長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

頑固一徹!きまじめホラー ~映画『ヘルハウス』~ 前編

2023年05月11日 22時24分05秒 | ホラー映画関係
 みなさま、どうもこんばんは! そうだいでございますのことよ~。
 最近なんだか、地震のニュースが多いですね。今朝はついに関東、千葉県でも震度5強ですか。次はどこなんでしょう? 物騒だなぁ。

 千葉といいますと、私にとりましては大学生時代から30代なかばまで、約15年ほど暮らしていた縁のある県であります。なつかしいですね……うれし恥ずかし、思い出は山ほどあるのですが、それらももう10年以上前の過去になりつつありますか。つい昨日のような、遠い昔のような。
 コロナ関連もひと段落したことですし、このあくせくした生活に余裕が生まれたら、久しぶりにふらっと千葉に行って、当時の面影がどのくらい残っているのかを歩く極私的旅を組んでみたい気もします。ただ、電車だと千葉って、東京から遠いんですよね……総武線の黄色! 京成線のガタガタ感! やっぱ車で行くか。
 聞いた話では、まず JR千葉駅の時点で、私が知っている駅舎とは全然違うものにリニューアルされて久しいっていうし、圧倒的な時代の流れに圧倒されて「はへ~、ほへ~!」って言いながら迷子になりそうな予感がしますね。

 行きたい所はいくらでもあります。住んでた歴代3ヶ所のアパートは、トイレがまさかのくみ取り式だった2番目のあそこはもう無くなってるんだよなぁ。毎月トイレの小窓に500円玉を置いて処理業者さんに持ってってもらうんですよ、信じられます!? 大学近くのあの中華料理屋さんと洋風定食屋さんはお元気だろうか。電車代をケチって3時間歩いたあの幹線道路沿いも、もう一度歩いてみたいなぁ……あ、あそこは埼玉県か。

 私にとって思い出深い土地がたくさんある千葉県なのですが、その中のひとつに、およそ20年前(え、そんな昔……?)に私がアルバイトをしていた、千葉市美浜区のちょい古めのショッピングモールがありました。でっかい駐車場をかこって、スーパーやら100円ショップやらホームセンターがあるみたいな形式のやつですね。今ちょっと調べてみたら、どうやら、そこにある全店舗が私の見覚えのないお店に代わってるみたいです……時の流れよ!!
 当時私は、そこにあった大手系列ではない古本屋さんのアルバイトをしていたのですが、そのお隣に姉妹店として、昔懐かし、真っ黒真四角で重ったい VHSビデオもたくさん貸し出していた大きめのレンタルショップがありました。当時は2005年前後でしたから、すでに時勢は DVDになっていたわけなのですが、それでもお店の半分くらいは VHSだったと思います。なんでも新しい、省スペースで軽いほうに乗り換えていく大手ではなかなか見られないクラシックさでしたね。でも、1980年代生まれでレンタルといえば VHSかベータを見て育った私にとりましては、時が止まったような懐かしさが垣間見える空間だったのです。
 バイト先の隣にあるということで、帰りにふらっと寄って、ヒマに飽かせていろんな映画を借りて観たのですが(さすがに勤務先の隣なので、ピンクののれんの先に広がる紳士の花園には行けず……)、そのお店で異彩を放っていたのがホラー映画コーナーでありまして、ふつうのレンタル屋さんではなかなか見られない、当時まだ DVD化されていなかった知る人ぞ知るホラーの名作、怪作がけっこう充実していたのです。バイト初日の帰りに棚を見て「フハッ!!」と興奮しちゃって、そこの店長に奇異な目で見られていたのを思い出します。そこに「わかってんなお前」みたいな微笑が添えられていたのも、よく覚えています。バイト先の同僚も含めて、お元気かな~、みなさん。

 今パッと思い出せるだけでも、『2000人の狂人』(1964年)でしょ、『シーバーズ』(1975年)でしょ、『エクソシスト2』(1977年)でしょ、『ゾンゲリア』(1981年)でしょ……『13日の金曜日』シリーズや『悪魔のいけにえ』シリーズ、ルチオ=フルチの「血みどろ3部作」をあらかた履修したのもこのお店でですし、日本ホラーで言うと、さんざん噂に聞いていた鶴田法男監督のオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』をやっと観れたのも、ここでだったような気がする。
 そんな感じで、ほんとに誰からも強いられていないのに運転免許合宿なみの詰め込みペースでホラー映画のお勉強にいそしめた、まさに「ボンクラ専門学校映画学部ホラー学科」とも讃えるべき、私にとっては絶対に足を向けて寝られない学びやだったわけなのですが、その中でも特に「あ~、これ観れてよかった!」と思えた作品が、この記事で取り上げるタイトルだったのでありました。いろいろ個性たっぷりの名作あまたあれど、これはひときわ不思議な印象の残る映画だったんですよね!

