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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

今さらですが、京極夏彦の妖怪まわりを整理してみよっか ~下~

2025年05月27日 23時38分47秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
≪前回の記事は、こちら!≫


京極夏彦の妖怪小説関連の時系列

1820年代初頭、『死神』の15年前
又市、上方を出る

文政七(1824)年 ……『死神』の14年前
九月
『寝肥』江戸・神田

文政八(1825)年 ……『死神』の13年前
正月
『周防大蟆』江戸・本所
二月
『二口女』江戸・根津
六月
『かみなり』江戸・下谷

文政九(1826)年 ……1820年代前半(文政年間)、『死神』の12年前
三月
『山地乳』江戸・道玄坂
十一月
『旧鼠』江戸・麹町

又市、御行振りを開始する   …… 『死神』の10~11年前

文政十一(1828)年 …… 御行の又市は20歳代

『嗤う伊右衛門』
 ※御燈の小右衛門失踪、又市、事触れの治平と出会う

文政十二(1829)年

『覘き小平次』

天保四(1833)年

『数えずの井戸』

天保七(1836)年 …… 又市と山岡百介が初めて出会う(御行の又市は30代前半)
初夏
『小豆洗い』越後国枝折峠
八月
『野鉄砲』武蔵国八王子

『白蔵主』甲斐国夢山
十一月
『狐者異』江戸小塚原

天保八(1837)年 …… 又市と百介が出会った翌年
五月
『飛縁魔』尾張国名古屋
初夏
『舞首』伊豆国巴ヶ淵

『芝右衛門狸あるいは隠神だぬき』淡路国洲本
 ※『芝右衛門狸』の中で、「徳川将軍家の大御所が存命している時期」と解釈できる台詞があることから、第11代将軍・徳川家斉が次男・家慶に将軍位を譲った天保八(1837)年四月から家斉が死去する天保十二(1841)年閏一月までの期間のどこかであると推定される。
十一月
『船幽霊』阿波国川久保の里

天保九(1838)年 …… 又市と百介が出会って2年後
五月
『塩の長司』加賀国小塩ヶ浦
六月
『死神あるいは七人みさき』若狭国北林藩

『柳女』武蔵国江戸・北品川宿
『桂男』摂津国大坂

『赤えいの魚あるいは赤面えびす』羽後国男鹿半島沖・戎島

天保十(1839)年 …… 又市と百介が出会って3年後
二月
『遺言幽霊・水乞幽霊』摂津国大坂

『鍛冶が嬶』土佐国佐喜浜
『夜楽屋』摂津国大坂

『帷子辻』山城国京・帷子辻
『溝出』和泉国美曽我郷

『天火』摂津国某村
『豆狸』摂津国大坂
『野狐』摂津国閑寂野
『山男』遠江国秋葉山

天保十一(1840)年 …… 又市と百介が出会って4年後
一月
『お菊虫』武蔵国江戸・本所今川町
五月
『手負蛇』武蔵国池袋村
『柳婆』武蔵国江戸・北品川宿
十一月
『累』武蔵国桜木村

天保十二(1841)年 …… 又市と百介が出会って5年後
『五位の光』信濃国大石峠
 ※この物語の展開が後年の『狂骨の夢』事件の遠因となり、『陰摩羅鬼の瑕』事件の登場人物・由良昴允伯爵の曽祖父(由良公房卿)が登場する

天保十三(1842)年 …… 又市と百介が出会って6年後
一月
『葛乃葉あるいは福神ながし』武蔵国中野村・安倍晴明社
『手洗鬼』         武蔵国江戸・寛永寺不忍池弁天島
六月
『野宿火』        武蔵国江戸・神楽坂

弘化元(1844)年 …… 又市と百介が出会って8年後
六月
『老人火』若狭国北林藩

弘化二(1845)年

『歯黒べったり』陸奥国盛岡藩遠野保
十月
『礒撫』陸奥国盛岡藩遠野保
十一月
『波山』陸奥国盛岡藩遠野保

弘化三(1846)年
正月
『鬼熊』陸奥国盛岡藩遠野保

『恙虫』陸奥国盛岡藩遠野保

『出世螺』陸奥国盛岡藩遠野保

嘉永元(1848)年

『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』武蔵国江戸

嘉永二(1849)年

『百物語』武蔵国江戸

明治十(1877)年夏、山岡百介死す
『風の神』東京市赤坂
 ※『鉄鼠の檻』の登場人物・和田滋行の曽祖父の弟(和田智弁禅師)、『陰摩羅鬼の瑕』事件の登場人物・由良昴允伯爵の祖父(由良公篤卿)、『書楼弔堂 破暁』の登場人物・山倉が登場する

明治二十五(1892)年5月~明治二十六(1893)年6月
『書楼弔堂 破暁』(中禅寺秋彦の祖父である武蔵晴明社第十七代宮司・中禅寺輔が登場)
 ※中禅寺輔の父で山岡百介と親交の深かった陰陽師・中禅寺洲斎(じゅうさい)は明治二十五年に死没している
 ※洲斎の活躍するドラマオリジナル作品『巷説百物語 福神ながし』の具体的な時代設定は示されていないが、山岡百介が初めて対面した時、洲斎は50代後半の初老だった

明治三十(1897)年8月~明治三十三(1900)年4月
『書楼弔堂 炎昼』
 ※大学生時代の柳田國男や福来友吉が登場する

大正十一(1922)年
11月 『襟立衣』(『鉄鼠の檻』の前章エピソード)

昭和十九(1944)年
10月 『青鷺火』(『狂骨の夢』の前章エピソード)

昭和二十一(1946)年
9月 『青女房』(『魍魎の匣』の前章エピソード)

昭和二十五(1950)年
6月 『岸崖小僧』事件(多々良先生シリーズ第1作)
10月 『目競』(榎木津礼二郎が探偵業を始めるきっかけとなったエピソード)
11月 『文車妖妃』(『姑獲鳥の夏』の前章エピソード)

昭和二十六(1951)年
2月 『泥田坊』事件
3月 『手の目』事件
10月 『古庫裏婆』事件

昭和二十七(1952)年
5月  『目目連』(『絡新婦の理』の前章エピソード)
7月  『姑獲鳥の夏』事件(中禅寺秋彦ら主要登場人物は30代中盤)
    『川赤子』(『姑獲鳥の夏』の前章エピソード)
8~10月 武蔵野連続バラバラ殺人事件(『魍魎の匣』)
8月  『小袖の手』(『魍魎の匣』と『絡新婦の理』をつなぐエピソード)
9月  『鬼一口』(『魍魎の匣』と『ルー=ガルー』をつなぐエピソード)
9~12月 『狂骨の夢』事件
12月  『倩兮女』(『絡新婦の理』の前章エピソード』)

昭和二十八(1953)年
2月  箱根山連続僧侶殺人事件(『鉄鼠の檻』)
3月  『煙々羅』(『鉄鼠の檻』の続編エピソード)
3~4月 千葉・勝浦連続目潰し魔ならびに連続絞殺魔事件(『絡新婦の理』)
    『屏風覗』(『絡新婦の理』の挿入エピソード)
    『鬼童』(『邪魅の雫』の前章エピソード)
1~6月 伊豆新興宗教騒動事件(『塗仏の宴』)
6月  『火間虫入道』(『塗仏の宴』の挿入エピソード)
7月  通産省官僚汚職脱税事件(『鳴釜』)
    長野・白樺湖畔連続新婦殺人事件(『陰摩羅鬼の瑕』)
    『大首』(『陰摩羅鬼の瑕』の続編エピソード)
8月  茶道具屋書画骨董贋作事件(『瓶長』)
    『毛倡妓』(『絡新婦の理』の続編エピソード)
8~9月 『邪魅の雫』事件
9月  『雨女』(『邪魅の雫』の挿入エピソード)
    美食倶楽部国際美術品窃盗売買事件(『山颪』)
    『墓の火』(『鵺の碑』の前章エピソード)
    渋谷・円山町歓楽街抗争殺人事件(『五徳猫』)
11月  『青行燈』(『陰摩羅鬼の瑕』の続編エピソード)
    『蛇帯』(『鵺の碑』の前章エピソード)
12月  神田小川町空きビル殺人事件(『雲外鏡』)
    怪盗猫招き連続窃盗事件(『面霊気』)

昭和二十九(1954)年
3月  駒沢七人連続通り魔殺傷事件(昭和の辻斬り事件 『鬼』)
6月  『河童』事件
9月  『天狗』事件

昭和三十六(1961)年
12月  『ぬらりひょんの褌』事件

平成十八(2006)年
12月  『ぬらりひょんの褌』事件解決、中禅寺秋彦存命?(80代後半)


京極作品に登場した妖怪たちを強引に解釈してみると……

寝肥り    …… 『寝肥』事件の被害者
周防の大蝦蟇 …… 『周防大蟆』事件に現れた妖怪、虚空太鼓、寝肥り
二口女    …… 『二口女』事件の依頼者
雷獣     …… 『神鳴り』事件に現れた妖怪
山地乳    …… 渋谷道玄坂縁切り堂黒絵馬事件に現れた妖怪、山精、山爺、野衾、さとり、狐者異
旧鼠     …… 『旧鼠』事件の登場人物

小豆あらい …… 『小豆洗い』事件の被害者
白蔵主   …… 『白蔵主』事件の被害者
舞首    …… 『舞首』事件の被害者たち
芝右衛門狸 …… 『芝右衛門狸』事件の登場人物、隠神だぬき
塩の長司  …… 『塩の長司』事件の登場人物
柳女    …… 『柳女』事件に現れた妖怪
帷子辻   …… 『帷子辻』事件の被害者

野鉄砲 …… 『野鉄砲』事件に現れた妖怪
狐者異 …… 『狐者異』事件の犯人
飛縁魔 …… 『飛縁魔』事件の犯人、縊れ鬼
船幽霊 …… 『船幽霊』事件の被害者、平家の怨霊、古杣、野鉄砲
死神  …… 『死神』事件を引き起こした元凶(ラスボス)、七人みさき、縊れ鬼、飛縁魔、平家の怨霊
老人火 …… 『老人火』事件の犯人、天狗

赤えいの魚 …… 『赤えいの魚』事件の舞台、元凶、赤面えびす
天火    …… 『天火』事件に現れた妖怪、舞首
手負蛇   …… 『手負蛇』事件に現れた妖怪
山男    …… 『山男』事件に現れた妖怪
五位の光  …… 『五位の光』事件に現れた妖怪、姑獲鳥
風の神   …… 『風の神』事件に現れた妖怪、青行燈

桂男        …… 『桂男』事件に登場する妖怪
遺言幽霊・水乞幽霊 …… 『遺言幽霊・水乞幽霊』事件に登場する死霊
鍛冶が嬶      …… 『鍛冶が嬶』事件を引き起こした元凶
夜の楽屋      …… 『夜の楽屋』事件を引き起こした元凶
溝出        …… 『溝出』事件の被害者
豆狸        …… 『豆狸』事件の犯人
野狐        …… 『野狐』事件の主人公

歯黒べったり …… 『歯黒べったり』事件に登場する妖怪
座敷わらし  …… 『遠巷説百物語』6作に登場する人物
迷い家    …… 座敷わらしの棲む家
土淵村の乙蔵 …… 『遠巷説百物語』6作に登場する、柳田国男の『遠野物語』(1910年発表)で語られる人物。『遠巷説百物語』の時期は22~3歳
磯撫     …… 『礒撫』事件に登場する妖怪
波山     …… 『波山』事件に登場する妖怪
鬼熊     …… 『鬼熊』事件に登場する妖怪
雪女     …… 『鬼熊』事件で目撃された妖怪
恙虫     …… 『恙虫』事件の元凶とされる毒虫
出世螺    …… 『出世螺』事件で発生した怪現象

お菊虫     …… 登場人物の幻術
柳婆      …… 登場人物のひとり
累       …… 登場人物たちの幻術
葛の葉     …… 登場人物の母
手洗い鬼    …… 『福神ながし』事件の実行犯のひとり
七福連     …… 『福神ながし』事件の実行犯、死神
だいだらぼっち …… 『福神ながし』事件の黒幕
野宿火     …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
玉藻の前    …… 『了巷説百物語』全体の黒幕

狐火 …… 『狐花』事件の登場人物たちの見せた幻影

姑獲鳥  …… 『姑獲鳥の夏』事件を引き起こした元凶

魍魎   …… 『魍魎の匣』事件を引き起こした元凶
火車   …… 魍魎のもうひとつの姿
方相氏  …… 魍魎を落とした中禅寺秋彦のこと?

狂骨   …… 『狂骨の夢』事件を引き起こした元凶
骸骨   …… 狂骨を生んださらなる元凶
返魂香  …… 骸骨のもうひとつの姿

鉄鼠   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
野寺坊  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
木魚達磨 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
払子守  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
青坊主  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
大禿   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
隠里   …… 他の妖怪たちを生み、『鉄鼠の檻』事件を引き起こした元凶(ラスボス)

蓑火   …… 登場する一族に取り憑いた妖怪
否哉   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
百々目鬼 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
絡新婦  …… 『絡新婦の理』事件を引き起こした元凶(ラスボス)
丑時参  …… 絡新婦のもうひとつの姿
木魅   …… 絡新婦の正体、しかし?

瀬戸大将 …… 『言霊使いの罠!』で陰陽師が使役した妖怪

ぬっぺふほふ …… 『塗仏の宴』事件の中核に存在する妖怪(ラスボス)
うわん    …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
ひょうすべ  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
わいら    …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪(中ボス)
しょうけら  …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
おとろし   …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪、しかし?
塗仏     …… 『塗仏の宴』事件を引き起こした元凶(中ボス)
燭陰     …… 塗仏のもうひとつの姿
白澤     …… 全ての妖怪たちを落とした中禅寺秋彦のこと?

