
その晩、村山大尉が総員上陸をコールしました。

上陸すなわちレス(料亭)で宴会です。

目の座った村山大尉が「もっとやれ!」と檄を飛ばすと、
海軍名物「芋掘り」(レスなどでの乱暴狼藉・破壊行為)の始まりです。
彼らの明日をもしれない運命を世間が了解していることもあって、
こういった芋掘り行為は半ば公然と行われ、お目溢しされる傾向でした。
天井にぶら下がる者、池に何か投げ込む者、障子を破る者・・。

大瀧中尉は敵空母轟沈!と言いながら、襖に飛び込んで行きました。

見事襖を破って隣の部屋に突入。

隣の部屋で体を起こしてみると、

そこに二人でいたのは松井の恋人富代と北中尉でした。
てっきり大瀧は北が富代を口説いているのかと思って激昂するのですが、

「違う!これだよ!」
「・・・辞世一句?」

「不精者 死際までも 垢だらけ」ダラ松
富代様
北中尉は松井からこれを預かってきたのでした。

「あたしゃね、いっぺんくらいあの人を風呂に入れて洗ってあげたかったよ」
それをいうと畳に突っ伏して嗚咽する富代。

しかし、なぜか松井の辞世の句に乾笑いしてしまう大瀧でした。

上陸すなわちレス(料亭)で宴会です。

目の座った村山大尉が「もっとやれ!」と檄を飛ばすと、
海軍名物「芋掘り」(レスなどでの乱暴狼藉・破壊行為)の始まりです。
彼らの明日をもしれない運命を世間が了解していることもあって、
こういった芋掘り行為は半ば公然と行われ、お目溢しされる傾向でした。
天井にぶら下がる者、池に何か投げ込む者、障子を破る者・・。

大瀧中尉は敵空母轟沈!と言いながら、襖に飛び込んで行きました。

見事襖を破って隣の部屋に突入。

隣の部屋で体を起こしてみると、

そこに二人でいたのは松井の恋人富代と北中尉でした。
てっきり大瀧は北が富代を口説いているのかと思って激昂するのですが、

「違う!これだよ!」
「・・・辞世一句?」

「不精者 死際までも 垢だらけ」ダラ松
富代様
北中尉は松井からこれを預かってきたのでした。

「あたしゃね、いっぺんくらいあの人を風呂に入れて洗ってあげたかったよ」
それをいうと畳に突っ伏して嗚咽する富代。

しかし、なぜか松井の辞世の句に乾笑いしてしまう大瀧でした。

翌日行われるはずだった飛行作業は、燃料不足のため中止になりました。
映画で使用されている機体については説明がないのですが、
映画が制作された1953年には、後に映画で零戦の代わりに登場した
T-6テキサンはまだ自衛隊に供与されていないことから(1955年に供与開始)
この映像は戦中のフィルムではないかと考えます。

飛行作業がなくなり、村山大尉の「命の洗濯でもしておけ」という言葉で、
各自思い思いにその日1日を過ごし始めました。

子供達とチャンバラごっこをするのは山本中尉。
子供達と一緒に走り回っている様子を見ても、
この俳優がこの直後亡くなるとはとても想像できません。

木陰で語らうのは野口中尉と田中中尉。
「尊敬していたドイツ人の宣教師に、
『人間と人間の殺し合いを神様はお許しになるんだろうか』と聞くと、
牧師は三段論法で、『アメリカは悪い。悪いのを討つのは良いことだ。
だからこの戦争を神様はお許しになる』とさ。

「俺あその時からその牧師のやつが嫌んなってねえ・・・」

池のほとりで「お家訪問ごっこ」をして遊ぶのは、北中尉と岡村中尉。
岡村中尉(右)を演じているのは若き日の金子信雄です。
禿頭のおじさんのイメージしかなかったのでちょっと驚きでした。
「いいうちだなあ」
「えれえシャッとしたセビロ着てんじゃないか」
「おお、えらい難しい本読んでるなあ」

「へへ、ゲーテだよ」
「原書か・・ぼくドイツ語は苦手やさかいなあ」

「おう、ちゑ子、こっち来い」
「べっぴんさんやなあ・・あんたはん、京美人だっか?」

「はっはははははは」
二人の笑いはすぐに吸い込まれるように消えていきました。

燃料不足で飛行作業が中止になった一日、腕を負傷している深見中尉は、
宿舎となっている国民学校の瀬川道子教諭と二人で語らっていました。

彼の実家は(おそらく)山形で、時計店を営んでいます。
兄は死んだ父親に代わって職人として店を切り盛りし、
母はこけしに色をつける内職をして、慎ましい暮らしの中、
深見を大学まで進学させてくれました。

