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日記に…なるかしらん

あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『帝都物語』3 『大震災篇』&『龍動篇』

2025年02月11日 21時19分50秒 | すきな小説
≪前回の第1・2巻は、こちら!

『帝都物語3 大震災(カタストロフィ)篇』(1986年1月)&『帝都物語4 龍動篇』(1986年2月)
 角川書店カドカワノベルズから書き下ろし刊行された。

あらすじ
 大正十二(1923)年9月1日。
 平将門の怨霊を呼び覚まし、帝都東京の崩壊をたくらむ魔人・加藤保憲は妖術を操り、関東地方に大地震を引き起こした。だが将門の怨霊は完全には覚醒せず、震災後、後藤新平の放射状都市計画と渋沢栄一らによる地下都市計画を元にした壮大な帝都復興計画が開始される。
 しかし、加藤は天体を利用して、帝都の完全崩壊を画策していた! 将門の末裔である巫女・目方恵子はこの危機を察知し、風水師・黒田茂丸と共に、加藤の野望を阻止せんと立ち上がる。


おもな登場人物
加藤 保憲(かとう やすのり)
 帝都東京の滅亡を画策して暗躍する魔人。大日本帝国陸軍中尉。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
 長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、いかなる時代においても老いの感じられない20~30歳代の外見をしている。眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。秘術「屍解仙」を用いて転生したこともある。鳥型、犬型の「式神」や鬼型の「十二神将」など、さまざまな形態の鬼神を使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。中国語や朝鮮語にも通じる。

辰宮 洋一郎(たつみや よういちろう)
 大蔵省官吏。帝都東京の改造計画に加わり、明治時代末期から大正時代にかけての歴史の奔流を目撃する。1881年か82年生まれ。大東京復興院事務官。

辰宮 由佳理(たつみや ゆかり)
 洋一郎の妹。平将門の依代となる程に強力な霊能力者であり、加藤や北一輝に狙われる。1888年か89年生まれ。
 強度のヒステリー症状ないしは霊能体質を有するために、奇怪な事件に巻き込まれる。精神を病んで森田正馬医師の治療を受ける。

辰宮 雪子(たつみや ゆきこ)
 由佳里の娘。母から強い霊能力を受け継ぎ、そのために魔人・加藤の次なる陰謀の的となる。1915年8月生まれ。

目方 恵子(めかた けいこ)
 旧・磐城国の相馬中村藩の地に社を護り、平将門を祖先として祀る俤(おもかげ)神社の宮司の娘。1927年の時点で32歳(1894年か95年生まれ)。

鳴滝 純一(なるたき じゅんいち)
 東京帝国大学理学士。洋一郎の旧友。1881年か82年生まれ。怪事に巻き込まれた辰宮由佳理を助けようとするが、妹の変事に無関心な兄・洋一郎と対立する。

渋沢 栄一(しぶさわ えいいち 1840~1931年)
 明治時代の日本を代表する実業家で、第一国立銀行初代頭取を務めるなど金融体制の設立にも尽力した自由競争経済設立の指導者。子爵。
 帝都東京を物理的、霊的に防衛された新都市にしようと秘密会議を開く。

後藤 新平(1857~1929年)
 内務大臣、前東京市長、子爵。関東大震災後に大東京復興院総裁として手腕を発揮する。

泉 鏡花(1873~1939年)
 小説家。明治・大正・昭和の三代にわたり唯美的文学世界を形成し「異才」と謳われた。「神楽坂七不思議」の一人として目方恵子を支える。

早川 徳次(はやかわ のりつぐ 1881~1942年)
 山梨県出身の実業家。大阪~和歌山間の高野山登山鉄道を再建し、イギリスに倣い東洋初の地下高速鉄道敷設の情熱に燃える。

西村 真琴(1883~1956年)
 北海道帝国大学生物学教授で人造人間の発明・研究家。帝都東京の地下鉄工事にロボットの活用を提案する。「学天則」という東洋哲理を信奉する奇人。

今 和次郎(1888~1973年)
 青森県弘前市出身の民俗学者。考現学(モデルノロジオ)に基づいて帝都東京の人々の動向調査を行い、寺田や早川らに刺激を与える。「銀座三奇人」の一人。

クラウス
 キリスト教プロテスタント派の慈善団体・救世軍に籍を置き、東京府荏原郡松沢村(現在の世田谷区西北部)で精神病患者の治療にあたる、ドイツ人の伝道医師。辰宮由佳理・雪子母娘の治療に携わる。

黒田 茂丸
 二宮尊徳を祖と仰ぐ結社「報徳社」の一員。「尊徳仕法」という経済論を提唱し、地相占術を心得、龍脈を探る力を持つ「風水師」と呼ばれる。

天野 順吉
 三鷹天文台に勤務する天文学者。北斗七星の形が歪んで見える異常現象を寺田寅彦に報告する。

平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
 平安時代の関東地方最大の英雄。京の中央集権主義に刃向かい関東を独立国家化したため討伐されたが、その没後もなお千年間、大手町の首塚の下で関東と帝都東京を鎮護し続ける大怨霊。『帝都物語』シリーズ全体の根幹をなす最重要人物。


おもな魔術解説
風水
 古代中国の地相占術。宋帝国時代(960~1279年)にほぼ体系化され、朝鮮、台湾、ベトナム、日本などにも広まり、日本では「家相学」や「墓相学」といわれた。その名の通りに、自然の生命エネルギーの流路である「地脈」あるいは「龍脈」を、風と水の流れや山川の地形から発見し、建築物や墓などの形をそれに調和させ、さらに地磁気や方位を魔術的に加えたもので、自然の力を最大限に活かして生者と死者とが平和に住み分けられる都市を創造する総合土木技術。21世紀現在も、生態学(エコロジー)の観点から脚光を浴び続けている。

狐狗狸(こっくり)
 一般に「こっくりさん」と呼ばれ、明治二十年代(1887~96年)に日本に流入した西洋の心霊術「テーブルターニング」に起源を持つといわれる。日露戦争(1904~05年)をはじめとして、世情が不安に陥るたびに流行したが、こっくりさんのように入神状態になり霊の導きを得る儀式は、同種のものが中国や日本にもすでに存在しており、それがテーブルターニングに習合したものともいえる。

龍脈(りゅうみゃく)
 風水で使用される用語。大地の生命力を龍にたとえたもの。弧を描く場合が多く、東洋の景観美の原点となっている。この龍脈の流れを妨げたり方向を変えたりすると、その土地は衰退するといわれた。清帝国時代末期に欧米列強が中国大陸に進出し、直線的な鉄道や幹線道路を敷設する土木工事を行った際、地元民は龍脈が断たれると激しく抵抗したという。

観音力(かんのんりき)
 小説家の泉鏡花が好んで用いた言葉。荒々しい鬼神の男性的な魔力に対して、魔を祓い人々を救済する慈悲深い女性的な魔力を称したもの。

護法童子(ごほうどうじ)
 単に「護法」ともいう。「式神」が陰陽師に使役される魔物であるのに対し、仏教の密教系の高僧や山伏・修験者系統の道士に使役される神霊。通常は童子の姿をしているが、超自然的な力を発揮する怪物の姿で現れることも多いとされる。

十二神将(じゅうにしんしょう)
 日本史上最大の陰陽師・安倍晴明(921~1005年)が使役していた式神たちのこと。晴明の妻が彼らを気味悪がったため、晴明が自身の邸宅に近い京・一条堀川の「戻橋」の下に置いて必要時に召喚していたという説話は、『源平盛衰記』などでも有名である。
 作中の加藤保憲も、使役する式神たちを「十二神将」と呼び、東京の市ヶ谷大橋の下に潜伏させている。加藤の十二神将は身長1m 弱のオレンジ色の小鬼の姿をしており、爪や牙などによる攻撃力が高いが流水には入ることができない。加藤は十二神将の他にも、巨大な黒い犬の姿をした魔物を使役している。

孔雀明王経(くじゃくみょうおうきょう)
 害悪を流す毒蛇さえも喰らう聖鳥・孔雀の仏神「孔雀明王」に関わる聖典。この経を念じて孔雀明王の法力を召喚する修法を「孔雀経法」という。日本史上に名高い修験密教系の魔術師である役小角(634~701年)や弘法大師空海(774~835年)らが、雨乞い・厄除け・護国のためにこの孔雀経法を行った。尋常を超えた大願の成就をねがう時は、この呪法が最大の効果を発揮するといわれる。

花会(チーハ)
 元来は19世紀半ばから中国大陸で流行した賭博ゲームで、麻雀の成立にも影響を与えたといわれる。ルールは単純で、三十六種の札から親が抜き出す一枚を事前に予想して金銭を賭けるものだったが、そのためにどの札が引かれるのかを予知する呪術もまた広く流行した。これが転じて、トランプ占いのようなものとなった。花会は、明治・大正時代の日本でも賭博として大流行した。

百魔を祓う燈明
 百の魔を祓う呪符が書きつけられた中国製のランタン。中国では、文字の呪力を重視し、紙に漢字を書いた霊符を焼いて灰にして服用したり、柱に貼りつけたりして使用していた。

永遠の満月の方程式
 フランスの数学者ジョゼフ・ルイ=ラグランジュ(1736~1813年)が作成した方程式。18~19世紀の西洋科学は神秘主義に強く接近していた。
 ラグランジュは、月のような衛星や微小惑星が永遠に停止しているように見える地点を求めるための五次方程式と、正三角形解と直線解の「ラグランジュの特殊解」を発見した。それによると、太陽・地球・月が一直線に並び、地球と月との距離が太陽と地球との距離(約1億496万km)の1/100(約149万6千km)になった時に、月の動きが永遠にとまってしまうという試算が導き出せる。しかしそのためには、月が現在の地球との距離(約38万4千km)の約4倍離れなければならない。

