あぢぢ、あぢぢ~。どうもこんにちは、そうだいでございまする~。
いや~、ヤバいですねぇ……湿度がたっぷりある蒸し暑さの到来であります。明け方か夕方にドッカーン!!と豪雨が降って、日中は基本的に晴天、という流れもかなりおなじみのものになってきちゃいましたね。昼間の試験勉強がきついなぁ。まぁ、そのぶん夜中にやってるからいいんですけど。
あいかわらず「もう安心!」の最初の子音の「m」さえも見えていない勉強の進度なのですがまぁ、今のところは独学の良さというところでマイペースに無理せずやれてきております。
こういうときは、現在のお仕事にしろ次のお仕事探しにしろ、友達と会うにしろひとり遊びにしろ、とにかくなんでもいいけど外に行くのが最高の気分転換になりますね。もともと一日中がんばって詰め込むということができないたちなもんで、適当にフラフラしながらやってま~す。
試験勉強は「新しいことをおぼえる楽しみ」が味わえるのがいいですね。ここがないと頭にも入ってこないから。高校時代の私自身に教えてやりたいですよ、ホントに……脳細胞若いくせに休ませてんじゃないよ、コノヤロ~!! 恋しろよ!
実はその、おとといに自分の中では「史上最大規模の息抜き」をしたんですが……これは今は語るのはやめておきましょう。来月の試験後に語っても遅くはないでしょうから。この幸せは胸の中におさめておきたいです。まさかこんな日を迎えてしまったとは。大学時代の自分に自慢してやりたいですよ! 思わずフラワーカンパニーズの『深夜高速』のサビ部分を絶唱してしまいかねないひとときでした。
さぁ、そんなことはいいとしまして。
今回は久しぶりに、読む方々に「知らねぇよ、そんなもん!」と思わせてしまうようなお題をあつかってみたいと思います。いや、まぁ毎回毎回この『長岡京エイリアン』の存在自体が「知らねぇよ、そんなもん!」なわけなんですが。
「2010年9月の記事」といいますから、もう2年ちかく昔のことになるんですけど、私はこの『長岡京エイリアン』で、自分がど~しようもないポンスケ高校生だったころに愛読していたエロマンガ雑誌『月刊COMIC Zip 』(フランス書院)との出逢いの思い出を語ったことがありました。
この雑誌は、「日本の官能小説出版界の雄」としてその名をとどろかせるフランス書院が、1994年8月から2003年2月までおよそ10年間刊行していたもので、もともと隔月刊だったものが1995年8月からは月刊誌化されていました。
さらにたどると、この『COMIC Zip 』はフランス書院の主力エロマンガ雑誌だった『月刊COMIC パピポ』(1991年6月~2007年10月)から分立した増刊号『隔月刊 パピポ外伝』(1992年10月~99年5月)からさらに独立したものでした。
あぁ~、あったあった、『パピポ』! でも、知らない作家さんもいるし、それになんか「浮気」するのはいけないんじゃないかという100% 意味のない倫理観から、私は『パピポ』買わなかったなぁ~。
私が『COMIC Zip 』を買っていたのは確か1995年の夏から翌97年いっぱい……くらいだったかなぁ。
たいして長くは購読していなかったものの、いい感じに実験的な作品が多くあって、思いっきり世界観のできあがっている SFファンタジーものから、「かなりキツいこと」をヒロインに強要する日常ものまで、なかなか読みごたえのある充実した雑誌だったと記憶しています。
そうか、ちょうど『COMIC Zip 』が月刊化したときから読み始めたのか。そういえば、雑誌の最後の『ジャンプ放送局』みたいなハガキコーナーでも、「月刊化おめでとう!」みたいな投稿があったような。エロ、マンガ、活字にかかわらず雑誌ならどこでもそうですけど、はがき投稿コーナーの充実度は雑誌全体のクオリティのいい指針になりますよね。
こういう資料で振り返ってみると、『COMIC Zip 』が月刊誌となった1995年から、『パピポ外伝』が休刊する1999年までの1990年代後半がフランス書院のエロマンガ部門にとっての「最盛期」だったことが見えてきますね。その後は2003年に『COMIC Zip 』が、2007年には『パピポ』が休刊して、ついにフランス書院はエロマンガ市場から撤退して現在にいたっているというわけなのです。
そういえば、大学時代(2000年代初頭)に近所の古本屋で「1冊60円」みたいなたたき売りで休刊直前の『COMIC Zip 』がならんでいたのを見たときには、「まだやってたんだ!」という感慨と、「知ってる作家さんがひとりもいない……」という孤独感におそわれたものでした。時はそうやって流れていくんだねい。
1995~97年ごろに『COMIC Zip 』で作品を発表していた作家さんは基本的に全員大好きだったのですが、現在も現役で活躍なされているのはどのぐらい残っておられるんでしょうか。
私が思いつくかぎりでは、安藤慈朗(当時はあるまじろう)先生と小野敏洋(当時は上連雀三平 大好きだった!!)先生と朔ユキ蔵先生くらいかなぁ。あれ、朔先生は『COMIC Zip 』じゃなかったかな?
みなさん、現在は一般マンガ家として大成なされているんですけれども、小野先生は「あんなエロマンガ」を描いていたのに今は『コロコロ』系みたいな子ども向けの作品をフィールドにしてるんですからね……まぁ天才ですよ。「超危険」と「ごく健全」の両面を持っていながら、そのどちらもが小野先生なのだというこのバランスは、現在存命の作家さんの中では最も「手塚治虫に近い」ものがあるんじゃないんでしょうか。今はエロマンガ描いてないんですか? 描いてほしいなぁ~! でも、描いたら大変なことになるんだろうなぁ~。
前置きはここまでにしておきまして、今回私が注目したいのは、そんな個性的な作家陣の中でも特に強烈な異彩を放っておられた、この作家さんなんです。
香愁(かしゅう 別ペンネーム・果愁麻沙美)
具体的なプロフィールはまったくわかりません! おそらく女性であることは間違いなさそうなんですが……
このひとは異色でしたねぇ~!! なにが異色って、本物の少女マンガ家もはだしで逃げ出す美麗な描線で「かれんな美少女」と「白皙の美少年」とのロマンスを描いておきながら、いざ「こと」におよぶとプレイがアブノーマル、アブノーマル!!
具体的にどうアブノーマルなのかを説明するのは……やめときます!
やめときますが、香愁先生が作中でよく使うアイテムに「灯油をじゅぽじゅぽするアレ」があるということだけを言っておいて、あとはみなさまのご想像にお任せしたいと思います。危険だ~!!
この方はまぁ~ほんとに、自身の作品に貫かれている「美学」みたいなものがバチコーン!と定まっている方でして、まず美少女か美少年しか出てきません。年をとった人物が登場するとしても、ステッキの似合うダンディか古城に住まう王侯貴族といったふぜいの、気品あふれる紳士淑女にしかセリフは割り当てられないのです。
手がける作品は短編・長編を問わず、すべての作品で10代の女の子が主人公になっていて、現代の日本が舞台なら必ず偏差値の高そうなシャレオツな制服の女子中高生、中世ヨーロッパふうのファンタジー設定なら白亜の城のお姫さま、という感じで相場が決まっていました。
そ、そんなかれんな乙女たちが、現実の世界でやったら即刻病院送りになりそうなあんな目にあわされるとは……!
