長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

伝説は静かに、そして深く始まった  ~土曜ワイド劇場・天知小五郎シリーズ第1作『氷柱の美女』~

2012年09月30日 22時34分14秒 | ミステリーまわり
 ぴろぴろぴろぴろ~。どうもこんばんは! そうだいでございまする~。みなさま、今日も一日お疲れさまでした。
 いやぁもう、なんかすげぇらしいんですよ、台風17号が! っていうか、今すごい真っ最中なんだ。
 実は、その台風のおかげで今日やる予定だった大事な予定がまるまるいっこなくなってしまいました。楽しみにしてたのになぁ~。
 ただ、フタをあけてみれば今日は日中はほんとにいいお天気だったんですよ。確かに風は強めだし空気も太平洋からきたらしいぬるっとした生暖かい感じはあったのですが、少なくとも千葉はふつうに外を出歩くことができてましたね、日が出てるうちは。でもやっぱり、「念には念を」が防災の第一精神ですからね~。

 んで、やっと台風の足跡が聞こえてきだしたのは、まさしく今! いよいよガタガタと窓をならす勢いが増してきてまいりました……
 なんだかんだいって、どうやら台風が関東地方を通過しない可能性も出てきたようですので、おそらく私の家のまわりはそれほど大変なことにはならないかと思うのですが、いちおう外に置いてある洗濯機のフタもガムテープで仮止めしておきましたし、準備は万端です。万端ってまぁ、具体的な対策はそれだけなんですけど。この前は見事にフタが吹っ飛びました!


 ということで、とつながっているかどうかもはなはだ怪しいのですが、今回はそんな不穏な外の空気を受けまして、「非常にあやしい」&「大きな嵐の到来を感じさせる」作品として、私が最近やっと観ることとなった、ある伝説の TVドラマ作品についてぶつぶつつぶやいてみようかと思います。どうせ寝ようと思っても、風がうるさくて眠れねぇし!!


ドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ 氷柱の美女』(1977年8月放送 テレビ朝日『土曜ワイド劇場』 72分)


 いやぁ、ついに手に入れてしまいました、伝説の土曜ワイド劇場「天知小五郎シリーズ」、その記念すべき第1作!

 先月にあんなに大々的に明智小五郎の映像化作品をフィーチャーした身でありながら非常に恥ずかしい話なのですが、実はわたくし、それらの中でも良くも悪くも代名詞的存在となっている名優・天知茂による明智小五郎シリーズの作品は、夕方に TVで再放送されていた『妖しい傷あとの美女』(1985年3月放送 『陰獣』が原作となっている)1作しか観ていなかったんですよ。それ以外の作品のダイジェストされた名場面集みたいなものはいろんな無料動画サイトで確認していたのですが、「ちゃんと天知小五郎の勇姿を観た」という経験が絶対的に不足していたのです。

 そんな中でついにふみきったのが、「DVD 購入作戦」! 作戦というほどもない、きわめてまっとうな考えつきですね。
 いや~、いい時代になったもんです……天知小五郎や古谷金田一の名エピソードの数々が自宅で好きなときに自由に心ゆくまで楽しめるとは!

 昔話になりますが、思い起こせばアホはアホなりに多感な少年時代をすごしていた1980~90年代。私が住んでいた山形県では過去に放送された TVドラマが再放送されるというチャンスはゼロに等しかったような気がします。『一休さん』や『機動戦士ガンダム』といった定評のあるアニメが夕方や早朝に流れることはあったのですが、民法放送局の数が基本的に不足していた当時の山形では、現役で放送されている民法キー局5局からよりすぐった番組と地元山形で制作されたローカル番組を組み合わせたら、そのほかに2時間ドラマをさしこむような余裕はなくなっていたからなのではないでしょうか。『タモリ倶楽部』とか『ダウンタウンのごっつええ感じ』が真っ昼間に放送されたりしてましたからね。
 前にふれたこともありましたが、山形県の TV放送局は1988年まで2局、1996年まで3局で1997からは4局に増えて現在にいたっています。わぐが2づすかながったら、そらまんず2ずかんドラマの再放送なんがいれでらんながったべねぇ。
 だからもう、大学生になって千葉県に引っ越してきたとき、タイトルだけは聞いたことがあったっていう昔の映画や時代劇ドラマや刑事ドラマが、深夜や昼下がりの時間帯にほぼ毎日のように観られるという事実には驚嘆しましたね! 映画の『太陽を盗んだ男』や松田優作の『探偵物語』がふつうに放送されていたのには腰を抜かしたもんです。

 それにくわえて時代も変わりました。だって、今やテレビのチャンネルなんて5つ6つなんて言ってる場合じゃありません。ケーブルTV だ衛星放送だで何倍にも増えて、地方だ主要都市だなんてほぼ関係なく全国のどこででも同じ番組を視聴することができるようになったわけです。当然、チャンネル数の増加で過去の名作ドラマの再放送に出会える機会もさらに格段に増えました。

 こういった TV局の事情のほかにも、レンタルビデオや DVDという媒体から名作ドラマにたどり着くチャンスが増えたわけでして、確か1990年代の末から古谷金田一の『名探偵金田一耕助の傑作推理』シリーズがレンタルされ始めたな、という様子はあったのですが(たぶん1996年版の映画『八つ墓村』とか『金田一少年の事件簿』ブームの影響かしら?)、2000年代にあらかたの名作と賞される昭和ドラマ作品が DVDの形でリリースされるという活況を呈するようになったわけです。

 そして、当然のようにその中には、我らが天知小五郎の『江戸川乱歩の美女シリーズ』もあったというわけ!
 ということで、私はついに、今回そのシリーズ第1作を入手することに成功いたしました。乱歩ファンを自認したい人間としてはあまりにも遅い到達になってしまったのですが、以下にその感想みたいなものをつづっていきたいと思います。

 じゃあまず、基本的な情報から~。


おもなキャスティング
 19代目・明智小五郎   …… 天知 茂(46歳 1985年没)
 ヒロイン・柳倭文子   …… 三ツ矢 歌子(41歳 2004年没)
 倭文子の愛人・三谷房夫 …… 松橋 登(32歳)
 吸血鬼?岡田道彦    …… 菅 貫太郎(42歳 1994年没)
 恒川警部補       …… 稲垣 昭三(49歳)
 11代目・小林芳雄    …… 大和田 獏(26歳)
 助手・文代       …… 五十嵐 めぐみ(22歳)

 ※天知茂による不定期スペシャルドラマシリーズ『江戸川乱歩の美女シリーズ』の第1作で、長編小説『吸血鬼』(1930~31年連載)の4度目の映像化
 ※以後、2000年まで不定期に続くこととなる『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日)の明智小五郎シリーズの第1作
 ※天知小五郎シリーズを通して時代設定は「1970~80年代現在」にされており、明智小五郎は東京都心で2人の成人した助手(小林と文代)のいる探偵事務所を運営している。文代は明智小五郎の妻ではなく、名字も明らかにされていない
 ※天知茂はすでに、1968~69年の舞台版『黒蜥蜴』(主演・丸山明宏)で明智小五郎を演じていた
 ※ドラマ中ではヒロインの名字は原作の「畑柳」から「柳」に、恒川刑事の役職は「警部」から「警部補」に変更されている
 ※助手・文代役の五十嵐めぐみは本作から1982年いっぱいまで19作連続で登板しており、土曜ワイド劇場の明智小五郎シリーズで文代を演じた6名の女優の中では最多の出演となる
 ※本作で活躍していた助手の小林青年の設定は、以降の第2~5作ではカットされており、第6作からは俳優を変えて復活している
 ※監督の井上梅次(うめつぐ)は1962年の映画版『黒蜥蜴』(明智役は大木実)の監督も務めており、『江戸川乱歩の美女シリーズ』では1982年までの全19作を監督した
 ※シリーズのレギュラーキャラクターである波越警部(演・荒井注)は、第1作ではまだ登場していない


 まず、天知小五郎シリーズに挑むにあたって大前提として認識しておかなければならないのは、このシリーズが江戸川乱歩の原作小説の忠実な映像化を主眼においているものでは毛頭ないということです。その点を容認することができず、「天知小五郎シリーズは江戸川乱歩作品の味わいをいっさい伝えておらず、内容を故意に荒唐無稽で俗悪なものにねじ曲げている。観る価値なし!」と強く批判する向きもあるようですね。
 確かに、私も実際にこの『氷柱の美女』を腰をすえて観るまでには「なぜか全裸の美女がしょっちゅう殺される」「明智小五郎の変装が体型や骨格まで変わっていて怪人二十面相どころではない神業になっている」などといったお約束が鼻につく可能性も憂慮していたのですが、実際にこの目で確かめてみて、天知小五郎シリーズをいちがいに否定することはまったく意味のない、百害あって一利なしな食わず嫌いであると確信しました。

