長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

思わず心配になるほどマジな完結篇!? ~映画『ハロウィン THE END』~

2023年04月16日 21時30分38秒 | ホラー映画関係
 みなさまどうもこんばんは! そうだいでございまする。
 いや~、やっと花粉症が落ち着いたかと思ったら、今度は黄砂ですってねぇ。天気はいいのに、なんとも外に出にくい春の日が続きますな。
 でも、そうこうしているうちにもう新年度の4月もなかば。ゴールデンウィークさえ間近になってしまいました。時が経つのはホントに早いもので……昨年の上杉まつりで、山吉孫次郎豊守隊の弓足軽として川中島合戦に従軍したのも、もう一年前なのかぁ。あっという間ですなぁ。できれば今年も合戦に参加したかったんだけど、先月いろいろと忙しすぎて応募期間を見逃してしまった……まことに残念!!

 時が経つのが早いと言えば、待ちに待った、「よく見ればめちゃくちゃ顔こわい!」でおなじみの、34代目・金田一耕助こと吉岡秀隆さんによる、令和2作目の『犬神家の一族』(通算11回目の映像化!)の放送も近づいてまいりました。楽しみですね~。まぁ、何が起きるのかはだいたいわかるんですが。我が『長岡京エイリアン』として最も気になるのは、「コースケをスキーに連れてって」な後半の雪山チェイスシーンの初映像化がおがめるか否かなのですが……まぁ、吉岡さんも50代だし、期待はしておりません。

 さてさて今回は、以前にも必ず映画館に観に行くと予告していた、伝説のホラー映画シリーズの完結篇『ハロウィン THE END』の感想記であります。『ハロウィン』シリーズのざっくりした概要と今回の最新(そして最後?)第13作の内容につきましては、もしよかったら前回の記事をご覧くださいませ。

 いや~、あの超老舗な『ハロウィン』シリーズが終わるっていうんですよ! 老舗も老舗、アメリカのホラー映画文化の中でも特に個性的な分野「スラッシャー映画」の源流のひとつともいえる、このシリーズであります。
 わたくしの個人的な感覚で言いますと、この『ハロウィン』シリーズのほぼ全作に登場する殺人鬼マイケル(ブギーマン)と、『13日の金曜日』シリーズのジェイソン、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディ、そして『悪魔のいけにえ』シリーズのレザーフェイスの4名が、「スラッシャー映画の殺人鬼四天王」になるのではないでしょうか。すごいメンツだ! 1980年代生まれの私としましては、日本のものまね四天王に匹敵するワクワク感ですね。う~ん、燃えるぅ!!
 この泣く子も黙るレジェンド四天王に関する作品情報(2023年4月時点)をざっと比較してみますと、

『悪魔のいけにえ』シリーズ …… 1974~2022年、全9作
『ハロウィン』シリーズ …… 1978~2022年、全13作
『13日の金曜日』シリーズ …… 1980~2009年、全12作(『フレディ VS ジェイソン』を含む)
『エルム街の悪夢』シリーズ …… 1984~2010年、全9作+生前のフレディを描く TVドラマ1話(同上)

 という感じになります。レザーフェイス先輩も、マイケルに負けずお元気ですねぇ! 若手のジェイソン&フレディが最近とんとご無沙汰なのが寂しいな……確か私のぼんやりとした記憶では、フレディが『世にも奇妙な物語』のタモリさんのようなストーリーテラー役を演じる TVオムニバスドラマシリーズ『フレディの悪夢』(2シーズン パイロットエピソードで生前のフレディを描く前日譚が1話だけあるらしい!)もあったかと思うのですが、それはフレディ自身のお話の TVシリーズ化というわけではないようですね。
 ちなみに、この四天王に加えて、『ハロウィン』第1作に大きな影響を与えたとされる、あのアルフレッド=ヒッチコック監督によるスリラー映画『サイコ』(1960年)のノーマン=ベイツ大師匠を加えると、スラッシャー映画の古典はだいたい抑えたていになるでしょうか。今回の『ハロウィン THE END』でも、『サイコ』のオマージュカット、ちゃんとありましたね! ほんと、マイケルさん(ていうかグリーン監督)はいちいち折り目正しいんですよ。大先輩への礼儀をわきまえている!
 ちなみに『サイコ』シリーズのほうもあげておきますと、

『サイコ』シリーズ …… 1960~2017年、映画6作+TVシリーズ5シーズン

 というあんばいになります。こっちも奥が深そうだなぁ。こちらについては、我が『長岡京エイリアン』でもそ~と~昔に触れていたのでここまでにしておきますが、当然、ロバート=ブロックによる原作小説シリーズもおさえておきたいところですね。小説のほうの『サイコ2』、おもしろいよ~!

