長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

なんで映画『富江』は、こんなにもひたすら「ヤな感じ」なのだろうか!?

2016年07月17日 16時36分39秒 | ホラー映画関係
 みなさま、どうもこんにちは! 今日もあっちぃですね……そうだいでございます~。

 いや~、いよいよ近づいてきましたね、庵野秀明版『ゴジラ』の公開が!!
 一体どんな作品に、どんなゴジラになるのやら……宣伝で見る限りは非常にグロテスクながらも、そのギョロっとした目が大いに1954年の初代ゴジラリスペクトな造形になっているようで、1989年の『VS ビオランテ』以降、2001年の『 GMK』ゴジラ以外はのきなみイケメンなゴジラが続いていた風潮に一石を投じているらしいという点で、私の期待値はちょっと上がっております。ゴジラはやっぱり怖くなくっちゃ!
 しかし、不安も否めないのよね……まず「庵野監督とゴジラ」っていうカップリングが不思議なんですよね。でも、『ウルトラマン』シリーズほど心酔していないかと思われる、その距離感がかえっていいのかも知れないし。
 たぶん、公開した瞬間にネタバレみたいな情報もネット上に氾濫するだろうし、今週末にでも早々と観ちゃったほうがいいだろうか。映画館に観に行くのは確実なんですが、タイミングが難しいな~! とにもかくにも、ドキドキワクワク。


 さてさて、そんでもって今回の記事は何についてかと申しますと、ゴジラシリーズに勝るとも劣らない存在感を日本サブカル界に放ってる……と、あえて私はちっちゃめの声で叫びたい、とあるホラーシリーズの記念すべき映画第1作のお話でございます。
 え? そこのあなた、シリーズ作品を1作もご覧になってないの!? ダミだな~! だまされたと思って、どれでもいいからひとつでも観てみてくださいよ。
 まぁ、作品によっては本当に騙されたって感想になっちゃうかもしんないけど……


ホラー界随一の魔性の美女!! 『富江』シリーズとは!?
 『富江(とみえ)』は、マンガ家・伊藤潤二(1963年~)によるミステリーホラーマンガシリーズ、およびそれを原作としたホラー映画・ドラマ作品である。
 ホラーマンガ雑誌『月刊ハロウィン』(朝日ソノラマ)1987年2月号から、『月刊ハロウィン』、隔月刊『ネムキ』(朝日ソノラマ)などで2000年まで不定期連載されていた(全20話)。

原作マンガのあらすじ
 川上富江は、長い黒髪、妖しげな目つき、左目の泣きぼくろが印象的な、絶世の美貌を持つ少女。性格は傲慢で身勝手、自身の美貌を鼻にかけ、言い寄る男たちを女王様気取りで下僕のようにあしらう。だが、その魔性とも言える魅力を目にした男たちは皆、魅せられてゆく。
 やがて、富江に恋する男たちは例外無く彼女に異常な殺意を抱き始める。ある者は富江を他の男に渡さず自分が独占したいため、ある者は富江の高慢な性格に挑発され、ある者は富江の存在の恐怖に駆られ、彼女を殺害する。
 しかし、富江は死なない。何度殺害されても甦る。身体をバラバラに切り刻もうものなら、その肉片ひとつひとつが再生し、それぞれ死亡前と同じ風貌と人格を備えた別々の富江となる。たとえ細胞のたった1個からでも、血液の1滴からでも甦り、富江は無数に増殖してゆく。そして、その富江たちがそれぞれ、また男たちの心を狂わせてゆく。
 これは、そんな魔の美少女・富江と、彼女に関わることによって人生を誤る男たち、そして彼らを取り巻く人々の人間模様を描いた物語である。


 いや~、富江! 富江!! ついに我が『長岡京エイリアン』でも、単独で富江さんをフィーチャーするときがやってまいりましたか。夏ですね~、ホラーですねェ~!!