 なぜならば、この天知小五郎シリーズは江戸川乱歩の作品世界に通底している「明智小五郎の神性」と「人々の目の前に広がる世界のあいまいさ」という部分を的確すぎるほどに映像化しているからなのです。それ以降の24作については、私がまだ語る資格を持っていないので置いておきますが、少なくとも今回観た第1作『氷柱の美女』では、その2点が製作スタッフと俳優の演技によって充分すぎるほどにガッチリおさえられていました。

 具体的な作品の内容について思いつくかぎりのことをあげていきますが、まず第一に気になるのは、この作品で語られる恐るべき「吸血鬼事件」が、土曜ワイド劇場の放送された「1977年現在」に設定されていることですね。
 当然ながら、原作の長編『吸血鬼』は1930年代初頭の戦前日本が舞台となっており、前作『魔術師』でなれそめ、結婚こそまだしていはいないものの相思相愛の関係となっている助手の文代と、この作品での登場がデビューとなる小林芳雄少年(この時点で13~4歳)の2人が、信頼できる「明智探偵事務所のメンバー」として初めてそろい踏みする記念碑的な作品となっています。原作では言及されることはありませんが、明智小五郎の年齢はこの時点では30代にはいったばかりかと思われます。

 戦前の帝都に「新進気鋭の青年名探偵」として名を挙げたばかりの明智小五郎が助手の文代と小林少年を引き連れて大活躍する原作なのですが、1977年の土曜ワイド劇場版では、同じ3人組ではあるものの、天知茂ふんする明智小五郎は40代なかば、文代と小林は20代のいっぱしの大人ということになっており、明智と文代とのあいだに表だっての恋愛関係はないようです。今回のヒロインである、美貌の未亡人・柳倭文子(やなぎ しずこ)をながめながらびっくりするほど男前な表情でボンヤリしている明智を見ても、文代は特にこれといった過剰な反応はしていません。「また先生、きれいな人をガン見しちゃって……男前じゃなかったら通報もんだぞ。」くらいの感情にとどまっているようです。

 こんな感じで原作小説のようなヒロイン性をいっさい排している文代さんと同様に、今や「明智といえば小林少年!」とも呼ばれ、ただれた師弟関係の代名詞となっている小林芳雄くんのほうも、土曜ワイド劇場版ではりっぱな小林「青年」になってしまっているため、明智とのあいだになにかありそうな倒錯した雰囲気などいっさい感じられない、いたって健康的でビジネスライクな「上司と部下」の間柄になっています。
 そもそも、原作小説の中に登場する小林少年は、明智のような大の大人では警戒されて潜入できない場所での捜査や、明智本人が何らかの都合(別件の捜査など)で不在にしているときの代理という役割で大活躍することが多いわけなのですが、土曜ワイド版での明智小五郎は、原作よりも若干年上ではあるものの元気ハツラツに事件の第一線に飛び込んでしまっており、はっきり言って小林青年ならではの活躍は少なくとも『氷柱の美女』の中ではまるで見受けられませんでした。明智との会話でも特にこれといった名推理らしい発言はしておらず、ごくごく常識的な受け答えしかしていません。
 あと、まだまだ若くはあるのですが、本作で小林青年を演じることとなった大和田獏さんも、4年前の『ウルトラマンタロウ』における神エピソード『ベムスター復活!タロウ絶体絶命!』『逆襲!怪獣軍団』2部作(1973年10月放送)で見せた、あの宇宙大怪獣ベムスター改造型をロープとナイフだけで戦意喪失にまで追い込んだホモサピエンス最強クラスの勇姿からはいささか顔つきがふくよかになってしまっており、ちょっと探偵事務所の所員としては頼りなさそうな外見の「ワイドスクランブル化」がすでに始まっていることを感じさせるものがありました。

 とにかくこの土曜ワイド劇場における天知小五郎シリーズで言えることは、文代や小林青年を演じている俳優が誰であるにしても、彼らの役割を食ってしまう勢いで明智小五郎という名探偵の存在がオールマイティになってしまっていること! ここは無視できません。当然、『氷柱の美女』のクライマックスで明智が真犯人を罠にはめるためにうった芝居のように、信頼できる人手が必要な時には文代と小林青年は第一に役に立ってくれるわけなのですが、「明智の手駒」という以上の意味を持っていないのが『氷柱の美女』時点での2人だったということなのです。もちろん、それ以降の作品の中で五十嵐めぐみさん演じる文代のキャラクターが作品を追うごとに重要なものになっていくのは有名な話なのですが、まず第1作の段階ではなんとも精彩を欠いた立場でしたし、案の定、明智小五郎よりも「ちょっと足が速い」というくらいしか能のなかった小林青年は、以後しばらくの間「いない設定」になってしまいました。

 こういった状況から見ても明らかなように、第1作の時点から、土曜ワイド劇場の「天知小五郎シリーズ」は明らかに「天知茂ふんする明智小五郎のスーパーヒーローぶり」を中心にすえた内容になっていましたね。『氷柱の美女』の時点でシリーズ化が考えられていたかどうかはわからないのですが、とにかくどのカットでも気合いが入りまくって眉間に渋いしわが入りまくっている天知茂の名演から見れば、この天知小五郎が1回こっきりで終わるわけがないという空気は満点でした。

 明智小五郎のスーパーヒーローぶりといえば、あと2点見逃せないこととして、「恒川警部の相対的なダメ刑事化」と「明智がしょっちゅう乗り回す当時最先端のセダン」ということがあります。

 原作の『吸血鬼』には、「明智小五郎の大人もの事件」の常連として有名な波越警部は登場しておらず、その代わりに「名探偵ときこえた」警視庁の恒川警部が登場し、明智小五郎が「吸血鬼事件」にかかわるまでの探偵役と、明智登板以後のサポーター役をつとめています。
 ところが、1977年の土曜ワイド劇場版に登場するのはだいぶ頼りない猪突猛進型の典型的な「ダメ刑事」パターンの恒川「警部補」であり、ご丁寧に警部補に降格されているためか、明智小五郎も基本的にタメ語で恒川警部補に接しています。演じている役者さんの実年齢では、恒川さんの方が年上なんですけど……
 こういった感じの恒川警部補は、大変な失策こそおかしてはいないものの真犯人の逮捕に迫る捜査はまったくおこなえずに終始一貫して明智の推理に追従しており、本シリーズに次作から登場することとなる「なんだバカヤロー」の波越警部や、「よし、わかった!」の等々力警部(金田一耕助もの)のたぐいに入る、「名探偵の推理を追認するだけの警察キャラ」になってしまっていました。

 ただし、ここで無視できないのは、『氷柱の美女』における恒川警部補が、つねに明智小五郎から「内心で見くだされるしかない」救いようのない凡人になってしまっていることです。のちに「オレは明智君の親友だ!」とつきまとって天知小五郎に呆れられながらも信頼関係を築くこととなる波越警部や、腐れ縁というしかない頻度で顔を合わせることとなり不思議な親近感を持つこととなる金田一ものの等々力警部とちがって、ただただがんばるしかない中年男でユーモアが欠けており、天知小五郎からも完全に精神的な距離を置かれてしまっている恒川警部補に、残念ながらレギュラー出演の可能性はなかったといっても仕方ないでしょう。
 でも、これは演じた役者さんの力量ということではなく、やっぱり文代や小林青年のように「超人すぎる天知小五郎」のワリをくってしまった結果なのではないでしょうか。その点、そこらへんの明智のものすごさを残しつつも、同時に推理力とは別のベクトルの「コメディリリーフ」という役割で刑事役にお笑い系の荒井注さんを投入した第2作でのキャスティングは英断だったと言うほかありません。ま、おかげで原作とは似ても似つかない波越警部になっちゃったけど! それは等々力警部も同じことというわけで。

 もうひとつのスーパーヒーローぶりとして挙げたのが、愛車を必要以上に乗り回す天知小五郎の行動力の旺盛さで、この『氷柱の美女』の中で、明智は基本的に電鉄などの公共交通機関は利用しておらず、事件の真相をさぐるために東北地方と長野県に1回ずつおもむいているのですが、そのどちらも自慢のセダン乗用車に乗って移動しています。

 今回の第1作『氷柱の美女』で明智が駆る愛車は、「トヨタ・コロナマークⅡX30/40型グランデ」!! カラーは上品なメタリックゴールド!

