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ストレイト・アウタ・コンプトン 【感想】

2015-12-31 09:00:00 | 映画


2015年映画の見納めとなる「ストレイト・アウタ・コンプトン」を観る。北米公開時での絶賛評を見て、日本公開を楽しみにしていた1本。とはいえ「ブラックムービー&ヒップホップムービー」という、とっつきにくい先入観は拭えなかったが、観てみたらとても面白い映画だった。昨年公開の「ジャージー・ボーイズ」を彷彿とさせる内容だが、キャラクター描写の濃密さ、テーマのスケールと多様性、嘘みたいな実話ストーリーの劇的さ、といった点で一線を画す。2時間半という長尺があっという間だった。

1980年代に結成され、その後、多くのヒップホップアーティストに多大な影響を与えた伝説のグループ「N.W.A」の伝記ドラマ。メンバーの結成に至るまでの経緯から、グループの中心的なメンバーだった「イージー・E」が亡くなるまでの十数年間が描かれる。映画タイトルの「ストレイト・アウタ・コンプトン」は彼らのファーストアルバムの名前だ。

ヒップホップという音楽については、ダボダボの服を着て「ヨッヨッヨッ、チェケラッ!!」と言っている人くらいのイメージしか持っておらず無知であった。なので「N.W.A」という言葉も聞いことがなかったし、そのメンバーの中に俳優としてのイメージしかないアイスキューブがいたという事実にも驚いた。本作を観て完全にナメくさっていたなと反省する。

彼らが生まれ育ち、「N.W.A」の音楽の土台となったのはロサンゼルスの下町「コンプトン」だ。80年代のコンプトンは日常的に銃声が鳴り響き、ギャングが幅を利かせ、麻薬売買が横行しているような治安の悪い町だった。当然、警察とのいざこざも絶えない。中には犯罪に手を染めず、真っ当に生きる人たちもいるのだが、黒人差別も根強かった当時にあって、警官たちは黒人の若者を見つけては取り押さえて、暴力を与え屈辱を浴びせる。そんな日々の不条理を訴える「ストリートのジャーナリズム」として起こったのが、彼らのヒップホップだ。

権力への抵抗、あるいは言葉による正義の鉄槌。
「正義」という言葉は適当ではないと思うが、あえて使いたくなる。彼らの代表的な歌詞として多用される「Fuck The Police」。権力の象徴ともいえる警察を名指しし、過剰な言葉で責め立てる。彼らの私的な鬱憤を晴らすための音楽とも捉えられなくもなかったが、重低音のビートに合わせた鮮烈な歌詞とそのメッセージ性は瞬く間に人種の壁を越えて人々に受け入れられていく。その一方で反社会の煽動として警戒したFBI(国家)が、彼らを監視する事態にも発展する。いやはや凄い話だ。

N.W.Aが、その時代に与えた影響もさることながら、無名の若者たちが音楽界のスターダムに駆け上がる青春ドラマとしても見応えがある。境遇の異なるメンバーの運命的な出会い、試行錯誤の中で音楽を作り上げていく喜び、華々しい成功と手にした富と奔放な快楽、利害関係の摩擦による確執、メンバー離脱後の明暗、月日を経て実現した和解、そして永遠の別れ。。。。光と陰のコントラストが強烈だ。小説でも描けやしないだろうという、驚きの実話が語られていく。

なおかつ、本作は80年代の熱気とダイナミズムを再現することで、ドラマをよりスケールアップさせている。今の時代もあるのかわからないけど、音楽で成功すると無条件に女子が付いてくる。ライブ終わりはグルービーとの乱交というルーティンである。エンドロールでも当時の映像として流れる「濡れ濡れパーティ」(笑)が凄い。半裸姿のおびただしい数の美女たちをはべらせ、手当たり次第に女性を漁りまくる。男子にとってベタ過ぎる天国の情景が成功の報酬として存在したのだ。中でも「イージー・E」は無類の女性好き&避妊をしないキャラとして描かれており(実際もそうだったらしい)、その代償を命で払うことになる。

こうした彼らの私的な部分だけでなく、「N.W.A」の活動とリンクするように、当時大きな話題となった黒人迫害の事件や、それによる大規模が暴動事件などの社会問題が丁寧に描かれていたり、音楽業界の知られざる(当時の)内幕が赤裸々に語られていたりなど、伝記ドラマとしての枠を越えたストーリーになっている。

主要キャストは皆、初めて見たような無名に近いキャストばかりだが、もれなく素晴らしい好演をみせる。そして、「N.W.A」のマネージャーを演じたポール・ジアマッティが、これぞ助演という味わい深いパフォーマンスで主要キャストたちを支える。

日本公開が危ぶまれた本作だったが、ライブシーンの迫力も含めて劇場で観られて良かった。

【70点】

最後に、年末とあって劇場は大混雑していた。家族連れで来ていた少年が「スターウォーズ」のパンフを親に買ってもらっているのを見て、久しく元気のなかった洋画が盛り返してきたのを実感した。実際に今年は永らく続いた「邦高洋低」がようやく逆転する模様。その功績の多くをシリーズものが占めていて、個人的には「スターウォーズ」を除いて、どれも期待値を上回るものではなかったけど、洋画ファンとしては嬉しい傾向だ。一方、邦画は相対的に元気がなかったかも。テレビドラマ映画の終焉を歓迎すべき契機としてリフレッシュされてほしいと思う。
2015年は映画の大豊作の年でした。ありがとうございました。
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