 以下、ちょっと簡単な説明をば。


映画『ヘルハウス』(1973年6月 95分 イギリス・アメリカ合作)
 映画『ヘルハウス(The Legend of Hell House)』は、1973年制作のイギリス・アメリカ合作のホラー映画。
 アメリカの SF・ホラー作家リチャード=マシスンのホラー小説『 Hell House(邦題『地獄の家』)』の映画化作品で、マシスンは今作の脚本も担当している。

あらすじ
 著名な物理学者のライオネルは、億万長者のルドルフからの依頼により心霊現象が起きるという噂がある古い大邸宅ベラスコ・マンションにまつわる謎を調べることになった。ライオネルは妻のアン、若い霊媒師フローレンス、20年前にこの邸の調査に参加してただ一人生き残った霊媒師フィッシャーと共に調査を始める。この邸は1919年にエメリック=ベラスコという富豪が建てたもので、彼はありとあらゆる悪業を重ねた末、ある夜のパーティーを最後に行方不明となり、邸にはパーティに出席した27名の親類縁者たちの惨殺死体が残されていたという。
 ライオネルが調査を進める中、ある日フローレンスはベラスコの息子ダニエルのミイラ化した遺体を見つける。しかしライオネルは一連の怪奇現象の原因はフローレンスの自作自演であると考えており、彼女の証言を無視する。その後ライオネルは、感知したいっさいのエネルギーを反射して消滅させるという電磁気装置「リバーサー」を邸内に設置して起動させようとするが……

おもなスタッフ(年齢は公開当時のもの)
監督 …… ジョン=ハフ(31歳)
原作・脚本 …… リチャード=マシスン(47歳)
音楽 …… ブライアン=ホジスン(?歳)、デライア=ダービシャー(36歳)
撮影 …… アラン=ヒューム(48歳)

おもなキャスティング(年齢は公開当時のもの)
ライオネル=バレット博士  …… クライヴ=レヴィル(43歳)
フローレンス=タナー    …… パメラ=フランクリン(23歳)
ベンジャミン=フィッシャー …… ロディ=マクドウォール(44歳)
アン=バレット       …… ゲイル=ハニカット(30歳)
エメリック=ベラスコ    …… マイケル=ガフ(56歳)
ルドルフ=ドイッチ     …… ローランド=カルヴァー(72歳)
ドイッチの執事ハンレー   …… ピーター=ボウルズ(36歳)


 これ、ほんとに面白かったんですよね! すごく記憶に残ったんです。
 何が珍しいって、すごくクラシックというかシンプルというか、造形がゴテゴテしていないんです。ホラー映画なんて、アメリカとかイタリアのスラッシャー映画に代表されるように、ディティールをゴテゴテに盛って人目を集めてナンボみたいなところがあると思うんですが、この作品は意図的に地味なパッケージと演出をしていて、肝心の見せ場までネコをかぶって「興味のある人だけ見れば~。」みたいな野原しんのすけスタイルを装っているのです。そういう斜に構えた姿勢がまた、非常にイギリスっぽいんですよね! もともとアメリカのホラー小説であるはずなのに、監督が見事にイギリスっぽい湿度と陰険さのある作品に変換しおおせているのです。ハフ監督、当時30歳ちょい!? 老練だな~。

