で一人になった志乃は、いつのまにか部屋にいた謎の童を見つける。それを発端に様々な怪奇現象が起こり、志乃を殺害するために部屋に侵入した殺し屋の直助は怪死する。そこに、モノノ怪を斬るためにやってきたと語る薬売りの男が現れ、アヤカシの正体は座敷童子であると指摘する。

「海坊主」編 …… 7~8月放送、全3話 脚本・小中千昭
 薬売りの男は、廻船問屋・三國屋多門の江戸行きの廻船に乗っていた。船には薬売りの他に、かつて化猫騒動で出会った娘・加世や、弟子を連れた高僧・源慧、怪しげな修験者・柳幻殃斉、不気味な浪人・佐々木兵衛が乗り合わせていた。夜半、何者かによって羅針盤が狂わされ、船はアヤカシの海と呼ばれる海域「竜の三角」に迷い込んでしまう。そして船幽霊や海座頭などの怪異に襲われるが、いずれも薬売りが探すモノノ怪ではない。やがて源慧は、ここをアヤカシの海に変えたものは、かつて彼の実妹・お庸が人身御供にされた虚舟(うつろぶね)ではないかと打ち明ける。

「のっぺらぼう」編 …… 8月放送、全2話 脚本・石川学
 とある藩士の家に嫁いだお蝶は、夫やその親族を皆殺しにした罪で、奉行に裁かれ死罪を申し付けられる。その牢屋に、同じく罪人として捕らえられた薬売りが現れる。薬売りは、これはアヤカシの仕業であり、あなたが本当に家族を殺したのかと問うが、そこに奉行を名乗る仮面の男が現れ、薬売りを退ける。仮面の男は、自分はアヤカシだが、お蝶に惚れたため祝言を挙げようという。お蝶は仮面の男との祝言に幸せを感じるが、再度、薬売りが現れ、真と理を見つけてモノノ怪・のっぺらぼうを斬るために彼女の人生を追体験する必要があると語る。

「鵺(ぬえ)」編 …… 8~9月放送、全2話 脚本・小中千昭
 香道・笛小路流の家元の屋敷に薬売りと3人の男たち(公家の大沢廬房、廻船問屋の半井淡澄、東侍の室町具慶)がやって来る。男たちは家元・瑠璃姫の婿候補であり、組香で雌雄を決することになっていた。もう1人の候補・実尊寺惟勢が現れない中、薬売りが代わりに参加し、源氏香で戦うことになる。勝負が終わり結果を待つ中で、隣室から実尊寺の惨殺死体が見つかり、さらに瑠璃姫まで他殺体で見つかる。場は恐慌状態に陥るが、男たちは姫を殺した下手人よりも、笛小路流が護持しているという、所持した者は天下を取ると言われる伝説の香木「欄奈待(らんなたい)」の行方に執着していた。男たちは本当の狙いであった欄奈待を手に入れるべく、今度は薬売りが香元となって竹取の香で戦うこととなるが、そこにモノノ怪・鵺(ぬえ)の鳴き声が響く。

「化猫」編 …… 9月放送、全3話 脚本・高橋郁子&横手美智子
 大正時代末期から昭和時代初期とおぼしき都会。地下鉄の開通を祝う式典が盛大に行われ、建設に尽力した市長らを乗せて電車の初乗りが行われる。ところがそこに謎の怪異が出来し、市長や刑事、運転手、記者、未亡人、少女、少年が先頭車両に閉じ込められる。市長が変死を遂げる中、モノノ怪を斬りに来たという薬売りが現れ、バラバラに見える乗客たちの共通点を探っていく。やがて、客たちは数ヶ月前に起こった女性記者・市川節子の飛び降り自殺に何らかの形で関わっていたことが判明する。市川の怨念と猫の魂が混ざったモノノ怪・化猫を斬るため、薬売りは彼女の死の真相を調べる。


映画『モノノ怪 唐傘』(2024年7月公開 89分 ツインエンジン)
 劇場版『モノノ怪』3部作の第1作にあたる。
 本作は当初2023年に公開される予定だったが、2023年3月に TVアニメシリーズ版で薬売り役を務めていた桜井孝宏の不倫騒動に起因する降板および公開時期の延期が発表され、映画版での薬売り役に神谷浩史が起用された。
 監督・中村健治、脚本・山本幸治&中村健治、音楽・岩崎琢、主題歌は『 Love Sick』(歌 アイナ・ジ・エンド)。
 第28回ファンタジア国際映画祭において、最優秀長編アニメーション賞にあたる「今敏賞」を受賞した。

『唐傘』のあらすじ
 新人女中のアサは、御右筆のお役目に憧れて江戸城大奥へ入室し、同期のカメと仲良くなる。大奥では、過去を断つために自身の大切な物を井戸に捨てるしたきり「出離の儀(しゅつりのぎ)」があったが、アサは「捨てるものはない」と答え、カメは大事な櫛を捨てた。アサは大奥での業務を優秀にこなすが、カメは仕事が不得意で先輩女中に叱られてばかりで、アサはカメの世話を担いつつも、カメとの日々を楽しく感じるのだった。しかしやがて大奥で事件が発生し、そこに現れた怪しげな薬売りは「これは、唐傘だ。」と言い放つのだった。


 ……いやぁ、どうでやんすか、この複雑怪奇なる『モノノ怪』シリーズの履歴。

 上の通り、『モノノ怪』シリーズはかなりの中断をはさんでいる、ていうか2007年の TVシリーズから24年の劇場版第1作までず~っと沈黙したままだったわけなのですが、「前身番組で人気となったお話が翌年シリーズ化して、それから15年以上たってから劇場版三部作として復活した」という、よそではなかなか聞かない異様な道程をたどったアニメシリーズになっているのです。ヘンなの!