 「単独で」と申しましたが、この『長岡京エイリアン』では、かつてかなり昔に「日本ホラー界の新3人娘+1」というくくりで、『リング』シリーズの山村貞子さんと『呪怨』シリーズの佐伯伽椰子さんに加えてこの川上富江さん、そして富江さんと同じくホラーマンガ出身である『エコエコアザラク』シリーズの黒井ミサさんをまじえた「怨霊グータンヌーボ」という妄想対談企画を設けておりました。頭おかしいね☆

 でも、ちょっと今回の記事をつづるにあたって久しぶりにその企画を掘り起こしてみたんですけど、もうあれ、2010年の記事だから5年以上昔の話になっちゃうのね! そうか~、情報もだいぶ古くなっちゃったなぁ。
 2010年以降、貞子姐さんは鈴木光司先生の小説で『エス』と『タイド』の2作、それとは無関係の単独映画で『貞子3D 』と『貞子3D2』の2作が新たに世に出ていますし、佐伯さんのご一家も映画『呪怨 終わりの始まり』と『呪怨 ザ・ファイナル』の2新作が繰り出されている忙しさです。またまた「ファイナル」だなんて、うそばっかり~♪
 そして特筆すべきは、私の妄想企画なんていうささやかなものでなく、正真正銘、公式のみなさまの頭がおかしくなっちゃって、ほんとのほんとに貞子姐さんと佐伯ファミリーが頂上対決をおっぱじめる奇跡のコラボレーション映画『貞子 vs 伽椰子』という超特大打ち上げ花火までもが、つい先月に炸裂してしまったこと! 夏まで待ち切れなかったか~!!

 ……とまぁ、ともかくデビューから時を経てもなお大忙しな貞子姐さん&佐伯一家なのですが、良くも悪くもこの2大巨頭は、この5年間で大きく変容してしまったことは間違いありません。
 何年かに一回は必ず新作が出るという状況は、フィクション世界のキャラクターにとっては非常に幸せな境遇だと思います。でも……その内実はどうでしょうか。

 もはや、今の日本で「貞子」の名を知らない人はそうそういないでしょう。しかし、その貞子さんは本当に、私達が約20年前に心の底から恐怖した貞子さんと同じひとなのでしょうか?

 新作映画が公開されるたびにメディアに露出してキャーキャーもてはやされる貞子、かわいい小貞子に囲まれて心なしか足取りも軽くなる貞子、プロ野球の始球式でノーバウンドストライクの強肩を見せつける貞子……

 つい先日につづった『貞子 vs 伽椰子』の感想記事でも語らせていただきましたが、2011年以降、日本のホラー映画界は確実に「駄菓子」化しているような気がします。そしてその象徴を、不本意ながらも我らがホラークイーンの彼女たちが背負ってしまっているのではないでしょうか。
 ぶっちゃけ、ホラー映画という怖くてナンボ、ビックリさせてナンボな世界において、キャラクターが有名になるということは手の内が知れてしまうということなので、恐怖度と新鮮度が下がっていくのは絶対的に止められません。そしてそれに反比例してポップなキャラクター化は加速してゆくのです。これまさに、あのゴジラ大師匠がたどってきた遥かなる道のりと同じ……
 そして、2000年代以降の海外アメリカの有名ホラー映画のリメイクラッシュのように、強烈な「シリーズのリセット」というカンフル剤を打って新規巻き返しを図るという手段を、彼女たちもいつか採るのでしょうか。それとも、その前にホラーというジャンル自体が廃れて長い眠りについてしまうのか……ジャンルにとって一番ステキなのは、彼女たちを引退に追い込むほどのニュースターがまた誕生することなのでしょうが、それはそ~と~に難しいぞ!!

 いったん、コラボ対決という飛び道具で人気を再燃させることには成功しましたが、問題はこの後ですよ! 邪道でなく、それぞれの本道で新たに何をつむぐか、ね。


 ……あれ? この記事、誰のお話だったっけ?


 あぁ~、そうそう! そういった2大巨頭がバリバリ現役でがんばってる一方で、残りの富江さんと黒井さんですよ。
 まったく、この2人ときたら……

 実はビートたけしと同い年の貞子姐さんや、子持ちの伽椰子さんが今なお第一線で働いてるというのに、若いもん元気がない!!
 2011年以降、富江さんも黒井さんも新作はそれぞれ1本ずつだけというていたらく! 黒井さんにいたっては映画でなくビデオ作品……
 こいつぁ一体どうしたことだってんだい!? このお2人も決して、キャラが弱いとは言えないはずなのですが。
 このお2人の共通点は「ホラーマンガ出身」だということです。でも、どちらも長編マンガの形式ではない短編 or ゆるい連作シリーズなので、まだ映像化されていない原作のストックだっていっぱいあるし、ネタ切れが原因ではないはずです。

