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ジェイソン・ボーン 【感想】

2016-10-13 09:00:00 | 映画


人間兵器こと「ジェイソン・ボーン」が戻ってきた。9年というブランクを感じさせないテンションだが、前シリーズと変わらぬストーリーに新鮮味なし。せめて自身の過去を振り返るプロットは前シリーズで終わってほしかったかも。「監視」プロジェクトも今さら感あり。但しアクションはとんでもない迫力。笑いが止まんなかった。グリーングラスの超絶な編集技が冴え渡る。後半のアクションシーンの粗さが惜しい。本シリーズの醍醐味であるカタルシスの程度はまずまずといったところ。

前シリーズで自身の記憶を取り戻し、長年潜伏生活を送っていたボーンが、新たな過去の真実を知り、再び戦いの場に戻ってくるというもの。「世界を救う!」といった大義のためでなく、パーソナルな動機で戦うボーンのスタイルは健在。

シリーズものには珍しく、安定的にどれも面白く、回を重ねるごとに面白さが増した本シリーズ。特に、ポール・グリーングラスがアクション監督として覚醒した2作目以降がお気に入りだ。3作目の「アルティメイタム」が間違いなく最高傑作であり、本作の公開に備え、久々に観たがめちゃくちゃ面白かった。そのグリーングラス&マット・デイモンのコンビの新作ということで期待は高まる。

前作のラストでCIAから逃れたボーンは指名手配中のため表社会で生きることが難しく、地下格闘技で生計を立てている。並みはずれた戦闘力を持つボーンにとっては天職と思え、対決する大男たちをなぎ倒すシーンはボーンの強さを再確認させる。その顔つきを見ると「さすがに老けたな」と思うが、重量化された肉体は見事にビルドアップされており、力勝負なら若い頃よりも強そうに見える。戦闘能力でいえばボンドもハントもボーンには太刀打ちできないだろう。

そんなボーンの前に、前作で彼を助けた元CIAのニッキーが現れる。CIAによる新たな極秘プロジェクトとボーンの過去に関わる真実を告げることが目的だ。そのボーンとニッキーが出会い、それを察知したCIAの手から逃れるチェイスシーンが冒頭の見せ場だ。ギリシャで起こった抗議デモを隠れ蓑にしてボーンとニッキーが出会う。大勢のデモ隊と警官隊をぶつかり合う雑踏の描写が凄まじい。そこら中で衝突が起き、火炎瓶が次々と放り込まれ路上が炎上しまくっている。人ごみ&戦争状態のなか、壮絶かつ、針穴に糸を通すようなボーンの離れ業が次々と繰り出される。そのアクションの流れの中で、ボーンの危険察知能力など多くのスキルが発揮される。猛スピードで疾走するアクションに圧倒される。掴みはOKだ。

グリーングラスの編集技が本作でもキレている。北斗百裂拳ばりの手数で次々とカットが切り替わる。しかも、カメラは固定されるのを嫌い、手持ち撮影が多用され、ずっと動きっぱなしだ。しかし、臨場感を狙って目が回るだけの映像にするのとは大違い。グリーングラスのショットは「動」にも「静」にも作用する。アクションだけでなくドラマの空気にも密着することができる。とりわけ張りつめた緊迫感を捕えるのが巧い。微動する画面にキャラクターたちの顔面が映し出される。前作以上にセリフは絞られ、演者たちの語らずとも語れる表現力と、グリーングラスの演出力によってそれぞれの置かれた状況と心情が吐露されていく。やはりグリーングラスは巧いな~と何度も唸る。

1人の男によってCIAという巨大組織が翻弄され喰われる。その痛快さがボーンシリーズの無二の魅力といえる。多くの刺客が束になってかかってもボーン1人に一蹴され、「(ボーンを)殺らなければ、こっちが殺される」という恐怖心さえ与える。その作りは本作でも踏襲され大いに歓迎であるが、物語の構成が前シリーズとほとんど同じというのが気になる。過去を思い出すボーン、その過去の清算するために戦うボーン、突然訪れる悲劇、悪いCIAと協力するCIA。。。とお決まりパターンと片づけるのは雑だが、「新章」として新たな一面を加えても良かったと思われる。約10年という歳月を経ているにも関わらず、ボーンの個性に変化を与えないのが勿体ない。

シリーズの見どころであったアクション演出に、捻りがないのも残念な点だ。クライマックスで描かれるラスベガスでのアクションシーンは「らしくない」仕上がりだ。スケールと物量にモノ言わせ、破壊と暴走を繰り返すカースタントは早々に満腹中枢を刺激する。もうお腹いっぱい。どこがどう繋がってあんなカーチェイスになるのかよくわからない。少なくともあんなに破壊する必要はなかったと思われる。とりあえず迫力は十分に伝わったが、もっと別のところにエネルギーを使ってほしかった。そのカースタントの延長線上で用意される格闘アクションも、ガチンコの長尺肉弾戦で見ていてアガらない。今回のボーンの相手を演じるのはヴァンサンン・カッセルで、相手に不足ナシなのだが。。。

本作で存在感を示すのは、ボーンに味方する、あるいはボーンを利用しようとするCIAを演じたアリシア・ヴィキャンデルだ。オスカー女優となったことで本作のような大作映画への出演が実現する理想的なキャリアだ。彼女演じるCIAは上昇志向の強いキレ者だ。笑顔をまったく見せず、最初から最後までクールな表情を保つ。彼女の目論見が読めず、緊迫した本作の展開に新たなスリルを加える。華奢な体系を感じさせない強い存在感だった。また、今では「BOSSのオジサン」のイメージが定着したトミー・リー・ジョーンズは久々に本領を発揮。目元の大きく弛んだシワが印象的で、悪人ヅラが一層悪く見える。「邪魔者はすべて消せ」の説得力のあること。

本作のリアルなテーマとして、CIAによる監視プログラムが持ち上げられる。劇中でも語られるとおり、スノーデンの事件が影響しているが、SNSサービスと組んでCIAが個人のプライバシーを侵害するといった話をそのまんま映像化されても面白くない。本作で描くとおり、人の命を奪うほど重大性のあることとは思えない。

「ボーンを舐めんなよ」のラストが本作最大の痛快ポイント。しかし、前シリーズはそんなもんじゃなかった。アクション映画としては一定水準以上の出来栄えだが、前シリーズと比較してしまうと魅力不足だ。続編があるとすれば、本作の反省を活かしてほしいな。

【65点】
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