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神様メール 【感想】

2016-06-04 09:00:00 | 映画


奇想天外。大胆不敵。予測不能。抱腹絶倒。何て面白いの。
カラフルでメルヘンな世界に、シュールでブラックなユーモアが散りばめられる。笑いに笑わせて、まさかの人生賛歌。ラストのブッ飛んだカタルシスに絶句し、スクリーンから押し寄せる多幸感の波に酔いしれる。

2011年の私的ベストムービー「ミスター・ノーバディ」から5年。ジャコ・ヴァン・ドルマルの久々の新作にようやくありつく。そしてまたまたノックアウト。ドルマル、相変わらずキレてるわ~(笑)。

天地創造の神様は、実はベルギーのブリュッセルにいて、よくわからない旧式の魔法のパソコン1つで、人類の運命をコントロールしていたという無茶苦茶な設定だ。しかもその神様が救いようのないクズ野郎ときた。「神の名の下に~」と繰り返されている戦争の歴史はすべて奴(神様)の仕業だったのだ。それも神様の退屈しのぎに過ぎない。「慈悲」なんてものはなく人類を玩具のように転がしては大喜びしているトンデもない悪童だ。「不快の法則」って(笑)。

彼には専業主婦の妻(女神)がいて、その間には2人の子どもがいた。長男は、かの有名なイエス・キリストだ。劇中での彼はすでに故人になっていて、人間界に降り立ったのち、人間たちによって磔になっている。そしてもう1人の子どもが10歳の女の子で「エア」という。彼女が本作の主人公であり、完全な本作のオリジナルキャラだ。家庭でも暴力を振るいまくっている父親(神様)に反抗し、父親が誰にも触らせない魔法のパソコンを操作し、父親に大ダメージに食らわす。それが邦題の「神様メール」だ。

神様に運命を委ねるというのが信仰心の1つといえるが、人間にとって最も大きな運命である「寿命」を人間たちに知らせるという行為に出る。本作の神様は魔法のパソコンを1人占めしているというだけで、自身は何の能力も持たない。エアがパソコンを操作した際にログオフをしたが、それすらも修復することができない。寿命の告知によって、ある意味、信仰の呪縛から人間たちを解放したエアはその後、人間界へ家出し、兄であるキリストに倣い「使徒」(人間)に出会う旅に出て「新約聖書」の続編である「新・新約聖書」(笑)を完成させようとする。その「新・新約聖書」が原題タイトルらしい。

寿命を知り、余命を知った人間たちの行動がコミカルに、ときにシリアスに描かれる。流行のユーチューバーっぽく死なないことを証明するために自殺行為を繰り返す男や、残されるダウン症の子どもを思い心中しようとする親子がいたり。。。早く死ぬ人、長く生きる人、いずれも死までの距離を認知した人たちはそれぞれの生き方をチョイスする。なかでも思わず唸ってしまったのが、今もなお世界各国で繰り返されている戦争がパタッと止んでしまったことだ。死が明らかになった世界では争いゴトは無意味になるということ。なかなか鋭い。

そんななか、エアが「使徒」として選んだ人間たちは虚無感や孤独を抱える人たちだ。右腕をなくした美女、ベンチから動くことをやめた男、殺しが趣味な男、性的妄想が激しい男、夫に見離された主婦、女の子になりたい男の子。これまでの人生も、残された人生にも希望を見出せない人たちにエアは小さな奇跡を与えながら幸福な人生への後押しをしていく。エアが彼らの心臓の鼓動を聞いて、それぞれのオリジナルの音楽を言い当てるシークエンスがチャーミングで素敵だ。予想だにしないヘンテコな展開と、画面の隅々までコダワリ抜いた創造性あふれる画作りにワクワクと笑いが止まらない。

エアが発する陽性のパワーと、神様の陰性のパワーのコントラストが効いていて、無駄に甘ったるい空気にならないのが良い。また、エアと行動をともにするホームレスの男は通信機器を持っていないので寿命を知らなかったり(しょーもなw)、エアを追っかけて人間界に降り立った神様が食うものに困り、食事の配給を受けるために向かった教会で散々悪態をついたり、笑い転げるユーモアの中にシニカルな視点が常について回る。ドルマルがどこまで意識して作ったかは不明だが、いろんな視点をもって隠れたテーマを深読みできるのも本作の魅力だ。前作「ミスター・ノーバディ」と同じくリピート鑑賞向きな映画といえる。

ドルマルは相変わらず子役のキャスティングが素晴らしい。主人公のエアを演じたピリ・グロワーヌが最高にキュートだ。ふっくらしたツヤツヤの肌に、口をへの字にして大の大人たちの運命に寄り添っていく。単に可愛いのではなく、勝気な性格なのが楽しい。彼女と同年代の男の子を演じた子役の子も寓話に出てきそうな顔立ちで本作にピッタリだ。ゲス神様演じたブノワ・ポールヴールドの憎たらしい怪演や、ゴリラと恋に落ちてゴリラに胸を揉まれる(笑)名女優カトリーヌ・ドヌーヴのはっちゃけぶりなど、キャストたちのパフォーマンスも見どころ満載だ。

運命を決めるのも神様であり、奇跡を起こすのも神様だ。役立たずな専業主婦だった女神が、女神たる本領を発揮する終盤が痛快で圧倒される。信仰を笑うのではなく、信仰の存在を肯定しながら、人間の生き方について考察していく。笑いと感動の波状攻撃に降参だ。

【85点】


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