好きでしたねぇ。
私のいろんな技術不足のせいで、手っ取り早く画像というかたちで香愁先生のものすごさを説明できないのが大変に恐縮なのですが、香愁先生の魅力は、「美しいものしか描かない。そして、その美しいものを美しくけがす!!」という、その妥協のない哲学に裏打ちされた美麗な細密描写。これに尽きます。
確かに、2010年代の現在から見れば多少、キャラクターの顔つきが1990年代のアニメ的(いわゆる『新世紀エヴァンゲリオン』以前)で目が大きかったりもするのですが、ぜい肉のかけらもない、常に立体的なリアリズムをたたえている男女の肉体描写と、そこからバンバン繰り出されるアクションの数々は、エロマンガだの少女マンガだのという障壁を超えて、「香愁というジャンル以外の何者でもない」孤高の存在感をはなっていたんじゃないかと思います。
私もそんなにマンガを読んでいる人間ではないのでデカい口はたたけないのですが、とにかく「絵のうまさ」という点においては、私は今までエロだろうが一般だろうが、この香愁先生以上だと認識したマンガ家さんには一度も出会ったことがありません。
そんな香愁先生だったのですが、私が夢中になっていたのは高校生時代のたった2年間ほど。その後はさすがに大学受験でエロマンガからも離れていってしまい、『COMIC Zip 』も香愁先生も、忘却のかなたへ置き去りにされていってしまったのでした。
ところが、そんな私が去年あたりからやり始めるようになったのが、自宅にいながらにして絶版になった本やら廃盤になったCD やらがチョチョイのチョイクリックでお安く手に入るアマゾンショッピングというわけ! 遅すぎ……
と、いうことでありまして、私が香愁先生のことを思い出し、「『COMIC Zip 』以外にどんな仕事をやってたんだろう? 古本で安くなってるだろうし、ここはいっちょ、香愁先生の単行本をコンプリートしてみっか!!」と決意するまで、さほどの時間は必要なかったのでありました。
さァ、その結果わが家に集まったのが、以下のラインナップというわけ。
知ってどうする!? 香愁(果愁麻沙美)エロマンガ・オールワークス
『とこしえのソドム』(1994年8月 三和出版)「香愁」名義
1993年4~9月に『COMIC フラミンゴ』などに掲載された短編8作を収録
『プラグインせのあ』(1995年6月 三和出版)「香愁」名義
SFアクション長編『プラグインせのあ』シリーズ全9話を収録
『風のクルエルティア』(1996年5月 三和出版)「香愁」名義
怪奇コメディ長編『風のクルエルティア』シリーズ全9話を収録
『シリー・ピーチ・ラヴ』(1996年8月 三和出版)「香愁」名義
実の兄を慕う妹・水音(みずね)は、兄を恋のライヴァルに取られないようHに頑張ってしまう……(『Silly Peach 』)
『とこしえのソドム』以降に掲載された中シリーズ『Silly Peach 』全6話と短編8作を収録
『夢跡のメモリオーラ』(1997年8月 フランス書院)「果愁麻沙美」名義
1996年7月~97年3月に『COMIC Zip 』に掲載された短編8作を収録
『ベルジェフスカの城 残酷美学物語』(1999年5月 三和出版)「香愁」名義
謎の都市・ラズモフスカ、そして世界の破滅を企てるベルジェフスカ大学。その恐るべき野望を阻止せんとする美少女戦士達の命をかけた戦いを描く。
1997年8月~99年2月に『COMIC Zip 』で連載されたオカルトアクション長編『ベルジェフスカの城』全3章を収録
『ウラ23区』(2000年4月 三和出版)「香愁」名義
教え子と関係する女教師の孤独な内面が垣間見える『「さん」づけの孤独』、オフィス街でH行為に至ってしまうカップルを描く『丸の内 HIGH NOON SNAP』ほか。
1998年1月~99年3月に『COMIC フラミンゴ』と『COMIC Zip 』に掲載された短編8作と単行本書き下ろし短編『透明な劇場』を収録
『まりのゲリラ』(2001年8月 三和出版)「果愁麻沙美」名義
オレは万里野まりの。下町の天才バレリーナ。昔に家出したママの帰りを待ちながら、オヤジと二人の貧乏暮らし。この町には旧日本軍の宝が隠されてるって噂があって、オヤジは何か知ってるみたいなんだよな……
2001年1~7月に『COMIC アイラ』で連載された昭和活劇長編『まりのゲリラ』全7話を収録
※その後、「果愁麻沙美」名義で『COMIC アイラ』にて2001年8月~02年3月に長編シリーズ『ソニア・ソニック』を連載し、2002年4月に短編『改造都市?』も掲載していたが、2002年9月に『COMIC アイラ』は休刊し、『ソニア・ソニック』の単行本化はされていない
これだけだったんですね。香愁先生の単行本は8冊しか刊行されていなかったんです。
もう10年以上のことになるんですよ……当然ながら、ほとんどのアマゾン価格は「1円」! 哀しきお手ごろ価格でありました……
ところで上述のとおり、『COMIC Zip 』で先生が使用していたペンネームは「果愁麻沙美」だったのですが、今回の文章では便宜上、使用頻度の高かった「香愁」のほうで統一させていただきたいと思います。
入手できた作品を読むかぎり、先生の中で「香愁」と「果愁麻沙美」とを掲載雑誌や作品ごとに明確に使い分けているというルールは特にないらしく、単に1990年代後半から「果愁麻沙美」というペンネームも使うようになった、ということだけのようです。
それにしても、ついにすべて集めてしまった……でも集めたところで、なんかひとつだけ願いごとがかなったりするノベルティは、ない! ギャルのパンティひとつ降ってきやしません。
ともあれ、今回こうして香愁先生の単行本をぜんぶ集めることに成功し、ドキドキワクワクしながらページをめくっていったわたくし。
出版された全作品を読了したあと、心に残ったのはこういった思いでした。
う~む、総じてエロくない!!
まぁ、そりゃあそうですよ……一般のマンガ界だってそうかもしれませんが、エロマンガ業界は「絵柄のはやりすたり」が非常に激しく、ちょっとでも古臭い要素が見え隠れしていれば、(主に)読む男性読者の気持ちの昂ぶりは一瞬にして冷めきってしまうのです。
あと、これは私の経験が根拠となっているだけの私見になるのですが、エロマンガの内容の「過激度」は、ちょうど『COMIC Zip 』が刊行されていた時期に当たる「1990年代後半~2000年代初頭」をピークにして頭打ちになっているような気がするのです(絵のクオリティはそれ以降も上がり続けているとしても)が、それ以前、つまり上の香愁作品でいう『とこしえのソドム』~『シリー・ピーチ・ラヴ』の4作品に関しては、ちゃんとそれなりの「こと」には及んでいたのだとしても、今の視点から見れば「描写がソフトすぎて実用的でない」レベルだといわざるを得ないわけなのです。なにをまじめな口調で語っているんだ、おれは……
とはいいましても、香愁先生特有の「美少女を美少女と見ない危険プレイの連続」は、なんとすでに第1単行本『とこしえのソドム』に収録されている処女作『SHY SHY DRESSING 』からしっかり始まっていました。ちなみに、そこで最初に展開されていた危険プレイは「人間いけばな教室」。先生、最初っからトップギアよ~!!