 ただよくよく考えてみますと、作品によって演じる女優さんが代わったとしても、「呪いの手法」や「出現する場所」、そして何よりも「出自」がほぼ一貫して確立していた年上のお2人と違って、富江さんや黒井さんは「不死」や「黒魔術の使い手」という大筋の属性はあるにしても、ガチホラーからシュールギャグまで、いつどこでどんなテイストの話に出てきてもOK という、その「異常なまでの物語設定の自由さ」が、逆にその個性をあいまいなものにしてしまっていたのではないでしょうか。自由過ぎるっていうのも考えモノってわけよぉ。
 その証拠として、実写化された歴代の『富江』シリーズと『エコエコアザラク』シリーズをざっと観てみても、『リング』シリーズや『呪怨』シリーズよりももっと細かいスパンで設定のリセットを繰り返しています……というか、一作一作のつながりがほぼ皆無と言ってもよい状態ですよね。監督と主演が同じ『エコエコアザラク』のⅠですら、時間軸が変則的なので直接のつながりが希薄なんですから!

 そして実写版の『富江』諸作にいたっては、富江役を2度務めた女優さんが一人もいないという徹底ぶり。学級崩壊ならぬシリーズ崩壊!? でも、あの富江さんが2人以上集まるんだもん、まとまるわけがないわな。つまりこれ、同じシリーズなのに制作体制も女優さんもバラッバラという惨状こそが、伊藤潤二先生の生んだ稀代の天上天下唯我独尊アンデッド美女・富江さんのシリーズであることの何よりの証左なわけなんですね。なんとステキな逆説現象!!

 というわけでして、前置きが死ぬほど長くなってしまいましたが、今回はそういった「みんな富江で、みんないい。」地獄を現出せしめた記念すべき最初の映画作品にクローズアップしたい……と思ってたら、字数がもう5千字になっちった。


映画『富江』(1999年3月6日公開 大映 95分)
 富江の恐怖を前面には出さず、主人公である富江の旧友・月子による失われた記憶の探求が強調されている。

映画版のあらすじ
 プロのカメラマンを目指す大学生の泉沢月子は、3年前に交通事故に遭って以来、不眠と記憶障害に悩まされていた。月子は精神科医の細野辰子のもとで催眠療法を受けるが、催眠中の月子の口から「トミエ」という言葉が漏れる。そんなある日、細野のクリニックに刑事の原田が訪れる。彼は月子の元友人・川上富江に関わる謎の怪事件を追い続けていると言うのだ。
 一方、月子の住むアパートに1人の青年が引っ越して来る。彼が大事そうに抱えるビニール袋の中身は、生きている女の生首。彼が愛おしそうに育てるその首は、やがて再生を遂げて1人の美女の姿となる。彼女こそが富江だった。やがて彼女を巡る男たちが、次々に狂気に囚われてゆく……

主なキャスティング
泉沢 月子 …… 中村 麻美(20歳)
川上 富江 …… 菅野 美穂(21歳)
細野 辰子 …… 洞口 依子(34歳)
原田 省二 …… 田口 トモロヲ(41歳)
斎賀 祐一 …… 草野 康太(24歳)
吉成 佳織 …… 留美(23歳)
山本 武史 …… 水橋 研二(24歳)
店長    …… 温水 洋一(34歳)
大家    …… 鈴木 一功(46歳)
船井刑事  …… 山上 賢治(37歳)

主なスタッフ
監督・脚本 …… 及川 中(41歳)
特殊メイク …… ピエール須田(31歳)
主題歌   …… Yukari Fresh 『Raymondo』


 あのね、ほんと、この映画はすごいんですよ。
 なにがすごいって、「人気マンガの初の実写化」という責任のいっさいを放棄しているんです。前代未聞の所業! 果たしてこれは「勇気」なのか……

