おこんばんは~。そうだいです。今日も1日、お疲れさまでした。
いや~、今日という今日は、私もほんとに疲れてしまいました。なんてったって、見ず知らずのおじいちゃんと口ゲンカしちゃいましたからね、真っ昼間に。
老 「バカヤロー!」
私 「バカヤローとはなんだ! あんた、年上でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
老 「おれは仕事でやってんだ!」
私 「私だって勤務中なんだよ! 営業妨害だ、警察呼びましょうや!」
老 「おう、呼べ呼べ! おれだって警察とおんなじ立場なんだぞ!」
私 「あっもしもし、警察ですか? よくわかんないおじいさんに『バカヤロー』って言われちゃってるんです、わ・た・し!」
……疲れた。細かいいきさつはカットさせていただきますが、結局、おじいさんは見る影もなくしおらしくなって、平謝りに謝りながら去っていきました。残されたのは、苦笑する私とおまわりさん。
みんな、駅のまわりによくいる「放置自転車追放」のタスキをかけたおじいさんには、なるべくやさしくしましょう! あの人達もあの人達で、日々とんでもない量のストレスをためこんでるみたいだぞ!
さて、そんな世俗の垢にまみれた話はチャッチャと忘れて、今日も今日とて、会社も試験もなんにもない妖怪の世界に飛び込むことにしましょう。
『週刊少年マガジン』版『ゲゲゲの鬼太郎』とそのアニメ化(第1期版)によって、ゲストキャラながらもついにその姿を現した猫娘。しかし、その後のヒロイン昇格への道は長く険しいものであった!
1971年。1968~69年に放送された第1期の好評にこたえ、初のカラー作品としての第2期アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』が制作されることとなったのですが、ここで大きな問題が発生してしまった!
「原作ストックの残りが少ない……」
『マガジン』で連載されていた原作第1シーズン(1970年に連載終了)の多くのエピソードは第1期アニメであらかた映像化されており、第2期アニメの放送にさきがけて『週刊少年サンデー』で原作第2シーズンが始まったものの、それでも素材がおいつかな~い!
そこで考え出されたのが、「鬼太郎の登場しない水木しげるのマンガもムリヤリ鬼太郎ものにしちゃう」というものだったのです。これだったら、制作予定の本数は確保できる。
そのこころみ自体はすでに第1期アニメ版の末期からなされていたのですが、本格的にこの手段を導入した第2期は、45話制作されたエピソードの多くが、もともとは鬼太郎が活躍しないはずのお話だったのです。
鬼太郎がいなくてもいい話に鬼太郎をむりくりのっけちゃった! その結果どうなったかといいますと……
ハイ、鬼太郎が人間に降りかかる怪現象をひたすら傍観するだけだったり、要所要所にチョチョッと出てくるだけですぐに去るなどといった、正義のヒーローというよりも『世にも奇妙な物語』のタモリに近いようなポジションになっちゃったんですね。つまり、人間側から見ると鬼太郎がいまいち信頼できない! まぁ、それだけ妖怪らしくなったといえばそうなんですが。
そしてそれに追い打ちをかけるかのように、容赦なく現代日本の西洋化・資本主義化を批判する水木原作のシニカルさ、救いのなさ! おそらく、都合5回シリーズ化されたアニメ版の中でも、最もこわいテイストなのはこの第2期版でしょう。
ところが、第2期制作の事情がもたらした結果はそれだけではなかった。ムリに入れた鬼太郎側の印象を強くするため、そして初カラー化された作品に華をもたせるためにも、レギュラーヒロインに我らが猫娘が起用されることになったのです(声・小串容子)! ぃやった!