フラウンホーファー線の曇り
 イギリスの小説家アーサー=コナン・ドイルの有名な SF小説『 The Poison Belt(毒ガス帯)』(1913年発表)に登場する、地球破滅の予兆現象。フラウンホーファー線とは、太陽光を分光器にかけた際に連続スペクトルの中に現れる黒い線のことで、太陽光が地球の大気中の気体などに吸収されて発生する。したがって、地球付近に巨大彗星や星雲が接近すると、吸収の度合いが変化してフラウンホーファー線に曇りなどの変異が生じることとなる。


映画化・アニメ化・マンガ化作品
映画『帝都物語』(1988年1月公開 135分 エクゼ)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』の映画化作品。日本初の本格的ハイビジョン VFX映画。加藤保憲の役に、当時小劇場俳優で庭師として生計を立てていた嶋田久作が抜擢された。登場する人造ロボット「学天則」の開発者・西村真琴の役を、真琴の実子の西村晃が演じている。 監督・実相寺昭雄、脚本・林海象、製作総指揮・一瀬隆重、特殊美術・池谷仙克、画コンテ・樋口真嗣、特殊メイク・原口智生、コンセプチュアル・デザインH=R=ギーガー。音楽・石井眞木。製作費10億円、配給収入10億5千万円。

OVAアニメ版『帝都物語』(1991年リリース 全4巻 マッドハウス)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』のアニメ化作品。加藤保憲の声は実写版と同じく嶋田久作が担当した。脚本・遠藤明範、キャラクターデザイン・摩砂雪、シリーズ監督・りんたろう。作画スタッフには鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏、庵野秀明らが参加していた。

コミカライズ版
川口敬『帝都物語』(1987~88年 小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて連載)
 映画『帝都物語』公開に合わせての連載で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。未単行本化。
藤原カムイ『帝都物語 Babylon Tokyo 』(1988年 角川書店)
 映画『帝都物語』公開に合わせての刊行で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。


 ……というわけでありまして、『帝都物語』序盤のヤマ場となる「魔人・加藤 VS スーパー巫女・目方恵子」の激突でございます! きたきた~。

 この『龍動篇』は、まんま映画版やアニメ版の『帝都物語』のクライマックスともなっておりますので、おそらくいちばん多くの人に知られている『帝都物語』のイメージが、ここまでの流れになるのではないでしょうか。その後はもちろん映画第2作の『帝都大戦』が続くわけなのですが、メディアミックスの規模で言えばやっぱりこの第1作を超えることはなかったでしょう。

 思えば、この『帝都物語』の超先輩ともいえる日本幻想文学の最高峰『南総里見八犬伝』だって、だいたい世間一般に知られているのは前半の八犬士が集合するくだりくらいまでですし、やっぱり長い物語の最後まで有名ってわけにはいかないんでしょう。現代でも『ワンピース』とか、そうなんじゃないでしょうか。犬江親兵衛が京の都にいくあたりが一番好きって人、そんなにはいないよね……『忠臣蔵』はその稀有な例外なのでしょうが、あれはあれで中盤がキビシイし。

 それはともかく、この『龍動篇』にいたるまでの約20年間の流れは辰宮兄妹や目方恵子と加藤の因縁をめぐる物語の構造が非常に引き締まっており、確かに映画のようなひとまとまりにするにはもってこいなブロックになっています。関東大震災を超えてさらにスケールアップした加藤の「月をぶっ飛ばして北斗七星をいじめて帝都壊滅」大作戦も、ちょっと何言ってるのかわからないけどすばらしいですね。おお! ことばの意味はわからんが、とにかくすごい自信だ!!

 インターリュード的な番外篇も含めて12巻ある『帝都物語』ではあるのですが、早くもこの第4巻の段階で、加藤の魔術のレベルが地球を軽く超えちゃってるというギアの上げ方が頭おかしすぎていいですよね。これから一体、残り8巻分もどう盛り上げていくつもりなのかな……!?

 ただまぁ、これは『帝都物語』唯一無二の味でもあるので一概に批判するわけにもいかないのですが、加藤の野望を阻止するための正義側のやり方が非常に現代的な価値観を超越したものになっていまして、辰宮兄妹は妹の体内に加藤の呪念が侵入することを防ぐために兄貴があんなことをしでかしちゃうし、目方恵子も「観音力」という独特の攻め方で加藤の怨念を鎮める(?)決死の策に打って出るので、当時から、こういった終盤の展開に不満をおぼえる方も多かったのではないでしょうか。ちょっとね、女性陣と幸田露伴先生が苦労しすぎなんですよ、ここまで!

 そらまぁ、ヤマトタケルのために荒波に身投げして窮地を救うオトタチバナとか、柳田国男先生の『妹の力』を例に挙げるまでもなく、日本で昔っからある難局打開・怨霊調伏の最終手段はヒロインの自己犠牲であるわけなのですが、これを、よりにもよってマッチョなヒーロー大活躍な西洋ファンタジー隆盛はなはだしい1980年代に復活させてみせたことこそが、小説『帝都物語』の意義なのではないでしょうか。

 でも……それが映画になった時に大方の観衆に支持されのかと言うと……まだ早すぎたんじゃないっすかね。さすがにそこらへんに危機感をおぼえたのか、映画版では護法童子のデザインをギーガーさんにお願いして、なんか未来的でメカメカしいクリーチャー(のちの機怪につながる? 韮沢さーん!!)にして無理矢理に盛り上げていましたが、やっぱり付け焼刃感はいなめず……21世紀の今から観ると、ふつうにルンバみたいでかわいいし。

 あと、前回にも行ったようなキャラクター設定の改変で、映画版では兄貴の洋一郎もかろうじて命賭けてるくらいの貢献度で加藤に立ち向かってはいたのですが、そこらへんの苦労が原作小説では一切ないので、あの最終手段に出るまで内心の苦悩はあったにしても、やっぱり洋一郎の人でなし感はぬぐい切れないというのが、『龍動篇』までの読了後のスッキリしなさにつながっています。結局、由佳理も雪子もバッドエンドもいいとこな状況になっちゃってるし……

 それでもわずかな救いなのは、恵子が生存しているらしいことと、恵子の偉業を理解している人物が、少なくとも帝都に2人はいることでしょうか。でも、この2人も恵子くらいに苦労して加藤に対峙しているとは言えないのでありまして。だからって、むさいおじさんが恵子と同じ方法で加藤に迫ったとしても、加藤も困惑するだけでしょうし……一周まわって、2020年代の今だったら一部界隈に受け入れられるかもしれませんけどね。これが今話題のマヴってやつか。

 結局、キリはいいにしても『龍動篇』は次巻への引っぱりの意味も込めてあえて未消化感を残した締めくくりになっていますので、これを映画としての大団円に持ってこざるを得なかった映画版の悲劇は、公開される前から決まっていた宿命だったのでしょう。21世紀の今みたいに「3部作構成」とかのパッケージを前提にできる時代でもなかったし。そのためには『スターウォーズ』くらいに超絶ヒットしなきゃねぇ。

 こういった、原作小説を読んでみてわかる『帝都物語』の難しさみたいなものを拾いあげてみますと、4巻分もの展開をギューギューに詰め込んで、サイキックウォーズあり関東大震災あり学天則地下特攻作戦ありという波乱万丈さで乗り切ろうとしたとしても、やはり物語の根本にある、西洋的な論理では絶対に解釈できないアクの強さをまぎらわすことはできなかった、ということなのでしょう。
 おそらく、当時の映画業界の強引さを考えてみれば、辰宮由佳理や目方恵子の役割を大幅に削減し、もっと男衆に活躍の場を分け与えて『コナン・ザ・グレート』みたいな娯楽映画に捻じ曲げられる恐れもあったのかも知れませんが、そこをぐっと押さえて原作準拠で通そうとした実相寺監督の判断は、興行的には成功につながらなかったとしても、評価されるべき英断だったのではないでしょうか。

 にしたって、カットこそしなかったにしても、辰宮兄妹の間に何があって、加藤と恵子の対決の行方がどうなったのかを具体的に描かなかった……のか描けなかったのかはわかりませんが、直接的に映像にせず、な~んかモヤっとした描写にとどめざるをえなかったのは、映画としては致命的でしたよね。とにかく難しい小説なんだな、『帝都物語』って!
 なんにせよ、映画だけを見てよくわかんなかった方は、絶対に小説を読んでみてください。説明はちゃんとされてるから! でも、その説明を聞いて納得できるのかどうかは、また別の話ですが。


 ま、ま、いずれにしましても、見どころが盛りだくさんな『帝都物語』の明治・大正・昭和一ケタ篇はかくのごとく終結し、まだかろうじて生身の人間である加藤は、いったん日本列島を離れることとなりました。再び訪れる捲土重来のチャンスを待ち望みながら……

 いちおう、ここからは映画『帝都大戦』の内容に相当する昭和戦前・戦中へと時代が切り換わっていくのですが、ここからがまた、原作小説とメディア化作品とでイコールではない複雑な関係になっていくんですよね! これに比べれば、映画版『帝都物語』の、原作に対してなんと優等生なことか。
 実際、高校生時代の私も、この後の合本新装版でいう「第参番」を読んで混乱しまくっちゃったんですよ。『帝都大戦』とじぇんじぇん関係ないじゃ~ん!みたいな。それでも中途半端に登場人物がリンクしてるってのが、逆にいっそうタチが悪い。
 そういった記憶もありますので、いや、だからこそ! まっさらな気持ちになってまた一から読み直すのが楽しみでなりません。
 
 さぁ、中国大陸に潜伏することとなった加藤は、激動のアジア情勢の水面下で、いかような次の手を打とうとするのでありましょうか!? そして、加藤と共に姿を消した目方恵子はどうなってしまったのか? 心身ともにボロボロとなった辰宮由佳理と、大いなる可能性を秘めし忌み子・雪子の運命やいかに?