毎回ヒロインたちにムチャ振りされていたあれこれをリストアップしたい衝動にもかられるのですが……やめときましょうね、うん。
今回の全作品コンプリートでわかった、香愁先生に関する新事実はいろいろあったのですが、まず私から見てけっこうおもしろかったのは、私がそれしか知らなかった先生の『COMIC Zip 』での仕事が、もっぱら「アウェー」の要素を多分に含んだものであった、ということです。
上のラインナップを見てもわかるとおり、香愁先生のホームグラウンドは『COMIC Zip 』のフランス書房ではなく、『COMIC フラミンゴ』と『COMIC アイラ』の展開されていた三和出版だったのです。いつからかはわからなかったのですが、先生は『フラミンゴ』末期の表紙イラストも担当していました(少なくとも2000年いっぱい)。
三和出版のエロマンガ雑誌の流れとしましては、1993年ごろ~2000年5月に発行されていた月刊エロマンガ雑誌『COMIC フラミンゴ』の後継誌が『COMIC アイラ』(2001年1月~02年9月)で、その流れは『アイラ・デラックス』(2002年10月~05年4月)、『フラミンゴR』(2005年5月~06年8月)と続いて途絶えたと、まぁこんな感じになります。
現在、エロマンガ市場から完全撤退しているフランス書房とは違って、三和出版は2012年現在も『月刊COMIC MASYO(ましょう)』という雑誌を展開しているのですが、実は同じ三和出版でも、香愁先生のいた『フラミンゴ』~『フラミンゴR』の流れと、この『MASYO 』とはまったく別系統のエロマンガ雑誌となっているようです。
そう、『COMIC MASYO 』はいたって健全なエロマンガ雑誌なのですが、『フラミンゴ』系はこれ、「SM 」と言うのも生やさしい「鬼畜系」!! え、血? 流れないわけがないでしょう。
誓って言いますが、こんな個人ブログをつづって、一応ある程度の変態を自認している私そうだいでも、実はこの『フラミンゴ』系はなかなかどうして敷居の高いものがあります……現在は後継誌はないわけなのですが、むしろ2005年までよく続いてたもんですよ。
『フラミンゴ』系の常連作家陣は、駕籠真太郎、天竺浪人、町野変丸、掘骨砕三、しのざき嶺といった感じでして……知っている人の実に97% がドン引きし、3% がモーレツに興奮する陣容です。みなさん、「氏賀Y太」という先生のお名前の読みかた、わかります? その読みあげた言葉こそが、『フラミンゴ』系の本質だと言っても間違いないわけなのです。なんで「フラミンゴ」なんでしょうか……鳥の名前じゃなくて「映画の名前」が由来なんでしょうね、きっと。
そんな中で作家としてのキャリアを開始させたのが香愁先生だったんですから、そりゃあムチャしますわな。たぶん、『フラミンゴ』~『アイラ』での立ち位置は「かわいらしい絵柄の箸休め」みたいなところだったのではないかと。レベルの目盛がムチャクチャなんですよ!
ここまできてやっとわかったのですが、エロマンガ家としての香愁先生は、実は「ホーム」ではエロさはさほど要求されておらず、「アウェー」となった『COMIC Zip 』のほうが逆にエロマンガ家らしい仕事になっているという、なんとも不思議な逆転現象が発生していたのです。可愛い娘には旅をさせよ、ってことなんでしょうか。
ここに、私が今回のタイトルで香愁先生のことを「孤高の流れ星」と言いあらわしたゆえんがありまして、先生の活動自体は1993~2002年の9年間ということで、決して短い期間ではなかったのですが、「独特の美学を持ち続けた」香愁という才能が「エロマンガ家としての人気」という歯車とかみあったのは、私が目の当たりにした『COMIC Zip 』出張時期の約2年間に限るものがあったんじゃなかろうかと思うんですね。
わかりやすく言えば、香愁という流星が大気圏に突入してきらめいた時期、そここそが第5単行本『夢跡のメモリオーラ』に凝結されている期間だったということだったのです。
実際に香愁先生の画力は、場数を踏んだことによる上達もさることながら、『COMIC Zip 』のお仕事と時を同じくしてパソコン技術を積極的に導入したことによって1996年ごろを契機に爆発的にアップしており、ここにきてやっと香愁イズムが、単なる「少女マンガ調のエロマンガ」という部分を脱して「香愁」という一ジャンルを築くにふさわしい「肉体」をそなえた、とも言える段階にいたったんですね。
ところが、はっきり言わせていただけるのならば、香愁先生が「読んでエロいマンガ」という意味でのエロマンガを描いた時期はこの『夢跡のメモリオーラ』だけだったと言わざるをえませんでした。
その後、先生は『ベルジェフスカの城』と『まりのゲリラ』という、自身のキャリアのクライマックスとも言えるとてつもない2大長編を世に問うことになったのですが、これがまた、エロくないエロくない!! 画力は引き続きうまくなっているのにも関わらずですよ!?
これはもう、端的に言えば香愁先生の美学が成熟しすぎて「エロマンガ」という即物的・実用的な要求を完全に突き抜けてしまった。そういうことだったのではないでしょうか。
この2作品は1コマ1コマに投入された情報が絵柄・セリフともに異常に濃密過ぎて、1回や2回読んだだけではまるで展開が理解できない、けれども読めば読む程じわじわおもしろくなってくる「するめマンガ」になっているのです……
ところで、そこのエロマンガを読んだことのあるあなた。あなたがエロマンガに要求するものって、「するめ」じゃなくて、最初にパッと読んだ段階でちゃんと「役に立つ」ってところじゃありませんこと?
そうなんです。香愁先生の作品レベルは、そのキャリア終盤ではすでにエロマンガの領域を超えてしまっていたのでした……流星は大気圏を突破したかと思ったら、地上に落ちることなくまた大気圏に突入して大宇宙へと消え去っていったのだった! 地球素通り!!
だってさぁ、「謎の都市ラズモフスカ」とか「ベルジェフスカ大学」とか言われましても、ねぇ……こっちはウキウキワクワクしながら人目を気にしつつ買ったわけでして。思春期の男どもはガン首そろえて「ポッカ~ン」ですよ。客が悪かったね、先生!
