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グルメ客船氷川丸(再掲)

2012-08-14 | つれづれなるままに

2011年の8月に掲載した記事です。
再掲載して皆さまにご覧いただきたくなるコメントを、氷川丸のシェフの子孫の方から頂きました。
そのコメントからご紹介します。

亡祖父は日本郵船氷川丸(ほか客船やタンカー)の和食料理長でした。
おそらく遠く外国の血も混ざっている為私達知っている祖父はサンタクロースのような風 貌で
(横浜から家族は祖母の実家のある四国に疎開しその後鎌倉に移住)
海亀の剥製が飾られた家に遊びに行くと美味しいロイヤルミルクティーを淹れてくれ
自分用の甘いお菓子を分けてくれて母達と台所に立っていました。

長男の父(ちなみに次男の叔父はマリンタワーに勤めました。)や
母から祖父の船乗り時代の話 を聞きますが最期は我が家で過ごしたので
本人からもっとたくさん話を聞いておきたかったと思います。
我が家は今日お盆の迎え火、祖父が呼んだのだと思いま す。

ありがとうございました。


sohogirlさん、こちらこそありがとうございます。
なにか、絵本の中の一シーンのような想い出ですね。

ウミガメの飾られた部屋。
サンタクロースのようなお爺様の指先から、魔法のように生まれる美味しいものの数々。
それらを、目を輝かせて見つめる幼い日のsohogirlさん・・・・・・・。



豪華客船として就航した氷川丸。
腕利きのフランス人コックを年俸1万5千円もの高級で雇い入れ、
さらに横浜には料理人養成所を設け司厨員勉強をさせたくらい、
氷川丸は料理に力を入れていました。
洋上の生活、何が楽しみと言って食事です。
それも、舌の肥えた世界の賓客を飽きさせないだけの工夫が求められるのですから。

「遠洋航海路線に乗っていたコック」といえば、
それだけでその実力を認められたのも無理はありません。

そして、氷川丸の食事は「こんな美味しいものは生まれて初めて食べた」
とロックフェラーをして感嘆せしめたほどの絶品でした。
そういう評判を聞いて外国人客は他の船をキャンセルして氷川丸の客になったということです。

冒頭写真は、三笠宮様に御乗艦賜ったときのディナーテーブルを再現してある、現在の展示。
この前に立つと・・・
カトラリーの触れあう音、そして幽かに人々が囁きつつ食事をするような音声が
何処からともなく聴こえてきます。
これは「そういう気がしてきた」のかと思いきや、スピーカーで効果音を流していたのでした。

それでは、本日のメニュウで御座います。

もしかしたらこのメニュウに興味をお持ちの方がおられるかもしれないので、以下日本語版を。

【オードブル】
シュリンプカクテル 塩漬けタンのサンドウィッチ トマトのコロニークラブ風 お肉の詰め物 
アンチョビペースト チャウチャウ

【スープ】
コンソメスープ か チキンクリームスープ

【魚】
スプリングサーモンのワレスカ風

【アントレ】
去勢鳥のカフェドパリ風 か 胸腺肉のトゥールーズ風 か
 白鳥のバター焼き青トウモロコシぞえ

【日本料理
】しじみ汁 柳川なべ

【ロースト】
羊のロースト 野鴨のロースト オニオンのクリーム和え ポテト スティームドライス

【コールドブッフェ】
乳飲み仔牛肉の冷製仕立て ボイルドハム

【サラダ】
きゅうりとレタス

【スィート】
ロイヤルスフレプディング アプリコット添え 
フルーツ入りペンシルバニア風ウェハース ケーキ

【チーズ】

【デザート】
ドライジンジャ―などドライフルーツ ナッツ ビスケット 洋ナシ バナナ 

【コーヒー】


ふう・・・・。
書いているだけでお腹いっぱいになってしまいました。
それにしても間に入ってくる柳川なべも謎ですが、
「白鳥のバター焼き」と「チャウチャウ」がさらに謎・・・。
白鳥って食べられるんですか?美味しいんですか?
チャウチャウは・・・まさか犬のことではないと思いますが。

(あ!mizukiさんのコメントって、これに対する突っ込みだったのか。
『チャウチャウは、青いトマトなどの野菜のピクルスです^^』
mizukiさん、ありがとうございました。今謎が《コメントの謎も》解けました)

さて、この氷川丸は日本の伝統料理を外国人に伝えるという立派な使命を十二分に果たしました。
時おりちゃぶ台を出して正座で食べる「スキヤキパーティ」はアメリカ人に人気がありました。
後に坂本九の「上を向いて歩こう」がなぜか「スキヤキ」というタイトルでヒットしたのも、
もしかしたら辿っていけば氷川丸のスキヤキに行きつくのかもしれませんね。

そして、テンプラ。
チャップリンを乗せたという話を前回しましたが、チャップリンを乗船させるのには船会社の間で
ちょっとした競争があったと言われています。
世界の喜劇王が乗った船、ともなるとそれだけで大変な宣伝になるからです。

チャップリンに乗ってもらうために氷川丸はこんな口説き文句を使いました。

「氷川丸では揚げたてのテンプラをお出ししますよ」

日本滞在中、チャップリンは初めててんぷらを食べ、その美味しさにいたく感動。
なんと一人でエビのてんぷらを数十匹分も食べたということです。
この一言で一も二もなく、喜劇王は氷川丸の乗船を決めたのだそうです。

さて、氷川丸にはこんなオリジナルがあるのですよ。
皆さんはドライカレー、お好きですか?

氷川丸のコックさんが、ある日カレー味をつけたひき肉とご飯を混ぜ合わせた
「ドライカレー」なるものを発明しました。
ウェットに対するドライ、このネーミングもなかなかのセンスです。
氷川丸発祥のドライカレー、このようにお土産で売られています。
さっそく買い求め、その日いただいてみました。

いかがでしょうか?

でも、食べてから思ったのですが、これ、ごはんと混ぜ合わせなくては
ドライカレー、って言いませんよね。
普通のウェットカレーとして食べてしまいました。



ところで、乗船見学中とっても不思議なことがありました。

機械室を抜けたところに、昔厨房だった区画があるのですが、そこを歩いていると
明らかに食べ物の有機的な匂いが何処からともなくしてきたのです。
料理をしなくなって何十年にもなるのに、その区画には昔の調理の際に壁や床に浸みついた煙や油の匂いがまだ残っているように思えました。
鼻が効く方、ぜひ氷川丸を見学されることがあったらそこで立ち止まってみてください。

かつてここで調理された豪華なお料理の匂いの片鱗がまだ残っているかもしれませんよ。