 かっこいいですね~、探偵さんなのに目立ちまくりですね~。
 コロナマークⅡは1976~80年にリリースされていたトヨタのセダン系の代表選手で、フロントの単眼灯がまんまるだったので「ブタ目」という愛称もついている、角ばって力強いデザインの要所要所に適度に丸さがさしこまれている実にかっちょいい乗用車です。車は男のステイタス、ってやつっすか~!?
 同じコロナマークⅡでも、まったく同じ車体の「X30型」を排ガス規制対応(当時の)にしたのが「X40型」ということで、具体的に明智が乗っていたのがどちらなのかは映像だけからではわからなかったのですが、いくつかあった車の出てくるシーンを真夜中に3~40分くらい繰り返し繰り返し再生して、インターネットで「1977年ごろのセダン」を画像検索した一覧と交互に見比べて、

「こっ、これは……コロナマークⅡ!?」

 という自分なりの答えにたどり着いたときのうれしさといったら、もう!!
 同時期にリリースされた「トヨタ・チェイサー」とどっちかで悩んだんだけどさぁ~、リアのテールランプとナンバーポケットの形からコロナマークⅡに決まったわけよぉ! なんか、「やっと見つけたぞ、明智君……」って感じよねェ。

 そして、そのあとでよせばいいのに「明智小五郎 トヨタ・コロナマークⅡ」で検索してみたら、とっくの大昔に『氷柱の美女』の明智カーの車種を特定しちゃってるサイトがあることを知ったときのむなしさね……そんなもんだろォ~♪

 ともかく、土曜ワイド劇場での天知小五郎は、それこそ小林青年に任せればいいような地方出向の調査もわざわざ自分で出向いておこなっており、原作と比較して見ても、「栃木県那須塩原」だった出向先はドラマで「東北地方のどこか」と遠めに変更されており、明智本人は行かずに文代でも小林くんでもない名もなき部下に行かせていた「長野県のある村」にも、ドラマでは明智と小林ペアが直接おもむいているというバイタリティになっています。若い原作の明智よりもパワフルになっているんですねぇ。これはもちろん、「旅情サスペンス」というか「都心の大豪邸から地方の山村までを取り上げる絵的ないろどりの多さ」を意識した土曜ワイド劇場ならではの采配だったのではないでしょうか。

 ところで、天知小五郎シリーズを世に出したテレビ朝日の『土曜ワイド劇場』枠は、この第1作『氷柱の美女』が放送されたたった1ヶ月前の1977年7月にスタートされており、実は1978年までは放送時間が現在の2時間ではなく「1時間30分」になっていました。したがって『氷柱の美女』も「正味72分」という、あるミステリー長編を映像化するにしてはかなりタイトな分数になってしまっています。

 そんな条件下でも、「作品の時代設定の変更」や「作品の猟奇性の抽出」、そして「キャラクターの味わいの映像変換」を、取捨選択しながら見事に実現させた1977年版の『氷柱の美女』は、すばらしい作品になったと思います。
 なんといっても、この作品にはマンネリズムがありません。第1作だから当たり前な話なんですが、画面におっぱいが出てくるにしても、真犯人が相手を残虐な手法で陵辱する理由というか、必然性というものがしっかり組み込まれているのです。のちの作品では「なんでわざわざシャワーをあびてる女の人を襲うの?」という疑問符もつきかねないこのシリーズなのですが、ことこの「吸血鬼事件」に関しては、原作で「ヒロインに心身両面からの陵辱をあたえる」という真犯人の容赦ない犯行目的が物語の中核となっているため、ここをはずすわけにはいかないという判断があったのでしょう。それにしても、あからさまなショットはないにしても、ヒロインがあそこまでひどい目に遭う展開とか、硫酸でとんでもないことになっている真犯人の外見とか、今ではちょっと TVで流せそうにない描写が目白押しなのが作品にただならぬ緊張感を出しています。

 役者に関して言うと、やっぱりこの作品は主人公である天知茂ぬきでは1秒も成立しえないものになっています。とにかく登場した瞬間に前ぶれもなく始まる明智小五郎の名推理は、言ってることの内容よりも明智の語り方の迫力でまわりを納得させてしまう不思議なパワーをビンビンに発揮させており、その点で、第1作ということだから天知さんも様子見こみでパワーダウンしているんじゃなかろうかという私の危惧はまったくの大はずれでした。最初っからトップギアよ!!
 それもそのはずで、天知さんはすでにおよそ10年前に舞台版の『黒蜥蜴』で、明智小五郎を2年にわたって演じきっていたんですよね。そりゃあできあがってるわけだわ。
 天知小五郎のもっとも恐ろしい武器はやっぱり、殺人的なまでの魅力を持つその「深すぎる眉間のしわと猛禽類のような眼光」で、はっきり言って今回の場合、明智は真犯人役の人物に会った瞬間に「こいつが犯人だな。」と、なんの前情報もなしに目星をつけてしまった可能性さえある発言をしています。『氷柱の美女』の場合、事件の容疑者となる重要人物の人数が極端に少ないということもあるのですが、明智小五郎は最初っから最後まで真犯人が誰かという点で迷っている姿勢がまるでありません。まぁ、今回は当たっていたからいいけど、はずれて冤罪だったら恐ろしいことよ、これ……

 余談ですが、この『氷柱の美女』の段階では土曜ワイド劇場の天知小五郎シリーズの代名詞となる有名なアップテンポなテーマ曲は制作されていないのですが、明智が推理を披露するときにこれみよがしに流れる「ちーん、ちーん、ちーん……」という超意味ありげな BGMはすでにこの段階で完成されています。どんなに根拠不明なことをしゃべっていても、この音楽さえ流れていれば説得力は MAXになるというバイキルトみたいな反則曲ですね。

 また、天知小五郎はその空間に真犯人がいると、ず~っとその人をガン見しています! それ以外の刑事や助手にはいっさい目もくれません。はっきりしているのは、天知茂演じる明智小五郎は、同じ「犯罪美学」という世界におのれの活きる路を見いだしている自分と真犯人のほかには、何も意識を働かせていない。同じ種族の者とはとらえていないということなのです。

 この、原作における明智小五郎の「異常な天才性とそれゆえの孤独」を誰よりも的確につかんでいる天知茂の慧眼。うわっつらだけでなく、その魂までをも確実に継承している名探偵が、そこにいる。

 ちなみに、この『氷柱の美女』での明智小五郎のお決まりの「変装」は、真犯人を動揺させるためのショック演出としてのものにとどまっており、それ以降の声色まで変わるムチャクチャな変装にくらべればかなり地味なのですが、こちらもまた真犯人に決定的な失言をさせるための「変装した必然性」がちゃんとあるものになっています。

 天知茂さん以外には、なんといっても『氷柱の美女』でのヒロイン・倭文子(しずこ)を演じた三ツ矢歌子さんと、その若い愛人を演じた松橋登さんが強い個性を発揮しています。当時の松橋さんは「演技力がハンパないソフィア松岡」といった感じで、いかにも年上の女性を惑わせそうな美少年の余韻を残す青年を演じきっていました。女装サービスもあるヨ!

 この『吸血鬼』は、「吸血鬼」を名乗る謎の人物に執拗につけ回され、我が子とともに筆舌に尽くしがたい凄惨なはずかしめと恐怖体験の連続を味わってしまう悲劇性と、そういう目に遭うだけの原因を生んでしまった「魔性の女」としての過去を同時に持ち合わせているという二面性がヒロインに要求される非常に難しい作品なのですが、三ツ矢さんはさすが大女優。そこらへんをしっかりとやりきっていました。

 物語のクライマックスで、明智小五郎は真犯人をだますためにヒロインそっくりの全裸人形を用意するのですが(倒錯してるゥ~!!)、事件解決の後に、血まみれになった自分の人形を見つめて呆然とする倭文子。彼女がそこに、結果的には一連の事件の元凶となってしまった自分自身の魔性を投影させて立ち尽くすという構図は、実に TVドラマらしい明解なラストシーンになっていたと思います。倭文子はもちろん被害者であるわけなんですが、人間は誰でも一面だけでは捉えられない底の知れない暗部を持っているという乱歩ワールドを体現しているわけですね。


 そんな倭文子を残して文代と小林青年とともに現場をあとにし、ポケットからおもむろに赤ラークを取り出して紫煙をくゆらせる明智。

小林 「倭文子さん……これから、どうするんでしょうね。」

文代 「先生、デートしたいんでしょ。」

明智 「美しすぎる……あの人には近づかないほうがいい。」

 さっそうとコロナマークⅡに乗りこんで、夜の闇へと消えていく明智一行であった……完。


 くぅ~、きまってるねェ!! これで続編が制作されないわけがないと!