鳴釜 …… 中禅寺秋彦の使役する妖怪
瓶長 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
山颪 …… 被害者たちの恨みの具現化した妖怪

陰摩羅鬼 …… 『陰摩羅鬼の瑕』事件を引き起こした元凶

邪魅  …… 『邪魅の雫』事件を引き起こした元凶
蜃気楼 …… 邪魅のもうひとつの姿

五徳猫 …… 登場人物のひとりに取り憑いた妖怪
雲外鏡 …… 登場人物のひとりの持っていた道具
面霊気 …… 事件の中で登場する道具

鬼  …… 『鬼』事件の凶器に憑りつく元凶
河童 …… 『河童』事件の状況から連想させる妖怪
天狗 …… 『河童』事件の状況から連想させる妖怪

ぬうりひょん ……『ぬらりひょんの褌』事件を引き起こした元凶


映像作で京極作品の登場キャラクターを演じた主な俳優(アニメ・ラジオドラマ作品を除く)
※俳優の年齢は演じた当時のもの

中禅寺 秋彦  …… 堤 真一(41歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
榎木津 礼二郎 …… 阿部 寛(41歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
関口 巽    …… 永瀬 正敏(39歳 映画『姑獲鳥の夏』)、椎名 桔平(43歳 映画『魍魎の匣』)
木場 修太郎  …… 宮迫 博之(35歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
青木 文蔵   …… 堀部 圭亮(39歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
鳥口 守彦   …… マギー(33歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
中禅寺 敦子  …… 田中 麗奈(25歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
安和 寅吉   …… 荒川 良々(31歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
里村 紘市   …… 阿部 能丸(45歳 映画『姑獲鳥の夏』)
竹宮 潤子   …… 鈴木 砂羽(32歳 映画『姑獲鳥の夏』)
増岡 則之   …… 大沢 樹生(38歳 映画『魍魎の匣)
久遠寺 嘉親  …… すま けい(69歳 映画『姑獲鳥の夏』 2013年没)
降旗 弘    …… 下條 アトム(51歳 ドラマ『目目連』)
中禅寺 千鶴子 …… 清水 美砂(34歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
関口 雪絵   …… 篠原 涼子(31歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
山嵜 孝鷹   …… 小松 和重(39歳 映画『魍魎の匣』)
妹尾 友典   …… 田村 泰二郎(56歳 映画『姑獲鳥の夏』など)
菅野 博行   …… 堀内 正美(55歳 映画『姑獲鳥の夏』)
久保 竣公   …… 宮藤 官九郎(37歳 映画『魍魎の匣』)
平野 祐吉   …… 白井 晃(40歳 ドラマ『目目連』)
呉 美由紀   …… 今田 美桜(22歳 文庫版『今昔百鬼拾遺』3部作のカバー写真モデル)

御行の又市    …… 田辺 誠一(30歳 ドラマ『怪』)、香川 照之(38歳 映画『嗤う伊右衛門』)、渡部 篤郎(36歳 ドラマ『W』)、中尾 隆聖(52歳 アニメ)
山猫廻しのおぎん …… 遠山 景織子(24歳 ドラマ『怪』)、小池 栄子(24歳 ドラマ『W』)、小林 沙苗(23歳 アニメ)
山岡 百介    …… 佐野 史郎(44歳 ドラマ『怪』)、吹越 満(40歳 ドラマ『W』)、関 俊彦(41歳 アニメ)
事触れの治平   …… 谷 啓(67歳 ドラマ『怪』 2010年没)、大杉 漣(53歳 ドラマ『W』)
算盤の徳次郎   …… 火野 正平(51歳 ドラマ『怪』)
中禅寺 洲斎   …… 近藤 正臣(58歳 ドラマ『怪』)、十世 松本 幸四郎(51歳 歌舞伎『狐花』)


≪更新しました。まだまだ途中です!≫
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今さらですが、京極夏彦の妖怪まわりを整理してみよっか ~上~

2025年05月26日 22時19分39秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
『画図百鬼夜行』(がずひゃっきやこう)とは……
 安永五(1776)年に刊行された浮世絵師・鳥山石燕(1712~88年)の妖怪画集。
 『今昔画図続百鬼』(1779年)、『今昔百鬼拾遺』(1780年)、『百器徒然袋』(1784年)とある石燕の妖怪画集の中でも最初に刊行されたものであり、現代ではこの4作を総称して「画図百鬼夜行シリーズ」などとも呼ばれる。
 「前篇・陰」「前篇・陽」「前篇・風」の3部構成となっている。各部を「前篇」と題しているものの後篇は存在せず、この後に刊行された『今昔画図続百鬼』が後篇に相当する。
 本書は妖怪画1点ごとに名称を添えて紹介しており、妖怪図鑑のようなスタイルとなっている。後の石燕の画集と比較すると天狗や河童といった、日本の妖怪の中でも比較的有名なものが多い。
 石燕自身が巻末で「詩(うた)は人心の物に感じて声を発するところ、画(え)はまた無声の詩とかや」と述べている通り、画賛を廃しており、『今昔画図続百鬼』以降に見られるような解説文はないものが多く、あっても文章はかなり短い。

前篇・陰
木魅(こだま)  ……『絡新婦の理』(1996年)第五長編
天狗(てんぐ)  ……『今昔百鬼拾遺 天狗』(2018年)第三中編
幽谷響(やまびこ)
山姥(やまうば)
山童(やまわろ)
犬神(いぬがみ)
白児(しらちご)
猫また(ねこまた)
河童(かっぱ)  ……『今昔百鬼拾遺 河童』(2018年)第二中編
獺(かわうそ)
垢嘗(あかなめ)

窮奇(かまいたち)
網剪(あみきり)
狐火(きつねび) ……『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』(2024年)「江戸怪談」シリーズ第4作

前篇・陽
絡新婦(じょろうぐも)……『絡新婦の理』第五長編
鼬(てん)
叢原火(そうげんび)
釣瓶火(つるべび)
ふらり火(ふらりび)
姥が火(うばがび)
火車(かしゃ)    ……『魍魎の匣』(1995年)第二長編
鳴屋(やなり)
姑獲鳥(うぶめ)   ……『姑獲鳥の夏』(1994年)第一長編
海座頭(うみざとう)
野寺坊(のでらぼう) ……『鉄鼠の檻』(1996年)第四長編
高女(たかおんな)
手の目(てのめ)   ……『今昔続百鬼 雲』(2001年 第二中編集)第三話
鉄鼠(てっそ)    ……『鉄鼠の檻』第四長編
黒塚(くろづか)
飛頭蛮(ろくろくび)
逆柱(さかばしら)
反枕(まくらがえし)
雪女
生霊(いきりょう)
死霊(しりょう)
幽霊         ……『書楼弔堂・破暁 方便』(2012年)

前篇・風
見越(みこし)
しょうけら         ……『塗仏の宴』第六長編
ひょうすべ         ……『塗仏の宴』第六長編
わいら           ……『塗仏の宴』第六長編
おとろし          ……『塗仏の宴』第六長編
塗仏(ぬりぼとけ)     ……『塗仏の宴』第六長編
濡女(ぬれおんな)
ぬうりひょん(ぬらりひょん)……『ぬらりひょんの褌』(2006年)マンガ『こち亀』トリビュート短編
元興寺(がごぜ)
苧うに(おうに)
青坊主(あおぼうず)    ……『鉄鼠の檻』第四長編
赤舌(あかした)
ぬっぺふほふ        ……『塗仏の宴』第六長編
牛鬼(うしおに)
うわん           ……『塗仏の宴』第六長編


『今昔画図続百鬼』(こんじゃくがずぞくひゃっき)とは……
 安永八(1779)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。『画図百鬼夜行』の続編。
 「雨」「晦(かい or つごもり 暗い天候のこと)」「明」の三部構成となっている。『画図百鬼夜行』はほぼ絵画のみであったが、本作は解説文が添えられている。


逢魔時(おうまがとき)
鬼            ……『今昔百鬼拾遺 鬼』第一中編
山精(さんせい)
魃(ひでりがみ)
水虎(すいこ)
覚(さとり)
酒顛童子(しゅてんどうじ)
橋姫(はしひめ)
般若(はんにゃ)
寺つつき(てらつつき)
入内雀(にゅうないすずめ)
玉藻前(たまものまえ)   ……『了巷説百物語』(2024年 シリーズ最終第七作)
長壁(おさかべ)
丑時参(うしのときまいり)……『絡新婦の理』第五長編


不知火(しらぬい)
古戦場火(こせんじょうひ)
青鷺火(あおさぎび)  ……『百鬼夜行 陽』(2012年 第二短編集)第五話
提灯火(ちょうちんのひ)
墓の火(はかのひ)   ……『百鬼夜行 陽』第六話
火消婆(ひけしばば)
油赤子(あぶらあかご)
片輪車(かたわぐるま)
輪入道(わにゅうどう)
陰摩羅鬼(おんもらき) ……『陰摩羅鬼の瑕』(2003年)第七長編
皿かぞえ(さらかぞえ)
人魂(ひとだま)
船幽霊(ふなゆうれい)
川赤子(かわあかご)  ……『百鬼夜行 陰』(1999年 第一短編集)第十話
古山茶の霊(ふるつばきのれい)
加牟波理入道(がんばりにゅうどう)
雨降小僧(あめふりこぞう)
日和坊(ひよりぼう)
青女房(あおにょうぼう)……『百鬼夜行 陽』第七話
毛倡妓(けじょうろう) ……『百鬼夜行 陰』第九話
骨女(ほねおんな)


鵼(ぬえ)     ……『鵼の碑』(2023年)第九長編
以津真天(いつまで)
邪魅(じゃみ)   ……『邪魅の雫』(2006年)第八長編
魍魎(もうりょう) ……『魍魎の匣』第二長編
狢(むじな)
野衾(のぶすま)
野槌(のづち)
土蜘蛛(つちぐも)
比々(ひひ)
百々目鬼(どどめき)……『絡新婦の理』第五長編
震々(ぶるぶる)
骸骨        ……『狂骨の夢』(1995年)第三長編
天井下(てんじょうくだり)
大禿(おおかぶろ) ……『鉄鼠の檻』第四長編
大首(おおくび)  ……『百鬼夜行 陽』第二話
百々爺(ももんじい)
金霊(かねだま)
天逆毎(あまのざこ)
日の出(ひので)


『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)とは……
 安永十(1780)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。
 「雲」「霧」「雨」の三部構成となっている。本作で描かれている妖怪には、実際の伝承にあるものではなく、石燕が創作したものも多く含まれている。また石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」の中で唯一、本作は彩色版があったとの説もある。


蜃気楼(しんきろう)  ……『邪魅の雫』第八長編
燭陰(しょくいん)   ……『塗仏の宴』第六長編
人面樹(にんめんじゅ)
人魚
返魂香(はんごんこう) ……『狂骨の夢』第三長編
彭侯(ほうこう)
天狗礫(てんぐつぶて)
道成寺鐘(どうじょうじのかね)
燈台鬼(とうだいき)
泥田坊(どろたぼう)  ……『今昔続百鬼 雲』第二話
古庫裏婆(こくりばば) ……『今昔続百鬼 雲』第四話
白粉婆(おしろいばば)
蛇骨婆(じゃこつばば)
影女(かげおんな)
倩兮女(けらけらおんな)……『百鬼夜行 陰』第六話
煙々羅(えんえんら)  ……『百鬼夜行 陰』第五話


紅葉狩(もみじがり)
朧車(おぼろぐるま)
火前坊(かぜんぼう)
蓑火(みのび)         ……『絡新婦の理』第五長編
青行燈(あおあんどん)     ……『百鬼夜行 陽』第一話
雨女(あめおんな)       ……『百鬼夜行 陽』第八話
小雨坊(こさめぼう)
岸涯小僧(がんぎこぞう)    ……『今昔続百鬼 雲』第一話
あやかし
鬼童(きどう)         ……『百鬼夜行 陽』第四話
鬼一口(おにひとくち)     ……『百鬼夜行 陰』第四話
蛇帯(じゃたい)        ……『百鬼夜行 陽』第九話
小袖の手(こそでのて)     ……『百鬼夜行 陰』第一話
機尋(はたひろ)
大座頭(おおざとう)
火間蟲入道(ひまむしにゅうどう)……『百鬼夜行 陰』第七話
殺生石(せっしょうせき)
風狸(ふうり)
茂林寺釜(もりんじのかま)


羅城門鬼(らじょうもんおに)
夜啼石(よなきのいし)
芭蕉精(ばしょうのせい)
硯の魂(すずりのたましい)
屏風覗(びょうぶのぞき)……『百鬼夜行 陽』第三話
毛羽毛現(けうけげん)
目目蓮(もくもくれん) ……『百鬼夜行 陰』第三話
狂骨(きょうこつ)   ……『狂骨の夢』第三長編
目競(めくらべ)    ……『百鬼夜行 陽』第十話
後神(うしろがみ)
否哉(いやや)     ……『絡新婦の理』第五長編
方相氏(ほうそうし)  ……『魍魎の匣』第二長編
滝霊王(たきれいおう)
白澤(はくたく)    ……『塗仏の宴』第六長編
隠里(かくれざと)   ……『鉄鼠の檻』第四長編


『百器徒然袋』(ひゃっきつれづれぶくろ)とは……
 天明四(1784)年に刊行された鳥山石燕の妖怪画集。石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」の中でも最後に刊行されたもの。
 「上」「中」「下」の三部構成となっており、器物が変化して生まれたとされる妖怪・付喪神が多く描かれている。画像は過去の百鬼夜行絵巻に登場する妖怪に類似するものが多く、それらに『徒然草』や多くの漢籍からヒントを得て石燕が創作したものである。


宝船(たからぶね)
塵塚怪王(ちりづかかいおう)
文車妖妃(ふぐるまようひ)……『百鬼夜行 陰』第二話
長冠(おさこうぶり)
沓頬(くつつら)
ばけの皮衣(ばけのかわごろも)
絹狸(きぬたぬき)
古籠火(ころうか)
天井嘗(てんじょうなめ)
白容裔(しろうねり)
骨傘(ほねからかさ)
鉦五郎(しょうごろう)
払子守(ほっすもり)   ……『鉄鼠の檻』第四長編
栄螺鬼(さざえおに)


槍毛長(やりけちょう)
虎隱良(こいんりょう)
禅釜尚(ぜんふしょう)
鞍野郎(くらやろう)
鐙口(あぶみくち)
松明丸(たいまつまる)
不々落々(ぶらぶら)
貝児(かいちご)
髪鬼(かみおに)
角盥漱(つのはんぞう)
袋狢(ふくろむじな)
琴古主(ことふるぬし)
琵琶牧々(びわぼくぼく)
三味長老(しゃみちょうろう)
襟立衣(えりたてごろも) ……『百鬼夜行 陰』第八話
経凛々(きょうりんりん)
乳鉢坊(にゅうばちぼう)
瓢箪小僧(ひょうたんこぞう)
木魚達磨(もくぎょだるま)……『鉄鼠の檻』第四長編
如意自在(にょいじざい)
暮露々々団(ぼろぼろとん)
箒神(ほうきがみ)
蓑草鞋(みのわらじ)


面霊気(めんれいき)   ……『百器徒然袋 風』(2004年 第三中編集)第三話
幣六(へいろく)
雲外鏡(うんがいきょう) ……『百器徒然袋 風』第二話
鈴彦姫(すずひこひめ)
古空穂(ふるうつぼ)
無垢行騰(むくむかばき)
猪口暮露(ちょくぼろん)
瀬戸大将(せとだいしょう)……アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』第4シリーズ第101話『言霊使いの罠!』(1997年)脚本
五徳猫(ごとくねこ)   ……『百器徒然袋 風』第一話
鳴釜(なりがま)     ……『百器徒然袋 雨』(1999年 第一中編集)第一話
山颪(やまおろし)    ……『百器徒然袋 雨』第三話
瓶長(かめおさ)     ……『百器徒然袋 雨』第二話
宝船


『絵本百物語』(えほんひゃくものがたり)とは……

 天保十二(1841)年に刊行された日本の奇談画集。
 近年では『桃山人夜話』(とうさんじんやわ)の副題で知られているが、実際には副題は存在しない。
 著者は桃山人(詳細不詳)、挿絵の画師は浮世絵師の竹原春泉(生没年不詳)。
 題名に「百物語」と銘打ってあるように、江戸時代に流行した百物語怪談本の一種といえるが、話ごとに物語の名称ではなく妖怪の名称を掲げた上に妖怪の挿絵をつけており、怪談集と画集とを融合させた作品ともいえる。本書と同じく江戸時代の妖怪画集として知られる鳥山石燕の「画図百鬼夜行シリーズ」と並び賞されることが多いが、どちらかといえば記号的といえる石燕の画に対し、春泉による妖怪画は躍動感や臨場感があるのが特徴と評価されている。石燕の画と違って本書は多色刷りであることも大きな特徴である。
 なお、近年は『絵本百物語』の初版刊行が天保十二年よりも前である可能性も示唆されている。