 『帝都物語』サーガは、まだ始まったばかり! カトーは、まだ来るぞォー!! 歯ぁ磨けよ!
 そんな感じで、まったじっかい~


~超蛇足~
 高校生当時、私は『帝都物語』の腹中虫のくだりと加藤 VS 恵子の最終対決のくだりを読んで、かなりエロいぞこれ!と脳を焼かれた記憶がありました。ま、腹中虫がエロいのは映画版もそうなのですが。
 それで今回、喜び勇んで読み直してみたのですが……うん、ふつう。当然っちゃ当然なのですが、官能小説じゃあるまいし、そんなに踏み込んだ描写も無かったので、「あぁ、ハイティーンだった頃のおれは、この程度でウキウキワクワクしてたんだよなぁ。」と、感慨にふけってしまいました。

 それが今はどうだい、あんなんでもこんなんでも物足りないナなどとほざくスレっぷりの中年になりやがって……

 バッキャロー! もう一度あの頃の、山川草木にエロさを見いだしていたハングリーなおのれを呼び覚ませ!!
 ぜいたくは敵だ!! スマホ禁止! 保健体育の教科書の再読1万回ぃいい!!
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『帝都物語』2 『神霊篇』&『魔都篇』

2025年02月06日 13時24分55秒 | すきな小説
≪前回の序説は、こちら

『帝都物語1 神霊篇』(1985年1月)&『帝都物語2 魔都(バビロン)篇』(1985年4月)
 角川書店の小説誌『月刊小説王』にて、1983年9月創刊号から1984年13号まで13回が連載された。

あらすじ
 明治四十(1907)年4月。一匹の鬼が帝都東京に現れた。
 その鬼の名は、加藤保憲。加藤は摩訶不思議な超能力を自在に操り、帝都最大の守護神である平将門を怨霊として目覚めさせ、帝都の壊滅をたくらむ。加藤の魔の手から帝都を守らんとするのは、明治維新の大実業家・渋沢栄一、若き文士・幸田露伴、森鴎外、物理学者・寺田寅彦ら、近代日本を草創した偉人たちと、将門の末裔である辰宮洋一郎とその妹・由佳理、一千年にわたり日本を呪術で護持してきた土御門家の陰陽師・平井保昌。多くの人々がそれぞれの命をかけて、魔人・加藤に立ち向かう。


おもな登場人物
加藤 保憲(かとう やすのり)
 帝都東京の滅亡を画策して暗躍する魔人。大日本帝国陸軍少尉、のち中尉。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
 長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、いかなる時代においても老いの感じられない20~30歳代の外見をしている。眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。秘術「屍解仙」を用いて転生したこともある。さまざまな形態の鬼神「式神」を使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。中国語や朝鮮語にも通じる。

辰宮 洋一郎(たつみや よういちろう)
 大蔵省官吏。帝都東京の改造計画に加わり、明治時代末期から大正時代にかけての歴史の奔流を目撃する。物語の冒頭で平将門の霊を降ろす依代として加藤に利用される。1907年4月の時点で25歳(1881年か82年生まれ)。
 妹の由佳里に執着しており、彼女が霊能力を持つに至った経緯や雪子の出生に関わりを持つ。

辰宮 由佳理(たつみや ゆかり)
 洋一郎の妹。平将門の依代となる程に強力な霊能力者であり、加藤や北一輝に狙われる。1907年4月の時点で18歳(1888年か89年生まれ)。
 強度のヒステリー症状ないしは霊能体質を有するために、奇怪な事件に巻き込まれる。精神を病んで森田正馬医師の治療を受ける。

鳴滝 純一(なるたき じゅんいち)
 東京帝国大学理学士。洋一郎の旧友で同い年の25歳(1881年か82年生まれ)。純朴な性格だが、由佳理を思慕するあまり、暴走することもある。

織田 完之(おだ ひろゆき 1842~1923年)
 三河国生まれの農政家で歴史学者。平将門の名誉回復に尽力した。
 豪農の出身で勤王派に加わり、桂小五郎や高杉晋作らと交友したが、明治維新後は新政府の農業・干拓事業を担当、特に印旛沼の治水事業に尽力した。明治二十五(1892)年の引退後は「碑文協会」を設立し、二宮尊徳や佐藤信淵の思想体系の顕彰活動に尽力した。

幸田 露伴(こうだ ろはん 1867~1947年)
 本名・成行。小説家で、明治時代最大の東洋神秘研究家。膨大な魔術知識を駆使して魔人加藤と戦い、追い詰める。
 『一国の首都』と題した長大な東京改造計画論を持ち、後年には寺田寅彦とも親交があった。

寺田 寅彦(てらだ とらひこ 1878~1935年)
 東京帝国大学の物理学者。渋沢栄一の秘密会議に出席して加藤と出会い、迫りくる帝都東京滅亡の危機を必死で食い止めようとする。
 日本を代表する超博物学者でもあり、大文豪・夏目漱石の一番弟子。物理学者でありながらも超自然や怪異への限りない興味を抱き続けた。

森 林太郎(もり りんたろう 1862~1922年)
 大日本帝国陸軍軍医監。筆名・鴎外(おうがい)。明治時代の大文豪の一人で、軍医としても多くの業績を残した。高級官吏と文学者との両道を追究する。幸田露伴とは親友の間柄である。

大河内 正敏(おおこうち まさとし 1878~1952年)
 物理学者、実業家。子爵。江戸時代以来の名家・大河内家の英才。東京帝国大学では寺田寅彦以上の天才と謳われ、寺田と共同で物理学の実験も手がけた。大正六(1917)年に設立された日本の応用科学研究の総本山「理化学研究所(理研)」の総裁となる。美丈夫の誉れ高く、人柄も名家にふさわしく寛大。

渋沢 栄一(しぶさわ えいいち 1840~1931年)
 明治時代の日本を代表する実業家で、第一国立銀行初代頭取を務めるなど金融体制の設立にも尽力した自由競争経済設立の指導者。子爵。
 帝都東京を物理的、霊的に防衛された新都市にしようと秘密会議を開く。

森田 正馬(もりた まさたけ 1874~1938年)
 精神科神経科医で精神医学者。巣鴨病院に入院した由佳理の治療にあたる。
 寺田寅彦が幼少期を過ごした高知県に生まれ、犬神憑きなどの憑霊現象を研究する。後に「森田療法」として知られる独自の精神病治療法を確立した。

平井 保昌(ひらい やすまさ)
 日本陰陽道の名家・土御門家につらなる老陰陽師。奇門遁甲の術に長けている。幸田露伴の依頼を受け、秘術を尽くして宿敵たる加藤と渡り合う。1912年7月の時点で72歳(1839年か40年生まれ)。

カール・エルンスト=ハウスホーファー(1869~1946年)
 ドイツ帝国陸軍少将で地政学者。ミュンヘンに生まれ、1887年にインド、東アジア、シベリアを旅行し、1909年から約2年間、日本にも滞在し、秘密結社「緑竜会」に入会した。
 地政学(ゲオポリティーク)を戦争の実用科学にまで高め、ミュンヘン大学の教授・学長を歴任し、初期ナチズムの神秘的教養を形成する影の参謀となった。

洪 鳳
 朝鮮半島の秘密結社「天道教」に所属する女。

林 覚
 中国・清帝国の秘密結社「三合会」に所属する青年。

長岡 半太郎(1865~1950年)
 東京帝国大学物理学教授。辰宮洋一郎から帝都東京改造計画への参加を要請されるが、自分よりも適任だとして教え子の寺田寅彦を推薦する。

阪谷 芳郎(1863~1941年)
 大蔵省官僚、政治家、元大蔵大臣、前東京市長(1916年当時)。渋沢栄一の娘婿。大正九(1920)年に義父・栄一の複葉飛行機による東京遊覧飛行を実現させる。

平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
 平安時代の関東地方最大の英雄。京の中央集権主義に刃向かい関東を独立国家化したため討伐されたが、その没後もなお千年間、大手町の首塚の下で関東と帝都東京を鎮護し続ける大怨霊。『帝都物語』シリーズ全体の根幹をなす最重要人物。

佐藤 信淵 (さとう のぶひろ 1769~1850年)
 江戸時代末期の経世家、鉱山技術家、兵法家。理想郷の実現を目指し、平将門ゆかりの下総国印旛沼をはじめ内洋すべてを干拓する生産向上計画を提唱した人物。統治論書『宇内混同秘策』は神道家・平田篤胤(1776~1843年)の日本中心主義を内包しつつ全世界を征服するための青写真を描いた一大奇書で、この中で「東京」という名称が初めて用いられたとされる。

安倍 晴明(あべのせいめい 921~1005年)
 平安時代の大陰陽師、天文博士にして、日本最大の白魔術師。当時の呪術コンサルタントとして皇族や貴族・民衆の間で絶大な信望を集めた。一説に「信太の狐の子」ともいわれ、官制魔道の宗家・土御門家の開祖となった。


おもな魔術解説
神降ろし
 神霊や邪霊を一時的に生身の人間に宿らせ、啓示や予言を受けること。死者の霊を呼び出す場合は「口寄せ」ともいう。

依り童(よりわら)
 神降ろしで呼び出された霊の容れ物となる少年や少女。依り童となるのは感応力の強い特別な気質を持つ子ども達である。

式神(しきがみ)
 単に「式」ともいう。吉凶を占い、魔を祓うオカルティスト・陰陽師に使役される目に見えぬ鬼といわれ、陰陽師が創った人造人間ともいわれる。人を呪う時に式神が放たれ、式神は呪う相手にとり憑き、生命をおびやかす。呪われた人は一瞬でも早く、より強力な陰陽師に頼んで相手に式神を打ち返さない限り、助からない。