 そして、私がこの、妙にコケティッシュな怪キャラクター・薬売りの活躍する『モノノ怪』シリーズに2000年代当初あんまりよくない印象を抱いていたのは、シリーズの出発点たる2006年放送の『怪 ayakashi』(以下『あやかし』)に理由があるのです。

 2006年当時、私はこの、若者向けの深夜アニメ枠「ノイタミナ」での放送でありながらも、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』や泉鏡花の『天守物語』を何週にもわたってアニメ化していた『あやかし』の姿勢にものすごい好感を持っていました。
 2000年代と言えば、妖怪ジャンルに関しては京極夏彦のミステリ小説「百鬼夜行シリーズ」や時代小説『巷説百物語』シリーズがブイブイ言わせていた時期でして、『あやかし』放送の前年2005年8月には実写映画『妖怪大戦争』(監督・三池崇史)も公開されヒットしていました。あの魔人・加藤保憲は私は断じて認めん!! でも、アギと川姫は良いと思います♡

 そんな感じなので、当時はそれらに追随する、妖怪や日本のオカルト文化を物語の要素に組み込んだアニメやマンガ、小説も、それこそ百鬼夜行のごとくごまんと氾濫している状況だったのですが、そんな中で『あやかし』は、安易に派生作品の乱造にはしらずに、あえてジャンルの淵源に位置する古典作品の再解釈を選んだのでした。それが、「四谷怪談」編と「天守物語」編だったわけなのです。

 まぁ、正直、どっちもそんなに印象には残らない出来だったんですけどね……ていうか、当時毎週欠かさずチェックしてはずなのに、内容をじぇんじぇん覚えてねぇ!! これが「寄る年波」というものなのか。
 え~、四谷怪談に天守物語? どんなアニメアレンジがされてたのか、きれいさっぱり記憶がない。でも、エンディングの元ちとせさんの歌だけはがっつり覚えてるんだよなぁ。あれはほんとにいい曲ですよ。
 う~ん、四谷怪談にいたっては、どう頭をひねくっても、アニメじゃなくて実写版の TVドラマシリーズ『怪談百物語』(2002年8~12放送 フジテレビ)で、あの菅野美穂サマがお岩さんを演じていたバージョンしか思い出せないよう! りょうさんの『怪談かぐや姫』も最高でした。

 まま、出来はそんな感じだったのですが、それでも私としては、そんな『あやかし』の古典重視の姿勢を非常に応援していたわけだったのです。
 そういうとこにきて、放送の途中からあんな感じの「薬売りの化け猫退治」になっちゃったでしょう? 当時、私はホントにビックラこいちゃったんですよ!
 いや、個性があるのはいい! 日本の伝統文化っぽい背景美術に、あえて和紙でできた紙芝居みたいなしわ感のある画面づくり。実にチャレンジングな方向転換に挑んできたのはすごいなと思ったんですが、テーマが「化け猫」て! しかも、「鍋島化け猫騒動」とか「有馬化け猫御殿」とかの原作もないオリジナルな物語になってるじゃありませんか。

 この『あやかし』の舵の切り方を、私は明白な「視聴率アップを優先した裏切り」と解釈してしまったのです。だから、その象徴である「薬売り」の活躍する以降の『モノノ怪』シリーズを、私は避けてしまっていたのでした。

 むろん、『あやかし』はたった1クールのシリーズだったわけですから、放送が開始されて視聴率の反応を見てから後半の「化け猫」編をオリジナルものにするなどという時間的余裕はおそらくなく、制作当初から最後のエピソードを中村健治さん主導のあの作風にすることは規定事実だったはずなので、「方向転換」だの「裏切り」だのという想像は邪推以外の何者でもないはずなのですが、ともかく、古典原作ありきの2篇から、いきなりエッジのゴリゴリにきいた「薬売り」ものに切り替わった温度差は、それこそ別のアニメ作品が始まったかのような衝撃のあるものだったのでした。
 まぁ、結果としては「化け猫」編は大好評を博して、翌年には「薬売り」ものが独立した TVシリーズになるほどの人気になったので、むしろそっちのほうが有名になったのではありますが、やっぱり放送当時、私のように当惑する視聴者も多かったのではないでしょうか。

 そういった経緯で、私の「薬売り」ものに対する、やっかみめいた悪感情(人気者になりやがって……)は生まれてしまったわけだったのですが、もう一つ、「よくわかんない行商人っぽい人が妖怪事件を解決する時代劇」という物語の形式に関しても、それそのまんま京極夏彦の『巷説百物語』シリーズやんけ!という印象が強かったことも、2007年の『モノノ怪』放送を好ましくなく思う理由に加わっていましたね。ちなみに、『巷説百物語』のほうのメディア化もたびたびされていて、実写ドラマのほか、『あやかし』をさかのぼること3年前の2003年にすでにアニメシリーズ版の『巷説百物語』も制作されてはいたのですが、こちらはどうやら関東地方では地上波放送されることはなかったようで(西日本の地方テレビ局3局などの共同制作・放送だった)、私も当時、視聴した記憶が一切ありません。主演の御行の又市役は、なんとあの中尾隆聖は~ひふ~へほ~!!

