抱擁、あるいはライスには塩を | |
江國 香織 | |
集英社 |
『楡家の人びと』風『華麗なる一族』とでも申しましょうか。
大きなお屋敷に暮らす風変りな大家族の大河小説。
「風変りな」などと書いてしまいましたが、この愛すべき登場人物たちの生き方に触れるにつれ、実は彼らを「風変り」と思ってしまう世間のほうが変なのではないか、という気がしてきます。
彼ら彼女らは自分たちのモノサシをきちんと持っている。
そして、他人を心から思い遣り、世間とのモノサシの違いに時に思い悩みながらも、精一杯真摯に生きている。
祖父・祖母・父・母・叔母・叔父・四人の兄弟姉妹、それぞれに個性的でありながらも、一つの家族としての共通項を保っている。
そんな人物造形がたいへんに心地よく、彼ら彼女らが互いに影響を与え合いながらいろいろなことを感じ、成長していく。
ずっとこの家族の物語を眺めていたい、読めば読むほどそんな気持ちになっていきます。
小説は、時間軸を交錯させながら、1960年から2006年まで、昭和から平成にかけての約半世紀という時の流れをも感じさてくれます。
章ごとに一人称が入れ替わっていき、中には家族の外の人物の目線でも語られる章もある。
それによってまた、この愛すべき家族の魅力が客観的な言葉で表現されることになり、妙味なのです。
なんとも、豊穣。
こういう作品との出会いがあってこそ、小説を読む醍醐味なのだと感じます。