第2期アニメ版の猫娘は、まさにヒロインでした。まずファッションがかわいい。服装は『マガジン』版原作のブラウスに吊りスカートという幼い感じからガラリと変わって、赤地に大きな黄色の水玉のついたワンピースというおしゃれさ! エリだけ白いのがいいですね。しかもこの第2期から、猫娘のトレードマークともいえるおっきなリボンが頭につくようになりました。第2期ヴァージョンはオカッパ頭にピンクのリボンといったあんばいで、リボンのすそが長くたれているのがポイント。
顔は……かわいいですよ。妖怪っぽいところは残ってるけど。二重の大きな目がちょっと眠そうに見えるのもいいなぁ。性格も、第1期で殺人のバイトをやっていたとは思えないようなやさしさ。しかもヒロインとしての必須条件、主人公への淡い恋心もさっそく炸裂させています。
妖怪との戦闘に苦戦する鬼太郎を献身的に介抱する猫娘! ポイントあがったか?と思いきや……鬼太郎はまったくそ知らぬ顔。たった1歳差とはいえ、このお姉さんの積極的なアプローチに対して、鬼太郎はまだまだ幼かった。
この第1・2期アニメの鬼太郎の声を担当した野沢雅子は、のちにあの「孫悟空」を演じた時のテンションはあえてもちいず、「はい、お父さん。」と目玉の親父に静かにしたがって戦う理性的なヒーローの姿を体現しています。
猫娘の熱い想いも、冷静な野沢鬼太郎には届かなかったというのか……それでも、第2期アニメ版でのレギュラー化によって猫娘は鬼太郎ファミリーへの加入に成功しました。ともあれ、鬼太郎の名パートナーにはなれたわけなのです。
だぁ~が、しかし! こんな順風満帆な船出をはたした猫娘に、出港直後からとんでもない大嵐が襲いかかった!! 大問題発生……それは、
「原作者に気に入られていない。」
これはキツい……でも、事実なんです。ただこれが、単純に「猫娘」という個性を水木しげるが嫌ったという話なんでもなさそうでして。
第2期アニメ版と同時に再開された『サンデー』版『ゲゲゲの鬼太郎』(第2シーズン)にも、アニメと同じレギュラーキャラとして猫娘が登場するんですが……はっきり言って、アニメ版のおしゃれな猫娘とはまるで別人!
『サンデー』版の猫娘は、すごいです……服装は、たけが全然あってない短すぎる和服(ひとえ)。名前は、「猫子(ねここ)」。顔立ちは『マガジン』版より大人びていて言動もふだんは落ち着いているんですが、ヘアスタイルがとんでもねぇんだ。
頭のてっぺん以外は髪の毛がなく(剃ってる?)、そのてっぺんの髪もムースで爆発のツンツンにするというパンキッシュなヘアスタイルなのです。トマトじゃねぇんだから……水木先生、ファッションが20年はやすぎです。そんなヒロイン、2000年代でもなかなかいませんよ!
このように異色な味わいの『サンデー』猫娘なんですが、加えて原作の中では鬼太郎とのロマンスはまったく描写されません。鬼太郎をしたっているという立場は同じなのですが、それ以上は進展せず! むしろからんでいるのは天敵・ねずみ男の方で、いっつもねずみ男に襲いかかったり、逆にその奸計にはめられて殺されかけるというヘヴィな役回り。鬼太郎に寄り添うヒマもあったもんじゃありません。
要するに、水木しげる作品のシニカルな展開には、ヒーローとヒロインの淡い恋愛を許す余地はないのです。ヒーロー鬼太郎は、徹底的におのれを殺してただひたすら理不尽な事件を解決していくだけの犠牲精神のかたまりのような存在であり、そんな鬼太郎が好きになるのは、自分がヒーローでなくなることを許してくれる母のような包容力を持った女性だけなのです。体型が小~中学生にしか見えない猫娘にははなはだツラい話なのですが、鬼太郎が心を許すのは、どうやら自分よりも大柄で成熟したマリリン=モンローのような容姿の大人の美女であることが多いんです。ホントよ!