 私の脳内で、歴代の1970~80年代ホラー映画の名作の数々を擬人化させて高校の一クラスにまとめてしまいますと(40名以内におさめるなんてどだいムリな話ですが)、『13日の金曜日』とか『エルム街の悪夢』あたりは超メジャーということで友達の多いクラスの目立ちたがり屋、ルチオ=フルチの諸作は部活一辺倒でテストは苦手なゴリマッチョ派、ダリオ=アルジェント作品は女子にやたらモテる文芸派、ジョージ=A=ロメロ作品は理屈っぽい大人ぶった生徒会インテリ派になるでしょうか。私の大好きな『ピクニック at ハンギング・ロック』ちゃんはオーストラリアから転校して来たクラスのマドンナという高嶺の花ポジションで、同じ転校生でも、いっつも真っ黒な髪の毛が水か何かの液体でビショビショに濡れている、ポーランド出身の『ポゼッション』ちゃんは、話しかけた瞬間に男子の肉体が消し飛ぶ核兵器レベルの地雷女子ですよね。だが、そこが、いい!!
 そんなゆかいなクラスの中でも、『ヘルハウス』君は、詰め襟学ランで教室の窓際後方に座って、ギャーギャーぐへぐへと騒ぐ陽キャたちを度の強いメガネごしににらんで「君たち、勉学の邪魔だから静かにしたまへ……」とかつぶやいている、七三わけのガリ勉男子になるでしょうか。数少ない友達は先述の『ゾンゲリア』くんとか、『悪魔の墓場』くんかな。なんか湿っぽいグループ!

 要するに『ヘルハウス』は孤高の存在です、と言いたいだけなのですが、この余人を寄せ付けないスタイルがあくまでもガワだけの話で、付き合ってみるとけっこうおもしろいというのが、今作の魅力的な部分なのです。決めるべき見せ場はちゃんとスペクタクルで派手だし、お色気シーンは十二分に色っぽい! ただお堅いだけじゃなくて、柔軟な戦略思考の中で、あえて地味目なスタイルを選択しているのです。
 おそらくこれは、当時からうさんくさい匂いを放ちまくっていた、キワモノとしての霊媒やら幽霊やらというオカルティズムを「科学的に検証する」という主人公チームのスタンスにのっとり、ホラー定石の恐怖演出に距離を取って挑んでいく演出を取ることで、観客が主人公チームに完全に感情移入したうえでベラスコ・マンションに足を踏み入れていくという、バレット博士ご一行を乗り物とした「お化け屋敷アトラクション感覚」を生むための戦略だったのではないでしょうか。そして、それは見事な大成功をおさめているように思えます。あの、古くてじめじめしてくら~い大邸宅の息苦しさを、観た者は全員身に染みて感じることができたでしょう。これ、映画として本当に優秀な証拠ですよね! ま、その重苦しい圧迫感を娯楽作品として許容できるかどうかは人それぞれですが……

 だいたい、『ヘルハウス』という題名からしてすっごくシンプルで、まさしく「名は体を表す」を地で行っていますよね。これ実は、映画版の原題が上述の通り『 The Legend of Hell House』でちょっぴりこってりめなのですが、そこを『地獄屋敷の伝説』などとせずに、原作小説のまま一言『ヘルハウス』にとどめておいたのは、まさに蕎麦屋の名前が「かつおだし」みたいな、頑固一徹な気風を醸し出していて最高ですよね。
 また当時、1974年9月に日本公開する際に、先立つ同年7月に日本公開されたあの歴史的大傑作『エクソシスト』(ただし本国公開は『ヘルハウス』よりも前)の大ヒットをおおいに意識しての宣伝戦略でもあると思われます。どのみち、同じ1970年代といいましても『ヘルハウス』が生まれた1973年はまだまだホラー映画にとりましてはよちよち歩き期で、スラッシャー映画にいたっては誕生前、せいぜい『サイコ』、『血を吸うカメラ』、『血とバラ』(1960年)や『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)あたりが散在している状態でした。そこから前になっちゃうと、ご存じハマー・プロの「怪奇映画」の世界にまでさかのぼっちゃうので、それはもう、学年が違ってきますよね。なので、『エクソシスト』と同期の『ヘルハウス』が、他の元気いっぱいな『サンゲリア』くんや『ゾンビ』くん達とちょっと毛色が違うのは、当たり前のことなのです。留年生かな? ていうか、そんな『ヘルハウス』君よりも先輩なのに、そこらへんの若い連中と話が合いまくる『2000人の狂人』(1964年)くん以下のハーシェル=ゴードン=ルイス作品の先見性は、あらためて異常すぎですね……

 脱線したお話を『ヘルハウス』本編に戻しましょう。すみません、こういうジャンルの話、する相手がいないのでついついたまりにたまってホコリをかぶりまくっていたパトスがほとばしっちゃって。