 そんなこんなだったので、2007年の TVシリーズ版も、「チャンネルを 合わせはするけど ながら見で」みたいな気の抜けようであしらっていたのでした。そして、あの作風なので、ながら見なんてしてたら秒でストーリー展開が迷子になるという、ね。

 あっ!! でもでも、私が心酔してやまない「永久名誉ぬらりひょん声優」こと青野武老師が出演されていた「鵺(ぬえ)」編だけは、ちゃんと正座して観てましたよ!? でも、あれはあれで、確かモノノ怪として出てきた「ぬえ(妖怪のぬえは「鵺」でなく「鵼」の字を当てるのが正しい!正しいの!!)」の正体が人間発祥だったという解釈が好きになれなくて、不平たらたらでした。めんどくさい妖怪好きはこれだから……私、妖怪ぬえで卒論書いた重症者なので、どうかお目こぼしを。


 ままま、そんな感じで『モノノ怪』シリーズについては、何とも言えぬ「意識はしてるけど近づかない」みたいな微妙なスタンスを取っていたわたくしだったわけでありまして、昨年に突如として降って湧いたかのように「劇場版三部作公開決定!!」として第1作『唐傘』が公開されても、

え~……なんで今さら? それで、出てくるメイン妖怪は……からかさおばけ!? 本気か!?

 という温度の低さで、まぁ、好きな方が観に行けば……という感じでスルーしてしまっていたのでした。
 いやいや、15年以上ぶりの復活&初の映画化のメイン妖怪に唐傘とは! これまた、そうとうに挑戦的なセレクトだと思います。確かに傘化けは日本の妖怪の中でもベスト10に入る超有名な大スターではあるのですが、単独でメインを張れるのかというと、ねぇ!! あ、でも傘化けって、『ゲゲゲの鬼太郎』でも実は、鬼太郎を正面対決でダウンに追い込むわ、霊毛ちゃんちゃんこを強奪するわ、砂かけ婆の妖怪アパートを焼き討ちするわの極悪非道な強豪妖怪なんですよね。中村監督、わかってますね!!


 そんなこんなで、今回は『モノノ怪』シリーズの概要についてと、めんどくさい妖怪好きの問はず語りのグチグチタイムで字数がかさんでしまいましたので、肝心カナメの『火鼠』を観た感想につきましては、また次回に改めてさせていただきたいと思います。
 あの、とにかくこんなていたらくなので、ほんとに純粋に『火鼠』単体だけの感想になります。ですので、『モノノ怪』シリーズ全体の熱烈な大ファンという方はお読みにならないでください! TV シリーズ版もほとんど覚えてないし、映画の前作『唐傘』の内容も全然知らないモノホンの一見さん、門外漢ですので、あしからず!

 いや~、でも、今回観ることができて本当に良かったです。薦めてくださった同僚さん、どうもありがとうございました! お互い、新年度も頑張っていきまっしょ~!!
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緊急ごめんなさい企画 映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は稀代の大傑作です!!

2023年11月19日 19時34分21秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
 どうも、みなさんこんばんは! そうだいでございまする。

 いや~、まいった! 今回はもう、興奮冷めやらぬうちにさっさと記事にしちゃえという内容でございます。
 あの、私、前回の記事の序盤に『ゲゲゲの鬼太郎』の映画最新作の出来が心配だとかなんとかぬかしていたのですが。

全然、杞憂もいいところ! 驚くほど高い完成度の大傑作でした!!

 これ! これを申したくて、取り急ぎ話題にあげさせていただきました。
 ほんと、すごいぞ、この作品は……


映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023年11月17日公開 105分 東映)
 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、東映アニメーション制作によるアニメーション映画。TVアニメシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期(2018~20年放送)の劇場用作品。水木しげる生誕100年記念作品。PG12指定。
 昭和三十一(1956)年の孤立した村を舞台に、製薬会社一族に起こる凄惨な連続殺人事件からゲゲゲの鬼太郎の誕生へと続く、鬼太郎の父(のちの目玉おやじ)と会社員・水木の運命を描く。
 『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の世界観を下敷きに、貸本マンガ版『墓場鬼太郎』シリーズ(1960~64年)から 『幽霊一家』、『墓場の鬼太郎』を元に描かれる新たな物語となっている。

あらすじ
 廃刊間近の雑誌の記者・山田は、廃村となった哭倉村(なぐらむら)へやって来た。山田は、村へやってきた鬼太郎、ねこ娘、目玉おやじに取材しようとつきまとうが、鬼太郎たちを見失い廃屋敷の穴の中へ落ちてしまう。
 時を遡り昭和三十一年。復興を目指す戦後日本の財政界を牛耳っていた龍賀一族の当主・時貞が死去する。東京の血液銀行に勤める水木は、龍賀一族の経営する龍賀製薬ともコネがあり、時貞の訃報を聞いた水木は、龍賀一族が暮らす哭倉村へと向かう。
 哭倉村へ到着した水木は、東京に憧れている龍賀沙代と沙代の甥にあたる長田時弥に出会う。水木が龍賀邸へ向かうと、龍賀製薬社長の龍賀克典やその妻・乙米をはじめ一族が集まる場へ招かれ、時貞の遺言書が読み上げられたのだが……