 具体的に言うと「実写映画第1作だったらそこはこういくっしょ!」という定石を、おもに2つのポイントできれいさっぱり捨ててしまっているのんですよね。あえてそうしてるのか、制作側の力量不足でそうなっちゃったのか……いずれにせよ、それが原因で本作は異様にいびつで薄気味の悪い、観ていてミョ~にヤな感じになるじめっとした質感の作品に仕上がってしまっているのです。ほんと、富江さんを撮影した写真みたいにグロテスク。
 元来、原作となった伊藤潤二先生のホラーマンガも、生理的な嫌悪感をもよおさせるグロテスク描写も得意な作品世界ではあるのですが、基本的に描線(特に人物の輪郭)が非常にシャープでドライだし、怖いんだけどよくよく考えると笑えてきちゃうような、隠し切れない「ハイテンションさ」が見えるからこそ、一般的な人気も得ているのではないかとも思えるので、ちょっとこの映画の「湿度&陰険度100% 」な世界って、本質的に伊藤潤二ワールドとは違うような気がするんですよね。それを言うのならば、「富江」シリーズ第2作の『富江 リプレイ』と同時上映だった映画『うずまき』(2000年)のほうが、富江シリーズよりもよっぽど伊藤潤二先生の世界観を忠実に再現していると思います。おもしろいし!

 さて、大事な実写映画第1作であるはずの本作をゆがませてしまった1つ目のポイントは、まず「原作のストレートな映像化」という前提をすぱーんと放棄しているというところです。えぇ~……それを第1作目でやるかね、しかし!?

 思い起こせばわたくし、この作品を1999年3月にわざわざ東京の映画館に観に行ったのでした。渋谷だったか銀座だったか……ともかく単館上映だったんですよ。
 んで、よせばいいのに『富江』の原作マンガを1ページも読まないで観に行っちゃったのよね。まぁ、あの『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』を、TV アニメシリーズを1秒も観ていない状態で映画館に行って観た経験のあるわたくしなものですから、いくらなんでもあれよりゃマシだろうという油断があったわけなのです。マンガの映画化なんだからそんなに難解でもないだろうし、と。

 それがあーた驚くなかれ、この映画版『富江』は、原作マンガ版の第10話のディティールを借りつつも、第1・2話と第4・5話をミックスしたエピソードの3年後の「後日譚」というお話になっていたのでした。え! 後日譚!? マンガ4~5話ぶんが必修なのか~!
 いや~、原作未読者には内容がほんとにわかんなかったよ……あまりにもわけわかんなかったので、当時住んでいた千葉に帰ったその足で本屋を探しまくって『富江』のコミックスを即買いしちゃったもんね。
 んでまぁ、読んでみたらあの映画の過去にこれこれこういうことがあって、あの人とあの人がああいうつながりだったのか、みたいなことがやっとわかったのですが……

 大ヒットしたシリーズの何作目かでだったらわかるんですが、満を持しての実写映画第1作目で後日譚だなんて、そんな変化球、ふつう投げる!? ちょっと一見さんお断りすぎじゃないでしょうか……そんなに敷居を高くしてどうする!? 高いのは富江さんの自意識だけにしてくれよォ。
 そう考えてたら、この第1作を監督した及川さん、後年になって映画第5作『富江 ビギニング』(2005年)だなんて、本作の「前日譚」を撮っちゃったりしてんのよね。
 オ~イ、遅いよ!! まずそれを最初にやってくれよォ。そして、それもまた原作マンガとは全く違う内容だという迷宮っぷりね。かきまぜんなかきまぜんな!! 小沢一郎かお前は。

 余談ですが、映像版の『富江』のうちのどれが最も原作に近いのかと言えば、私は断然、この作品と映画第2作『富江 リプレイ』(2000年)との間に関西テレビで「ひっそりと」放送された TVドラマ『富江 アナザフェイス』(1999年12月放送 全3話)を推します。富江ビギナーにはこれが一番おすすめ!
 ただ、ここがまた一筋縄でいかない所なのですが、この『アナザフェイス』も決して原作マンガを忠実に映像化したものではなく、富江を演じる永井流奈さんは、原作の富江とは似ても似つかないトランジスタグラマーでぶりっ子な魅力をムンムンにして男に迫ります。こんな舌っ足らずでむっちりしてる富江、原作のどこにもいねぇ!!
 ところがこの『アナザフェイス』は、物語の舞台設定を20世紀末のコギャル文化にアレンジしまくりながらも、「富江に狂わされる男たち」と「男どもを狂わせる悦びを糧に永遠に生き続ける富江」という構図を明確に、高い純度で作品に落とし込んでいるのです。全3話とか言ってますけど、これ全部通して見ても72分くらいしかないし、短編という原作のテンポを無理なく映像に変換していると思います。
 とてもじゃないけど制作予算が豊かとは言えなさそうだし、2代目富江にあたる永井さんの演技も好き嫌いだいぶ分かれるところがあるとは思いますが、その存在と魂において、歴代女優の中で最も原作に近いのは、間違いなく永井さんの富江でしょう。まぁ観てみてよ! あと、予算の都合か特殊メイクを用いたグロシーンがほぼ皆無なので、そういう意味でも見やすいです。