 さて、こうしてざっと並べてはみましたが、これらスラッシャー映画の有名シリーズはおしなべて、シリーズ全作の時間軸が一貫していることなんか、全然ありません! 必ず途中で設定がリセットされたりまるっとリメイクされたりして、「第~作と第~作はつながっていない。」とか、「これまでの設定は無かったことにしてください。」といった、天地創造レベルの破壊と再生を繰り返したうえでの、この歴史なのです。
 この理不尽きわまりない感じ、日本における『ゴジラ』シリーズのリセット、リセット、なんかあったら即リセットの荒波にもまれ、「あのミニラが成長したのがこのゴジラかな?」とか、「昭和のおギドラさまと91年ギドラがもし戦ったら!?」などといった、現実世界でいっさい役に立たない妄想作業を常としてきたわたくしといたしましては、懐かしき揺りかごのようなカオスっぷりですね。それがたとえシリーズ中盤の中だるみもいいとこな低予算作品だったのだとしても、この世にオギャーと生まれてきた以上、その価値は必ずどこかにある! むしろ、そのダメさ、問題児さ加減こそが魅力となることすらあるのですからね。

 そんでま、今回の『ハロウィン THE END』に関しましては、なにはなくとも超名作な1978年の第1作『ハロウィン』の内容のみを継承して展開された、グリーン監督による第11作以降の三部作の完結編となるわけなのです。ですので、シリーズの第2~10作を観る必要はまったく無し、むしろ観ない方が混乱しなくていいという、復習&ゲオめぐりが苦手な方にも親切な設計となっております。
 かくいうわたくしも、実は『ハロウィン』シリーズについては、なんと第1作しか観ていないという門外漢だったのですが、グリーン監督の前2作の内容については、あっさりとではありますが今作の中で映像モンタージュやローリーの独白を通しておさらいされていますので、最悪、カーペンター監督の第1作さえおさえとけば充分に楽しめる作品に仕上がっていると思います。とっつきやすいなぁ~。やっぱスラッシャー映画はこうじゃなきゃ!

 今回の完結篇は、私にとってはいろんな意味で予想外な展開や演出が、けっこういっぱいありました。非常に野心的で、巧妙で、繊細な造りの作品でしたね。かなり興味深い傑作だとは思ったのですが、その内容にはちょっぴり寂しくなる部分もあり……まさに、現代における「ホラーアイコン」という存在の現状と限界をまざまざと感じさせるものでした。
 またいつもの流れですが、私が観ていて気になった点をつらつらと羅列してみることにいたしましょう。


1、完結篇で新キャラを中心にすえてくる、その大胆さ!

 グリーン監督はなかなかの策士だなと思わずうなってしまったのが、冒頭のエピソードで、それまでのマイケルとローリーの因縁の対決とまったく関係の無い、フツーの大学生コーリーの身に降りかかる不幸な死亡事故の経緯をねちっこく語るという奇策でした。『ハロウィン』関係ねぇ! いちおう、申し訳程度に登場人物の言葉の端々に忌まわしいマイケル事件のことは出てくるのですが、その恐怖の連続殺人鬼マイケルがちゃんと逮捕されていないというのに、ろくな護身術も心得ていないようなメガネ大学生に大切な一人息子と邸宅の管理を任せて、おめかししてハロウィンパーティに出かけるという冒頭の金持ち夫婦の精神構造がさっぱり理解できません。

