から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ベルファスト71 【感想】

2015-08-13 09:00:00 | 映画


戦慄が走った。
自身を殺そうとする人間たちの集団内に、何の前触れもなく突如、ひとり取り残されてしまったらどうなるか。答えは1つで「逃げる」しかない。

昨年、インディーズ映画として多くの映画祭で賞賛を得た映画の日本公開だ。映画の日に、たまたま公開館を見つけて観ることができた。凄い。リアリティの再現によってもたらされる緊張。手に汗握るド級のサバイバルスリラー。

物語の舞台は1971年。英国の占領下にあった北アイルランドのベルファストという町で、カトリック系住民とプロテスタント系住民が激しい対立を繰り広げていた。内政干渉よろしくな英国軍の小部隊が、軽い気持ちでその対立に割って入るが、住民たちによる予想外の大暴動が起き、負傷者が出るほどの事態に発展する。その描写の迫力が凄まじく、恐怖と緊張で身体が硬直する。英国部隊は撤退を余儀なくされるが、その暴動のなかで一人の青年兵が取り残され、周りの過激派住民に殺される寸前、命からがら全速力で走り逃れる。そして追われる。

主人公である青年兵のキャラクターがポイントだ。どうやら両親はいないようで、幼い弟を持つ心優しいお兄ちゃんだ。弟と無邪気に遊ぶ姿にイノセントな雰囲気もあり、軍服を着ているものの戦争で戦う姿は想像しにくい。軍に入隊することに大義はなく、弟と2人で暮らすための生活費を稼ぐために入隊している。ベルファストに出動した理由もよくわかっておらず、「こんなはずではなかった」と恐怖の洗礼を受けることになる。

理性ではなく、憎悪によって生み出される戦場においては、関係、無関係に関わらず、触れる者すべてが無条件にその暴力の中に取り込まれてしまうのだ。この事実は普遍的であり、現在の日本にとってはタイムリーなメッセージとして響くのではないか。現在、日本では憲法9条の改正に向けて動いているのだが、その結果として、戦争に巻き込まれることは避けられないように思える。この映画の生々しさを前に、その想いに達するには十分である。

本作で描かれるのは、青年兵が追っ手から逃れる一夜だ。その逃避行の間、主人公を軸に親イギリス派のアイルランド人、IRA、英国軍、英国スパイなど、多くの登場人物たちが絡み、事態を好転、悪転させ続けるが、当時のイギリスとアイルランドの関係性など、ある程度の基礎知識を要さないと状況をすぐに理解できないことが難点だ。実際に後から調べてみて、ようやく合点がいくことも多かった。

しかし、それを差し引いて純粋なサバイバル劇として観ても十分に見応えがある。「プライベートライアン」や「ローンレンジャー」に近い手触りの映画であるが、主人公が非力かつ武器をもたない点や、襲いかかる敵に対して憎しみの動機はなく、自身が生き延びるための手段として攻撃しなければならない点が異なる。主人公演じるジャック・オコンネルの熱演が素晴らしく、恐怖と痛みが観る者に伝染し、戦争の非情さ、不条理さをまざまざと見せつけられる。

監督は本作が長編デビューとなるヤン・ドマンジュ。低予算ながら、これだけの映画を撮る手腕に強い才気を感じる。是非ともハリウッドデビューしてほしい。

【70点】
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