第一巻
百物語            ……『了巷説百物語』(2024年 シリーズ最終第七作)最終第七話
白蔵主(はくぞうす)      ……『巷説百物語』(1999年 シリーズ第一作)第二話(マンガ化2回、アニメ化1回)
飛縁魔(ひのえんま)      ……『続巷説百物語』(2001年 シリーズ第二作)第三話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
狐者異(こわい)        ……『続巷説百物語』第二話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
塩の長司(しおのちょうじ)   ……『巷説百物語』第五話(マンガ化1回、アニメ化1回)
磯撫(いそなで)        ……『遠巷説百物語』(2021年 シリーズ第六作)第二話
死神              ……『続巷説百物語』第五話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
野宿火(のじゅくび)      ……『了巷説百物語』第六話
寝肥(ねぶとり)        ……『前巷説百物語』(2007年 シリーズ第四作)第一話(マンガ化1回)
周防の大蝦蟇(すおうのおおがま)……『前巷説百物語』第二話(マンガ化1回)

第二巻
豆狸(まめだぬき)   ……『西巷説百物語』(2010年 シリーズ第五作)第六話
山地乳(やまちち)   ……『前巷説百物語』第五話
柳女(やなぎおんな)  ……『巷説百物語』第六話(マンガ化1回、アニメ化1回)
老人火(ろうじんび)  ……『続巷説百物語』第六話(マンガ化1回、アニメ化1回)
手洗鬼(てあらいおに) ……『了巷説百物語』第五話
出世螺(しゅっせぼら) ……『遠巷説百物語』第六話
旧鼠(きゅうそ)    ……『前巷説百物語』第六話
二口女(ふたくちおんな)……『前巷説百物語』第三話
溝出(みぞいだし)   ……『西巷説百物語』第五話

第三巻
葛の葉(くずのは)      ……『了巷説百物語』第四話
芝右衛門狸(しばえもんだぬき)……『巷説百物語』第四話(マンガ化1回、アニメ化1回、ドラマ化1回)
波山(ばさん)        ……『遠巷説百物語』第三話
帷子辻(かたびらがつじ)   ……『巷説百物語』第七話(マンガ化1回、アニメ化1回)
歯黒べったり(はぐろべったり)……『遠巷説百物語』第一話
赤えいの魚(あかえいのうお) ……『後巷説百物語』(2003年 シリーズ第三作)第一話(マンガ化1回、ドラマ化1回)
船幽霊(ふなゆうれい)    ……『続巷説百物語』第四話(マンガ化1回、アニメ化1回)
遺言幽霊(ゆいごんゆうれい) ……『西巷説百物語』第二話
水乞幽霊(みずこいゆうれい) ……『西巷説百物語』第二話

第四巻
手負蛇(ておいへび)  ……『後巷説百物語』第三話(マンガ化1回)
五位の光(ごいのひかり)……『後巷説百物語』第五話
累(かさね)      ……『了巷説百物語』第三話
於菊虫(おきくむし)  ……『了巷説百物語』第一話
野鉄砲(のでっぽう)  ……『続巷説百物語』第一話(マンガ化1回、アニメ化1回)
天火(てんか)     ……『後巷説百物語』第二話(マンガ化1回)
野狐(のぎつね、やこ) ……『西巷説百物語』第七話
鬼熊(おにぐま)    ……『遠巷説百物語』第四話
かみなり        ……『前巷説百物語』第四話

第五巻
小豆あらい(あずきあらい)……『巷説百物語』第一話(マンガ化2回、アニメ化1回)
山男           ……『後巷説百物語』第四話
恙虫(つつがむし)    ……『遠巷説百物語』第五話
風の神          ……『後巷説百物語』第六話
鍛冶が嬶(かじがかか)  ……『西巷説百物語』第三話
柳婆(やなぎばば)    ……『了巷説百物語』第二話
桂男(かつらおとこ)   ……『西巷説百物語』第一話
夜の楽屋(よるのがくや) ……『西巷説百物語』第四話
舞首(まいくび)     ……『巷説百物語』第三話(マンガ化1回、アニメ化1回)


京極夏彦の主要著作の執筆順一覧
1994年9月
長編小説『姑獲鳥の夏』(「百鬼夜行」シリーズ第1作)
1995年1月
長編小説『魍魎の匣』(「百鬼夜行」シリーズ第2作、第49回日本推理作家協会賞長編部門受賞)
1995年5月
長編小説『狂骨の夢』(「百鬼夜行」シリーズ第3作)
1995年8月~97年7月
短編小説集『百鬼夜行 陰』
1996年1月
長編小説『鉄鼠の檻』(「百鬼夜行」シリーズ第4作)
1996年11月
長編小説『絡新婦の理』(「百鬼夜行」シリーズ第5作)
1997年6月
長編怪談小説『嗤う伊右衛門』(「江戸怪談」シリーズ第1作、第25回泉鏡花文学賞受賞)
1997年8月~98年3月
長編小説『塗仏の宴 宴の支度』(「百鬼夜行」シリーズ第6作の前編)
1997年10月~99年8月
連作小説集『巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第1作)
1997年12月
アニメ『ゲゲゲの鬼太郎(第4期)』第101話『言霊使いの罠!』
1998年9月
長編小説『塗仏の宴 宴の始末』(「百鬼夜行」シリーズ第6作の後編)
1998年11月~99年8月
中編小説集『百器徒然袋 雨』
1999年1月~2009年5月
連作小説集『厭な小説』
1999年12月~2000年11月
中編小説集『今昔続百鬼 雲』
2000年1~9月
連続 TVドラマ
『巷説百物語 七人みさき』(1月放送)……『続巷説百物語 死神』の原作
『巷説百物語 隠神だぬき』(3月放送)……『巷説百物語 芝右衛門狸』のドラマ化
『巷説百物語 赤面ゑびす』(7月放送)……『後巷説百物語 赤えいの魚』の原作
『巷説百物語 福神ながし』(9月放送)……『了巷説百物語 葛乃葉』の原作
2000~11年
パロディ連作小説集『南極夏彦』シリーズ
2001年4月~2004年4月
中編小説集『百鬼徒然袋 風』
2001年5月
連作小説集『続巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第2作)
2001~11年
SF 小説『ルー=ガルー』シリーズ
2002年9月
長編怪談小説『覘き小平次』(「江戸怪談」シリーズ第2作、第16回山本周五郎賞受賞)
2003年4月~12年3月
短編小説集『百鬼夜行 陽』
2003年8月
長編小説『陰摩羅鬼の瑕』(「百鬼夜行」シリーズ第7作)
2003年11月
連作小説集『後巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第3作、第130回直木三十五賞受賞)
2003~11年
妖怪小説『豆腐小僧』シリーズ
2003年4月~12年3月
短編小説集『百鬼夜行 陽』
2006年9月
長編小説『邪魅の雫』(「百鬼夜行」シリーズ第8作)
2006年12月
トリビュート短編小説『ぬらりひょんの褌』
2007年4月
連作小説集『前巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第4作)
2008年
短編小説集『幽談』
2010年
長編怪談小説『数えずの井戸』(「江戸怪談」シリーズ第3作)
連作小説集 『西巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第5作、第24回柴田錬三郎賞受賞)
連作小説  『死ねばいいのに』
短編小説集 『冥談』
2012年4月~13年7月
連作小説『書楼弔堂 破暁』
2012年
短編小説集『眩談』
2014年8月~16年5月
連作小説『書楼弔堂 炎昼』
2015年4月
短編小説集『鬼談』
2017年1月~22年5月
連作小説『書楼弔堂 待宵』
2018年2~11月
中編小説『今昔百鬼拾遺 鬼』
短編小説集『虚談』
2018年5~11月
中編小説『今昔百鬼拾遺 河童』
2018年9月~19年2月
中編小説『今昔百鬼拾遺 天狗』
2019年4月~2020年12月
連作小説集 『遠巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ第6作、第56回吉川英治文学賞受賞)
2021年4月~2024年6月
連作小説集 『了巷説百物語』(『巷説百物語』シリーズ最終第7作)
2023年9月
長編小説『鵼の碑』(「百鬼夜行」シリーズ第9作)
2024年7月
長編小説『狐花 葉も見ずに冥府の路行き』(「江戸怪談」シリーズ第4作)


≪更新しました。後半へつづく!≫
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祝え、だいぶ遅れてきた池松金田一版・磯川警部の爆誕を!! ~『湖泥』2025エディション~

2025年05月23日 22時58分01秒 | ミステリーまわり
 どう~もど~もこんばんは! そうだいでございます。みなさま、今週もお疲れさまでございました~。
 山形は、昨日まで梅雨明けかってくらいに暑い日が続いていたのですが、今日になっていきなり寒くなりましてね。もう風邪ひきそう……というか、ひいてしまったようです。せっかくの週末が……昨日までの気分で薄着を通してしまったのが元凶! 無理するもんじゃないっすねぇ。

 あともうひとつ、風邪ひいちゃった原因として考えられるのは、前日の寝不足もあったと思うんですよねぇ。いや、ここんところ一つ一つは長いもんでもないのですが、『ガメラ・リバース』の NHK地上波放送とか『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』とか『機動戦士ガンダム ジークアクス』とか、毎週チェックしたい番組がけっこうあって、それに加えて夕べ、私はこの作品を録画後に3回もリピートして観ちゃったんですよ。そりゃ夜中の2時3時もあっという間ですわな。


ドラマ『湖泥』(2025年5月22日放送 NHK BS『シリーズ・横溝正史短編集Ⅳ 金田一耕助悔やむ』 30分)
 33代目・金田一耕助   …… 池松 壮亮(34歳)
 18代目・磯川常次郎警部 …… くっきー!(49歳)

 『湖泥(こでい)』は、横溝正史の短編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一作。雑誌『オール読物』(文藝春秋)1953年1月号に掲載された。現在は角川文庫刊『貸しボート十三号』などに収録されている。
 本作は『オール読物』掲載時、結末の前に犯人当て挑戦企画として推理小説ファンの著名人による犯人の推理が同時併載されており、服飾研究家の花森安治(1911~78年 2016年の NHK朝ドラ『とと姉ちゃん』の男性主人公のモデル)は「北神浩一郎と志賀秋子の共謀説」、マンガ家の横山隆一(1909~2001年)は「北神浩一郎単独犯説」、劇作家の飯沢匡(1909~94年)は「志賀夫妻共謀説」に基づく解決篇を寄稿していた。

 本作は1996年1月に『呪われた湖』のタイトルでドラマ化され(金田一役は古谷一行)、今回は2度目の映像化となる。
 今回のドラマ版は、NHK BS での放送に先がけて2025年3月28日にNHK BS8K、同年4月19日にNHK BS4K にて先行放送された。


あらすじ
 昭和二十七(1952)年10月。大阪に来たついでに岡山県まで足をのばした金田一耕助は、出張中の磯川警部のあとを追いかけて山陽線の K駅から4~5km 奥へ入ったある僻村へやってきた。そこは三方を山に取り囲まれ治水ダム湖にあらかた沈んだ村で、「北神家」と「西神家」という2大勢力が反目しあっていた。最近では御子柴家の娘・由紀子を巡って両家の跡取り息子である北神浩一郎と西神康雄が争っており、浩一郎と由紀子の婚約が整ったところへ康雄から横槍が入ったところであった。そんな中で由紀子が失踪し、磯川警部が捜査に来ていたのである。
 金田一が訪れる5日前の10月12日、旧暦九月十三夜の晩に、由紀子は女友達と共に隣村の祭りへ行ったが姿が見えなくなっていた。この晩、隣村へ山すそを回っていく道は人通りが途切れることが無かったにもかかわらず、由紀子を目撃した者は無かった。その他の山越えの近道をただ一人通ったと証言した北神九十郎も、特に何も気付かなかったという。同じ時刻に、康雄は泥酔して隣村の親戚宅に泊まっており、浩一郎は祭りへ行かずに山越えの道の登り口にある水車小屋で米を搗いていた。
 その一方で、由紀子が失踪した同日には村長夫人の志賀秋子も姿を消していた。しかし、村長の志賀恭平は秋子が大阪へ遊びに行ったと言ったかと思うと転地療養していると言ったりして、具体的な行方を明らかにしようとしない。
 2日後の10月14日になって、由紀子を12日の晩に水車小屋へ呼び出す浩一郎からの手紙が、由紀子の自宅の庭で見つかる。しかし手紙は前日の13日に降った夕立で濡れた形跡は無く、筆跡も浩一郎のものでなかった。浩一郎は、手紙を書いたことも由紀子がやってきたことも否定する。
 続けて14日の夕刻には由紀子の下駄が、15日には帯が発見され、由紀子の遺体が湖に沈んでいることが予想された。湖が水門が閉ざされているため死体が下流へ流れていることは考えられないため、警察は湖内で死体を捜し続けていた。湖のボート上で磯川警部の説明を聞いていた金田一は、村から離れた場所にある九十郎の小屋にカラスが集まっていることに気付く。

おもなキャスティング
御子柴 由紀子 …… ジュリアンヌ(24歳)
北神 浩一郎  …… 井之脇 海(29歳)
西神 康雄   …… こだま たいち(34歳)
北神 九十郎  …… 宇野 祥平(47歳)
志賀 恭平   …… 嶋田 久作(70歳)
志賀 秋子   …… 夏帆(33歳)
清水巡査    …… 濱田 龍臣(24歳)
木村刑事    …… 片岡 哲也(50歳)
朗読      …… 二又 一成(70歳)

主なスタッフ
演出 …… 渋江 修平(40歳)


 いや~、これほんとに面白かった。ご覧になった方ならよくわかりますよね!? この作品を何回も繰り返し観ちゃうの。

 視聴する前から、くっきー!さん(以下、川島邦裕さん)の演技が素晴らしいとかいう前評判は耳に入っていましたので楽しみではあったのですが、まっさか川島さんが最新モードの磯川警部を演じられるとは!! まさに古だぬき……
 磯川警部のキャスティングといえば最近はいぶし銀の俳優さんが手堅く演じるのが定番で、記憶に新しいのは加藤シゲアキ金田一版『悪魔の手毬唄』にて、あの古谷一行さんが磯川警部を演じたという大ニュースだったのですが、さすがは等々力警部役に外国人のヤンさんをキャスティングする池松金田一シリーズです。磯川警部にもまた、インパクト大なお方を持ってこられましたなぁ!
 そうなんですよね、2016年いらい4シーズン12話も制作されている池松金田一シリーズではあるのですが、実は、「金田一耕助の傍らにこの名警部あり」とうたわれる2大警部こと、東(東京警視庁)の等々力大志警部と西(岡山県警)の磯川常次郎警部のうち、等々力警部はごく初期から登場していたのですが(演者は中村有志さんかヤンさん)、磯川警部は本作が初登場となるんですよ。だいぶ遅れてきたねぇ! あやうく10年越しになるとこでしたよ。

 これで晴れて、横溝原作の中で唯一、等々力警部と磯川警部が金田一耕助をはさんで奇跡のご対面を果たした短編『堕ちたる天女』(1954年)の初映像化も可能となってきましたな! でも、この作品もこの作品で、ジェンダーに神経質な令和の御世にはなかなか危なっかしいクセ強事件なんですよね……う~ん、いつになるかな。

 ここでも池松シリーズのスタンスがわかって興味深いのですが、磯川警部が今回初登場ってことは、要するに金田一耕助ものの映像化といえばこれ!というイメージの強い「岡山もの」を、今まで池松シリーズがとんと手をつけてこなかったということなのです。いいねぇ~! 作品選びも攻めてるなぁ。
 確かに振り返ってみると、池松シリーズ各12作は圧倒的に東京を舞台にしたものが多く、せいぜい長野県(『犬神家の一族』)、神奈川県(『華やかな野獣』『鏡の中の女』)、静岡県(『女怪』)あたりが地方出張してるかなという程度だったのでした。いや~じゃけどやっぱ岡山弁が聞こえてこんと、地方の事件って気分にはならんかのう!