 タイトルですでに言っている通り、本作は「亡霊はいるのか?」や「超能力はあるのか?」というテーマにかなりきまじめに取り込んだ作品で、「限定された空間と期間の中で課題に取り組む」というルールもしっかりしており、ちゃかちゃかしたギャグ要員やこけおどしのショック音楽などの小手先を弄しない、硬派、ソリッドな演出が非常に印象的です。
 その象徴として、この作品はシーンごとに「何月何日何時何分」という時間設定がしつこいくらいに表示されます。そこらへんは、まさにアメリカ・ホラー小説界の巨匠であるマシスン先生の真骨頂であると思います。
 実際にこの映画版は、生前のベラスコや20年前のフィッシャーの挫折といった過去パートが登場人物同士の会話の中で時々語られるのみで、なんとなくしか触れられない情報が多いです。おそらくそのへんは、映画公開時に早川書房から翻訳刊行された小説版が補完しているかと思われるのですが、残念ながら今回は原作小説を未読のままこの記事を書いておりますので、小説版の内容には踏み入りません。中古本の値段が4~5倍くらいになってんのよ……無理して買えないこともないのですが、今回は映画版のみを扱うということで。案外、創元推理文庫の『ピクニック at ハンギング・ロック』みたいに、そのうち思い出したようにポッと再刊されるかもしんないし。

 ともかく、この作品は時間経過が明示されるかたちで進んでいきますので、今回はちょっと、作中の流れをざっと整理して、その中で気になった点を、その都度羅列してみることにいたしましょう。
 するとア~ラ不思議、真面目に作っている反面、そのきまじめさをもってしても隠し切れない、この作品に潜む「真のこわさ」が浮かび上がってくるような~?


≪映画『ヘルハウス』、地獄のベラスコ邸へごあんな~いタイムスケジュール≫

12月17日金曜日
午後4時08分
・冒頭に、字幕で「 Clairvoyant and Psychic Consultunt to European Royalty」という肩書きの「 Tom Corlett」という人物の、「この物語はフィクションである。しかし、超心理的な現象は実際に存在しうる可能性がある。」というありがたそうな序文が流れる。いかにもハッタリの効いた前置きでつかみはオッケーなのだが……だれ? この人。
・さっすが DVD! VHS と違って BGMがはっきりくっきり聴こえてくる。けっこう各シーンで多用されてた太鼓のパーカッションがすごくイイ! あ、これ、このシーンでも流れてたんだ~。
・大富豪ドイッチとライオネル博士とのたった1~2分の会話の間に、「亡霊が存在する可能性のある地球上で唯一の場所」、「地獄の家」、「一族が封印」、「20年前の事件のただ1人の生き残り」、「1週間以内に答えを出してほしい」、「10万ポンドの報酬」などと、面白そうなキーワードがわんさか! のっけから緊張感がみなぎりますね。
・1970年代の1ポンドは約700円の換算だったらしい。令和現在の物価指数は当時の約2.3倍なので、大富豪ドイッチの依頼は、現在の日本人の感覚でいうと「1週間で1億6千万円がもらえるお仕事」ということになる。ふとっぱら! ちなみに、2023年現在のポンドの価値は、「1ポンド=約170円」だそうです。嗚呼、栄光の大英帝国よ……
・日本語吹替版では、ライオネル博士がフローレンスを「あの巫女」と呼んでいる。見くだすニュアンスを多分に込めた言い方であるとはいえ、巫女て……実に昭和ですね。
・映画開始3分、2人の会話が終わったタイミングで「12月17日金曜日 午後4時08分」という無機質なテロップが流れるという構成が、とにかくスマートでかっちょいい。ていうか、ベラスコ邸に乗り込むのはその次の週の月曜日だから、実質土日2日間しか準備時間がないの!? さすがは大富豪、無茶ぶりが過ぎますな……
・開始3分30秒の時点で、ライオネル博士がそうとう自信をもって開発しているらしい謎の機械「リバーサー」の存在と、そのベラスコ邸への投入が水曜日になることが語られる。どんな超絶すっごい秘密兵器なんだろう!? わくわく、わくわく。
・大富豪ドイッチが今回依頼したのはライオネル博士とフローレンスとフィッシャーの3名なのだが、そこに本人のたっての希望により、ライオネルの妻アンも加わる。ライオネルとアンの会話から、アンがこれまでも何度かライオネルの研究調査に同行しているらしいことが分かるのだが、ライオネル自身は今回の検証へのアンの参加に難色を示す。そして、そのライオネルの予感は正しかったのです……