 ここよ! この、「ハロウィンの夜にかぎって大暴れする殺人鬼がどこにいるのかわからないのに、ハロウィンの行事はしっかり楽しむ」という、何があっても、特段なんの魅力もないように見えるありふれた町ハドンフィールドから決して出ていこうとせず、自分たちの生活習慣を変えようとしない人々の矛盾だらけの生活! この異常性を許容できるかどうかが『ハロウィン』シリーズを楽しめるかどうかの分水嶺なのです。今作の中盤で、ニコニコしながら歩いているだけのローリーをつかまえて「あんたがおびき寄せたマイケルのせいで家族が半身不随になった!」とか恨み節をまくしたててたおばさんだって、だったらそんな町出ていきなさいよと言いたくなります。でも、だぁれも引っ越そうとはしないんですよね。これを「フィクション作品の設定上の限界(ハロウィンの夜に町の人がみんな武装して家に立てこもったり、相次ぐ引っ越しでゴーストタウンになったりしたら話が回らない……)」とみるのか、「案外、人間ってそのくらい鈍感なもんなのかも。」とみるのか。最初っから、この作品は大いなる問題を提起してくるわけなのです。

 話が脱線してしまいましたが、冒頭ではなんの特徴もない若者であったコーリーが、殺害容疑の濡れ衣を着せられてしまったことで、被害者家族をはじめとする、ハドンフィールドのほぼ全住民の悪意を一身に受けてしまったことにより心に黒々とした闇を抱えてしまい、今作のヒロインであるローリーの孫娘アリソンの愛に揺らぎながらも確実にマイケルに近い怪物に変貌していくという「闇堕ち」のプロセスは、今回の物語の骨子となっています。物語中盤でのマイケルとの遭遇さえなければ、コーリーは確実にアリソンと共にハドンフィールドを去り、それこそ倉本聰作品のような人間ドラマの主人公となっていたことでしょう。コーリーは吉岡秀隆なのだ!! そうか、だから吉岡さんの顔はこわいんだ。

 このあたりの、伝統ある『ハロウィン』シリーズの完結篇でありながらも、殺人鬼マイケルを物語の中心に据えないグリーン監督の大胆な舵さばきは、ともすれば観ている観客に「これ、この作品でやる意味ある?」という不安を抱かせる危険な手かと思うのですが、まずグリーン監督の演出に迷いがないことと、ローリー役のジェイミーさんの出番がかなり多いので古参ファンも納得できること、そして何よりも、コーリーを演じるキャンベルさんの演技力がびっくりするくらいに高いことによって、充分に見ごたえのある物語の牽引力を発生させていたのではないでしょうか。キャンベルさん、いいね! もっさりしたヒース=レジャーといった感じで、スラッシャー映画に出るのがもったいなく感じるほどの自然さで、堕ちていく人間の哀しみを演じきっていたと思います。まぁ、そんなこんな言っても、最終的にはああなっちゃうんですけどね!

 全然関係ないですが、「ローリー」と「コーリー」って、日本語字幕だとほんとにまぎらわしい……性別も年齢もまったく違うので間違えようがないんですが、ちょっとややこしかったです。ローリーっていうのも、日本人にとってはなんか「男性」のイメージがありますからね、関西弁の……『ムジカ・ピッコリーノ』の斎藤アリーナさん、お元気かな。


2、ちゃんと加齢しているローリーとマイケル、そのギリギリ最後の戦い!

 ここもグリーン監督三部作の大胆なところだなと感じたのですが、ローリーはおろか、肝心かなめの殺人鬼マイケルまでもが、ちゃんと1978年の『ハロウィン』を起点にして歳をとってるんですよね! これ、何気になかなかないことですよ。
 だって、マイケルって1957年の10月生まれなんでしょ? ってことは、今作の2022年時点では65歳前後ですよ。そして、ちゃんとは映りませんが、あの白いマスクをはがされたマイケルの素顔もその年相応の老いっぷりを匂わせていますし、だいいち前作『ハロウィン KILLS』で受けた重傷がもとで、4年間も地下水道に引きこもっているという情けなさを露呈してしまっています。そりゃ、若い頃みたいに寝てサッとは治りませんよね……