 んでまた話を映画第1作に戻しますが、その後日譚にしたって結局、本作の主人公である月子と富江がどうなったのかという結末も、クライマックスの展開がまるで整合性が無いといいますか、台本なんか存在せずその場の思いつきだけで撮った学生の自主製作映画みたいなグダグダ感になっているので、よく言えばアーティスティック、悪く言えばオチなしな締め方になっているのです。う~ん、雰囲気で逃げた、みたいな!? 車に備え付けの発煙筒が、人間一人焼殺するくらいの火力を持ってるわけないだろバカー!!
 いや、いいですよ? ああいう、憎しみ合うようでいて実は愛し合う関係だった、みたいな同性愛的なかほりも、映像で見るとなんだかいい感じになっているような気がするのですが……でもこの作品、『富江』ですからね。文字通り男を狂わせるという妖花・富江が執着する対象が、自分自身でも自分になびかない男でもなく、何の変哲もないふつうの女性だっていう解釈が、な~んかピンとこないんですよね。 それ、富江さんかなぁ?

 そうそう、この「こいつ、富江か?」という疑問こそが、本作がゆがんでいる原因となる2つ目の観点となります。
 はっきり言いまして、この実写映画第1作において、あの稀代の憑依系女優・菅野美穂陛下が演じておられる川上富江という人物は、原作マンガの富江像から全力ダッシュで逃げ去るかのような「らしくなさ」に満ちています。

 それは、魔性の美女である富江を映像化する上で、何はなくとも一番大切にするべきはずの「外見」の設定に如実に表れていて、物語のほぼ全シーンで富江が「ナチュラルにぼさっとした長髪に何の特徴もない Yシャツみたいな白ブラウス」という服装なのです。もしかしたら、当時菅野さんが短髪だったかなにかの事情で長髪のカツラをかぶってたのかも知れないのですが、もしそうだとしてももっといいカツラにしてくださいよ! 毛先がもさもさして頭がでかいみたいなシルエットになっちゃってるよ。
 いやいやいや、及川監督、原作マンガ読んでます!? あの富江がそんな恰好で外を出歩くと思いますか!? そんなの富江さんが観た瞬間、

「ダサい!! 死になさい!!」

 って言うに決まってるじゃないっすかぁ。

 わからない……この作品、目的が全然わからないのですが、富江が男を狂わせるキャラクターであるという原作の設定を最小限に縮小させているのです。演じる菅野さんのルックスがどうこうという問題以前に、原作の富江に近づけようという意志がないんですよね。

 ただ、原作レ……といいますか、世の中に「原作と全然ちがうよ!」という映像作品の失敗作はあまたあるかと思うのですが、この実写映画版『富江』は間違いなく、それらとは別次元の「異様に見ごたえのある作品」……はっきり言っちゃいますと、「観ていてものすごくヤな気持ちになる」という爪痕を残すとんでもない作品になっているのです。今思えば、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)とか『ブラック・スワン』(2010年)といった世界の「ヤな感じ映画」と肩を並べうるレベルだと思います。しかし、そこに感動はない!!

 そして、この映画のヤな感じを象徴する存在こそが、本作における富江……というか、菅野美穂さんの「異形性」なんですよね! 怖い、怖い!! 死なない富江がどうこうじゃなくて、ただただ菅野さんが怖い!! これはもう、他のシリーズ作品の富江女優の追随を許さない恐ろしさだと思います。

 日本ホラー史上に燦然と輝く「超怖い女優」としての菅野さんを堪能できる3大映画として、私は『エコエコアザラク WIZARD OF DARKNESS(1995年)と『催眠』(1999年)、そしてこの『富江』を挙げたいと思います。というか、他の幾多の映像作品でも菅野さんはいわゆる「悪女」を演じてはいると思うのですが、小細工抜きで「ほんとに怖い」初代ゴジラのようなオーラをまとい、映画全体の構成バランスをぶっ壊す勢いで恐怖の具現者となっているこれらの3作は、ちょっともう2010年代の菅野さんご本人でも再現は不可能な、それこそ入神のみわざだと思いますよ。どんな神さまが入ってたのかはわかったもんじゃありませんが……