〇1日目・12月20日月曜日
午前9時13分
・金曜日のライオネルとアンの会話の中でフィッシャーの名前が出た次の画面で日時がとび、いかにも不安そうな表情で待ち合わせ場所の駅に降り立つフィッシャーの横顔が映しだされるカット割りが、やっぱりかっちょいい。
午前11時47分
・基本的に曇り空のシーンしか出てこない本作なのだが、ご一行が到着したべラスコ邸の周辺は、車のヘッドライトを点けても1メートル先さえ見えないようなものすごい濃霧に包まれている。真昼間でしょ!? 徹底してるな~、さすがはイギリス!
・開始6分に、一行が開けたゲートごしにそびえ立つベラスコ邸の真っ黒い外観とともにぬっと出る「 The Legend of Hell House」というタイトルと、「どんどこどん、どんどこどん……」という不気味な太鼓パーカッションのテーマ曲。ここまでの流れ、百点満点♡
・ベラスコ邸内の私設礼拝堂にかたくなに入ろうとしないフローレンスを見て、ライオネル博士は「あの子は心霊波に感応するんだよ。この中(礼拝堂)は心霊波が強い。」と語る。つまりライオネルは、フローレンスが感応するほど礼拝堂に強く残っている心霊波の存在を認めているのである。この、オカルト全般を否定しているわけではないライオネルのスタンスが、とっても重要。
午後6時42分
・邸内の大食堂での夕食シーンで、ライオネル博士は「亡霊などいない。」と断定口調で語っている。心霊波の存在を認めていながら亡霊は否定するという姿勢は、現代日本人の感覚からすると矛盾しているように感じられるのだが、要するにライオネルは「亡霊以外の原因により発生している、科学的にまだ立証できていない未知の波動があり、それを感知したり念力として利用したりできるのがフローレンスやフィッシャーのような霊媒師」だと予測しているのだろう。
・フィッシャーの調査によると、エメリック=ベラスコは1879年生まれで、1949年にベラスコ邸で失踪しているらしいので、およそ70歳前後で死亡したことになる(フィッシャーらの最初の調査はその数年後)。
午後8時46分
・フローレンスの1回目の交信術が行われる。その最中に「ダニエル」という若い男性の亡霊がフローレンスに降りて、一行を「屋敷から出ていけ」とののしり、テーブルを上にある灰皿や燭台が倒れるほど振動させるが、ライオネル博士はダニエルの存在を認めず、フローレンスの「念力」を使った自作自演であると推測する。しかし、いたこ的な口寄せを本領とする「精神霊媒」であるはずのフローレンスの交信術で振動現象が起こったことに、フローレンス自身もライオネルも疑念を抱く。
午後10時32分
・自分に割り当てられた部屋で就寝しようとしたフローレンスのもとにダニエルと思われる亡霊の気配が現れ、ドアの開閉、ベッドの布団を飛ばす、調度を投げ倒すといった現象を起こして去る。