また水木作品が手厳しいのは、この鬼太郎からの愛がことごとく成就しないというところで、鬼太郎を魅了する美女はほぼ100%悪人です。鬼太郎を抹殺するか、その幽霊族の末裔としての超能力を奪うために接近していたという美女の正体が明らかになった後、限りない喪失感を味わった鬼太郎をなぐさめてくれる者は目玉の親父のまなざしだけ。なんでしょうか、女性が嫌いなわけではないんでしょうが、水木先生はほんっとに女性の描写がドライです! 魅力的だけど。
不思議な話なんですが、『ゲゲゲの鬼太郎』のヒロインといえば猫娘!とまで最近では認識されているのに、こと水木先生ご本人が描く原作マンガの中で猫娘が活躍することはめったにないのです。
謎だ……水木先生はネコ好きとしてもつとに有名で、鬼太郎はおろか、ねずみ男までもがネコに変身してしまうという『猫町切符』(1978年『新ゲゲゲの鬼太郎』より)という名作まで生んでいるというのに。
水木しげる原作の「鬼太郎」サーガは、掲載雑誌を転々としながらも1990年代後半まで連綿と描き続けられていくのですが、『マガジン』版から数えると9作目のシリーズとなる『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』(1980年)まで、ついに猫娘がアニメのような重要な役回りをもらうことはありませんでした。
シリーズ6作目にあたる『ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代』(1978年)ではお化け高校野球部の紅一点としてレギュラー出演するのですが……まったく見せ場ナシ。高校生らしいおさげはかわいいけど。
1980年までにレギュラー出演しているのはそのくらいで、1976年のシリーズ3作目『鬼太郎のお化け旅行』にいたっては1コマも登場しません。他の砂かけ婆とか子泣き爺とかは鬼太郎といっしょに気ままな世界旅行を楽しんでいるのに!
ひどいのは1977年のシリーズ5作目『続ゲゲゲの鬼太郎』にゲスト出演した猫娘で、この時だけはなぜか、鬼太郎をメロメロにする魅力じゅうぶんなグラマー女子大生(設定はそうなんですが、見た目はほとんど熟女)として登場するのですが、またもやねずみ男の悪魔のような策略に引っ掛かってこの世から消滅してしまいます。いや、ほんとに消滅しちゃったんですよ! ねずみ男、容赦なし。おそらくこの時の猫娘は死亡したと思われますし、外見も他の作品のものとは似ても似つかないので、『続』の猫娘は前後シリーズの猫娘とはどうやら別人のようです。ただ、アルバイトをして鬼太郎をやしなうという涙ぐましい努力をした初めての猫娘が彼女であったことは忘れてはならないでしょう。合掌。
まぁこんな感じで、なんとか第2期アニメ版でかわいいヒロインになった猫娘だったのですが、原作者との思わぬ水のあわなさ、そしてたびかさなる設定・デザインの変更のために、キャラクターのはっきりしない不遇の15年間を過ごしてしまうことになってしまいました。
そんな中でも、順調に鬼太郎ファミリーとしての知名度を上げていく、同期加入の砂かけや子泣き、一反もめんたち……もうあたし、『怪物くん』に移籍しちゃおっかな……
しかし神は猫娘を見捨ててはいなかった! 1985年、ついに「猫娘完全ヒロイン化計画」ののろしを上げることとなる大転機がおとずれたのです。
きっかけはやはり、「アニメ化」でした……つっづく~!!