 こんな感じなので、もしかしたら池松シリーズは岡山ものをやらないのかと思っていたのですが、ついに満を持して今回、初岡山ものということで川島さんによるニュー磯川警部も爆誕し、その記念すべき最初の事件に選ばれたのが、この『湖泥』だったというわけなのです。いや~わかってらっしゃるセレクトセンス!!

 今回視聴してあらためてしみじみ感じたのは、この『湖泥』という作品が、かなりガチンコの全力投球で作られた「岡山もの要素てんこ盛りの高カロリー作品」になっているということです。なんか、たまたま金田一耕助の調子が良かったから文庫本にして100ページちょっとで終われましたけど、作品の中に込められたテーマの重さや登場人物設定の複雑さを見てみれば、長編作品になったって全然おかしくない「むつかしい事件」なんですよね、これ!

 本作を読んで、もしくは今回のドラマ版を観てすぐにピンとくるのは、本作と、横溝先生のあまたある岡山ものの傑作群の中でもとくに有名な「ある長編作品」との、犯人の設定に関するパラレルワールドのような関係です。
 つまりこれ、両作品の真相に迫る話になるので詳しくは言えないのですが、この『湖泥』というお話は、「もしもあの長編作品の犯人が、途中でヘタをうって別の誰かに犯行計画をパクられてしまったら!?」みたいな、実際にはそうはならなかった分岐ストーリーを作品化したみたいな結末になっているんですよね。あっ、でもよくよく思い出してみたら、その超有名長編の真犯人も、そもそも別の登場人物がふざけて作った犯行計画をパクッてたんだった。横溝先生、パクりパクられの展開がお好きねぇ!!

 これは面白いですね……要するに、あらかじめ村を大混乱に陥れるスキャンダルの図面を引いていた人物が、途中で同じように村を恨んでいる別の人物に計画を丸ごと乗っ取られてしまったわけなのです。この番狂わせはなかなかにトリッキーで、上の情報のように、当時のミステリマニアの有名人お3方の推理が全員不正解になってしまったのもやむをえないことかと思います。横溝先生、少しは手ごころを~! 推理小説の鬼の真骨頂ですよね。
 なんと言いましても、本作は犯人の人物造形が非常にインパクト大です。犯人のインパクトというんだったら、今回の池松シリーズ第4シーズンは全話、犯人のキャラクターが各人各様で激濃ではあるのですが、やはりシーズンの掉尾を飾る作品ということで、この『湖泥』の犯人の姿も非常に印象深いものになっていたと思います。犯人のラストカットの横顔も、実に味わい深いものでしたね……

 あともうひとつ、横溝ファンとしてどうしても考えずにはおられないのが、ここまでインパクト大で完成度の高いこの『湖泥』が、どうして他の横溝短編の進化パターンのように長編化されなかったのか、という問題です。まぁ、ある意味でこの作品の犯人像がミステリの定石破りではあったので、これ以上ふくらませても味が薄れるだけという判断もあったのかもしれませんが。

 これに関して私が思うのは、いやいや、『湖泥』要素よりもオリジナルな設定がモリモリになってるので一見そうはみえませんが、ちゃんと長編小説に昇華されてるじゃありませんか!ということなんですね。もう、先達で指摘されておられる方もいらっしゃかるかも知れませんが。

『湖泥』の長編化作品。そりゃもうあーた、『悪魔の手毬唄』に決まってるじゃござんせんか!!

 私、今回のドラマ化にあたって原作を再読しながら、この『湖泥』の「衰退しつつある村の2大勢力の若者世代が、かつて村につまはじきにされた家の娘をめぐって争う」とか、「村はずれにある湖(沼)のほとりに暮らす変わり者」とかいう設定が、まんま『悪魔の手毬唄』であることに今さらながら気づいてしまったわけであります。つまり、『湖泥』と『悪魔の手毬唄』で比較するのならば、「北神家と西神家」が「仁礼家と由良家」、「御子柴由紀子」が「別所千恵子」、「北神九十郎」が「多々羅法庵」というあんばいなわけで、もちろん物語の結末はだいぶ違うわけなのですが、登場人物の配置具合が酷似していると断言してさしつかえなさそうなのです。
 その他、村の2大勢力の対立のバランスを左右させうる第3の存在としては、『湖泥』の志賀村長夫妻にあたる位置に亀の湯の青池夫妻(夫は失踪中)がいるし、だいいち、『悪魔の手毬唄』の衝撃的なクライマックスでの犯人の最期を思い出してみてつかぁさい! 原作版でも1977年映画版でもどっちゃでもええから!!
 湖か沼かの違いは生まれてしまうのですが、どうですかあーた……まさにこの作品こそ「湖泥」の名がふさわしいじゃ、あーりませんか。

 当然ながら、『悪魔の手毬唄』は犯人像が『湖泥』とまるで違いますし、「磯川警部因縁の未解決事件」とか「手毬唄の歌詞の通りに殺人が起こる」とか「死んだはずの老婆が村に帰って来る」とか非常に魅力的なオリジナル要素がふんだんに盛り込まれていますので、もしそうなのだとしても、もはや『湖泥』の長編化作品とは言えない別の大傑作に仕上がっているのでこれ以上は詮索しないのですが、ただここだけ言っておきたいのが、『湖泥』のラストで金田一耕助が、冒頭での磯川警部によるシャーロック=ホームズゆずりの「田舎の犯罪こそおそろしい」論への返歌としてつぶやいた(ドラマ版ではカット)、

「ぼくのいいたいのは、農村へ都会のカスがいりこんでいる、現在の状態がいちばん不安定で危険なんですね」

 という主張が、『湖泥』よりも、「都会からやって来た恩田幾三のモール詐欺」という要素を組み込んだ『悪魔の手毬唄』のほうでよりヴィヴィッドに小説化されているということなのです。念のために言っておきますと、金田一は別に引き揚げ軍人や疎開者のことを蔑視してカスと呼んでいるわけではなくて、都会で培養され流れてきた犯罪の因子(残滓)という意味でカスと発言しているようです。
 いや~、やっぱり横溝先生の、自作の進化にかける執念のアツさは、ここでも素晴らしいですね。岡山ものの最終作とも言える『悪魔の手毬唄』の精華は、『湖泥』なくして語り得ないものだったのだ! こでー!!


 まぁこのように、原作小説の時点でかなりハイレベルなこの『湖泥』ではあるのですが、今回の2025年ドラマ版は、それに輪をかけて「推理ドラマとしての面白さにブーストをかける映像演出」がバチコーン!!と大ホームランをかましてくれた大傑作だと感じました。しかも、今シーズンの前2話よりも格段に「原作に忠実」! ここが横溝ファンにはとってもうれしい。

 先ほど、私は「3回観た」と言いましたが、これは作品が複数回の視聴に耐えうるクオリティを持っているのは当然のこととして、2回3回観て「あぁ~!!」と驚き感じ入ってしまう映像的なトリックを30分間の作品全シーン全カットにふんだんに散りばめていたからなのでした。これ、ぜんっぜん大げさな言い方じゃないっすよ! 観た人ならわかりますよね!?

 素晴らしい、このドラマ版の映像演出の計算されっぷりは本当に素晴らしい! 私的に、昨年2024年のミステリ映像作品としてのベスト1は『十角館の殺人』だったのですが、今回の『湖泥』の満足度は限りなくそれに近いもので、おそらくはそのまんま今年ベストになっちゃうんじゃなかろうかという手ごたえを感じております。まだ今年半分も終わってないけど!

 やっぱり、30分という作品のスケールが、今回の渋江演出と相性バッチリだったんでしょうね。

 今作における渋江演出は、クライマックスでの金田一の推理披露パートや犯人の独白パートに沿った回想シーンのラッシュで事件の真相が明らかになる、という典型的なサスペンスドラマの形式をいちおう採りながらも、実は「ほぼすべての犯行」がそこに至るまでの画面の中にちゃーんと映っているのです。これ、とんでもないことですよ。手品のタネ明かしをするまでもなく、タネはぜんぶステージの上に無造作に投げ置かれていたのです! それでもお客さんが全く気づかずに手品にオオッと驚いてしまうんですから、これがとてつもない腕を要する異次元のテクニックであることは間違いないでしょう。

 ふつう、犯人がやっているたくらみはネタばらしにいくまで隠されるもんだと思うのですが、このドラマはオールオープンで犯人がどこにいて何をやっていたのかが逐一画面に映っているのです。ただ、おそらくは初見の視聴者のほとんどが、その肝心の犯人の挙動どころか、その存在にさえまるで気づかないように、実に巧妙な映像演出が全編にわたって施されています。
 これ、ある意味では本作の「インヴィジブル・マン」という、かのチェスタトンの歴史的名作『見えない男( The Invisible Man)』(1911年発表)を創始とする超有名なトリックをあえて「曲解」した映像マジックなわけなのですが、まともにそれだけをやれば単なるくだらないコントになるところなのに、ちょっと日本らしくないエスニックでゴテゴテした衣装やメイクを配置していた渋江ワールドなのですから、ごくごく自然に視聴者が渋江マジックにだまされるみごとな土壌となってしまっていたのです。
 いや~これはやられた! だって、ただのおしゃれだと思っていた志賀秋子の真紅のマフラーまでもが、この映像トリックのための重要な目くらましだったんですもんね。手品の基本中の基本は、「タネから客の目を反らすこと」! シンプルなことが、いちばん難しいんですよね。

 私が本作を3回観た流れを申しますと、まず1回観て、原作小説をいっさいの無駄なく映像化した手練や川島さんの演技の意外なまでの安定感に感じ入りまして、でも「そうはいっても犯人が見えないように隠してんじゃないの~?」と勘ぐりながら2回目の視聴をして確かめてみて、なんと隠すどころか、アップにこそしてはいないものの、犯人がちゃーんと他の登場人物の行動を首を傾けてじっと見つめていて、会話をがっつり聞いていて、それどころかこれ見よがしに紙包みを開いて粉末を入れたぐい呑みを西神康雄に直接手渡すところまでもがバッチリコーンと映されていたことに、心の底から驚かされてしまったのです。え~!? 私の目の、なんと節穴なことか……
 ほんとにやられました。「1回観ただけじゃわからない」というのは洋の東西を問わず名作の常套文句ですが、本作は正真正銘、何度見ても視聴に耐えうるウェルメイドなミステリドラマです。30分っていうお手頃なサイズなのも最高ですよね。これが2時間3時間だったら、そうもいかないもんねぇ。大学生時代だったら、私も『薔薇の名前』とか『悪魔の手毬唄』とか VHSで何度も観てたけど。

 話を戻しますが、それでこういうブログもやってるもんですから、どの役をどなたが演じてらっしゃるのかな~なんてチェックしながら2回目を観終わってみて、「そういえば、朗読もかなり渋めでいい声だったな。誰だったんだろ?」と思ってボンヤリとエンドロールを観てたら、

朗読 二又一成

 って小さな字でうたれてたもんで、これまた吃驚してしまいました。

 えー!! 声優の二又さん!? 二又さんって、あの『ハイスクール!奇面組』の出世潔の二又さん!? 『キン肉マン』のキン骨マンの二又さん!? 『機動警察パトレイバー』の進士幹泰の二又さんんん!?

 なんとすばらしいキャスティングだ……いままで、この池松金田一シリーズの朗読ポジションは俳優さんがメインだったかと記憶しているのですが、ここにきて超ベテラン声優の二又さんを起用するとは。
 そんでま、その美声をもう一度味わうために3回目を視聴して夜更かししちゃった、というわけだったのでした。
 いや~、1980年代生まれのわたくしとしましては、二又さんといえば神谷明さんや千葉繁さん、内海賢二さんなみに生まれた時からじゃぶじゃぶ聞いて育ってきたお声ですからね。こういういい声の方がおちゃらけキャラとか小心者キャラをやってるからいいんだよなぁ。芸の幅ですよね。

 ほんと、今回のドラマ版『湖泥』は1カットたりとも無駄なやっつけ仕事のない、30分枠だからこそできうる高い完成度の大傑作です。
 この池松金田一シリーズにおける渋江演出4作品の中でもダントツのベストであることは当然のこと、他の演出家も含めた全12作の中でも頭一つ以上ズ抜けた最高傑作と断言して差し支えないかと思います。

 以前私は、同じ渋江演出の『犬神家の一族』だったかなんかで、「男がギャーギャー大声でしゃべる泣き演技は大嫌い」ということを申しました。それは今でも変わらない考えで、本作でも西神康雄役のこだまたいちさんがそのような演技をしていたのですが、こだまさんの演技は不快感が全く無いコミカルな味わいが康雄への同情心すら喚起してしまう名演技だったと思います。
 これは、こだまさんがちゃんと「泣きわめく男の情けなさ」を承知の上で滑稽に演じるプロの余裕を持っていたこと(夜明けに草むらで起き上がり頭をかく素振りなんか笑うしかありません)と、康雄の回想シーンの中から康雄がいきなりカメラ目線に向き直って「ちがうんです! そうやないんです!!」と訴えかけたりするなど、渋江さんが客観的距離をとって康雄をとらえている冷静な視点が明確になっていたからでした。これも、『犬神家の一族』2020エディションに比べたら格段の進化ですよね。

 こだまさんのダメ息子っぷりもよかったのですが、やはり今作の俳優さんの中での MVPは、ネタバレになるので名前は言えませんが、やっぱり犯人を演じたあのお方なのではないでしょうか。う~ん、まさに『湖泥』の犯人を演じるために生まれてきたようなご容姿! 全然誉め言葉になってませんか。でも、満を持して思いのたけを叫んだ最後の独白は畢生の名演だったかと思います。「憎い村を悪評でズタボロにしてやった」という優越感もあり、むなしさもあり……そうそう、金田一によって犯罪計画は暴露されましたが、もう犯人の目的は達成されちゃってたんですよね。「ざまぁみろ!!」の絶叫の重さね。

 あと、俳優さんでいうのならばやっぱり川島さんの名演をはずして語るわけにはいかないのですが、まず冒頭の長ゼリフをノーカットでこなせる段階で俳優として並みのレベルでないことは明らかです。そして、一見おだやかそうな表情を見せながらも、時にプロの警察屋として証言者たちにちらつかせる目つきのすごみも、なんかほんとにおまわりさんにいそうな説得力があると感じました。けっこう仕立てのよさそうなスーツをわざと汚して、その上にマタギみたいな毛皮の袖なしを羽織っている「妖怪しっとるけ」みたいな渋江ワールドらしいファッションも実に似合ってます。しっとるけ……知っとるけ?
 磯川警部の出演シーンは最初から最後まで全部いいのですが、あえてひとつ挙げるのならば、前半で連行されていく九十郎に村人がこぞって罵声を浴びせながら土や砂を投げつけている時に、磯川警部が静かにキレて村人に猛然と土を投げ返したり蹴りつけたりしていた勇姿が印象的でした。そうそう、磯川警部も川島さんも、義憤に刈られたらそのくらいの挙には平気でおよぶアツいお方なんじゃないかな。


 いい加減、字数もかさんできましたのでまとめてしまうのですが、とにかく今回の池松金田一シリーズ第4シーズンは、最後の『湖泥』が文句なしの大傑作だったということで、話は早いですが次シーズンへの明るい期待が大いに持てる締めくくりになったのが何よりも良かったと思います。別に先の2話がつまらなかったわけでもないし!
 まぁ、今シーズンの副題『金田一耕助悔やむ』に関しては、『悪魔の降誕祭』と『湖泥』は「そんなに悔やんでるかぁ?」という感じで解釈違いな印象は持ったのですが、だいたい今までのシーズンの『踊る!』とか『惑う』もだいぶ無理のある感はあったのでしょうがないでしょ。

 ただ、今シーズンの3話それぞれの原作小説をみてみますと、

『悪魔の降誕祭』…… 161ページ(角川文庫1974年版『悪魔の降誕祭』より)
『鏡の中の女』 …… 50ページ(角川文庫2022年改版『金田一耕助の冒険』より)
『湖泥』    …… 105ページ(角川文庫2022年改版『貸しボート十三号』より)

 ということで、もちろん個々の作品の面白さも重要ですが、池松金田一シリーズの「30分」という枠に対して、横溝作品ではどうやら150ページでもなく50ページでもなく、「100ページ」サイズがジャストフィットなんじゃなかろうかという結論が導き出されそうな成果とあいなりましたね。今回のページ数比較はわかりやすいな!