 そうなんですよ、これ、ネタバレになるのであんまり深くは言えないのですが、今作のマイケルは弱い、弱い! もうそのまんま地下の穴ぐらで余生を送ってお迎えさんが来ても……と思っていたところを、ほんとに無理やり復活「させられて」しまうのです。だいたい、今作で殺される人って、おおかた別の人の被害者ですもんね。半隠居の身をひっぱり出されるわ、他人の罪はひっかぶせられるわ、挙句の果てにゃコンディション最悪なのに宿敵ローリーのホームに連れてかれて超アウェー戦を設定させられて予想通りにコテンパンに惨敗し息の根を止められるという諸行無常……まぁ、これまでの悪行の数々を振り返れば、確かにハドンフィールドを恐怖のズンドコに叩き込み続けた殺人鬼マイケルにふさわしい末路ではあるのですが、こと今作に限って言えば、マイケルはまさに「サーカスで無理くり芸をさせられる瀕死のクマ」といったていで、往時の恐ろしさはどこへやら、涙を絞るみじめさしか感じられない姿をさらしているのです。

 これ、ちょっとホラー映画界の大スターであるマイケルさんのガチファンの方々が観たらグリーン監督を訴えるんじゃなかろうかと危惧してしまうほどの徹底ぶりで、『シン・仮面ライダー』の庵野監督もかすむ過酷な采配だと思うのですが、よくよく考えてみますと、別にグリーン監督は13作の歴史を持つ殺人鬼マイケルのキャラクターに完全な引導を渡すというわけではなく、あくまでも自身が設定した「第1作の設定だけを引き継いだ三部作の中のマイケルを殺す」という方針なわけなので、この作品において、ローリーと同様の時間世界の中でふつうに老いて体力が衰えていくマイケルがいるのは、まったく問題の無いことなのです。

 逆に言えば、私はロブ=ゾンビ版の第9・10作は全く観ていないのでそちらには触れませんが、第1~8作の旧シリーズにおけるマイケルには、ローリー以上に異様な体力のインフレをたぎらせて命を狙ってくる「ルーミス医師(演・ドナルド=プレザンス!!)」という、何をされても死なない『こち亀』の両さんかラーテルの擬人化のような天敵がいたために、自身もやむなくジェイソンやフレディのような不死身化に踏み切らずを得なかった、とも解釈できるわけで、そういう意味では、「ローリーはマイケルの妹」という設定も含めて旧シリーズには一貫した距離を取っているグリーン監督の三部作ではありますが、最後の最後に「マイケルをまっとうな老人に戻しておっ死んでいただく」という、実に粋な計らいを用意したことで、遠回しに旧シリーズのマイケルと、そっちのファンへの鎮魂歌としての意味も添えてくれたのではないでしょうか。いつまでも不死身の呪縛に縛られ続けずに、もう休んでいいんだよ、と……

 そういえば、ハドンフィールドの悪意の象徴ともいえる地元ラジオの DJも、放送の中で「レザレクション」って言ってましたもんね。ニクいね、グリーン監督!


3、出てくる人出てくる人、嫌なやつばっか! マイケルにとどまらないハドンフィールドの狂気

 これはもう、ひどいもんでしたね! でもまぁ、こうもしないと、後半からクライマックスにかけての登場人物ほぼ全員の殺戮ラッシュが見てられなくなっちゃいますもんね。殺される人たちが「まぁ殺されても当然かな。」と観る者を納得させてしまう所業に走ってしまうのは、爽快感を旨とするスラッシャー映画にとっては大切なお膳立てなのです!
 にしても、コーリーをいじめ抜く、大してカッコよくもかわいくもないリア充グループといい、アリソンにパワハラしまくる医者とその愛人ナースといい、町中にゴシップにまみれた低劣な悪意を際限なくまき散らす DJといい、登場人物のほぼ全員が「同じ町や職場・学校にいて欲しくない、からまれたくない」嫌な奴ばっかりなのには、現実社会の縮図を見る思いがしますね。そして、それらが絶妙に法に触れないがためにのうのうと町にはびこり続けているというあたりにも、ものすっごくイヤなリアルさがあります。
 その一方で、作品中にはコーリーの父やホーキンス保安官のような、主人公グループにあたたかいまなざしを送る「悪意なき人」もいるっちゃいるのですが、コーリーの父は、息子に異常に執着する子離れのできないコーリーの母には文句も言えず追従するだけですし、ホーキンス保安官も、ローリーへの愛情こそ間違いなく本物ですが、物語の中で独りでマイケルに立ち向かっていく彼女を宿命から救うようなことは一切せず、あらかた事が済んでからノコノコ現場に現れるという役の立たなさを露呈してしまいます。ただ、今作におけるホーキンス保安官のこの不思議な透明感は、保安官というよりはギリシア悲劇のコロスや、原作小説ほぼ無視で純然たるホラー映画になってしまった1977年映画版の『八つ墓村』において渥美清が演じた金田一耕助に近いような「神っぽい傍観者」にまで昇華してしまっているような気がします。
 なんか、「今まで何してたんだコノヤロー、早く助けに来いよ!!」とは面とむかって言えない空気があるのです……あと、日本好きみたいだし、そんなキツいことは言えないよね。