余談ですが、最近ついに角川文庫から、長らく幻の書とされてきていた原作シリーズ第5作『続ゲゲゲの鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎・青春時代)』と第6作『ゲゲゲの鬼太郎・スポーツ狂時代』が復刊されました。
これはすごい快挙です……みなさんもこれを機会に、悪い妖怪を退治することだけがすべてじゃない、鬼太郎ワールドの秘境をぜひともお楽しみになってみてください。
『青春時代』のエロエロ感もいいんですが、『スポーツ狂時代』のばかばかしさは神の領域です。私、お化け高校野球部と宇宙人野球部との試合のシーンなんか涙が出ちゃいました。こんな幸せな笑いにつつんでくれるマンガなんてめったにありませんよ! もうねぇ、常人には予測のつかない、妖怪同士のかけあいテンポのズレズレっぷりが異次元の領域にまで到達してるんだ!! 超絶おすすめです。
いや~、今日という今日は、私もほんとに疲れてしまいました。なんてったって、見ず知らずのおじいちゃんと口ゲンカしちゃいましたからね、真っ昼間に。
老 「バカヤロー!」
私 「バカヤローとはなんだ! あんた、年上でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
老 「おれは仕事でやってんだ!」
私 「私だって勤務中なんだよ! 営業妨害だ、警察呼びましょうや!」
老 「おう、呼べ呼べ! おれだって警察とおんなじ立場なんだぞ!」
私 「あっもしもし、警察ですか? よくわかんないおじいさんに『バカヤロー』って言われちゃってるんです、わ・た・し!」
……疲れた。細かいいきさつはカットさせていただきますが、結局、おじいさんは見る影もなくしおらしくなって、平謝りに謝りながら去っていきました。残されたのは、苦笑する私とおまわりさん。
みんな、駅のまわりによくいる「放置自転車追放」のタスキをかけたおじいさんには、なるべくやさしくしましょう! あの人達もあの人達で、日々とんでもない量のストレスをためこんでるみたいだぞ!
さて、そんな世俗の垢にまみれた話はチャッチャと忘れて、今日も今日とて、会社も試験もなんにもない妖怪の世界に飛び込むことにしましょう。
『週刊少年マガジン』版『ゲゲゲの鬼太郎』とそのアニメ化(第1期版)によって、ゲストキャラながらもついにその姿を現した猫娘。しかし、その後のヒロイン昇格への道は長く険しいものであった!
1971年。1968~69年に放送された第1期の好評にこたえ、初のカラー作品としての第2期アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』が制作されることとなったのですが、ここで大きな問題が発生してしまった!
「原作ストックの残りが少ない……」
『マガジン』で連載されていた原作第1シーズン(1970年に連載終了)の多くのエピソードは第1期アニメであらかた映像化されており、第2期アニメの放送にさきがけて『週刊少年サンデー』で原作第2シーズンが始まったものの、それでも素材がおいつかな~い!
そこで考え出されたのが、「鬼太郎の登場しない水木しげるのマンガもムリヤリ鬼太郎ものにしちゃう」というものだったのです。これだったら、制作予定の本数は確保できる。
そのこころみ自体はすでに第1期アニメ版の末期からなされていたのですが、本格的にこの手段を導入した第2期は、45話制作されたエピソードの多くが、もともとは鬼太郎が活躍しないはずのお話だったのです。
鬼太郎がいなくてもいい話に鬼太郎をむりくりのっけちゃった! その結果どうなったかといいますと……
ハイ、鬼太郎が人間に降りかかる怪現象をひたすら傍観するだけだったり、要所要所にチョチョッと出てくるだけですぐに去るなどといった、正義のヒーローというよりも『世にも奇妙な物語』のタモリに近いようなポジションになっちゃったんですね。つまり、人間側から見ると鬼太郎がいまいち信頼できない! まぁ、それだけ妖怪らしくなったといえばそうなんですが。
そしてそれに追い打ちをかけるかのように、容赦なく現代日本の西洋化・資本主義化を批判する水木原作のシニカルさ、救いのなさ! おそらく、都合5回シリーズ化されたアニメ版の中でも、最もこわいテイストなのはこの第2期版でしょう。
ところが、第2期制作の事情がもたらした結果はそれだけではなかった。ムリに入れた鬼太郎側の印象を強くするため、そして初カラー化された作品に華をもたせるためにも、レギュラーヒロインに我らが猫娘が起用されることになったのです(声・小串容子)! ぃやった!