 記念すべき「天知小五郎シリーズ」第1作。確かに堪能いたしました!
 次のレビューはいつになりますかね……これからもどんどん、お財布と相談しながらそろえていくぞ~いっと。

 いや~、車って、興味を持ち始めるとおもしろいもんですねぇ。
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これで2012年5月18日のアリバイはばっちり☆

2012年09月29日 15時39分19秒 | すきなひとたち
 いや~……

 買っておいた『モーニング娘。コンサートツアー2012春・ウルトラスマート 新垣里沙・光井愛佳卒業スペシャル』のDVD を、やっと観たんですけれどもね。


 あたくし、うつりこんでたね……ちょいちょい。


 バカな顔……

 これからもそんなバカ面をひっさげてがんばって生きていこうと思いを新たにいたしました。それ以外に何をか言ふべきことやはある、ということで。

 いいコンサートだったね……しみじみ。
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つれづれ、観たお芝居についていろいろ~

2012年09月27日 15時43分04秒 | 日記
 竹内香苗アナウンサーが、日本を発つ!? い、行かないでくれ……

 どうもこんにちは! そうだいでございます~。
 今日の千葉はねぇ、寒い。とにかく寒いです……まるで、TBSラジオきっての女神のブラジル行の悲報を哀しんでいるかのようです。でも、もともと日本にとどまるスケールのお方じゃなかったことは明らかでしたから、仕方ねぇか。
 今週日曜日の『爆笑問題の日曜サンデー』、聴きのがすわけにはいかないんですけど、大事な用事が入っちゃってるんだよなぁ! リアルタイムで聴くのは難しいですが、あとでどうにかして楽しみたいと思います。


 9月ももうおしまいに近づいてきたんですけど、この1週間でギュギュギュンと気温が下がっちゃいましたよ。夏が終わったかと思ったら、一気になにを着て出歩けばいいのか本当にこまる時期になってしまいました。みなさん、くれぐれもカゼには注意しましょう!

 最近のわたくしは死ぬほど忙しいというわけでもなく、かといってヒマでしょうがないということもなく、ぼちぼちいろんなことに思いをはせながら生活しております。資格試験のことだけを考えていた季節はいったん去って、ふと周囲のことを見渡してみるタイミングが到来してきたという感じでしょうか。ま、たいして大それたことは考えてねぇけど!
 なんとな~くここ数日は、昔の自分のことを思い出す機会が多いような気がします。そこから現在のことに目を向ける、みたいな?

 今年の夏はバタバタしすぎで、あんまり東京に遊びに行くチャンスも少なかったんですけど、ここのところはたて続けに2回、お芝居を観に行っておりました。


サンドグラ公演 『4月のある晴れた朝に100% の女の子に出会うことについて』(演出・佐々木透、原作・村上春樹)

ブルーカバーアクターズ第5回公演 『アイスクリームマン』(演出・宇治川まさなり、作・岩松了)


 サンドグラさんの公演は日曜日の最後の回を観に行ったんですけれど、ブルーカバーアクターズは初日を観まして、こちらは東京・下落合の劇場「TACCS1179」で次の日曜日まで上演しておられるそうです。
 いや~、どっちもですね、それぞれ別の部分でなにかを思い出す要素があったんですわ、わたくしとしましては。

 サンドグラさんの公演については、内容じゃなくて上演していた場所ね。
 会場は、地下鉄東西線の茅場町駅を出て5分ほど歩いたところにあるシックなビルの5階、フリースペース「マレビト」。
 実はここ、おんなじ佐々木透さん演出のお芝居を観るために、おととしの2010年10月に来たことがあった場所だったんです。ま、私も自分でこの『長岡京エイリアン』の昔の記事を読み返すまでは、正確にいつ行ったのかを忘れてたんですけどね……やっぱ日記はつけとくもんだねぇ!

 あの時も秋だったんですが、前回とまったく変わらず、今回もよわ~い雨がそぼ降る肌寒い休日。日が落ちてうす暗くなり、歩く人も少ないビル街のなかを一人ゆくさみしさといったら。どこからかビリー=ジョエルの『ストレンジャー』のイントロが聴こえてきそ……って、このたとえ2年前にも言ってたわ! 感性がまるで成長しておりません。

 5階のマレビトに行くためには、エレベーターがないのでしっかりオノレの脚で歩いてのぼっていかねばなりません。空間はほんとにビルの一室といった感じで、お客さんが20人も入ればギュウギュウ詰めといった部屋の中で役者さんがたがお話を始めていきます。

 雨の降る夕暮れのさみしい街を歩いてビルに行き、ビルを5階までのぼって小さなスペースでお芝居を観る。そして窓の外にふと目をやれば、灯りも少ない昭和を残した東京の夜が広がる……
 なんか、気持ちいいくらいに丸2年前の自分と今の自分とがオーバーラップしまして、非常にいい感じの寂寥感を味わっちゃったんですね。「さみしい」という感情はあんまり毎日たのしむもんじゃあないと思うんですが、たまにはね! たま~にはいいもんです。

 2年前の秋っつったら私、まわりの方々に無理を言って演劇活動をやめさせてもらった直後でしたわ。正式に所属していた劇団を去ったのは半年後だったんですが、いろんな感情をいだきながら2年前の私がこのビルの5階にのぼってきたわけなのね。
 それから時はたち、私もいちおう生きていく上でのいろんな収穫を手にして、いくぶん昔のことに思いをはせる余裕くらいを持てるようにはなって同じスペースにやってきました。階段をのぼっても息がきれなかったのが地味に安心。

 年をとるごとに短く感じるようになるのが時の流れとはよくいいますが、私の場合のこの2年間は長く感じましたねぇ。成長したかどうかはわかりゃしませんが、少なくともいろんな面で変わることができたかと思います。そして、総じてその変化を私は楽しんでおります。それがなによりかね……

 2年前、2010年の10月……亀井絵里さんはかろうじてまだ芸能活動を続けていたのに、その存在に気づいてさえいなかった当時の我が身を呪うほかありません。心残りなことは、それくらいかなぁ。

 そんな感じに、実は肝心のお芝居はそっちのけでずっとボヤ~ンと考え事をしていたわたくし……失礼だねぇ~!!
 
 お芝居はタイトルの通り、村上春樹が1981年に発表した数ページほどの超短編(講談社文庫『カンガルー日和』収録)を1時間ほどの内容に舞台化したものです。
 原作を読んでもわかるように、実際に読んでも10分かからないようなお話なんですが、演出はそれにくわえて、出演している女優さんが出産準備のために活動をいったん休止するといった、俳優さんそれぞれにまつわる現実の出来事をいくつか内容に取り込んで作品にしていました。

 観て感じたんですけど、村上春樹の小説は、今回のようなごくごく短い話にしても、舞台化するのはそうとうに難しいんですね……だって、その文章をセリフにして発声している俳優さんよりも、その文章そのものの「個性」が強くて、それをあえてお芝居にする意味みたいなものに小説じたいが猛然とケンカをふっかけてくるような怖さがあるんです。いや、文体や内容はなんてったって村上春樹なんですからいたって柔らかな物腰で、ど~でもいいことをぶつくさつぶやいている大学生のようなヒョロヒョロ感があるわけなんですが、ひとたびそれを小説でない形式に変換しようとすると、「え~っと……それは……どうかな……だって……」と、深夜のファミレスで否定の意味だけの言葉をたっぷり3分かけて話すような陰険な抵抗をしかけてくるのです。
 要するに、生半可なやりかたではまったく折れてくれない「芯の頑固さ」がすごいんですよ、ハルキ・ムラカミは。外ふんわり、中ジュラルミンですよ。
 しかも、はっきり言って1980年代初頭の作家の感覚は、2012年現在の日本人の肉体とはだいぶ違うわけですから、ただその文章を今の役者さんがしゃべっているだけでは違和感がクローズアップされてくるだけで、あんなに平易なはずの村上春樹の文体なのに意味が頭に入ってこなくなっちゃうのね。それだったらお客さんが自分で小説を読んだほうがいいという、決定的な残念感にさいなまれてしまうわけなのです。

 そんなふうに感じてしまいまして、私個人の感覚としましては、ちょっと今回のお芝居はよくなかった。村上春樹の小説に自分たちの実体験をからめてふくらませるという演出は、原作側からすると小説から逃げているともとれる戦法になってしまうわけで、こうなったらもう、村上春樹は同じ「村上」でも、あの武田信玄を合戦で2度も敗走させたという信濃の猛将・村上周防守義清(1503~73)にも匹敵するかのような頑強な反抗をしかけてくるわけなのです。これでは、なまなかな俳優さんがたではひとたまりもありません。恐ろしいことですね。

 またついでに言いますと、やっぱりお芝居の空気の中で「赤ちゃんができた。」などというような発言をするのは、それがホントだろうがセリフだろうがどっちにしても、発言者と周囲の人間とのあいだに「あぁ……そう。」という絶対的な温度の違いを生じさせてしまいます。上演中に言われても、聞いた側の役者が「おめでとう!」にしろ「So what? F**K!! 」にしろ、お客さんを代弁するちゃんとしたリアクションをしなければお客さんの頭に中に浮かんだいろんなモヤモヤを消化させられなくなってしまうわけなのですが、今回は聞いた役者さんがまったくの無言ノーリアクションという最悪の事態になってしまいました。それは「お客さんにいろんなことを感じてもらう」ということをゴリ押ししている気持ち悪さがなくはないかしら?