ともあれそんなわけでして、私があのとき惚れ込んだ香愁先生は、自身の哲学を体現できる肉体を手にしたのち、手に入れたがゆえにその速度をゆるめることができなくなり、狭い日本マンガ界をあとにすることとなったのでした。こんな退場の仕方をしているお方がいたとは……ただひたすら敬服するばかりです。
こんなわけなので、今回のコンプリートで私は「エロいマンガ」を入手することはかなわなかったのですが、『ベルジェフスカの城』と『まりのゲリラ』という「もんのすごいマンガ」を手に入れることはできたのでした。これはいい買い物でしたわ!
特に『まりのゲリラ』。これがまぁ~すごい。
この作品は、いちおうやたらと女性キャラが裸になる展開はそこかしこに用意されてはいるのですが、肝心の「こと」におよぶ場面は単行本一冊ぶん、まるまる一切ありません!
時代設定は「昭和30年代の公害はなやかなりしころの東京」で、主人公は「下町の天才バレリーナ少女」。作品のテーマになるものは「旧日本軍の隠し資金」で、それをめぐって争うのはむさい顔のおっさんだらけの地元・荒川警察署と謎の公安2人組。少女たちに襲いかかるのは突然変異で巨大化した体長1メートルものザリガニ軍団……
エロマンガの要素がひとっつもないのですが、な~んかおもしろそうじゃありませんこと? 主人公たち下町のバレエ学校生徒は、家が貧乏なので着の身着のままのレオタード&タイツ姿で生活しているという涙ぐましいライフスタイルです。でも、それにめげず下ネタを連発しながら大人たちをだしぬいていく彼女たちの明るすぎる勇姿には間違いなく、それまでの香愁作品お決まりのパターンである、受身一辺倒のヒロイン像にはなかった新境地がありました。
ここにきて初めて、「今までの恨み!」とばかりに男どもに高々と反旗をひるがえすこととなったヒロインたち。だって、肛門括約筋で人の指を折ったり、膣圧で人のベロをぶっちぎったりするんですよ!? 痛快ね~。
また、ここに登場するオッサン連中も今までにはなかった非常に人間くさくて欠点の多いキャラクターばかりになっていて、そこにも大きな可能性に満ちた輝きがありました。出てくる顔ぶれがのきなみ俳優の小林昭二、寺田農、天本英世、岸田森といった面々にそっくりなのも、実に香愁先生らしいお遊びでしたね。
ただ、とにかく残念なのはそんな『まりのゲリラ』が香愁先生の最後の単行本となったことですね。いや、むしろこれは、香愁先生があえて世間に突きつけた「絶縁状」だったのかもしれません。そのあとに連載されて単行本化されることのなかった『ソニア・ソニック』も読んでみたい気もするのですが、『まりのゲリラ』が、まったくエロくなくてもひとつのマンガ作品としてびっくりするほど完成された作品だったので、ここをもって香愁先生のキャリアの完結と見ても良かったのではないでしょうか。
まぁいろいろ言ってきましたが、こんなに長々と語っておきながら、作品がほとんど全部「絶版」という、この意味のなさね。すすめたところで読んでもらえないんじゃんか~!!
じゃあ、この記事を読んでいるあなたに何を言いたいのかといいますと、とにかく昔に「香愁」という不世出の天才がいたという事実を知っていただきたかったのです。そして、機会があったらどこかの古本屋さんで入手して読んでいただければうれしいし、もっと欲を言うのならば、わたくしのようなファンがいたことを、何らかの形で「香愁先生ご本人」に知っていただけたのならば、もうそれ以上の喜びはないと。
可能性もゼロにひとしいし、ありえないことなのかもしれませんが、こうやって個人ブログに思いのたけを語っていれば、まかり間違っていつの日にか、大宇宙のどこかにいるはずのあの流星にその声が届く日があるのかも。少なくとも、私は心の中にその希望の灯をともしながら生きていきたいんですなぁ。
完全なる自己満足ですけれども、そんなロマンを夢見ながら、今日も遠大なる香愁ワールドをひもとく私なのでありました~。
いや~……何回読んでもわけわかんねぇわ……
いや~、ヤバいですねぇ……湿度がたっぷりある蒸し暑さの到来であります。明け方か夕方にドッカーン!!と豪雨が降って、日中は基本的に晴天、という流れもかなりおなじみのものになってきちゃいましたね。昼間の試験勉強がきついなぁ。まぁ、そのぶん夜中にやってるからいいんですけど。
あいかわらず「もう安心!」の最初の子音の「m」さえも見えていない勉強の進度なのですがまぁ、今のところは独学の良さというところでマイペースに無理せずやれてきております。
こういうときは、現在のお仕事にしろ次のお仕事探しにしろ、友達と会うにしろひとり遊びにしろ、とにかくなんでもいいけど外に行くのが最高の気分転換になりますね。もともと一日中がんばって詰め込むということができないたちなもんで、適当にフラフラしながらやってま~す。
試験勉強は「新しいことをおぼえる楽しみ」が味わえるのがいいですね。ここがないと頭にも入ってこないから。高校時代の私自身に教えてやりたいですよ、ホントに……脳細胞若いくせに休ませてんじゃないよ、コノヤロ~!! 恋しろよ!
実はその、おとといに自分の中では「史上最大規模の息抜き」をしたんですが……これは今は語るのはやめておきましょう。来月の試験後に語っても遅くはないでしょうから。この幸せは胸の中におさめておきたいです。まさかこんな日を迎えてしまったとは。大学時代の自分に自慢してやりたいですよ! 思わずフラワーカンパニーズの『深夜高速』のサビ部分を絶唱してしまいかねないひとときでした。
さぁ、そんなことはいいとしまして。
今回は久しぶりに、読む方々に「知らねぇよ、そんなもん!」と思わせてしまうようなお題をあつかってみたいと思います。いや、まぁ毎回毎回この『長岡京エイリアン』の存在自体が「知らねぇよ、そんなもん!」なわけなんですが。
「2010年9月の記事」といいますから、もう2年ちかく昔のことになるんですけど、私はこの『長岡京エイリアン』で、自分がど~しようもないポンスケ高校生だったころに愛読していたエロマンガ雑誌『月刊COMIC Zip 』(フランス書院)との出逢いの思い出を語ったことがありました。
この雑誌は、「日本の官能小説出版界の雄」としてその名をとどろかせるフランス書院が、1994年8月から2003年2月までおよそ10年間刊行していたもので、もともと隔月刊だったものが1995年8月からは月刊誌化されていました。
さらにたどると、この『COMIC Zip 』はフランス書院の主力エロマンガ雑誌だった『月刊COMIC パピポ』(1991年6月~2007年10月)から分立した増刊号『隔月刊 パピポ外伝』(1992年10月~99年5月)からさらに独立したものでした。
あぁ~、あったあった、『パピポ』! でも、知らない作家さんもいるし、それになんか「浮気」するのはいけないんじゃないかという100% 意味のない倫理観から、私は『パピポ』買わなかったなぁ~。
私が『COMIC Zip 』を買っていたのは確か1995年の夏から翌97年いっぱい……くらいだったかなぁ。
たいして長くは購読していなかったものの、いい感じに実験的な作品が多くあって、思いっきり世界観のできあがっている SFファンタジーものから、「かなりキツいこと」をヒロインに強要する日常ものまで、なかなか読みごたえのある充実した雑誌だったと記憶しています。
そうか、ちょうど『COMIC Zip 』が月刊化したときから読み始めたのか。そういえば、雑誌の最後の『ジャンプ放送局』みたいなハガキコーナーでも、「月刊化おめでとう!」みたいな投稿があったような。エロ、マンガ、活字にかかわらず雑誌ならどこでもそうですけど、はがき投稿コーナーの充実度は雑誌全体のクオリティのいい指針になりますよね。
こういう資料で振り返ってみると、『COMIC Zip 』が月刊誌となった1995年から、『パピポ外伝』が休刊する1999年までの1990年代後半がフランス書院のエロマンガ部門にとっての「最盛期」だったことが見えてきますね。その後は2003年に『COMIC Zip 』が、2007年には『パピポ』が休刊して、ついにフランス書院はエロマンガ市場から撤退して現在にいたっているというわけなのです。
そういえば、大学時代(2000年代初頭)に近所の古本屋で「1冊60円」みたいなたたき売りで休刊直前の『COMIC Zip 』がならんでいたのを見たときには、「まだやってたんだ!」という感慨と、「知ってる作家さんがひとりもいない……」という孤独感におそわれたものでした。時はそうやって流れていくんだねい。
1995~97年ごろに『COMIC Zip 』で作品を発表していた作家さんは基本的に全員大好きだったのですが、現在も現役で活躍なされているのはどのぐらい残っておられるんでしょうか。
私が思いつくかぎりでは、安藤慈朗(当時はあるまじろう)先生と小野敏洋(当時は上連雀三平 大好きだった!!)先生と朔ユキ蔵先生くらいかなぁ。あれ、朔先生は『COMIC Zip 』じゃなかったかな?