4、結局、マイケルが出てくる意味があんまりない!

 つまるところ、この作品の舞台となる2022年の時点で、ハドンフィールドにおける「悪意」はあらかたマイケルの肉体から放出されて町の住民やコーリーといった他の人々に転移してしまっています。そして当のマイケルはというと、前作で負った傷のせいで4年も再起不能状態をさまよっているという、旧シリーズのルーミス医師が聞いたら『ドラゴンボール』のベジータかアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』の青野武ぬらりひょんのように「お前を殺すのは俺だけだ! だから生きろ!!」とか言って介護に来そうな瀕死状態になっているのです。もう、おからよ、おから! かっすかす。そういえばマイケルの白いマスクも、なんか粉ふいてるみたいだったし。

 日本の妖怪伝承に「七人みさき」という怖いものがありますが、私がこの作品を観ていて強く連想したのはまさにこれで、要するに前作のクライマックスの2018年の時点で、マイケルの肉体に宿っていた「悪意」はすでにマイケルから離れており、今作で新たな別の人間に宿主を変えていたのではないでしょうか。なので、今作でヒーコラヒーコラいいながらそれらしいことをやっていたマイケルは、マイケル本人でありながらももはや往時の勢いなどあろうはずもない、「マイコーりょう」にも劣る物まね芸人レベルにまで堕してしまっていたのです。
 うむむ……それはそれで、理路整然としたひとつの「終わりの物語」として成り立ってはいるのでしょうが、なんか哀しすぎるよなぁ。私個人は、そういう展開は大好きですし、多いとは言わないながらも、このジャンルの小説や映画ではたま~に出てくるパターンではあるのですが、今回ほど徹底的に「ご本人がおとしめられる」のは、珍しいのではないでしょうか。ここで、本人じゃない完全な偽物でしたというオチだったらグリーン版マイケルの物語は延命できていたのでしょうが、そこをそうしなかったからこそ、今作は「THE END」たりえているのです。
 にしても、マイケルにとってこれほど出た甲斐の無い作品もありゃしませんよね……いくら超人とはいえ、60代半ばのローリーを相手にして、あそこまで手こずる老醜の残酷さよ。まさか、アメリカのスラッシャー映画から「もののあはれ」を感じさせられてしまうとは! ホラー映画も成熟したものであることよ。


5、ハロウィンの映画なのに、なんで春の公開なのかって? 観ればわかるさ!!