兄が嫁をもらい、弟が大学を出て銀行に勤めるのが、
母親の思い描く夢だったのです。

深見が進学したのは京都帝大でした。
この1952年当時の映像は、現在の京都大学の正門の様子と
全くと言っていいほど変わりがありません。
この門は、1889年、第三高等中学校正門として建設されました。
その学舎で学徒を戦線に駆り出すための演説が行われています。

「山本元帥の戦死、アッツ島の玉砕、諸君はこのことをなんと考えているか。
今や祖国は寸刻の躊躇を許さない、絶対の危機である。
盟邦ドイツの学徒はすでに立ち上がった。
諸君らもこれに遅れてはならない!」

演説を聴く学生の中に、大瀧と深見もいました。
「立て、学徒諸君!往け、海と空へ!」
1941年、内閣は不足する兵力を学生から補うため、就学年限を短縮し、
1943年になると、理工系と教員養成系を除く文科系の学生に対し、
徴兵延期措置を撤廃する臨時特例を実施しました。
学徒出陣によって海軍に入隊することになった多くの学生は、
高学歴者であるという理由で、予備学生、予備生徒として、
不足していた野戦指揮官クラスの下級士官または下士官に充てられます。
ちなみに、学徒出身の戦後の有名人は多く、例えば、
中華民国総統であった李登輝は、京都帝大在学中に学徒出陣しています。
この映画に上飛曹役で出演している西村晃もまた、
日本大学専門部芸術科在学中に動員され、第14期海軍飛行予備学生として、
徳島海軍航空隊の白菊特攻隊に配属されています。
西村の部隊には裏千家の千玄室もいましたが、
彼らが出撃する前に戦争は終わり、部隊でこの二人だけが生き残りました。

海軍の部隊に入隊した学徒たちを待ち受けていたのは、
兵学校卒士官からの教育に名を借りた虐めとシゴキでした。
「貴様らのせいで70年の海軍の歴史は汚された!」

いや、僕らをここに入れたのはその海軍なんですが

そして、「娑婆気を抜く」という名目のもと、
学徒たちを兵学校士官たちが殴るリンチが行われます。
兵学校士官にすれば、昨日まで学生だった連中が自分と同じ士官を名乗るのが
単純に面白くないという気持ちからでしょうが、その鬱憤晴らしのため、
理不尽な暴力が公認されていたことは、海軍の陰惨な黒歴史の一つです。

1943年になると、理工系と教員養成系を除く文科系の学生に対し、
徴兵延期措置を撤廃する臨時特例を実施しました。
学徒出陣によって海軍に入隊することになった多くの学生は、
高学歴者であるという理由で、予備学生、予備生徒として、
不足していた野戦指揮官クラスの下級士官または下士官に充てられます。
ちなみに、学徒出身の戦後の有名人は多く、例えば、
中華民国総統であった李登輝は、京都帝大在学中に学徒出陣しています。
この映画に上飛曹役で出演している西村晃もまた、
日本大学専門部芸術科在学中に動員され、第14期海軍飛行予備学生として、
徳島海軍航空隊の白菊特攻隊に配属されています。
西村の部隊には裏千家の千玄室もいましたが、
彼らが出撃する前に戦争は終わり、部隊でこの二人だけが生き残りました。

海軍の部隊に入隊した学徒たちを待ち受けていたのは、
兵学校卒士官からの教育に名を借りた虐めとシゴキでした。
「貴様らのせいで70年の海軍の歴史は汚された!」

いや、僕らをここに入れたのはその海軍なんですが

そして、「娑婆気を抜く」という名目のもと、
学徒たちを兵学校士官たちが殴るリンチが行われます。
兵学校士官にすれば、昨日まで学生だった連中が自分と同じ士官を名乗るのが
単純に面白くないという気持ちからでしょうが、その鬱憤晴らしのため、
理不尽な暴力が公認されていたことは、海軍の陰惨な黒歴史の一つです。