みなさん、現在は一般マンガ家として大成なされているんですけれども、小野先生は「あんなエロマンガ」を描いていたのに今は『コロコロ』系みたいな子ども向けの作品をフィールドにしてるんですからね……まぁ天才ですよ。「超危険」と「ごく健全」の両面を持っていながら、そのどちらもが小野先生なのだというこのバランスは、現在存命の作家さんの中では最も「手塚治虫に近い」ものがあるんじゃないんでしょうか。今はエロマンガ描いてないんですか? 描いてほしいなぁ~! でも、描いたら大変なことになるんだろうなぁ~。
前置きはここまでにしておきまして、今回私が注目したいのは、そんな個性的な作家陣の中でも特に強烈な異彩を放っておられた、この作家さんなんです。
香愁(かしゅう 別ペンネーム・果愁麻沙美)
具体的なプロフィールはまったくわかりません! おそらく女性であることは間違いなさそうなんですが……
このひとは異色でしたねぇ~!! なにが異色って、本物の少女マンガ家もはだしで逃げ出す美麗な描線で「かれんな美少女」と「白皙の美少年」とのロマンスを描いておきながら、いざ「こと」におよぶとプレイがアブノーマル、アブノーマル!!
具体的にどうアブノーマルなのかを説明するのは……やめときます!
やめときますが、香愁先生が作中でよく使うアイテムに「灯油をじゅぽじゅぽするアレ」があるということだけを言っておいて、あとはみなさまのご想像にお任せしたいと思います。危険だ~!!
この方はまぁ~ほんとに、自身の作品に貫かれている「美学」みたいなものがバチコーン!と定まっている方でして、まず美少女か美少年しか出てきません。年をとった人物が登場するとしても、ステッキの似合うダンディか古城に住まう王侯貴族といったふぜいの、気品あふれる紳士淑女にしかセリフは割り当てられないのです。
手がける作品は短編・長編を問わず、すべての作品で10代の女の子が主人公になっていて、現代の日本が舞台なら必ず偏差値の高そうなシャレオツな制服の女子中高生、中世ヨーロッパふうのファンタジー設定なら白亜の城のお姫さま、という感じで相場が決まっていました。
そ、そんなかれんな乙女たちが、現実の世界でやったら即刻病院送りになりそうなあんな目にあわされるとは……!
好きでしたねぇ。
私のいろんな技術不足のせいで、手っ取り早く画像というかたちで香愁先生のものすごさを説明できないのが大変に恐縮なのですが、香愁先生の魅力は、「美しいものしか描かない。そして、その美しいものを美しくけがす!!」という、その妥協のない哲学に裏打ちされた美麗な細密描写。これに尽きます。
確かに、2010年代の現在から見れば多少、キャラクターの顔つきが1990年代のアニメ的(いわゆる『新世紀エヴァンゲリオン』以前)で目が大きかったりもするのですが、ぜい肉のかけらもない、常に立体的なリアリズムをたたえている男女の肉体描写と、そこからバンバン繰り出されるアクションの数々は、エロマンガだの少女マンガだのという障壁を超えて、「香愁というジャンル以外の何者でもない」孤高の存在感をはなっていたんじゃないかと思います。
私もそんなにマンガを読んでいる人間ではないのでデカい口はたたけないのですが、とにかく「絵のうまさ」という点においては、私は今までエロだろうが一般だろうが、この香愁先生以上だと認識したマンガ家さんには一度も出会ったことがありません。
そんな香愁先生だったのですが、私が夢中になっていたのは高校生時代のたった2年間ほど。その後はさすがに大学受験でエロマンガからも離れていってしまい、『COMIC Zip 』も香愁先生も、忘却のかなたへ置き去りにされていってしまったのでした。
ところが、そんな私が去年あたりからやり始めるようになったのが、自宅にいながらにして絶版になった本やら廃盤になったCD やらがチョチョイのチョイクリックでお安く手に入るアマゾンショッピングというわけ! 遅すぎ……
と、いうことでありまして、私が香愁先生のことを思い出し、「『COMIC Zip 』以外にどんな仕事をやってたんだろう? 古本で安くなってるだろうし、ここはいっちょ、香愁先生の単行本をコンプリートしてみっか!!」と決意するまで、さほどの時間は必要なかったのでありました。
さァ、その結果わが家に集まったのが、以下のラインナップというわけ。
知ってどうする!? 香愁(果愁麻沙美)エロマンガ・オールワークス
『とこしえのソドム』(1994年8月 三和出版)「香愁」名義
1993年4~9月に『COMIC フラミンゴ』などに掲載された短編8作を収録
『プラグインせのあ』(1995年6月 三和出版)「香愁」名義
SFアクション長編『プラグインせのあ』シリーズ全9話を収録
『風のクルエルティア』(1996年5月 三和出版)「香愁」名義
怪奇コメディ長編『風のクルエルティア』シリーズ全9話を収録
『シリー・ピーチ・ラヴ』(1996年8月 三和出版)「香愁」名義
実の兄を慕う妹・水音(みずね)は、兄を恋のライヴァルに取られないようHに頑張ってしまう……(『Silly Peach 』)
『とこしえのソドム』以降に掲載された中シリーズ『Silly Peach 』全6話と短編8作を収録
『夢跡のメモリオーラ』(1997年8月 フランス書院)「果愁麻沙美」名義
1996年7月~97年3月に『COMIC Zip 』に掲載された短編8作を収録
『ベルジェフスカの城 残酷美学物語』(1999年5月 三和出版)「香愁」名義
謎の都市・ラズモフスカ、そして世界の破滅を企てるベルジェフスカ大学。その恐るべき野望を阻止せんとする美少女戦士達の命をかけた戦いを描く。
1997年8月~99年2月に『COMIC Zip 』で連載されたオカルトアクション長編『ベルジェフスカの城』全3章を収録
『ウラ23区』(2000年4月 三和出版)「香愁」名義
教え子と関係する女教師の孤独な内面が垣間見える『「さん」づけの孤独』、オフィス街でH行為に至ってしまうカップルを描く『丸の内 HIGH NOON SNAP』ほか。
1998年1月~99年3月に『COMIC フラミンゴ』と『COMIC Zip 』に掲載された短編8作と単行本書き下ろし短編『透明な劇場』を収録
『まりのゲリラ』(2001年8月 三和出版)「果愁麻沙美」名義