 要するに、『悪魔の降誕祭』は「犯人の裏にもっと狡猾な奴がいる」という真相みたいな部分を丸ごとカットしているために登場人物に深みが欠けてしまった感があり、逆に『鏡の中の女』は小説の映像化だけでは時間が余ってしまった部分を「犯人と金田一との心の交流とすれ違い」で補ってしまったために犯人の異常性が薄れてしまったという印象が残りました。引いても足しても、余計な蛇足になっちゃったのね。
 やはりこれは、横溝先生の原作をヘタなアレンジなしで虚心坦懐に映像化するに如くはなし、ということなのでしょうか。でもここで「100ページがええわ~」という結論を出しちゃうと、せっかく始めちゃった『~の中の女』シリーズのほぼ全部が「……」ってことになっちゃうぞ!
 まま、ともかく何ページの作品であろうと、横溝作品はそうとう心してかからねばならぬ難物ということなのですな。

 一体、次なる第5シーズンはいつのことになるのやら。おそらく、少なくとも2026年 NHK大河ドラマの『豊臣兄弟!』が終わるまではできないんじゃなかろうかと思うのですが、今シーズンでいよいよ磯川警部もお披露目できたことですし! 気長に楽しみにさせていただきたいと思います~。
 いや~とにかく、今シーズンで金田一耕助シリーズのうち『~の中の女』シリーズも「岡山もの」も始まっちゃいましたからね! 池松金田一シリーズの「金田一もの全短編映像化」も、ぜんぜん夢ではないのでは!? 『名探偵ポアロ』のデイビッド=スーシェさんに続けとばかりに、頑張っていただきたいと思いま~っす。えっ、金田一耕助シリーズの短編作品って、全部で53作あんの(ジュブナイルの短編2作も含む)……池松さんはそのうち11作まで映像化してるから(1作のみ長編が原作なので)、残り42作、今までのペースでいくと、あと14シーズンは必要なのか。

 健康第一!! 池松さんも演出家のお3方も、いつまでもお元気でがんばってくだしゃ~い!!
 私も、早く風邪なおしてがんばろっと。


≪巻末ふろく 池松金田一シリーズの功労者は誰だ!? 常連俳優リスト≫
・芋生悠(佐藤作品2回、宇野作品1回)
・片岡哲也(渋江作品3回)
・嶋田久作(渋江作品2回、宇野作品1回)
・ヤン・イクチュン(宇野作品2回、佐藤作品1回)
・福島リラ(佐藤作品2回)
・板谷由夏(宇野作品1回、佐藤作品1回)
・佐藤佐吉(佐藤作品1回、渋江作品1回)
・田中要次(宇野作品1回、佐藤作品1回)
・みのすけ(宇野作品1回、佐藤作品1回)
・YOU(宇野作品1回、佐藤作品1回)

 やはり嶋田さんか……『湖泥』のネクタイ頭に巻いたアホ村長っぷりもとってもキュートでした♡ いつまでもお元気で!
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説『帝都物語外伝 機関童子』

2025年05月21日 23時42分37秒 | すきな小説
 どどどどど~もこんばんは! そうだいでございます~。
 なんか、ここ数日暑かったり寒かったりの差が大きいですが、みなさまお元気でしょうか? 私はもう風邪ひきそうです……な~んか、それなりに身体を動かすお仕事をやってるので、今さら長袖に戻れないみたいな気分があるんですよね。臨機応変な対応が苦手!

 え~、今回も今回とて、荒俣宏先生の『帝都物語』関連作品の感想記事なのですが、なんか、今どきの時勢なんか完全無視で始めたつもりだったのに、最近、角川書店のおばけ専門雑誌『怪と幽』の最新号(4月28日発売)で、荒俣先生ががっつり特集されてたんですってね。なんかタイムリーでうれしいんですが、そういえば今年は『帝都物語』40周年のアニバーサリーイヤーでしたわ! まぁ、『帝都物語』のリアルタイム世代ではない私にとっては(生まれてたけどガキンチョで話がわからなかった)、田島昭宇のカバー画による合本新装版の刊行30周年のほうがしっくりくるんですが。
 別に我が『長岡京エイリアン』では、40周年ということには全く気づかずに、自宅の積ん読消化の順番がやっと回ってきたからという感じで読み始めていたのですが、こういうのも奇縁なんですかねぇ。それにしても、他ならぬ角川書店が荒俣先生の特集を忘れずに組んでくれるのはいいことですよね。できれば今回取り上げる作品のように、今年も荒俣先生おんみずから『帝都物語』サーガの最新作を生み出していただきたかったのでありますが……やっぱりそうポンポン易々とは出ませんか。でも、まだまだ77歳か! 若いですねぇ。
 『怪と幽』には最新エッセイが載っているらしいのですが、当面、わたくしは購読はしないと思います。だって、表紙の丸尾末広先生のイラストが何かパワー不足で、そっちのほうにガックリきちゃって……荒俣先生に似てないですよね? 変わらず上手かも知んないけど。
 丸尾先生も、昔はほんとに大好きだったんですが……まだ70歳でもないんでしょ!? なんかずいぶんと丸くなられたような。「丸尾」なのにぜんぜん丸くないのが丸尾先生だったのにぃ!! まぁ、アグレッシブさを他人に求め続けるのも理不尽な話ですからね。


 そんでもってかんでもって本題に入るのですが、いや~私、実は『帝都物語』関連作品の中でいちばん愛憎半ばする想い入れが強いのが、実は『帝都物語』正編を差し置いてこの作品なんですよ! ほんとうに大好き、この外伝。
 なんてったって、大好きなキャラクターがウルトラ怪獣では改造ベロクロン2世(超獣だけど)、『スター・ウォーズ』シリーズではグランドモフ・ターキン、『ゲゲゲの鬼太郎』ならおぬら様、『エヴァンゲリオン』シリーズではエヴァンゲリオン量産機、『平家物語』なら平宗盛卿という私でございますから。
 っていうか、そういうひねくれまくった嗜好になった根本原因こそが、中高生時代の1995年に出逢ったこの作品にあるのかもしれない……


『帝都物語外伝 機関童子』(1995年6月)
 『帝都物語外伝 機関童子(ていとものがたりがいでん からくりどうじ)』は、荒俣宏の魔術伝奇小説。『帝都物語』(1985~89年)の合本新装版6巻の刊行と同時に角川書店角川文庫から書き下ろし刊行された。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しない。

あらすじ
 1998年4月、暗澹たる時代へと変質していく世紀末。
 闇の東京郊外・青梅市藤橋に、からくり芝居を催す奇怪な一団が現れた。彼らは秘術により『帝都物語』の魔人・加藤保憲を現代に復活させようとしていた……しかし、この一団は近所の精神病院から抜け出した患者たちの演じる行進にすぎなかった。
 病院の医師・高山利郎は、患者たちのこの奇行を独自に調査した結果、『帝都物語』の世界があまりにも現実世界と酷似していることに愕然とする。そして、架空であるはずの加藤が実在していたのではないかと疑い始めるのだが……


おもな登場人物
高山 利郎
 国立精神医療センターに勤務する主任医師。40歳を過ぎたばかりだが頭髪が薄くなっている。恰幅が良く丸顔の男性。看護師のクミと交際している。コンピュータ用の脳波検出ツール「イーヴァ」を駆使して患者の脳波パターンから治療法を探る手法を得意とする。

石原 敏彦
 国立精神医療センターに勤務する医師で、高山の同僚。

慶間 泰子(けいま やすこ)
 高山と同い年の旧友で、東京・渋谷の青山学院大学に勤務する英文学の講師。大きな目で高い鼻、声の高い女性。乗用車は練馬ナンバーのシルバーのベンツ。アメリカで流行しているインターネット小説と、18世紀末のスイスの時計職人で発明家のジャケドロー父子が開発した自動人形を研究している。

潮永 洋周(しおなが ようしゅう)
 国立精神医療センターに多重人格症状により入院している精神分裂症患者。患者で組織された「まぼろし座」では魔人・加藤保憲の役を演じている。異様に長く伸びた顎、鷲鼻、薄い唇、般若の面のような冷笑を浮かべる長身の男性。映画版『帝都物語』で加藤を演じた俳優の嶋田久作によく似ている。

熊谷 杏子
 国立精神医療センターに入院している患者。身長170cm。36歳。患者で組織された「まぼろし座」では目方恵子の役を演じている。目つきの鋭い一重まぶたの女性。

中尾 進三
 国立精神医療センターに入院している患者で、もと傀儡師。やつれた顔つきの小柄な中年男性。「まぼろし座」では魔人・加藤保憲を模したからくり人形「機関童子(からくりどうじ)」を操作する。

福田 孝
 国立精神医療センターに入院している患者。苦行僧のようにかなり痩せた体型の男性。「まぼろし座」では太い竿で身体の前後に大きな荷箱を担ぎ運んでいる。

安藤 クミ
 国立精神医療センターに勤務する看護師。医師の高山と交際している。

栗田 弘子
 国立精神医療センターの第四病棟に勤務する看護師。大男の患者も取り押さえられる腕力の強い女性。

黒田 龍人
 風水師。1958年7月生まれの痩せた男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いタートルネックセーター、黒のギャバジンのスラックスズボンに黒い丸型のレイバンサングラスで身を固めている。祖父の黒田茂丸が満州帝国の首都・新京で撮影した、加藤保憲と目方恵子の写った写真を所有している。

加藤 保憲
 明治時代初頭から昭和七十三(1998)年にかけて、帝都東京の崩壊を画策して暗躍する魔人。紀伊国龍神村の生まれとされるが、詳しい生い立ちについては一切不明である。
 長身痩躯で、こけた頬にとがった顎、さっぱりとした刈上げといった容姿で、眼光は鋭く、身体の大きさに似合わぬ軽い身のこなしが特徴的である。黒い五芒星(ドーマンセーマン)の紋様が染め抜かれた白手袋を着用している。剣の達人で刀は孫六兼元を愛用する。 極めて強力な霊力を持ち、あらゆる魔術に精通している。とりわけ陰陽道・風水・奇門遁甲の道においては並ぶ者のいないほどの達人であり、古来最も恐れられた呪殺秘法「蠱毒」を使う。天皇直属の陰陽道の名家・土御門家が総力を挙げても彼一人に敵わない。太平洋戦争中に秘術「屍解仙」を用いて転生したため、年齢は100歳を超えながらも外見は30歳代の若さを保っている。さまざまな形態の鬼神「式神十二神将」や「護法童子」、妖怪「水虎」などを使役し、平将門の子孫を依代にして将門の大怨霊を甦らせようとしたり、大地を巡る龍脈を操り関東大震災を引き起こしたりした。
 『帝都物語』本編では屍解仙の状態のまま1998年まで生存していたが、本作ではそれは『帝都物語』の作者である荒俣宏の創作か誤解釈であり、実際の加藤は昭和四十五(1970)年11月の「三島由紀夫割腹自殺事件」の際に、三島と共に死亡したと語られている。

目方 恵子
 福島県にある、平将門を祀る相馬俤神社の宮司の娘で、自身も将門の末裔にあたる巫女。加藤保憲に闘いを挑んだが敗れた。1894年か95年生まれ。


おもな用語解説
箱まわし(人形まわし)
 傀儡(くぐつ)人形を使った見世物芸。しかしその原型は、古代中国大陸で行われていた死者の霊を呼び返すために、霊の降りる依り代として作った人形(ひとがた)を繰り回す呪法だった。

機関童子(からくりどうじ)
 愛知県内各地の祭礼で、繰り出される山車(だし)の上で舞う、主に中国の明・清時代の子どもの衣装を着た唐子(からこ)人形のこと。愛知県では、犬山市の犬山祭での唐子人形による「からくり山車」、愛知県のからくり人形師・初代萬屋仁兵衛(1950~95年)作の「牛若丸の乱杭渡り」などのアクロバティックな舞が有名であるが、豊川市・牛久保八幡宮の「若葉祭(別名うなごうじ祭)」では人間の子どもが唐子の扮装をして「からくり童子」となり、山車の上で曲芸を舞う。牛久保八幡宮のからくり童子は単に人形の真似をするのではなく、「神の子」として人間でない動きを模倣するために無表情でぎこちない動作になるのだと伝えられている。ちなみに、日本古来の神道では神や霊に仕える存在は「童子」と呼ばれる。

心串(しんぐし)
 からくり人形の中心にある軸棒のこと。串は古来、天と地・生と死・現世と冥界をつなぐものとされ、神事で捧げる玉串も、神と人間との間をつなぐ役割がある。特に依り代としての人形に不可欠な心串と女性との結びつきは強く、日本の傀儡師は人形回しをしながら女性用のかんざしや櫛も売っていたといわれ、中世では遊女のことを「傀儡(くぐつ)」と呼ぶこともあったという。