 だって、お芝居を観たあとにふつうにお話をしたほうが、その女優さんにたいする「おめでとう!! がんばってね!」という気持ちが素直に生まれたし、現にしっかり私の言葉で伝えられましたしね。
 小説にしろふだんの会話にしろ、なにかしらそれなりに成立しているものをど~してあえて「演劇」という別の形に変換するのか? そこらへんをいろいろ考えてしまうお芝居でしたね、サンドグラさんの公演は。別にいいんですけど、もっと単純におもしろく楽しめるやつが観たかったな~、なんて思っちゃったりなんかしちゃったりして、チョンチョン!


 さて、お次のお芝居はブルーカバーアクターズの『アイスクリームマン』。
 こっちで私が昔のことを思い出すきっかけになったのは、お話が岩松了の戯曲『アイスクリームマン』(1992年初演)だったことと、出演している役者さんがほんとに若かったことですね!

 『アイスクリームマン』は実になんちゅうか、恐ろしいったらありゃしない作品なんですね。もちろん、「村上春樹の小説を演劇化する」ということとはまったく別物の恐ろしさです。

 物語の舞台は、地方の人里はなれた山奥にある自動車教習所。セリフの中に「ゆざわ」という地名が出てくるため、おそらく新潟県のどこかに設定されているかと思います。新潟県湯沢町は長野県と接している県中南部の町で、もよりの主要な城郭は長野県飯山市の飯山城(跡)です。ど~でもいいですよ~だ。

 その教習所には、2週間の免許合宿のためにさまざまな顔ぶれが出入りするわけなのですが、そこで、おもに恋愛のドロドロを起因とした人間性まるだしの事件が次々に発生して……というのが『アイスクリームマン』の流れです。

 この作品はまぁ~戯曲がよくできあがってるんですよね。セリフの一言一言にこめられた情報の密度は高いし、それらの伏線がある瞬間でパッと結びついてまた新たなアクションが発生するというつながりは、お客さんに集中力を落としているヒマをあたえません。そしてまた、どうしようもなく残酷で底意地の悪いラストシーンね。観終わった後にスッキリするといった種類のお芝居ではないと思うのですが、とにかくとてつもないお話を観てしまった、という余韻は強く残ります。

 ただその、台本の段階でおもしろさがだいたい確約されている作品を上演することの恐ろしさね。

 要するに、私はこの『アイスクリームマン』が非常におもしろい作品であることは今回のブルーカバーアクターズさんの公演でもよくわかったんですが、出演している役者さんのよさは、ちょっとわからなかったんだなぁ。公演初日ですから多少は緊張していたのかも知れませんが、聞きのがせないセリフがどうこうでなく、それをしゃべっている役者さんの魅力が観たかったっちゅうか。

 そういう意味では、出演している役者さんの多くは若々しく、見た目もいかにもイケメンに美女ぞろいという陣容でよかったのですが、「こいつは……いったい何者なんだ!?」と、思わず物語の筋をおうことさえ忘れて見入ってしまうような俳優さんはいなかったような気がします。いや、たぶん回をこなすごとに余裕が出てきて、さらにおもしろくなっていくメンバーなんじゃないかとは思うんですけど。

 役者さんの若さが悪く出ているのって、やっぱり「演技やセリフを言うテンポが無意識に似てきちゃう」ってことが最たるものなんじゃないでしょうか。悪い意味で欲がないというか、「私ならこうするけどな。」という、他人との違いを見せたい野心が少ないような気がしたんですね。
 特に、女性が本心をあらわにして思いをぶちまける局面が多い『アイスクリームマン』なんですが、ヒステリックな演技が全員おんなじタイプで連続するっていうのは観ていて飽きるというか、必然的に最後の順番でその演技をする女優さんが大損こいちゃうわけなんですよね。そこはずるがしこい俳優さんだったら別のやり方を選択するべきだし、それがプロなんじゃなかろうかと。

 まぁ、若い役者さんっていうことでも、上演中にその中の1人がやっちゃったハプニングという点でも、むか~しむかし(2年前)までに俳優をやっていたわたくし自身の大バカタリンコなあれこれを思い出してしまいました。ああいうミスする人、やっぱりいるのね……もう2度としちゃいかんぜ!

 もうひとつ、私はさらに大昔の大学生時代、演劇サークルにいたころに上演する台本の候補として『アイスクリームマン』をみんなで読み合わせたことがあって、それも思い出したんでしたっけ。
 そのときは結局、「いや、これはムリだわ……重い。」ということで『アイスクリームマン』は選ばれませんでした。うん、正しい判断かな!? あと、出てくる人数も多かったし。

 そんなこんなで今回の『アイスクリームマン』。もちろん楽しんだことは楽しんだのですが、出てくる役者さんで楽しみたい私にとってはちょっと物足りなかったかしら?


 まぁ、言いたい放題言いましたけど、役者じゃない人間はテキトーなことをずらずら言うよね~!! 現代日本のこの状況下で演劇の世界を生きている方々に惜しみない感謝と応援の念を送って、今日も私は働きに行きたいと思います。

 ♪ホントにホントにホントにホントに ごっくっろうさん、ハイッ!!
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もうこうなったら大森南朋さんに志々雄真実やってもらいましょうよ  ~実写映画版『るろうに剣心』~

2012年09月22日 15時37分23秒 | 花咲ける「るろうに銀魂」ロード
 は~いどうもこんにちは! そうだいでございます~。
 いや~関東は涼しくなった涼しくなった。本日土曜日の千葉は、本当にすごしやすいステキな秋の休日になりました。っつってもまぁ、私はこれからふつうに働きに行くんですけどね……土日があまり関係ねぇ!


 え~、さっそくズババンと本題に入ってしまいますが、先週に実家の山形県山形市に帰省してきまして、そのついでに話題のあの映画、実写版『るろうに剣心』(監督・大友啓史 主演・佐藤健 134分)を観てきたぞ、というお題でございます。
 いや~なんだか、今日22日時点でのニュースによりますと、観客数200万人突破の興行収入25億円越えだとか。公開から1ヶ月ほどたつのに勢いはいまだおとろえず、かっ飛ばしてますなぁ!!

 山形の映画館はねぇ~、ホントにきれいなのよね。私が行ったのは JR山形駅ちかくのシネコンだったんですけど、とっても快適に楽しんでまいりました。

 実写映画版『るろうに剣心』、おもなスタッフ&キャスティング情報はこんな感じです。


監督 …… 大友 啓史(『ハゲタカ』『龍馬伝』)
脚本 …… 藤井 清美(『豆富小僧』)・大友啓史
音楽 …… 佐藤 直紀(『ALWAYS 三丁目の夕日』『龍馬伝』)

緋村剣心   …… 佐藤 健(23歳)
神谷薫    …… 武井 咲(18歳)
相楽左之助  …… 青木 崇高(むねたか 32歳)
明神弥彦   …… 田中 偉登(たけと 12歳)
高荷恵    …… 蒼井 優(27歳)
鵜堂刃衛   …… 吉川 晃司(47歳)
斎藤一    …… 江口 洋介(44歳)
戌亥番神   …… 須藤 元気(30歳)
斬鋼線の外印 …… 綾野 剛(34歳)
武田観柳   …… 香川 照之(46歳)
山県有朋   …… 奥田 瑛二(62歳)


 ってなわけで、さっそく単刀直入に感想を言いますと、

 やっぱり、おもしろかったね!