 ここも、まさかこの映画から「あはれ」の感情を惹起させられてしまうとは……とビックラこいてしまったポイントのひとつでした。
 マイケルが老いていれば、当然、それに相対するヒロインたるローリーさんも老いているわけでありまして、本作はまさに、ローリー、というか、それを演じるジェイミー=リー・カーティスさんの、「ハロウィン」シリーズにおける「THE END」を物語るものとなっていました。
 ローリーというキャラクターは、かつてロブ=ゾンビ版のリメイク二部作で別の女優さんが演じられているので、決してジェイミーさんの専売特許でもないわけなのですが、少なくとも、ジェイミーさんがローリーを演じるのは今作が最後なのかな、という雰囲気はたっぷり漂っており、そもそも今作の構成が「自叙伝を執筆しているローリーの一人称」というものになっていることからも、グリーン版三部作の最後であると同時に、ジェイミーさんのシリーズ卒業作品になっていることは明らかです。
 確かに、今どきの60代女性ですし、ましてや天下のハリウッド女優さんなんですから、あんなに老けこまなくてもいいようなものなのに、絶対にプライベート以上に老いた演技をしていたのは、間違いなく「元気なうちにきれいなピリオドを打ちたい」というジェイミーさんの女優魂を感じさせるものです。だからこそ、シリーズの看板たるマイケルがあの情けないにも程のあるていたらくだったとしても、この作品は十二分に見ごたえのあるものになっているのです。

 余談ですが、ジェイミーさんといえば、その苗字のひとつである「リー」が示す通り、あの「すべてのスラッシャー映画のいできはじめのおや」ともいえる、ヒッチコック監督の『サイコ』(1960年)において「史上初のスクリーミング・クイーン」となった女優ジャネット=リーの娘さんであります。その点をかんがみれば、この映画はローリーの最後というよりは、ジェイミーさんの最後の作品として大きな意味のあるものなのかもしれません。このシリーズにおける「ローリーとマイケル」の因縁以上に、「ジェイミーさんとアメリカンスラッシャー映画」の因縁を断つ! その気概の象徴として、今作の序盤とエピローグをサンドイッチする形式で語られた、「この騒ぎが終わったら、一緒にジャパンの桜を観に行こうよ。」という何気ない会話は、なにがなんでも必要不可欠なやり取りだったのではないでしょうか。まさにこれは、死にゆくマイケル(古き良きスラッシャー映画)と、生きてゆくローリー(ジェイミーさん)の「決別」を終局の章段なのであります。

 そう考えるとあ~ら不思議、この映画のエピローグで路上に腰掛けて語らい合うホーキンス保安官が後白河法皇、ローリーさんが建礼門院徳子に見えてきませんか? Oh,イッツ、大原ミユキ~!!


6、デートムービーに向かないスラッシャー映画って、どうよ!?

 そんなこんなでまぁ、私個人は大いに感じることの多かった『ハロウィン THE END』でありまして、いろいろあるものの、一つのシリーズのキレイな「終わりの物語」としてちゃんとオチてるなぁ~と感心したのですが、出来が綺麗すぎて、ちょっと気になったことが。

 映画館に観に来ていた若いお客さん方(特にカップル)にとっては、いまいちピンときていなかったかも……

 上映終了後、白髪の目立つ感じのナイスミドルな人達はおおむねニコニコして席を立っていたのですが、いかにも「貞子系の超怖いホラー映画を観に来ました」という感じの4~5人の高校生男子グループは、なんだか消化不良な表情を浮かべて「そんなに怖くなくてよかった~。」とか言ってたし、映画が始まる前にポップコーンを持って座りイチャイチャしていたティーンの男女カップルにいたっては、エンドロールが始まるやいなやそそくさと立ち去って行ってしまっていました……デートで映画を見に行くときの作品選びって、大切ね~!!

 う~ん、作品作りに賭けるグリーン監督の心意気やよしなのではありますが、伝統あるシリーズの締め方の美しさにこだわるあまり、このジャンルの作品としていちばん大切にしなければならないはずの「頭からっぽにしてギャーギャー言いながら楽しむわこうどたち」の満足度を、少々おざなりにしてしまった感は否めないと思います。純朴きわまりないジャパンの東北地方の子ども達でさえこの反応なのですから、東京なりアメリカなりの若者たちにとって、果たしてこの作品が「ちょっとこのシリーズの昔のやつ、ちゃんと観てみよ!」と思わせる「幸せな出逢い」となりうるものになっているのかどうか……