〇2日目・12月21日火曜日
午前7時33分
・朝食の席で、フローレンスが昨夜の自室へのダニエルの亡霊の来訪を語り、ベラスコ邸には複数の亡霊がいるが、ダニエルの亡霊を浄化したら大部分の霊現象は収まるだろうと語る。しかしライオネルは「あ、そう。」的な塩対応で受け流す。
午後2時43分
・フローレンスの2回目の交信術が行われ、フローレンスの指先から白い煙状の「心霊体」が発生するが……フローレンスさん、なんで下半身はふともも丸出し!? ま、映画ですからね……
・心霊体を発生させたフローレンスに、ライオネル博士が「瓶にサンプルを残してくれたまえ!」と繰り返し命令するが……すっごい上から口調! こっくりさんだったらブチ切れて帰らなくなっちゃうぞ!
・2回目の交信術の後、ライオネルは自室で心霊体のサンプルを観察しながらアンに、「交信術で発生した電磁物体(心霊体)はあくまでフローレンスの精神が物体化したものであり、ベラスコ邸に亡霊が存在するかどうかとはいっさい関係が無い。」と語る。やはり亡霊は否定するスタンス。
・やたらと難しい理屈を語るライオネルだが、壁のいたるところに女性のヌード絵画がかかりランプ照明のほとんどが赤いベラスコ邸の内装(しかも天井全面鏡ばり!)のいやらしさとの異様なまでの水のあわなさが、妙におもしろくて飽きない。うまい対比演出!?
・なにげないことだが、このシーンでの会話で、アンが心霊体を初めて見たことがわかる。今まで夫の研究の手助けをしてはいたとはいえ、やっぱりその程度の経験の人を連れてくるのは、よくなかったんじゃ……
午後6時21分
・夕食の席で突如としてライオネル博士にキレ散らかすフローレンス。「霊媒師や心霊への敬意が全く感じられない。」というのがフローレンスの不信の原因なのだが……まだ2日目よ。衝突すんの早くない?
・フローレンスの激怒に呼応するかのように、テーブルは跳び上がるわ、食器はライオネルめがけて飛んでいくわ、シャンデリアの電球の火花は散るわ、鏡は落ちて割れるわ、暖炉から火柱が上がるわの大ポルターガイスト現象が発生! フローレンスの「やめて!」の一喝で現象は収まるが、フローレンスは念力などを使う「物質霊媒」のフィッシャーの仕業だと疑い、ライオネルはこれまたフローレンスが引き起こした自作自演だと確信する。
・負傷して自室にさがったライオネルのもとをフローレンスが訪れ、先ほどのポルターガイストはダニエルの亡霊の仕業だと意見を変えるが、ライオネルはフローレンスへの疑念をさらに強める。
※次の「12月21日火曜日 午後10時18分」のテロップにいく前に、なぜか珍しく晴天のベラスコ邸の外観と、外をのんきに歩く黒猫のカットが挿入される。なんで!? なんで夕方と夜との間に晴れたおそとのカットが入るの!? でも、いちいちシーンごとに日時のテロップを表示するほどこだわりの強い本作なのだから、単純な編集ミスなわけがない。これ、観る者の時間感覚をわざと狂わせるか、ベラスコ邸の中と外とで時間の流れが歪んでいることを伝えたい暗示なのかもしれない。う~ん、一筋縄ではいかない、ヘンな映画!
午後10時18分
・アンのお色気催淫シーン、フローレンスによるダニエルの遺体発見、黒猫のフローレンス襲撃といった怒涛の展開! いろいろ動き出しましたね……ただ、発見したその夜のうちにダニエルを庭に埋葬したのかどうかが、やはり屋外で撮影した埋葬シーンが曇天の日中のように見えるので判然としない。真夜中に速攻であんなミイラ遺体、埋められます? まず警察に通報するのが先かと思うのですが……

〇3日目・12月22日水曜日
午前9時14分
・ついにライオネル博士肝いりの秘密兵器「リバーサー」がベラスコ邸に到着! でも、その外観は高さ2m 、幅1.5m ほどの電子計算機みたいに地味な筐体が1台だけ。日本の円谷プロの科特隊かウルトラ警備隊の基地セットだったら、5台くらい並べてモブ大道具扱いにされそうな個性もへったくれもない外見に、ちょっぴり不安になってしまう。ま、人間も機械も見た目がすべてじゃないから! その働きに期待しましょ。
・ダニエルや黒猫とのバトルで負った傷を治療しながら、フローレンスは自室でフィッシャーと会話する。フィッシャーは、昨夜丁重に埋葬したはずのダニエルがなぜまだ暴れ続けるのか疑問に思うが、フローレンスは、ダニエル以下多くの亡霊たちを支配し使役する「ずば抜けて強い亡霊」がいるとし、それがエメリック=ベラスコその人であると推測する。
・本作でストーカーのようにわらわら襲いかかる亡霊を相手に、ほぼ孤軍奮闘に近い立場でひどい目に遭い続けるフローレンス。その直感はかなり正解に近いのだが、言い方がヒステリックだったり、すぐに撤回したとはいえフィッシャーをポルターガイストの犯人かと疑ったり、自分に襲いかかった黒猫を20年前に死んだダニエルの飼い猫だと言い出したり(あんな元気なネコちゃんが人間でいう100歳以上とは……)と、あえて主人公にはなりにくい情緒不安定っぷりを発揮しているのが、絶妙なキャラクターバランスですばらしい。このフローレンスがもうちょっと陽気な性格で、ライオネル博士も独身貴族だったら、いい元祖『トリック』カップルになっていたろうに……
・この時点で映画の進行時間は47分。95分ある本編のまさにど真ん中でラスボスの存在がほの見えてくるという構成が、ほんとに日本のバスや電車の発着ダイヤを見るように几帳面で美しい。つくづく、まっじめだなぁ~!!
午後10時31分
・またもやアンのお色気誘惑シーンが発動するのだが(2回目)、今回は亡霊の仕業というよりはアンの酒癖のせいらしい。迷惑……でも、こういった人間臭いトラブルが無いと、ライオネル博士は研究一辺倒の面白くもなんともない堅物になってしまうので、そういう意味ではアンは大事なメンバーなのよね。それにしても、アンを演じるゲイル=ハニカットさんは当時若干30歳ですか。う~ん……超熟!!
・ベラスコの影がちらつき始める転換も大きいが、ここでのライオネルとフィッシャーの対立を機に、物語の中心軸がフィッシャーに移ってゆく転換も見逃せない。今まで、かつての凄惨な失敗体験から何に対しても消極的だったフィッシャーが、「お前なんにもしてねぇな。」というライオネルの指摘によって、確実に変わろうとし始める重要なシーン。それにしても、その「変身」のきっかけを、音響も特殊メイクも光学合成も使わずに、フィッシャーを演じるロディ=マクドウォールのエガちゃんみたいな強烈ボディランゲージのみで表現する演出は、唐突すぎ!!