第2期アニメ版の猫娘は、まさにヒロインでした。まずファッションがかわいい。服装は『マガジン』版原作のブラウスに吊りスカートという幼い感じからガラリと変わって、赤地に大きな黄色の水玉のついたワンピースというおしゃれさ! エリだけ白いのがいいですね。しかもこの第2期から、猫娘のトレードマークともいえるおっきなリボンが頭につくようになりました。第2期ヴァージョンはオカッパ頭にピンクのリボンといったあんばいで、リボンのすそが長くたれているのがポイント。
顔は……かわいいですよ。妖怪っぽいところは残ってるけど。二重の大きな目がちょっと眠そうに見えるのもいいなぁ。性格も、第1期で殺人のバイトをやっていたとは思えないようなやさしさ。しかもヒロインとしての必須条件、主人公への淡い恋心もさっそく炸裂させています。
妖怪との戦闘に苦戦する鬼太郎を献身的に介抱する猫娘! ポイントあがったか?と思いきや……鬼太郎はまったくそ知らぬ顔。たった1歳差とはいえ、このお姉さんの積極的なアプローチに対して、鬼太郎はまだまだ幼かった。
この第1・2期アニメの鬼太郎の声を担当した野沢雅子は、のちにあの「孫悟空」を演じた時のテンションはあえてもちいず、「はい、お父さん。」と目玉の親父に静かにしたがって戦う理性的なヒーローの姿を体現しています。
猫娘の熱い想いも、冷静な野沢鬼太郎には届かなかったというのか……それでも、第2期アニメ版でのレギュラー化によって猫娘は鬼太郎ファミリーへの加入に成功しました。ともあれ、鬼太郎の名パートナーにはなれたわけなのです。
だぁ~が、しかし! こんな順風満帆な船出をはたした猫娘に、出港直後からとんでもない大嵐が襲いかかった!! 大問題発生……それは、
「原作者に気に入られていない。」
これはキツい……でも、事実なんです。ただこれが、単純に「猫娘」という個性を水木しげるが嫌ったという話なんでもなさそうでして。
第2期アニメ版と同時に再開された『サンデー』版『ゲゲゲの鬼太郎』(第2シーズン)にも、アニメと同じレギュラーキャラとして猫娘が登場するんですが……はっきり言って、アニメ版のおしゃれな猫娘とはまるで別人!
『サンデー』版の猫娘は、すごいです……服装は、たけが全然あってない短すぎる和服(ひとえ)。名前は、「猫子(ねここ)」。顔立ちは『マガジン』版より大人びていて言動もふだんは落ち着いているんですが、ヘアスタイルがとんでもねぇんだ。
頭のてっぺん以外は髪の毛がなく(剃ってる?)、そのてっぺんの髪もムースで爆発のツンツンにするというパンキッシュなヘアスタイルなのです。トマトじゃねぇんだから……水木先生、ファッションが20年はやすぎです。そんなヒロイン、2000年代でもなかなかいませんよ!
このように異色な味わいの『サンデー』猫娘なんですが、加えて原作の中では鬼太郎とのロマンスはまったく描写されません。鬼太郎をしたっているという立場は同じなのですが、それ以上は進展せず! むしろからんでいるのは天敵・ねずみ男の方で、いっつもねずみ男に襲いかかったり、逆にその奸計にはめられて殺されかけるというヘヴィな役回り。鬼太郎に寄り添うヒマもあったもんじゃありません。
要するに、水木しげる作品のシニカルな展開には、ヒーローとヒロインの淡い恋愛を許す余地はないのです。ヒーロー鬼太郎は、徹底的におのれを殺してただひたすら理不尽な事件を解決していくだけの犠牲精神のかたまりのような存在であり、そんな鬼太郎が好きになるのは、自分がヒーローでなくなることを許してくれる母のような包容力を持った女性だけなのです。体型が小~中学生にしか見えない猫娘にははなはだツラい話なのですが、鬼太郎が心を許すのは、どうやら自分よりも大柄で成熟したマリリン=モンローのような容姿の大人の美女であることが多いんです。ホントよ!
