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アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件 【感想】

2017-08-18 08:00:00 | 海外ドラマ


社会派ドラマもしっかり面白いのがアメリカのTVドラマの実力。久々に見応えのあるドラマ。
スターチャンネルでの放送を見逃していたが、最近Netflixで配信されているのを発見。
全10話を観終ったので感想を残す。

1994年にアメリカで起きた「O・J・シンプソン事件」を描いた実話系ドラマだ。

本ドラマを知ったのは昨年のエミー賞で主要部門をほぼ総ナメにしていたのがきっかけだ。「O・J・シンプソン」ってどっかで聞いたことがあるくらいの知識量だったが、その言葉を調べたら、アメリカでは有名な元フットボール選手の名前とのこと。その有名な元スポーツ選手が容疑者として逮捕された殺人事件を取り上げている。

有名人が起こした(と思われる)殺人事件って、ドラマ化するほどの材料か!?、また、賞レースで絶賛されるほどの話か!?と半信半疑であったが、見て納得した。ドラマ化は勿論のこと、映画化する価値もありそうなテーマだ。殺人事件の真相はテーマの表層に過ぎなかった。

O・J・シンプソンの前妻とそのボーイフレンドが凄惨な刺殺によって殺された事件である。アリバイや現場証拠から「O・J・シンプソンで間違いなし」と容疑をかけられ、速やかに逮捕。彼を起訴した検察側と、彼の弁護団の1年に渡る法廷バトルを描く。

当時、アメリカでは「犯罪史上最も有名な犯罪者」として報道されていたようだ。フットボールの現役選手時代、多くの伝説を残した名選手だったらしく、その気さくな人柄から、全米中にたくさんのファンを持っていた。引退後もテレビCMやドラマ、映画などのメディアで活躍し、知らぬ者がいないほどの有名人だったらしい。彼の愛称は「ジュース」(OJ⇒オレンジジュース⇒ジュースw)。

彼はアフリカ系の黒人である。興味深いのは、多くの財産を築いたことでセレブの仲間入りを果たし、生活の拠点を貧しい黒人社会から富める白人社会に移したことである。劇中「白人になった黒人」と陰で揶揄されているように、昼間は白人仲間と遊び、夜は白人女子を抱く日々を送っていた。この事件で殺された前妻も白人である。彼を羨望する黒人の人もいれば、蔑んでみる黒人、あるいは白人の人もいたと想像できる。



逮捕時のシンプソンの逃走劇もあり、彼の裁判は大きな注目を浴びることになる。テレビでも全国ネットで裁判中継されるのは必至。世間が大注目するこの裁判に誰が参加するか、、、検察、法曹界が色めき立つ。「有名」になることへの欲求が強いアメリカ人らしい反応だ。資金力が豊富なシンプソン陣営は「ドリームチーム」と言われる最強の弁護団を組む。彼の私生活同様、当初、白人の弁護士で固められたが、敏腕の黒人弁護士が後から加わる。その人はジョニー・コクランといい、本ドラマの主人公といえる。



一方の検察側は、シングルマザーでキャリアウーマンの女性検察官マーシャと、彼女と以前から親交のある黒人の男性検察官のクリストファーのタッグ。質、量ともに弁護団のほうが圧倒的に優勢なのは明らかであるが、証拠は検察側に有利な状況。果たして、どちらが勝つのか。。。その結末を知らないまま観たので、自分は2~3倍楽しめたと思う。



「裁判とは真実を明らかにする場」と勝手にクリーンなイメージを持っていたが、そうではなくて、真偽に関係なく、容疑者の無罪を含めた量刑を決める場所なのだと気付かされる。そして、アメリカの場合、その判断は陪審員によって委ねられるが、結局のところ、検察側と弁護側の戦いの勝敗によって決まるのだ。何よりも重要な「真実」が後回しにされていることに強い違和感を感じながらも、その仕組みが現代社会のなかで機能している事実を思い知る。実際に、シンプソンが犯人かどうかは最後までわからない。

ドラマでは、容疑者、その家族、弁護団、検察、陪審員、遺族など、事件に関わる、あらゆるキャラクターの視点から、それぞれのドラマを追っていく。検察と弁護側の双方の合意によって陪審員たちが選定されるプロセスには驚かされた。法廷バトルを軸とした群像劇として非常に骨太なドラマに仕上がっているが、裁判が進むにつれてまったく別のテーマが浮上する。アメリカの闇である「人種差別問題」である。このテーマがこのドラマの最大の真意といえる。

「白人を殺した黒人」という事件の構図だ。人種間のバイアスを避けるため、裁判官にはアジア系の人が任命され、白人に有利な状況ゆえ、黒人の陪審員が集まりやすい場所が裁判の地に選ばれた。検察側、弁護側、両者ともに、白人と黒人の混合チームにしている。人種間の問題をクリアにしてフェアに裁判を進めたかったものの、裁判の後半で、シンプソンの逮捕に関わった警察官の衝撃的な事実が明らかになり、裁判は思わぬ方向に進んでいく。そして、シンプソンの無罪を求める黒人社会と、シンプソンの有罪を求める白人社会という、大きなうねりへと発展する。この裁判が、白人と黒人の代理戦争の様相を呈してくる。いやはや凄い話。

昨年のエミー賞では作品賞をはじめ、検察側コンビを演じた、サラ・ポールソンとスターリング・K・ブラウンは主演女優と助演男優を受賞。そして、弁護団のジョニー・コクランを演じたコートニー・B・ヴァンスが主演男優賞を受賞した。なかでもコートニー・B・ヴァンスの熱演が印象に残った。授賞式では「誰だ、このオジサン??」って見ていたけど、こんな素晴らしい演技をしていたのだと納得した。役柄は狡猾で憎たらしい男だ。彼が演じるジョニー・コクランが、失意のシンプソンを奮い立たせるシーンが圧巻で引き込まれた。これはおそらく脚色だろうが、最後に明かされる彼がこの裁判の勝利に掛けたもう1つの動機に震えた。「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストンもそうだったが、ドラマ畑で活躍する俳優のなかにも、凄いパフォーマンスをする人がたくさんいるのだなと実感する。



このドラマを仕掛けたのはgleeで名を上げたライアン・マーフィーだ。同性愛を描いた「ノーマル・ハート」で社会派ドラマを撮る手腕も証明されているが、最近のレギュラードラマだと「アメリカンホラーストーリー」が馴染み深い。今回は「ホラー」ではなく「クライム」であり、多くの犯罪の歴史が眠るアメリカでは、今後のシリーズ化にあたり必要なネタは尽きないだろう。本作のプロデューサーとして名を連ね、劇中の弁護団の一員としても出演しているのがジョン・トラボルタ。久々に見たが、今のカツラの技術は凄い。

その後のシンプソンは別の事件で逮捕され、現在、刑務所にいるらしい。彼がこの事件の犯人だったか?。。たぶんそうだと思う。

【75点】

あともう1つ。
今やアメリカのリアリティーショーで知らぬものがいない人気者になっている「カーダシアン家」。そのお父さんであり、今は亡きロバート・カーダシアンが、本ドラマで主要なキャラとして登場する。人種の違いを超えて、シンプソンと強い友情で結ばれている親友であり弁護団の一員でもあったが、この事件をきっかけに辿った結末が苦い後味を残した。将来(現代)、脚光を浴びることになる幼い娘たちに「有名になることよりも、人として誠実であることが何よりも大切」と、家訓を問いたシーンが印象的だ。天国にいるお父さんは、娘たちの今をどんな風に眺めているのだろう。

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