風流(ふりゅう)
 平安時代から流行していた、派手で華美な大仕掛けを使った祭礼や行列のこと。仮装や化粧をしたり、山車や鉾、巨大な怪物の模型を作って練り歩いたりするほか、大量の灯りを焚いたり太鼓や笛を大音量で演奏したりすることや奇矯な踊りや舞を披露することも風流に含まれる。その目的は悪霊を祓い良い霊を現世から送り出すことであるとされ、現在の盆踊りや精霊流し、阿波踊り、青森のねぶた祭、祇園祭、岸和田のだんじり祭などがその伝統を引いている。このような日本の風流と似た風習行事は、西洋世界でもキリスト教以前から存在しており、現代にも残るリオやヴェネツィアのカーニバルがその流れを汲んでいる。
 この風流には、霊を降ろし霊を浄めるからくり人形も深く関係しているとされ、風流で多く見られる大きな傘をさした女性の行列も、傘が霊の降りる場所である「心串」と同じ役割を持っていると考えられる。こういった関連から、派手な化粧をして華美な着物をまとった最高位の遊女「太夫」が大きな緋色の傘を差しかけられながら花街を練り歩く花魁道中も風流と同じ意味合いがあるとされ、遊女と霊を降ろす巫女とが同じ存在であることを象徴している。
 現代でも、岐阜県垂井町・南宮大社の「五月祭」では風流をともなう「蛇山神事」が行われ、そこでは高さ13m もの櫓「蛇山」の上に現れた巨大な龍のからくり人形が首や口を大きく動かす。また、蛇山の隣の山車「だんじり」では大きな龍頭の獅子舞が男子4名によって舞われ、女装した子どもが片袖を脱いで女歌舞伎のように舞う「脱ぎ下げ舞」も披露される。

桂女(かつらめ)
 かつて、京都の桂川でとれた鮎を頭に乗せた籠に入れて売り歩いていた行商の女性のこと。しかし、やがて桂女は白装束に白い布を頭に巻いて町を歩く遊女兼巫女の仕事も行うようになり、歌や踊りを得意としながら占いも行い、名前の中に「かつ(勝つ)」があることから武士階級にも重用されていた。この桂女の白一色の異装は、現代の花嫁衣裳の白無垢や角隠しにも通じるものがあり、これは古代日本の第十四代・仲哀天皇の正妻である神宮皇后(4世紀後半ごろ)が三韓征伐の途上で産気づいた際に、従った侍女「伊波多姫(いわたひめ)」が白い布で皇后の腹を巻いて安産に導いたという故事に基づく。そのため、伊波多姫の末裔とも言われる桂女もまた、安産の守り神として尊崇されている。

傀儡子記(くぐつき)
 平安時代後期の公卿・大江匡房(おおえのまさふさ 1041~1111年)が当時の芸能文化を記録した書物。全1巻。寛治年間(1087~94年)以降の成立とみられる。これによると、当時の傀儡子(傀儡 くぐつ)は人形を操る芸人のことであるが流浪の徒であり、男の傀儡は弓馬を使って狩猟し、剣の演武や人形舞い、手品なども行う。女の傀儡は化粧を凝らし歌舞や売春なども行う遊女の役割も持っていた。生活は不安定であるが課役徴税は受けず、夜は百神を祭って鼓舞するといい、本書には彼らの集う名所や歌曲のレパートリーが列挙され、当時の社会風俗をうかがう上で貴重な史料となっている。

四三(しさん)
 1180年ごろに後白河法皇が編纂した歌謡集『梁塵秘抄口伝集』に登場している、平安時代後~末期に活躍した女傀儡。大江匡房の『傀儡子記』で言及された著名な傀儡「小三(こさん)」の孫で、歌唱に秀でて今様(いまよう)の名手だった。傀儡の名人の芸名には数字に縁のあるものが多いが、これは当時の中国大陸にあった宋帝国の名傀儡である「孫三四」や「任小三」にちなんでいるようである。そしてこの系譜は、江戸時代に播磨国の西宮神社で活動していた傀儡師の座元「四郎三(しろうざ)」や、現代にも伝わる糸あやつり人形遣い師の名跡「結城孫三郎」に伝わっている。
 また西宮神社は、同じ西宮にある広田神社の分社であるが、広田神社の祭神は桂女と縁の深い神功皇后である。西宮神社には傀儡が崇拝していた神「百太夫」を祀る百太夫社がある。西宮神社の傀儡芸「えびすまいり」が京に伝わり人形芝居の「古浄瑠璃」が生まれ、さらに「文楽」に発展したといわれる。

狂乱(きょうらん)
 神降ろしを行う中で一時的なエクスタシー状態に入ること。傀儡の芸では人形が舞い、能楽の「狂乱もの」などでは人間の演者が舞うことで霊を降ろすが、この狂乱は、神功皇后が三韓征伐に際して召喚した海の精「磯良」の舞を由来とする祭礼芸能「細男(せいのう)」や、愛媛県・大山祇神社の田の豊作を占う神事「一人相撲」にも通じている。

セパレーション・コール
 1950年代にその存在が発見された、哺乳類の大多数の幼体(子ども)が持っているといわれるコミュニケーション能力。親から引き離された際に、喉の奥を震わせて20キロヘルツ以上の超音波を発し、同時に体温も下がることにより、外敵に感知されにくい状態で親を呼ぶための機能であるという。


 ……というわけでございましてね。いつもながら、ものすごい専門情報量の多さですよね! さすがは荒俣作品。

 あの、前回まで黒田龍人が主人公の「シム・フースイ」シリーズが順調にきていたのに、なんでここで『帝都物語外伝』なん?という話なのですが、これは愚直に作品の発表順に並べさせていただいたからでありまして、前回の『二色人の夜』(1993年)の次に出た作品が1995年6月の『帝都物語外伝』で、「シム・フースイ」シリーズ最新作(当時)の『新宿チャンスン』は、そのちょっと後の同年8月に出ていたのです。まぁ、この『新宿チャンスン』も、ものすごい THE・アラマタ作品なんですけどね……

 先ほども触れたように、この1995年という年は『帝都物語』にとって最初のディケイドということもあり、合本新装版は出るわ久しぶりの劇場最新作(後述)は出るわでたいへんな活況ぶりだったのですが、この流れの中で最大のトピックとして打ち出されたのが、「待望のシリーズ最新作書き下ろし!!」ということで鳴り物入りで発売された、この『帝都物語外伝』だったわけだったのです。

 ただ、まぁその……この作品、角川書店の文庫本でいうと250ページ弱というコンパクトサイズなんですよね。あっという間に終わっちゃうの。あっという間に終わっちゃうのに、上記のように精神病院の開放セラピーだとかくぐつだとか風流だとか、情報量が他の長編作品なみにモリッモリなんですよ。
 もうね、読んでみればわかると思うのですが、文庫本でいうと「うすい」印象なほうのボリュームだと思うのに、読んだ後の疲労感が『帝都物語』各篇とか「シム・フースイ」シリーズ各作なみかそれ以上! めっちゃ疲れるんですよ。
 でも、疲れるわりには結末もあんな感じなのでね……結局、魔人・加藤が本当に復活したのかどうかは描写されてないんですよね。あの後、現実世界の東京が揺らいでしまうほどのカタストロフィが生まれてしまったのか、それともパトカーが数台出動したくらいの騒ぎで収束できる程度のものでしかなかったのか。そういう大事なところは完全に作品の枠外に置かれてしまっているのです。

 あと、この小説はいつもの情緒不安定なアラマタ節に輪をかけるように、わざと作中で解決しない謎を入れたり前後で言ってることが矛盾しているような描写が差しはさまれておりまして、それが読書中の幻惑感というか、車酔いしちゃうような不安定感を助長しています。
 例をあげれば、精神病院の入院患者の泰子の身長が入院時より10cm 近く低くなっているのに誰も気づかないという謎があったり、小説の前半で「俳優の嶋田久作に瓜二つ」と描写されていた入院患者の潮永が、後半では「俳優になんか似てない、似てるのは加藤保憲本人」と表現されたりしていて、なんか正常なはずの病院職員でさえ認識できないうちに世界のなんらかの力が「ずにゅにゅにゅ~ぅう」と患者たちの形をゆがめているかのような不気味さがあるんですよね。言ってみればこれはドイツ表現主義映画『カリガリ博士』とかズラウスキー監督の『ポゼッション』だとか『ダウンタウンのごっつええ感じ』の伝説のコント『腸』のように、物語のパッケージ自体を異次元のものにゆがめている効果を、小説で産もうとしている意図的な朦朧法の一種だと思います。さすが、言葉の魔術師アラマ~タ!!

 まぁ冒頭から結末まで一事が万事、こんな感じでボンヤリした不安感にまみれた薄気味悪い作品なので、何かとてつもなく巨大な「第二章」の扉を開ける序章としてみれば、これほど力のこもったお膳立てもないかとは思うのですが、事実として本作以降の「続き」はない状況なのでね。評価は宙に浮いたまま、という感じになってしまいます。
 それでも、結局その実体は顕現しないにしても、何かしら「ものすご~く厭な災厄が迫ってくる」という、やけに重だるく湿っぽく陰鬱とした空気感、世紀末感をこれほどまでに見事に小説化しえた例もまれなのではないかと思えるので、そういう意味で、この『帝都物語外伝』という作品はその他の荒俣作品とは全く異質な、びっくり箱の中身ではなく「箱を開けるまでのハラハラドキドキ感」を楽しむ種類の雰囲気系小説なのではないかと思っております。
 奇しくも、本作と同じ年に生まれた『新世紀エヴァンゲリオン』も、物知り顔な当時のオトナ達からは「やたら装飾が立派なだけで中身ががらんどう」と揶揄されることがあったかと記憶しているのですが、そういうエンタメ作品が世界を制圧していく先ぶれのようなものを、荒俣先生は予知していたのかもしれませんね。さっすがぁ!!

 ここでちょっと、『帝都物語外伝』の内容についても触れていきたいのですが、実はこの作品、お話の時間軸が「1998年」ということで、実際に発表された1995年よりも「びみょうに近未来」を舞台にしております。だから SFっちゃあ SFになるのですが、かつての『未来宮篇』以降の『帝都物語』正編のように思いッきり世界設定が変わっているというようなアレンジはとんとありません。しいて言えば当時大変なことになっていたオウム真理教事件が終息しているような描写があるくらいですし、それは我々の住んでいる現実の1998年もそうでしたよね。

 『帝都物語』サーガにおける「1998年」という年が非常に重要なポイントであることは間違いなく、作中でもそのことは繰り返し言及されています。1998年というのは、まだ昭和が続いている『帝都物語』正編の中で最終的に物語が終結=東京が完全に崩壊した年なんですよね。

 ここで忘れてはならないのは、この『帝都物語外伝』の作品世界は、近未来設定ながらも我々の現実世界にかなり近いものであり、そこでは『帝都物語』というお話が1985年に荒俣宏という小説家が執筆した完全なフィクション小説として認知されているという点です。作中で、登場人物が古本屋から買ってきた、映画『帝都物語』の宣材写真が多用された角川文庫版の全12巻セットが登場するくらいですからね。これ、1990年代当時としてはかなり冒険的なメタ設定なのではないでしょうか。ロバート=ブロックの『サイコハウス』みたい!

 ただし、よくよく『帝都物語外伝』を読んでいきますと、その中で『帝都物語』という伝奇小説シリーズは「10年くらい前に流行って映画も作られたらしいけど、今は覚えてる人がほとんどいない」くらいの相当に自虐的な扱いを受けており、そこらへんはいくらなんでも過小評価しすぎで、現実の認識とはちょっと開きがあるような気はします。10年やそこらであの嶋田久作さんの強烈なインパクトを忘れられる人は、そうそういないでしょ! 荒俣先生、その設定は嶋田さんにも実相寺昭雄監督にも失礼やでぇ!!
 もっとも、そのくらいに『帝都物語』の作中での知名度を低くしておかないと、誰も吹き込んでいないのに加藤保憲のことを語り始めた潮永が、ぜんぜん不可思議でも何でもない単なる『帝都物語』マニアか嶋田久作さんの熱烈なファンになってしまうので、わざと「知る人ぞ知る忘れられた奇書」にまでおとしめたという苦渋の判断はあったのでしょう。
 現実世界の1998年ほど覚えてる人が少ないっていうことは、あれか……映画『帝都物語』が現実世界以上に大ゴケしちゃって次回作も制作されなくなって、当然ながら『仮面ノリダー』第47話『恐怖帝都大戦男』が放送されて大ウケすることもなかった世界なのかな。実相寺監督の映画が全く売れなかったことで世界線が分岐するとは……嶋田さんのすばらしさを知らない世界なんて、かわいそうですね。

 とにもかくにもこの『帝都物語外伝』は、作中で荒俣先生おんみずからが堂々と、

『帝都物語』の『未来宮篇』以降の展開は、なかったことにしてください。

 と宣言してしまうという、まさに漫$画太郎先生の5~6年先を行く超絶わがままな番外編作品となっております。いやいや先生、これ、その正編と一緒にリリースされんの! 番外編が正編を否定してどうすんっすかぁ~。

 いや~もう、「加藤はホントはあの時点で死んでました」とか、「嶋田さんそっくりの容姿で肉体が女性化していく潮永」とか、「精神病院の混乱そっちのけで中部地方のお祭り見学三昧に興じるヒロイン」とか、短い小説なのによくここまで読者を困惑させられますねという展開が目白押しの本作。もしブックオフかどっかの110円コーナーとかで投げ売りされていたら、是非ともご一読いただきたいと思います。少なくとも、田島昭宇のカバー画は最高ですよ!
 どこにもつながらない、何も始まらない「扉」だけがつっ立っているような唯一無二の「トマソン小説」、『帝都物語外伝 機関童子』!! 私はもう、だいっ好きなんですよねぇ。でも、恥ずかしくて絶対に人には言えない……門外不出の禁断の書やぁ~!!

 ただ、今振り返ってみれば、『帝都物語』正編の「パラレルワールドの1998年」でいちおうの完結を見て、それがためにそこから出られなくなっていた魔人・加藤という稀代のヒールキャラクターを、本格的に「自由に復活させていいですよ」なフリー素材的便利ラスボスに開放した功績は、明らかにこの『外伝』にあると思います。まぁ、それを先にやってたのは映画『帝都大戦』だったんですが、あれはあれで鬼子なんで……最期、おたまじゃくしみたいになって地面にしみこんじゃったしね。

 2005年の『妖怪大戦争』以降、わりとフットワーク軽めに加藤がエンタメ界に跳梁できるようになったのも、ある意味ではこの『外伝』が打った布石のおかげなのであります! 大事な大事なターニングポイントとなったこの作品、おヒマならば、ぜし!!


