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ハウス・オブ・カード シーズン5 【感想】

2017-06-08 08:00:00 | 海外ドラマ


待望の「ハウス・オブ・カード」のシーズン5が先週、Netflixより配信された。
全13話を観終わったので感想を残す。

シーズン最高傑作だったシーズン4から一転、最も期待が外れたシーズンだった。
本ドラマならではの迫力とスリルでゾクゾクする感覚が大幅に減少。脚本からボー・ウィリモンが抜けたことが影響したのだろうか。いずれにせよ、これまで積み上げてきた本ドラマの魅力が活かされていない。本ドラマを愛するファンとしては、見当違いと感じるエピソードや、腑に落ちないキャラクター描写が目立った。

シーズン5のエピソードは大きく2つに分かれる。
シーズン4から続く、1~9話で描かれる、若き大統領候補「コンウェイ」とフランシスとの大統領選での戦いから決着まで。そして10話以降の、フランシスに降りかかる過去の不正(汚職・犯罪)を巡る糾弾である。今まで以上に主人公フランシスの「守り」の姿勢が鮮明に出たシーズンだった。現状を維持することがフランシスの課題なのは理解できるが、ファンとしてはフランシスの「攻め」をもっと見たかった。

「恐怖を生み出すのだ」と、前シーズンのラスト、やってはいけない「禁じ手」に手を出すことを匂わしていたが、本シーズンで早々に具体的な実行に移す。これがなかなかやりたい放題で、さすがに目に余った。前シーズンより「テロ」が大きな問題として取り上げられたが、その「テロ」を自身の権力維持のために利用し、「偽装」の領域までに踏み込む。そのやり方は今に始まった話ではないが、政治に無関係な国民たちを巻き込むのはさすがにやり過ぎだ。恐怖による混乱だけでなく、他にもフランシスが起こす様々なアクションが、本シーズンにおいては守るべき国民に全く向いていないのが気になる。彼のドス黒い野心を描くことが優先されてこそ本作の魅力が発揮されるが、同時に、レガシー(遺産)を築くことが彼の目指すべき方向だったはず。



フランシスVSコンウェイ。コンウェイが選挙前日に、国民との24時間耐久対話番組をテレビで放送するなど、どう見てもコンウェイのほうが大統領に相応しい器である。一方のフランシスはひたすら裏工作に回るばかり。国民に向けた、フランシスの力強い演説を期待していたが、本シーズンではそれが見られない。選挙戦における2人の攻防は、さすがに見応えがあったものの、政権争いのゲームに国民が付き合わされている感じで不憫に映る。フィクションとはいえ、アメリカ現地の視聴者たちも本シーズンを見て抵抗感を持つ人は少なくないと思う。

本シーズンは、実際のトランプ政権になった世相を如実に脚本に反映させている。「分断されたアメリカを癒す」というフレーズは、本作でもそのまま使われている。トランプが大統領になることを拒む国民が多くいたように、ドラマ内でもフランシスに大統領になってほしくない国民が大勢いる。トランプとフランシスのキャラクターは一緒にできない(一緒にしてほしくない)が、人格に多くの問題を持つ人間が世界一の権力者になったという点で重なる。

前シーズンでフランシスと並ぶ、いや、それ以上の存在感を示した相方のクレアは、本シーズンでさらなる大躍進を果たす。フランシスと同じく強い野心家であるが、人としての「ハート」を持っている点が異なり、それが彼女の魅力だったりする。そんなクレアだが、本シーズンでは彼女らしくない弱さを見せる。前シーズンより彼女の「夜の夫」として作家のトムと同居することになるが、2人の関係は甘ったるいものになっていて、クレアがトムにメロメロになっている。まったくクレアらしくない。トムに夢中になるあまり、普段の彼女ではしでかすことのない失態を起こす。「彼女も恋する乙女だった」という解釈かもしれないが、彼女のカリスマ性はかなり失せてしまった。作家のトムの描き方も少しおかしく、前シーズンまでは知的でミステリアスな男だったが、本作では単なる色情野郎になっている。「こんな男にクレアは惚れてない!」とガッカリする。



後半パートでは、フランシスに弾劾の雨が次々と降り注ぐ。自身にとって都合の悪い人間をことごとく潰していったフランシスだ。葬ったはずの過去が次々と蘇る。まあ普通に考えれば丸く収まるはずはなく、シーズン1で起こした事件まで遡り、彼が犯した悪事が遺恨や憎しみを伴い彼の元へ戻ってくる。まさに因果応報。力技で選挙戦を乗り切ったこともあり、もはや、国民の支持は得られない。沈没する船から脱出するかのように周りの閣僚たちは彼からどんどん離れていく。フランシスが何よりも求める「忠誠」という言葉の意味が響いてくる。唯一、フランシスに絶対的忠誠を誓っているダグにも、当然ながらその余波が及ぶことになり、フランシスのために彼がしてきた汚れ仕事も白日の下に晒されようとする。ダグの贖罪から始まった未亡人との情事は思わぬ形で終結する。そのやりとり、「なぜヤってたと思う?好きだからじゃない。あなたが憎いからよ。」にゾッとしてしまった。女って怖い。。。



シーズンごとに登場する新キャラが面白いのは、シーズン5でもそうだった。中盤から登場する、選挙戦でコンウェイ陣営の参謀に入ったアッシャーと、外交の「便利屋」としてフランシス夫妻と関わることになるデイビスだ。2人とも一筋縄ではいかない、相当なキレ者で、フランシス夫妻と堂々と渡り合える強さがありドラマを盛り上げる。映画界でも活躍する、キャンベル・スコットとパトリシア・クラークソンが両者を演じるがさすがに巧い。フランシス夫妻と2人の腹の探り合いのエピソードが面白かった。



毎回楽しみにしているフランシス語録はほぼナシ。
クレア語録も少なかった。

 「聖戦に身を捧げる戦士のつもり?無策な愚か者の立場が楽なだけよ。
  脳天気な理想に溺れて、実際に政治を動かすための取引もできない。」
 
というクールでカッコいい言葉を発するが、状況的に負け犬の遠吠えになるのでイマイチだ。
 
お馴染みの視聴者に向けた投げかけシーンが本シーズンでも多く登場するが、その役割が変わってしまったようだ。スパンスパンと、展開の核心をつく短いセリフやアクションで示すのが効果的だったのに、本シーズンでは長々と視聴者に解説を行う。「あなた見てたでしょ?」と視聴者を巻き込むのも見当違いかと。視聴者の役割は傍観者に過ぎないし、劇中のリズムが淀んでしまう。

前半の選挙戦の冗長さは否めず、これまでのシーズンで感じた疾走感は大分なくなった。「都合の悪い奴はとりあえず消しとく」対応方法も連発し過ぎだ。これでは、今回の二の舞になるだけではないか。本ドラマはクライムスリラーではなく、あくまでポリティカルドラマであってほしい。本シーズンのラストに下したフランシスの決断も苦し紛れの「こじ付け」に思える。彼にとっての妥協案だとしても、権力者でなくなるのは確かだ。シーズンを重ねるごとに新たなステージを用意するというゴールは果たせたものの、この続きはいったいどうなることかと期待よりも心配が上回る。

結果として不満の多いシーズンとなったが、日本語吹き替えのローカライズも含め、アメリカと同時リリースしてくれたNetflixには今回も感謝だ。
今週末には「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のシーズン5がリリースされる。コンテンツを出し惜しみしないNetflixの姿勢が素晴らしい。

【60点】

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