〇4日目・12月23日木曜日
午前10時31分(前シーンのちょうど12時間後って、なんか意味あるんすかね……)
・フィッシャーの自室での、フィッシャーとフローレンスの会話。昨夜の異常なプレッシャーもあってすっかり意気消沈したフィッシャーは、引き続き除霊したるで!と鼻息の荒いフローレンスに珍しく怒り出し、亡霊なんか相手にせずに1週間寝泊まりして10万ポンドもらえばいいじゃないかと語る。つまり大富豪ドイッチは、2人の霊媒師には「1週間ベラスコ邸にいて生き残ったら10万ポンドやる。」と言っていたわけで、ライオネル博士とは全く異なる条件を提示していたということになる。なんかライオネルだけハードル高くありませんか……?
・ここの会話で、20年前のフィッシャーの加わった調査チーム5名中4名が無惨な死を遂げた、その具体的状況が語られる。これが、のちのちフィッシャーが気付くベラスコの正体のヒントとなるのだが……ちょっとわかりにくいかも。
・ほぼとばっちりに近い、シャワールームでの黒猫の死。でもここ、フローレンスじゃなくてフィッシャーの部屋ですよね。じゃあフィッシャーが黒猫を殺したのか? フィッシャーもフィッシャーで、一筋縄じゃいかないね!
・ベラスコ邸の大広間で、虎の子兵器リバーサーの起動チェックを行うライオネル。彼によると、リバーサーは「測定しうるエネルギーを全て反転させる」機械であり、これを明日起動させることによって、ベラスコ邸内の心霊波は自分のエネルギーをくらって自滅するというのだが、それを聞いたフィッシャーは無駄なあがきだと非難し、亡霊に何も抵抗しないで過ごすべきだと語る。
その夜(珍しく時間がテロップ表示されない)
・ダニエルの亡霊のキモすぎる「愛してくれ~」攻撃に業を煮やしたフローレンスが、身体を張りすぎる「観音力戦法」でダニエルを浄化せんとベッドに招き入れるが、すんでのところで目を開いてダニエルの姿を見てしまい、あえなくエヘヘウフフと精神崩壊してしまう。『帝都物語』だったらうまくいったのに……