おもなスタッフ
監督 …… 古賀 豪(?歳)
脚本 …… 吉野 弘幸(53歳)
キャラクターデザイン …… 谷田部 透湖(?歳)
音楽 …… 川井 憲次(66歳)

おもな登場人物
水木 …… 木内 秀信(54歳)
鬼太郎の父(のちの目玉おやじ)…… 関 俊彦(61歳)
龍賀 沙代 …… 種﨑 敦美(?歳)
長田 時弥 …… 小林 由美子(44歳)
龍賀 乙米 …… 沢海 陽子(61歳)
龍賀 克典 …… 山路 和弘(69歳)
長田 庚子 …… 釘宮 理恵(44歳)
長田 幻治 …… 石田 彰(56歳)
龍賀 丙江 …… 皆口 裕子(57歳)
龍賀 孝三 …… 中井 和哉(55歳)
龍賀 時麿 …… 飛田 展男(64歳)
龍賀家の使用人ねずみ …… 古川 登志夫(77歳)
龍賀 時貞 …… 白鳥 哲(51歳)
ゲゲゲの鬼太郎 …… 沢城 みゆき(38歳)
目玉おやじ   …… 野沢 雅子(87歳)
猫娘      …… 庄司 宇芽香(38歳)
山田      …… 松風 雅也(47歳)


 いやもう、あたしゃ実に恥ずかしい! 前回にやたらめったらいらぬ心配ばっかりつぶやいちゃって。

 時系列順に話していきますと、まぁ先週の時点では、記事の文章の通りに「 TVアニメの放送終了から数年経っている」、「全年齢向けアニメの劇場版が PG12指定で大丈夫なのか」、「水木しげる生誕100周年記念作品という割には話題になっていないようなのだが?」といったあたりからくる不安が、勝手に私の中で渦巻いておりました。
 とはいえ、我が『長岡京エイリアン』の諸記事をご覧いただいてもおわかりの通り、「映画を観ない」という選択肢などあろうはずもない妖怪&水木しげるファンの私は、昨夜、土曜日の仕事終わりに映画館にふらっと立ち寄って、その前日17日から封切りになっている『ゲゲゲの謎』の様子を偵察しにいったわけなのです。それで何気なく物販コーナーをのぞいてみたら、どうだいあんた! こんな貼り紙が。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』のパンフレットは只今売り切れております。再入荷をお待ちください。

 ええ~!? 昨日封切りでしたよね!? 2日目でパンフ売り切れ!? なんだ、その購入率は!!
 ちょっとこの衝撃によって、自分の中で「あれ? これ、風向きが変わってきたぞ……」といいますか、俄然期待値が『欽ちゃんの仮装大賞』のランプバー状に「プッ、プッ、プププププッ!」と急上昇してきたのでありました。このたとえよ。
 まぁ、わざとパンフレットを少なめに印刷して売り切れを話題にする作戦の可能性もあるのですが、それでもコアなファンであればある程パンフを買うという経験則を鑑みるだに、今回の『ゲゲゲの謎』が、かなり猛烈に観る者の心を揺さぶる作品であろうことがほの見えてきますね。これは姿勢を正して観ねば。

 そんなわけで、内心もうちょっと時間が経ってから観ようかなどと考えていた先週の日和見気分は一瞬で吹き飛び、日曜日の本日朝イチの回で鑑賞してきたわけだったのであります。年取るとガマンがきかなくなってきていけねぇや!
 それで観てきたわけなんですが……

ラストで泣いちゃった。個人的2023年内ベスト1、2を争う大傑作!!

 いや~……ズルい! この映画、クライマックスから終映後に館内の照明がつくまでの流れが感動、感動のつるべ打ち!! 涙腺サンドバッグ状態。
 しかも、私にとって、映画の最後のエンドロールって、どんなに涙を絞る内容の映画だったとしても、その涙をひかせて表情を元に戻すクールダウンの時間だったんですよ。どんなに泣いても、照明がつく頃にはスッキリ落ち着いているようにするための。
 それが一体なんだね、この『ゲゲゲの謎』は! エンドロールの脇に流れる絵の数々もそうとう泣けるのですが、エンドロールの後にいぃ~っちばん泣けちゃう伝説的名場面がきちゃったよ!!
 やめてよ~! 大泣きしてるその瞬間に明るくするんじゃないよ!! 恥ずかしい……

 ほんと、この映画はですね、そういったクライマックスに持ちこむまでの本編のおよそ8割がた、救いが全くない最低最悪の展開のオンパレードであります。公開直後の作品なのでほんとにネタバレは避けたいのですが、まさに主人公・水木の「地獄めぐり」といった様相を呈していて、んまぁ~画的にもストーリー的にも陰惨な悲劇の連打、連打! そりゃ PG12にもなるわな、むしろそれ以上の制限にならなくて良かったなという、あの御茶漬海苔先生もかくやという惨劇描写の数々であります。だからこそ、そのはきだめの中から生まれた「鬼太郎誕生」というまばゆい奇跡や、それに命を懸けて寄り添う目玉おやじの愛に、激しく魂を揺さぶられてしまうのです。