ドーマンセーマン
 五芒星の形をした魔除けの印。ほぼ世界共通に存在し、もともとは人をとり殺す魔力を持つ「邪眼」に睨みつけられた時、その視線をそらすために使われた。日本では、史上最大の陰陽師で土御門家の開祖である安倍晴明にちなみ「晴明判」と呼ばれる。ドーマンセーマンとは紀伊国とその周辺地域で使われる言葉で、「ドーマン」は、これも有名な陰陽師である道摩法師(蘆屋道満 958?~1009年以降)、「セーマン」は晴明のことといわれる。六芒星や籠目もドーマンセーマンの類のものである。

蟲術(こじゅつ)
 中国大陸で発達し、日本でも平安時代ごろまでに盛んに用いられた、相手に生物の霊を憑かせる呪殺術。ヘビ、サソリ、虫など魔力あるいは毒のある生き物から特別な方法で魔のエキスを採取し、これを呪う相手に飲ませたり、持たせたりすることで発動する。古代の日本ではしばしば蟲術の禁止令が出されるほど流行した。

鏡聴(きょうちょう)
 鏡の透視能力を利用した予言予知法で、中国大陸で用いられた。鏡を沈めた井戸に顔を映すなど使用方法も種類が多い。西洋童話『白雪姫』に登場する「真実を告げる鏡」も鏡聴の一種と考えられる。

腹中虫(ふくちゅうむし)
 中国大陸の魔術信仰に登場する魔物。人間の体内に入り込み、時には内部から話しかけてくることもある。憑き物の類とも考えられる。

一母道(いちぼどう)
 19世紀の中国大陸北部で勢力を持った魔術の秘密結社。呪殺をはじめ、神霊との交感、不老不死の探究を目的とした。当時の中国には、これに類する秘密結社が多数存在した。

九字(くじ)を切る
 伝統的な魔除けの方法。呪文を唱え、指で縦4本と横5本の線を描く。計9本の線が多くの「目」を作るため、邪眼を持つ魔物の視線がそこに釘付けになり、魔物が目の数をかぞえている間に逃げるか対抗手段を取ることができる。

奇門遁甲(きもんとんこう)
 中国大陸で発明された方術。陰陽二気の流れに応じて、身を隠したり災難を避けたりするための方位魔術。天の九星、地の八卦に助けを借り、「八門遁甲」ともいわれる各方位への出入り口「門」のうち、どれが吉でどれが凶なのかを知ることができる。自分の行方をくらましたり、敵を誘い込む罠にも利用された。

八陣の図
 奇門遁甲術に含まれ、中国大陸で諸葛亮公明が編み出したものといわれる。巨大な岩石を一定の形式に配置して、迷路のようになった内部に敵を誘い込んで混乱させる方術。

風水
 古代中国の地相占術。日本にも伝わり「家相学」や「墓相学」ともいわれた。自然のエネルギーを最大限に活かし、生者と死者とが平和に住み分けられる都市を創造する、魔術による総合土木技術。その基本は、山川の地形や風の流れなどを読み、「地脈」あるいは「龍脈」と呼ばれる生命エネルギーの流路を発見することにある。

陰陽道
 風水と共に、中国大陸と日本のあらゆる魔術の基本原理を定める宇宙生成システム。陰陽とは、「気」という万物の原質のプラスとマイナスの活動から世界の運行を解釈する思想。「道(タオ)」とも呼ばれる。日本に伝来して、物事の吉凶占いに利用されるようになった。

陰陽五行
 宇宙の全存在に、霊的あるいは物理的な性格付けを行う5つの要素「木火土金水」を規定する哲理。これらには「相性(そうしょう)」と「相克(そうこく)」との違いがあり、例えば、木は燃えて火となる(相性が良い組み合わせ=相性)、木は土から養分を吸い取ってしまう(相性が悪い組み合わせ=相克)といったそれぞれの関係により、事物や人同士、日取りなどの相性が決定される。占術の代表である「易(えき)」も、陰陽五行の原理の上に成り立っている。

天文暦法
 日本における、天変地異を知り吉凶を読み解く方術で、常に陰陽道と共に存在した。魔術的な日取り選びにつながる技術で、現代の天文学や暦学とは多くの点で違うものである。

きつね憑き
 人間にとり憑く妖怪の代表的存在。これを使役して他人をきつね憑き状態に陥らせる「きつね使い」も多かった。関東地方には、四国地方の「犬神」と並ぶ奇怪な憑き物「管狐(くだぎつね)」がいた。管狐は小さく、竹の筒(管)に入れて飼うこともできる。人を呪う時に管から出すが、相当な能力を持つ術師でないと管狐を元の竹筒に戻すことはできなかったという。

斎(ものいみ)
 魔物や呪い、数々の凶事を祓うために一定期間行われる行(ぎょう)のこと。この期間は身を慎み、禁忌を守り、読経や浄めなどを行う。現代にも残る葬式時の「忌中」や、願いが叶うまで好きなものを断つことも、大きな意味での斎である。

錬丹道(れんたんどう)
 中国大陸における錬金術。卑金属を貴金属に変えるのが主体の西洋錬金術に対し、不老不死を得る霊薬「丹」の精製に力点が置かれた。この思想は13世紀ごろに西洋にも伝わり、西洋錬金術を不老長寿探究のシステムに変化させる原動力となった。

土砂加持(どしゃかじ)
 真言宗の霊山・高野山の土をはじめ、霊能を備えた土砂を人間の死体や遺骨、墓に撒き、真言を唱えて浄化する呪法。また、世俗ではこの土砂を飲んで病気や傷を治したといい、江戸時代には長崎・出島のオランダ人の間でも行われていたという。同類のものに、女性の堕胎に使われた「伊勢おしろい」があった。

弓乙の霊符(きゅうおつのれいふ)
 かつて朝鮮半島にて流行した魔術的医療用具。霊力のある道士が紙に「弓」または「弓乙」と書いたものを焼いて灰にして病人に飲ませることにより、万病に効いたという。このような霊符による病気治療は、19世紀に発足した秘密結社「東学」の教主たちが実践したといわれる。

舞剣騰空(ぶけんとうくう)の術
 弓乙の霊符と同じく東学の秘術。伝説の宝剣「湧天剣(ゆうてんけん)」を握った者が特別な呪歌を詠いながら舞うことで空に浮かび、敵を討つ。19~20世紀初頭の朝鮮半島の民衆は、日本や西洋列強諸国の侵略と、国内宮廷の腐敗をこの秘術で祓おうと信仰していた。

日取事(ひどりのこと)
 陰陽師が用いた、日取りを使った吉凶判断術。安倍晴明が編纂したと伝承される陰陽道の秘伝書『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』に掲載されている秘伝の一つだが偽書による流布も多く、仏教(特に密教)の影響も強い。占い盤により日取りを選ぶ方法で、「初」「中」「後」の三種の盤を用いて吉凶を判断する。また、時間帯ごとの吉凶を占う『鬼一法眼右日取事』という盤も存在する。この占い盤と同種のものに西洋の「ピタゴラス盤」があり、この場合は占う年月日や場所名をゲマトリア秘術によって数値化して合算し、吉凶を判断する。


映画化・アニメ化・マンガ化作品
映画『帝都物語』(1988年1月公開 135分 エクゼ)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』の映画化作品。日本初の本格的ハイビジョン VFX映画。加藤保憲の役に、当時小劇場俳優で庭師として生計を立てていた嶋田久作が抜擢された。登場する人造ロボット「学天則」の開発者・西村真琴の役を、真琴の実子の西村晃が演じている。 監督・実相寺昭雄、脚本・林海象、製作総指揮・一瀬隆重、特殊美術・池谷仙克、画コンテ・樋口真嗣、特殊メイク・原口智生、コンセプチュアル・デザインH=R=ギーガー。音楽・石井眞木。製作費10億円、配給収入10億5千万円。

OVAアニメ版『帝都物語』(1991年リリース 全4巻 マッドハウス)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』のアニメ化作品。加藤保憲の声は実写版と同じく嶋田久作が担当した。脚本・遠藤明範、キャラクターデザイン・摩砂雪、シリーズ監督・りんたろう。作画スタッフには鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏、庵野秀明らが参加していた。

コミカライズ版
川口敬『帝都物語』(1987~88年 小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて連載)
 映画『帝都物語』公開に合わせての連載で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。未単行本化。
藤原カムイ『帝都物語 Babylon Tokyo 』(1988年 角川書店)
 映画『帝都物語』公開に合わせての刊行で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。


 ……というわけでありまして、今回からさっそく『帝都物語』本編についてのつれづれを語っていきたいと思います。
 いや~、すごいですね! これ、長い長い『帝都物語』というサーガのほんのとっかかりなのですが、そこだけでも基本情報が上のごとく山ほどありますよ! まず、この文字情報の多さにビビってしまうのですが、いざ読んでみるとそんなに難解な文章でもありませんから、大丈夫ですよ、たぶん……