オレは万里野まりの。下町の天才バレリーナ。昔に家出したママの帰りを待ちながら、オヤジと二人の貧乏暮らし。この町には旧日本軍の宝が隠されてるって噂があって、オヤジは何か知ってるみたいなんだよな……
2001年1~7月に『COMIC アイラ』で連載された昭和活劇長編『まりのゲリラ』全7話を収録
※その後、「果愁麻沙美」名義で『COMIC アイラ』にて2001年8月~02年3月に長編シリーズ『ソニア・ソニック』を連載し、2002年4月に短編『改造都市?』も掲載していたが、2002年9月に『COMIC アイラ』は休刊し、『ソニア・ソニック』の単行本化はされていない
これだけだったんですね。香愁先生の単行本は8冊しか刊行されていなかったんです。
もう10年以上のことになるんですよ……当然ながら、ほとんどのアマゾン価格は「1円」! 哀しきお手ごろ価格でありました……
ところで上述のとおり、『COMIC Zip 』で先生が使用していたペンネームは「果愁麻沙美」だったのですが、今回の文章では便宜上、使用頻度の高かった「香愁」のほうで統一させていただきたいと思います。
入手できた作品を読むかぎり、先生の中で「香愁」と「果愁麻沙美」とを掲載雑誌や作品ごとに明確に使い分けているというルールは特にないらしく、単に1990年代後半から「果愁麻沙美」というペンネームも使うようになった、ということだけのようです。
それにしても、ついにすべて集めてしまった……でも集めたところで、なんかひとつだけ願いごとがかなったりするノベルティは、ない! ギャルのパンティひとつ降ってきやしません。
ともあれ、今回こうして香愁先生の単行本をぜんぶ集めることに成功し、ドキドキワクワクしながらページをめくっていったわたくし。
出版された全作品を読了したあと、心に残ったのはこういった思いでした。
う~む、総じてエロくない!!
まぁ、そりゃあそうですよ……一般のマンガ界だってそうかもしれませんが、エロマンガ業界は「絵柄のはやりすたり」が非常に激しく、ちょっとでも古臭い要素が見え隠れしていれば、(主に)読む男性読者の気持ちの昂ぶりは一瞬にして冷めきってしまうのです。
あと、これは私の経験が根拠となっているだけの私見になるのですが、エロマンガの内容の「過激度」は、ちょうど『COMIC Zip 』が刊行されていた時期に当たる「1990年代後半~2000年代初頭」をピークにして頭打ちになっているような気がするのです(絵のクオリティはそれ以降も上がり続けているとしても)が、それ以前、つまり上の香愁作品でいう『とこしえのソドム』~『シリー・ピーチ・ラヴ』の4作品に関しては、ちゃんとそれなりの「こと」には及んでいたのだとしても、今の視点から見れば「描写がソフトすぎて実用的でない」レベルだといわざるを得ないわけなのです。なにをまじめな口調で語っているんだ、おれは……
とはいいましても、香愁先生特有の「美少女を美少女と見ない危険プレイの連続」は、なんとすでに第1単行本『とこしえのソドム』に収録されている処女作『SHY SHY DRESSING 』からしっかり始まっていました。ちなみに、そこで最初に展開されていた危険プレイは「人間いけばな教室」。先生、最初っからトップギアよ~!!
毎回ヒロインたちにムチャ振りされていたあれこれをリストアップしたい衝動にもかられるのですが……やめときましょうね、うん。
今回の全作品コンプリートでわかった、香愁先生に関する新事実はいろいろあったのですが、まず私から見てけっこうおもしろかったのは、私がそれしか知らなかった先生の『COMIC Zip 』での仕事が、もっぱら「アウェー」の要素を多分に含んだものであった、ということです。
上のラインナップを見てもわかるとおり、香愁先生のホームグラウンドは『COMIC Zip 』のフランス書房ではなく、『COMIC フラミンゴ』と『COMIC アイラ』の展開されていた三和出版だったのです。いつからかはわからなかったのですが、先生は『フラミンゴ』末期の表紙イラストも担当していました(少なくとも2000年いっぱい)。
三和出版のエロマンガ雑誌の流れとしましては、1993年ごろ~2000年5月に発行されていた月刊エロマンガ雑誌『COMIC フラミンゴ』の後継誌が『COMIC アイラ』(2001年1月~02年9月)で、その流れは『アイラ・デラックス』(2002年10月~05年4月)、『フラミンゴR』(2005年5月~06年8月)と続いて途絶えたと、まぁこんな感じになります。
現在、エロマンガ市場から完全撤退しているフランス書房とは違って、三和出版は2012年現在も『月刊COMIC MASYO(ましょう)』という雑誌を展開しているのですが、実は同じ三和出版でも、香愁先生のいた『フラミンゴ』~『フラミンゴR』の流れと、この『MASYO 』とはまったく別系統のエロマンガ雑誌となっているようです。
そう、『COMIC MASYO 』はいたって健全なエロマンガ雑誌なのですが、『フラミンゴ』系はこれ、「SM 」と言うのも生やさしい「鬼畜系」!! え、血? 流れないわけがないでしょう。
誓って言いますが、こんな個人ブログをつづって、一応ある程度の変態を自認している私そうだいでも、実はこの『フラミンゴ』系はなかなかどうして敷居の高いものがあります……現在は後継誌はないわけなのですが、むしろ2005年までよく続いてたもんですよ。
『フラミンゴ』系の常連作家陣は、駕籠真太郎、天竺浪人、町野変丸、掘骨砕三、しのざき嶺といった感じでして……知っている人の実に97% がドン引きし、3% がモーレツに興奮する陣容です。みなさん、「氏賀Y太」という先生のお名前の読みかた、わかります? その読みあげた言葉こそが、『フラミンゴ』系の本質だと言っても間違いないわけなのです。なんで「フラミンゴ」なんでしょうか……鳥の名前じゃなくて「映画の名前」が由来なんでしょうね、きっと。
そんな中で作家としてのキャリアを開始させたのが香愁先生だったんですから、そりゃあムチャしますわな。たぶん、『フラミンゴ』~『アイラ』での立ち位置は「かわいらしい絵柄の箸休め」みたいなところだったのではないかと。レベルの目盛がムチャクチャなんですよ!