 お話の展開、登場人物のキャラクター、舞台の背景美術やロケーション、そして俳優陣の演技。すべてが非常に正攻法で理想的な「娯楽映画」になっていたんじゃないでしょうか。だいたい2時間15分、だれることもなくとっても楽しく観ることができました。

 前にも言ったように、この実写映画版は、泣く子も黙る天下の『週刊少年ジャンプ』で一時代を築いた時代劇バトルアクションマンガ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』(原作・和月伸宏 1994~99年連載)の内容のうち、ごく序盤のエピソード群「明神弥彦編」「斬左編」「黒笠編」「高荷恵編」(第1~30話)あたりをリミックスしたような流れになっています。
 つまりは、いかにも実写映画版の第1弾といった空気を読んで、非常にオーソドックスに主人公・緋村剣心の壮大なるサーガの「とっかかり」だけを描いたものになっているわけです。

 ご存知の通り、原作『るろうに剣心』はざっくりまとめてしまいますと、それら明治10年代の日本の新首都・東京で剣心の周囲に主要なレギュラーキャラクターが集まっていく総称「東京編」を第1部とするのならば、剣心にとって最大最凶のライヴァルともいえる名悪役・志々雄真実(ししお まこと)一派との全面対決を熱く描く「京都編」をへて、幕末にみずからが犯した人斬りの闇に剣心が向き合い、過去にとらわれるか未来へあゆんでいく新生の道を選ぶかの岐路に立つ「人誅(じんちゅう)編」をもって一巻の終わりとする3部作構成になっています。

 したがって、連載終了からゆうに10年以上も経過しているのに今なお語り継がれる『るろうに剣心』の魅力の核心ともいえる、アクションマンガとしての頂点をむかえた「京都編」や、緋村剣心の贖罪の物語の終結をつづる「人誅編」は、今回の実写映画版ではまったく描かれておらず、そういう意味では、この映画は多くの原作ファンにとっては、まさしく「えっ、まだ始まったばっかなのにおしまい!?」な内容になっていると思うんです。

 その点、確かに私そうだいも、映画を観るまでには、

「ええ~……武田観柳がラスボスって。『スーパーマリオ』で言ったらノコノコ級の敵じゃん! おもしろいのか?」

 という危惧を少なからずいだいてしまっていたのですが、映画本編を観終わって、その思いはまったくの杞憂であったことに安堵いたしたのでありました。いや、やっぱ武田観柳は小物だったんですけど。


 現実に大ヒットを記録している今回の実写版『るろうに剣心』のいいところを一言で要約してしまいますと、こういうことになるかと思います。

「原作の肝をガッシリつかんでたら、大胆なアレンジ&お遊びもオールオッケー!!」

 これですねぇ。「原作の肝」というのは、言うまでもなく主人公である剣心の「暗い過去」のことだと思います。明治時代という、名目上「いくさのない」時代を生きる者として、剣心は幕末の「伝説の人斬り・緋村抜刀斎」というおのれの前身をひた隠しにして飄々と流浪の旅を続けていこうとします。しかし、そんな剣心の過去を知る人物や、強者が弱者を踏み潰していく変わらぬ社会の構造が、いやおうもなく剣心を闘いの世界に引きずり込んでいってしまうわけなのです。

 つまり、『るろうに剣心』の世界は「闘いたくないでござる……」という剣心を、他のいろんなキャラクターたちがあっちからこっちから引っぱりまわして「オレと闘え!」「いや、ワシと闘え!!」「剣心、闘わないで~!」とイジりたおしていくという、「血なまぐさいモテ期」の克明なる記録となっているのです。う~ん、にんともかんとも『ジャンプ』だわ。

 そういう点で、なにはなくともドカンと「主人公は緋村剣心です!!」という存在感を物語の中心にすえて、主役の佐藤健くんへのピントをまったくブレさせなかった大友監督の視点は大正解だったと思います。
 「忘れたい過去を背負う男」がいるというポイントさえつかんでいたら、『るろうに剣心』は少々のアレンジが加わっても十二分に『るろうに剣心』たりえる、ということを雄弁に証明しているのが今回の実写映画版だったと思うんだなぁ。

 さて、じゃあその一方で、私から見た実写映画版の「大胆なアレンジ&お遊び」というものはどんなものだったのかといいますと。
 ざっと以下の通りになりますでしょうか。


1、緋村剣心のキャラクターが原作よりも若くなり、「かげのある薄気味悪い青年」になっている

2、原作ではまだ登場していないはずの斎藤一が、警視庁の警部として物語に深く関わってくる

3、斎藤一と緋村剣心との関係が原作ほど近くない

4、武田観柳が薬物中毒の完全な「狂気の人」になっている

5、鵜堂刃衛(うどう じんえ)・戌亥番神(いぬい ばんじん)・外印(げいん)が武田観柳に雇われた刺客という立場になっている

6、戌亥番神(いぬい ばんじん)と外印(げいん)のキャラクター設定が原作とまるで違う


 これらの他にももちろん、今回の2時間ちょいの上映時間にまとめるために、「明神弥彦の初登場エピソード」「比留間喜兵衛・伍兵衛兄弟」「原作で武田観柳が雇っていた四乃森蒼紫(しのもり あおし)率いる元・江戸幕府御庭番衆」といった重要な諸要素がまるごとカットされているといった、原作との大きな相違もありますね。

 ただし、こうずらずらっとならべると直接の原作となったマンガ(コミックス版1~4巻にあたる)からずいぶんと離れた内容になっているようにも感じられるのですが、実はよくよく見てみますと、

「原作の浦村警察署長=映画の斎藤一」
「原作の鵜堂刃衛+四乃森蒼紫=映画の鵜堂刃衛」
「原作の武田観柳+比留間兄弟の剣術道場地上げエピソード=映画の武田観柳」
「原作の元御庭番衆・式尉(しきじょう)=映画の戌亥番神」
「原作の元御庭番衆・般若(はんにゃ)=映画の外印」

 といったように、だいたいの主要エピソードが「原作と違うキャラクター」によってほぼカヴァーされていることがわかります。具体的ないれものは違っているものの、今回の映画がしっかり原作の骨子をおさえている流れになっているということがわかりますね。上でいう5、や6、のアレンジがまさにこういうことです。

 でも、戌亥番神と外印は気持ちいいくらいに別人でしたね……まぁ、おもしろかったからいいですけど。剣心と外印のバトルはスピーディでよかったなぁ。
 全国にそれぞれ2、300人くらいはいるんじゃないかと勝手に私がふんでいる戌亥番神ファンと外印ファンは、やっぱ怒ってるのかな。でも、本来この2人が活躍する「人誅編」を映像化するにあたってこんな変更がほどこされた、ということでもなくあくまでも特別出演のような扱いなので、それほど大きな改変のように見えないのが、今回の映画の巧妙なところですね。これで鵜堂刃衛や相楽左之助に同じようなアレンジがあったらいけないわけです。

 逆に、今回の映画で目立った活躍の場が用意されなかった明神弥彦と浦村署長(演・斎藤洋介)は、ちょっとふびんなくらいに影が薄かったですね……特に斎藤さんはあれ、別に斎藤さんじゃなくてもよかったっつうか、浦村署長自体いなくてもよかったんじゃない!? 無念なるかな斎藤洋介さん、別の「斎藤さん」を演じる「洋介さん」に出番をまるっと盗られてしまいました。

 でも、鵜堂刃衛に襲撃されて死屍累々となった警察署の惨状を見て鎮痛な表情を浮かべる斎藤洋介さんのたたずまいは、すばらしかったね……だって、「オレも20年前には『帝都大戦』っていうヒドい映画でこんな目に遭ってたもんだ。」というペーソスがハンパないんです。実に味わい深いお顔。

 じぇんじぇん関係ないですけど、実家に帰ったときにやっと観た NHK朝ドラの『梅ちゃん先生』、あれ、南果歩さんが基本的にモンペに割烹着姿の役で出てたでしょ?
 いつ、ふすまをガラッとあけて将校マントの加藤保憲(演・文句なしに嶋田久作)が出てきて、果歩さんが「加藤……!!」ってつぶやいてサイキックウォーズを展開するのかと思って、身がまえちゃったよ。そう感じたのは私だけじゃないはずです……たぶん。


 話を元に戻しまして、原作と実写映画の相違点をひとつひとつ見ていきましょう。

 1、に関しては、なんと言っても佐藤健くんの持つ雰囲気を重視したというか、実際に若い俳優さんが緋村剣心を演じるにあたってムリのない範囲で主人公を演じてみたらこうなった。こういうことになるんじゃないでしょうか。
 私の感覚では、原作の緋村剣心は物語の時点(1878年)で数え年30歳ということもあり、暗い過去を背負いつつも、おもてむきは明るい微笑みをたやさない、ちょっと抜けたところもある気のいいお兄さんといった印象がありました。
 でも、映画版の健くんはもっと幕末の記憶を「切り離せないもの」としてすぐ近くにおいているイメージがあって、ふだんからちょっと怖い雰囲気をおびているんですね。もちろん笑うときはさわやかに笑うし「おろ?」とトボけたりもするんですが、次の瞬間にでも「人斬り抜刀斎」に戻ってしまうような冷たさがかなり色濃く残っているです。

 そのへんは、二面性を使い分けなければならない健くんの演技力の限界ということも、もしかしたらあるのかも知れませんが、私としてはそれ以上に、あの NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)で、史実の「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の役を生々しく演じきった健くんを剣心役に抜擢した大友啓史監督の意図的な演出であるような気もするんです。

 つまり、実写映画版『るろうに剣心』の緋村剣心は、原作マンガの緋村剣心と同じかそれ以上に、「もし『龍馬伝』の岡田以蔵が明治維新後も生き延びていたら……?」というあたりの想像を強くかきたてるキャラクターになっていたような気がするんですね。
 そして有名な話ですが、原作マンガの中で作者が最も強く岡田以蔵のイメージを投影させた登場キャラクターは、実写映画版での事実上のラスボスとなった鵜堂刃衛です。
 緋村剣心と鵜堂刃衛が「伝説の人斬り」という同じ根っこを持ちながらも、明治という新時代をまったく違った哲学に基づいて生きているという構図は原作でもしっかり描かれているのですが、実写映画版もまた、『龍馬伝』という経験をへてこの対比をきわめて明瞭にクローズアップしているわけなのです。やっぱりここでも、映画は原作にちゃんとよりそっている! グッジョブ!!