 まず小説の内容に入る前に、いつものように「『帝都物語』とわたし」という思い出語りをしていきます。個人ブログなので何卒ご寛恕くだせぇ。

 実相寺昭雄監督の映画版『帝都物語』が上映された1988年当時、私は洟ったれの小学生でありまして残念ながらその存在すら認識することが難しく、その次作『帝都大戦』が、なんだかむっちゃくちゃ怖い映画らしいという情報に恐れおののくことしかする術がない状態でした。それなのに、親戚の伯父さんの家に遊びに行くと、あのおっかない加藤保憲の顔がでかでかとプリントされたエッソ石油の宣伝ボックスティッシュが置いてあってよぉ……あのティッシュ箱、ほんとキライだった!
 そんな感じなので、その恐怖の権化である『帝都大戦』本編がフジテレビ系列の『ゴールデン洋画劇場』で放送された(1990年11月)としても当然観られるはずがなく、観た弟に「どうだった……?」と尋ねることしかできませんでした。な~さけねぇえぇえ~♪(作詞・秋元康)

 ということで、私がちゃんと魔人・加藤保憲の威容を目にしたファーストコンタクトは、あの『仮面ノリダー』(フジテレビのバラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげです』内の伝説のコントコーナー)の第47話『恐怖帝都大戦男 東京大破壊計画の巻』(1989年9月放送)への加藤こと嶋田久作サマのゲスト出演だったのでありました。でも、そういう出会い方の子ども達、当時けっこう多かったんじゃない!? 加藤は、顔が怖かった!!(中江真司さんの声で)

 ただ、そんないびつな出会いであったとしても、「あの加藤って軍人は、一体何者なんだべ?」という疑問は私の心の中でいつまでも澱のように残り続け、その数年後、めでたく高校に進学できたくらいの頃に、原作小説の『帝都物語』シリーズが一気に「2篇合本版を6冊」という形で新装リリースされるとの報を耳にしたのでした。表紙イラストは、あの田島昭宇大先生! エロこわい!!

 そんなことでしたので、私は喜び勇んで「加藤保憲なにするものぞ」という気概で小説を読み始めたわけだったのですが、途端にぶち当たってしまった衝撃の事実こそが、「映画化されたの前半ほんのちょっとだけ」ということだったのです。えー!!

 これはビックラこきました……いや、そりゃそうですよ、分厚い文庫本6冊分が2時間やそこらの映画におさまるわけがないんだもの。しかも、後半にいくにつれて「昭和が終わってない」とか「三島由紀夫が死後ヒロインに転生」だとか「角川春樹がメインキャラ」とか……なんかうさんくさい展開がモリモリわいてきて、私はやっぱり「なんだずこれ~!?」といった感じで、文庫を2~3冊読んだくらいで放り投げて敵前逃亡してしまったのでした。ちなみに、角川春樹さんはこの1995年の新装版『帝都物語』リリースの2年前に麻薬取締法違反などの罪状でお縄になっております。嗚呼、事実は小説よりも奇なり!!

 そんな感じの思い出が『帝都物語』にはあるのですが、リアルタイムではなかったものの、現役で活躍している小説家さんにハマったのは星新一、綾辻行人に続きこの作品でしたし(荒俣先生はどちらかというと TVタレントの印象でしたが)、何と言っても「安倍晴明」や「陰陽道」の世界を知るきっかけとなった記念碑的名作ですので、いっぱしの大人になった今、あらためてこの原点をたどってみようという気になったわけなのです。
 ちなみに余談ですが、私が本格的に「安倍晴明うんぬんかんぬん」にハマる決定打となったのは、NHK総合の歴史バラエティ番組『歴史誕生』で1992年3月に放送された回『上方三都事始め・京都 桓武天皇怨霊と闘う』をビデオ録画して繰り返し観てしまったことでした。小松和彦せんせ~!!


 ささ、そんなこんなで思い出話はこのくらいにしておきまして、いよいよ小説の内容に入っていきたいと思います。もう、字数の関係でちょっとしか感想言えないよ~!!

 今回あつかう『神霊篇』と『魔都篇』は長い長い『帝都物語』のまさに序曲にあたるわけなのですが、読んでみてまずびっくりするのは、


加藤保憲がかなり人間っぽい……ていうか、むしろヒーローっぽい!!


 という事実なのです。こりゃもうびっくりですわ。

 まず映画版『帝都物語』との相違点として大きいのは、「帝都破壊」というめちゃくちゃ極悪な目的があるのにも関わらず、加藤がかなりアツい情熱をもって計画に邁進する姿がミョ~に好感触で、しかも相棒(いけにえ?)の辰宮洋一郎の質問に答える形で、読者に向けて「これはこうこうこういう呪いなのだ!」とか「平将門を目覚めさせるとこうなっちゃうから、帝都は大変なことになるのだ!」と、なんかショッカーの改造人間あたりの「冥途の土産に教えてやろう!」ゆずりの懇切丁寧さで、物語中に発生する奇々怪々な事象のからくりや自分の行動目的を分かりやすく説明してくれるので、敵なんだか気のいい兄ちゃんなんだかがよくわからなくなるポジションになっているのです。いや~、やっぱ悪役はこういう風に「いいひと」じゃないとネ! 原作版加藤の口癖は「ばかな!」です。かなり熱血系。

 本来ヒールであるはずの加藤がヒーローに見えてしまう原因は、多分にその相手サイドに起因するフシも数多くあります。
 まず、この最初期の2篇に関していえば、「なんか帝都をぶっ壊そうとしてるヤバい奴がいるらしいぞ」といううわさを聞きつける形で、東京のあちこちから全然ジャンルの違う有志たち(実業家、物理学者、小説家、官僚、農学者、陰陽師 etc...)が集うという筋立てになっているので、正義チームがまだまだ結成できていません。しかも、それぞれが有名人だったとしても加藤ほどの濃い情熱を持てていないので、どうしてもインパクトが薄いのです。たぶん、その中では比較的にいちばん有名な渋沢栄一だって、今でこそ NHK大河ドラマの主人公になってはいますが……ピンとは来ませんよねぇ。第一線で加藤と闘うわけでもないし。
 だいたい、物語前半の最重要キーパーソンとなる元祖メンヘラヒロイン辰宮由佳理の兄である洋一郎がかなりおとなしい存在なので、絶妙に頼りないチームにならざるをえないわけで、結局、勢いと若さだけの鳴滝純一と、ぜんぜん肉体派じゃない幸田露伴先生が主戦力になってしまうというていたらくになってしまうのでした。ダメダメだ~!

 ただし、ここらへんのポリスアカデミーなみに頼りにならない正義チームの弱体化設定は、おそらくは第3巻『大震災篇』以降に出てくる超ヒロイン目方恵子のためにあえて苦しいメンツで引っぱっておくという意図があるかと思われるのですが、その結果として、作者が想定した以上に加藤保憲が魅力的なキャラになるという副作用があったのではないでしょうか。だって加藤は、自身の計画を成功させるために、軍人としての仕事もこなしながら(当時)、中国大陸にまで駆けずり回って汗水たらして3ヶ国語をペラペラしゃべって頑張ってるんだぜ!? 正義サイドで、ここまで努力してる人、いるか!? 全員、本業の忙しさにかまけて大変なことを押し付け合ってる感じなんですよね。そんなんで帝都を護れんのかと!

 こういう感じで、原作小説の第1・2巻は、なにはなくとも饒舌だし汗もかく生身の人間・加藤保憲の魅力と情熱を全面的にプッシュした内容となっており、実相寺監督の映画版とはだいぶ違う印象をもたらす群像小説となっているのです。
 この原作と比較するとよく分かるのは、映画版がいかに正義チームを頼もしく強化してるかというところなんですよね。まず、「文弱の辰宮洋一郎」と「情熱的な鳴滝純一」というキャラ付けを全く逆にして、洋一郎を一つの映画の主人公ヒーローたりえる人物にまでフィーチャーしているし、原作では「土御門一門でも持て余してる偏屈老人」程度の扱いだった平井保昌を、なんか土御門一門の総帥くらいにまでアゲアゲにしてるのも、映画オリジナルの味付けですよね。原作での平井の自害なんか、ほぼナレ死みたいな処理の仕方で、あんな映画みたいな加藤とのやり取り、まるでありませんからね!? いや~、万人に勧められる名画かと問われればそうとは言えないのですが、映画版『帝都物語』は、よくやってますよ! 由佳理の腹中虫げろげろシーンも必要以上にエロくなってるし。さすが変態けろっぴおやじマエストロ!!

 そうそう、原作小説はちゃんと、明治時代末期の陰陽師界隈が、呪術師集団としてはすでに壊滅しているという史実をちゃんと反映させていて、その中でも時代に迎合しなかった異端派の平井と、そのわずかな賛同者のみがゼーゼーハーハー状態で加藤に立ち向かうという窮状となっているのです。そこらへんが映画ではかなり大げさに修正されちゃって、まるで大正の直前まで陰陽師たちが平安時代以来の伝統を継承して健在でいるみたいな絵空事になってましたよね。ま、映画なんだからしょうがないですけどね~。演じてるのひらみきだし。

 また、原作ではあんなに情熱的だった加藤を、まるで天災か怪獣のように冷血で人間離れした怪人に仕立て上げた映画版の演出も、結果的には嶋田久作さんという稀代の個性を得て大成功したのではないかと思われます。確かに、これを原作のまんまに小林薫さんくらいの名優が上手に演じていたら、感情移入しやすすぎて『砂の器』とか『飢餓海峡』の犯人みたいになっちゃって、映画史に残るエターナルな名悪役キャラにはならなかったのではないでしょうか。映画は映画で、あの舵の切り方でよかったのよ。


 というわけでして、今回取り上げた『帝都物語』の第1・2巻は、1923年の関東大震災をいったんのクライマックスとして、まだ生身の人間で喜怒哀楽の感情も豊かな加藤保憲の、アジア三国を飛びまわる尋常でない努力と一方的な攻勢をかなり高い温度で語りまくる内容となっております。正直いうと、主語を省略したり時制を文章の途中にしれっと差し込んだりする若々しい荒俣先生の筆致は、慣れるまでは読みやすいとは言えないものなのですが、それでも、式神や依りわらや八陣奇門遁甲術といったおいしすぎるワードが乱れ飛ぶ物語のスピード感は、まさに大長編の開幕にふさわしい勢いあるものになっていると思います。盛り上がってまいりました!

