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バトル・オブ・ザ・セクシーズ 【感想】

2018-07-13 08:00:00 | 映画


男女格差を打ち破り、恋愛の多様性を問う。1973年に起きた史実を切り取った物語だが、メッセージは実にタイムリーであり、まさに「今」のための映画。2つのテーマを平行して描くものの、互いを邪魔しない脚本が見事だ。社会と戦う女王「キング」と、男性至上主義のブタ「ボビー」の性別間の戦い。それがもたらした社会的意義と、女子テニス界におけるターニングポイントを知る。ありそうでなかったテニスのプレーシーンに引き込まれる。もっとコメディ要素が強い映画と予想していたが、終わってみれば感涙のスポーツドラマ。オスカー女優になったのち、本作を選んだエマ・ストーンはいよいよ演技派の道を突き進む。

1973年に催された、女子テニス界の現役女王と、現役を退いた男子テニス界の元王者による「男女対抗」エキシビジョンマッチを描く。

中学生時、テニス部だったこともあり、昔からテニスの四大大会を頻繁に見ていた。男子テニスの力強くスピーディな試合はもちろんのこと、女子テニスの長いラリーと巧みなテクニックが交錯する試合、どちらも同じくらい好きだった。当時、一番好きだったのはヒンギスで、彼女のプレーに何度も魅せられたのを覚えている。あれから、時が過ぎ、女子テニスも男子テニスばりのパワースタイルになってから、すっかり疎遠になってしまったけど。

そんな女子テニス界で、優勝賞金が男子テニスの8分の1だった時代があったというから驚きだ。この状況に憤慨したのが、本作の主人公であり、当時の女子テニス界でトップに君臨していたビリー・ジーン・キングだ。賞金の額を決めるのは、当時のテニス協会の会長で、もちろん男。その理由を問うキングに対して、会長は「男性のほうが、観客を沸かせる。これは肉体的な資質だから仕方なし。」と答える。では、女子の試合は観客が少ないか?と言えば、そうではない。女子テニスも観客を沸かせるから、男子テニスと同等に人気がある。早々に会長の女性に対する根拠なき偏見が晒される。

キングは女子テニスの格差是正を求め、女子だけのテニスツアーを発足させる。スポンサー集めに苦心するが、手を差し伸べたのが大手タバコ会社というから時代を感じる。プレー以外で社会から脚光を浴びるキング。その一方で、もう1人の主人公ボビー・リッグスは、華々しいテニスキャリアを退いて久しく55歳、妻の家族が経営する会社で空虚な職場生活を送る。彼はギャンブル依存症であり、賭けと見返りに病的なまでに弱く、現在は妻に固く禁じられている。アメリカ映画でよく見る、集団セラビーの場でも「ギャンブルは悪くない、負けるのが悪い」と名言(迷言)を吐く。そんな満ち足りない日々に舞い込んできたのが、テニス界におけるキングの「反乱」だ。

ボビーの嗅覚が反応する。女性の権利を訴えるキングに対して、それに対抗する男子キャラが登場し、テニスのコートで男女の力を試したら面白いんじゃね?と。彼は自身を「男性至上主義のブタ」と呼ぶことにする。狙いは、興行の成功(カネ)と、失われた自身への脚光だ。ポイントは、彼自身は本当の女性差別主義者ではないということ。妻の会社で働き、妻の稼ぎによって、家族が守られている。女性の力を身近で実感しているはずだ。キングもその状況を理解していて、ボビーは「ピエロ」、「本物」の悪党は別にいることを見抜いている。この三角関係の構図が、コメディで終わらないドラマの土台になっている。

2人の試合が「ショー」であることは、互いにわかっている。ただ、試合に臨む2人の姿勢は対照的だ。前段で現役の女子選手に勝利し油断するボビーに対して、キングは本気で勝ちに行く準備をする。自身が勝利する意味の大きさを知っているからだ。そして、試合は白熱する。テニスの試合を見慣れているからか、テニスの醍醐味がしっかり抑えられていると感じる。今まであまり見たことのない映画でのテニスシーンが新鮮でもあり、手に汗握る迫力で圧倒された。キング演じたエマ・ストーンのしなやかな体型と、ボビー演じるスティーブ・カレルの現役を退き、肥えたシルエットも秀逸だ。

エマ・ストーンが最高にいい。「好きな人を自由に選べる時代」の到来を予見させる映画でもあり、キング自身、同性愛者として秘めた恋愛志向を露にするキャラクターでもある。献身的に彼女をサポートする夫がいる一方、おさえることのできない女性への恋愛感情にこちらもドキドキしてしまう。美容師の愛人と始めて結ばれるシーンがとてもロマンチックだ。恋愛に関してどこか疎く、スポーツだけに打ち込んできたようなアスリートを絶妙な加減で体現しており、エマ・ストーンを通して見るキングの姿に説得力がある。あと、印象的だったのは、ボビーの妻を演じたエリザベス・シューだ。「リービング・ラスベガス」を見てから彼女のファンになっているが、久々に映画で見た気がする。すっかり齢を経ているが(もう50代とのこと!)、増えた皺さえ色気に感じる。本作における、もう1人の強い女性像として隠れた役割を果たした。

男女格差の問題と、恋愛志向の問題が両輪で描かれるが、あくまで前者に比重が置かれていて、映画の流れを邪魔しない。スポーツ映画としても楽しめる内容になっている。ボビーとの試合後、歓喜する前に、キングが見せたロッカーシーンに熱いものがこみ上げてしまった。そこには、スポーツに命をかけるアスリートの姿があった。日本公開はかなり遅れてきたが、劇場公開に踏み切った配給会社の英断に拍手を贈りたい。

【75点】
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2 コメント

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Unknown (onscreen)
2018-07-14 08:11:26
<歓喜する前に、キングが見せたロッカーシーン

いいシーンでしたね!
また観たくなりました(笑)

もっと高く評価されていい作品ですよね!
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Unknown (らいち)
2018-07-20 01:10:44
おっしゃるとおり、もっと評価されて、話題になってもいい映画だと思います。
この映画を支持してくれる方がいて嬉しいです!
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