ここまできてやっとわかったのですが、エロマンガ家としての香愁先生は、実は「ホーム」ではエロさはさほど要求されておらず、「アウェー」となった『COMIC Zip 』のほうが逆にエロマンガ家らしい仕事になっているという、なんとも不思議な逆転現象が発生していたのです。可愛い娘には旅をさせよ、ってことなんでしょうか。
ここに、私が今回のタイトルで香愁先生のことを「孤高の流れ星」と言いあらわしたゆえんがありまして、先生の活動自体は1993~2002年の9年間ということで、決して短い期間ではなかったのですが、「独特の美学を持ち続けた」香愁という才能が「エロマンガ家としての人気」という歯車とかみあったのは、私が目の当たりにした『COMIC Zip 』出張時期の約2年間に限るものがあったんじゃなかろうかと思うんですね。
わかりやすく言えば、香愁という流星が大気圏に突入してきらめいた時期、そここそが第5単行本『夢跡のメモリオーラ』に凝結されている期間だったということだったのです。
実際に香愁先生の画力は、場数を踏んだことによる上達もさることながら、『COMIC Zip 』のお仕事と時を同じくしてパソコン技術を積極的に導入したことによって1996年ごろを契機に爆発的にアップしており、ここにきてやっと香愁イズムが、単なる「少女マンガ調のエロマンガ」という部分を脱して「香愁」という一ジャンルを築くにふさわしい「肉体」をそなえた、とも言える段階にいたったんですね。
ところが、はっきり言わせていただけるのならば、香愁先生が「読んでエロいマンガ」という意味でのエロマンガを描いた時期はこの『夢跡のメモリオーラ』だけだったと言わざるをえませんでした。
その後、先生は『ベルジェフスカの城』と『まりのゲリラ』という、自身のキャリアのクライマックスとも言えるとてつもない2大長編を世に問うことになったのですが、これがまた、エロくないエロくない!! 画力は引き続きうまくなっているのにも関わらずですよ!?
これはもう、端的に言えば香愁先生の美学が成熟しすぎて「エロマンガ」という即物的・実用的な要求を完全に突き抜けてしまった。そういうことだったのではないでしょうか。
この2作品は1コマ1コマに投入された情報が絵柄・セリフともに異常に濃密過ぎて、1回や2回読んだだけではまるで展開が理解できない、けれども読めば読む程じわじわおもしろくなってくる「するめマンガ」になっているのです……
ところで、そこのエロマンガを読んだことのあるあなた。あなたがエロマンガに要求するものって、「するめ」じゃなくて、最初にパッと読んだ段階でちゃんと「役に立つ」ってところじゃありませんこと?
そうなんです。香愁先生の作品レベルは、そのキャリア終盤ではすでにエロマンガの領域を超えてしまっていたのでした……流星は大気圏を突破したかと思ったら、地上に落ちることなくまた大気圏に突入して大宇宙へと消え去っていったのだった! 地球素通り!!
だってさぁ、「謎の都市ラズモフスカ」とか「ベルジェフスカ大学」とか言われましても、ねぇ……こっちはウキウキワクワクしながら人目を気にしつつ買ったわけでして。思春期の男どもはガン首そろえて「ポッカ~ン」ですよ。客が悪かったね、先生!
ともあれそんなわけでして、私があのとき惚れ込んだ香愁先生は、自身の哲学を体現できる肉体を手にしたのち、手に入れたがゆえにその速度をゆるめることができなくなり、狭い日本マンガ界をあとにすることとなったのでした。こんな退場の仕方をしているお方がいたとは……ただひたすら敬服するばかりです。
こんなわけなので、今回のコンプリートで私は「エロいマンガ」を入手することはかなわなかったのですが、『ベルジェフスカの城』と『まりのゲリラ』という「もんのすごいマンガ」を手に入れることはできたのでした。これはいい買い物でしたわ!
特に『まりのゲリラ』。これがまぁ~すごい。
この作品は、いちおうやたらと女性キャラが裸になる展開はそこかしこに用意されてはいるのですが、肝心の「こと」におよぶ場面は単行本一冊ぶん、まるまる一切ありません!
時代設定は「昭和30年代の公害はなやかなりしころの東京」で、主人公は「下町の天才バレリーナ少女」。作品のテーマになるものは「旧日本軍の隠し資金」で、それをめぐって争うのはむさい顔のおっさんだらけの地元・荒川警察署と謎の公安2人組。少女たちに襲いかかるのは突然変異で巨大化した体長1メートルものザリガニ軍団……
エロマンガの要素がひとっつもないのですが、な~んかおもしろそうじゃありませんこと? 主人公たち下町のバレエ学校生徒は、家が貧乏なので着の身着のままのレオタード&タイツ姿で生活しているという涙ぐましいライフスタイルです。でも、それにめげず下ネタを連発しながら大人たちをだしぬいていく彼女たちの明るすぎる勇姿には間違いなく、それまでの香愁作品お決まりのパターンである、受身一辺倒のヒロイン像にはなかった新境地がありました。
ここにきて初めて、「今までの恨み!」とばかりに男どもに高々と反旗をひるがえすこととなったヒロインたち。だって、肛門括約筋で人の指を折ったり、膣圧で人のベロをぶっちぎったりするんですよ!? 痛快ね~。
また、ここに登場するオッサン連中も今までにはなかった非常に人間くさくて欠点の多いキャラクターばかりになっていて、そこにも大きな可能性に満ちた輝きがありました。出てくる顔ぶれがのきなみ俳優の小林昭二、寺田農、天本英世、岸田森といった面々にそっくりなのも、実に香愁先生らしいお遊びでしたね。
ただ、とにかく残念なのはそんな『まりのゲリラ』が香愁先生の最後の単行本となったことですね。いや、むしろこれは、香愁先生があえて世間に突きつけた「絶縁状」だったのかもしれません。そのあとに連載されて単行本化されることのなかった『ソニア・ソニック』も読んでみたい気もするのですが、『まりのゲリラ』が、まったくエロくなくてもひとつのマンガ作品としてびっくりするほど完成された作品だったので、ここをもって香愁先生のキャリアの完結と見ても良かったのではないでしょうか。
まぁいろいろ言ってきましたが、こんなに長々と語っておきながら、作品がほとんど全部「絶版」という、この意味のなさね。すすめたところで読んでもらえないんじゃんか~!!