 この、極悪非道だけどなんか嫌いになれない加藤の猛威を止める者はおらぬのか!? そんな、断りきれない損な性格のためにけっこうなとばっちりを喰らってしまう幸田露伴先生の満身創痍の嘆きに応えるかのように現れ出でたるは、平将門の大いなる遺志を継いで立ち向かう巫女、ひとり!!

 以下、次号! かんのん、りっき~!!(消臭力のリズムで)


~超余談~
 今回再読している1995年初版の「合本新装版」のまえがきで記されているように、作者の荒俣先生は1923年の関東大震災と95年の阪神淡路大震災に共通している「亥の年」というキーワードの不吉さを強調しておられます。
 でも、2025年現在に生きている身から振り返ってみるに、同じ亥の年である2007年と2019年に、それらに匹敵する凶事があったのかと言われると……新潟県中越沖地震(07年)とか京アニスタジオ放火事件(19年)とかはあったんですけど、ね。
 そもそも、あの東日本大震災がぜんぜん亥の年じゃないので(2011年は卯の年)、結果論ではあるのですが、亥の年がどうのこうのいうのは今や信ずるに値しないと断じるほかはないかと思います。

 ま、なに年だろうが、用心するに越したことはねぇってことさね! ドーマンセーマン☆
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『帝都物語』1 序

2025年02月02日 23時16分11秒 | すきな小説
 どわわ~! みなさまどうもこんばんは、そうだいでございます~。
 気がつけば、あっという間に1月も終わってしまいました……私の住んでいる山形では、ここ最近になってやっと雪がドカドカっと降り積もってきまして、「これが東北の冬なんだずねぇ~」としみじみ痛感しながら雪かきをしていましたら、もう2月! 今年もボヤ~ッとしてたら、一年なんかすぐに終わっちゃうぞ。気合い入れていかねば!

 私は相変わらず、適度に頭をウンウンひねらせながらも毎日楽しく過ごしているのですが、最近は気分転換にと映画を2つばかり観てまいりました。『怪獣ヤロウ!』(監督・八木順一朗)とアニメ『ベルサイユのばら』(監督・吉村愛)です。趣味全開!!
 どっちも非常に面白く鑑賞したのですが、ちょっともろもろ忙しいので我が『長岡京エイリアン』では独立した記事にはしません。こういうフレッシュな話題を記事にしないで、新鮮味もへったくれもない今回のタイトルみたいなやつを記事にするんだもんなぁ~!! それでこそ、このブログ。

 簡単な感想だけ述べさせていただきますと、『怪獣ヤロウ!』は純粋に笑いあり緊張あり感動ありの娯楽映画として非常に完成度の高い作品で楽しめました。特撮ファンでなくとも、岐阜県関市に縁のある人でなくとも万人が観るべきエンタメ作だと思いますよ。
 もちろん、昨今巷を騒がせている特撮作品のような CG技術などはほとんどない手作り感満載の映画なのですが、そのチープさこそが作品の味ですし、出演陣も実力のしっかり備わった粒ぞろいでかなり安心して観られる手堅さなのです。これ、ほんとにお笑い芸人のマネージャーさんが撮った映画なの!? 主演のぐんぴぃさんをはじめ演者は全員素晴らしいのですが、私はその存在感のリアルさと味わいの深さにおいて、主人公の中学生時代の恩師役として出ておられた田中要次さんがズバ抜けていいお仕事をされているなと感じ入りました。あの先生、すっごくいいポジションだった! 最後の出演カット、本気で泣きそうになりました……そうそう、あのわけわかんない「空中の肉塊」に象徴されるように、この映画の主人公のアツすぎる行動の中核にあるのは確かに「怪獣映画撮りたい!」という自分中心の欲望が源泉ではあるのですが、それが渇望しているのは間違いなく、「その努力を認めて受け入れてくれる他人」の承認なのです。それはまぁ、ゲラゲラ笑って喜んでくれる観客でもいいのですが、中学生時代の蹉跌を知っている先生の満足そうな穏やかな笑顔が、最も欲しかったものなのではないでしょうか。そこを見落とさずにちゃんと用意してくれる八木監督の微に入り細にうがった心遣いは、さすが天下のバキ童のマネージャーという一心同体感だと思いました。ここらへんの作り手と主人公の近さが生み出す感動は、それこそその両者が正真正銘の同一人物だった、あの『ロッキー』第1作(1976年)に通じるものがありましたよね。映画の中盤でもしっかりロッキーオマージュがありました。でも子どもが一緒に走ってたから、あれは『ロッキー2』のほうだ!
 ただ、ひとつだけ苦言を呈させていただけるのであれば、クライマックスで登場する「巨大ヒーロー」のお姿が、お笑い好きならば見ないわけがない「あの映画」を強く想起させるものになっていたのがちと残念でした。制作予算が無いという設定でそうなっちゃうのは仕方ないのですが、そこはなんとかオリジナリティが欲しかった……裸の肉体しか残されたものが無いという状況を語ることも大事ですが、やはり演じるぐんぴぃさんもお笑い芸人なので、最後の最後に同業のあの人の影がちらつくのは避けるべきだったのではないでしょうか。あの映画だって、別にリスペクトするべきほどの作品でもないしねぇ。そんなん旧世代の先輩の仕事なんて、蹴っ飛ばしちゃえばいいんだよ!

 あとこれはほんとに蛇足。本編中では見ていて別になんの感慨もわかなかったのですが、本多英二監督の工房から拝借して作った怪獣シン・セキラを陰影つよめの処理で撮影したらしきパンフレットの裏表紙の写真が、ほんとにぞっとするくらい「怪獣」していて、ある意味で映画本編以上にほれぼれしてしまいました。これこれ! この「かわいさと気味悪さ」、「生物感と作りもの感」、「親しみやすさと意思疎通のできなさそうさ」がひとつの姿に同居しているデザイン。これこそがジャパニーズ怪獣なのだと再認識しました。これ、私的には2025年ベストの映画パンフレットになるかも!!

 もうひとつの『ベルばら2025』に関しましては、ほぼほぼ義務で観に行った感があるのですが、とにかく映画館の客席が「年配夫婦」か「母と娘」、「祖母と娘」で構成されているという異様な状況に感動してしまいました。40代男性がひとりで? そんなん、俺しかいねぇわ!! 一人客がほんとにいなかった。
 私は別に池田理代子先生と宝塚どちらのファンでもないのですが、ことこの『ベルばら』に関しましては看過できない「おぼえ」がございまして……少なくとも私の現在の勤め先である隣町の上山市の中で言うと「私が観に行かなくて誰が観に行く」という程度の思い入れはあるのです。仕事に関わりのあることなので詳しくは言えないのですが、まぁそのくらいお世話になったことのある作品なのです。
 それで観に行ったのですが、やはり当代随一の名優であらせられる沢城みゆき閣下の声で八面六臂の活躍をみせるオスカル隊長の一生は、やっぱりすばらしかった。劇場に観に行ってほんとによかったですね。平野綾さんの年齢別にしっかり分けた演技の変遷もすごかったです。それだけに、マリー・アントワネットの生涯はそのご最期まで演技でつづっていただきたかったのですが……それじゃ「本編3時間コース」になっちゃうしねぇ。
 それは良かったのですが……やっぱり私は、「チャキチャキのパリっ子」とか「オーストリア育ちの娘ッコ」が、感極まった時にかぎって妙に発音の良いイングリッシュで熱唱するという違和感を拭い取ることができない人間でして、それはもう本作の副題が『 The Rose of Versailles』な時点で察してネという話なわけですが、それでもなぁ……今回ばかりは、平野綾さんの歌唱力があだとなった気はしました。むしろそこは、カタカナ英語感バリバリの昭和な距離感があった方がよかったのかも。1970年代当時は「英語もフランス語もおんなじ外国語」だったんでしょうけど、ね。
 ダイジェスト感の強い作品ではあるのですが、「庶民パート」をほぼ全カットするという(黒騎士がぁ~!!)大いなる犠牲を払いつつも、とにもかくにも「あの大作を2時間以内におさめる」という離れ業をやってのけた金春智子さんの脚本はお見事でした。『ベルばら』も、昔の年末大型時代劇ドラマ『忠臣蔵』とか『戦国三英傑のだれか』くらいにはしょっちゅうテレビでやっててもいい古典的名作ですよね。こういう王道的作品こそ、どんどん地上波でリピート放送していってほしいなぁ。そして、ゆくゆくは我が愛しの山岸凉子神先生の『とこてん』の NHK大河ドラマ化を……そんな時代が来ちゃったら、そのとき日本は果たして「はじまってる」のか「おわっちゃってる」のか!?


 テレビといえば、もう今年は正月からの大地震こそなかったものの、かの業界では年明けからとんでもない大騒動が出来しておるようでして、先月27日の悪夢のような会見いらい、フジテレビさんは大変なことになっております。
 CM から大企業が次々撤退していくという現在の状況は、まさしく前代未聞の異常事態なわけなのですが、今現在のフジテレビに、ていうかテレビ業界全体に関しても NHK大河とかテレ朝のニチアサ枠とか、 BSの『刑事コロンボ』やら昔の金田一耕助シリーズやらの再放送くらいにしか興味がない私にとりましては特になんの感慨もわきません。そろそろ、テレビ局も切磋琢磨、淘汰されてもいい時代なのかも知れませんし。

 ただ、私にとって今回の企業 CM撤退騒動で嬉しいのは、あの名優・嶋田久作さんが出ておられる ACジャパンの「決めつけ刑事」CM がバンッバンリピート放送されていることなんですよね。これ、CM 自体はそうとうに怖い事であるはずの誤認逮捕がおもしろくなっちゃってるのであまり良いものではないと思うのですが、それだけ嶋田さんの演技が面白いのがいけないんですよね。キャスティング失敗! でも嶋田さんだからヨシ!!