 余談ですが、おおもとの『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』や実写映画版の「パラレルワールド」として現在連載されている和月先生おんみずからによる新シリーズ『るろうに剣心 キネマ版』では、緋村剣心は基本的に襟巻き(マフラー)を巻いているというファッション上のちょいアレンジがあるのですが、これはやっぱり、『龍馬伝』の岡田以蔵の襟巻き姿をフィードバックさせたもんなんじゃないでしょうかねぇ。考えすぎかしら?

 ちょっととびますが、実は1、と好対照なおもしろさがあるのが4、の相違点で、こっちはといいますと、『龍馬伝』で明治時代のビジネスマンとして最大級の成功をおさめた実業家・岩崎弥太郎の役を演じた香川照之さんが、『るろうに剣心』では成功から一転して薬物と誇大妄想の世界のとりことなってしまった実業家・武田観柳を演じているのがとってもおもしろいです。ここでもまた、原作にはなかった「もし『龍馬伝』の岩崎弥太郎が途中でトチ狂ってドロップアウトしてしまったら……?」という ifが楽しめるというわけなのです。
 この「頭のおかしい武田観柳」というアレンジはまさしく「演・香川照之」という前提があったからこそのお遊びでありまして、原作では確かに底の知れないすごみはあったものの、いちおうビジネスマンとしてのまっとうさは残していた観柳。実写映画版では、完全に考え方の破綻した散財好きの大金持ちというていになっていて、はっきり言って剣心がどうにかしなくても遠くない未来にお縄になることは目に見えているぶっ壊れようになっていましたね。私は基本的にオーバーな演技に酔っている時の香川さんは嫌いなのですが、この武田観柳役の香川さんはいくところまでいっちゃっている狂気とユーモアが同居していてよかったです。「人の家めちゃくちゃにしやがってェ!!」

 またしても余談なんですが、今回の実写映画版で武田観柳の豪奢な邸宅の外観として撮影に使用された白亜の洋館は、鳥取県鳥取市に現存している重要文化財の「仁風閣(じんぷうかく)」というとてつもない建物です。これは1907年に当時の皇太子殿下(のちの大正天皇)の行啓にあわせて建造されたものだとか。私も10年くらい前に実際に行ったことがあるんですけど、いい建物でしたよ! もちろん、内装は映画とはまったく違う落ち着いたものでした。
 東京のど真ん中にこんなレベルの邸宅をかまえる武田観柳の財力! 具体的にどんな半生を歩んできたのかがほんとに気になります。


 さて、相違点の2、は一見するといかにもファンサービスのみのアレンジのようにも見え、斎藤一を原作ほどに剣心にからませると容量オーバーになってしまうため、「幕末期に斎藤一が緋村抜刀斎を見たのは鳥羽・伏見合戦のときだけ」ともとれる演出がほどこされるなどの3、の判断がとられたとも解釈できるのですが、これによって映画の前半部分で、原作にはなかった「斎藤一と武田観柳との対面」というシーンが展開されることとなりました。

 なんと!! 斎藤一と武田観柳!?

 これは、いいね……幕末ファンにとってはたまんない取り合わせです。

 まず斎藤一さんのことをおさらいしてみますと、この方は言わずと知れた歴史上の実在人物で、『るろうに剣心』の舞台となっている明治11(1878)年の時点では実際に警視庁の警部として働いていました。ついでに言うと、その前年の1877年には、2~9月に九州地方南部で勃発した「日本史上最後の内乱」ともいえる西南戦争にれっきとした軍人として従軍していました。ガチの侍だ!
 そしてもっと大事なのは、彼が幕末期に本物の武士以上に武士だったと畏れられた、あの実戦治安維持集団「新撰組」の「三番隊組長兼副長助勤」であったということです。し、し、新撰組の中核幹部!!
 斎藤一自身は江戸(東京)の出身だったと推定されているのですが、明治に入ったあとは青森県で妻子をもうけて「藤田五郎」と名を改めており、1874年に東京に移住して警視庁に身をおくという経歴をたどっていました。幕末に佐幕派の最前線に立っていた人物が、明治には新政府側の「いち公僕」として働いている……非常に興味深い人生ですね。

 斎藤一という人物は、いわゆる新撰組の「結成メンバー」ともいえる2代目局長・近藤勇と副長・土方歳三を中心とした「試衛館の顔ぶれ」とは微妙に距離を置いた関係にあったため、それこそ「隠れた名キャラクター」という位置にいたようなのですが、1990年代に巻き起こった他でもない「るろ剣ブーム」によって、原作の中で架空のキャラクター以上に強烈な魅力をもった活躍をみせた斎藤一は驚異的な人気を手に入れることになりました。いまや彼は、「近藤・土方・沖田」というビッグ3に肉薄する知名度を誇る存在になっているのです! ちなみに、2005年の NHK大河ドラマ『新選組!』で斎藤一役を演じていたのはオダギリジョー。さらにちなみに、「しんせんぐみ」の漢字は「新選組」でも「新撰組」でもどっちでもよろしいようです。本人たちがどっちの字も使ってたから。我が『長岡京エイリアン』では、なんとなくかっこいいので「新撰組」で統一しています。

 今回の実写映画版では江口洋介さんでしたが、明治11年当時の斎藤一は数え年35歳と、まだまだ若い男ざかりでした。でも、40代の江口さんも充分に若いですからいいキャスティングでしたね。
 また話がずれますが、その一方で山県有朋役を演じていた奥田瑛二さんは、演技が老けすぎてませんでした? だって、当時の山県有朋さんは数え年41歳よ!? あんな老いぼれにはなってないはずなんですが……奥田さんは60代とはまったく思えない外見なのに、なんでわざわざジジイな演技をするんでしょうか。ちょっと実写映画版の山県は、登場する意図のよくわからない不明瞭な人物になっていました。

 それはさておき、そんな実在人物の斎藤一に対して、陰険で危険な極悪商人となっていた武田観柳のほうはといいますと、彼自身はもちろん『るろうに剣心』オリジナルのキャラクターなのですが、作者の和月先生によると明確にモデルとなった人物が実在していました。

 その人物とは、「新撰組五番隊組長兼副長助勤・武田観柳斎」。う~ん、「斎」がついてるかついてないかの差だけね。

 まさしく、肩書き上は斎藤一とまったく同等の幹部クラスだった武田観柳斎! ところが、現在に流布しているイメージというか人気は、はっきり言いまして斎藤一とは天と地ほどの落差のあるものになっていると申し上げるほかありません。全国からかき集めれば130人くらいいるかもしれない観柳斎ファンのみなさま、ごめんなすって!

 出雲国(現在の島根県東部)の藩士の身分に生まれた観柳斎は、文久3(1863)年の冬、2代目局長・近藤勇体制になったばかりの新撰組に入隊した時点では脱藩した浪人だったのですが、江戸時代に軍事学の基本として重んじられていた「甲州流軍学」をマスターしたインテリ派ということで、近藤局長からは新撰組全体の軍事教練を任されるかたちで優遇されていました。おそらくは、出世栄達ののぞめない下層武士や、そもそも武士でさえない身分出身の隊士も多かった新撰組の中では、観柳斎の「正式な藩士の家柄」という血筋も軍学の知識も、集団のステイタスを向上させるものとしてともに重要視されていたのではないでしょうか。ちなみに、斎藤一は藩士よりも下の下級武士「足軽」の出身です。
 余談ですが、彼のいかめしい「武田」という姓は甲州流軍学のあがめる戦国大名の「甲斐武田家」にあやかった完全なペンネームで、本名は「福田広」でした。ふつ~!!