連帯責任も海軍の伝統の一つ。
一人が「飛行機を壊した」ので全員が飛行場を3周ランニングさせられます。
グラウンド3周と違い、飛行場はとてつもなく広いので、
終わる頃には陽は暮れかけています。

一人が「飛行機を壊した」ので全員が飛行場を3周ランニングさせられます。
グラウンド3周と違い、飛行場はとてつもなく広いので、
終わる頃には陽は暮れかけています。

全員が走り終わった後も、飛行機を壊した本人は、
飛行場で一人起立して「反省」をさせられます。

それは深見でした。
飛行場で一人起立して「反省」をさせられます。

それは深見でした。

そして、ついに彼らが「特攻隊員」になる時がやってきます。
「諸君の肉体をもって敵を撃滅してほしい」
この司令を演じているのは加藤嘉(よし)。
「海軍」の主人公の父、「白い巨塔」(田宮二郎版)で演じた
謹厳な大河内教授の役が印象に強く残る俳優です。

「諸君の肉体をもって敵を撃滅してほしい」
この司令を演じているのは加藤嘉(よし)。
「海軍」の主人公の父、「白い巨塔」(田宮二郎版)で演じた
謹厳な大河内教授の役が印象に強く残る俳優です。

ここには、大瀧と深見の他に、後の田中中尉(織本順吉)、

山本中尉(沼崎勲)、

岡村中尉(金子信雄)、

北中尉(清村耕二)がいました。

それらの思い出を瀬川道子に語る深見。
「砂の上にこうして一本足を下ろす。
ここは僕の足が今の今まで触れたこともない土なんだ。
生まれて初めて足を下ろす土なんだ。
ここも、ここも、ここも。
僕のこの足跡が25年前の故郷からずっとここまで続いてきた。
そしてここで終わるか、あそこで終わるか・・・もういくらも無い。
・・・・知らないことが実に多いなあ」
この独白は、確かめたわけではありませんが、
「雲ながるる果てに」に掲載された実際の学徒士官の言葉かもしれません。

「できるだけ足跡を多くつけておこう」

ところが、砂浜から上がってきた二人は、
まずいことに片田飛行長に見つかってしまいます。

「貴様、軽病患者の分際でどこをふらついているんだ!
特攻隊と言われりゃいい気になりやがって!」
まずいことに片田飛行長に見つかってしまいます。

「貴様、軽病患者の分際でどこをふらついているんだ!
特攻隊と言われりゃいい気になりやがって!」
料亭の女将と組んで私腹を肥やしてるやつが何言ってる。

綺麗な先生と一緒にいたっていうのもお怒りポイントの模様。
腹立ち紛れに何発も怪我人を殴りつけます。
「困ったもんだよ予備学生なんてのは!
女の後ばっかり追いかけやがって」


綺麗な先生と一緒にいたっていうのもお怒りポイントの模様。
腹立ち紛れに何発も怪我人を殴りつけます。
「困ったもんだよ予備学生なんてのは!
女の後ばっかり追いかけやがって」

憎々しげに言い捨て、飛行長が去っていくと、
瀬川道子は嗚咽して駆けて行ってしまいます。
瀬川道子は嗚咽して駆けて行ってしまいます。

追いかけた深見はつい瀬川を抱きしめ、彼女は泣きながら
どこかへ連れて行って!と激情に駆られ何度も叫んでしまうのですが、
幸か不幸か?そこにちょうど空襲が来てしまいます。

どこかへ連れて行って!と激情に駆られ何度も叫んでしまうのですが、
幸か不幸か?そこにちょうど空襲が来てしまいます。

それで気が削がれたというか、すっかり意気消沈してしまう二人。
瀬川が、
「さっきはごめんなさいね」
と謝ると、深見は静かにこういうのでした。
「どこかへ行ってしまいたい、それはあなただけの気持ちじゃありません。
でもそれは僕にはできないんだ。
瀬川が、
「さっきはごめんなさいね」
と謝ると、深見は静かにこういうのでした。
「どこかへ行ってしまいたい、それはあなただけの気持ちじゃありません。
でもそれは僕にはできないんだ。
目に見えない大きな力が、僕らを墓場の中にぐんぐん引き摺り込んでいく。
いや・・・僕は墓場にも入れやしない。
敵の船に突っ込めば、肉も骨も一筋の髪の毛さえもが消えてしまうんだ。
現在すでに僕らには、人間の愛情も人間の意思も、
人間的なものは何一つ、何一つ残されていない。
ただ戦争のための一個の消耗品に過ぎないんだ。
これが深見の現実の姿なんです」