 いったんお話は映画の内容から離れてしまいますが、あと私は、同じ回を観ていた観客のみなさんにも地味に感動してしまいました。
 なにしろ客層が若い! そして女性客が多い! これ、私はなかなか体験したことのない光景でした。私自身そうですが、たいてい一緒に見てるのは中年世代かそれ以上の年齢の男性がほとんどですから。
 これは、1960年いらい半世紀以上続いている「鬼太郎サーガ」のファンが、確実にご新規さんを取り込んで新陳代謝してるってことなんじゃないでしょうか。そして、男性よりも女性の方が人的ネットワークもお財布の中身もおおむね豊か! 活気づいてるんだなぁ。
 たぶんこれ、ご両親がアニメシリーズ第4・5期(松岡鬼太郎&高山バーロー鬼太郎)で好きになった世代で、小学生高学年らしきお子さんがたは第6期(キュアスカーレットふ~じこちゃ~ん鬼太郎)を観てたんだろうなぁ、という鬼太郎サーガならではの感慨も、熱く胸をよぎりました。ちなみに私は言うまでもなく、愛と勇気だけが友達でウッディ大尉が婚約相手の戸田パンマン鬼太郎の第3期ファン……っていうか、第1次青野ぬらりひょん信者!! おのぅれェ鬼太るぉォオ!!

 さぁ、この『ゲゲゲの謎』を観て、第6期からファンになった少年少女達の心に根ざしたものは、これからどういった大樹に育っていくのでしょうか。決して、見た目の残酷さだけに気を取られて嫌いになって欲しくはないです。幸い、私の観た回で途中退席したお客さんはいなかったように見えたのですが、正直言ってこの作品は、昨今なかなか観られなくなった直接的なグロテスク表現が結構じかに描かれており、人によってはかなりダメージの大きい鑑賞体験になってしまうような劇薬であると思います。

 ダメージというのならば、1980年代生まれの私にとりましては、中年になった今もなお忘れられない、いろいろな衝撃的映像体験がありました。記憶している限りで最古のものは1984年版『ゴジラ』の冒頭の巨大怪虫ショッキラス……というかその被害者のミイラ遺体でしたし、アニメ映画『アキラ』もそうとう怖かったし、80年代は TVの世界でも『カメラが捉えた決定的瞬間』とかでリアルな人の死がバンッバン放送されてましたから、いや~な映像がいっぱい心にグサグサ刺さっておりました。週末に家族でホテルに泊まりに行くっていうのに、そのわずか2~3日前の『木曜スペシャル』で、大規模ホテル火災の惨劇を見せられる恐ろしさと言うたら……
 でも、今回の『ゲゲゲの謎』のインパクトに衝撃の性質が最も近い過去作品は何かと思うだに、それはやっぱり、あの「旧エヴァ」こと、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air / まごころを、君に』(1997年)であるような気がします。理由は……まぁ、双方を観ていただいたら、だいたいわかるんじゃないでしょうか。えげつな~!!

 ただし『まごころを、君に』と決定的に違っているのは、『ゲゲゲの謎』には、水木同様に最後まで我慢して地獄の旅を続ければ、ゴールには「鬼太郎誕生」という輝ける希望が待っている点です。そこに至るための長い長い試練の時として、一連の醜悪な人間描写と、これでもかという悲劇の応酬があるわけなので、その負荷が重ければ重いほど、生まれる「奇跡の子」ゲゲゲの鬼太郎の異常なまでの強さと目玉おやじの愛の深さに説得力が備わってくるのです。鬼太郎の強さ……いや、同じ読み方でも「勁さ」と表現した方が当たっているかと思いますが、踏まれても蹴られても、溶かされてもかまぼこにされても、生コン詰めにされてもハゲさせられても全くへこたれない、その生命力!! そりゃそうだ、あんな目に遭っていても決して未来を諦めない父と母の間に生まれた子なんだもの。そのくらいで死ぬわけがないのです。

 ネタバレにならない一線に配慮しながら、この作品の良かった点についてくっちゃべっていきたいのですが、ポイントを絞って、今パッと思いつくところだけ触れておきましょうかい。


〇水木しげる風タッチでないのに水木しげるの画風(特に貸本時代)を心得ている導入のカメラワーク

 これは、特に冒頭から水木の龍賀邸入りまでの、哭倉村周辺の自然描写でつとに感じ入ったのですが、登場するキャラクター自体は明らかに現代アニメ的な谷田部透湖デザインなのですが、「人物と背景」の距離感や遠近関係、そして色彩設計、特に「赤」と「黒」の濃さという点で、本作は明らかに水木しげるの作風を自家薬籠中のものにしているのです。水木しげるの画風を単純にトレースしているという手段を取らなかったのは、すでにその手を使ったアニメ版『墓場鬼太郎』(2008年1~3月放送)という先例があったからだと思うのですが、あくまでアニメ第6期から派生した劇場作品であるという意味もあったのではないでしょうか。そのルールを守りつつも、なおかつ水木しげるの成分を爆上げにするためには、あの「単純な描線の人物と異常に細密な背景画の同居」を成立させている位置関係、コマを占める配分関係、そして彩色に使われたインクの濃さまでも徹底的に分析する必要があったのでしょう。手前に水木のバストショットが小さくあり、その後ろは全部濃緑色の杉の山というカットが、個人的にはいちばん印象的でしたね。
 例えて言うのならば、いくら実相寺アングルが好きだと言っていても、猿真似をするだけでは何の美しさも生まれないのです。間違いを恐れずに、その技法が使われる意味を自分達なりに解釈・咀嚼したうえで使うことが大事なのですね。