 ともかく、そんなウラ菅野さん3部作の中でも、この『富江』はダントツに暴走度と気味の悪さが最高値を叩きだしているんじゃないでしょうか。他の2作は、作品の枠内で菅野さんの役がああなっちゃってるという理屈は残っていたかと思うのですが、もう『富江』の菅野さんは富江でも映画の登場キャラクターでもないんだもんね! ただただ、「からまれたくない怖いひと」!! 美しいも何もあったもんじゃないし、第一、映画に出てくる誰も、あんなアナコンダみたいな眼をした菅野さんを殺そうだなんて思わないよ!? 殺されるのが身上の富江さんの映画なのにそんな頂点捕食者みたいな富江がいる作品、もう『富江』じゃないよぉ。
 だからまぁ、近くにいて欲しくないという「迷惑度」に関しては、かろうじて本作の菅野さんは原作に近いと言えそうなのですが、その他の「かわいい」とか「か細い」とか「意外と抜けてるとこあり」とかいう項目の値はもう0か、レーダーチャートをぶち破って成層圏まで到達してるかのどっちかというグチャグチャ乱高下具合なので、とてもじゃないけど「実写化第1作目」に要求される「そこそこ忠実な富江」など、まるでアウト・オブ・眼中な天衣無縫っぷりになっているんですよね。ホラーマンガのはずの原作よりも怖くなってどうすんのよ……

 原作と全く違う怖さを追求した映画作品といえば、やはりなんと言ってもホラー映画界の古典ともいえる『シャイニング』(1980年公開 原作は言わずと知れたスティーヴン=キング)が筆頭に挙げられるかと思うのですが、私はほんとに誇張表現でなく、本作の菅野さんは『シャイニング』のジャック=ニコルソンに勝るとも劣らない恐怖の名演を魅せてくれて、しかもニコルソン同様に映画のバランスを独占してしまっている絶対的要素になっていると思います。
 ただ、本作『富江』において致命的な問題になっているのは「登場人物がのきなみクズばっかり」という点でして、主人公の女子大生もその友達も彼氏も、女子大生の不眠症治療を担当する精神科医も、富江の謎を追う刑事も、一人のこらずどこかしらに人間的な問題を抱えているヤな感じのやつらばっかりなのです。いや、それぞれの問題は非常にリアルで、「あ~いるいるそんな奴!」という感じの些細な問題も多いのですが、この映画はそういう人たちの「いいところ」をほっとんど描写せず、お互いをイラっとさせてしまう言動だけをひたすらクローズアップして連続させてくるので、物語世界全体が重だるくて、観ていてしんどくなるジメジメ空気に満ちているのです。
 余談ですが、登場人物たちの「周囲の人をイラっとさせるあるある」のひとつとして、主人公の女子大生が彼氏の作ってくれたパスタをすぐ食べずにカメラでパシャパシャ撮影しているのを見て、作った彼氏が「冷めんだろ、早く食べろよ!」と怒るやり取りがあるのですが、この映画の公開からはや15年以上たち、今では怒る人の方が感覚が古いという認識が一般的な世の中になってしまいましたね……常識は変わるんだねい。

 でもなんか……そういう感覚って、確かに田舎から都市部に来て一人暮らししてる大学生とかが、心身の調子がたまたま悪いときにふと陥っちゃう「あたしのまわり、何にもわかってくれないバカばっか!」みたいなダウナーな気分そのものですよね。そこらへんをもののみごとに映像化してくれてるのはすごいのですが、バイト先の友達もかかりつけの医者も、挙句の果てにゃアパートの大家さんまでもがヤな奴に見えてくる本作の倦んだ世界は、やっぱり伊藤潤二先生の世界とは全く違うものですよ。
 だって……富江が出てくるまでもなく世界が狂っちゃってるんだもの! むしろ、富江が本作の主人公をファンタジーの世界に「救ってくれる」ような役割にすら見えてしまうんだからしょうがない。