≪最後に……≫
 え~、小説のほうの『外伝』について言いたいことは以上なのですが、ここまできたら触れずにはおられないのが、『帝都物語』の合本新装版&『外伝』と歩調を合わせて公開された、映画のほうの『外伝』なのであります。
 これがまぁ、ね……ひどい作品なんですよ……


映画『帝都物語外伝』(1995年7月公開 89分 ケイエスエス)
 荒俣宏の小説『帝都物語外伝 機関童子』を原作とするが、内容は大幅に異なっている。

おもなスタッフ
監督 …… 橋本 以蔵(41歳)
脚本 …… 山上 梨香(?歳)
音楽 …… 奥居 史生(?歳)、阿部 正也(?歳)
撮影 …… 藤石 修(41歳)
特殊メイク    …… 原口 智生(35歳)
人形プロデュース …… 福田 秋雄(?歳)
舞踏    …… 大駱駝艦、アスベスト館
製作・配給 …… ケイエスエス

おもなキャスティング
柳瀬 仁哉   …… 西村 和彦(28歳)
大沢 美千代  …… 鈴木 砂羽(22歳)
目方 恵子   …… 白川 和子(47歳)
西条院長    …… ベンガル(43歳)
鳴滝 純一   …… 山谷 初男(61歳)
大沢 成道   …… 金子 研三(51歳)
入院患者・堀  …… 神戸 浩(32歳)
入院患者・池田 …… 小倉 一郎(43歳)
刑事      …… きたろう(46歳)
辰宮 洋一郎  …… 石橋 正次(46歳)


 もう字数も充分にかさんでいるので多くは語らないのですが、この映画作品はほんとにヒドイものです。視聴は絶対にお勧めいたしません。
 私は同じく、映画でいう前作にあたる『帝都大戦』も鑑賞をお薦めしないのですが、それは『帝都大戦』の場合、「名優・嶋田久作のぶっ壊れ最凶演技」と「上野耕路の美しくも怖すぎる映画音楽」、そして「スクリーミング・マッド・ジョージのトラウマを4~5株は平気で植えつけてくる SFXグロ描写」が昂じた結果とんでもないことになっちゃったというハイボルテージ&ハイテンションな事情があったからであり、これはこれであっぱれといえる突き抜け感があったのです。もう笑うしかないみたいな。

 しかし、この『外伝』は……全てがローテンション&ダウナー! 俳優の誰一人として、この作品で輝いてたネ☆といえる人がいないのです。主演格の西村さんも鈴木さんも、なんでこんな映画に出ちゃったんでしょうか。西村さんの身のこなしは、とてもじゃないけどスーパー戦隊やってたとは思えない位にやさぐれて殺陣も緩慢だし、鈴木さんもなんで鈴木さんなのにこんなに不美人に見えるのか不思議なくらいに魅力のないヒロインになっちゃってます。神戸さんと小倉一郎さんの無駄遣い!!
 これは、やっぱり……演出が良くないんじゃないかなぁ。でも、これほどまでに低予算のスケールで作っておいて堂々と「あの『帝都物語』『帝都大戦』の続編がついに!!」とあおっている宣伝文句も、若干誇大広告すぎのような気がします。いやムリだって、そんなハードル上げ……

 ただし、一点だけこの映画版『外伝』の見られる点を挙げさせていただきますと、小説版『外伝』とは全く違う内容ながらも、「鳴滝純一」「辰宮(目方)恵子」「大沢美千代」そして「辰宮洋一郎」というなつかしのキャラクターをリファインさせて、小説とはまた違ったアプローチで「現実の世界へ復活しようとする魔人・加藤」を防ごうとする動きを描いているところだと思います。また、演出のせいでひたすらまだるっこしく意味不明なシーンになってしまっていますが、「自らの身をささげて東京の地霊を慰めんとする女性ヒロイン(恵子と美千代)」という荒俣ワールドに不可欠なキーワードをちゃんと組み込んでいる脚本にも非常に好感が持てます。そういえば、小説版『外伝』にはいなかったもんね、いつもの「ひどい目に遭うヒロイン」ポジション! だってヒロイン、愛知とか岐阜に旅行いってたし。黒田龍人は出てもミヅチは出なかったし。

 これってたぶんスケジュール的に、映画版『外伝』の制作陣は、荒俣先生の小説版『外伝』を読めないまま制作に入ったんじゃないでしょうか。ただ、「精神病院の患者が~」とか「加藤の魂の降りたからくり人形が~」という設定案だけもらっていて、後は『帝都大戦』方式でごじゆ~に、みたいなほっぽり具合だったんじゃなかろうかと。う~ん、熱心なファンからしたら、ひっでぇ話!!

 あと、この映画の中でさも公式設定のように語られている「加藤保憲はもと平将門の忠臣」だとか「大沢美千代は辰宮洋一郎の孫」だとかいう関係性は、まったくこの映画のみのオリジナル設定ですので注意しましょう。まぁ、2020年代にこの映画の話を引き合いに出す人もそうはいないでしょうが。長大な原作『帝都物語』の人物設定のはしょり方がかなり強引! 三島先生はどこに行ったのだ!?

 この映画版の脚本は、最終的に「怖いのは加藤でも平将門の怨霊でもなく、この世紀末にハバを利かせている権力者」みたいな結論を導き出しているのですが、これもいかにも、古来の伝統を意図的に曲解したカルト新興宗教による大規模テロ事件が勃発した1995年らしくもあり、「こんなくだらない騒動に担ぎ出された将門公や加藤がかわいそう」な尻すぼみエンドとなっております。おまえが黒幕なのかよ! ぽっと出はひっこんでろやぁあ!!

 いやほんと、映画のほうの『外伝』はバブル崩壊期のあだ花といいますか、映画版『リング』勃興前夜の鬱々としたホラー映画界の頭打ち感をあまさず今に伝えてくれる大失敗作、としか言いようがないかと思います。身のまわりで幸運なことが次々に起きてハッピーすぎて怖いくらい! ちょっと自分を落ち着けたい!! もしくは学校とか仕事に行きたくないのでちょっと病気になりたい! という方は、ぜひともこの映画版『帝都物語外伝』をノンストップでおたのしみください。いい感じかそれ以上に心身が落ち込みますヨ。

 う~ん、なんで西村さんとか鈴木さん、この仕事を断らなかったんだろ。大人の世界って、たいへんなんだなぁ。
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なんでこの食材でこんなうっすい味の料理ができんねん ~『鏡の中の女』2025エディション~

2025年05月10日 22時29分23秒 | ミステリーまわり
 らみぱすらみぱするるるるる~!! みなさまどうもこんばんは、そうだいでございます。
 いや~、なんか日中の日差しがめっきりまぶしくなってきましたな。私の住む山形は、それでもまだ朝夕が寒いので、ほんとに何着て仕事に出たらいいのかわかんなくなってます。ま、そのうちすぐに暑くなるでしょ。

 最近リアルタイムでやってる番組で気になるの、みなさんは何かありますか? 私はめっきり無くなっちゃってねぇ……誰が出演してるからとか、毎年見てるからとかの縁以外に、純粋に面白いから観てるっていう新規が開拓できてないんですよ。『機動戦士ガンダム ジークアクス』くらいでしょうか。まぁ、あれも『機動戦士ガンダム』ありきの作品とも言えるし。
 相変わらずの半分以上義務感覚で NHKの大河ドラマも観てはいるのですが、ちょっと今年の蔦重は……面白いとは思うんですけど、内容によっては「お茶の間で家族で観るのがむずかしい描写も辞さない」という作品スタンスが、あたしゃど~しても容認できなくて。いや、江戸時代の吉原がメイン舞台なんだから仕方ないことではあるのですが。
 いや~、大河ドラマが小中学生への門戸を狭くした作品を放送するっていうのは、どうなんでしょうか……もちろん、制作陣が「子どもお断り」を表明したいわけでもないとはわかるのですが、小学生の時に見た『太平記』の第22回『鎌倉炎上』(1991年6月放送)の大衝撃が、その後の歴史好き人生の着火点となったわたくしといたしましては、そういうビッグバン的なきっかけを子ども達にもたらすことを自ら制限するような姿勢には疑問を持たざるを得ないと申しますか……いや、子どもでも見たければこっそり見ればいい話なんでしょうが。
 ま、あそこでの片岡鶴太郎さん演じる得宗北条高時の凄絶な演技も、『べらぼう』とは別ベクトルで「放送コードぎりぎり」だったんですけどね! その鶴太郎さんも『べらぼう』では、あの鳥山石燕画聖の役で出られましたが、いやはや丸くなったもんだねェ~鶴ちゃんも! ビジュアルは昔が丸で今はガリッガリなわけですが、演技のインパクトはその真逆よぉ!! おでんかピヨコちゃんのオリジナル妖怪くらい描けって話ですよ! キュ~ちゃん!!


 え~、例によりましてとりとめもない話題でエンジンもかかってまいりましたので、その無駄な勢いを駆って、かつて鶴太郎さんも演じたことのある金田一耕助の映像作品、その最先端をゆく池松壮亮金田一シリーズの最新シーズン第2話を観た感想に移らせていただきたいと思います。強引と言われようが脈絡が無いと言われようが、もういいはぁあ~。こうしてはしゃげるのも、秋までだしね……


ドラマ『鏡の中の女』(2025年5月8日放送 NHK BS『シリーズ・横溝正史短編集Ⅳ 金田一耕助悔やむ』 30分)
 33代目・金田一耕助    …… 池松 壮亮(34歳)
 21代目・等々力 大志警部 …… ヤン イクチュン(49歳)

 『鏡の中の女』は、横溝正史の短編推理小説。「金田一耕助シリーズ」の一作。雑誌『週刊東京』(東京新聞社)にて1957年5月に発表された。現在は角川文庫『金田一耕助の冒険』に収録されている。映像化は今回が初となる。
 今回のドラマ版は、NHK BS での放送に先がけて2025年3月28日にNHK BS8K、同年4月19日にNHK BS4K にて先行放送された。

あらすじ
 昭和三十二(1957)年5月2日。金田一耕助と銀座のカフェ「アリバイ」で会食していた読唇術の達人・増本克子が、鏡に映る愛人関係とおぼしき男女の密談を読み取った。それは「ストリキニーネ」や「ピストル」などの不穏な言葉が飛び交う殺人計画の相談としか思えない内容だったが、金田一は大都会のカフェでそんなことを話し合うはずがないと軽く笑い飛ばす。しかし、金田一はその男女の様子を盗み見ている中年の婦人がいることに気づいていた。
 やがてその2週間後に、克子が訴えていた通りのストリキニーネ毒殺事件が発生するが、被害者はカフェで密談をしていた若い女だった……金田一がたどり着いた衝撃の真相とは?

おもなキャスティング
増本 克子    …… 中嶋 朋子(53歳)
河田 重人    …… 田中 要次(61歳)
河田 登喜子   …… 高畑 遊(40歳)
河田 由美    …… 中島 セナ(19歳)
杉田 豊彦    …… 倉 悠貴(25歳)
倉持 タマ子   …… 中村 ゆりか(28歳)
藤本 文雄    …… 神谷 圭介(?歳)
Sホテルの運転手 …… 小出 圭祐(?歳)
三鷹駅の駅員   …… 吉田 正幸(?歳)
古谷警部補    …… 福地 桃子(27歳)
朗読       …… 芋生 悠(27歳)

主なスタッフ
演出 …… 宇野 丈良(?歳)


 おぉおぉ、ついにここまで来てしまいましたか、池松金田一シリーズ! いよいよ、横溝正史神先生の珠玉の「金田一耕助シリーズ」の中でも、まさしく「ラストダンジョン」と呼ぶにふさわしい最奥のアマゾン地帯的秘境、『~の中の女』ものに手を出してしまいましたか……
 これは、そうとうな覚悟のこもった作品選出とお見受けし申した! 是非とも最後の1作品まで映像化し尽くしてくだされませい!!
 以下、横溝先生の『~の中の女』シリーズに関する情報あれこれでござ~い。


≪ようこそ、横溝金田一ワールドの最深部へ……『~の中の女』シリーズとは?≫
 横溝正史の短編集『金田一耕助の冒険』には、『~の中の女』というタイトルで統一した金田一耕助もの推理小説が収録されている。
 ただし、のちに長編小説化された3作品(原形の短編版は出版芸術社もしくは光文社文庫刊の『金田一耕助の帰還』に収録されている)と、発表時期が離れている『日時計の中の女』(1962年8月発表)は収録されていない。

これでコンプリート!!『~の中の女』シリーズリスト(作品発表順)
1、『夢の中の女』(1956年7月発表)
2、『霧の中の女』(1957年1月発表)
3、『泥の中の女』(1957年2~3月発表)
4、『鞄の中の女』(1957年4月発表)
5、『鏡の中の女』(1957年5月発表)
6、『傘の中の女』(1957年6~7月発表)
7、『檻の中の女』(1957年8月発表)
8、『壺の中の女』(1957年9月発表)※のちに長編小説『壺中美人』に改稿され1960年に完成
9、『渦の中の女』(1957年11月発表)※のちに長編小説『白と黒』に改稿され1965年に完成
10、『扉の中の女』(1957年12月発表)※のちに長編小説『扉の影の女』に改稿され1961年に完成
11、『洞の中の女』(1958年2月発表)
12、『柩の中の女』(1958年3月発表)
13、『赤の中の女』(1958年5月発表)※短編小説『赤い水泳着』(1929年8月発表)を金田一耕助ものに改稿した作品
14、『瞳の中の女』(1958年6月発表)
15、『日時計の中の女』(1962年8月発表)

過去に映像化された『女』シリーズ作品
・『霧の中の女』1(1957年2~4月に日本テレビで放送されたドラマシリーズ『月曜日の秘密』の第4話)
・『泥の中の女』(同じく TVドラマシリーズ『月曜日の秘密』の第7話)
・『鞄の中の女』(同じく TVドラマシリーズ『月曜日の秘密』の第11・最終12話)
・『白と黒』(1962年11月にテレビ朝日系列『ミステリーベスト21』枠内にて1時間ドラマとして放送)
・『瞳の中の女』(1979年7月公開の大林宣彦監督によるパロディ映画『金田一耕助の冒険』の物語の大筋が本作の内容を受けている)
・『霧の中の女』2(1996年4月放送のフジテレビ系列『昭和推理傑作選・横溝正史シリーズ 女怪』の物語に本作の設定が一部組み込まれている)


 ……すごいでしょ? こんなもんなんで、今回初映像化された『鏡の中の女』は、それだけをチョイスしてドラマ化しました~なんて小さな話では終わるはずもない、とんでもない世界に踏み込む第一歩なわけなんでございますよ。

 な~んてまぁ、鬼面人を驚かすような口上を述べてしまいましたが、実はこの『~の中の女』シリーズは、その内容に特段のつながりもなく、はっきり申しましてタイトルが似通っているくらいしか共通項はありません! 当然ながら金田一耕助が全作品に、そしてたぶん全作品にワトスン役として等々力警部が登場するというのは、このシリーズに限らず金田一もの短編のほとんどで言えることですし、『~の中の女』シリーズの準レギュラーとも言える島田警部補や志村刑事、多門修といった面々も、別にこのシリーズにしか出ないわけでもないので、ぶっちゃけ、1950年代後半~60年代初めの金田一もの短編のタイトルを横溝先生がそうしていた、という程度の差異しかないのです。だから、どっから読んでもいいし、全作品読まなくてもだいじょ~ぶ!