 ちょっとこの作品、過去の流れのダイジェスト解説も丁寧にしてはいるのですが、「ハロウィン」シリーズを知らないというか、積極的な興味のない人は観なくてもいいですよ、みたいな敷居の高さも醸し出してしまってはいます。
 そうではあるのですが、その一方で、このシリーズは結局、どこまでいっても「グリーン監督三部作」の THE ENDでしかないので、旧シリーズのファンを完全に満足させるものでもないことも確かなのです。悪く言ってしまえば、どっちつかずのアイウォンチュウなんですね。
 旧シリーズっていうか、もっと言うと「ルーミス博士ファン」ですよね。あの、どこまでもエネルギッシュにマイケルを追いかけて、他人がなんと言おうが彼にしがみついていこうとした、そしてそれが高じて自ら人間を超越してしまったルーミス博士…… MY LOVE♡
 まず、そもそもその彼が「いない」グリーン監督三部作である時点で、カーペンター監督の『ハロウィン』に魂をゾッコン奪われてしまった私にとっては、ちょっと物足りないといいますか。
 だいたい、今作のパンフレットも買って読んでみたのですが、1000円近い値段のするちゃんとした内容なのに、そのどこにもルーミス博士の「ル」の字もないもんね! 権利の問題もあるのかも知れませんが、旧シリーズの最大級の功労者であるルーミス博士って、そんな軽さでいいのかなぁという気分にはなりました。


 ……とまぁ、いろいろくっちゃべってきた本作ではあるのですが、どうせあと10年くらいしたら、何事もなかったかのような顔をして、あの無表情な白いマスクを被った若々しいマイケルがハドンフィールドに帰ってきて、グリーン監督の物語とは全く違う世界線の『ハロウィン』第14作が世に出るんでしょうけどね~。それでこその老舗シリーズだと思いますし、今回の反動として、カーペンター監督やローリーの呪縛から解放された自由闊達な作品も観てみたいような気もするのです。

 その時はぜひ、ジェイソン=ステイサムさんかドウェイン=ジョンソンさんにルーミス博士を演じてもらいたいなぁ! 元気のないこの時代だからこそ、アブラギッシュなルーミス博士サーガのご復活を~!!

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2 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobil)
2023-05-13 16:55:08
ハロウィンの新作観てないのにコメント書こうというのは蛮行でしょうが、私としてはスラッシャー四天王にプラスワン加えて欲しい方がいるので書きます。
そのお方とはバンボロおじさん。とはいっても『バンボロ』と名付けられたのは日本だけだったので世界的には名なしのおじさんです。はい『バーニング』の殺人鬼です。
全身に火傷を負っており、カオを見た売春婦が恐怖に戦くのを切り裂くのが犯行の始まり。
サマーキャンプに来てイチャイチャしようとするアタマの沸いた男女(しかもかつて火傷を負わせた張本人たち)をひたすらジョキジョキと植木バサミで切り刻む・・・私にとってのトラウマ映画でした。
その後は続編もなく忘れられた存在に。
ぜひ一度そうだいさんに取り上げて欲しい映画です。
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ポチりました!! (そうだい)
2023-05-14 21:14:40
 mobilis-in-mobil さま、私の『ヘルハウス』記事に並行してのコメント、本当にありがとうございます! あんたも好きねぇ!!

 いやぁ、ついにこの日がやってきましたか……『ヘルハウス』記事で触れたレンタルショップにも置いてなかった伝説の一作『バーニング』のレビューに着手するときが!! この好機をもたらしてくださったあなたさまには、感謝の言葉もございません。迷うことなく某熱帯雨林店にて DVDを注文いたしました。

 『バーニング』も、当然その名だけは知っている存在だったのですが、殺人鬼クロプシーの使う植木バサミの印象から、『サランドラ』(1977年)の「ジョギリ・ショック」と混同しておりました。「ジョギリ」といい「バンボロ」といい……日本にもステキな時代がありましたね!!

 「バンボロ」というと、もっぱら TVシリーズ『来来!キョンシーズ』(1988年放送)のバンボロキョンシーしか存じ上げないわたくしでしたが、改めて、元祖バンボロことクロプシーの雄姿を楽しみにして、近日中に記事にさせていただきたいと思います!

 バンボロさん、さすがに後続シリーズが無いのでスラッシャー四天王からはもれるかもしれませんが、その下の「スラッシャー八部衆」くらいには入っていいかもしれませんね。なんか、語感がカッコイイな!!
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