次の飛行作業は訓練でした。
左は航空監視専用の双眼鏡です。

その最中、異変が起こりました。

左は航空監視専用の双眼鏡です。

その最中、異変が起こりました。

飛行中の一機が、操縦ミスか機体不調のせいか、不審な動きを始めました。
このシーンの飛行機の模型担当は「圓谷特殊技術研究所」となっています。
円谷英二がその2年前の「聞けわだつみの声」の特撮のために創設した
6畳の大きさくらいの撮影所で、スタッフは4、5人でした。
これこそ後の「円谷プロ」の前身です。

「角度が深い!」
このシーンの飛行機の模型担当は「圓谷特殊技術研究所」となっています。
円谷英二がその2年前の「聞けわだつみの声」の特撮のために創設した
6畳の大きさくらいの撮影所で、スタッフは4、5人でした。
これこそ後の「円谷プロ」の前身です。

「角度が深い!」

皆が見守る中、飛行機は空中分解ののち墜落しました。

墜落した機に乗っていたのは、子供たちとチャンバラしていた山本中尉です。


現場は、誰が見ても乗員が生きている可能性のない状態でした。

遺体は隊員の手ですぐさま荼毘に付されることになりました。

山本の持ち物と遺体から外した階級章、そして
彼の遺骨を納める壺と木箱を用意して作業が始まります。

荼毘を見守りながら、深見と大瀧は特攻の是非について語り合います。
あくまでもその方法に懐疑的な深見に対し、大瀧は諦観した様子で、
「深見、戦争は理屈じゃないぞ。生命の燃焼だ。
人間の根源的な情熱なんだ。
悠久の大義に生きる・・・個人の存在を超越した、
民族的な情熱への自己統一なんだ。
元来俺たちの命は天皇陛下からお預かりしているんだ」
と肯定する立場を示します。

「深見、貴様、女に惚れて死ぬのが怖くなったのか」

一旦は否定した深見ですが、うな垂れて告白します。
「この手を怪我した時、もしかしたら自分は助かるかと思った。
あれから腰がふらついてきたんだ。
瀬川さんに対する愛情も否定はしない・・・けど、
そういうことじゃないんだ。
・・・大瀧、貴様・・悠久の大義で死ねるのか?」
と肯定する立場を示します。

「深見、貴様、女に惚れて死ぬのが怖くなったのか」

一旦は否定した深見ですが、うな垂れて告白します。
「この手を怪我した時、もしかしたら自分は助かるかと思った。
あれから腰がふらついてきたんだ。
瀬川さんに対する愛情も否定はしない・・・けど、
そういうことじゃないんだ。
・・・大瀧、貴様・・悠久の大義で死ねるのか?」

「馬鹿っ!・・・貴様、怪我をしていなければ殴りつけてやるぞ!」
しかし大瀧の目には明らかな動揺が浮かんでいました。
続く。
しかし大瀧の目には明らかな動揺が浮かんでいました。
続く。
特攻要員が自分の気持ちにケリをつけるには「悠久の大義」は必要だったと思います。自衛隊が最も戦闘に近い状況に追い込まれた1999年3月の能登半島沖工作船事案で、立入検査を命ぜられた「みょうこう」の乗船隊の出撃が迫った時、その指揮官はのちにこう語っています。
美しい表情の彼らに見とれながら「彼らは向いていない」と思った。自分の死を受け入れるだけで精一杯で、任務をどうやって達成するかまで考えていない。しかし、世の中には「死ぬのはしょうがないとして、いかに任務を達成するかを考えよう」という者がいる。
この人は後に創設された特殊部隊の立ち上げに関わりました。なかなか、ここまでドライにはなれませんが、自分の命を賭けるのだったら、やっぱり、成果を出したいという気持ちは理解出来ます。
戦後かなり早い時期の作品ですのでクオリティはそれなりですが、この種の実物大セットは1976年の「大空のサムライ」辺りから大きく品質が向上しています。
それにしても、木村功のキャラは「人間魚雷回天」そのまんまで、こういう路線が期待されていたのでしょうか。
西村や千が最初に入隊したのが舞鶴海兵団で、戦後教育隊となってからも両氏はしばしば訪れています。!(^^)!