 だいたい、横溝先生はもともと作品のタイトルに「女」を入れることが非常に多く、『女怪』(1950年)とか『女王蜂』(1951~52年)は言うに及ばず、『支那扇の女』(1960年)とか『扉の影の女』(1961年)とか、もう『~の中の女』シリーズでええやんけと言いたくなる作品も多々あるので、ほんと、このシリーズの作品だからと言って特別視する必要なんかどこにもないのです。ま、人類の半分は女性ですから……

 ただし、強いてあげるのならば、等々力警部が相棒という設定からも推察される通り、この『~の中の女』シリーズは金田一ものの中でも「東京周辺を舞台にした都会犯罪」を扱った事件ばかりであるという特徴も共通しています。
 これは裏を返せば、「金田一耕助の事件と言えば田舎!!」というイメージが強固に残っている現代では、映像化される機会がほとんどなかったという事実を雄弁に物語るものなのでありまして、1970年代の「ディスカバー・ジャパン」の風潮に乗っかった形で大ヒットした1976年版『犬神家の一族』以降の、石坂浩二金田一や古谷一行金田一に代表される「第2次横溝ブーム」から現在に至るまで、これら『~の中の女』シリーズに本格的にスポットライトが当てられる機会はゼロに近かったのでした。

 上の情報を見ても分かる通り、このシリーズで映像化されたのは石坂金田一の登場以前の時期がほとんどで、1979年の映画版『金田一耕助の冒険』も鶴太郎金田一による1996年版『女怪』も、一部の設定だけを拝借するのみという不完全なものだったのです。
 ちなみにこれは金田一ファンあるあるかも知れないのですが、映画版『金田一耕助の冒険』は、かの古谷一行による金田一耕助の唯一の映画作品ですから、当時中学生だった私はほんとにドキドキワクワクしながらビデオレンタルで借りて初視聴したんですよ! そしたらまぁ、なんだいありゃあ……私ほんと、長いこと大林監督お断りになっちゃいましたからね。

 ただまぁ、CG によるセット撮影が定着してきた2020年代現在ならいざ知らず、1970年代後半以降に金田一耕助シリーズの都会犯罪ものを映像化する場合は、原作の時代設定に忠実にやろうとすれば1950~70年代の高度経済成長期と1980~90年代のバブル経済&崩壊期という2度もの荒波を受ける前の都会の風景をセットで再現しなければならなくなってしまうので、それだったら多少の移動費はかかっても、日本のど田舎に残っているありもんの風景を有効活用できる岡山・地方ものを映像化した方がよっぽど現実的な判断だったわけなのでしょう。そういった先達のご苦労の中で第3の選択肢として、1977年版『女王蜂』のように都会ものをムリヤリ田舎ものに改変したり、1975年版『本陣殺人事件』や1977年版『吸血蛾』のように時代設定を制作当時にアップデートしてしまったりした作品も生まれたのではないでしょうか。
 つまるところ、金田一耕助シリーズの都会犯罪ものは、1957年の『月曜日の秘密』みたいに取って出し式で発表直後ほやほやの時に映像化するのが一番だったんでしょうね。にしても、『月曜日の秘密』のメディアミックス的な間髪容れない映像化は恵まれすぎじゃないっすか!? 最近の超売れっ子作家さんでも聞きませんよ、このドラマ化のスピード感!

 こういった、発表直後のモテモテぶりはともかくとしまして、世間一般の金田一耕助イメージが定着した1970年代後半以降はながらく不遇の時代が続いていた『~の中の女』シリーズの諸作ではあったのですが、その救世主としてついに名乗りをあげたのが、2016年放送の第1シーズンいらい、『黒蘭姫』(1948年)や『貸しボート十三号』(1958年)、『女の決闘』(1957年)といった非田舎ものも積極的に映像化してきた我らが池松壮亮金田一シリーズだったというわけなのです。きたきたきた~!! 都会犯罪ものファンの大悲願である『白と黒』の映像化も射程圏内に入ってきたかしら?


 というわけでありまして、ここからは『~の中の女』シリーズの本格的映像化、その栄えある先鋒となった今回の『鏡の中の女』の内容に入ってまいりましょう。期待がふくらむなぁ~オイ!!
 四の五の言わずに、さっそく私が視聴した感想を申しますと、


とにかく、うす味でした……良くも悪くも、うす味。


 という感じでございました。う~む。
 いや、「まずかった」わけじゃないんです! 味つけとして、このうすさが功を奏しているなと感心する部分もあったのですが、とにかく作品としての印象が「あわ~い」初映像化になっているな、と思いました。

 これ……冒頭のテロップにあったように「ほぼ原作通りに映像化」と言って良い作品なのだろうか。ちなみに、前話『悪魔の降誕祭』ではこのテロップは出ませんでした。

 面白いか面白くないかはまず置いておきまして、私が言いたいのは、このドラマの質感と原作小説の読後感とが、だいぶ異なっているんじゃないかということなのです。今回のドラマ版は、確かに原作小説の文面を雑味ほぼなしで映像化してはいるのですが、やはり佐藤佐吉演出による前話のように「原作小説の持ち味を意図的にカットしている」ような気がするのです。

 というのも、原作小説『鏡の中の女』は、いろんな意味でかなりアクの強い野心作だからなのです。
 まずこの作品は、以前に池松金田一シリーズでも映像化されたある作品のように、横溝先生が推理小説(というか探偵小説)界の先輩にあたる某超有名作家先生が世に出した「先行作品」へのオマージュ色の強いものになっていると思います。一体、なに川なにんぽ先生なのだろう……

 当然、本作が具体的にどの作品へのオマージュなのかは、オマージュした点がまんま事件の真相に直結しているので絶対に言えないのですが、はっきり申しまして、もう前後関係とか作品の展開とかいっさい読まなくても、「これやった奴は絶対に犯人!」というパターンを、この両作品でのそれぞれの犯人は共通してやっているのです。なんかもやもやした言い方ですみません!! こういう鉄板な流れって、えてして海外にその元ネタがあるものなのですが、このパターンの原型も海外の探偵小説とかにあるんですかね……?

 こういう感じに非常にわかりやすいパターンなので、はっきり言ってしまえば、その先輩作家の先行作品を読んだことのある人ならば(当時のミステリファンだったらほぼ必読レベルだったと思います)、この『鏡の中の女』の犯人が誰なのかは一瞬でわかると思います。そして、あの「推理小説の鬼」とも畏れられた横溝先生が、この犯人の設定に限っては「ひねりを加えずに」真相に直結させているのです。え~、先生、ノーガード戦法!? 手抜きとかパクリなんかするわけがないし(発表当時にその先輩作家は当然ご存命)、ならばどうしてそんなことを……

 つまりこれは、『鏡の中の女』において横溝先生が「誰が犯人か( Who done it)」に重点を置かず、もっぱら「どうして犯行に走ったのか( Why done it)」という動機のほうに作品としての独自性と面白さを全振りしたからだったのではないでしょうか。極端な話、犯人がバレバレなのは問題ではないのです。

 要するに、この作品の見どころは、金田一耕助シリーズの中でもあまり類を見ない「犯行動機の異常性」! ここに尽きるはずなのです。

 ここで見誤ってならないのは、ここでいう「異常性」の質が、たとえば前話『悪魔の降誕祭』における犯人の異常性とはまるで違うものである、という点です。異常と言えば、確かに先々週の犯人のふるまいも十分すぎるほどに異常ではあったのですが、その動機は、これまた海外の超超有名な先行作品ですでに使われていたような、ある意味で古典的なものだったのです。ショッキングではありますけどね……

 原作小説『鏡の中の女』における犯人の動機の異常性は、ちょっとそういうものとはレベル……というかフェイズが違うものだと思うんですよね。犯人像につながってしまうので、これも具体的には言いづらいのですが、この作品ほど、今シーズンのサブタイトルである「金田一耕助悔やむ」がしっくりくるものもないのではないでしょうか。まだ最後の『湖泥』観てないけど。

 なんともはや……今作の犯人ほど、動機の破綻した人物もいません。自分のプライドを守るために人生全部を台無しにするかもしれない賭けに出て、案の定みごとに負けてしまっているのです。
 この犯人は、自分と全く関係のない人間を殺せば自分が疑われることはないだろうという打算から、いわゆる「無差別殺人」に走ったわけなのですが、着眼点はいいにしても、本当にそれをやろうとする人間なんか、この広い世の中でもそうそうはいないと思います。無関係ってことはつまり「殺すメリットがない」ってことですもんね。
 ということは、犯人に相当な強い欲求や意志が無ければ、殺人などというハイリスクなことはできないわけなのですが、そのエネルギー源たる動機が、今作の場合は「名探偵をぎゃふんと言わせたかったから」って、あーた……まぁ結果は呆れるくらいの大失敗に終わったわけなのですが、これはある意味で「究極の愉快犯」と言えるのかもしれませんね。

 世間でよく言う「名探偵がいると大事件が起こる」、「名探偵が旅行先にいたら今すぐ逃げろ!」というジョークは、本来ならば事件を解決するはずの名探偵が逆に「死神」に見えてしまうパラドックスを指摘する言葉なわけですが、最近で言えばコナンくんとか金田一耕助の孫を自称する少年がしょっちゅう言われているやつですよね。
 さすが金田一耕助、すでにその40、50年前に「名探偵がいるおかげで事件が起きる」をマジで地でいくケースに見舞われていたとは……しかも、本作の場合は冗談とかじゃなく、ほんとに金田一の言動が事件のきっかけになってしまっているのです。
 でも、今回の事件はどこからどう見ても犯人の思考回路がふつうじゃないと言いますか、これをもって金田一に事件発生の責任を追及するのは無理があると思います。ニュアンスで言えば、「へんなストーカーにからまれちゃった」という不運な事件といえるのではないでしょうか。
 「金田一がひどい目に遭った」と言うのならば、他ならぬ前話『悪魔の降誕祭』だって、金田一の探偵事務所兼自宅で殺人が起こるという嫌すぎる目に遭っていたわけだったのですが、これは被害者がたまたま事務所に駆け込んだからそうなったのであって、別に犯人が金田一に挑戦する意味でそこを犯行場所に選んだという意図はなかったと思います。ただ、よせばいいのに事務所の日めくりカレンダーを使って次の犯行予告の謎かけをするという調子の乗りっぷりは……若さゆえのあやまちでしたね。

 それに引き換え今回の犯人はというと、最初っから金田一を狙って事件を起こし、その上で自分の犯行だとバレないと確信して決行しているのですから、その肝っ玉たるや豪胆無比……っつうか、無謀に近い自己分析力と想像力の欠如があるような気がします。
 そして、犯人のヤバさが本当に見えてくるのは、そのくらいの大きな賭けにでていながらも、びっくりするほどドジなチョンボのためにあっさり逮捕されているというところなのです。だって文庫本にして50ページで終わっちゃってるし!
 具体的には、犯人はメモを盗み見した登喜子を自宅まで尾行している自分の姿を金田一にバッチリ見られていますし、被害者が身に着けていた貴金属を盗み持っていたという決定的証拠までご丁寧についてくる始末。こう言っちゃなんなんですが、初手から金田一に目をつけられる詰み具合になっていたのです。貴金属に関しては、もはや「これがないと小説が終わらないから」横溝先生が犯人に盗ませたとしか思えない、犯人の人物造形とまるで関連のない衝動的な行いですね。

 金田一耕助シリーズ史上最も大胆不敵にして、最もダメダメな犯人! それこそが、今作最大の見どころなわけです。

 おおよそ、推理小説の世界におめおめと出てきていいはずがない、もう笑うしかない短絡的発想で塗り固められた、矛盾だらけの行動に満ちた犯人像。
 でも、このムチャクチャさこそが、2025年のいまから観てみますと、ものすんご~くリアルに見えてくるんですよね。いや、おそらくはこの作品が世に出た1950年代からみても、当時の新聞紙面を騒がせていた犯罪事件のほとんどは、本作のように「なんでそんなことしでかしといてバレないと思ったん!?」と世間の人々の首をかしげさせる内容のものだったのではないでしょうか。

 ここ! この作品のバロックさ加減といいますか、横溝先生がわざといびつに設計しているとしか思えないタッチこそが、『~の中の女』シリーズに代表される短編小説群の味わいなんですよね。
 もちろん、連載やら並行執筆やらでスケジュール的に余裕がないゆえに生じたご都合主義的展開もしくは無理やりな締め方もあるのかもしれませんが、まるで数学の方程式のように精巧に組み立てられた論理的美しさに彩られた長編作品が多い横溝ワールドにおいて、もしかしたら短編作品というフィールドは、好きな実験を失敗もやむなしというゆるさでトライできる、大事な遊び場だったのかもしれませんね。だからこそ、この短編作品からみごとな長編作に練り上げられていった作品もたくさん生まれたのでしょう。


 ままま、そういう独特な味わいの横溢した作品でありますので、その面白さを今回の初ドラマ化が十二分に視聴者に伝えうるものだったのかといいますと、私はやっぱりいささかの「消化不良感」を覚えてしまうのでした。
 まず気になるのは今回のドラマ版の「金田一耕助よりのウェッティさ」で、まぁ番組タイトルがそうなんだから仕方ないとはいえ、金田一耕助の「悔やみ」の感情が異様に強調されていますし、さらには犯人が「ほんとに被害者たちの犯行計画を読み取っていた?」かのような描写が入っていたのにも疑問を感じてしまいました。つまり、金田一の「すべて犯人の妄想」という推理は間違っていたのかも……?というにおわせですね。

 いやいや!それは金田一のメンタルをよわよわに設定しすぎな解釈でしょ。そんな、市川崑監督の「天使みたいな金田一耕助♡」じゃないんですから、前話の『悪魔の降誕祭』でもそうでしたけど、金田一をいちいち1コ1コの異常事件で精神の均衡がぐらつくようなガキンチョにしないでいただきたい。
 ここが今回のドラマ版の狡猾さの最たる例なのですが、ドラマ版は、金田一が事件の真相を話している相手が等々力警部で、最後の最後に等々力警部が金田一を慰めるような挙動をして終わるじゃないですか。
 これ、原作版はこんな終わり方じゃないですからね!? 原作は金田一が語る相手はこの作品の筆者(=横溝先生)で、しかもラストは金田一が「あっはっは」と笑い飛ばしておしまいになっているのです。わろとるでぇ~オイ!!

 これこれ~! この神経の図太さこそが「プロの私立探偵」金田一耕助の真骨頂なのですよ。「文章は変えてません」みたいな言い訳をつけて、シーンの登場人物も感情描写も全く違う演出にしちゃうんだもんなぁ~! 宇野さんもお人が悪い。


 こういう感じでしたので、とにかく私は今回のドラマ版に関しては、「犯人も異常ならば、金田一も異常!」という原作小説『鏡の中の女』のエキセントリックさを意図的に排除した作劇になっていると感じましたので、その点に関しては非常に不満が残りました。じゃあ、この作品を選ばないでくださいよ~ってはなし!

 ただ、最後の最後にこれだけは申しておきたいのですが、以上のようにめちゃくちゃ破綻の多い不気味な犯人を、今回のドラマ版で演じられた役者さんはびっくりするほど「しずか」に演じられていて、その静けさが何よりもリアルで怖いという絶大な効果を生んでいたと思い、本当に感服つかまつってしまいました。いや~、さすがです!!
 すばらしい……並みの役者だったらヘンにサイコっぽい雰囲気や言動をとりそうなものなのですが、このお方は一切そんな味つけをせず、とにかく「やりたかったからやりましたけど……なにか?」みたいな表情で警察に連行されていく姿が最高に喜劇的で悲劇的でしたね。実にお見事……究極の引き算や。

 これを言ったら誰が犯人役なのかわかってしまうので多くは申せないのですが、ごくごく最近まで金田一耕助を演じられていたある俳優さんとキャリア的に非常に縁のある方でありながらも、ある意味でこれほどまでに「正反対に位置する」演技を極めていらっしゃるのは、ものすんごくそれぞれの役者人生の厚み、プロの道の奥深さを感じさせるものがありました。いや~いいもん観させていただきました。

 そして、このお2人の「間」に立っていらっしゃってた稀代の名優さんも、今回の記事の中のどこかに出ていた作品の中で等々力警部を演じられていたという、この数奇な因果関係ね~!

 いや~、横溝ワールドはほんっと~にでっかいど~! る~るるるる~!!
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