 と、いうわけでして、嶋田さんといえばの、この企画でございます。強引すぎて、もうイヤンなっちゃう♪


『帝都物語』シリーズとは……
 『帝都物語』(ていとものがたり)は、小説家・荒俣宏による日本の長編伝奇小説。
 1983年から発表された荒俣宏の小説デビュー作であり、1987年に第8回日本SF大賞を受賞し、1988年の映画をはじめとして様々なメディアミックス化が行われ、荒俣の出世作となった。小説誌『月刊小説王』(角川書店)に1983年の創刊号から1984年まで13回連載された後は新書判レーベル「カドカワノベルズ」から書き下ろし形式で発表され、シリーズはベストセラーとなった。
 平安時代の大怨霊・平将門を目覚めさせ帝都東京の破壊を目論む魔人・加藤保憲の野望と、それを阻止すべく立ち向う人々との攻防を描く。明治時代末期から昭和七十三年(実際の昭和は六十四年で終わったため、現実の元号に直せば平成十年となる)までの約100年にわたる壮大な物語であり、史実や実在の人物が物語中で登場・活躍する特徴がある。荒俣が蓄積してきた博物学や神秘学の知識を総動員しており、風水思想を本格的に扱った日本最初の小説とされている。陰陽道、風水、奇門遁甲などの呪術用語をサブカルチャーの世界に定着させた作品でもある。

シリーズ作品一覧
『帝都物語1 神霊篇』(1985年1月)
『帝都物語2 魔都篇』(1985年4月)
『帝都物語3 大震災篇』(1986年1月)
『帝都物語4 龍動篇』(1986年2月)
『帝都物語5 魔王篇』(1986年3月)
『帝都物語11 戦争篇』(1988年1月)
『帝都物語12 大東亜篇』(1989年7月)
『帝都物語6 不死鳥篇』(1986年7月)
『帝都物語7 百鬼夜行篇』(1986年10月)
『帝都物語8 未来宮篇』(1987年2月)
『帝都物語9 喪神篇』(1987年5月)
『帝都物語10 復活篇』(1987年7月)
※10 復活篇までの刊行後に、時系列を遡って外伝的作品として11 戦争篇と12 大東亜篇が発表された。
『シム・フースイ』シリーズ(1993~99年 全5作)風水師・黒田茂丸の孫である黒田龍人が主人公の怪奇ホラー小説シリーズ。『東京龍 TOKYO DRAGON 』(1997年)として TVドラマ化された。ちなみに黒田龍人は小説『帝都物語外伝 機関童子』にも登場する。
『帝都物語外伝 機関(からくり)童子』(1995年)
『帝都幻談』(1997~2007年)江戸時代を舞台とする。
『新帝都物語』(1999~2001年)江戸幕末期を舞台とする。
『帝都物語異録 龍神村木偶茶屋』(2001年)江戸幕末期を舞台とする。

『妖怪大戦争』(2005年)荒俣宏が脚本プロデュースした映画作品。加藤保憲が登場する。
『虚実妖怪百物語』(2011~18年)京極夏彦の妖怪クロスオーバー小説。加藤保憲が登場する。
『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年)荒俣宏が製作総指揮を担当した映画作品。加藤保憲が転生したとおぼしき人物が登場する。


おもな登場人物
加藤 保憲(かとう やすのり)
 明治時代初頭から昭和七十三(1998)年にかけて、帝都東京の滅亡を画策して暗躍する魔人。大日本帝国陸軍少尉、のち中尉。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
 長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、いかなる時代においても老いの感じられない20~30歳代の外見をしている。眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。秘術「屍解仙」を用いて転生したこともある。さまざまな形態の鬼神「式神」を使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。中国語や朝鮮語にも通じる。

 原作者の荒俣は、加藤保憲は連載開始当初、テクノポップバンド「プラスチックス」のギタリストとして活動していたグラフィックデザイナーの立花ハジメをイメージしていたと語り(2019年の取材記事より)、また映画『帝都物語』以降のシリーズ作品で加藤を演じた俳優・嶋田久作の談話(2011年の取材記事より)によると、荒俣は俳優の伊藤雄之助のイメージで執筆したと語っていたという。しかし、実際に加藤を演じた嶋田久作による演技と存在感は強烈で、荒俣自身も「加藤保憲は嶋田さんと2人で作り上げたキャラクターだ」と認めている。
 ちなみに「保憲」の名の由来は、平安時代中期に実在した有名な陰陽師・賀茂保憲(917~77年)による。


辰宮 洋一郎(たつみや よういちろう)
 大蔵省官吏。帝都東京の改造計画に加わり、明治時代末期から大正時代にかけての歴史の奔流を目撃する。物語の冒頭で平将門の霊を降ろす依代として加藤に利用される。
 妹の由佳里に執着しており、彼女が霊能力を持つに至った経緯や雪子の出生に関わりを持つ。

辰宮 由佳理(たつみや ゆかり)
 洋一郎の妹。平将門の依代となる程に強力な霊能力者であり、加藤や北一輝に狙われる。
 強度のヒステリー症状ないしは霊能体質を有するために、奇怪な事件に巻き込まれる。精神を病んで森田正馬医師の治療を受ける。

辰宮 雪子(たつみや ゆきこ)
 由佳里の娘。母から強い霊能力を受け継ぎ、そのために加藤に狙われる。
 品川のカフェで女給として働くが、二・二六事件に深く関わることとなる。

目方 恵子(めかた けいこ)
 辰宮洋一郎の妻。相馬俤神社の巫女。辰宮家と帝都東京を守るべく平将門の巫女として加藤と戦う。

鳴滝 純一(なるたき じゅんいち)
 東京帝国大学理学士。洋一郎の旧友。純朴な性格だが、由佳理を思慕するあまり、暴走することもある。

鳴滝 二美子(なるたき ふみこ)
 鳴滝純一の養子。多大な犠牲を出すこともいとわず野望を推し進める養父に心を痛める。

平井 保昌(ひらい やすまさ)
 日本陰陽道の名家・土御門家の老陰陽師。秘術を尽くして宿敵たる加藤と渡り合う。

クラウス
 救世軍の医師。加藤に精神を狂わされた辰宮母娘の治療にあたる。

黒田 茂丸(くろだ しげまる)
 風水師。風水術を操り寺田、恵子と協力して加藤と戦う。

トマーゾ
 帝都東京の支配を目論むメソニック協会日本支部を牛耳る、130歳を超える謎のイタリア人。高齢ゆえに重い障害を患っているが、特殊な力を持つ宝石「世界の眼(オクルス・ムンディ)」で補っている。髪の毛を意のままに操ることができる。

大沢 美千代(おおさわ みちよ)
 ある人物の転生した姿として誕生し、前世の記憶に目覚めていく。

団 宗治(だん むねはる)
 オカルト知識やコンピュータ技術を駆使し、大沢美千代と協力して加藤の放つ水虎や式神と対決する。

土師 金凰(はじ きんぽう)
 土師家棟梁。団や春樹と協力して加藤と戦う。

梅小路 文麿(うめこうじ あやまろ)
 華族出身の人物。新時代のために天皇を人胆の力で生かし続けていた。

平 将門(たいらのまさかど 903~40年)
 平安時代の関東地方最大の英雄。京の中央集権主義に刃向かい関東を独立国家化したため討伐されたが、その没後もなお千年間、大手町の首塚の下で関東と帝都東京を鎮護し続ける大怨霊。『帝都物語』シリーズ全体の根幹をなす最重要人物。

佐藤 信淵 (さとう のぶひろ 1769~1850年)
 江戸時代末期の経世家、鉱山技術家、兵法家。理想郷の実現を目指し、平将門ゆかりの下総国印旛沼をはじめ内洋すべてを干拓する生産向上計画を提唱した人物。統治論書『宇内混同秘策』は神道家・平田篤胤(1776~1843年)の日本中心主義を内包しつつ全世界を征服するための青写真を描いた一大奇書で、この中で「東京」という名称が初めて用いられたとされる。

渋沢 栄一(しぶさわ えいいち 1840~1931年)
 明治時代の日本を代表する実業家で、第一国立銀行初代頭取を務めるなど金融体制の設立にも尽力した自由競争経済設立の指導者。子爵。
 帝都東京を物理的、霊的に防衛された新都市にしようと秘密会議を開く。

織田 完之(おだ ひろゆき 1842~1923年)
 三河国生まれの農政家で歴史学者。平将門の名誉回復に尽力した。
 豪農の出身で勤王派に加わり、桂小五郎や高杉晋作らと交友したが、明治維新後は新政府の農業・干拓事業を担当、特に印旛沼の治水事業に尽力した。明治二十五(1892)年の引退後は「碑文協会」を設立し、二宮尊徳や佐藤信淵の思想体系の顕彰活動に尽力した。

セルゲイ=ドルジェフ(ゲオルギイ・イヴァノヴィチ=グルジエフ 1866~1949年)
 アルメニア出身の民族解放運動リーダー。邪視を用いる超能力者。学生運動のリーダーに呼ばれて来日し、恵子や加藤と戦う。

幸田 露伴(こうだ ろはん 1867~1947年)
 小説家で、明治時代最大の東洋神秘研究家。膨大な魔術知識を駆使して魔人加藤と戦い、追い詰める。
 『一国の首都』と題した長大な東京改造計画論を持ち、後年には寺田寅彦とも親交があった。