また水木作品が手厳しいのは、この鬼太郎からの愛がことごとく成就しないというところで、鬼太郎を魅了する美女はほぼ100%悪人です。鬼太郎を抹殺するか、その幽霊族の末裔としての超能力を奪うために接近していたという美女の正体が明らかになった後、限りない喪失感を味わった鬼太郎をなぐさめてくれる者は目玉の親父のまなざしだけ。なんでしょうか、女性が嫌いなわけではないんでしょうが、水木先生はほんっとに女性の描写がドライです! 魅力的だけど。
不思議な話なんですが、『ゲゲゲの鬼太郎』のヒロインといえば猫娘!とまで最近では認識されているのに、こと水木先生ご本人が描く原作マンガの中で猫娘が活躍することはめったにないのです。
謎だ……水木先生はネコ好きとしてもつとに有名で、鬼太郎はおろか、ねずみ男までもがネコに変身してしまうという『猫町切符』(1978年『新ゲゲゲの鬼太郎』より)という名作まで生んでいるというのに。
水木しげる原作の「鬼太郎」サーガは、掲載雑誌を転々としながらも1990年代後半まで連綿と描き続けられていくのですが、『マガジン』版から数えると9作目のシリーズとなる『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』(1980年)まで、ついに猫娘がアニメのような重要な役回りをもらうことはありませんでした。
シリーズ6作目にあたる『ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代』(1978年)ではお化け高校野球部の紅一点としてレギュラー出演するのですが……まったく見せ場ナシ。高校生らしいおさげはかわいいけど。
1980年までにレギュラー出演しているのはそのくらいで、1976年のシリーズ3作目『鬼太郎のお化け旅行』にいたっては1コマも登場しません。他の砂かけ婆とか子泣き爺とかは鬼太郎といっしょに気ままな世界旅行を楽しんでいるのに!
ひどいのは1977年のシリーズ5作目『続ゲゲゲの鬼太郎』にゲスト出演した猫娘で、この時だけはなぜか、鬼太郎をメロメロにする魅力じゅうぶんなグラマー女子大生(設定はそうなんですが、見た目はほとんど熟女)として登場するのですが、またもやねずみ男の悪魔のような策略に引っ掛かってこの世から消滅してしまいます。いや、ほんとに消滅しちゃったんですよ! ねずみ男、容赦なし。おそらくこの時の猫娘は死亡したと思われますし、外見も他の作品のものとは似ても似つかないので、『続』の猫娘は前後シリーズの猫娘とはどうやら別人のようです。ただ、アルバイトをして鬼太郎をやしなうという涙ぐましい努力をした初めての猫娘が彼女であったことは忘れてはならないでしょう。合掌。
まぁこんな感じで、なんとか第2期アニメ版でかわいいヒロインになった猫娘だったのですが、原作者との思わぬ水のあわなさ、そしてたびかさなる設定・デザインの変更のために、キャラクターのはっきりしない不遇の15年間を過ごしてしまうことになってしまいました。
そんな中でも、順調に鬼太郎ファミリーとしての知名度を上げていく、同期加入の砂かけや子泣き、一反もめんたち……もうあたし、『怪物くん』に移籍しちゃおっかな……
しかし神は猫娘を見捨ててはいなかった! 1985年、ついに「猫娘完全ヒロイン化計画」ののろしを上げることとなる大転機がおとずれたのです。
きっかけはやはり、「アニメ化」でした……つっづく~!!
余談ですが、最近ついに角川文庫から、長らく幻の書とされてきていた原作シリーズ第5作『続ゲゲゲの鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎・青春時代)』と第6作『ゲゲゲの鬼太郎・スポーツ狂時代』が復刊されました。
これはすごい快挙です……みなさんもこれを機会に、悪い妖怪を退治することだけがすべてじゃない、鬼太郎ワールドの秘境をぜひともお楽しみになってみてください。
『青春時代』のエロエロ感もいいんですが、『スポーツ狂時代』のばかばかしさは神の領域です。私、お化け高校野球部と宇宙人野球部との試合のシーンなんか涙が出ちゃいました。こんな幸せな笑いにつつんでくれるマンガなんてめったにありませんよ! もうねぇ、常人には予測のつかない、妖怪同士のかけあいテンポのズレズレっぷりが異次元の領域にまで到達してるんだ!! 超絶おすすめです。