じゃあ、この記事を読んでいるあなたに何を言いたいのかといいますと、とにかく昔に「香愁」という不世出の天才がいたという事実を知っていただきたかったのです。そして、機会があったらどこかの古本屋さんで入手して読んでいただければうれしいし、もっと欲を言うのならば、わたくしのようなファンがいたことを、何らかの形で「香愁先生ご本人」に知っていただけたのならば、もうそれ以上の喜びはないと。
可能性もゼロにひとしいし、ありえないことなのかもしれませんが、こうやって個人ブログに思いのたけを語っていれば、まかり間違っていつの日にか、大宇宙のどこかにいるはずのあの流星にその声が届く日があるのかも。少なくとも、私は心の中にその希望の灯をともしながら生きていきたいんですなぁ。
完全なる自己満足ですけれども、そんなロマンを夢見ながら、今日も遠大なる香愁ワールドをひもとく私なのでありました~。
いや~……何回読んでもわけわかんねぇわ……
高校生の頃夢中になった香愁先生が今どうしているのだろう(&当時の単行本を買いたい)と思い、検索していたところ、このブログを発見いたしました。
何にももなしに記事を読んでみると「そうそうそうなんだよ!」と異常に共感しまして、懐かしさもあいまって異様に感動してしまい、一言残すことにいたしました。
青春時代に好きだったもの、感動したものに対して、こうして文章で形にしてくださっている方がいたことに(もちろん書いて下さったことにも)とても感謝しています。
ありがとうございました。
まさか、この記事にコメントをいただけるとは……とってもうれしいです。
高校生だった当時、この先生の作品のものすごさを誰かと共有したかったものの、さすがにジャンルと内容がこんなもんであるだけに、長いあいだモヤモヤしたまま自分の記憶にとどめておいていました。
それが、およそ20年も経って、こうやって「ですよねぇ~!」と意思をかよわせてくださるお言葉をちょうだいできたこと……しみじみ、ありがとうございます。
先生の作品は、絶版とはいえまだまだ中古で入手可能な状態ではあるのでしょうが、それでも私なりに「あれ、夢じゃないんだよね!?」と、その存在を確認するためにつづった記事でありました。うん、やっぱり夢ではなかったんですよね!
それにしても、お互い、多感な時期にどえらいもんに出くわしてしまいましたなぁ……『Zip 』って、ほんとにすごい雑誌でしたね。
作風は変わってしまいましたがw
不粋だなどと、とんでもない!
おっしゃるとおり、私も当然ながら、記事を書いた2012年の時点で朝森先生という存在は知っていたのですが、そのあまりにも乖離した作品性と商業的な「すなおさ」に、これはいくらなんでも別人なのでは……という疑念がぬぐいきれず、結果としてごらんのように朝森先生うんぬんの話はいっさい黙殺して記事を完成させました次第です。
でも、あれから2年たった今になって各先生のタッチを見比べてみますと……やっぱり同一人物かな!?
香愁先生の活動休止が2002年で、朝森先生の活動開始が2005年なんですから、その3年の間にこれほどの変容があったとしても、それはそれで人生というものなんじゃないかな、と納得のいく現在のわたくしがいます。
でも、朝森先生についての記事を続編としてまた書くかといえば……その気は起きませんよねぇ~! 内容がノーマルすぎて!!
若さゆえの常軌を逸したアブノーマルか、業界の機微を悟ったプロならではのノーマルか。
あなたは、どちらの先生がお好きですか!?
個人的には、どっちも好きなんですよねえ・・・・。
商業誌は朝森、同人で香愁として活動して頂けたら、と言うのが、ささやかな願いであります。
ともかく商業雑誌の第一線で現在も活躍しておられるという事実だけでもとってもうれしいのですが、この平成20年代に香愁先生が復活してくださったら……これ以上の喜びはありませんよねぇ。
確かにおっしゃるとおり、商業誌であの世界が展開できる世情じゃあなくなっちゃってますからね。やっぱり同人誌のかたちになるのでしょうか。
でも、あの一連の時代はあれで全てやりきられたような空気もありますし、先生の詳しい経歴は私も存じ上げませんが、なによりも先生の思春期っぽさの残る情熱があの毒々しい色彩の作品群を描かせていたような気もしますので、私はもう、先生のお好きなように! という心持ちで、古いコミックスをこれからも大切にしていくつもりです。
なにはなくとも、朝森先生が今後も元気に現役で活躍していかれることを、いちばん願いたいですね!
有難うございます。楽しく読ませて頂きました。
ただ、香愁先生は男性じゃないでしょうか。
先生制作の球体関節人形の写真&イラスト集をコミケで買ったことがあります。98年ごろ? 店番をしていたのは男性でした。
さらっと『プラグインせのあが出てきた』って、あなた……そうとうなお方と心得ました。
そうですか、男性ですか!
確かに、私が女性ではないかと感じた最大の根拠は、微に入り細にうがった女性キャラクターの描写に比べて、男性キャラクターの描写にあまりにも覇気がなかったからだったのですが、それってたぶん、女性キャラのほうが描いてて楽しいっていう単なるモチベーションの問題だったのかもしれませんね!
加えて、球体関節人形の達人なのだったら、あれほどの画力もまったく得心が行くというものです。
このような駄文雑文に対して、「先生ご本人に逢ったかもしれない」という歴史の証人としての重大なご発言、ほんとうにありがとうございました!!
確かに、先生の初期の筆はけっこう線が太いですもんね。うん、私も男性のような気がします。いまさら……
香愁作品を思い出させてくれて
ありがとうございます
こうやって掲示板のように書き込むことすら
ダイヤルアップでインターネットにつないでいたあの頃を彷彿とさせます
感謝だなんて、とんでもない!! こちらこそ、このようなあばらやブログにはもったいなさすぎるお言葉をいただいてしまい、感謝感激でございます!!
30年! 気がつけばそんな時間が過ぎておりました。そういえば、香愁先生の第1単行本『とこしえのソドム』発刊30周年になっちゃってますよ!! そんなアニバーサリーイヤーなのに、世間ときたら今年の夏もあっぢぃだのオリンピックだの大泉洋ベストアルバム発売だのと、くだらない話題にうつつをぬかしおって……
やはり、先生の偉業が世界に正当に評価されるには、あと70年くらいの歳月が必要なのかも知れませんね。
本当に、この記事に関して何年かに一度の割合で、ネットの彼方から「ぽつり。」と、あなたさまのような宝石の言葉をいただけるのは、私にとって身に余り過ぎる幸せです。まさに、10年前に広大な宇宙にあてもなく放ったメッセージの返信が、ある日ふと帰って来るような。
こういう体験をすると、やっぱりインターネットも生きている人間のあたたかみを運んできてくれるのだなと、しみじみ感動してしまいます。ありがとうございます!!
香愁先生はやはり、すごい。
今さら普及活動をしても、もしかしたら先生ご本人が迷惑されるかもしれないのですが、せめてその偉大さを忘れられない私達は、あと69年元気に生きて、「香愁デビュー100周年」にふさわしい人類の革新を待ち望むことにしましょう!!
香愁ワールドのヒロインたちも現実世界の私達も、身体が資本!
超フィジカル系変態ですよね、ほんと。