から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ドリーム 【感想】

2017-10-13 08:00:00 | 映画


立ちはだかる性差別と人種差別の高い壁を、3人の女性たちが自らの力で突破していく痛快さ。湿りがちになりやすい話をうまく陽性のドラマに仕上げたもの。「初」の有人宇宙飛行の偉業は、知られざる「初」の黒人女性たちの貢献によってもたらされた事実。やや優等生過ぎる作りだが、この事実を広めた功績は大きく、トランプ政権になってまもなくのアメリカで大ヒットしたことが嬉しい。いつの時代も戦わずして勝利は掴み取れない。

1960年頃、NASAで働いていた黒人女性たちの活躍を描く。

アフリカ系を初めとする有色人種への差別が当たり前にあった時代の話。本作で描かれるその光景からは、悪意とは別で、日常のルールとして差別があった印象をもった。何事も白人が優先される社会で、権利も機会も与えられない人たちが数え切れないほどいたのだ。自分の偏見であったが、「天才」といわれる生まれもって知能の高い人たちのイメージに、アフリカ系の人たちのイメージがどうにも重ならなかった。ましてやアフリカ系女性のイメージはまるでなく、本作がアメリカで話題となり、その史実を知ったときは驚いた。

主要キャラである3人の黒人女性のうち、主人公のキャサリンはNASAで計算係として働く。その類稀なる数学能力を買われてのことだ。白人男性たちに埋め尽くされるNASAで、周りの男たちを置き去りにするほどの能力を発揮する。冒頭のシーンでキャサリンの幼少期が描かれる。早くも彼女の才能に気づいた家族や学校関係者は彼女の能力を伸ばすために、より高度な教育機関への進学を望む。しかし、環境や経済面からもアフリカ系の人たちが進学できる機会は手が届くところにはなく、大変な苦労に見舞われる。多くの周りの尽力があって、彼女は幸運にもその機会にありつくことができた。その場面を俯瞰してみると、きっと彼女と同じような境遇にあって、多くの才能が差別によって握りつぶされてきた歴史を想像する。「偉人」として語り継がれていたはずの人物に、もっと有色人種の人たちがいたかもしれない。

それは個人の人生にとって損失であることは勿論のこと、社会にとっても大きな損失といえる。物語の舞台は「頭脳」によって運営されているNASAである。ソ連と熾烈な宇宙飛行競争を繰り広げていた時代にあって、ソ連に先を越されたアメリカは藁をも掴む思いで躍起になっていた。本作のキーマンになるのが、宇宙飛行計画の陣頭指揮をとる本部長だ。キャサリンを採用したのも彼の判断。人種差別なんざ後回し、ソ連に勝つためには、肌の色に関係なく実力主義に徹しなければならないと、人種差別への同情心ではなく、実利を求めた彼の判断に現実味を感じる。そして、その期待にキャサリンが鮮やかに応えていく。

しかし、キャサリンが置かれた職場環境は悲惨だ。白人男性たちと机を並べて仕事をするも、「黒人女性に何がわかるか」と嫉妬と偏見により、周りの同僚から陰湿な業務妨害を受ける。コーヒーポッドは区別され、近くのトイレは「白人専用」で使えない。「彼女はどこにいった」と、憤る本部長は、彼女が吐露するまで、その状況に気づかない盲目ぶり。キャサリンと同じくNASAの別の職場で働く、仲良し3人組のほか2人も、それぞれ味方のいない状況で奮闘する。誰かの助けではなく、自らの力で状況を変えていく。彼女たちは戦って勝利を得た。その過程が力強く、そして痛快に描かれている。

彼女たちが経験した苦労は想像して余りあるものの、全体的にシリアスに偏りすぎていないのが良い。キャサリンが遠方のトイレに向かうシーンが度々描かれるが、「不憫」で笑えないシーンをあえてコミカルに描き出している。彼女たちの奮闘ぶりは、前向きな個性と、明るく充実したプライベートがあってのことであり、彼女らを支える家族愛や、ロマンスなどが、サクセスストーリーを後押しする要素として差し込まれる。キャサリンの3人の子どもたちが可愛い。彼女と恋仲になる軍人男子が素敵で、演じるマハーシャラ・アリが相変わらずのイイ仕事。

3人を演じた、タラジ・P・ヘンソン、ジャネール・モネイ、オクタヴィア・スペンサーがもれなく個性的なキャラクターを好演している。最近だと「Empire」で恐妻キャラのイメージが強いタラジ・P・ヘンソンは本作で180度異なるキャラを演じていて面白い。しなやかでスマートなキャラが似合うジャネール・モネイ、肝っ玉キャラが似合うオクタヴィア・スペンサーは、その持ち味を本作でも生かしている。本部長演じたケビン・コスナーは、年齢相応のオッサンキャラがすっかり板についてきた。

後半にかけて、彼女たちの活躍をいっそう盛り立てるために、展開が行儀よく彼女たちの味方するなど、「脚色が過ぎるな~」と感じることもあったが、実話映画のお約束である、エンドロールでの実際の彼女たちの写真と功績紹介の字幕を見て、深く感じ入ってしまった。また、「人」と「コンピュータ」の役割が交代する時代の狭間や、「数学」という人知の力によって、宇宙という夢の次元に挑んだ人たちの情熱にも魅せられた。

【70点】

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