〇原典『墓場鬼太郎』の設定との整合性の取り方が、やや強引ながらも筋は通している。

 私が『ゲゲゲの謎』の前情報を見て勝手に危惧していたことの一つには、「水木しげるの創設した『墓場鬼太郎』の設定をどのくらい尊重しているのか?」というものもありました。というのも、本作はあらすじを読むだに「龍賀一族」だとか「哭倉村」だとか、そんなの原作マンガのどこにもなかったゾというオリジナル設定がモリモリに書いてあったからなのです。
 いやいや、「鬼太郎の誕生」で語られるのは廃屋に住む幽霊族の夫婦の怪談であり、片目がつぶれて鼻水を垂らしながらイヒヒと笑う不気味な女と全身包帯でぐるぐる巻きにした腐りかけの肉体を持つ大男が鬼太郎の両親のはず。そこになぜ、「カレーの王子様」程度にホラー風味を足したライトノベルにでも出てきそうなネーミングが割り込んでくるんだ? という反発があったのですが、まさか「『墓場鬼太郎』で語られるエピソードのさらに昔に、もう一つの前日譚があった!」というアクロバティック理論をブチ込んでくるとは……その上でちゃんと、『墓場鬼太郎』で水木が鬼太郎の両親と初対面のようなやり取りをしていた理由も説明されるのですから抜け目がありません。
 本作を観た後に、あらためて貸本版なりアニメ版なりの『墓場鬼太郎』や『鬼太郎夜話』を観てみると、感動もひとしおなのではないでしょうか。そりゃ鬼太郎の父も、猫の目をお土産にあげようとして必死に水木を追いかけますわ。


〇鬼太郎因縁の呪術集団とのまさかのエピソード0

 本作はあくまでも『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』という独立した作品であり、タイトルがもう『ゲゲゲの鬼太郎』の1エピソードではありませんというただし書きになっています。
 とは言えやっぱり、第6期『ゲゲゲの鬼太郎』の唯一の劇場版作品としてのサービスも欲しいというのがファンの人情でして、そういう意味でも、本編が始まってほんとに10秒やそこらの段階で鬼太郎と猫娘の身長差カップルが復活してくれるのも非常にうれしいところです。
 ただ、本作での物語のメイン舞台は昭和三十一年ということで当然ながら鬼太郎の誕生以前の物語ですので、親しみ深い鬼太郎ファミリーはむろんのこと登場せず。ただでさえキツいことこの上ない展開の中で、どうやって精神の均衡を保っていけばよいのかと悩んでいるところに、中盤の鬼太郎パパと「あの呪術集団」との超絶バトルシーンとなるわけです。
 ここの個 VS 集団のアクションの作画がもうとんでもないハイレベルなものでして、そりゃ TVシリーズの放送終了から3年の歳月がかかってもやむなしかというクオリティの、鬼太郎サーガ史上どころか日本アニメ史上に残る名勝負シーンとなっております。ほんと必見!!
 ただそれだけに飽き足らず、鬼太郎パパの戦う相手が、のちのちに鬼太郎にとっても非常に強大な敵となる「あの集団」の一流派にあたるという展開は、非常に熱いものがありました。特にアニメ第3期シリーズや、その頃連載されていた原作マンガ『新編ゲゲゲの鬼太郎』シリーズでファンになった人にはたまらない宿命の構図ですね。にくったらしいぃ~!!


〇ねずみのパートでほんとにホッとしてしまう「緊張と緩和」のギリギリ感

 昭和三十一年の哭倉村に鬼太郎ファミリーは登場しないと言いましたが、厳密にはそれは正しくなく、ただ一人、鬼太郎サーガでしょっちゅう見かける、左右にピンピンとつっ立ったヒゲが特徴のあの男が登場してきます。みんなからは「ねずみ」と言われている龍賀邸の使用人なのですが……う~ん、一体「何み男」なのだろう!? 見当もつきませんね……
 いや~それにしても、原作マンガでもいくたのアニメエピソードでも、「こいつさえちゃんとしていれば事件は起きなかったのに!」とか「クズ中のクズ! 鬼太郎はなぜこの男にいつも手ぬるい!?」などと思われていたあのキャラクターが、この『ゲゲゲの謎』では、どれだけありがた~い一服の清涼剤となっていることか……ほんと、この男の軽快で無責任な声を聴くと安心する! けっこう早めに退場してしまうのが残念ですね。
 とは言いましても、今作では鬼太郎よりもコワい鬼太郎パパの目が光っていますので、この男もそんなにあくどいことは哭倉村ではできなかったようで、よくよく観てみるとかなり有能な水木サイドの便利キャラになっているというか、アニメ版第3期の灰色ローブの富山ねずみに近い人情キャラになっているのが、原作ファンにとってはちと物足りないかも。
 それにしても、ねずみの声を演じておられる古川さん、ほんとに喜寿むかえてるんですか!? 相変わらず軽いな~、声の身のこなしが!! ほんとにもう一度だけでいいから、お元気なうちにルパン三世やってくれませんかね……


〇醜悪、醜悪、また醜悪! 『犬神家』&『八つ墓村』、そしてよもやよもやの『ぬら孫』オマージュ!?