 ところが、組内での自らの高い地位の保持に強く執着していたと言われる観柳斎は、必要以上に近藤局長にとりいったために近藤独裁体制を強化させてしまう側の代表になってしまい、結果としては斎藤一も含めた多くの幹部たちの不平不満と対峙する立場になってしまいました。
 それに加えて時がたち、攘夷や倒幕といった戦争の可能性が現実味を帯びてくるにしたがって、300年ちかい過去の戦争術を理想的に整理した内容だった軍学の実用性は徐々に疑問視されるようになり、のちに新撰組が、ボスである江戸幕府に右ならえで最新式のフランス式戦術を導入するにいたって、観柳斎の人望と存在感は決定的に喪失されることとなりました。
 そして最終的には、彼が江戸幕府の最大の仮想敵ともいえた薩摩藩に内通しているという情報が近藤局長の耳に入ることとなり、最後の頼みの綱だった局長の命によって、武田観柳斎は慶応3(1867)年6月22日に他の新撰組隊士の手にかかって粛清されてしまいました。生年が不明であるため、観柳斎の具体的な享年は明らかになっていません。

 こういった形でたった3、4年ほどの在籍期間ではありましたが、観柳斎が死んでからわずか数ヵ月後の10月に江戸幕府の大政奉還が起きているため、まさしく新撰組の黄金期を支えていた幹部のひとりだったことには間違いがないでしょう。
 ただし、暗殺されたために本人に関する信頼できる証言が少ないことも事実で、結果として観柳斎は、現在では「人望がない」「古い知識をかさに着た傲慢な性格」「保身のために新撰組の分裂をまねいた小物」「男色家」といったマイナスイメージにまみれてしまっています。男色家っていうのはさすがに、根拠のない後年の創作らしいんですけど。
 大河ドラマの『新選組!』での武田観柳斎にはやや同情的な解釈がほどこされており、八嶋智人さんが「生きかたのヘタな小人物」といった観柳斎を味わい深く演じていましたが、やっぱり「新撰組隊士らしくないだめんず」というイメージには揺るぎがないわけなんですね。

 さて! そんな武田観柳斎をモデルにして誕生した武田観柳であります。

 もちろん、明治時代にいちおう大成功した実業家である武田観柳に、観柳斎のような「もと新撰組幹部」という過去はないのですが、映画の前半で、謎の連続怪死事件やアヘン密売のにおいをかぎとった斎藤一警部が、邸宅の大庭園でくつろぐ観柳と初対面するシーンの2人の表情は、単なる「刑事と商人」という構図だけではないような、実に意味深な「間」があったわけなのです。な、なんか過去にあったのか?

 もし、もしこの武田観柳が「暗殺されたはずの観柳斎の生き延びた姿」だったのならば……

 史実の武田観柳斎粛清の実行犯は明らかにはなっていないのですが、当時そういった隊内の「ダーティワーク」を一手に引き受けていたとも言われる斎藤一その人であった可能性も濃厚だといわれております。

 実写映画版という思わぬかたちで実現した、「斎藤一と武田観柳の出会い」! 何度も言いますが、武田観柳は武田観柳斎ではありません。しかし、歴史ファンが思わずニヤリとしてしまうサービスにも目を配る余裕を持っているのが、今回の実写版『るろうに剣心』のすごみなのです。


 う、うっわ~! 例によって今回も文量がとんでもないことに!!

 この他にも、「武井咲と青木崇高がいい」「斎藤一の得意技・牙突の使いみちがもったいないにも程がある」「蒼井優のまゆげがヘン」などと語りたいポイントは無数にあるのですが、とにかく総じて「おもしろかった!」という一言にまとめさせていただきたいと思います。


 最後に、この実写映画版は、続編が制作される可能性が非常に高いと思われます。というか、私としては大友啓史監督と佐藤健くん以下のレギュラーキャスト陣続投による次回作「VS 志々雄真実一派編」がめちゃくちゃ観たいです!
 ということなので、私そうだいによる、大河ドラマ『龍馬伝』をもとにした、次なる実写映画版『るろうに剣心 京都編』の勝手すぎるキャスティングプランを構想しておしまいにしたいと思います。異論反論、アタリマエ~♪


大予想!! 実写版『るろうに剣心 京都編』の希望こみこみキャスティング案(『龍馬伝』ぎみ)

宿敵・志々雄真実       …… 大森 南朋
志々雄の愛人・駒形由美    …… 真木 よう子
志々雄十本刀筆頭・瀬田宗次郎 …… 神木 隆之介
志々雄十本刀・佐渡島方治   …… 田中 哲司
志々雄十本刀・沢下条張    …… 伊勢谷 友介
志々雄十本刀・本条鎌足    …… 水野 美紀
志々雄十本刀・悠久山安慈   …… 角田 信朗
志々雄十本刀・魚沼宇水    …… 北村 有起哉
志々雄十本刀・刈羽蝙也    …… 渡辺 いっけい
志々雄十本刀・破軍甲の才槌  …… 田中 裕二(爆笑問題)
志々雄十本刀・破軍乙の不二  …… 要 潤
志々雄十本刀・丸鬼の夷腕坊  …… マツコデラックス

旧御庭番衆京都探索方筆頭・柏崎念至 …… 近藤 正臣
旧御庭番衆頭領の孫娘・巻町操    …… 工藤 遥(モーニング娘。)

緋村剣心の師匠・比古清十郎  …… 藤岡 弘、
逆刃刀の刀工・新井青空    …… 瑛太


 ど~ですかみなさん!! 志々雄真実一派が異常に楽しそうでしょ!? こんなのがフルメンバーで1本の映画におさまるわけがないと。

 もう志々雄真実は大森南朋さんでいいって! さわやかお兄さんのヒース=レジャーだってあんなジョーカーやっちゃったんですから、南朋さんだってできる。まっとうに松田龍平とか、ありきたりすぎてダメでしょ!? ここは一発、「いやに所帯じみた志々雄真実」でいきましょう。

 観たい、狂おしいほどに観たい!! 大友監督、健くん、期待してま~っす☆
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2012年09月18日 10時06分24秒 | すきなひとたち
モーニング娘。11人体制に 新メンバーは13歳の小田さくら
 (『スポーツニッポン』9月15日の記事などより)

 人気アイドルグループ「モーニング娘。」が14日、神奈川県座間市のハーモニーホール座間で15日から始まる全国コンサートツアー『モーニング娘。誕生15周年記念コンサートツアー2012秋 カラフルキャラクター』の公開リハーサルを行った。

 この日9月14日は、1997年にグループ名が決まった15周年の「誕生日」。プロデューサーのつんく♂(43歳)がメンバー第11期生としてハロプロ研修生の小田さくら(13歳)の新規加入をサプライズ発表した。
 応募者約7000名の「スッピン歌姫オーディション」から選ばれたのは、小田さくら1名のみ。合格した感想はと聞かれると、「自分なりの型でがんばっていきたい。」と元気よく答えた。
 新メンバーが単独で加入するのは後藤真希、久住小春、光井愛佳に次いで4人目となり、つんく♂は「ソロ合格はミラクルを起こすこともある。」と期待を寄せた。小田は、15日から同所で開幕するツアーに同行。10月に台北、バンコク、パリで握手会を開催することも発表された。11人目のモーニング娘。メンバーとして正式に登場するのは、2013年のハロー!プロジェクト正月公演からの予定。

 小田はフラダンスが趣味の中学2年生で神奈川県出身。つんく♂が歌唱力を高評価したことで新メンバーに決定。約350人のファンの前でお披露目された小田は、「うれしいのとプライドと不安がごちゃごちゃしているけど、頑張ります!」と意気込みを語った。

 小田が、目標にしているアイドルについて、「歌では高橋愛さん・新垣里沙さん(元モーニング娘。)、ダンスでは中島早貴さん(℃-ute)」と話すと、リーダー道重さゆみ(23歳)は、「モーニング娘。の現役の立場は!?」とツッコミを入れた。
 小田と同学年、次期エースと言われる第9期メンバー鞘師里保(14歳)は、「(小田について)歌が上手いと聞くんですよ。私も負けずに成長していきたいなって思うし、負けたくないです。もっともっと刺激を受けて、私の成長にも影響してくると思うので、バチバチはり合っていきたいなと思います。」と前向きなコメント。
 現エースの第6期メンバー田中れいな(22歳)が、「やっと歌が上手い子が入ってくれた。」と嬉しそうに話すと会場のファンは大笑い。そして「1人は、同期がいなくて寂しいかも。それでも、おいしいことも沢山ある。辞めたいこともあると思うけど、それを乗り越えたらすっごい楽しくなるから。2、3年は頑張らなきゃね。」と、先輩らしいアドバイスを送った。



 イエ~イ、小田さく、おださく! 『夫婦善哉』。
 コメントにさっそく「プライド」というワードをのせていることからも、ただの新人ではないかなりの非凡ぶりを感じさせてくれます。やってくれそうですね……

 がんばって、ちょ~だい! 私もなるべく早いうちに肉眼で「お手並み拝見」させていただきますよ。
 未来は、あなたのノドにかかってる!? 鞘師さんも他のみなさんも、歌にダンスにさらにうまくなってってくださ~いねっと!
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