カール・エルンスト=ハウスホーファー(1869~1946年)
 ドイツ帝国陸軍少将で地政学者。ミュンヘンに生まれ、1887年にインド、東アジア、シベリアを旅行し、1909年から約2年間、日本にも滞在し、秘密結社「緑竜会」に入会した。
 地政学(ゲオポリティーク)を戦争の実用科学にまで高め、ミュンヘン大学の教授・学長を歴任し、初期ナチズムの神秘的教養を形成する影の参謀となった。

森田 正馬(もりた まさたけ 1874~1938年)
 精神科神経科医で精神医学者。クラウスと共に辰宮母娘の治療にあたる。
 寺田寅彦が幼少期を過ごした高知県に生まれ、犬神憑きなどの憑霊現象を研究する。後に「森田療法」として知られる独自の精神病治療法を確立した。

大谷 光瑞(おおたに こうずい 1876~1948年)
 仏教浄土真宗本願寺派第二十二世法主。加持祈祷によるアメリカ・イギリス・ソヴィエト連邦の首脳陣の呪殺を画策する。

寺田 寅彦(てらだ とらひこ 1878~1935年)
 東京帝国大学の物理学者。渋沢栄一の秘密会議に出席して加藤と出会い、迫りくる帝都東京滅亡の危機を必死で食い止めようとする。
 日本を代表する超博物学者でもあり、大文豪・夏目漱石の一番弟子。物理学者でありながらも超自然や怪異への限りない興味を抱き続けた。

北 一輝(きた いっき 1883~1937年)
 国家社会主義を掲げる思想家・社会運動家。『日本改造法案大綱』を発表し革命を目論むがシャーマンでもあり、革命を阻害する大怨霊・平将門を倒すべく暗躍する。

西村 真琴(にしむら まこと 1883~1956年)
 北海道帝国大学の生物学教授。帝都東京の地下鉄道路線の工事現場に巣食う鬼を人造人間「学天則」で退治する。

大川 周明(おおかわ しゅうめい 1886~1957年)
 超国家主義を掲げる思想家。帝都東京の奥津城に眠る怨霊の正体を探る命を加藤から受ける。

石原 莞爾(いしわら かんじ 1889~1949年)
 大日本帝国陸軍中将。『世界最終戦論』を掲げ、北一輝と同じ法華経オカルティストでありながらも、二・二六事件にて立場の違いから北と対立する。

甘粕 正彦(あまかす まさひこ 1891~1945年)
 満洲国警察庁長官。東条英機の子飼いの部下であり、加藤やトマーゾと関わり満州国で暗躍する。

辻 政信(つじ まさのぶ 1902~61年以降消息不明)
 大日本帝国陸軍将校。戦後、東南アジアに潜入しドルジェフと闘う。

愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ 1906~67年)
 中国・清帝国最後の皇帝にして満州国皇帝。大日本帝国陸軍関東軍の監視下で疲弊し、オカルティズムに傾倒するようになる。

中島 莞爾(なかじま かんじ 1912~36年)
 大日本帝国陸軍少尉。雪子と恋仲となるも、北一輝に傾倒して二・二六事件に参加する。

角川 源義(かどかわ げんよし 1917~75年)
 帝都東京の怨霊鎮魂のため、人骨を砕いた灰を撒き続けた。

角川 春樹(かどかわ はるき 1942年~)
 源義の長男。角川書店社長となるも突如出奔し、奈須香宇宙大神宮の大宮司として東京の破滅を見届ける。

三島 由紀夫(みしま ゆきお 1925~70年)
 中島莞爾の怨霊に取り憑かれていた大蔵省官吏。後に小説家に転向する。自衛隊に体験入隊した際に加藤から修練を受ける。

フサコ・イトー(重信 房子 1945年~)
 ドルジェフの側近。

藤森 照信(ふじもり てるのぶ 1946年~)
 路上観察学会の建築史家。鳴滝の依頼により震災の瓦礫を発掘する。

滝本 誠(たきもと まこと 1949年~)
 団の友人のジャーナリスト。政府の陰謀を察し、行動する。


映画化・アニメ化・マンガ化作品
映画『帝都物語』(1988年1月公開 135分 エクゼ)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』の映画化作品。日本初の本格的ハイビジョン VFX映画。加藤保憲の役に、当時小劇場俳優で庭師として生計を立てていた嶋田久作が抜擢された。登場する人造ロボット「学天則」の開発者・西村真琴の役を、真琴の実子の西村晃が演じている。 監督・実相寺昭雄、脚本・林海象、製作総指揮・一瀬隆重、特殊美術・池谷仙克、画コンテ・樋口真嗣、特殊メイク・原口智生、コンセプチュアル・デザインH=R=ギーガー。音楽・石井眞木。製作費10億円、配給収入10億5千万円。

映画『帝都大戦』(1989年9月公開 107分 エクゼ)
 原作小説『戦争編』を原作とするが、登場人物の設定などが変更されている。監督は当初、香港映画界の藍乃才が務める予定だったが直前に降板したため、前作『帝都物語』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めた一瀬隆重が製作総指揮と監督を兼任した。脚本・植岡喜晴、音楽・上野耕路、特殊効果スクリーミング・マッド・ジョージ、特殊メイク・原口智生。配給収入3.5億円。

映画『帝都物語外伝』(1995年7月公開 89分 ケイエスエス)
 小説『帝都物語外伝 機関童子』を原作とするが、内容は大幅に異なる。監督・橋本以蔵、脚本・山上梨香、主演・西村和彦。

OVAアニメ版(1991年リリース 全4巻 マッドハウス)
 原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』のアニメ化作品。加藤保憲の声は実写版と同じく嶋田久作が担当した。脚本・遠藤明範、キャラクターデザイン・摩砂雪、シリーズ監督・りんたろう。作画スタッフには鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏、庵野秀明らが参加していた。

コミカライズ版
川口敬『帝都物語』(1987~88年 小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて連載)
 映画『帝都物語』公開に合わせての連載で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。未単行本化。
藤原カムイ『帝都物語 Babylon Tokyo 』(1988年 角川書店)
 映画『帝都物語』公開に合わせての刊行で、原作小説の『神霊篇』~『龍動篇』をマンガ化している。
高橋葉介『帝都物語 TOKIO WARS 』(1989年 角川書店)
 映画『帝都大戦』公開に合わせての刊行で、原作小説の『魔王篇』と『戦争篇』をマンガ化している。


 ……はいっ、というわけでございまして、昭和末期の幻想小説界に屹立する伝説のサーガ『帝都物語』のご登場でございます。
 なんで今さらっつうのは、そりゃもう私んちの「積ん読」の中でふつうに順番が回ってきたから、ただそれだけ。何十冊も控えているベンチの中でもぶっちぎりの最古参作品で、未読でもなく再読という形になるのですが、なんせ読んだのが四半世紀以上前の中学生時代なので、ほぼ内容を覚えてない……なので、今回あらためて最初っから最後までしっかり読んでみようというこころみです。

 上の概要説明にもある通り、一般に映画などのメディア化作品でよく知られているお話は『帝都物語』全体のほんの前半だけですし、原作者の荒俣先生は引き続いて『帝都物語』の前日譚、番外編、スピンオフ作品を出している状況です。ここらへんの作品世界のいびつな広がりは、鈴木光司先生の手を離れたり戻ったりしている山村貞子姐さんの『リング』シリーズの大先輩といった感じなのですが、昭和生まれの架空キャラクター、しかも悪役として稀有な存在感のある「加藤保憲」の魅力の原点を読み直してみたいと思います。俳優・嶋田久作さんの影響を受けていない加藤保憲オリジンも、これはこれで魅力的な人物なんですよね!

 時代を超えても愛され続けるキャラクターって、いいですよね。
 こういう話をすると私が必ず思い出してしまうのは、これ、このブログで当時つづっていたのかどうかは覚えていないのですが、特撮界にも甚大な貢献をしてくださったあの天才美術家・韮沢靖さんのトークイベントでのやり取りです。
 2012年だったか13年だったか、新宿かどこかのなんでもないビルの一室で開かれていたイベントだったのですが、質問コーナーの中で私が不遜ながらも韮沢さんに(なんか「先生」と呼べないあたたかみのある方でした)、「魅力的な日本発祥のヴィランは誰ですか?」と聞いたことがありまして、それに対して韮沢さんが挙げられていたのが「ばいきんまん」と「加藤保憲」だったと記憶しているのです。ばいきんまんはすでに描いたことがあると語られていたのですが、加藤は描いてみたいね~、みたいに語っていたような。なつかしいな~。雨の日のすてきな催しでした。
 そういえば、韮沢さんは加藤保憲とは、映画『妖怪大戦争』(2005年)でニアミスしてましたよね。韮沢さんのキャラデザインによる21世紀の加藤保憲、観てみたかったなぁ。

 嶋田久作さんは現在も現役バリバリですし、嶋田さん以降も加藤を演じる俳優さんは散発的に出ている状況ではあるのですが、派生作品へのチョイ出演とかじゃなくて、ちゃんと新鮮な「怪優」さんが作品の中心ど真ん中に入ってリファインされた『シン・帝都物語』が、再び世に生まれてもいいような気もするんですけどね~。庵野さんも樋口さんも関わりのある作品ではあるので、次、どっすか!?

 そんなこんなで、この企画では次回から、小説の方の『帝都物語』とその後続作品をメインに、ひとつひとつを読んでの感想をつったかたーつったかたーと記していきたいと思います。なつかしさ半分の記事になりますが、現代への影響も非常に大きいエバーグリーンな作品であります。古きを尋ねて新しきを知ろうということで、ひとつ!

 カトォが、く~るぞォ~!! 宿題やれよ!!
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