 鬼太郎サーガファンにして横溝正史ファンという私にとりまして、この『ゲゲゲの謎』はそんなに大盤振る舞いしてもらっちゃっていいんですかと言いたくなるほどの血しぶき大サービスの雨あられでございました。龍賀一族の設定も展開も『犬神家の一族』そのまんまだし、哭倉村の閉鎖性は『八つ墓村』そのものですよね。龍賀邸の湖畔コテージも、哭倉村へ続く田園の中の田舎道も、もう幾度となく金田一耕助もの映像作品に登場してきたおなじみの風景です。もう水木しげる生誕100周年記念なんだか、横溝正史生誕120周年記念なんだかわかんなくなるくらいの成分配合率!!
 そして、本作のラスボスは何と言いましても「あいつ」なんですから、ほんとにこの作品は『犬神家の一族』の if みたいなパラレルワールド世界なんでございますよ。もしも犬神一族に名字通りの「犬神の外法」が伝わっていたら~? みたいな。これ以上は言えねぇか。
 さらに我が『長岡京エイリアン』の観点から言わせていただきますと、本作のラスボスの最低過ぎる所業は、あの非水木しげる系妖怪マンガの「惜しい!」一作、『週刊少年ジャンプ』で連載していた『ぬらりひょんの孫』(2008~12年連載)のラスボス「あべちゃん」の自己中心きわまりない論理にも一脈通じるところがあるのです。うをを、ここで鬼太郎と妖怪総大将の物語がリンク!?
 さすがに『ぬらりひょんの孫』は天下のジャンプ作品ですので、『ゲゲゲの謎』のラスボスほど下劣な手段は使っていないのですが(いちおう実在した人物でもありますし)、「自分個人のしあわせのためなら血を分けた肉親でも道具同然に扱う」という、鬼太郎パパ(目玉おやじ)ときれいな対極をなす対立構造は、まさに2作品のラスボスに共通する「醜悪さ」だと思います。
 だからといって、世の中のご老人すべてを目のかたきにするべしというのも極論なのですが……今作のラスボスのキャラクター造形は、そうとうにトンガッたものになっていますよね。こういうヤツにはなりたくないなぁ~!!
 それにしても、ネタバレになるので誰だとは言いませんが、今作のラスボスを演じた声優さんは本当に憎ったらしい超名演だったな……名前、おぼえとこ。


〇『ゴジラ -1.0』では言及されていなかった、見過ごしてはならない「戦争の醜さ」への指弾

 本作で語りつくされる「人間の醜悪さ」について、絶対に軽んじてならないのは、本作が昭和三十一年の哭倉村の連続殺人事件だけでなく、水木が回想するというかたちで同時並行的に「太平洋戦争中の体験」にもしっかり言及していることです。そして、そちらの記憶パートでクローズアップされるのは、凄惨な水木の戦争体験もさることながら、そもそも水木を戦争の最前線に追いやった理不尽きわまりない軍国主義と、「もう玉砕と報告しちゃったし全員に死んでもらおう」とか、「部下だけに特攻させておれは生き残ろう」などという、知性も品性もない上官どもへの強烈な怨嗟の思いなのです。
 これはね……ほんと、実際に体験した水木しげる先生だからこそ告発できる事実ですし、あまりに醜いために生前には鬼太郎サーガのようなご自身の子ども向けフィクションには決して出さず、『総員玉砕せよ!』(1973年)などのごくごく一部の作品に吐露したまま封印していた記憶だったと思うんです。
 しかし、その水木大先生の没後の作品である本作には、生前の禁を犯してでも、鬼太郎誕生につながるマグマのようなエネルギーのひとつとして、なんとしてもこの戦争体験を取り入れてやろうという制作スタッフの強い意志があったのだと思います。この熱さ、この勇気!!
 まず、2023年の秋の時点で「戦争を題材にしたエンタメ作品」と言えば、まず名前があがるのは『ゴジラ -1.0』かと思うのですが、この一点、「誰があの醜い戦争を引き起こしたのか」という非常に難しい問題を指弾しているというアドバンテージがある分、『ゲゲゲの謎』のほうが断然、若い人に観てもらうべき価値があると思います。もちろん『ゴジラ -1.0』なりに、あくまで主人公個人の心の成長の物語にしたかったとか、そこまで語ると「国民一丸となってゴジラを倒す!」というカタルシスがぼやけてしまうのであえて触れなかった、とかいう判断もあったのかも知れませんが、そもそも神木隆之介さん演じる敷島が、どうして零戦に乗せられて特攻に行かされたのか? 敷島たち若者を人間爆弾にしておいて自分は戦後ものうのうと生き伸びているというような最低なやつらは、わだつみ作戦の時にどこで何をしていたのか!? というところにいっさい触れていないのは、やっぱりおかしいと思います。所詮は『ゴジラ -1.0』もきれいごとというか、『ゲゲゲの謎』ほどの気概は無いと言うしかないのではないでしょうか。
 いや、なんだかんだ言っても所詮は娯楽映画なんですから、そこまで『ゴジラ -1.0』を責めることもないとは思うのですが、少なくとも『ゴジラ -1.0』だけを見て「これが戦争の悲惨さか……」と早合点するのは危険ですよね。いちばん醜い部分が描かれてないんですから。
 まずはマンガ『総員玉砕せよ!』と、映画『プライベート・ライアン』からいってみよっかぁ~!


〇関俊彦 VS 石田彰!! 鬼パワハラの仇をゲゲゲで討つ!?