 ですので、人間のヤ~なところを老若男女関係なくピックアップする観察眼には非凡なものこそ感じるのですが、やっぱり伊藤潤二ワールドを理解しているとは言えないような気がするんだよなぁ。
 あと、単純に本作唯一の見どころと言っちゃっていい菅野さんの富江が本格始動するのが、本編開始「1時間10分後」なので、いくらなんでももったいぶりすぎなんですよ! それまで、ほんとにクソどうでもいいへにゃらへにゃらした大学生の好いた腫れたのドロドロ関係ばっかが延々と続くし……ほんと、この作品の可食部は後半1/3の約30分間のみだと思います。そこまでは見なくてもいい! 洞口依子さんや田口トモロヲさんのいい演技は他の映画でいくらでも観れます。

 ただ逆に言うのならば、後半30分間の菅野さんは、一人でも多くの地球人類に是が非でも観て頂きたい歴史的な恐怖演技を展開してくれます。それこそ、度を過ぎた熱の入れようで計算され尽くした一挙手一投足のかもし出す危険なオーラは、特殊メイクもCG も全く必要としない、俳優の肉体の可能性を最大限に引き出した名演で、戦慄しながらも感動すらしてしまう完成度と美しさをたたえています。それは、外見の美貌とかいうレベルじゃなくて、もはや数学の方程式を見るような怜悧な美しさですね。
 あの……あれよ、クライマックスの早朝の湖畔のシーンで、菅野さんのお顔がなんとなく寝起きで撮影しちゃいましたみたいなボヨ~ンとしたまぶたになってるのも、あれはおそらく胴体からニョキッと生えたての頭部を表現するための菅野さんの天才的発想のたまものなんだよ、たぶん……あがめよ! いいからあがめて!!

 菅野美穂というお人が、昨今のテレビ界にあまたいる美人女優の一人などという枠には収まるべくもない異常天才だった、ということが如実によくわかる貴重な映像資料です。「だった」……になるんだろうなぁ。今はもう、そんなイメージダウンにしかつながらない仕事、やる必要ないもんねぇ。
 ちなみに、この映画に衝撃を受けまくった1999年当時、うら若き紅顔の大学生だったわたくしめは、サークルの先輩と部室で二人きりになった時に本作の菅野さんの笑い顔を真似してしまい、本気で怖がられました。あの、目がギラギラ光ってて口角だけ限界までぐいっと上げるやつね。先輩、ほんとすんませんでした!

 それにしても見逃せないのは、菅野さんの富江がただひたすら怖いというだけでなく、二言目には「あたしは怪物だからさ、歳とらないのよ……」と自虐的につぶやいたり、本作の主人公のことを親友だと思っていたのに高校時代に裏切られた、なんてことをネチネチ糾弾したりして、「不死身」というとんでもない特性からは程遠い、やけにしみったれた発言しかしない点です。これも、「原作の富江、そんなんだった?」と不思議に思ってしまうところなのですが、菅野さんの富江は自分の特異性をひたすら、普通に歳をとって時間が流れてゆく人間社会の中から自分自身を孤立させてしまう負い目としか捉えていないフシがあるんですよね。「私は永遠に美しい!」とは一言もいわないんですよ。謙虚!
 でもそこらへんが、かわいいのに演技力もすごいと世間からもてはやされていた当時の菅野さんの心境をにおわせるようで興味深くもある部分なんですよね。時代の寵児っていうのも、大変なのよねぇ。

 いやだからほんと、本作の菅野さんの演技と怖さって、富江のキャラクターとまるで無関係なんですよ! 不死身であろうとなかろうと、ゴ〇ちゃんをいっぱいにつめたビニール袋をニコニコしながら近づけてくる女なんて怖いに決まってんだろ!! 「ホラー」って、そういう意味の怖さじゃねぇから! やっぱりこの監督、なんか履きちがえてるよ。

 でも、本作に限らず、「富江」シリーズの映像化作品って、歴代どれをとっても、どこかで原作マンガからかけ離れた「うん?」な要素があるような気がするし、実はその自由度(?)こそがこのシリーズの独自性のような気もするんですよね。
 ともかく、まずその気風の先陣を切った第1作であるということと、女優・菅野美穂の「怖さ部門」のまごうことなき頂点の記録ということから、この『富江』は知る人ぞ知る金字塔だと思います。決して傑作ではありませんが、まぁおヒマならば見てみてくだしゃんせ!

 いや~、ほんと菅野さん、当時もう充分に有名だったはずなのに、なんでこんな仕事受けたんだろ……若気いたりまくり!!

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