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ウシジマくん ファイナル 【感想】

2016-11-02 09:00:00 | 映画


Part3とのギャップ(笑)。
渾身の一打で鮮やかなV字回復が決まった。シリーズの中で一番面白い。映画オリジナルの肉付けが効果的。ファイナルに相応しい原作エピソードのチョイスに納得。「しょせんは¥カネ」と吐き捨てるのは、原作のメッセージでないことをよくわかっている。これまでと同じ「闇金」を巡る人間模様に加え、主人公「丑嶋」の知られざる過去に迫り、その無二の個性を深掘りする。原作を知っているためキャスティングには一部違和感があったが、それでも役者陣の熱演は大いに見応えあり。丑嶋の少年期を演じた狩野見恭兵と、善意の目覚めを体現した太賀が絶品だ。

原作のなかでも伝説的なシーンが収められたエピソード「ヤミ金くん」をベースにしたストーリー。「ヤミ金くん」は主人公の丑嶋を指しており、丑嶋が自身の過去と対峙する様子が描かれる。このエピソードによって、丑嶋が「闇金」という非合法な仕事をしている間接的な理由と、仕事仲間である柄崎、戌亥らと固い絆で結ばれている理由が明らかになる。

このエピソードのきっかけとなるのは、丑嶋の中学時代の同級生「竹本」との再会である。利己的で欲望にまみれたキャラクターばかり登場する中で、竹本は「強欲は罪」と嫌う異質なキャラクターだ。純粋な博愛主義者でもあり、自己よりも他者を思いやる聖人のような生き方をしている。その個性は昔から変わらぬままだ。丑嶋が中学時代に集団リンチを受けていた頃、唯一、丑嶋に手を差し伸べた存在であり、その頃より丑嶋は竹本に恩義を感じている。久々に再会した竹本に対して、友人として気を使う丑嶋の反応が新鮮だ。
映像化にあたって最初の肝となるのが、この竹本のキャスティングだ。多くのエピソードで登場するキャラクターの中でも、丑嶋に与える影響という点では一番大きな存在といってもよい。そして竹本を演じたのは永山絢斗だった。その登場シーンから原作イメージとの違いに驚く。永山絢斗はガタいがよくて、掘りの深い顔立ちから強気なイメージが先立つ。永山絢斗の演技力によって次第に原作の「竹本」に近づいていくのが感じられるが、原作ファンとしては原作に近いキャスティングを実現してほしかった。原作を知らなければ気にならないレベルだと思うけど。

キャスティングでは、本作のヴィランもイマイチ。中学時代での集団リンチをきっかけに丑嶋が起こした傷害事件により、現在まで因縁を持つことになる鰐戸三兄弟だ。三兄弟の長男を演じた安藤政信が男前すぎて悪者に見えない(笑)。丑嶋への復讐心を感じさせるのが三男の三蔵のみという勿体なさ。これは原作イメージとのギャップではなく、悪役としての適性のレベルの問題だ(「スマグラー」の「背骨」くらいまで振り切れば別)。丑嶋演じる山田孝之と安藤政信の共演は特別な意味を持つが、安藤政信のどこか優しさを感じさせる造形が本作の脅威にならない。安藤政信と永山絢斗の役柄を逆にしたほうがしっくり来たかも。

という具合で、肝心なキャラクターのキャスティングにモノ申したいことはあったが、原作を映像化するという命題においては、脚色を含めてよくできていると思う。Part3で感じた描写や演出面の甘さは本作では感じられず、「これぞウシジマくん!」といった仕上がりでようやく満足した。特に本作はもともとバイオレンス描写が際立つエピソードであり、痛みや残酷さから目を背けず真っ向から描いている点は評価に値する。原作にはないオリジナルキャラ「犀原茜」を丑嶋の過去に存在させた脚色も自然と馴染んでいるだけでなく、彼女の狂気が形成された背景は興味深かった。Part3とはエラい違いであり、冒頭から画の迫力が違う。Part3で余計なエネルギーを使ったのであれば、本作1本に絞ってもよかったと思う。

丑嶋の背景として、彼の中学時代が回想シーンとして描かれるが、現在シーンと同じくらいに注力して作られている。丑嶋への痛ましいリンチと、丑嶋の残酷な復讐の数々、そして、そのなかで芽生えた友情。命を賭けなければならないほどの暴力的な世界のなかで、彼が少年院送りになるまでの壮絶な過去が任侠映画ばりに描かれる。原作通りのあらすじであったが、本作の映像化によって丑嶋の個性がより魅力的に光った。中学生時代の丑嶋を演じた狩野見恭兵の功績が大きい。丑嶋独特の冷淡な言葉使いをコピーするだけでなく、揺るぐことのない信念の強さを感じさせる迫力は、まさに「ウシジマくん」そのものだ。このエピソードにおいて絶対に外してはならない、丑嶋と竹本の友情ドラマは胸に迫るものがある。これらの過去シーンの成功が本作をよりドラマチックにさせた。

「人間は欲望を追うだけの生き物か?」という問いに、「それでも人間の善意は残る」と、希望を見出した重要なエピソードでもある。自己犠牲によってどこまでも貧困労働者たちを救おうとする竹本に対して、同じ労働者仲間である甲本が新たな生き方に目覚める姿が感動的だ。ここでも演者のパフォーマンスが効いていて、甲本を演じた太賀の熱演が大きな引力になっている。「桐島~」以降、TV、映画の垣根を超えて彼の活躍は目覚ましいが、本作でも実に良い仕事をしてくれた。「恥部」と密着する人間臭を甲本というキャラクターを通して臭わせた。こういうキャラクターが「ウシジマくん」の魅力なのだ。

演出、編集面で、もっと映画的にできるのでは?と首をかしげるシーンも少なくないが、ファイナルとして作り手の熱い想いが伝わる1本だった。

原作の中で一番印象的なカットである、本作のラストシーンにもシビレた。様々な感情が入り混じるなか、ハードボイルドで通した演出に拍手。そして、演じる山田孝之の深い余韻を残す演技にも魅了された。

【65点】

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