徒然留学日記

30にしてドイツ留学を思い立ち、その後結婚。日々経験したこと、感じたことをつづっています

Geisha-Lesley Downer

2021-09-14 21:36:16 | DVD・本


Lesley Downer著「Geisha」を読んだ。読み始める前にぱらぱらと中身を確認したら、小説ではなく、芸者について書かれているようだったので、「読めるかな?」と心配になった。私の英語力では、読める洋書は限られているので、今まで読んだものは

ベストセラー小説か専門の論文

がほとんど。ベストセラーはやっぱり多くの人が読むだけあって使われている英語はなじみのある単語や文法がほとんどで読みやすい。
専門の論文は知識があるし、それこそ文法自体は基本的なものがほとんど(そして「読まねば」という切迫感)なので読めた。

で、この「Geisha」。
「まぁ、日本人だから、日本文化は多少は知っているし、何とか読めるかな」と思って読むことにした。

読んでみて気づいた。
専門の論文を読めるのは、知識があるのはもちろんだけれど、

専門用語を英語で知っている

から読めるんだ、と。
私の英語の語彙は、主にTOEFLの勉強をしたときのもの(+専門)。brothel(売春宿)やconcubine(内縁の妻、愛人)、courtesan(高級娼婦)などの単語はTOEFL対策にあったのかもしれないけれど、使うことがなかったので覚えていない。「派手な」や「繊細な」などをあらわす単語も複数の単語を使っていて、今回はしっかりと読みたかったこともあり、辞書を引きまくったので、

普段の2倍

くらい時間がかかった。普段だったら面倒くさくなって読むのをやめたと思うけれど、この本はとても興味深くて最後まで読めてしまった。

内容は、芸者の起源・歴史を平安時代まで遡って眺めてみたり、遊郭の女性・歌舞伎役者と芸者の相違点、政治家・作家などと芸者の付き合い、貞奴やお鯉といった、有名な芸者の人生、男芸者・温泉芸者・芸者と似ているけれど、コンセプトから異なる「振袖さん」なども書かれ、どれも本当に興味深かった。

また、花柳界に縁のなかった著者が何とか関係者と接点を持ち、その関係者にのらりくらりとかわされながらも最終的には置屋、お茶屋、鬘師と親しくなり、実際に舞妓デビューに立ち会ったり、舞妓から芸者になるかどうかの人から話を聞いたりと、一般的な話だけでなく、個人的な話も載っていて面白かった。

特に、舞妓デビューしたばかりの人(14歳)は、『きれいな着物を着ることができた。好きな芸能人に会った』などと舞妓になったことを素直に喜んでいたけれど、舞妓から芸者になるかどうかの人(19歳)は、舞妓の5年間はレストラン、ホテル、知り合う人など、すべてにおいて一流の物を経験してしまったので、この生活を続けると「普通の結婚」ができないかもしれない、と、芸者になるかどうか迷っていた(舞妓から芸者になったら2年間辞められない)のが印象的だった。

夏目漱石や永井荷風と言った作家たちも芸者遊びをしていたようで、永井荷風は「腕くらべ」のあらすじが紹介されていた。夏目漱石は、晩年の芸者とのエピソードが紹介されていたので、手持ちの「こゝろ」を読んでみた(当然芸者は登場しない)。巻末に年譜があり、大正4年(1915年)「京都に遊び…」とあったので、この時のことか、と思った。

また、江戸時代には歌舞伎はワイドショー的な役割もあったようで、近松門左衛門の曽根崎心中は、

事件から数週間後には舞台化

されたそう。

舞妓・芸者に詳しくない私でも知っているのは、「一見さんお断り」システム。
この本を読んで、「このシステムは芸者側、客側双方にとって重要」なんだな、と思った。
たいていは父親が息子をお茶屋さんに連れて行ってなじみになったり、京都では学生が飲み物程度の料金で芸者遊びをしてなじみになる(将来への投資)ので、支払いの段階になって『え?』ということはなさそうだけれど、怖いエピソードが載っていた。

ある社長が知り合いの舞妓にお昼時に偶然会い(着物は着ていなくてメイクもしていなかったと書いてあったと思う)、一緒に高級レストランに行き、ランチをごちそうした。後日、その社長あてに

舞妓と過ごした時間分の請求書

が届いた。
というもの。確かに、この本によると、舞妓は24時間舞妓の生活らしいので、そういうものなのかもしれないけれど、知らないとびっくりすると思う。

本の最後の方で芸者と日本文化・伝統技術にも触れられていた。確かに、着物や帯、三味線、鼓と言ったものは、芸者が廃れるとなくなってしまうだろう、と思う。
金沢市では、少なくともこの本が書かれた当時は市から芸者に補助金が年間300万円ほどあったらしい。日本文化や伝統技術を保護したい、という市の意志が感じられた。

この本、日本語訳が出ているのなら、日本語訳で読みたい…


<今回最も記憶に残った単語>
bluestocking:文学趣味の女性
私の辞書によると、「18世紀のロンドンの文芸サロンの指導的人物の中に正式な黒でなく、青靴下を履いたものがいたことから」。これは覚えた。

コメント
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