から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

沈黙 -サイレンス- 【感想】

2017-01-28 09:00:00 | 映画


「沈黙」とは神様の沈黙だ。いくら神様に祈っても神様は何もしてくれない。「信仰ってそういうもの」と片づけていたが、よくよく考えれば、とても不思議な風習と感じる。信仰というモノの正体に迫った原作の映画化だ。遠藤周作による日本を舞台にした時代ドラマを、あのスコセッシが映画化するということで公開を楽しみにしていたが、やっぱり凄い映画だった。

江戸時代初期、キリスト教を日本で棄教した神父を探すため、日本に訪れた若き宣教師の試練を描く。

原作の「沈黙」は自分が高校生だった頃、学校の課題図書で読んだことがあった。おおよそのあらすじを覚えている程度で映画を見たが、原作を読んだときの衝撃が蘇ってきた。

当時の日本ではキリシタンへの弾圧が激しかった。当然ながら、彼らの信仰の発生源であるキリスト教の宣教師たちも異国人でありながら非人道的な扱いを受ける。冒頭から描かれる宣教師たちへの拷問シーンが痛ましい。裸で磔にされたのち、沸騰する温泉をゆっくり肉体に注いでいく。白い皮膚が火傷によって赤くただれていく。目的は「罰」ではなく「キリスト教の根絶」にある。拷問を受けた当人たちよりも、それを目撃する民衆への見せしめだ。民衆の手から信仰を奪うためには、まずは彼らの師である宣教師から信仰を奪うことが有効とされ、最も長く苦痛を味あわせる方法がとられている。

興味深かったのはキリスト教の弾圧を強行する長崎奉行の思惑だ。無知であるがゆえではなく、彼らなりの論理がある。日本という「沼地」ではキリスト教は根付くことはなく、仏教という既存の宗教とも共存し得ないと判断。そして、神話を崇め、実態のない神にすがる「妄想」宗教は大きな脅威になり得ると。。。その行いは決して許されるものではないが、かつてキリスト教が日本で排斥された事実に強い必然性を感じた。

日本に訪れた若き宣教師が出会うのは、貧しい農村地帯でキリスト教を深く信仰する人々だ。日本人が昔から持つ、実直さといった気質は、見返りを求めないキリスト教とかなり相性が良かったように思う。食うこともままならぬ貧しい環境のなかで、奉行からの厳しい年貢の取り立てに搾取される日々。救いを求めた先がキリスト教であり、死ねば「天国(パライソ)」に行けるという死生観は貧しい農民たちにとって心の拠り所になったと想像する。

宣教師たちはキリスト教を捨てない。日本のキリシタンたちもキリスト教を捨てない。奉行がとった弾圧の第2形態は「見殺し」。宣教師たちに、己の宗教のために人々が殺される様を見せつける。キリスト教を捨てれば、人々は救われると言う。主人公の宣教師は目の前の命を救うべきか、信仰を捨てるかの葛藤に見舞われる。祈るだけでは救われない命。。。なぜ神は黙っているのか。。。大いなる無力感と共に、タブーを超えて神への疑念が誠実に描かれていく。

原作と同じで本作にも答え(正解)は出てこない。信仰の存在を肯定するならば、主人公が下した決断は正かったと言い切れない。描かれるのは、生身の人間が信仰と権力によって翻弄された歴史だ。されど、これらの構図は姿や形を変えて今の現代にも息づく普遍性を帯びていると感じさせる。スコセッシが映画化を切望したのも納得のテーマといえる。スコセッシがどのようなブレーンと手を組んだのかはわからないが、外国人監督にありがちな日本の勘違い描写は全くなく、それでいて「西洋から見た日本」という異質感が巧く表現されている。

巨匠スコセッシの元に集まった演者たちは、最上級のパフォーマンスでそのキャスティングに応える。主人公演じたアンドリュー・ガーフィールドや、激ヤセで臨んだアダム・ドライバーなど、アメリカの本国俳優の熱演も素晴らしいのだが、日本人俳優たちのパフォーマンスも全く引けをとらない。なかでも「モキチ」を演じた塚本晋也と、長崎奉行を演じたイッセー尾形が印象深い。塚本晋也は「野火」に通じる、痛ましいほどのリアルを、苛酷な肉体描写で体現する。壮絶な水攻めシーンが脳裏に焼きつく。胸が張り裂ける思いだった。監督としても役者としても一流な稀有な映画人だ。そして、独特の嫌らしいテンポで狡猾で知的に宣教師たちを追い詰めるイッセー尾形の名演が、本作のテーマの心臓部をつく。

窪塚洋介演じる「キチジロー」は人間の弱さそのものであり、裏切り者「ユダ」といえる。「こんな俺でも神様は救ってくれますか?」の言葉がグサリと刺さる。信仰の正体を捉えることはやはり難しいようだ。現代のカトリック教会の人たちが本作を見てどう解釈するのだろう。そして、信仰に対してどんな答えを出してくれるのだろうか。

スコセッシの情熱が結実した力作。2時間40分という長さも冗長に感じられなかった。
但し、見る側の心身を削る映画でもあるため、リピート鑑賞に踏み切るには少し抵抗がある。

【65点】

最新の画像もっと見る

コメントを投稿