〇5日目・12月24日金曜日(世間はクリスマスイヴだというのに、この屋敷ときたら……)
午前7時19分
・昨夜の騒ぎからこんこんと眠るフローレンスを一晩中看病するフィッシャー。フローレンスは目を覚ますが、ダニエルが憑依してフィッシャーを「馬鹿者」とののしったり、そうかと思えば正気に戻って泣き出したりと、不安定な状態が続く。
午前7時48分
・精神的に参ったフローレンスはチームからリタイアすることとなるが、ベラスコ邸を出る準備のできたフローレンスにライオネル博士は、改めてベラスコ一族の亡霊の存在を完全否定したうえで、ベラスコ邸内に何らかの理由で発生している強力な電磁波( EMR)の渦こそが一連のポルターガイスト現象の原因であり、これをリバーサーによって消滅させると宣言する。逆上したフローレンスは暖炉の火かき棒でリバーサーを破壊しようとするが、ライオネルに殴られ気絶する。ここでの「ベラスコ邸内が電子レンジのようになっているから物が壊れたり中に入った人間の体調が崩れたりする」というライオネルの理屈は非常に分かりやすくていいのだが、じゃあフローレンスの自作自演説はどうなるんだという気にはなる。おとがめなし?
午前8時23分
・気絶から目を覚ましたフローレンスは、リバーサーの最終チェックに気を取られるライオネルの目を盗んでベラスコ邸の礼拝堂に潜入し、ついにベラスコの怨霊と対峙する。しかし、ベラスコの返り討ちに遭い倒壊したキリスト磔刑像の下敷きになったフローレンスは、死の間際に自分の流れる血を使ってダイイングメッセージを残す。う~ん、王道の展開。
・フローレンスの遺体を発見したライオネル達だったが、ダイイングメッセージの真意をつかみかねるままリバーサーを予定通り起動させてベラスコ邸から一時退避し、心霊波の消滅をはかる。さぁ、どうなる!?
・リバーサーの起動後に、おそるおそる邸内に戻る3人。フィッシャーが物質霊媒の能力を使って心霊波の存在を探るが、確かに邸内から異常な波動は消え去っていた。ライオネルの理論は正しかったのか?
午後0時45分
・すっかり安心して大富豪ドイッチへの報告書類の整理をしていたライオネルの眼前で、突如としてリバーサーの感知計が異様な反応を示しだす。驚愕するライオネルの前で研究用の機械類が爆発し、ライオネルは……
午後1時03分
・部屋での帰り支度を済ませて夫を探しに来たアンは、礼拝堂で変わり果てた姿をさらすライオネルを発見し絶叫する。
午後2時21分
・嘆き悲しむアンを介抱するフィッシャー。アンはフィッシャーに今すぐベラスコ邸から逃げましょうよと懇願するが、決然とした表情のフィッシャーはこう語る。

「私は礼拝堂に行かなければ。フローレンスのためにも、ご主人のためにも。今このヘルハウスを立ち去れば、私は人間として失格するんです。」

午後3時13分
・意を決して礼拝堂に足を踏み入れるフィッシャーとアン。そこで改めてフローレンスのダイイングメッセージを見直したフィッシャーは、その真意を読み取り、ついにベラスコの怨霊との最終対決に挑む。フィッシャーとベラスコ、果たして勝つのは!?
午後4時59分
・あれ? あんた死んだんじゃなかったの!? 最後まで一筋縄じゃいかない、ヘンな映画~!!


 ……とまぁ、こんな感じの「地獄の1週間(実質5日間)」なんでございましたけれどもね。
 まぁ~、ひたすらまじめ。そしてまじめなのに、隠し切れないヘンさがにじみ出てくる映画なんですよ。
 字数がかさんでしまったので、わたくしなりのつたない考察は、またあらためてちょっとだけやりたいと思います。中途半端でごめんなすって!!

 いや~、やっぱこの映画、大好きです。

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2 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobil)
2023-05-13 16:41:01
実は昔観たんですよね、ロードショーで。
イチバン怖かったのがシャンデリア(だったか❓)が落ちて、長いテーブルの上を高速で滑ってきて、椅子の背凭れに鋭いトゲトゲでガッ❕と突き刺さるシーン。本気で『怖えぇ‼️』と思いました(避けないとゼッタイ死んでた)。
あと物々しく起動したリバーサーが実は全く効いていなかったのが印象に残ってます。
欲情を解放してしまうゲイル・ハニカットが色っぽかったです。
この頃観たホラー映画の中ではヘルハウスがイチバン面白かったです。
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よく覚えておいでで! (そうだい)
2023-05-14 20:28:53
 mobilis-in-mobil さま、いつもコメントありがとうございます!

 やはり、あなたさまもチェック済でしたか、『ヘルハウス』! やっぱり現代に生き残る名作ですよね。
 今回記事にするにあたって、私も DVDを買って観直したのですが、数少ない、けれども非常に効果的な邸宅大食堂内でのポルターガイストシーンは、まさにあなたさまの申す通りの展開でした。それまでのややのったりとしたテンポから、ガラッと変貌してめまぐるしく切り替わるカット割りが見事なんですね。また、安易に服を脱いだりせずに、表情と言葉づかいで色欲に身を焦がすゲイルさんの妖艶な演技も、非常に高度ですさまじかったですね!

 ロードショーというのは、劇場ですか? それとも TVの洋画劇場ですか? 記事の当時に私がレンタルした VHSは当然ながら原語版だけでしたが、今回購入した DVDでは、小林昭二さんがバレット博士を、富山敬さんがフィッシャーの声をあてた吹き替え版もしっかり収録されていました。こっちも本当に最高な演技合戦でしたね!
 私はVHS で育ちましたが、やっぱ DVDのほうが、いいかな!?
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