 ここからは軽~い感じの話になるのですが、いや~関さんと石田さんときたら、某鬼退治マンガのアニメ化作品にて目下、因縁のパワハラ上下関係にある間柄ですよね。いや、お話の中で。
 今回、詳しくは申せませんが、そこらへんの力関係がみごとに逆転している配役になっているのが、とっても楽しいですね! 関さんはひょうひょうとしながらも愛する妻の行方を追う鬼太郎パパ。石田さんはゲスいことこの上ない哭倉村村長にして、その正体は……? という感じで、石田さんの演技から、どことなく「演じてて楽しくてしょうがない」みたいなニヤニヤ感が伝わってくるのが面白いですね。
 まぁ、天下の石田彰さまが、単なるド田舎の村長さんであるわけがないんだよなぁ……


〇皆口さん!? 釘宮さん!? そして飛田さん!? ひどい(誉め言葉です)演技のフルコースをどうぞ♡

 私、最初に申しましたように本作はパンフレットのような資料をいっさい読まず予備知識なしで鑑賞したのですが、龍賀一族のそれぞれの声を誰が演じておられるのか、山路さん以外はだぁれもわからなかったんですよ。当然、全員上手だなぁとは思っていたのですが……
 エンドロール見てひっくり返っちゃった! ええ、皆口さんがあんなビッチおばさん!? 釘宮さんがあんなメンヘラ母!? 飛田さんがあんなキ〇ガイ……あ、飛田さんはいつもか。
 ともあれ、龍賀家のキーマンともいえる次男・孝三を演じていたのが中井さんというのもまったく気がつかない程の自然な演技で、全員がアニメっぽくないというか、まるで上質な演劇の舞台を観ているようなレベルの高い競演になっていましたね。一族の中でも最重要ポジションにいる長女役の沢海さんもほんとに上手かったなぁ。水木役の木内さんもそうですが、日本声優界にはまだまだ実力のある才能がわんさといらっしゃる!
 あらためて思います。「アニメらしくない声を」という目的でほとんど声優経験のない有名人を起用するのは、「真のプロ」の声優さんの力をみくびっている全くの悪手なり。


〇川井憲次サウンドは、ゲゲゲの世界でも微動だにせず健在だった!

 いや~、川井憲次さんの音楽は、本作でも川井憲次さんだったねぇ~! 当たり前ですが。
 ふつうゲゲゲの鬼太郎の音楽と言うと、琵琶や太鼓などの和楽器を強調して楽曲に取り入れるのが定石のような気がするのですが、そんなもん川井憲次サウンドは忖度いっさいなし! もともとそういうのは『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995年)の昔からとっくに吸収してるし、今さらゲゲゲによせるなんていう姿勢はまるでなかったです。でも、そこがいい!!
 しんみりする場面も、激しいバトルシーンも、おどろおどろしい妖怪たちが跳梁跋扈する見せ場も、ぜ~んぶ川井憲次サウンドで OK! 静かなようでいてしっかり主張してくる楽曲の力強さは、やっぱり他の作曲家さんがたとは一段違ったところにいると思い知らされました。
 いつもの『ゲゲゲの鬼太郎』主題歌のメロディをアレンジした楽曲は、やっぱり正規の『ゲゲゲの鬼太郎』作品ではないのでほのか~にしか流れなかったものの、特に登場人物たちが疾走したりするシーンで流れる音楽の存在感はみごとなものでありました。思い起こせば、あの『イノセンス』(2004年)のようなエセ禅問答トンチキ映画が、それでもなんとなく最後まで観れちゃう作品になっていたのも、プロの声優陣の声の良さと黄瀬さんの美麗な作画世界、そして川井憲次サウンドがあったればこそでしたもんね。本作のサントラも買おうかな~。
 しかし、『ゴジラ -1.0』と『ゲゲゲの謎』とで、ここまで自分の中での映画音楽の評価に差が出てしまうのは、一体なぜなのだろうか……佐藤直紀さんもそうとうに良い作曲家さんであるはずなのに。それはやっぱり、佐藤さん本人の意志でないにしても、一番良いシーンを故人の遺産に100%頼り切ってしまうという志の低さが、私は嫌いなのだろうなぁ。それが多くのファンが喜ぶサービスなのだとしても、現代を生きるプロの作曲家としてそれは受け入れられることなのか? と思っちゃうんですよね。私は「それじゃ全曲伊福部さんでやれ! 降板する!!」って言ってこそのプロだと思うんですが。その点、『シン・ゴジラ』の鷺巣詩郎さんは、伊福部サウンドを使ってはいつつも放射熱戦シーンとかタバ作戦シーンとかでちゃんと印象的な楽曲を投入してましたからね。


 以上! ざっとこのような感じでございます。ヒエ~、これ PG12という条件付きとはいえ、やっぱ小学生が見ていい密度の内容じゃないよ! 脳みそパンクしちゃうって!!
 まま、そんな感じで『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、まさしく水木しげる生誕100周年記念作品にふさわしい、実に志の高い作品であります。単に陰惨な展開でグロテスクな表現が満載のキワモノ作品かと喰わず嫌いすることなかれ! たまには強烈なもんを食べておなかを壊すことも、大切な人生経験よ……

 これが大ヒットして、今度はほんとのほんとに『ゲゲゲの鬼太郎』第6期の正式劇場版作品を作る、なんてことになってくれないかなぁ~!
 そしたらもう、今度こそおぬら様の大復活よ!! 哀しみに沈むチョーさん朱の盤、待ってろよ~い!!
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