から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

清須会議 【感想】

2013-11-16 09:01:30 | 映画


三谷幸喜の映画があまり好きじゃない。
笑わせることを前提にした演出が作為的で、差し出される笑いが笑えない。
テレビでの観賞で済むレベルと、毎回観るたびに思っていた。

そんな三谷映画の新作「清須会議」。
これまでの過去作と違う匂いがしたので、初めて映画館で観た。

予感が的中した。凄い面白い。驚いた。
期待半分だっただけに、このギャップに得した気分で舞い上がる。

歴史に疎い自分にとって、本作で初めて知った「清須会議」という史実。
本能寺の変で敗れた織田信長の後継を4名の武将の話し合いで決めた会議だ。

戦国時代の殺し合いの中、少人数の幹部による話し合いだけで
大事の決着をつけるとは、何とも民主的でとても意外に思えた。

実際のところはわからないが、本作では清須会議を
歴史の大きな転換期と捉えて描いており、
その時代のウネリをダイナミックに描くことに成功している。

それを限られた登場人物、かつ、清洲城という閉鎖的な空間の中で
見事に魅せてくれるのだから、ホント恐れ入った。

コメディ色を全面に押し出した予告編からは想像できないほど骨太なドラマだった。
展開と登場人物たちから発せられる迫力に息を呑み、何度も圧倒される。

柴田勝家、羽柴秀吉を中心に清須会議の渦中にある登場人物たちは個性が際立つ。
三谷考察のもと、多少デフォルメされた描き方になっているかもしれないが、
それが、人物相関を余計な説明なしに浮き立たせているとともに、
人物背景までも示唆させるまでに至らせている。
そして個性が鮮やかなほど、わかりやすくて面白い。まさに映画的表現だ。

清須会議をめぐり、登場人物たちの思惑が交錯していく。
その動機は忠義あり、義理あり、野心あり、遺恨あり、愛情あり・・と様々であるが、
共通しているのが「道理」で、道理に叶う言動こそが勝利への近道になっている。

登場人物たちのセリフの一言一言に、その前提が感じられるので
誰が正解ではなく、誰にでも正義があるような描き方になっているのが面白い。
それが演者たちの迫力と相まって、物語に説得力を持たせていくので、
顛末を追っかけるこちら側は、夢中にならざるを得ない。

三谷幸喜ってこんな脚本も書ける人だったんだーと驚く。

本作におけるもう1つの勝因は、やはりキャスティング。
役所広司や小日向文世の確かで思わず唸ってしまう演技など、
良点をいえばキリがないが、やはり本作で光るのは大泉洋だ。

三谷幸喜の脚本同様、思わぬ収穫だった。
大泉洋が絶品。こんな凄い演技ができる人とは思わなかった。
彼の過去作はそれなりに見ていたが、本作はかなり毛色が違う。
ひょうひょうとして、スルリと相手の懐に入り、いつしか手玉にとる、
人心掌握に長けた秀吉を見事に体現する。そして腹黒くて大胆不敵。
役所広司演じる柴田勝家が発した「どれだけツラの皮が厚い男よ」が象徴的だ。
人々を魅了する存在感だけでなく、非情さと残酷な匂いも感じさせて素晴らしい。

ほかにも浅野忠信演じる前田利家との友情や、
寺島進演じる秀吉の側近、黒田官兵衛の参謀ぶりも非常に面白い。
歴史は得意ではないけれど、先人たちに想いを馳せた。

惜しむらくは剛力彩芽の背伸びと、捨てきれない笑いへのサービス精神か。
ウケねらいの大物俳優のカメオ出演とか、本作の完成度に水を差すので勿体ない。
本作では、演者たちのマだけで十分笑えるのだ。

映画の絵ヅラに華やかさはないが、観る側をグッとスクリーンに引き寄せる磁力あり。
三谷幸喜の真骨頂というより、ひと皮剥けた新機軸と言いたい。

こういう日本映画を待っていた。

洋画を応援しているが、こういう映画で邦画が盛り上がるのは大歓迎だ。

【80点】

最新の画像もっと見る

コメントを投稿